私達の理想の世界 作:のんびり屋さん
また、感想や評価も参考にさせて頂きたいと思っておりますので、是非お願いします。
5歳談、ダイアゴン横丁の二本でお送りします。
「『クルーシオ』、苦しめ!」
ルーシーは必死に歯を食いしばった。此処で声を出せば、もっと酷い目に遭うことがわかっているからだ。
「いいぞ……もっと苦しむんだ……『インペリオ』、服従せよ!」
ルーシーは抵抗した。しかし、頭の中はどんどんぼんやりとしていく。ルーシーは正気を取り戻そうと、手の甲を斬った。
痛みに狂いそうになる。死んでしまいたくなる。だが、死ねない。死なない。
彼女に死ぬことは、許されていないのだ。
最初に自殺しようとした時は、足と腕の骨を折られ、治癒呪文を掛けられ、また折られての繰り返しだった。
二度目は、食事を与えられずに真っ暗な狭い部屋に監禁された。餓死したい、とどんなに願っても、栄養だけは補給される呪文を使われていたから無駄だった。
兄、姉達は知らん顔、とまではいかなかったが、基本的に無視だった。兄姉は学校に寮生活だった。休暇も碌に帰らず、また、学校に行けなくなることを恐れて、今まで代わってくれていた分の拷問もルーシーに押し付けた。
ルーシーの下には、三人の妹弟がいる。三人は、自分で傷を治すことは出来ない。痛みや拷問、ストレスに対しての折り合いをつける事が出来ない。現実逃避すら出来ない。
だから、ルーシーは代わるしかなかった。
この夏からは、ルーシーも学校へ行く。次は、四女の番だ。ルーシーは解放されるのだ。
「耐えろ! 行くぞ! 『アバダケダブラ』!」
緑の呪文がルーシーを貫く直前。ルーシーの前に、碧い透明な膜が張られた。死の呪文は跳ね返され、そしてゼリー状となった膜に包まれて消えた。
「よくやった、ルーシー! 流石だ! 合格だ! 長男とは違うな、よくやったぞ、本当に!」
「お父、様。これは、試験だったの、ですか」
「それ以外に何があるというのだ。さあ、傷を治せ」
父は、娘を傷付けた罪悪感すらなく命じた。
ルーシーは掌を傷に当て、魔力を流し込んだ。掌から、先程の碧い膜が現れ、瘡蓋のように傷を覆う。そして、肌に吸い込まれるように消えると、傷も無くなっていた。
「それでいい。今からお前は、純血の名家フォウリー家の三女だ。マリー!」
「お呼びでしょうか、ご主人様」
女の屋敷しもべ妖精が現れ、深々とお辞儀をする。
「ああ。今からお前は、フォウリー家の妖精ではなく三女だけの妖精とする。三女よ。この妖精が壊れたら言うことだ。新しいのを与えてやろう」
「はい、お父様。ありがとうございます」
「今日からお前も食卓に付くことも可能だ。週に一度は家族と食べること。あとは部屋でも野外でも構わない。マリーに用意させるがいい」
「わかりました」
父は満足げに頷くと、姿眩ましで地下牢から消えた。
ルーシーはマリーに目を向けた。マリーがヒッと声を上げて縮こまる。
「大丈夫よ、マリー。貴女を傷付けたりしないから。こっちにおいで。私が治療してあげる」
ルーシーの優しい声に、マリーはゆっくりルーシーに近付く。
その身体が傷だらけなのを見て、ルーシーは手を掲げた。
殴られるのか、それとも横殴りにされるのかと、マリーは覚悟して歯を食いしばった。が、ルーシーはマリーに手を上げようとしている訳ではなかった。
ルーシーの掌からは碧い光が漏れ出していた。その光はゆっくりと下に降り、マリーの足元から上へと渦をつくる。そして、身体中が光に覆われた時、マリーに肌に光は吸い込んでいった。
マリーは傷が全て無くなったことを恐る恐る確かめた。
「ルーシーお嬢様……適性は、治癒呪文なのですか?」
マリーは恐れを無くして尋ねた。
「うん、そうだよ。体力回復呪文とか、視界良好呪文とか、身体能力強化呪文とかも。直接戦いに関係の無い呪文が得意なの」
「変身術とかもですか?」
「うん。攻撃呪文はどっちかっていうと苦手。ねえ、マリー。私に一生仕えてくれるかな? 私もマリーを大切にするよ」
マリーは恭しく頭を下げた。
「もちろんでございます、お嬢様。一生貴女様について行きます」
*
あれから五年経った。当時5歳程だったルーシーは、10歳に成長していた。
金髪のくるくるとした巻き毛に、碧い瞳。背は低いが、肌は白い。美人とは言えないが、可愛いという言葉にはしっくりと当てはまる少女だった。
ルーシーが部屋で勉強をしていると、マリーが部屋にバチンという音と共に現れた。
「お嬢様! 届きました! 手紙です!」
「本当!!」
ルーシーは羽ペンを放り出すと、マリーから手紙を受け取った。二人で手紙を覗き込む。
一通り見終わったルーシーは、朝食もそこそこに出掛けることを決めた。
「ホグワーツからの入学許可証が届いたのに、のんびり朝食なんか食べてはいられないわ」
ルーシーは母に許可証にサインして貰おうと部屋を飛び出し、マリーは急いで仕度を始めた。
十分後にはすっかり仕度は整っていた。ルーシーはマリーの手を掴み、マリーは付き添い姿眩ましを発動させた。
ルーシーがそっと目を開けると、そこはダイアゴン横丁だった。
ダイアゴン横丁は始めてだったルーシーは、マリーの案内通りにオリバンダーの杖店へ向かった。その他の店へはマリーが行ってくれる。
人混みをする抜けるように歩いていたルーシーは、ふと後ろを振り返った。見たことのある人物とすれ違った気がしたのだ。
「……気のせいよね」
ハリー・ポッターと、すれ違ったなんて。
確かめようにも、本人はとうに向こうへ行ってしまっているし、何よりこの人混みだ。一回逸れたらそう簡単に会えるものではない。
ルーシーは諦めて、いつの間にか目の前にあった杖店に入った。
中は外とは裏腹に暗く、どんよりとしていた。カウンターやガラスは埃っぽく、薄汚れている。カウンターの向こう側には、幾つもの棚にぎっしりと、オリバンダーの紋章が押された杖の箱が詰め込まれていた。幾つかの箱には、厳重に留め金がしてあるのを見て、ルーシーは危険な杖だと判断した。
ショーウィンドウのガラスは曇っているが、そこしか光源は無い。というより、何故か取り付けてある電球はフィラメントが切れているから、夜になったら真っ暗になるだろう。
電球を直そうとルーシーが指を向けると、奥から店主が飛び出してきた。
「それは壊さないで下され!」
「へ?」
驚きのあまり指が逸れ、ひびの入った鏡に呪文がぶつかった。鏡は新品同様に戻る。
「直った……? は! もしかして貴女は、これを直そうとして下さったのじゃな?」
「は、はい……」
「それはそれは。ありがたいが、構造がわからん以上はどんなに呪文を使っても直らんのじゃ。残念なことにのう」
「あ、あの……私、構造がわかります」
「本当か! 直せるのじゃな!」
「た、多分……。『レパロ』、直れ」
切れていたフィラメントが繋がり、火花が散った。
ルーシーは不安そうに言う。
「多分、直ったと思うんですけど……」
「みたいじゃな。ありがたや」
老人が言った。
店主は、相当歳をとっているように見えた。髪も髭も灰色と白が混ざったようで、ボサボサ。顔は皺だらけで、目は怪しく光って見える。
ルーシーはさっさと用件を済ませてしまおうと声を掛けた。
「杖を選んで頂けますか?」
「おお、もちろんじゃとも。お名前は?」
「ルーシー……フォウリーです」
5歳の頃まで、ずっとフォウリーとは名乗ってはいけなかった為、未だにファミリーネームを言うことに慣れていないのだ。
「フォウリーさんか。なるほどなるほど。試験には合格したのか……君で六人目じゃな」
「私は七番目……あ」
ルーシーは、言ってから長男の事を思い出した。長男は、最後の試験で死の呪文に耐えきれず、死んでしまったという。生まれた時から魔力が貧弱だった長男は、最後の試験に移るまでになんと十年もかかった。それほどの兄だったのだ。ルーシーは会ったことは無いが。
オリバンダー老人は気にせず、幾つか箱を持ってきた。
「貴女の兄姉達は皆、戦いの象徴や死の象徴に関する杖だったのじゃ。貴女もその可能性は高いじゃろう」
その予想に反し、何本の杖を試しても、ルーシーにしっくりくるものは無かった。
「じゃあ、真逆の、平和に関する杖を試してみよう」
十分後、ようやくルーシーを選んだ杖は、ブドウの木が本体で、芯はブドウのツルという珍しい組み合わせだという。普通、同じものが杖に使われることはあまり無いそうだ。
滑り止めにもなる、杖本体のツルのモチーフを触りながらルーシーは礼を言い、七ガリオン払って店を出た。
「マリー」
「何でしょう、お嬢様」
「買い物は終わった?」
「もちろんでございます」
ルーシーは頷くと、今度はルーシーの姿眩ましで屋敷へ戻った。
*登場人物紹介
主人公
名前:ルーシー・フォウリー
性別:女
家柄:純血。聖28一族
性格:基本的に平和主義、事なかれ主義。争いが無いのが一番だと考えている。子供の虐待にも反対。
妖精:マリー
その他:十人兄弟の三女。上から七番目。
主人公の父
名前:???・フォウリー
性別:男
家柄:純血。聖28一族
性格:拷問・虐待が趣味
妖精:???
その他:純血主義。乱暴者。今後も多分名前は出て来ない。
新しく登場人物が出て来たら、その度に登場人物紹介をやろうと思います。多分、原作に出て来た人物も。
やり忘れがありましたらお伝え下さい。うっかり屋ですので。
のんびり屋でもありますので、更新は遅れるかもしれません。