幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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↓なんて言ってますけどこんな事ってありえないですよね。

一月二〇日から二月一八日生まれの水瓶座のアナタは恋も仕事もお金も最強運! まったくありえない事にどう転がってもどう転がってもイイ事しか起こらないので宝くじでも買ってみろ! あんまりモテモテちゃうからって三股四股に挑戦、なんてのはダメダメなんだぞ♪



禁書目録編
電脳少女は幻想に寄り添う AI,_Imaginary,Girl.


「・・・・・・いや、こんなモンだってことは分かってんだけど、分かってんだけどさあ」

『ちょっ! ご主人にこんな『幸運』があるわけないじゃないですかっ!絶対的な不幸を持つご主人が、幸運に恵まれるわけが無いでしょう!』

「どうしてそこまで人の不幸を笑うことができるのかね!?」

 

七月二〇日、夏休み初日。

エアコンが壊れてうだるような熱気が支配する『学園都市』の学生寮の一室で上条当麻は絶句した。

どうも昨日の夜中に雷が落ちたらしく電化製品の八割が殺られていて、それは冷蔵庫の中身が全滅している事を意味していた。非常食のカップ焼きそばを食べようとしたら中身を流し台にぶちまけ、仕方が無いから外食をしようとサイフを探している内にキャッシュカードで転倒、机で後頭部を強打。

しかもふて寝の二度寝の泣き寝入りを電脳少女に叩き起こされたと思ったら『上条ちゃーん。今日から補習ですよー♪』との担任からの連絡網(ラブコール)

天気予報みたいに流れるテレビの星占いなんてこんなモンだとは思うが、ここまで来るともはや笑いも起こらない。

 

『ご主人頭は良いんですけどねぇ。記録術の単位でしょうか・・・?』

「記録術ね・・・ハハ・・・」

 

壁に掛けられたディスプレイの中を飛び回る少女、エネに上条は悲しそうな顔で言う。

占いは必ず外れ、おまじないは成功した例しがない。それが上条当麻の日常だ。この素敵なぐらいに運に見放された体質は一族に伝わるモノかと思いきや、父は宝くじで四等をゲットし、母はジュースの自販機のルーレットで当たりを引けて止まらないのだった。

結論を言うと、上条当麻は不幸だった。

なんていうか、もうギャグとして消化しても大丈夫なレベルの。

上条は運に頼らない。それはつまり行動力が高いという事を意味していた。

 

「・・・・・・さて、っと。目下の問題は冷蔵庫ぐらいなものか。無いと食材が冷やせねぇ」

 

バリボリと頭をかきながら上条は部屋を見渡す。

 

『ネットで安売りしているところを探しましょうか?』

 

エネがネットショッピングサイトを開いて見せているように、問題は冷蔵庫―――というか明日からの朝ご飯だった。夏休みの補習、なんて言ってもどうせ能力開発の補習なんて錠剤か粉薬を飲むに決まってる。流石に空腹はまずかろう。

学校の帰りに電化製品屋寄るかー、と上条はパジャマ代わりのTシャツを脱いで夏服に着替える。

 

「いーい天気だし、布団でも干しとくかなー」

『この季節はいきなりの夕立が怖いですね? ご主人』

 

ベランダと言っても高い場所から綺麗な景色が拝める訳ではなく、そこから二メートルもない先には隣のビルの壁があるのだった。

 

「不吉な事言うなっての。あーあ、空はこんなに青いのにお先は真っ暗♪」

『私は青いですよーご主人♪』

「・・・・・・つっかマジで夕立とか降ったりしねーだろーな?」

 

少女のボケを完全にスルーし上条は器用に足で、ベランダへ繋がる網戸を開けベランダへ向かう。と、すでに白い布団が干してあるのが見えた。

 

「?」

『・・・・・・?』

 

学生寮と言っても造りはまんまワンルームマンションなので、上条は一人暮らしだ。(エネは除く)なので、この部屋でベランダの手すりに布団をひっかけるような人物は上条当麻以外に存在しない。

なので、よくよく見れば布団なんて干してなかった。

 

干してあったのは白い服を着た女の子だった。

 

「はあ!?」

 

両手で抱えていた布団が手を離れる。それを無意識に足で蹴り上げ、元の手元に持ち上げる上条。

謎だ。しかも意味不明だ。女の子は、なんか鉄棒の上でぐったりバテてるみたいに、腰の辺りにベランダの手すりを押し付け、体を折り曲げて両手両足をだらりと真下に下げている。

歳は・・・・・・十四か、十五か。上条より一つ二つ年下という感じ。外国人らしく、肌は純白で髪の毛も白髪―――じゃなくて銀髪だろう。かなり長いらしく、逆さになった頭を完全に覆い隠して顔が見えないくらいだった。おそらく腰ぐらいまで伸びているんじゃないだろうか?

そして服装は、

 

「シスターさん・・・かな?」

『白いですね』

 

修道服? とでも言うのか。教会のシスターが着てそうなアレだ。足首まである長いワンピースに見えなくもない服に、頭には帽子とはちょっと違う、一枚布のフード。ただし、一般の修道服が『漆黒』であるのに対し、女の子のそれは『純白』だった。おそらくシルクじゃないだろうか?さらに衣服の要所要所には金糸の刺繍が織り込まれている。

と、そこまで見た上条とエネの意見は一致する。

 

『「禁書目録か」ですね』

 

ピクン、と女の子の綺麗な指先が動いた。

だらりと下がった首が、ゆらりと上がる。絹糸のような銀髪がサラリと左右に別れ、上条の方を向いた少女の顔が長い長い髪の隙間から、カーテンでも開くように現れる。

 

「ァ、―――――――」

 

女の子の、可愛らしいけどちょっと乾いた唇がゆっくりと動いた。

思わず上条は後ろのエネに助けを求めるが、少女はディスプレイの中でさらにファイルの中に逃げていた。

 

「あの・・・」

「テメェ。人見知りか!? ンなんじゃねーだろ! さっさとフォルダから出てこいっ!」

『だが断る!』

「あのっ」

 

聞こえてきた第三者の声はまぎれもなく日本語だった。

 

「・・・・・・」

 

一瞬。上条とエネは耳を疑った。そう聞こえる単語があるのかとも思った。

しかし現実は違った。

 

「あの・・・おなかがへったので、何か食べさせてください。お願いします」

「ナニ? ひょっとしてこの状況でアナタは自分は行き倒れですとかおっしゃるつもりでせうか?」

「倒れ死にとも言うかもしれないですね」

 

超日本語ペラペラ少女だった。

 

『ご主人』

「・・・はいはい」

 

上条は忌々しげに呟くと、器用にベランダの手すりをぴょこっと越えた少女に、テーブルの上の焼きそばパンを放る。すると少女は、ラップを丁寧に解き、優しく口に含み始めた。それを横目に見た上条は、とりあえずとりわけ大丈夫そうな食材を冷蔵庫からより分け、なんとなくでサラダを作り始める。上条は野菜が生きてて良かったーなどと呑気なことを呟いていたりする。

こうして、今日も上条の一日は遅刻の可能性と共に不幸から始まっていく。

 

 

 

 

 

「まずは自己紹介をしなくちゃいけないかな?」

「・・・・・・いや、まずは何であんなトコに干してあったのか―――――」

「私の名前はインデックスと申します」

「誰がどう聞いても偽名じゃねーか! 大体何だインデックスって!『目次』かお前は!」

「見て分かってるかもしれないけど、教会の者です、ここ重要。あ、バチカンの方じゃなくてイギリス清教の方だね」

「意味分かんねーしこっちの質問は無視かよ!?」

「うーん。禁書目録インデックスの事なんだけど。あ、魔法名なら Dedicatus545だね」

「・・・エネ」

『・・・一〇万三〇〇〇冊を有する魔道書図書館・・・禁書目録であっているそうです・・・』

「・・・チッ」

 

ヘッドセット越しにエネの話を聞いた上条が、頭をガシガシかいているとインデックスはボケーっとそれなりに不満そうに上条を見つめていた。

 

「で? お前は何だって家のベランダに干されてた訳?」

 

味がほぼ壊滅的な野菜炒めにしょう油をぶち込みながら上条は少女に向かって言ってみる。

 

「干してあった訳じゃないんだよ?」

「じゃあ何なんだよ? まさか追われてたから飛び移ろうとしましたーとかか?」

 

ハハ笑えねェ。と上条が言いかけた途端少女は

 

「よく分かったね」

 

そう言った。

この辺りは安い学生寮が立ち並ぶ一角だ。八階建ての同じようなビルがずらっと並んでいて、ベランダを見れば分かる通りビルとビルの隙間は二メートルぐらいしかない。確かに、走り幅跳びの要領で屋上から屋上へ飛び移る事もできるとは思うが・・・・・・。

 

「でも、八階だぜ? 一歩間違えれば地獄行きじゃねーか・・・って追われてたのか」

「うんそうだね。でもそうするしかなかったんだよ」

 

そうかそうか、と上条は頷きながらインデックス用にさらに作った野菜炒め(有毒)をインデックスの前に差し出した。

ま、食えない事もないだろ。と思う上条にエネは呆れ呆れだった。

上条当麻はエネがパソコンのディスプレイにいるのを確認すると、インデックスに向き直る。

 

「―――で、追われてるって。お前は一体ナニに追われてる訳?」

 

上条は一番のネックを聞いた。

いくらなんでも、出会って三〇分も経たない女の子に地獄の底までついていく、とまでは思わない。

かと言って、このまま何もなかった事にするのは、おそらく無理だ。

結局は偽善使い(フォックスワード)だよな、と上条は思う。何の解決のもならないと分かっていても、上条は首を突っ込んでしまう。

 

「うん・・・・・・、」

 

ちょっと喉が渇いたような声で、

 

「なんだろうね? 薔薇十字(ローゼンクロイツ)黄金夜明(S∴M∴)か。その手の集団だとは思うんだけど、名前まで分からないかも。・・・・・・連中、名前に意味を見出すような人達じゃないから」

「連中?」

 

上条は神妙に聞く。という事は、相手は集団で、組織だ。

うん、と当の追われるインデックスの方がかえって冷静な風に、

 

「魔術結社だよ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「はぁ。まじゅつって・・・・・・、『そっち』系かよ・・・アレだろ?魔力とか消費して体力回復したりするんだろ?」

「む。なんか語弊があるみたいだけど。まあその通りかも」

「――――――。ゴメン、無理だ。魔術は無理だよ。俺も発火能力とか透視能力とか色々『異能の力』は知ってるけど、魔術は無理だ」

「・・・・・・?」

 

インデックスは小さく首を傾げた。

おそらく科学万能主義の常識人なら『世の中に不思議な事なんて何もないっ!』と否定されると思っていたんだろう。

だけど、上条の右手には『異能の力』が宿っている。

幻想殺し(イマジンブレイカー)と名乗る、それが常識の外にある『異能の力』であるならば、たとえ神話に出てくる神様の奇跡システムでさえも一撃で打ち消す事のできる力を。

 

学園都市(こっち)じゃ超能力なんて珍しくもねーんだ。人間の脳なんざ静脈にエスペリン打って首に電極貼り付けて、イヤホンでリズム刻めば誰だって回路開いて『開発』できちまう。一切合財が科学で説明できちまうんじゃ誰だって認めて当然だろ?」

「・・・・・・よくわかんない」

『簡単に言うとですね。普通の人間の脳の仕組みを無理やり超能力が使える仕組みに変えるっていうのが、学園都市(このまち)では当然なんです』

 

上条の説明にエネが付け足しを加える。

 

「・・・・・・。じゃあ、魔術は? 魔術だって当然だよ?」

 

 むすっと。お前ん家のペットは駄ネコだとか言われたように、インデックスはふてくされた。

 

「えーっと。例えばジャンケンってあるだろ?ってか、ジャンケンって世界共通?」

「・・・・・・、日本文化だと思うけど、知ってる」

「じゃあジャンケンを一〇回やって一〇回連続負けた。そこになんか理由があると思うか?」

「・・・・・・・・・・・、む」

()()()()? けど、()()()()()()()()()()()()()()()のが人間なのさ」

 

上条はつまらなそうに、

 

「自分がこんな連続で負けるはずがない。そこにはきっと見えない法則(ルール)があるはずだ。そんな風に考える人間の頭ん中に、例えば『星占い』を混ぜたらどうなっちまう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、巨蟹宮(かにざ)のあなたはついてないから勝負はやめておけ、とか?」

「そ。ウチらの間じゃ、非現実(オカルト)の正体はソレなんだ。運とかツキとか、見えない歯車(ルール)を夢見る瞬間。ただの偶然なんてちっぽけな現実を、エライ必然と勘違いする心。それが、非現実(オカルト)さ」

 

インデックスはしばらく不機嫌なネコみたいにむすーっとしていたが、

 

「・・・頭ごなしに否定するって訳でもないんだね」

「ああ。だからこそ、真剣に考えてるからこそ、カビ臭い昔話はダメなんだ。絵本に出てくる魔術師なんて信じられない。MP消費で死人が復活するってんなら誰も育脳(かいはつ)なんかやんねーしな。まったくもって『科学(ゲンジツ)』と無関係な代物(オカルト)は、やっぱり俺でも信じらんねーよ」

 

超能力なんて代物が『不思議』に見えてしまうのは、人間が単にバカだからで。

本当は、やっぱり超能力さえ『科学』で説明できてしまうというのが、ここでの常識なのだ。

 

「・・・、けど。魔術はあるもん」

 

むーっと口を尖らせながらインデックスは言う。おそらく、彼女にとっては心を支える柱のようなモノなんだろう、上条の『幻想殺し』や『電脳少女』と同じく。

 

「まあ良いけど。で、何でソイツらがお前を狙ってるって――――」

「魔術はあるもん」

「・・・・、」

「魔術はあるもん!」

 

どうやら意地でも認めて欲しいみたいだった。

 

「じゃ、じゃあ魔術って何なんだよ。手から炎が出るのか、ウチの時間割を受けなくても出せんのかぁ? なんならここで一丁見せてくれよ。そしたら信じる事が出来るかも知んないから」

「魔力が無いから、私には使えないの」

「・・・・・、」

 

カメラがあると気が散るのでスプーンを曲げられません、というダメ能力者を見た気がした。

 

「じゃあ、仮に魔術なんてモノがあるとして、」

「仮に?」

「あるとして、」

 

上条は無視して続けた。

 

「お前がそんな連中に狙われてる理由ってのは何なんだよ? その服装となんか関係あったりするの?」

 

上条の言ってるのは、インデックスの着ている純白のシルク地に金糸の刺繍という超豪華な修道服の事だ。日本語に変換すると『宗教がらみ?』と言いたい。

 

「・・・・私は、禁書目録(インデックス)だから」

「うん?」

「私の持ってる、一〇万三〇〇〇冊の魔道書。きっとそれが連中の狙いだと思う」

「・・・・、『魔道書』ってあれだろ? エイボンの書とかソロモンの小さな鍵(レメゲトン)とか、ネームレス、食人(しょくじん)祭祀書(さいししょ)、死者の書。えーとあと死霊術書(ネクロノミコン)か、でもアレって確か偽書が多いって聞いたような・・・・」

『そうですね。死霊術書は確かに偽書が多く当てにならないそうです』

「そうか。そんな話は置いといてー。そう言った『魔道書(グリモワール)』をお前が持ってるってのか」

「急に詳しくなったね。魔術に関して詳しかったりする・・・? もしそうならさっきまでのお話は無駄な戦いだったり・・・」

 

心配そうに尋ねてくるインデックス。それを上条は何を今更といった調子で、

 

「あれくらいの嘘。見抜けるようになりませうぜ? インデックスさんよ」

「・・・そんなに超能力って素晴らしいの? ちょっと特別な力を持ってるからって、人を小馬鹿にしていいはずがないんだよ」

 

・・・・・・。

 

「ま、そりゃそーだわな」

 

上条は小さく息をつき、

 

「そりゃそうだ。お前の言う通りだよ。こんな一発芸を持ってる程度で、誰かの上に立てるだなんて考え方は間違ってる」

 

上条は自分の右手に視線を落とした。

そこには力が宿ってる。発動時には閃光も起きないし、ド派手な爆発が起きる訳でもない。

だが、それでも上条の右手はあらゆる『異能の力』を無力化できる。力の善悪は問わず、神話に出てくる神の奇跡システムさえ、問答無用で。

 

「ま、この街に住んでる人間ってな能力(チカラ)持ってる事が一個の心の支え(パーソナリティ)になってっから、その辺は大目に見て欲しいかな。ってか、俺も能力者そーゆーのの一人なんだけど」

「そうだよバカ、 ふん。頭の中いじくり回さなくったってスプーンぐらい手で曲げられるもん」

「・・・・・・、」

『どこかで聞いた台詞ですね、ご主人』

「ふんふん。天然素材を捨てた合成着色男のどこが偉いってーのさー、ふん」

「・・・・・・、ナメたプライドごと口を封じて構わねーか?」

「て、暴力(テロ)には屈しないもん」ふん、と不機嫌な猫みたいなインデックス。「だ、大体、超能力だなんて言って、君には一体何ができるっていうの?」

「・・・・・、えっと。何がって言うか」

 

上条はちょっと戸惑った。

自分の幻想殺し(イマジンブレイカー)について、誰かに説明する機会は滅多にない。しかも『異能の力』にしか反応しないという事は、まず『異能や超能力』について知ってもらわないと説明にならない。

 

「えっとな、この右手。あ、ちなみに俺のは合成着色(ドーピング)じゃなくて天然素材(うまれたときから)なんだけど」

「うん」

「この右手で触ると・・・・それが異能の力なら、原爆級の火炎の塊だろうが戦略級の超電磁砲レールガンだろうが、神様の奇跡システムだって打ち消せます、はい」

「えー?」

「んだよ。自分のことは信じてほしいのに相手のことは信じねーのか。でもまあいいさ。魔術ってのはすげーんだな」

「絶対信じてないよね!? その面倒くさそうな顔は!」

「じゃあどうすればオマエは俺が魔術があると言うことを認めたと証明してくれるんでせうか!?」

「じゃ、じゃあ・・・」

 

インデックスはおもむろに台所へ行くと、包丁を取り出してきた。

 

「これで私のおなかを思い切り刺してみる!」

「・・・・・・は?」

『やめときなさいご主人。少女殺人未遂とか下手したら殺人罪ですよ?』

「大丈夫私には傷一つつかないから!」

「嘘おっしゃい」

 

上条は包丁を持ったインデックスを押しのけるように、両手でインデックスの肩を押した。

その瞬間。

インデックスのまとっていた修道服がその布地を縫っている糸という糸が綺麗にほどけて、ただの布地に逆戻りした。

つまり、インデックスが身にまとっていた修道服がストンと落ちた。

 

『・・・・・・ご主人。グッジョブ』

 

 

 

「痛ってぇ・・・・・・。人にかみつくんじゃねーよ。ったく・・・」

 

体中に歯形を作った上条が不満げにそう言葉を漏らした。言いつつ彼は巨大な安全ピンでインデックスの修道服を仮止めする。そこから縫い直そうと思った矢先、インデックスが横からかっさらった。

何十本もの安全ピンがギラギラ光る修道服を。

 

「えっと、着るのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「着るのか、そのアイアンメイデン?」

『日本語では針もむしろとも言います!』

「・・・う、ぅぅぅぅうううううう!!」

 

ふとした瞬間に、上条はガタッと音を立てる。びっくりしてインデックスとエネは上条の方を向く。

 

「うわっ! そーだ補習だ補習!」

 

上条は携帯電話の時計を眺めて、

 

「えっと、あー・・・・俺これから学校行かなきゃなんないけど、お前どーすんの? ここに残るんならカギ渡すけど」

「・・・・・・私はおいとまするよ」

 

インデックスはすっと立ち上がると、玄関の方に向かってスタスタと歩いていく。

 

「は? いや、ここに居ろよ。敵が彷徨いてんだろ? だったら家に・・・」

 

そう言って上条はインデックスを引きとめようとするが、インデックスは

 

「・・・・・・じゃあ、私と一緒に地獄の底まで付いて来てくれる?」

 

にっこり笑顔だった。それは、あまりにも辛そうな笑顔で、上条は溜息をつきたくなった。インデックスは、優しい言葉を使って暗にこう言っていた。

こっちにくんな。

 

「・・・・・・いいや、嫌だね」

 

上条当麻は即座に否定する。それを見たインデックスは少し悲しそうなそれでいて安心したような顔をする。

 

「そうだよね? それじゃ・・・・・・」

『勘違いしちゃいけませんよ? インデックスさん。確かにご主人はあなたと共に地獄に落ちるのは嫌ですが・・・・・・』

「でもそれ以上に、今のお前を放っておくことなんて出来ないんだよ」

 

上条は、引き止めるようにインデックスの肩に右手を置いた。行かせっかよ。暗にそう言っていた。

かつて自分を助けてくれた相方のように。何度拒絶しても、何度否定しても、傍に居てくれたこいつのように、

 

『ええ! 地獄の底にあなたがいるというのなら、そこから救い上げてやるだけですよっ!』

 

エネはあの時と同じ、少々ウザったくなる位の、優しい笑顔でそう言った。

 

「・・・・・そう、君達は優しいね・・・・・」

 

インデックスはもう一度にっこり笑うと上条の手をとって―――

 

「―――――――――――でもごめん」

「―――ッつ!」

 

両手で上条の手を捻り上げ、ついでに軸足を大きく払う。

 

「う、うおっっと!?」

 

上条は床に手を着き、そのままバク中するように空中を一回転。体操選手並みのウルトラCをかましたが、そんな上条に賞賛の拍手を送る者は誰一人として―――

 

『おお! 流石ご主人! すごいです!』

 

―――訂正。一人だけいた。

 

「んな事してる場合か! インデックスは!?」

『えと、騒ぎに乗じて部屋から飛び出したようです。なかなかヤンチャな事をしますね』

 

エネが喋り終わると同時に、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。

 

「っく! 俺は追う! お前はカメラの映像を俺のデバイスに!」

『分かりました!』

 

上条は大きめの軍用ゴーグルを頭に引っ掛けると、脱走した少女を保護するために動き出した。

 

『ところでご主人? 小萌先生の補習はどうするつもりですか?』

「・・・・・不幸だ・・・・・」

 

 

 

 

―完全下校時刻。

学園都市の学生に定められた下校時間を過ぎてなお、上条とエネはインデックスを探し続けていた。

 

『どうですかご主人?インデックスさんいましたか?』

「いや、全然・・・・・エネ! そっちはどうだ!?」

 

現在二人は別々に行動している。

イヤホンを片耳に突っ込み、マイクを口元に当てる。そして、軍用ゴーグルをかけた上条は、エネと通信で連絡を取っていた。

 

『そちらに情報が行っていない通り・・・・・インデックスさんの影すら掴めていません・・・・・むー!この電脳少女たる私の捜査網に引っ掛からないとは一体どういう逃げ方をしてるんですか!?』

 

上条が自らの足を使って探索を行い、エネが学園都市中の監視カメラをハッキングし映像と動きを操り索敵サーチを掛ける。

効率が良いように思えるが、学園都市は東京の半分を占めるほどのに広く、なおかつ全てのカメラをハッキングできる訳ではない。

それ以外にも小萌先生から補習をサボった事への呼び出し電話。携帯越しでも涙ながらになっているのが分かる、が掛ってきて必死に言い訳をする破目になるわ、武装無能力者集団(スキルアウト)に絡まれるわもうさんざんだった。

 

「だー、くそ! インデックスの奴一体どこに・・・・・」

「あっ、いたいた。この野郎! 探したんだからっ! ってちょっと待ちなさ・・・・・ちょっと! アンタよアンタ! 分かってんでしょ!」

『ご主人。無視しましょ』

「・・・・・言われなくても」

 

意見一致で無視をする事に決めた上条とエネ。

一体どこの電撃系ぶっ飛びお嬢様だか知らないがかまっている暇などない。

 

「アンタ今すっごく失礼なこと考えたでしょ!? いい加減にしなさいよ! 今日という今日こそ電極刺した蛙の足みたいにひくひくさせてやるから、遺言と遺産配分やっとけグラァ!」

「やだ」

「なんでよ!?」

シスターさん(インデックス)がいないから」

「こ―――――の。っざけてんじゃねーぞアンタぁ!」

 

上条としては至極真っ当な理由なのだが、どうやら相手の女子中学生にとってはその発言が何かのトリガーを引いたらしい。主に色々付け足し忘れているせいなのだが、

御坂は己が鬱憤を込めた一撃を歩道のタイルにぶつけようとして―――

 

『―――! ―――ご主人!』

「―――っ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

一瞬、本当に一瞬の出来事だった。

何かをつかむ音と共に、御坂の顔上半分が上条の右手で覆われた。その途端、学園都市でも七人しかいない超能力者である彼女の電撃は掻き消され、無へと消える。電撃はおろか、静電気一つ起きずに

 

「・・・・・おいビリビリ中学生」

 

上条は、御坂の顔面を捉えながら、声を低くして言った。

 

「・・・・・悪いけど今日は時間が無いんだ。また今度にしてくれよ?」

「な、なによ? そんな事関係な―――」

「――そっか。じゃあ・・・・・」

 

上条はハァ、と小さくため息をつくと。

 

「マジメにやるから覚悟しろ―――」

 

数分後、そこには子犬みたいにビビっている御坂美琴がひとりでポツン、と立っていた。

 

 

 

御坂美琴を振り切った上条は夕焼けの学園都市を全力疾走していた。

 

「いやマジでナイス! エネちゃんマジ電脳少女! もう見つけたのか! 早い!」

『フフン! そうでしょうそうでしょう? なんならもっと褒めてくれてもいいんですよ? しかしあの鳴神娘、何を考えているんでしょうね。ご主人が止めに入らなければ、大変な事になっていましたよ・・・・・』

 

まったくだ。と、上条は賛同する。仮にもここは科学の街『学園都市』だ。

至る所に科学技術が使用されている都市のど真ん中で超能力者級の電撃を放ったら有線放送や警備ロボットはおろか、道行く人々の携帯まで破壊されていただろう。

上条の対応があと少しでも遅ければ、間違いなく警備ロボとの追いかけっこが始まっていたに違いない。

 

『いや―しかし迫真の演技でしたね。彼女、ビクビクと震えていましたよ! これで少し大人なってくれると良いんですが・・・・・まあ少しばかり可哀想な気がしますが』

 

確かに少し強引な手に出たかもしれないと思うが、まともに相手した場合間違いなく日が暮れるし、そもそも今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「それで!? インデックスは一体どこに―――」

『ええとそれがですね・・・・・』

 

エネは少しばかりバツが悪そうな声を出して

 

『カメラの最終記録によると、私達の寮の中へと・・・・・』

「・・・・・は? な、何で今更?」

 

あんな事をしてまで上条を巻き込むまいと家を飛び出した、再び上条の部屋の近くにいる・・・・・?

どう考えてもおかしな事だった。

 

『さ、さあ・・・・・私にもさっぱり―――――!?』

 

エネが急に息を呑んだのが分かり、上条は戦慄する。

 

「おい、どうした!?」

『エネルギー反応。これは・・・・・魔力! 術式は西洋の術式―――!』

「『魔術師!』」

 

離れた場所で、上条当麻とエネは全力で同時に走り出した。

 

 

 

上条の住んでいる学生寮は、見た目は典型的なワンルームマンションだ。四角いビルの壁一面に直線通路とズラリと並ぶドアが見える。

 鉄格子のような金属の手すりに『ミニスカ覗き防止用』のプラ板が貼ってないのは、ここが『男子寮』だからだろう。

 御坂美琴を追い払い、日の落ちた学生寮の前まで戻ってきた上条は、エネと通信を再開する。

 

「エネ! インデックスは!?」

『私達の家の前・・・・・鉄分の反応・・・・・まずいですご主人! 怪我をしているかもしれません!』

「なっ!? ―――――――――ッツ!」

 

衝撃の事実に、すぐにでも――を駆け上がってインデックスの元へと駆け寄りたい上条だったが、どこからか感じた背筋を凍らすような気配に足を止める。

 

『感じましたか?・・・居るんです。近くに『人払い』を張った魔術師が・・・・・』

 

どう足掻いても一悶着ありそうだったが『その程度』で上条当麻とエネは止まらない。

インデックスの怪我の具合がどれ程のものか知らないが、相方の具合から見て転んですりむいた程度のものではない事は明白だった。

一秒でも時間が惜しい。

 

「・・・・・行くぞ」

 

上条はそう言うと、七階にある自分達の部屋の前へと急行する。

そして、ひどく驚愕した。

 

「・・・・・は? ・・・・・」

 

自分の家の前で、床に張り付いたガムだって一瞬で剥がすほどの破壊力を持ったドラム缶ロボが三台もたむろしているという状況に。

目を疑った。その三台にガッツンガッツンとまるで都会のカラスに小突かれているかのように体当たりをぶちかまされているインデックスに。

心臓が止まるかと思った。背中の腰の辺りをバッサリと横に一閃され、血だまりの中に沈んでいるインデックスに。

事前にエネから忠告されていなければここで大きなタイムロスがあっただろう。

 

「あ、くっそぉぉぉおおおおおおおお!」

『待ってくださいご主人!』

 

湧き上がる激情に任せて清掃ロボットをぶち壊そうとする上条。それよりも先に、スマートフォンの画面からエネが飛び出し、ロボット達の方に手をかざす。と、それだけで清掃ロボットはその場を離れ、廊下の奥へと去っていった。

後で思ったのだが、もし上条がこの時清掃ロボットを破壊していたらおよそ三六〇万の弁償をしなければならない所だった為。上条追お財布事情的には超ファインプレーだった。

 

「―――っつ! エネ!!」

『分かってます。私を誰かお忘れで?』

 

エネはにっこりと笑ってインデックスの方に駆け寄る。

 

「・・・・・あ」

 

上条はそこで思い出した。今は電脳少女となり、能力の半数以上を失い。様々な能力を駆使しても数分しか現実世界に姿を現すことができない彼女。0と1の集合体。上条の神々の義眼()でしか見ることのできない存在だが、彼女が一番得意とするのが回復系のスキルだった。何でも記憶を失う前の自分が良くケガをしていたらしい。

 

その為、インデックスの傍に座り、素早く演算を開始するエネ。

能力を使いインデックスの背中、患部に触れる。そしてなぞるようにゆっくりゆっくりと動かしていく。それだけで怪我は治ってしまうがなにぶん怪我が大きい上、インデックスが弱りすぎている為、あまり強い能力は使えないのだ。

もちろん『怪我を一瞬で塞ぐ』事も可能だが、能力を当てる対象が極度に弱っていると能力が掛けるちょっとした負担が死に至る原因にもなりかねないので、あまり強力なのをできないでいた。

 

―――――――だがそれでも

 

『ふう。出血は止まりました』

 

エネの能力と腕は、そんな事など苦にもしないほどだった。流石だ。上条は素直にそう思う。

 

「もう大丈夫なのか?」

『「大丈夫だ、問題ない」・・・・・とは言い切れませんけど、これで死ぬ確率は五%以下に減りましたよ! 後は・・・・・やっぱりカエル先生に頼むのが良いんですが、この街の部外者じゃ後々面倒そうですし、この後体力が回復したらまた私が能力を使いますよ! 多分それがベストです!』

「ああ。良かった――――――――それにしてもこんなことやりやがったのは誰だよ?」

「うん? 僕達『魔術師』だけど?」

 

上条は、ゆっくりと後ろを振り返った。

男は自分とは別の、エレベーターを使ってここまでやって来たようだった。

白人の男は二メートル近い慎重だったが顔は上条よりも幼そうに見えた。おそらく歳はインデックスと同じ十四、五だろう。その高い身長は外国人特有のものだ。服装は教会の神父が着ているような漆黒の修道服。ただしコイツを『神父さん』と呼ぶ人間は世界中を探しても一人として存在しないだろう。

 

『・・・・・邪悪、ですね。そういうチカラを使うからでしょうが少々気を使いすぎではありませんか?』

 

エネは相手を嘲笑するようにハッと笑う。しかしその目は笑っていない。男を分析しているのだ。

強い香りの香水に、髪染め。全ての指にはめられた銀の指輪に、耳に付いた毒々しいピアス。極め付けには右目まぶたの下にあるバーコードのような形をした刺青。

神父と呼ぶにも不良と呼ぶにも奇妙な男。通路に立つ男を中心とした辺り一帯の空気は明らかに『異常』だった―――が

 

「おや、宗教観が薄いこの国の人間にしてはあまり驚いてないみたいだね? もしかして『それ』から全部聞いちゃってるのかな?」

「・・・・・色々あんだよ。色々な」

 

上条は全く動揺していないように見える。

実際はそう見えるだけで、上条から言わせれば十分すぎるほど動揺しているのだが、今までにも結構奇妙な冒険を色々してきている為、『異常』に対する耐性が出来てしまっていた。

魔術師は「まあどうでも良いか」と吐き捨てるように言って

 

「まったく、よっぽど君を巻き込みたくなかったのかな?」

「・・・・・? どういう―――」

「『それ』がここまで戻ってきた理由だよ。知らないのかい?彼女が着ている修道服は『歩く教会』と言ってね。法王級の絶対防御を誇る霊装なのさ。僕達はそれから出ている魔力をサーチしてた訳だけど・・・・・何の因果か今日その霊装の効果が消え失せた。全く、聖ジョージのドラゴンでも再来しない限り、法王級の霊装が破れるなんてありえないんだけどね・・・・・」

 

そこまで聞いた上条とエネは息が止まるかと思った。全てが唐突に繋がったからだ。上条の右手には『幻想殺し』と言う異能の力が宿っている。それが異能の力であれば、力の善悪強弱問わず神様の奇跡だって打ち消す事が出来る――――――いくつかの『例外』を除いて。

そんな上条の右手は、数時間前確かにインデックスの肩に触れた。『歩く教会』を通して。そしてそれを木っ端微塵に破壊した。

そして魔術師は言った。その歩く教会から滲み出る魔力をサーチしていたと・・・・・そしてインデックスは上条の家に忘れ物をして行った。歩く教会の残骸(フード)を・・・・・

 

つまりインデックスは、自分達を危険な目に合わせないために残骸を探知して魔術師がやってきてしまうかもしれないと考えて、わざわざ危険を冒して戻って来た。

そして、上条の右手で絶対防御の霊装の効果が破壊されてしまっていたため、大怪我を負ってしまった・・・・・?

 

 

 

「・・・・・・なんで、だよ」

 

少し間を置いてから、思わず、答えを期待していないのに上条の口は動いていた。

 

 

「何でだよ。お前達にも正義と悪ってモンがあんだろ? 守る物とか護る者とかあんだろ・・・・・・?」

 

上条当麻は、叫ぶように言った。

 

「こんな小さな女の子を、寄ってたかって追い回して、血まみれにして。これだけの現実を前に! テメェまだ自分の正義を語ることが出来んのかよ!!」

 

自分の中の信念に従い。

今まで歩んできた道を信じて。

正しいと思った事を、殴りつけるように言葉にして放った。

 

「だから、血まみれにしたのは僕じゃなくて神裂なんだけどね」

 

なのに、魔術師は一言で断じた。微塵も欠片も、響いていなかった。

 

「もっとも、血まみれだろうが血まみれじゃなかろうが回収するものは回収するけどね」

「回収・・・・・・? やっぱりインデックスが持ってる十万三千冊の魔道書が目的なのか!?」

「ああなんだ。『そっち』は聞いてたのか」

 

魔術師は笑っているのにつまらなそうな声で

 

「そうさ、でも勘違いしないで欲しいね。僕達はあくまでも彼女を保護する為にやってきたんだから」

「・・・・・・」

 

これだけ真っ赤な光景を前に、この男は今なんて言った?

 

「そうさ。保護だよ保護。ソレには魔力を練る力は無いけど、それでも十万三千冊の魔道書ってのは十分過ぎるほど危険な代物でね。使える連中に連れ去られる前にこうして僕達が保護しにやって来たって訳さ。ソレにいくら良心と良識があったって拷問と薬物には耐えられないだろうしね。そんな連中に女の子の体を預けるなんて考えたら心が痛むだろう?」

 

魔術師は挑発するように言った。否。それは上条をインデックスから引き離す為の紛れも無い挑発だった。

上条(焼き殺す人間)の傍にインデックス(保護するべき対象)がいたらそれだけで巻き込みかねないし、もしインデックスを盾にされたら厄介な事になるだろう。

余計な手間を掛けない為には、向こうからこちらに来てもらうのが一番だった。

 

「・・・・・・」

 

だが、上条当麻は動かなかった。その目を瞑り、時が流れるのをただ静かに待つように、ただただそこに立っていた。

 

(・・・・・・? 動揺しすぎて動けない、って訳じゃなさそうだけど。挑発が足りなかったかな?)

 

ふむ、と魔術師は考えて、だったら取り合えず魔術を使って少々強めに脅しを・・・・・・

 

「―――あー、名前。聞いとくぜ」

 

まるで初めて出会った人に挨拶をするように気軽な口調で話しかける上条。

だが、その瞳は闘志と怒りで満ちていた。

こいつをぶちのめす。内にある心が、しっかりと読めた。

 

「ステイル=マグヌスと名乗りたい所だけど、ここは『Fortis931』と名乗っておこうかな?」

 

なのに、魔術師は口の端を歪めてタバコを揺らしているだけだった。

口の中で何かを呟いた後、まるで自慢の黒猫でも紹介するかのように上条に告げる。

 

「魔法名だよ、聞きなれないかな? 僕達魔術師って生き物は、なんでも魔術を使う時に真名を名乗ってはいけないそうだ。古い習慣だから僕には理解が出来ないんだけどね。―――Fortis日本語では強者といったところか。ま、語源はどうだって良い。重要なのは魔法名を名乗り上げた事でね、僕達の間ではむしろ―――――――――」

 

魔術師は笑みを崩さない。上条では笑みを消す相手にもならないとでも言うように。

魔術師、ステイル=マグヌスは口の煙草手に取ると、指で弾いて横合いへと投げた。火のついた煙草は水平に飛んで、金属の手すりを越え、隣のビルの壁に当たる。

オレンジ色の軌跡が残像の様に煙草の後を追い、壁に当たって火の粉を散らす。

 

「―――――――――殺し名、かな?」

「ああ、分かった。『もういい』」

 

 上条は本当につまらなさそうに言うと、『魔術師を地面に叩き付けた』

 

「――――な、ばぁあっ!?」

 

魔術師ステイル=マグヌスはその身を襲う痛みと、湧き上がる疑問に襲われていた。

どういう事だ? 自分と上条の距離は十五メートルもあったはずだ。魔術を使って消し炭にするだけの時間はあったはず――しかし現にステイルは通路の床に肩を掴まれて仰向けに叩き伏せられている。『一瞬で距離を縮められた』そう考えるしかなかった。

 

どんなトリックを使ったか知らないが、まだ自分には十分すぎるほど余裕がある。と言うよりこの程度で魔術師を捕らえた気でいるならとんだ大馬鹿野郎だ。

ステイルはニヤリと笑うと右手に力を集中させて、

 

「――巨人に苦痛の贈り物を!!」

 

魔術師はついに吼えた。けれど、何も起こらなかった。

 

「―――――は?」

「悪あがきはすんなよ。言ったろ『もういい』って」

「――あ」

 

最後に言葉を聞いて魔術師ステイル=マグヌスは、言葉を発する間もなく気絶した。

 

「――よし。エネ、こっちは片付いたぞ」

 

上条はステイルが気絶したのを確認するとゆっくりと立ち上がり、エネに声を掛けようとするが、肝心のエネは何時の間に戻って来たのか、自分の後ろ五メートル当たりの所に突っ立っていた。上条がこちらを向いたのを確認すると、フワフワと歩いて(?)上条の傍へと寄っていく。

 

「おお――キチンと顔、心臓、鳩尾、水月に掌打が二発ずつ打ち込まれてますね。これなら数時間は動けないでしょう。流石ご主人いい腕です!」

 

ステイルの様子を見て、エネは感心するように自分の事のように喜んだ。

事実、上条は自分でも随分と化け物じみてきたなぁとは思っている。 能力を使ってもいなければ、学園都市の駆動鎧も使用していないのにも拘らず一瞬で四箇所に二回ずつ、計八回も人体の急所に正確に打撃を打ち込む事が出来るなど、もはや人間のカテゴリーでは無い。

 

「しかし、この人は実力と戦闘技術が並行してませんね。修行が足りませんよ?」

「チカラ頼りの人間が、身体能力を鍛えると思うか?」

「そもそも力を持つ人間は過信しますからね。少しばかり研究用にもらってきました」

 

と、エネはステイルがこの寮に張り付けていたルーンカードを自慢げに見せ付けてくる。こう言っては何だが、エネはこう見えて勤勉家で、出会ったばかりの頃は二人で一緒に様々な事を勉強したものだ。

 

「『ちょっと待ってあとちょっと!』とか必死に言ってたのはそう言う事かテメェ!! 俺はアイツの『お喋りに付き合ったり』『ワザワザ話を引き伸ばしたり』して必死に時間稼ぎしてたんだぞおい!! それにもし、魔術が暴走したらどうすんだ!? 配置とかって結構重要だろうが!!」

「術者が気絶してしまった後じゃ、力の観測と保存が出来ないんですよ。・・・・・それに―――」

 

 

 

 

「―――ご主人なら大丈夫です」

 

ニッコリ笑顔でそう言った。

・・・・・反則だと思う。 それは、まるで主人に絶対の信頼を寄せる甘えたがりやの子犬の様な、エネから寄せられる、無償で全面的な信頼の証。お前の心配はしていない、むしろ後ろで怪我をしているインデックスが、魔術師の使う魔術に巻き込まれないか心配だった。暗にエネはそう言っていた。

 

上条はため息をついて「不幸だ」と言いながら、

右手で顔を覆い隠して笑った。

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