とある科学の幻想生成《ジェネレータ》   作:レイヴン

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「補充要員が来ている。入れ」

       ─────『グループ』の構成員───土御門(つちみかど)元春(もとはる)

「……行かねぇよ」

       ─────『学園都市』の『闇』に住む青年───幻想生成(ジェネレータ)


第七話 闇への扉

 学園都市の第一位。厳密にはそのクローン。

 

 ほぼ100%能力の恩恵を受け継いだ、クローニング技術の完成体。

 

 異質な白髪の少年。

 

「なってねェな。殺しってのはこォいうモンだ」

 

 少年はなんらかのベクトルを操り、スクランブル交差点に沈んだ垣根帝督の身体に、鈴科百合子によって制御されていたはずの看板や街路樹が突っ込まれた。爆音を響かせて、交差点の中央には巨大なオブジェが完成した。

 

「クローン野郎……!」

 

「よォ、オリジナル。そして死ね」

 

 まるで周囲の状況を考えない。妹達(シスターズ)と実験を繰り広げていた当時の一方通行(アクセラレータ)のようだった。いや、それどころではない。もっと、黒い。

 

 クローンの一方通行(アクセラレータ)は地面に足を叩きつけた。ベクトル制御によってスクランブル交差点のアスファルトが隆起し、衝撃波は全方位に伝わる。

 

 鈴科百合子はそれに対して防戦を選んだ。全方位への衝撃で生じた割れたガラスを烈風で吹き飛ばして野次馬を守る。弾かれるように幻想生成(ジェネレータ)は前方へ加速し、まっすぐに一方通行(アクセラレータ)へ突っ込んだ。幻想殺し(イマジンブレイカー)のグローブを生成し電気エネルギーを流す。正常に作動したAIMジャマーは、触れれば能力を「封印」できるほどの出力を誇る。相手が一方通行(アクセラレータ)であろうと、関係はない。

 

 しかし彼とて馬鹿ではない。既にそのグローブの性能は知っている。だから彼は、触れずに迎撃した。

 

 再度足を振り下ろして演算。アスファルトとコンクリートを上方に向けて噴出させる。突如『壁』に阻まれた幻想生成(ジェネレータ)は、やむなく一歩下がる。

 

「チッ……!」

 

 幻想生成(ジェネレータ)未元物質(ダークマター)の翼を構築して、一方通行(アクセラレータ)に叩き込む。

 

 しかしそれは簡単に反射され、翼の構築が瓦解して消失した。

 

「使えねえ……!」

 

 一方通行(アクセラレータ)は、常に『反射』を行使している。

 

 だから、攻撃は伝わらないのか?

 

「(……いいや、違う)」

 

 幻想生成(ジェネレータ)は思考する。

 

 垣根帝督(ていとく)一方通行(アクセラレータ)に挑もうとした以上、なんらかの策があったはずだ。

 

「(……『光』を反射すれば何も見えない。『音』を反射すれば何も聞こえない。そして『物』を反射すれば何も掴めない。鈴科百合子を含め、『一方通行(アクセラレータ)』のオート反射は、自分にとって無害なベクトルのみを選んで反射している……?)」

 

 垣根帝督はどのような攻撃を繰り出したか。

 

 例えば太陽光を、『回折』を利用して変質させた殺人光線。あれは本来、一方通行(アクセラレータ)対策の攻撃ではなかったか。

 

「(『未元物質(ダークマター)』を奴の受け入れているベクトルから叩き込めば、反射を突破できる……)」

 

「(……垣根帝督の理論通りにやれば、奴に一太刀浴びせられる。恐らく最大使用ができなくなれば未元物質(ダークマター)も『未知なる物質』の構築もできなくなる。リミットはあと6分。問題はねぇ!!)」

 

 方針は決まった。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は手始めに未元物質(ダークマター)を散布し、『回折』を利用して変異した太陽光を一方通行(アクセラレータ)にぶつけた。

 

「ッ!?」

 

 続いて『烈風』。微粒子レベルの未元物質(ダークマター)を、拡散させながら放出する。

 

 一方通行(アクセラレータ)が、背中から竜巻を発生させながら、同じく烈風を返してきた。

 

「(風ってのは物質の運動に伴う物理現象。だが、ヤツは『風』という一つの概念のベクトルを操ってるはずだ。空気中の窒素や酸素を動かすなんて面倒なことは、俺もやりたくない)」

 

 つまり、この烈風の迎撃に向いているのは。

 

「(未定義の、不可思議なベクトル。『自分だけの現実』は違うが、未元物質(ダークマター)は確かに制御できた。なら、未知のベクトルを組み込んだ烈風で返せば、奴の『風』の概念を吹き飛ばせる)」

 

 推論通り、未元物質(ダークマター)の烈風は、酸素から窒素、空気を吹き飛ばした。

 

「ぐッ……!」

 

 勝てる。

 

「コイツで!」

 

 背中から新たな未元物質(ダークマター)を放出。6枚の翼が、それぞれ鋭利な刃を構築し、一方通行(アクセラレータ)めがけ伸びた。

 

「!?」

 

「ごッ、がァァァァァああああッ!?」

 

 白い翼は、冗談のように一方通行(アクセラレータ)の身体を裂いた。赤黒い血が舞い上がり、野次馬の悲鳴がボロボロなスクランブル交差点を包む。

 

 トドメを刺そうと、更に翼を動かし、6枚の羽を巨大な一本の刃に収束。彼の頭上に縦一文字に振り下ろす、その刹那だった。

 

 ブオオオォォォォ!!!、と。

 

 漆黒の暴力の黒が、空を埋めた。

 

「こ、れ……ッ!」

 

「まずい!幻想生成(ジェネレータ)!!」

 

 地上への被害を反らすために集中していた鈴科百合子は、しかしその事態に真っ先に気づいて叫んだ。

 

 漆黒の翼は数秒で数十メートルにまで広がった。

 

「(何だ? 何のベクトルを操った!?)」

 

 暴力の塊のように思えた。

 

 次の瞬間には、翼が幻想生成(ジェネレータ)の身体へ叩き込まれた。

 

「ご、はッ……!」

 

 真下で少女が何かを叫んだ。

 

 無意識の演算が働いたような気がした。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は意識を失った。

 

 

 

幻想生成(ジェネレータ)!! チッ……」

 

 鈴科百合子は、上空から落ちてきた彼の身体を受け止めた。あらゆるベクトルを味方に付けた彼女なら、その華奢な腕でも人一人を支えるなど簡単なことだ。

 

 彼女は幻想生成(ジェネレータ)の顔をのぞき込んで、次に胸元を見るが、

 

「傷がない……?」

 

 異常な出血をしているはずなのに、その原因の傷口が見あたらない。

 

「ん、ぐが……!」

 

 突然目を開けた彼に、思わず百合子は普段出さないような悲鳴を短く上げて彼の身体を投げ出した。

 

「いってえ、なにしやが……!」

 

 再覚醒した幻想生成(ジェネレータ)は、胸の幻肢痛に似た感覚に思わず顔を歪める。

 

 それを振り払って、幻想生成(ジェネレータ)は百合子に尋ねた。

 

「アク……、アイツは?」

 

「……停止したみてェだな」

 

 空を見上げても、先ほどまで広がっていた翼がない。

 

「なんでいきなり……!」

 

 視線を泳がして、初めて幻想生成(ジェネレータ)は気づいた。

 

 血塗れの一方通行(ジェネレータ)は確かに地上に制止していた。

 

 誰かの目の前。打ち止め(ラストオーダー)という少女の目の前で。

 

「あなたも『あの人』と同じなんでしょ? こんなことはもうやめよう、ってミサカはミサカは終戦を呼びかけてみる」

 

「──」

 

「チィッ!」

 

「やめろ」

 

 飛びかかろうとした幻想生成(ジェネレータ)を、鈴科百合子が制止した。

 

「なんでだよ! ヤツは」

 

「あたしのクローン、だ。潜在的な意識が、打ち止めを攻撃するなと命令してるンだ」

 

「テメェの目にはアレが葛藤に見えんのか!ヤツはやるぞ、あのガキはテメェが絶対守らなきゃいけねぇガキなんだろうが!」

 

「黙って見てろ、あいつなら──!」

 

 その言葉を遮って。

 

 幻想生成(ジェネレータ)は加速した。

 

「信じらンねェ! 勝手にしろバカ野郎!」

 

「言われなくてもッ……!」

 

 彼が睨んだ先。

 

 一方通行(アクセラレータ)は、その手を打ち止め(ラストオーダー)の額に当てた。

 

 グチャ、と異音が鳴った。

 

 少女が倒れた。

 

 

 

 

 

 

   夜 黄泉川(よみかわ)

 

「久々にこっちに来たと思ったら、どうしたじゃんよ?」

 

 警備員の仕事から帰ってきた黄泉川愛穂は、居候の一人である芳川に小さく尋ねた。

 

「どうやら、『あの子』が事件に巻き込まれたみたいでね。さっきから自分のせいだ、って、そればっかりなのよ」

 

 玄関で扉に向けて座ってボーっとしている鈴科百合子に視線を送りつつ彼女は答えた。黄泉川はいまいち事情が把握できていないが、百合子に向けて明るくフォローする。

 

「大丈夫じゃんよ、 一方通行(アクセラレータ)。あの子はちゃんと帰ってくる」

 

「……血を出して、倒れたンだ」

 

「……ッ」

 

 その返答に驚く二人だが、構わず彼女は続けた。

 

「爆発のあと、あいつは消えてた。居なくなったンだ……」

 

 その事実がありながら黄泉川宅で帰りを待っているということは、わずかな希望を願っているのだろう。

 

「あたしが、なンで……あのときのあたしは、人を殺すことに、躊躇なンてしてなかったのに──」

 

 その直後。

 

 百合子の目の前の、扉が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 どことも知れぬ場所。明るい光が差し込んでいることから、まだ昼か、夕方前といったところだろう。

 

 土御門元春(つちみかどもとはる)海原光貴(うなばらみつき)結標淡希(むすじめあわき)の三人は、再び集まっていた。

 

一方通行(アクセラレータ)は?」

 

 傷だらけの海原が問う。土御門はやれやれといった調子で、

 

「さぁな。行方不明、だそうだ」

 

「なにそれ?これから私たちだけでやっていくの? まぁ、不足はないでしょうけど」

 

「いいや。補充要員が来ている。入れ」

 

 初めから紹介しようと思っていたのか、土御門は扉に向かって声をかける。呼応するように、扉が開いた。

 

「やっほー! ってミサカはミサカは元気に挨拶してみる!!」

 

「!?」

 

「!?」

 

 結標と海原が吹き出さんばかりの驚愕を見せた。一瞬後に、男の声が聞こえた。

 

「勝手に入ってくんなっつったろうがクソガキ」

 

「ミサカはミサカはガキじゃないもん!」

 

幻想生成(ジェネレータ)打ち止め(ラストオーダー)は外に出しておけ」

 

 唯一冷静に、土御門は諭す。

 

幻想生成(ジェネレータ)、ってことは、まさか?」

 

 その名前を聞いた結標が反応したが、海原のほうはどうやら知らないようだった。

 

 土御門は、入ってきた男が少女を外に放り出すのを眺めつつ紹介した。

 

「こいつは幻想生成(ジェネレータ)。今日付けで俺たち『グループ』の構成員だ」

 

「ヤツの代わりなのがシャクだが、仕方ねぇ」

 

 少し不機嫌な顔をしながら彼は呟いた。

 

「私は結標淡希。あなた、窓のないビルの『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト・フォートレス)』を提供した人よね?」

 

「機密事項だぞ。……『座標移動(ムーブポイント)』、『案内人』の女か」

 

 幻想生成(ジェネレータ)は記憶を整理しながら答える。それに彼女は満足したようで、

 

「覚えてくれてるみたいで光栄ね」

 

「思い出話は後にしろ。海原」

 

「海原光貴、と申します。いきなり失礼ですが、あなたの『能力』は?」

 

 暗部組織、ましてや一方通行(アクセラレータ)のかわりにと投入されるからには凄腕なのだろうか、と軽く推測しながら問いかける海原だが、帰ってきた答えは彼の予想以上だった。

 

「俺の能力は幻想生成(ジェネレータ)。この世に存在するものならなんでも作れる。そういう能力だ」

 

「なんでも、ですか……」

 

 意味深に押し黙る彼だが、やはり驚きは隠せないようだ。

 

「話を進めるぞ」

 

 いいながら、彼は右手を出した。その手には機械でできた銀色のグローブのようなものがあった。人差し指と中指から伸びる二本の細長い爪と手の甲に小型モニターがあるのを除けば、幻想生成(ジェネレータ)が利用する幻想殺しのグローブに近しい。

 

「ドサクサに紛れて回収してたわけか。よくあの惨劇の中から垣根帝督を引っ張り出したな」

 

 垣根帝督が右手につけていたのを思いだしつつ、幻想生成(ジェネレータ)は呟いた。

 

「こいつは『ピンセット』。中には、『滞空回線(アンダーライン)』ってナノデバイスが格納されてるみたいでな。『スクール』の奴らは、どうやら大気中の『滞空回線(アンダーライン)』を採取して中身を調べていたらしい」

 

「……中のデータってのは?」

 

「アレイスターは、『滞空回線(アンダーライン)』を学園都市に大量散布して情報を漏れなく集めてるみたいでな。いわばヤツの情報網というわけだ。中にある情報も、『書庫(バンク)』にあるものとはレベルが違う」

 

 結標は退屈そうな表情で、

 

「面倒ね。結局そのナノデバイスの中にはどんな情報が隠されているというの?」

 

「待て、今出るところだ」

 

 ピッ、と『ピンセット』のモニターから電子音が小さく鳴った。文字化けのような

解析結果が高速でスクロールされ、同時に文章が正しい形式に変換されていく。

 

「学園都市暗部における機密扱いのコード類、だな。名前は……『グループ』『スクール』『アイテム』『メンバー』『ブロック』……こっちは『ピンセット』か。それから……これは衛星『ひこぼしII』のデータ、後は『少年院の見取り図』と……」

 

「何が機密コードよ。結局は上層部が『グループ』を監視するために、情報を集めていただけじゃない。今更そんなデータを見せられても」

 

「──それと、もう一つ」

 

 土御門がそういうと、『グループ』の全員が『ピンセット』の画面に注目した。わざわざ土御門が区別したということは、それまでの、既に知り得ているような情報とは違うという意味と受け取ったのだ。

 

 新たな情報。

 

 そこに表情された文字を、土御門はゆっくりと読み上げた。

 

「最後に出たのは───『ドラゴン』」

 

 戦いの果てに得たのは、小さな小さな突破口。

 

 確かなカギを得た『グループ』の四人が、これより動き出す。

 

 

 

 解散となったあと。

 

 土御門は幻想生成(ジェネレータ)へ初仕事を与えていた。無論、ほかの二人には秘密だ。

 

 内容は単純。

 

「(打ち止め(ラストオーダー)を黄泉川愛穂のマンションまで連れ帰る、か)」

 

 ミサカはミサカはとうるさい少女を無視し、彼は手に持つ携帯端末のナビを受けながら教員の多いマンションへ向かっていた。

 

 数十分歩いて、ようやく豪華なマンションのエントランスに到達する。打ち止めはさっさと中に入っていき、幻想生成(ジェネレータ)は渋々ながら中に入ってゆく。

 

 彼はエレベーターでとある階に降りつつ、

 

「ここから先は分かるな?」

 

「当たり前なのだ!ってミサカはミサカは胸を張って豪語してみたり!」

 

 いつまでもうるさく高い声に呆れ返る。幻想生成(ジェネレータ)はため息混じりに言った。

 

「じゃあさっさと帰れ」

 

「あなたは来ないの?」

 

 素朴な疑問。

 

「……、」

 

 アレから、鈴科百合子に会うのは少し気が引けた。

 

「……行かねぇよ」

 

「……わかった。ってミサカはミサカはしょんぼりしつつも我が家へ帰還!ただいまー!!」

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!!」

 

 玄関の扉が開いて開口一番。幼い少女の元気な声が響いた。玄関で靴を履くかのように座り込んだ鈴科百合子は、目を丸くして目の前の少女を見ていた。

 

「オ、マエ……」

 

「遅くなってごめんなさい。ってミサカはミサカは素直に謝罪を表明してみる……」

 

「おかえりじゃん、打ち止め(ラストオーダー)。道に迷ってたのか?」

 

「ううん!幻想生成(ジェネレータ)って人が家までまっすぐ送ってくれたの!ってミサカはミサカは自慢してみたり!」

 

「……幻想生成(ジェネレータ)だと?」

 

 その名を聞いて、慌てて立ち上がって扉を開ける百合子。首を左右に振るが、そこには既に誰も居なかった。

 

「(謝ンなきゃなンねェのにな……)」

 

「知り合いか?」

 

「……ちょっとな」

 

 ひとまず打ち止めが無事なことに安堵し(勿論顔にも口にも出さない)、百合子はそのまま外靴を履いた。

 

「あれ、帰っちゃうの?ってミサカはミサカは引き止めてみる」

 

「もォ用はねェしな」

 

「まぁまぁ。その子も帰ってきたんだし、久々に愛穂のご飯を食べていかない?」

 

「それ、桔梗が言える台詞じゃないじゃんよ……」

 

「あなた、これ、あのお医者さんから」

 

 『あの医者』と言うからには、彼女らが普段利用する第七学区のカエルのような顔をした医者なのだろう。打ち止めが差し出した手紙を受け取り、封筒びりびりと破って中身を読む。

 

 内容は、

 

 『幻想生成(ジェネレータ)の協力による細胞の複製で、ほぼ完璧な処置が行えたが、痛みが再発するかもしれない。異変があれば連れて来い』、とのことだった。

 

「ねぇねぇ、ご飯食べよう!ってミサカはミサカは気分上々!」

 

「……しょォがねェな」

 

 夜は更けていく。

 

 

 こうして、学園都市創立記念日は終わった。




ということで一章でした。前回があまりに中途半端で、そこから新章は無理だな、と思い、やり残したことを回収して詰め込みました。

現在様々な案があり交錯しているところで、二章開始は少し間があくと思われますが、よろしくお願いします。
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