幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
弥美を後ろに乗せた上条の操るバイクは第十一学区を目指して疾走する。
上条は軍用ゴーグルを掛け、そこに表示される三Dマップを頼りにバイクを駆っている。
『何をしに行くんですか』
上条がヘルメットに着けた無線機から、弥美のそんな声が聞こえてきた。彼の行動の理由をよく分かっていないのだろう。
「人間ってのは保険が大好きだ。何かが失敗したときのため、突然の事故に備えてな。そんな人間だ。十三学区に向けた衛星砲も保険の一つ。もしかしたら衛星の機能停止を狙っただけかもしれない。と、すると『ブロック』のメンバー自体がいる場所が・・・一番怪しいに決まってるだろ」
『何かの事件を起こすには、ですか』
「ああ。学園都市は衛星が四六時中見張ってる。だから警備ロボも案外ルーズなものさ。その衛星が機能を失いそうになってる。だったらやることは一つだ」
『壁超え・・・』
「そう。それも恐らく『外』から中へのな」
第十一学区。
海に面していない学園都市は物資のやり取りは陸路と空路の二種類でしか行えない。そして外壁に面した第十一学区は、陸路最大の玄関口として機能していた。
海原光貴を含む『ブロック』のメンバーはそこにいた。
辺りには四角い建物が並んでいた。普通のビルとは違って壁のない建物で、立体駐車場にも似ている。学園都市製の電気自動車が、出荷を待って待機しているのだ。
一日に七〇〇〇トン以上の物資をやり取りする第十一学区の倉庫街は広大だ。
出入りを直接管理するゲート周辺の管理は厳重だが、それに反して倉庫街の方は、隅から隅まで監視を付ける事はできない。この学区は、一般的な港の埠頭とも似通っているだろう。昔懐かしいマフィア映画よろしく、夜な夜な怪しげな取り引きの場に使われることも珍しくない。
そして、
(あれが『外壁』・・・・・・)
海原は視線をそちらへ向ける。
軽く五〇〇メートル以上離れているにも拘わらず、その威容をまざまざと見せつける巨大な壁。万里の長城のように壁の上には通路があり、双眼鏡で確認すれば今もドラム缶型の警備ロボットが行き来しているのが分かる。
魔術師の中には外壁を乗り越える者もいる。しかしそれは、外壁の警備が『科学的』なセンサーに守られているからであり、『魔術的』な策に弱いという側面があるからだ(・・・・・・と海原は信じたい。そこまでアレイスターに計算されて遊ばれているとは思いたくない)。
しかし現在は衛星による監視が消えたため、警備強度は極端に下がっている。魔術的な手を使わない普通の人間にもチャンスは訪れる。
あの向こうに、『ブロック』のリーダーである佐久が呼び寄せた五〇〇〇人の傭兵が待機しているはずだ。
近くの建物や社内に散らばって身を潜め、学園都市製の衛星のセキュリティが切れるのをじっと待っていたのだろう。
それが分かっていても、海原には情報を確実に伝達する機会に恵まれなかった。
『グループ』の人間はこれを知らない。学園都市の上層部も掴んでいるかどうか。『衛星による攻撃の阻止』というとりあえずの危機を自分達の手で解決した彼等は、その事で安堵してしまっている可能性が高い。
(その傭兵達を招いて、何かを実行するのが『ブロック』の目的・・・・・・。ですが、それはなんでしょう。連中は一体どこを襲おうとしているのか・・・・・・)
「山手。心配でも、しているの?」
ふと、近くにいた手塩愛未がそんな事を言った。
山手というのは、海原が変装している男の名前だ。
「別に・・・・・・」
海原は短く答えた。本来、変装とは元となる人物を最低一週間は追跡調査をしてから行う。モデルの人物像を掴めない内は、迂闊な発言は控えた方が良い。
手塩の方も、海原の態度を特に気にしなかった。
大きな計画の最中で、緊張していると判断したのだろう。
「衛星を潰したのは良いが、まあだ警備ロボットの方は動いてやがるな」
佐久辰彦はそう言った。
手塩は熊のような大男の方へ顔を向ける。
「問題が、あるのか」
「いいや。あの手のロボットには火器は搭載されちゃあいないし、障害にはならないだろう。タイミングさえ誤らなければ外壁は越えられる」
「何で武装していねえんだ?」
海原はとりあえず会話に混じった。
核は海原の目をチラッと見て、
「理由は色々だよ。あそこにあるロボットは、常に外周部を守ってるからな。万に一つでも誤作動して、塀の『外』を歩いている人間に弾が当たっちまったら問題だ。後は装弾数の都合もある。あの機種のロボットはマガジンの交換なんてできやしねえから、弾倉が空になったらそれまでだし」
「では、仮に発見されたとしても、警報を鳴らして、終わりなの」
手塩愛未は拍子抜けしたように言った。
「それなら、手間をかけなくても、強行突破で、良かったんじゃないの?」
「いいや。外壁警備のロボットは特殊回線を持っててな。警報が入ると第二十三学区の完成へ直通で連絡を送って、そっちの無人攻撃ヘリを呼び寄せる仕組みになってる。今の主力は『六枚羽』っていう、迎撃兵器ショーにも登場した最新型だ。見つかったら苦労するぞ」
佐久は太い腕に巻かれた腕時計に目をやった。
「あと一〇分で、外壁場の警備ロボットのローテーションが切り替わる」
「・・・・・・、」
「ヤツらの動力は電気だからな。二十四時間稼働させるわけにはいかない。どこかで充電しなくちゃならないって訳だ。だから、駆動組と充電組に自然と分かれちまう」
この交代作業のために、一日の内ロボットを使った外壁警備は、二〇分から三〇分ぐらいの隙が生まれるらしい。
普段ならそれでも問題はないのだろう。
学園都市の人工衛星は、絶えず学園都市とその周辺を監視しているのだから。
しかし今は違う。
その二十分間は、正真正銘の『空白』となってしまう。
「可能な限り、車を用意しておけ。ナンバープレートを付け替えるのも忘れるな」
佐久辰彦は、『ブロック』の下部組織の連中へ指示を出した。
「その辺の立体駐車場に停めてある、出荷予定の電気自動車だ。そいつを使って五〇〇〇人ほど運搬しなくちゃあいけないからな」
空白の二〇分が始まった。第十一学区の倉庫街、立体駐車場の四角い建物に取り囲まれたまま、海原光貴は懐にある黒曜石のナイフに意識を集中する。
一方通行達『グループ』に連絡するタイミングはない。
仮に今から連絡できたとしても、すぐさまここに駆けつけてくる保証もない。
そう、元からここに向かっていた人間以外は。
初めに気付いたのは、下部組織の人間だった。異常な速度でこちらへ向かってくる単車が向かってきているのが見えたのだ。
その報告を受けて、『ブロック』のメンバーを含めた面々は傭兵の移動を継続しながら警戒態勢に入る。
そのバイクの後部座席に座っていた人影が、バイクから飛び降りその勢いのままバイクより先に彼等の元へ着地。下部組織の人間達を一斉に昏倒させた。
その方法はなんとも奇抜で、少女の金髪がハンマーのような形状に変化し、それで殴られたのだった。
一方でバイクはそのまま横倒しに投げ出され、乗っていた運転手はそんなバイクに目もくれず少女の元へと悠然と歩いてくる。
(彼等は・・・・・・)
海原はその正体を思案するが、答えにいたるよりも先に他の人間から答えが出された。
「黒衣に金髪・・・それにそのワケ分んねえ能力、“金色の闇”か!」
(金色の・・・闇っ?!)
海原はその名に素が出てしまうところだった。
“金色の闇”は暗部でも深いところにいるという一人の
「よお、お前等」
少女に追い付いた男の方が声を出す。それだけで作業をしていた傭兵も、『ブロック』のメンバーも動きを止めてしまうほどの威圧感だった。もし学園都市の強さの頂点がいたら、彼が一番だろう。
「不吉を、届けに来たぜ」
そう言われ、男の太腿につけられたホルスターから抜かれた拳銃を見た瞬間。彼等は目の前にいる男が何者かを理解した。
リボルバーの装飾銃と男の鎖骨の少し下に刻まれたXIIIの刺青。それは学園都市で最も
「
「|黒皇龍・・・! 学園都市の最暗部が何故ここに!」
「心当たりぐらいはあるんじゃねーか?」
黒猫。上条当麻はそう言ってリボルバーを傭兵含めた『ブロック』の面々に向けた。彼に注目が向いている隙に、海原はその場を退散していった。
「どこで分かったんだ?」
「何がだよ」
「俺達がここで人員を招き入れるって事がだよ」
何だそんな事か、と上条は呆れたような表情で、
「問題作成者の前でつらつら解説を述べるのもどうかと思うんだが、まあ雑談ついでだ答えてやる。最初に『誰か』を疑ったのは第二十三学区の管制センターのクラッキング、その開始時点だ。『外』を狙ったウィルス保管センターと『中』を狙った管制センター。攻撃対象がバラバラすぎて一瞬別々の組織がやったのかと思ったがな。同じ組織がそれを行った場合、ある利益が得られるって分かったんだ」
「ほう? その利益ってのは?」
「監視衛星の機能停止。ウィルスの漏洩を停めようとする最中、危険性の高い攻撃衛星が乗っ取られる前にクラッキングの進行を止めようとする場合、どうしても正規の手順じゃ追い着かないことが多い。するとどうなるか、デメリットを無視して地上アンテナを破壊するっている目先の利益に飛びついちまう。そこで気付いてももう遅い。学園都市を四六時中見張ってる『天の眼』はその能力を発揮できなくなってしまう」
「正解だ。良く分かってるじゃあねえか。
「そして、この利益を使ってさらなる成果が上げられるとしたら、『外』との物資または人材の運搬がとてつもなく楽になるって事。だったら、陸の玄関口なんて呼ばれてる
「おうおう。そこまで分かってここに来たって事は、どうなるかってのも分かってるんだろうな!」
上条と弥美に、壁の乗り越えが終わった数百人の傭兵が持つ銃が音を立てて向けられた。
「黒皇龍に金色の闇っつってもたかがガキ二人。やっちまえ!」
二人に向けて大量の銃弾が放たれた。一秒間に二千発以上の銃弾が上条と弥美を貫かんと迫ってくる。が、
「
「
「―――セイレーン」
「―――
上条は天女の羽衣のような攻防一体の武器、セイレーンで銃弾から身を守り、弥美は左手に巨大な盾を出現させ、その身を守った。
「なっ・・・!」
「お前等。俺等がなんて呼ばれてるか、知ってるんだよな。あんまりにもお情け過ぎねえか?」
上条は言いながらゆっくりと歩いていく。銃弾を防ぎながらゆっくりと。
「ば、化け物!」
「知ってるさ。だから“龍”なんて呼ばれてるんだろ? 」
ここでの龍は恐らく“蛇”を表しているのだろう。絶対に叶わない力の象徴の『龍』と呼ばれ、神の使いとされる生き物『蛇』の役割を持つ。それが現在の上条当麻だ。
「行くぞ、姫っち」
「うん」
ある程度傭兵達を始末し終えた。上条達は、暫く前に見逃した『ブロック』の事などとうに忘れ、別の行動へと移ろうとしていた。
「現在行動可能な組織は三つ。『グループ』『スクール』『アイテム』だ」
「なるほど」
「とりあえず、セイヴェルンに連絡を取るぞ。今後のことをもう一度話し合う」
「了解」
『ドラゴン』のメンバーは一度正式な拠点の一つに陣取り、小さな会議のようなものを開いていた。
「はふぅー。結局
「悪かったな。別組織の潜入なんかさせてよ」
「リーダーの言う通り
「お前の
「そう? 実感なんてないわ」
「俺の知る
距離制限がなく、一度見たものならという特性はかなりの強みだ。だからこそ上条はフレンダのその能力を空間移動系能力の中でも随一の能力だと明言する。
「そんな話なんて今はどうでもいいでしょ? これからどうするの?」
「エネはもう少し落ち着きを持つべき」
「私は落ち着いてるわよ。それよりもイヴ、いつもの『ですます口調』はどこに行ったのよ」
「いいじゃない、別に」
バチバチと火花を散らす二人に、呆れた視線を向ける上条とフレンダ。だが、上条はもう慣れたものなのか、フレンダよりも早く復帰して話を進める。
「約一名待ちきれないようだし、とりあえず今後の予定を通達するぞ」
「ええ」
「うん」
「何?」
「作戦目標は今回の騒動の鎮静化並びに被害の最小化。戦法は自由、各自の判断に任せる。いいか、総員。適当にやれ」
「「「了解」」」