とある科学の幻想生成《ジェネレータ》   作:レイヴン

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「───俺の『未元物質(ダークマター)』に、常識は通用しねぇ」

       ─────『スクール』のリーダー───垣根(かきね)帝督(ていとく)

「オマエは俺の能力の本質を掴めてねぇ」

       ─────『学園都市』の『闇』に住む青年───幻想生成(ジェネレータ)


第六話 未知なる物質

「……痛ってぇな」

 

 垣根提督は意識を初春から鈴科百合子へ向けると、静かに言った。

 

「そしてムカついた。流石は()()()()()の第一位ってとこか。大したムカつきぶりだ」

 

 やっぱテメェからぶち殺さなきゃな、と続けた垣根。

 

 鈴科は首をコキリと鳴らしつつ、

 

「はン。あたしと戦うのが怖くて()()()()()()()チキン野郎が何を凄ンでンだ。あのガキを狙うなンつー手を選ンだ時点で、もォ戦力差は決まっちまってンだよ」

 

「バッカじゃねぇの。ソイツは保険だよ。誰がテメェみてぇなヤツ相手に五分五分の勝負なんか仕掛けるか。面倒臭いっつってんだ。テメェにそれだけの価値があると思ってんのか」

 

 学園都市第一位と第二位。

 

 鈴科も垣根も、コソコソとした隠ぺいになど気を配らない。

 

「ブタが。丸焼きの下ごしらえは終わってンだろォな」

 

「にしても、流石は『滞空回線(アンダーライン)』。まったく予想以上に早く現れたもんだ」

 

「あァ?」

 

「笑えるな、犬野郎。そうやって、弱者を守るために戦ってりゃ善人になれるとでも?」

 

「ハッ、わかってねェな」

 

「ちょうどイイ。悪党にも種類があるってことを教えてやろォじゃねェか」

 

 二人がぶつかるその一瞬前に。

 

 第三者の声が響いた。

 

 

 

「ちょっと待てよコラ」

 

 背中から神秘的な翼を生やした幻想生成(ジェネレータ)だった。

 

 鈴科は驚き、垣根は殺意を増幅させる。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は着地し、鈴科に向き直ってから、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

 垣根は嘲るように、

 

「ハッ、何いまさら善人気取ってんだよ第一位───」

 

()()()()

 

 幻想生成(ジェネレータ)の低い声が、垣根の声をねじ伏せた。

 

 再び鈴科の方に向き直る。「だから」、と区切ってから

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は、ハハハッ! 面白ぇじゃねぇかオイ! 惚れちまったのはテメェの方じゃねぇのか!? 粋がんなっつってんだよ幻想生成(ジェネレータ)アアアアアアアア!!」

 

 翼を生やし、垣根は突撃した。

 

 距離は一瞬でなくなり、『未元物質(ダークマター)』の翼が幻想生成(ジェネレータ)に叩きつけられる。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は右手にグローブを生成し、最低限の動きで翼を()()。そのまま入れた力を大きくさせ、握力で()()()()

 

「無駄なんだよ!その程度の既存の法則で、俺に勝てるなんて思ってんじゃねぇ!」

 

 翼の先端を再構築し、一度距離を取った垣根が、語る。

 

「──知ってるか。この世界はすべて素粒子によって構成されている」

 

「素粒子ってのは、原子や分子よりもさらに小さい粒だ。クォークってのが複数集まって原子核を構成したりな。 電子も素粒子の一種だ。ただまぁ、そういう小さい粒によって、この世界は構成されてるわけだ」

 

 一拍置いて、垣根は「だが」と呟いた。

 

 垣根は続けた。

 

 

 

 

「───俺の『未元物質(ダークマター)』に、常識は通用しねぇ」

 

 

 刹那、幻想生成(ジェネレータ)の肩が焼けた。

 

「ッッ!」

 

「コイツは『回折』だ。光波や電子の波は、複数の隙間(スリット)を通ると波の向きを変えて拡散する。高校の教科書にも載ってる内容だ」

 

 なるほど、と幻想生成(ジェネレータ)は呟いて、

 

「それがお前の『応用性』か。あの日の烈風の謎が解けた」

 

「俺の『未元物質(ダークマター)』は、この世には存在しない新物質だ。そいつに既存の法則は通じない。そして『未元物質(ダークマター)』に触れて反射した太陽光も、独自の法則に従って動き出す。異物ってのはそういうもんだ。たった一つ混じった粒子が、世界をガラリと変えちまうんだよ」

 

 言い終えてから、垣根は再び強烈な烈風を吹かせた。

 

()()()!」

 

 叫んでから、彼は避けた。

 

 ()()へと。

 

 大きな翼を展開した彼は、吹き荒れた烈風を交わしてビルの10階ほどの高さまで上昇した。しかし、垣根はすぐに迫って来る。

 

 『未元物質(ダークマター)』による打撃。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は右腕を構えた。

 

 直接的な攻撃なら、疑似的な『幻想殺し(イマジンブレイカー)』のグローブで打ち消せる。

 

 このグローブは、極限までに出力を高めることで、相手のAIM拡散力場を一瞬で乱反射させ、能力のコントロールを完全に遮断させることができるグローブである。入力した電力量によって出力量が変わり、電力は彼自身が発電機を請け負うことで機能する。グローブと肌の間には特殊な金属によって遮断されており、起動しても自分の能力まで阻害されることはない。ただし、幻想生成(ジェネレータ)自身が生み出す時間単位当たりの電気と演算の集中力にも限りがあるため、グローブも永遠に使えるわけではない。

 

「打ち消されるのをわかった上で直接攻撃する訳ねぇだろボケ」

 

「チッ!」

 

 烈風が吹いた。

 

 翼を巧みに動かしてバランスを取ろうとするが、その翼に幾つもの風穴が空いた。

 

「『()()』か!」

 

 完全にバランスの崩れた幻想生成(ジェネレータ)は、窒素装甲(オフェンスアーマー)を展開し、転がりながら着地する。

 

「ハハッ! 哀れだなぁ幻想生成(ジェネレータ)ァ!! さっきまでの勢いはどうしたんだよ、あぁ!?」

 

 幻想生成(ジェネレータ)は起き上りつつ、

 

「哀れなのはテメェの方だ」

 

「あん?」

 

「『アレイスターとの直接交渉権』」

 

 見上げながら、彼は言った。

 

「……、」

 

「オマエはソイツを求めて鈴科……一方通行(アクセラレータ)を殺そうとしてるそうだが、ソイツを使って何をするつもりだ」

 

「はん、別にテメェにゃ関係ねぇだろ。教えてやる義理は、ねぇ!」

 

 言いきると同時に、烈風が襲った。未元物質(ダークマター)がグローブを引き裂き、その機能を失わせる。

 

「ッ!」

 

「テメェの力なんてそんなもんだ」

 

 ゴガガッ! と大きく展開された翼が、幻想生成(ジェネレータ)の右腕を肩口から切り裂いた。

 

 絶叫も忘れて、膨大な出血にドサリと幻想生成(ジェネレータ)が倒れる。

 

「なッ……」

 

 鈴科百合子が驚愕の声を上げた。

 

 それを見た垣根はニヤリと笑いながら、翼で心臓部を貫く。

 

 ぶしゃ、と噴き出る血を見ながら、垣根は言った。

 

「次はテメェの番だぜ、一方通行(アクセラレータ)

 

「……、」

 

 ふとチョーカーを見ると、赤い光が灯っていた。

 

 

 つまり、能力使用モードになっている。

 

 彼が彼女に攻撃されたときからそうだった話なのだが、垣根が幻想生成(ジェネレータ)と戦っているときには解除しておけばよかったはずである。無論垣根からの奇襲を警戒して起動しっぱなし、という手も考えられるが、今の鈴科百合子は、能力使用に時間的な制限が設けられている。無駄な使用は出来る限りしない方がいい。『0930事件』で彼女はそれを知ったはずだった。垣根は幻想生成(ジェネレータ)が倒れてから一方通行(アクセラレータ)を見ていたが、首筋に手を回す動作もなく、赤いランプのままだった。

 

 彼はハッ、と周りを見る。

 

 焦燥に駆られた祝日の第七学区。戦場と化したそこは、確かに荒れていた。

 

 連続の烈風は周辺のビルの窓ガラスから外壁までもを潰し、

 

 吹き飛んだ街路樹や看板は人を襲ったはずだ。

 

 しかしそこには、『悲劇』がなかった。

 

 あるはずの死体が、無い。

 

「ま、さか……」

 

「守ったって、言うのか……?」

 

 思えば、最初の一撃目。彼女は風を利用した一撃を叩きこんできたが、あそこでもっと威力の高い奇襲を仕掛けることもできたはずだ。無論そうすれば、風紀委員(ジャッジメント)の少女もとんでもないことになるが。見ると、不自然に吹き飛ばされた看板がガラスの雨から野次馬を守るように移動していた。

 

 つまりは、それが彼女の生き様。

 

 殺し合いから身を置いても、尚も一般人を守り続ける。関わった人たちに、無益な血を流させない。

 

 考えを巡らせていると、幻想生成(ジェネレータ)の掛け声を思い出した。

 

 垣根が最初に烈風を使った時の、ある種の合図。ガラス片から守るためにベクトル操作でなんらかの対策を取ったのだろう。

 

 つまり。

 

 幻想生成(ジェネレータ)一方通行(アクセラレータ)を守り、一方通行(アクセラレータ)が一般人を守った。

 

()()()()()()()()()()()

 

 不意に、後ろから低い声が聞こえた。

 

()()()()()()、……ってな」

 

 見ると、服は血だらけになり、肩の袖は破れつつも、幻想生成(ジェネレータ)は身体を無傷にして立っていた。

 

 おかしい。

 

「テメ……、どうして」

 

「……」

 

 確かに幻想生成(ジェネレータ)の右腕を千切(ちぎ)り、心臓を貫き、絶命させたはずだ。

 

「確かにテメェは死んだはずだ。超能力者(レベル5)第二位に、テメェが勝てる道理なんてそもそも───」

 

「てめぇは一体、()()()()()()()()()()

 

 幻想生成(ジェネレータ)は鼻で笑いながら言った。

 

「思い出せ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 順位にコンプレックスとは、いけすかねぇメルヘン野郎だな」

 

「ッ……」

 

 能力とは成長する。

 

 能力検定をしていないだけで、レベル5にまで到達した人間が居ても、理論上はおかしくないおかしくない。

 

「オマエは俺の能力の本質を掴めてねぇ」

 

「……、」

 

一方通行(アクセラレータ)への対策は出来ていても、(ジェネレータ)への対策ができてねぇ。一方通行(アクセラレータ)が無意識に反射しているように、俺も自分の身体を改造してるわけだ。あらゆる急所への攻撃は窒素装甲(オフェンスアーマー)が自動展開されるし、身体(しんたい)に欠損が起きた場合には自動で肉体を『復活』させる。心臓を潰そうが、問答無用でショートカットが起動して再生する」

 

 

 

()()()()()()()()()。こ《・》()()()()()()、メ《・》()()()()()

 

 幻想生成(ジェネレータ)は、()()()()()()()を展開した。

 

「ッ!?」

 

 肥大化したそれが、気の抜けた垣根を容赦なく吹き飛ばす。

 

「こ、れッ……」

 

「テメェは、この世には存在しない物質を作るって言うが、厳密にいえばそれは違う」

 

 彼は一歩ずつ近づきながら、

 

「オマエの未元物質(ダークマター)は、確かにこの世には存在しない物質なのかもな。でも俺たちにとっちゃ異世界のことなんざどうだっていいだろ。だが、テメェの未元物質(ダークマター)は、テメェによってこの世界に()()()()()()()()

 

 つまり、と幻想生成(ジェネレータ)は一拍置いて、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、っつってんだよ」

 

 ぶちん、と何かが切れた。

 

「俺の『未元物質(ダークマター)』をも、テメェの力で作れるってのか……?」

 

「出来ないと思うか?」

 

「ハッ。俺の底まで掴み取るつもりか」

 

「浅い底だな」

 

 嘲笑うように、幻想生成(ジェネレータ)は吐き捨てた。

 

「ッ……!!」

 

「悪いが……。いちいち掴む程でもねぇよ」

 

 ゴパッ!! と、垣根の翼が爆発的に展開された。数十メートルまでにも達するその光は神秘的で、しかし同時に機械のような無機質さも秘めていた。

 

 その六枚の翼を一気に幻想生成(ジェネレータ)に叩きつける。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は同色の翼を展開する。攻撃力はイコール。相殺された翼。

 

 彼はまだ続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。言わば『超能力』の本質だ。まさしく『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()幻想生成(ジェネレータ)製の『未知なる物質(ダークマター)』が完成するってわけだ」

 

 そこまで言って、幻想生成(ジェネレータ)は翼を展開した。『未元物質(ダークマター)』ではない。『未知なる物質』によって構成された表現しようの無い色の翼が、『未元物質(ダークマター)』の翼に触れた途端、それを粉砕した。

 

「ッ!?」

 

 突如飛行能力を失った彼は、高さ10mほどの高さからドサリと地面に落ちた。

 

「が、っあああああ!」

 

 肩と背中を打ちつけ、悶える垣根。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は上空から、

 

「テメェの全種類の『未元物質(ダークマター)』は解析済みだ。あとはそれに対抗した物質を作ればいい」

 

 例えば烈風。

 

 例えば回折。

 

 例えば殴打。

 

 そのすべてを受け止めたのは、即ち、その中に存在する『未元物質(ダークマター)』の逆算でしかなかったのだ。

 

「……テメェに、」

 

「テメェに酔ってんじゃねえぞ、幻想生成(ジェネレータ)アアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 ゴォッ!! と空気を引き裂きながら、再び垣根の六枚の翼が噴出する。

 

 一瞬で10m以上も上昇した垣根。別の未元物質を用いて、幻想生成(ジェネレータ)に振るわれる。

 

 おかしなことに、『対未元物質用』の『未知なる物質』は素粒子単位まで分解され、『翼』としての効力を失ってしまった。

 

「チッ、」

 

 翼をもがれた彼は、再構成しようとはしなかった。代わりに作ったのは、とある少年の力を模したグローブ。

 

「オオオオォォォォォォオオオオォォォオオオォォオオオ!!!」

 

 重力の自由落下に身を任せ、

 

 『幻想生成(ジェネレータ)』によって上乗せされた強靭なグローブが、

 

 垣根の顔面に突き刺さった。

 

 バゴン!! と轟音が響いて。

 

 スクランブル交差点のど真ん中に、垣根の身体が叩きこまれた。

 

 

 

 

 

 

 鈴科百合子は、電極のスイッチを切りながら、初めて回りのざわめきを聞いた。

 

 戦闘の緊張のせいだろう。無意識のうちに無駄な音は『反射』していたようだった。

 

 能力使用は9分といったところか。彼女の能力使用は15分が限界だった。

 

 杖を突きながら、戦闘を終えた彼のもとへ足を運んだ。

 

 

 

 

「……、なァ」

 

「あぁ……?」

 

 割と疲れたようだった。

 

 この戦闘の間に、軽く20トン以上の物質を生成していた。緊張からの解放で、頭の痛みが来た。現在はすべて『分解』してある。

 

 彼は特別、演算能力が優れているわけではなかった。

 

 垣根帝督には勝てる程度の脳は持っていても、一方通行(アクセラレータ)に頭で勝てるかと問われれば安易に首を縦に振ることもできない。

 

「……お疲れさン。まァ、なンだ。助かった」

 

 鈴科百合子は頬を掻きながら言った。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は周りを気にせず路上に倒れながら、

 

「全くだ。……ったく、散々走りまわらせやがって」

 

 百合子は戦闘が始まる前の言葉を思い出していた。

 

 お前は俺が守ってやる。お前は黙って守られてろ。

 

 百合子は僅かに頬を染めて目を伏せながら、

 

「しょォがねェだろ。妹達(アイツら)やガキに関わることなら、あたしも出し惜しみしてらンねェ」

 

 相変わらず口が汚い奴だ、と幻想生成(ジェネレータ)は思った。

 

「……まだ、事は片付いてねぇ」

 

 幻想生成(ジェネレータ)はその体に鞭を打って立ち上がり、

 

「事後処理なンて、あたしらのやることじゃァ、」

 

()()()()()()()()

 

「?」

 

 彼は雑踏の奥の()を睨みながら。

 

()()()()()()()()だよ、鈴科」




六話でした。再編集してみて、結構やらかしてるなーって思うところが多いですね…。

まぁ厳密には主人公の能力の本質はそれだけにとどまらないのですが、それはまた後々、作品内にて明かしていきたいと思います。
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