幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
女王を始めとして上条達が集まったのは、会議場のある一階から階段を使って三階まで上った上で、広い廊下の曲がり角にある、応接用の簡素なスペースだった。各々がソファに座り、適当にくつろいでいる様子を見て、通りかかったメイドがビクッと肩をふるわせている。
上条と貴音は軽く面々の顔を見る。
イギリスの女王様に、お姫様が三人、騎士派なんて大仰な組織のトップと、絵本に出てきそうな役職の人がてんこ盛りである。彼らの知り合いのインデックスや神裂にしても、片や一〇万三〇〇〇冊の魔道書を正確に記憶する禁書目録に、片や世界で二十人と居ない聖人。ここは本当に二一世紀の現代社会なのか、と疑いたくなる面子だった。かく言う彼らも幻想喰いとその眷属なのだが、自らの事には目が向いていない様子だ。
((何か・・・凄く場違いな気が・・・・・・))
居心地の悪くなった上条に続いて貴音もソファから立ち、何となく時間を確認する。そこでふと、ある事に気づいた。携帯電話にも付いている情景や人物を切り取る事のできる機械。
カメラだ。
「(・・・・・・うーん、女王様にお姫様か。どいつもこいつも思わず一枚撮りたいほど有名人だな・・・)」
「(・・・というか、セラスとインテグラルさんに関しては撮っても良いですよね? 私保存したいです)」
学園都市製の一眼レフカメラまで持ち出した貴音に上条は止める気も失せてきた。
と。
気がつくと、いつの間にか上条の隣にキャーリサが肩が触れるか触れないかの距離までしていた。
「は? なんすか」
「馬鹿者。撮影したいのではなかったの?」
「あ、いや」
「そーですけど・・・」
諦め気味の貴音は上条の顎が自分の頭に乗るような形で上条の前に立つ。そして上条にカメラを渡す。上条は貴音の言わんとする事をくみ取り、影を操ってカメラのレンズをこちらに向ける。
「しかし、まぁ・・・・・・良いのか、これ。作戦会議中にカメラで王女と記念撮影って」
「良いんじゃないでしょうか」
「言っておくけど、私だけの悪癖という訳じゃないから、ほら、姉上もカメラの気配に気づいて接近してる」
「ッ!?」
気がつくとキャーリサとは反対側の隣に第一王女のリメエラが立っていた。彼女は上条立ちの前に浮いているカメラのファインダーを写す画面に目をやりながら、
「・・・・・・おやおや。妹のキャーリサがバッチリ映っているのに、この私が見切れているのは許せないわね。ううんと、こう、もっと、こう、近づけば、これでオーケー・・・・・・?」
ぐいぐいと上条によってくるリメエラ。それに続いて第三王女のヴィリアンも上条の背後に。逆サイドの背後にセラスも立った。気づきにくいが、ちゃっかりとフレームに映ってくれているヘルシング家当主様も居た。
(・・・ねぇ、これどういう状況?)
(さあ? とりあえずさっさと撮って終わりにしましょう?)
(・・・そ、そうだな)
上条が影を操ってシャッターボタンを押そうとする。
しかしそこで待ったをかけた者がいた。
イギリスの女王様・エリザードだ。
「・・・・・・まったく、お前達はここがどこだか分かっているのか?」
カーテナ=セカンドの先端をくるりと回し、ドカリと床に押しつけた女王は呆れたようなため息をついていた。それを見て、騎士団長と神裂火織、ウォルターがうんうんと頷いている。そうだそうだ、言ってやれ言ってやれ、という感じに。
だからエリザードはこう言った。
「ここは連合王国、女王の国だぞ? 主役の私を差し置いて撮影開始とはどォいう事だぁーッ!?」
「ああもう馬鹿めッ!! 他国の者の前で遠慮なくお祭り好きの魂を見せつけやがって・・・・・・ッ!! 今は作戦会議の時間です!!」
上条達の元へダッシュしようとする女王を、両手で頭を掻き毟った騎士団長が全力のタックルで阻む。ドタバタと転がる二人を見て呆れた上条の脇を、第二王女が肘の先でちょいちょいとつついた。彼女は目で語っている。馬鹿は良いからさっさと撮れ。
ピピッカシャッ、と薄いフラッシュと共にシャッターが切られると、床に押し倒されたエリザードが、ガバァ!! と絶望的な表情で顔を上げた。
「わあ撮りやがった!! ホントに私を除け者にしたまま撮りやがった!! やり直しやり直し、私も写るからもう一枚どうだろう!?」
カーテナ=セカンドをぶんぶん振り回して喚く女王だったが、三人のお姫様達は『やるべき事はやった』という表情を浮かべ、それぞれが元の位置へと歩いていく。
上条が呆れながら『作戦会議の内容は?』と問いかけると、エリザードは立ち上がり言った。
「ぎ、議題はフランスについてだ」
「フランス?」
「ユーロトンネルの事故が関係してるのか?」
「察しが良いな。その通り。五日前に起った爆破事故だ」
貴音の疑問に上条が再度確認を取ると、女王のエリザードは軽く頷く。
「イギリスとフランスを繋ぐ唯一の陸路であるユーロトンネルは、三本並んで海底を走っているはずなのだが、それが全部まとめて吹っ飛ばされた訳だ。私はこれを、フランス政府による破壊工作であると判断した」
「・・・・・・証拠は、あ・る・の・か・な?」
「あくまで判断であって、確証はまだないだろうな。おそらく
口を挟んだキャーリサに上条が答える。
「証拠が揃い次第、『こちら側』から行動するんでしょう? そもそも勝手な行動を取る人も居そうですけどね」
「それは自分の事を言ってるんですか?」
上条がポツリと呟いた最後の一言に貴音が突っ込む。
そして上条は何かが分かったようにニヤリと笑うと、そのまま部屋を出ようとする。
「・・・・・・どこへ行くんだい?」
「・・・ちょっくら散歩さ。そもそもインデックスが調査に向かうユーロトンネルの方には俺は行けないだろうしな。俺の場合、右手が邪魔だって言われそうだ」
上条はヒラヒラと右手を振りながら扉を開ける。その背中に待ったをかけたのがインデックスだ。
「とうま。絶対危ない事しちゃ駄目だよ!?」
「死なない男相手に何を言う。イギリスを観光してくるだけだっつの」
「それに、多勢に無勢になったら、零号解放すれば良いだけですし」
上条達はケラケラと笑いながら廊下に出て行った。
え。マジでする気ですか貴音さん。
「冗談に決まってるでしょう。する訳無いですよ」
彼が本気なんですけど・・・。
「え? いやまさか・・・」