比企谷八幡の幻想縁起   作:虚園の神

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遅れてすいません。言い訳なんて女々しいことは言いません。
単純にサボってました。今回長めだから許して下さい。


やはり人と関わるのは疲れる

 青年に啖呵を切った翌朝、そこそこ遅めに目が覚めた。特に今日この一日に予定もなく惰眠を貪り続けた結果、瞼を開けると既に暑い空気が部屋に充満していた。朝の爽やかで涼しい空気を味わうことなく今日を迎えた。太陽は真上をとうに通り過ぎている。このことから時刻はおそらく1時か2時といったところだろう。通算15時間以上寝ている計算になる。

 未だにぼうっとする頭を携えながら桶を持ち、外に出る。人が大勢行き交い、活気のある商人の声などが通りによく響いている。

 家を出て、少し右に曲がると小さめの広場がある。その端には公共の井戸があり、生活用水はだいたいここから持っていくようになっている。

 桶に井戸水を注ぎ、ついでだからその場で顔を洗う。ヒヤリとした水の感触で霞のようだった意識が一気に覚醒した。こうまで冷たいと顔の筋肉が引き締まる様に感じ、自然意識も引き締まる。このままいっそ目も引き締まってくれないかしら……。

 気持ちだけキリッと決め、立ち上がる。俺は比企谷八幡だ、キリッ。

 重みのある桶を横に持ち、さして遠くもない家に向かってゆっくりめに歩く。

 夏の太陽は自己主張が激しい。我を見よと言わんばかりに首筋を鋭く、熱く刺してくる。人を太陽のようだ、という風に太陽には明るくて目立つ人の例えとしてよく使われる。口説き文句として「あなたは太陽のようだ」というのもある。つまり太陽とはリア充の象徴と言えるだろう。だが待ってほしい。太陽は必ずしも素晴らしいものではないのだ。例えば中東。砂漠の多いあの地域では太陽のよう、というのは酷い侮辱だと聞く。なら何が彼ら彼女らにとっての賞賛なのかというと月である。月は孤高の存在である。月が出ると近くの星は消える。星々に囲まれることなくただ光り続ける存在。それとは別に日本の詩でも太陽より月の方が多く句を詠まれており、つまり月とは万人が美しく思うものである。よって月=孤高、月=美しいとなり、孤高=美しいということになる。そう、ぼっちは美しいQ.E.D証明終了。隠れた真のリア充、それがぼっち。

 などと取り留めもないことを考えつつ家に入り、台所に桶を置く。埃が入らないよう上に布をかけることも忘れない。

 この世界は不思議なことが多々ある。妖怪や魔法使いなんかが居る時点で今更だが、ここでいう不思議とは文明のことだ。水道が通ってないから井戸から水を組むしかないし、火だってガスがないから薪を使って燃やすしかない。技術が外の世界と大きな差がある、かと思えば人里の少し離れたところには名状しがたきロープウェイのようなものが放置されていた。そういうの作る前にインフラ整備しとけよ。水道ないとホント不便。

 にじみ出てきた欠伸をかみ殺す。と同時にぐぅ、と腹の虫が鳴いた。……昼飯にするか。

 考えてみれば昼まで寝てたからここまで何も食べていない。いくらあまり動かない低燃費小型車の俺でも一応は男子高校生である。減るもんは減る。世の中には変化のないもの、減らないものなどないのだ。ところでよくおっさんの言う減るもんじゃないだろの卑猥感は異常。あれ絶対減るだろ主に精神力がゴリゴリと。

 飯を作るのも億劫なので外へ食べに行くことにした。ラーメンあるかな……。

 

 ♢♢♢

 

 この人里の中心には川が流れていて、飲食店の多くは川沿いに存在する。店という店に視線を流し続けていると店員が奇異なものを見るような目つきで見てきた。とっさに視線を外し目線から逃げるように歩みを早める。

 ああいう目で見るのは本当にやめてほしい。様々なトラウマが蘇りちょっぴり傷ついてしまう。

 歩き続けること10分、どこからかだしのやわらかい匂いがふわりと漂ってきた。自然と口の中に唾液が溜まる。右を見れば紫の布に白文字で大きくそばと書かれた暖簾が目に入った。

 ここにするかと引き戸を開け、中へと入る。

「お」

「げ」

「おいおい、げってなんだよ、げって」

「いや、こんなところで知り合いに会うと思ってなかったからつい、な」

 微苦笑を浮かべて文句を言ってくるのは長い金髪を背中に流した魔法少女霧雨魔理沙である。特徴的な黒い帽子を椅子の下に置いて蕎麦をすすっていた。

「昼飯か?」

「ああ、私は料理って言ったら鍋物しかできないからな。基本外食だぜ」

「ほーん」

 たいして興味もないので適当に返事をして、霧雨から二席離れたカウンター席に座る。肉そばを注文してぼーっと待っていると背後の方からひそひそと外来人だの外の人間だの妖怪だのと聞こえてきた。妖怪っつった奴ちょっと表でろ。耳をすませばあまり外来人は歓迎されていないように感じた。バイオリンの音色も青春の透き通るような青い音も聞こえず、ひそっとしたざらつく音だ。耳をすませばいいよね。ハウルの次くらいに好き。

 周囲の音を耳に入れ続けていると隣の椅子が引かれ、木でできた椅子の脚と床が擦れ、チューバを引き延ばしたようなでかい音を立てる。なんだようるせぇなと思い来訪者を半目でねめつけるとニッ、と笑ってこちらを見る霧雨が目にはいった。

「……どうした」

 折角気を使って席を空けて座ったのにわざわざ隣に来るとか俺のこと好きなのん?

「いやなに、大した理由じゃない。飯は話ながら食べた方がおいしい気がするしな。一緒に食おうぜ」

「蕎麦、話ながら食うと伸びるし、美味くなくなると思うぞ」

「私は柔らかめの方が好きだから問題ないぜ。それにおいしさと美味さは別物だぜ」

 話に区切りがついたところで肉そばがごとりと目の前に置かれる。食う前にいただきますと小さく手を合わせてぞぞぞっとすする。

 美味い。カツオ出汁の豊潤な香りとひき肉から出る油が舌の上でレッツパーリーしてる。蕎麦自体もコシがあっていて肉と非常に絡む。肉に少し臭みがあるが、七味で消える程度のものだ。

「しかしなんの肉だこれ。牛じゃねぇよな」

 独り言のように呟くとそれを聞いていたらしい霧雨が答える。

「そいつは鹿だな。牛なんて高級すぎてとてもじゃないが食えないぜ」

「こっちだと牛は貴重なのか。それより鹿は初めて食ったな」

「外の世界じゃ鹿は食わないのか?」

「猟師くらいじゃねぇか?一般人は食わんだろ」

「へー」

 へーってお前……。話振ってきたのお前だろうに。何?タモさんなの?トリビアの泉なの?それはへぇだな。

 そのあとは特筆すべきこともなく、他愛もない会話をし、時々蕎麦を咀嚼する時間を過ごした。

 少し伸びた蕎麦は彼女との会話の時間を言葉なく伝えてきて、決して美味くはなかったが、少し、おいしい気がした。

 

 ♢♢♢

 

「これからどうするんだ?」

 二人一緒に店を出て、出し抜けに霧雨が問う。

「どうって言われてもな……。お前はなんか予定とかないのか?」

 質問に質問で返してしまって悪いが、答えのない俺よりも彼女の方が何かあるだろうと思い会話の矛先を彼女へと向ける。すると何を勘違いしたかちょっと予想とは違う答えが返ってきた。

「なんだ、私とどっか行きたいのか?デートのお誘いならオーケーと答えておくぜ。おっと、付き合う訳じゃないから勘違いするなよ?」

「いや、明らかに違うでしょ……。ただ聞いただけだっつーの」

「なんだ。つまんない奴だな」

「俺に面白さを求める方が間違ってる。いいか?もし俺がウィットに富んだ面白い話ができれば今頃友達100人ぐらい余裕だっつーの。それがどうだ100から1とって何も残らないまである」

 一息でそこまで言い切ると霧雨は何か難しい顔をして口を開く。

「ん?私は友達にカウントされてないのか?」

「……え?友達なの?」

 トモダチッテナーニ?

 霧雨とは少し話すだけの間柄である。共に何かやったわけでも、磯野遊ぼーぜー、と声をかける訳でもない。なら俺と彼女はただの知り合いまたは隣人といったところではないだろうか。……それに、今まで得ようとしてきたものがこうもあっさり手に入るかもしれないことに少なくない疑心と言い表しようのない不安が心の内から流れ出てくるようだった。

「そんな難しいことじゃないと思うぜ?」

 こちらの考えを見透かすように霧雨が笑う。

「八幡は過去に何かあったのかもしれないけど今の私とお前には関係ないことだぜ。それに私から友達になって欲しいって言ってんだから、お前は頷くなり愛してるなり言って欲しいぜ。断られたみたいで嫌だからな」

 俺の過去を関係ないと言い張るこの少女に俺は一体どう対応すればいいのだろうか。

 ボッチは周りに人がいない。当たり前だ。じゃなきゃボッチじゃない。常に一人の空間を守り続けている孤独の守り人なのだ。この空間だって色々なことが積み重なってできたものでもある。それを彼女はやすやすと壊してくる。自分の居場所を。

 霧雨が視線だけで返事を求めてくる。上等な毛皮を思わせる柔らかい茶の瞳と2秒間たっぷり見つめ合う。

 勿論のこと、先に根負けしたのは俺で、ため息を吐くついでに瞼をゆっくり閉じる。暗闇の中には頼りなげな光が仄かに明滅していた。それらを振り払うように顔を上げた。

「悪いな、俺はまだ友達を持つ勇気……って言い方は変か。覚悟だな。覚悟が足りねぇ。だから無理だ」

 言うと、彼女は不満そうに眉尻を下げて深く息をつき、

「そっか。ま、仕方ないか。残念だが無理強いはせんよ」

「……そのうち、な」

 気休めだ。なんとなく霧雨の顔を直視できずに、つい零れてしまった言葉。実現できるか判らない卑怯な台詞だ。だが、

「そのうち……。そうだな、そのうちな!でも私的にはできるだけ早い方がいいぜ」

「あ、ああ」

 太陽のような少女だ。厚い雲を溶かし、冷えた空気すら問答無用で切り裂き、熱する。月なんか霞んで見える。唇は弓の様に緩やかに弧を描き、眼は少し嬉しそうに細められている。

 返事が予想外で碌なことが言えない。もしかしたらキョドっていたかもしれない。

「俺が、こんな性格じゃなかったら絶対にお前と友達になりたがっただろうな」

「その仮定は要らないぜ。なにせ近い内に友達になるからな!」

 魔女の帽子のつばを少し上げて親指を立て、パチッとウィンクを送ってくる。明るい金髪と黒い帽子がよく似合っているな、と今更ながら思う。

「それじゃあ、今の俺たちの関係は隣人ってとこか?」

「いや、『良き』隣人だ。だから色々借りてくと思うが寛大な心で許してくれよな」

「盗んでいくの間違いじゃないのか?」

「死ぬまで借りるだけだぜ!」

 呆れた物言いだが、彼女の潔さは気持ちがいい。裏表がないのか、それとも区別をつけるのが極端に上手いのか。恐らく前者だ。この性格じゃ、外の世界ではやっていけないだろう。ついでにオセロもできない。

 だが、彼女は幻想郷で力強く生きている。この幻想郷という世界の異質さ

 あってのものだ。本当に、いい場所だ。

 知らず、笑いが芯からこみ上げてきて、自然、ニィっと唇がニヒルな笑みを形作った。

「ああ、仕方ないな。『良き』隣人だからな」

 本当、しょうがない。

 

 ♢♢♢

 

「なぁ、悪かったって」

 早足で歩く俺の後ろをパタパタと忙しない足音が追いかけてくる。

 決め台詞的なことを言ったあの瞬間、霧雨は少し引き気味に「うわっ……」と言ったのだ。油断していたところにこの仕打ち。あまりにあんまりなので泣きかけた。ていうか一雫落ちたまである。

「でもな、八幡。あれを見たら誰でも同じ反応すると思うぜ?何せその目とあの笑い方がちょっとこう…悪い意味でマッチしていてな、控えめに言って不審者にしか見えなかった。私でも一瞬身の危険を感じたぜ」

「控えるんだったらもうちょっと控えろよ」

「えー、でもあれは完全に犯罪者の顔だぜ」

「まさかの追い討ち……!」

 彼女の感情がだだ漏れ。こちらの涙もだだ流れである。

 裏表がないことも考えものだなと思いましたまる。

「で、これどこに向かってるんだ?」

 今までの話の流れを牛刀よろしくバッサリ切っていくスタイルの霧雨はやはり笑顔のまま聞いてきた。

「貸本屋だよ。あるんだろ?」

「お、鈴奈庵に行くのか。そこと知り合いだから任せとけ!」

「お前、顔広いな」

「なんだと!私は小顔だ!」

「そうじゃねぇよ……」

 意味を履き違えてる霧雨は放っておいて、本屋の位置を記憶と照らし合わせながら歩みを進める。

 途中、ちらほらと粉雪よりもささやかで、払えば直ぐにでも落ちてしまいそうな視線に晒されたが、恐らく後ろで騒ぎ続ける霧雨の所為だろう。ただ、どこか粘っこいものが混ざっているのが奇妙であったことを除けばたいして気にならなかった。

 そうこうしているうちに少し古ぼけた家屋に到着した。入り口には暖簾がかかっており、鈴、奈、庵と一文字づつ、三つに分けられた暖簾が風に弄ばれていた。

 視界にうるさいほどに映るそれらを軽く手で押さえて引き戸に力を入れると、カラッと軽く、乾いた木の音がして、水に流されているかの様に容易く横へと流れていった。

「いらっしゃい」

 上等のレコードを思わせる落ち着いた声音が鼓膜を震わせた。

 店の奥、音源に目を向けると丸眼鏡に茶髪を二つ、サイドに纏めた女の子がテーブルを挟んだ状態で読みかけの本から目を離し、こちらを何気ない瞳で眺めていた。椅子に座っているからか小柄なーーリスのような印象を受けた。

 ふいにそのドングリ色の瞳と目が合う。

「ひっ……、よ、よよよ妖怪ぃ⁉︎襲われる⁉︎霊夢さーん、魔理沙さーん‼︎」

 はいはいテンプレテンプレ。もう慣れた。因みに誤解を解くことには慣れていない。人と話すの苦手だしね!

 あたふたと忙しく目を動かしながら、何故か文鎮を右手に持つ彼女。それを微笑ましい気持ちで見つめていると、突如、右肘を突き出し、そのまま手を頭の後ろに持っていき、

「えいっ」

 気の抜けるような可愛らしい声で全くもって、可愛らしさの欠片もない無骨な文鎮が投げられた。

「危ねえっ!」

 首を右に傾けて何とか回避する。左耳に若干掠ったような気がする。え?なにこの子?怖すぎる。

 突然のことに未だに激しく踊る胸を押さえつつ戦々恐々としていると、背後から「うおおっ⁉︎」と霧雨の声が響いた。おいおいまさか当たっちまったか?

 だが、そんな心配は杞憂だったようで俺が体制を立て直す頃には、霧雨は扉を潜っていた。ちょっとかなり心配してしまった。ちょっとなのかかなりなのかどっちだよ。

「ったく、いきなりなんだ?危うく当たるとこだったぜ」

 片眉の頭を上げながら腕を組み、開口一番に不満を垂らした。

「状況を見れば……小鈴か」

「まっままま魔理沙さんっ!」

 フローリングを走るウチのカマクラみたいにダダダダーンと床を踏み鳴らして俺を素通りし、俺の背後に控える魔理沙へ、ひしっと抱きつく。そして身振り手振りでまくし立てる様に話し出した。

「妖怪です!魔理沙さん!妖怪!わたしの店に妖怪が!あの目は人を喰った目です!人喰い妖怪ですよ!」

「残念だったな。俺は確かに人を喰ったような発言はするがマジもんの人は喰ったことがない」

「えぇ……」

 ふふん、ちょっとうまいことを言ってしまった。と思ったのだが、霧雨が僅かににうめいた。どうやら彼女的には微妙だったようで言いにくそうな苦笑いを浮かべている。そんなにダメかな……、渾身の返しだったんだけど。

「う、うんまぁちょっと……お、面白い妖怪さんですね!」

「おいやめろ言うことないからってなんでもかんでも面白いっていうなよ。その気遣い結構傷つく。ついでに妖怪じゃねぇ」

「ついででいいのか」

 ボソリと霧雨が呟く。いいんじゃないかな?頭の隅にでも置いといてくれればそれで。

「八幡がいいなら私は別にいいんだが……。ま、いいやそれより紹介だな!こいつは小鈴。本居こーー」

「ま、魔理沙さんっ!言わないで下さい!」

 彼女のフルネームを言おうとして、口を開きかけた霧雨を本居が急いて遮った。その拍子に茶髪がピョコリとはねる。

 彼女はストップをかけられたことに幾ばくかの驚きを感じたようで、琥珀色のの双眸を見開いた。

 彼女は無言で理由を問う様に元に視線を投げた。

「もしそこの妖怪が巷で噂の名前を食う妖怪だったら……」

「ああ、あれか」

 何か納得したらしい様子で霧雨は深く頷いた。しかし俺は全く話しに着いて行けず、途方に暮れてしまった。

「なぁ、お前らだけで話し進められても置いてけぼり食うだけだからそろそろ俺にも説明をくれねぇ?」

「悪い悪い。名前を食う妖怪ってのはな、結構最近から人里を騒がせているヤツだぜ。名前の食われて何日か経つとたちまちひとに憎まれ始め、最後に消えてしまう……、そういう妖怪だぜ」

 霧雨がそう締めくくると、その背後にいる本居がひゃー、と小さく悲鳴をあげて桃色の柔らかな口元を両手で押さえた。

「消える?」俺は言った。

「ああ、消える」霧雨は答える。

「今は霊夢と早苗で解決にあたってるが、尻尾どころか名前すら掴めない。私はともかく、妖怪退治の専門家の霊夢でも分からないのは厄介だぜ」

「じゃあ」と俺は言い、書庫を視界に収める。定期的に掃除しているのか色褪せている本などはあまり見受けられない。

「本もな、調べて見たけど、一部だけ不自然に破られてたんだぜ」

 視線の意味を理解した霧雨が答える。

「だけどな、何も手掛かりがないわけじゃないんだぜ。人が消える理由については予想ついてるんだ」

「えぇ!そうなんですか⁉︎」

 喜色を混じらせた声が狭い鈴奈庵の中を跳ねる。それもハッとした表情になると、微かに頬に熱を持たせ伏目になるとすっかり静かになった。

 その反応を見て俺と霧雨は少し笑った。

「ははっ、人が消える理由はな、恐らく、幻想郷の人間だからっていう風に考えてる。だって名前を取るだけで消えるなんて一妖怪が持っていい能力じゃないんだ。つまり、その妖怪は別の能力を持っていてそれが幻想郷の人間の性質と噛み合ってしまった、と考えてる」

「それで、その性質っつーのは?」

「幻想郷がどういうところか知ってるか?」

「なんだよ急に……、確か忘れ去られたモノ、人や妖怪、物体に限らず集まるところじゃなかったか?」

「そうだ。忘れ去られ、存在が希薄になったから流れ着く。そういったモノ達が幻想郷で存在できるのはそいつらが互いを認識しあってるからなんだ。なら、幻想郷で存在が忘れられたら、どうなる?」

「……消える、のか?」

「多分な。それが私たちの見解だ」

「つまり、そいつに名前を食われると周りから忘れられるってことか」

 結構ありがちな展開だ。なんだよS・カルマ氏かよ。俺も砂漠に行っちゃいそう。

「あのー」

 水の中で囁くようなおずおずとした調子の控えめな声が俺と霧雨の間に割り込んだ。

「名前取られないようにするには……」

 声の主はもちろん今まで沈黙を守っていた本居で、眉尻の下がった不安そうな顔で霧雨に問うた。

「いや、そこまではな」

「そうですか……」

 目に見えて下がる肩。それを何の気なしに見つつ、軽くため息を吐く。

 別にこの世界も平和というわけじゃねぇんだな。敵がいるからいつも不安が渦巻いてるように思う。

 しかしそんなセンチメンタルを吹き飛ばすように本居が叫ぶ。

「おおっと!そういえば魔理沙さん、目の前に妖怪がいますよ!チャンスですっ!」

 流石に呆れてきた。まだ言ってんのかこいつは。失礼を通り越してホントに自分が妖怪なのかと思っちゃうじゃん。そうです、私が変な妖怪です。

 軽く洗脳されかけてて危ないので、霧雨に助け船を求める。が、

「ああ!本当だ!妖怪がいるぞー」

 は、計ったな!シャア!

 そんな霧雨の悪ノリに付き合わされ、妖怪じゃないんだと弁解するのに時間がかかってしまった。おかげで精神にかなりの疲労を来したように思える。憂いで肩に重しでも乗っかったみたいにちょっぴり下がる。

 やはり人と関わるのは疲れると思いました。まる。

 

 

 

 

 

 




今まではほのぼの短編でいこうと思って話しをつくってましたが、しっかりとストーリー性のある話しにしようと思います。こっから急になので当初と矛盾が生じるところも出てくると思いますが、その寛大な心で私を許して下さい。みんな広い心持ってるよね?大丈夫だよね?
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