混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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逡巡

「――やっぱり、足りないなぁ」

 

 つい、大きなため息をついてしまう。ようやく長い時間をかけて計算したけれど、出てきた答えは満足いくものではなかった。答えは間違ってはいない。単純に、出てきた結果が思わしくなかっただけ。

 

 自室に戻ってから、試しにと今までの清算をしてみた。盗みをやって蓄えてきた分と、換金せずにいたものをお金に換えたらならというものだ。それなりの金額はあるかと思ったのだが、いざやってみると案外少なかった。

 

 そもそもお金が主目的ではなかったこと、単純に貴族の鼻をあかすことを目的にしていたからだろう。残していたものも、いざ換金するとなると難しいものばかりだった。今更ながら馬鹿なことをしていたと思う。

 

 なぜこんな計算をしているのかというと、完全に盗みから足を洗おうと思ったからだ。今更止めても、とは私も思う。だが、エレオノールさんを見ていて、どうしてもそうしなければいけないと感じた。そうでないと、並ぶ資格もない、と。

 

 たしかに大貴族の令嬢のままである彼女とは境遇が違う。それは確かにそうだ。でも、いつまでもそれにいじけたような真似をしていても仕方がない。少なくとも、シキさんが止めてくれたのだから。

 

 しかし、いざ止めたらと思うと足りない。むろん、私一人なら何の問題もない。学院長の秘書という仕事、単純な給料としては悪くないのだから、一般的な尺度で考えるのならそれなりに余裕があるといえる。腰を落ち着けるいい機会だろう。

 

 でも、これからのことを考えると、どうしても厳しい。私には、テファと、テファが世話をしている孤児達がいる。見捨てるなんていう選択肢はない。

 

 エルフであるテファには私しかいない。そして、それは身寄りのない孤児達も同じだ。私が、テファが人と関わらずに暮らせるように、そして、孤児達が一人立ちできるまではなんとかしないといけない。そうであるならば、私一人ならという考えはできない。それに、不安要素はまだある。

 

 ――戦争だ。

 

 本土での戦争という状況、これからますます孤児達は増えていくだろう。テファがそれを見捨てられない以上、私も見捨てられない。ならば、まとまったお金がどうしても必要だ。

 

 ゆっくりと、机の引き出しを開ける。質素な机には似つかわしくはない、大粒のエメラルドを細工したもの。普段は身に着けたりしないけれど、私の宝物。盗んだものじゃない、本当の宝物。いざとなったら、極めて希少だといえるサイズのこの宝石は、今までの蓄え以上の価値がある。

 

 ……けれど、これは売りたくない。今の私の、本当の宝物。テファと、この宝石。

 

 そっと触れる。最初は金銭的な価値があるからと大切にしていたけれど、今では私にとって、もっともっと大きな価値がある。単純な宝石である以上に、好きな人が私に似合うものをと細工にも気を使ってくれた。

 

 売れば、幾分余裕ができる。

 

 ――でも、売りたくない。両方をなんていうのは都合が良すぎる。それでも、どちらも諦めたくない。堂々めぐりに目を閉じる。

 

「……どうしようかなぁ」

 

 そこらの貴族相手に盗みをちょっとやればなんの心配もないけれど。

 

「……嫌われたくないし」

 

 ひんやりとした机に、頬を寄せる。確かに、今更だとは思う。それでも、シキさんは見逃してくれた。また盗みをやったら、シキさんに顔向けできない。

 

「――シキさん、起きてますか?」

 

 誰もいない部屋で、自分しかいないのになんとなく口にする。

 

 

 

 

 

 ――贅沢は言いません

 

 自分がやってきたことは、どうしたってなくならないから

 

 本当にエレオノールさんを選ぶというのなら、大人しく身を引きます

 

 

 

 

 

 

 でも、今だけは甘えさせてください

 

 一緒に寝るだけでいい

 

 なにもしなくても良い

 

 ただそれだけでいいんです

 

 好きな人の手の中に

 

 何の心配もいらないそこにいると、今まであんまり良いことはなかったけれど、幸せだって、思えるんです

 

 

 

 

 

 それに、その時だけは、独り占めできるから

 

 シキさんがしたいって思ったときも私次第

 

 シキさんを私のものにしているみたいで、すごく楽しいから

 

 

 

 

 今は、それ以上は求めません

 

 だから、今だけは私のわがままだけを聞いてください

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