─────暗部組織『グループ』の新構成員───
「クソガキとは酷いですね。他の二人に比べれば、まだ大人びているほうですよ?」
─────「アカネ」と呼ばれた少女───???
「その程度では、私には勝てん」
─────「アカネ」の仲間と思しき大男───???
「そこまで拒む理由はなんだ?」
─────暗部組織『グループ』の構成員───
「あたしは、10031人もの
─────学園都市第一位の『
第八話 蠢く悪意
学園都市設立記念日の10月9日から、既に4日が経っていた。あれから仕事は来ていない。
個室サロンを借りて情報収集していた
無理もない。
彼が知りたい情報とは、学園都市第一位のクローンが行方不明になった件についてのものだ。その辺の暗部であろうとも、簡単には手に入らないものであろうし、一般回線に接続されているサロンのパソコン程度では、健全な学生と同程度のレベルしか手に入らない。
「『
因みに『ピンセット』で『
本格的に手詰まりになった
「ん……、仕事か?」
やっとか、と思いつつ通話を開始した
『久しぶりだな、
「テメェ……『電話の男』か」
『垣根帝督を撃破したそうだな』
「悪ぃのかよ。アイツが弱かったって話だ」
『いいや。寧ろ都合がよくなった。
大方、学園都市の『闇』に回収され、言葉通り能力だけを吐き出すような状態にされているのだろう。
「……で? それだけを伝えにわざわざ電話したのか」
『いいや。これは元「担当者」としての忠告だが』
全く変わらない声色で、『電話の男』は続ける。
『垣根帝督の撃破、それから
「……、」
即ち、命を狙われる可能性があるということか。
「勝手にしろ。俺の能力がありゃ死ぬことはねぇ」
彼はそこで通話を切り、携帯端末を適当に投げてから、備え付けの電話機を手にとって、
「ファーストフードを適当に持ってこい」
と注文をした。
十月十三日、午後5時頃。
そろそろ夕焼けが始まるか、という時間帯で、
しかし数分歩いていると、彼は『それ』に気付く。
何者かが自分の後を着けている、と。
彼はひとまず定期ルートを構築して一周してみた。相変わらず背後に人間がいる。
「(……間違いなく尾行だろうな)」
彼は首をこきりと鳴らし、降ろす手で首のチョーカー型デバイスのスイッチを入れた。
それだけで彼は、無限の創造性を手に入れることになる。
一先ず目立たない裏路地に入って、彼は足をとめた。そして、大きな声で後ろに話しかける。
「何で俺を追ってる?」
「……、」
相手が息詰まるような感触があった。
目の前に居たのは。
中学二年生ほどの、黒髪の少女だった。
「……誰だクソガキ」
「クソガキとは酷いですね。確かに私はあなたよりは若いですけど、
突然慣れ慣れしく喋り出した女に溜息をつきつつ、
「他の二人?何のことだ」
「さぁ。後で調べればいいんじゃないですか?後があるかは知らないですけど」
「──ッ」
風の動きがあった。
と思えば、側頭部が爆発した。
「がッ、ああああッッッ!!?」
『不可視の何か』に叩かれた
知っている──
「コイツ……『窒素』か……!」
自身の周囲に展開していた『
「今のだけでよくわかりましたね。でも20点」
再び、ブォン!という風切り音が聞こえた。
しかし。
板として生成された金属は、直後にはハンマーを思わせるような巨大な鈍器に変わり、
「ッ!!」
慌てて彼はバックステップ。あんなものに叩かれては意識が丸ごと刈り取られてしまう。今でもコメカミに直撃した窒素の塊が、彼の意識を揺らしていた。
「(クソッ、窒素だろうが合金だろうが、物質をなんでも再構築できるような能力みたいだな)」
「そろそろ気付きました?でも遅い」
三度目の攻撃。
「持ち手を窒素に。鎚を金属に。私の能力は、物質を鈍器状に再構築するだけ。でも、応用次第では」
ブォォォ!!、と烈風が吹いた。
「ッ……」
吹き飛ばされないように踏ん張れば、制御化においていた周囲の窒素が吹き飛ばされていた。
「このように風を生み出すこともできる」
「そうかよ」
しかし、カキン!という音と共に、9ミリの鉛玉は砕け散ってしまう。
「無駄ですよ。両手の鈍器をそのまま前方に構えれば、盾にできるんですからね」
「……、」
「あなたは
彼女が背中に隠し携えていたもの。
それは巨大な散弾銃だった。
ただの散弾銃ではない。
それは、
ドガガガガッ!!と轟音が響いた。
「(風や散弾に弱いのは解りきったことだ)」
しかし彼は冷静に分析しつつ、打開策を見つけた。
「(……あんまりこれに頼るのも癪だが、贅沢は言ってられねぇ)」
「なッ!?」
重い散弾銃を構えていた彼女は咄嗟に避けることができず、従来とは質の違う風にあっさりと吹き飛ばされ、反対側のコンクリートの壁にめり込むように突き刺さった。
「『
「ぐっ……く……!」
あまりの衝撃で肺が苦しいのか、ごほごほと咳をしながらも、女は
「大方『電話の男』の言ってた刺客なんだろうが、弱すぎる。もっと強いヤツを寄こしてこいよ」
直後だった。
「なら、私ではどうだ」
「!?」
左方。本来は路地裏の壁のはずが、ごっそりと粉砕され、青白い紫電のようなものが一直線に
現れたのは、
「大丈夫か、アカネ」
「……うん」
「お仲間か。精々期待させてもらうぞゴリラ野郎」
「無論だ。この力は、貴様を叩き潰すために身につけたものだからな」
「化け物かよッ」
『
「遅いぞ」
青白い散弾。9発の玉が高速で
聞いたこともないような異音と共に、『
「何だと!?」
「……」
あり得ない現象。『この世に存在しない物質』であるはずの『
「ふん、『第二位』の『
男は呟くと、空中であるにもかかわらず、急加速して
「!!」
バゴン!!という轟音が鳴り響いて、
「がぁぁぁあああっ!!」
痛みにのたうち回る暇もない。
黒とも白とも言えない色の曖昧な物質が、一対の翼を構築する。
「やるじゃねぇか、ゴリラ野郎……そうでないと盛り上がらねぇよな!」
「今の一撃を耐えるとはな。だが、強がっていられる状況か?」
左手に青白いハンドボール状の玉を持ちながら、男は静かに
「……」
「……」
どちらともなく、動く。
『投げる』動作でそのボールを射出した男は、同時に踏み込み、一歩で
『未知なる物質』の翼で前方を袈裟切りした
一瞬の視線の交錯。
二度目の轟音が響いた。
一直線に、
「かはッ……!」
無意識で展開していた『
「退くぞアカネ」
「テメェ……」
「今の貴様は弱い。自分の力を過信しすぎている。
「……ッ」
「チッ、クソったれ……!」
夕方5時頃。
缶コーヒーが大量に入ったコンビニ袋を提げながら、鈴科百合子は寮の帰路についていた。その雰囲気は暗く、顔も下を向いている。
しかし、そんな彼女でも、人気の少ない寮の林立する道路へ入れば、すぐに気付く。
『尾行されている』と。
「……、」
彼女は浅く溜息をついて、前を向いたまま後ろへ声をかけた。
「何の用だ」
「勧誘だよ、勧誘。俺は土御門元春。初めましてだな」
さして動揺もせずに、尾行していた男は即時返答した。百合子は彼の言葉に、振り返らずに返した。
「お断りだ」
「学園都市第一位
「……あたしは、10031人もの
相も変わらず、彼女は振り返らない。自身から前に延びる影の先端を物憂げに眺めながら、呟くように言った。
「なるほどな。だが、それは、お前の自己満足だろう」
「……、」
「今、お前に出来ることはなんだ。
彼女はそこで、初めて振り返る。土御門元春と名乗った男を、見た。
アロハシャツの上に学ランとサングラスで金髪というチャラけた男は、しかし弱さを感じない。
土御門は区切って、最後にこう言った。
「
「……」
「
お前も、よく考えることだな。
そう残して、彼はどこへと去って行った。
「……上層部」
彼女は顔をあげた。
その視線の先は、『窓の無いビル』。
『0930事件』時に攻撃を仕掛けつつも、一太刀も浴びせられなかった、『上層部』の頂点。
数秒睨んで、彼女は再び帰路についた。
その足取りに、もう迷いはない。
これから新章となります。数日で書き上げたので少々文字数が少ない気もしますが……
この章は15-19巻の合間の、オリジナルの話になるかと思います。今回より前書きに原作風の台詞を導入してみました。