─────『グループ』の構成員───
「……行かねぇよ」
─────『学園都市』の『闇』に住む青年───
学園都市の第一位。厳密にはそのクローン。
ほぼ100%能力の恩恵を受け継いだ、クローニング技術の完成体。
異質な白髪の少年。
「なってねェな。殺しってのはこォいうモンだ」
少年はなんらかのベクトルを操り、スクランブル交差点に沈んだ垣根帝督の身体に、鈴科百合子によって制御されていたはずの看板や街路樹が突っ込まれた。爆音を響かせて、交差点の中央には巨大なオブジェが完成した。
「クローン野郎……!」
「よォ、オリジナル。そして死ね」
まるで周囲の状況を考えない。
クローンの
鈴科百合子はそれに対して防戦を選んだ。全方位への衝撃で生じた割れたガラスを烈風で吹き飛ばして野次馬を守る。弾かれるように
しかし彼とて馬鹿ではない。既にそのグローブの性能は知っている。だから彼は、触れずに迎撃した。
再度足を振り下ろして演算。アスファルトとコンクリートを上方に向けて噴出させる。突如『壁』に阻まれた
「チッ……!」
しかしそれは簡単に反射され、翼の構築が瓦解して消失した。
「使えねえ……!」
だから、攻撃は伝わらないのか?
「(……いいや、違う)」
垣根
「(……『光』を反射すれば何も見えない。『音』を反射すれば何も聞こえない。そして『物』を反射すれば何も掴めない。鈴科百合子を含め、『
垣根帝督はどのような攻撃を繰り出したか。
例えば太陽光を、『回折』を利用して変質させた殺人光線。あれは本来、
「(『
「(……垣根帝督の理論通りにやれば、奴に一太刀浴びせられる。恐らく最大使用ができなくなれば
方針は決まった。
「ッ!?」
続いて『烈風』。微粒子レベルの
「(風ってのは物質の運動に伴う物理現象。だが、ヤツは『風』という一つの概念のベクトルを操ってるはずだ。空気中の窒素や酸素を動かすなんて面倒なことは、俺もやりたくない)」
つまり、この烈風の迎撃に向いているのは。
「(未定義の、不可思議なベクトル。『自分だけの現実』は違うが、
推論通り、
「ぐッ……!」
勝てる。
「コイツで!」
背中から新たな
「!?」
「ごッ、がァァァァァああああッ!?」
白い翼は、冗談のように
トドメを刺そうと、更に翼を動かし、6枚の羽を巨大な一本の刃に収束。彼の頭上に縦一文字に振り下ろす、その刹那だった。
ブオオオォォォォ!!!、と。
漆黒の暴力の黒が、空を埋めた。
「こ、れ……ッ!」
「まずい!
地上への被害を反らすために集中していた鈴科百合子は、しかしその事態に真っ先に気づいて叫んだ。
漆黒の翼は数秒で数十メートルにまで広がった。
「(何だ? 何のベクトルを操った!?)」
暴力の塊のように思えた。
次の瞬間には、翼が
「ご、はッ……!」
真下で少女が何かを叫んだ。
無意識の演算が働いたような気がした。
「
鈴科百合子は、上空から落ちてきた彼の身体を受け止めた。あらゆるベクトルを味方に付けた彼女なら、その華奢な腕でも人一人を支えるなど簡単なことだ。
彼女は
「傷がない……?」
異常な出血をしているはずなのに、その原因の傷口が見あたらない。
「ん、ぐが……!」
突然目を開けた彼に、思わず百合子は普段出さないような悲鳴を短く上げて彼の身体を投げ出した。
「いってえ、なにしやが……!」
再覚醒した
それを振り払って、
「アク……、アイツは?」
「……停止したみてェだな」
空を見上げても、先ほどまで広がっていた翼がない。
「なんでいきなり……!」
視線を泳がして、初めて
血塗れの
誰かの目の前。
「あなたも『あの人』と同じなんでしょ? こんなことはもうやめよう、ってミサカはミサカは終戦を呼びかけてみる」
「──」
「チィッ!」
「やめろ」
飛びかかろうとした
「なんでだよ! ヤツは」
「あたしのクローン、だ。潜在的な意識が、打ち止めを攻撃するなと命令してるンだ」
「テメェの目にはアレが葛藤に見えんのか!ヤツはやるぞ、あのガキはテメェが絶対守らなきゃいけねぇガキなんだろうが!」
「黙って見てろ、あいつなら──!」
その言葉を遮って。
「信じらンねェ! 勝手にしろバカ野郎!」
「言われなくてもッ……!」
彼が睨んだ先。
グチャ、と異音が鳴った。
少女が倒れた。
夜
「久々にこっちに来たと思ったら、どうしたじゃんよ?」
警備員の仕事から帰ってきた黄泉川愛穂は、居候の一人である芳川に小さく尋ねた。
「どうやら、『あの子』が事件に巻き込まれたみたいでね。さっきから自分のせいだ、って、そればっかりなのよ」
玄関で扉に向けて座ってボーっとしている鈴科百合子に視線を送りつつ彼女は答えた。黄泉川はいまいち事情が把握できていないが、百合子に向けて明るくフォローする。
「大丈夫じゃんよ、
「……血を出して、倒れたンだ」
「……ッ」
その返答に驚く二人だが、構わず彼女は続けた。
「爆発のあと、あいつは消えてた。居なくなったンだ……」
その事実がありながら黄泉川宅で帰りを待っているということは、わずかな希望を願っているのだろう。
「あたしが、なンで……あのときのあたしは、人を殺すことに、躊躇なンてしてなかったのに──」
その直後。
百合子の目の前の、扉が開いた。
どことも知れぬ場所。明るい光が差し込んでいることから、まだ昼か、夕方前といったところだろう。
「
傷だらけの海原が問う。土御門はやれやれといった調子で、
「さぁな。行方不明、だそうだ」
「なにそれ?これから私たちだけでやっていくの? まぁ、不足はないでしょうけど」
「いいや。補充要員が来ている。入れ」
初めから紹介しようと思っていたのか、土御門は扉に向かって声をかける。呼応するように、扉が開いた。
「やっほー! ってミサカはミサカは元気に挨拶してみる!!」
「!?」
「!?」
結標と海原が吹き出さんばかりの驚愕を見せた。一瞬後に、男の声が聞こえた。
「勝手に入ってくんなっつったろうがクソガキ」
「ミサカはミサカはガキじゃないもん!」
「
唯一冷静に、土御門は諭す。
「
その名前を聞いた結標が反応したが、海原のほうはどうやら知らないようだった。
土御門は、入ってきた男が少女を外に放り出すのを眺めつつ紹介した。
「こいつは
「ヤツの代わりなのがシャクだが、仕方ねぇ」
少し不機嫌な顔をしながら彼は呟いた。
「私は結標淡希。あなた、窓のないビルの『
「機密事項だぞ。……『
「覚えてくれてるみたいで光栄ね」
「思い出話は後にしろ。海原」
「海原光貴、と申します。いきなり失礼ですが、あなたの『能力』は?」
暗部組織、ましてや
「俺の能力は
「なんでも、ですか……」
意味深に押し黙る彼だが、やはり驚きは隠せないようだ。
「話を進めるぞ」
いいながら、彼は右手を出した。その手には機械でできた銀色のグローブのようなものがあった。人差し指と中指から伸びる二本の細長い爪と手の甲に小型モニターがあるのを除けば、
「ドサクサに紛れて回収してたわけか。よくあの惨劇の中から垣根帝督を引っ張り出したな」
垣根帝督が右手につけていたのを思いだしつつ、
「こいつは『ピンセット』。中には、『
「……中のデータってのは?」
「アレイスターは、『
結標は退屈そうな表情で、
「面倒ね。結局そのナノデバイスの中にはどんな情報が隠されているというの?」
「待て、今出るところだ」
ピッ、と『ピンセット』のモニターから電子音が小さく鳴った。文字化けのような
解析結果が高速でスクロールされ、同時に文章が正しい形式に変換されていく。
「学園都市暗部における機密扱いのコード類、だな。名前は……『グループ』『スクール』『アイテム』『メンバー』『ブロック』……こっちは『ピンセット』か。それから……これは衛星『ひこぼしII』のデータ、後は『少年院の見取り図』と……」
「何が機密コードよ。結局は上層部が『グループ』を監視するために、情報を集めていただけじゃない。今更そんなデータを見せられても」
「──それと、もう一つ」
土御門がそういうと、『グループ』の全員が『ピンセット』の画面に注目した。わざわざ土御門が区別したということは、それまでの、既に知り得ているような情報とは違うという意味と受け取ったのだ。
新たな情報。
そこに表情された文字を、土御門はゆっくりと読み上げた。
「最後に出たのは───『ドラゴン』」
戦いの果てに得たのは、小さな小さな突破口。
確かなカギを得た『グループ』の四人が、これより動き出す。
解散となったあと。
土御門は
内容は単純。
「(
ミサカはミサカはとうるさい少女を無視し、彼は手に持つ携帯端末のナビを受けながら教員の多いマンションへ向かっていた。
数十分歩いて、ようやく豪華なマンションのエントランスに到達する。打ち止めはさっさと中に入っていき、
彼はエレベーターでとある階に降りつつ、
「ここから先は分かるな?」
「当たり前なのだ!ってミサカはミサカは胸を張って豪語してみたり!」
いつまでもうるさく高い声に呆れ返る。
「じゃあさっさと帰れ」
「あなたは来ないの?」
素朴な疑問。
「……、」
アレから、鈴科百合子に会うのは少し気が引けた。
「……行かねぇよ」
「……わかった。ってミサカはミサカはしょんぼりしつつも我が家へ帰還!ただいまー!!」
「ただいまー!!」
玄関の扉が開いて開口一番。幼い少女の元気な声が響いた。玄関で靴を履くかのように座り込んだ鈴科百合子は、目を丸くして目の前の少女を見ていた。
「オ、マエ……」
「遅くなってごめんなさい。ってミサカはミサカは素直に謝罪を表明してみる……」
「おかえりじゃん、
「ううん!
「……
その名を聞いて、慌てて立ち上がって扉を開ける百合子。首を左右に振るが、そこには既に誰も居なかった。
「(謝ンなきゃなンねェのにな……)」
「知り合いか?」
「……ちょっとな」
ひとまず打ち止めが無事なことに安堵し(勿論顔にも口にも出さない)、百合子はそのまま外靴を履いた。
「あれ、帰っちゃうの?ってミサカはミサカは引き止めてみる」
「もォ用はねェしな」
「まぁまぁ。その子も帰ってきたんだし、久々に愛穂のご飯を食べていかない?」
「それ、桔梗が言える台詞じゃないじゃんよ……」
「あなた、これ、あのお医者さんから」
『あの医者』と言うからには、彼女らが普段利用する第七学区のカエルのような顔をした医者なのだろう。打ち止めが差し出した手紙を受け取り、封筒びりびりと破って中身を読む。
内容は、
『
「ねぇねぇ、ご飯食べよう!ってミサカはミサカは気分上々!」
「……しょォがねェな」
夜は更けていく。
こうして、学園都市創立記念日は終わった。
ということで一章でした。前回があまりに中途半端で、そこから新章は無理だな、と思い、やり残したことを回収して詰め込みました。
現在様々な案があり交錯しているところで、二章開始は少し間があくと思われますが、よろしくお願いします。