幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
リアセクションだけで重くて大きいのなんの。
ほくほくです。
上条たちがやってきたのは、アビニョンにある小さな博物館だった。
『博物館』という独立した大きな建物があるのではなく、他の集合住宅や店舗と同じく、道の左右に聳える砦のような建物の一角を利用しているだけだ。
正面の入り口のドアの前に、金属のシャッターが下りており、『閉店』と書かれたプレートが引っ掛けられている。
「貴音。開けられるか?」
「ええ。任せてください」
上条当麻に体を預けるように貴音の体から力が抜ける。そして少ししてシャッターが自動的に開いていった。
「・・・警報装置も作動しないようにしてあります。さあ、行きましょう」
「・・・相変わらずの手際だな。電脳少女さん」
「・・・・・・自分の体を動かすようにロックを外すのですから、簡単ですよ」
「・・・えっとー。貴音、どこだ?」
「ここまでくれば私でも分かります。こっちみたいですよ」
槍を片手に五和は奥へ進んでいく。
上条はその先の不自然に何もない床を神々の義眼を使って、『見る』。
「ほうほう。確かに地脈に『何らか』の仕掛けが施されてるな・・・・・・」
「どうです? ご主人。壊せそうですか?」
「問題ないだろ。幻想喰いなら、地脈を丸ごと一本切断するとしても、一瞬で終わるからな」
「そうですか。ではでは、お願いしますね」
「ああ、任せとけ」
上条は、ラインがあると思われる地点の真上に立つと、右拳を握りしめた。
すると、手の甲に『幻想紋』が刻まれ、袖で隠れて見えてはいないが、腕にも同色の波が刻まれていく。上条はその拳に更に力を込めると、服の上からでもわかるほどに、彼の腕の紋様が輝き出す。
「
上条が勢いよく右手を降り下ろすと同時。
大きな音が響く。
唐突に博物館の外壁を引き裂いた何らかの攻撃が、床に拳を叩きつけた上条の体を狙って襲いかかったのだ。
感覚としては、巨人の振るう刃。
色は白。
攻撃は上条に向かって一直線に進む。
それに気づいた貴音は、刃と上条の間に飛び出ると、右手を振り抜いて白い刃を消し飛ばした。
「この・・・ッ!!」
第二撃は直後に来た。
外壁を次々と引き裂いて、建物の外から『白い刃』が襲いかかってくる。
壁から壁までを一気に突き抜けた『白い刃』の動きは、まるで子どもが乱暴に木の枝を振るうような雑なものだ。しかし、そこへ圧倒的な破壊力が加わると状況は変わってくる。石の壁や床が崩れ、ガラスのショーケースが砕け散り、その破片が四方八方へ飛び交っていく。
轟音が連続し、天井から細かい粉末が落ちてくる。
(まずいですよコイツァ・・・・・・。このままじゃ、建物自体が保ちません・・・ッ!!)
「ご主人ッ!!」
貴音は叫びながら出口へ走る。
上条もそれについて、彼らは急いで博物館の正面出口へ向かう。
その間にも『白い刃』は壁を引き裂き、獲物に追いすがるように振り回される。
上条達は博物館に転がるように飛び出した。
そこへ、
「おやおや。やはり近距離から放たなければ精度が落ちるみたいですねー」
声は間近から聞こえた。
鼻先数十センチの位置。
眼前の人物は、上条の返事を待たずに右腕を振るった。
その腕には、白い何かがまとわりついていた。
緩やかな動きに反して、それは滑り落ちるギロチンのような速度で上条の首を狙う。
空気を裂く轟音が炸裂する。
「ああ、もう!」
面倒くさそうにかざした右手に、放たれた『白い刃』が激突する。
『白い刃』は粉々に砕け散った。
「・・・・・・小麦粉か」
上条は白い粉末状になり、周囲に飛び散った物質の正体を即座に見破った。
「ローマ正教ですか」
「間違いではありませんが、どうせなら『神の右席』と呼んで欲しかったものですねー」
上条はそう言われて心の中でガッツポーズをした。
『神の右席』。
そこに所属する『前方のヴェント』は、九月三十日にたった一人で学園都市の機能をほぼ完全に麻痺させた事があるのだ。
「私の名前は『左方のテッラ』」
男の手のなかに集まった白い粉末が、形を成す。
それはやはりギロチンだ。
「やっと私の出番がきたようです。何せ、『│神の右席《わたしたち》』は人間が使うような普通の魔術は扱えませんからねー。C文書の行使は他の術者に任せなくてはなりませんし」
テッラは処刑用の刃を無造作にぶら下げ、楽しそうに笑った。
にっこりと。
「そんな訳で、暇潰しにでも付き合っていただきましょうかねー。対地脈用の探査に引っ掛かったのはあなた達が初めてですし、少しは楽しませていただけるとありがたいのですが」
「・・・・・・潰す。その、人をなめ腐った態度ごと、体型を矯正してやる・・・!」
左方のテッラが右手を振るった。
その動きに合わせて『白いギロチン』が動いた。形を変え、白い津波となり横一線に全てを薙ぎ払っていく。
上条は自らを護るように左腕を構える。
そのあまりの威力に、上条の左の服の袖が切れ、腕が露出した。そこには波線状の幻想紋が刻まれている。
「五和。お前は自分の身を護ることだけを考えろよ!」
上条はそう言うと、彼女の返事を待たずにテッラの元へと走り出した。
テッラの方は上条のチカラに注目したらしい。
「本来なら今の一撃で死んでいたはずですけど。なるほど、それが│幻想殺し《イマジンブレイカー》。・・・・・・前方のヴェントを追い詰めたと聞いていますがねー」
ニヤリと笑い、テッラはギロチンを振るう。
白い刃はネジのように尖り、その鋭い一撃が上条の胸へと一直線に襲いかかる。
上条の右手が防御するよりも先に、貴音が彼の前に飛び出し左手を振るう。
「すいません、と謝っておきます・・・・・・」
それは誰に向けたものか。五和がそう言った時にはテッラを囲むように直線的な複数の光が、蜘蛛の糸のように張り巡らされていた。
「―――七教七刃!!」
鋼糸。
ゴバッ!! と空気を裂きながら、テッラを囲むワイヤーが凄まじい速度で襲いかかる。
「おぉ。七閃」
拳銃の弾丸よりも素早かったのでは、と思うほど。
しかし、
「―――
テッラの表情は変わらず、そう口元で呟いただけだった。それだけでテッラを狙う七本のワイヤーは、その体を切断するどころか、タコ糸のように絡みつくだけで、皮膚に傷一つ与えることもなかった。
五和の顔が驚愕に染まる。
テッラは右腕を軽く振るい、それこそ蜘蛛の巣を裂くように、皮膚に接触している七本のワイヤーをブチブチと切り取っていく。
「『優先する』・・・・・・」
「へぇ・・・。『神の肉』に対応した武器か。おもしれーじゃん」
「へぇ。東洋人でも分かりますか」
感心したように告げる上条に、テッラは挑発するように告げる。
「ミサでは葡萄酒は『神の血』、パンは『神の肉』として扱われます。そしてミサのモデルとなったイベントは、言うまでもなく『十字架を使った「神の子」の処刑』ですよねー?」
「おう、そうだな」
「『「神の子」は十字架に架けられた』・・・・・・冷静に考えれば、ただの人間に『神の子』を殺せた、というのは普通ではありません。私でも難しいでしょうねー。しかし、神話は時として『優先順位』を変更します。例えば『神の子』が世界人類の『原罪』を背負うために、本来の順位を無視して『ただの人間』にあっさりと殺されてしまったように」
「なるほど、『神の子』の神話を完成させるための秘儀・・・・・・
「ええ。その名を『光の処刑』。小麦粉を媒体とした刃物への任意変形はその副産物のようなものです。お分かりいただけましたでしょうかねえ?」
「ああ、よく分かったぜ。お前が、副産物をメインとして扱っているってことがな」
「・・・・・・この私の前では強さ弱さなど関係ありません。そもそも、その『順番』を制御できるのですからねー」
「順番・・・・・・」
「しかし、さて、どうしましょうか。私は種を明かしましたけど、
「ああ、クリアだ」
上条はハーディスを取りだし、シリンダーに赤い弾頭の銃弾をこめる。
「さぁ。チェックメイトだ」
「そんなオモチャで私を叩けるとでも?」
上条は口角をつり上げて、引き金に指をかける。
「「優先する。―――弾丸を下位に、人肌を上位に」」
テッラが発したその言葉に、上条の言葉が重なっていた。
「―――バーカ」
ドンッ!! と銃声が鳴り響いた。
放たれた銃弾は、テッラの心臓に当たって、
「ガッ・・・ハ・・・ッ」(銃弾が・・・爆発した・・・?!)
「思った通りだ。今お前は銃弾より人肌を強くした。
「「
上条はハーディスの銃口から出る煙を吹き消した後、彼はニタリと笑う。
「答え合わせは、必要か?」
「・・・・・・くっ」
上条がニタリと笑った瞬間、鼓膜を破るほどの轟音が鳴り響いた。
それは魔術によるものではない。
爆薬がアビニョンの街並みを突き崩す音だ。
当然ながら、それはテッラや上条達が巻き起こしたものではない。
第三者が横槍を入れたのだ。
光の処刑の弱点を一発で見破った上条さん。
相変わらずです。