幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
全話のまとめ
上条当麻
かみじょうとうま
「『見せ場だけは』全部、俺とアイツで山分けさせてもらうぜ!!」
「さぁ、遊ぼうぜ大天使! 地獄の底で、天空の楽園で、現世の中心で、宇宙の闇の中で。素敵なパーティー踊ろうぜ!」
プロフィール
年齢:15歳
身長:175cm
存在:人ではなく、神でもなく、悪魔でもない。一言で言うなら人外。(自称ただの神上統魔にすぎないナニカ)
学園都市のとある高校に通うレベル0(無能力)の平凡な(?)男子高校生。
父は上条刀夜、母は上条詩菜。
人物
根っからの性格はドの付くほどお人よしかつ世話焼きであり、目の前で困っている人がいればどんなにハイリスクでも、それが敵対者であっても全力で救済しようとする。
だが、とあることが原因で歪んでしまった現在の性格は、ドの付くほど外道で、とある人物から「息をしてちゃいけない人種」と言われたことも。
『仲間? 何それ美味いのか理論』を掲げ、大抵のことは自分一人でやれるため、他人に助力を求めず、助けを求める敵にも容赦しない。男女の区別をつけず向かってくる敵には例え女子供だろうと容赦はしない。
基本的に敬語を使わない方なので、目上の相手にもため口で話すうえ、煽ったり貶したり辱めたりを平気でする。
不幸体質
先天的に何らかのトラブルに巻き込まれやすい不幸体質で、「不幸だ」が口癖。そのために荒事に巻き込まれることも多く、年齢に比して潜った修羅場は意外と多い。
幼少期には陰湿ないじめに遭い大人達からも疫病神と忌避され、命に関わるような出来事や見世物扱いされる事もあった。それを危惧した父・刀夜により、「迷信を信じない科学の街」である学園都市に送られた。
現在でも不幸ではあるが、むしろ不幸の避雷針として級友達から重宝されたり、「不幸だからこそ、面白いことに巻き込まれて退屈しない」として自分の誇りとしている。
能力
無能力者という扱いではあるが、それは学園都市の計測器が計測できないだけであり、超能力や魔術などの異能の力を無効化させ、なおかつ複製反映させる能力「
ただし普段効果が適用されるのは右腕の手首から先だけであり、銃や通常兵器などには無力、常時発動する異能には効果がなかったり、異能の定義が曖昧だったり、あまりにも膨大な量を受けると処理が追いつかなくなるなどの欠点も多々ある。
だがそれでも異能の力に対しては『究極のアンチ』『切り札』と呼べるほど強力であり、理論上は神すらも打倒できることになる。
『
左手にも何かがあるようだが・・・?
身体能力
肩書は普通の高校生ではあるが、拳一発で空気を叩き潰し、普通と名の付く
合気道を本流とした独自の武道を使っており、幻惑的な歩法であったり、空中での二段、三段ジャンプをやってのけたりする。因みにまだ全力ではない。実力が天元突破しているのはどうしようもないところ。
頭脳
進学レベルとしては凡庸な学校(とある高校)に通っており、そこで全教科満点の実力を保持している。さらに、頭の中に禁書目録の持つ十万三千冊の魔道書を複製して記録するという所行もやってのけたため、知識量は常人を遙かに上回ると思われる。
さらにとっさの際における判断力や機転にも優れており、それまで全く知識のなかった魔術師に対しても相手の魔術を使う癖や、打ち消したときに流れ込む複製情報から攻略糸口を戦闘中に編み出すなど離れ業もやってのける。
対人関係
傍から見ると異常な数のフラグを立てまくることでも有名。
ただしそれは中学生までであり、高校に上がって時が経つにつれて、だんだんと生来の性格が戻り、人格は破綻。相手にフラグを立てるどころか逆に怖がらせてしまうことも。
『榎本貴音』という恋人がいる。幼少期より共にいる幼馴染みで年上で先輩で同学年で同級生。気になるタイプ、と言うより積極的に関わって言ってしまうのは「手のかかる面倒臭い女」好きなタイプは『榎本貴音』とべた惚れである。
カミやん病
クラスメートの土御門元春が命名。
上条に救われた相手にはフラグが立ち、そげぶされると更正され自身もフラグを乱立するようになるというもの。
いずれにしても実質上条の味方になる(例外もあり)ので一種の勢力とも言えるほど大規模。
さらにその大半は魔術サイド・科学サイドいずれかにおける実力者。
偽海原(エツァリ)がこれを上条勢力と通称する。
記憶喪失
この世界に来た当時、上条はそれ以前のエピソード記憶を全て失っていた。だが、自身のもつ能力で失った記憶を思い出す事ができたのだが、生来の性格が戻るのを恐れた榎本貴音の手によってその能力を封印され、記憶を失っていた。
記憶喪失以後の彼は自らを偽善使いと自称し、卑下する一面があった。それはおそらく救えなかったヒロインがいた為。
だが、ベツレヘムの星の中でフィアンマによって右腕を切り落とされた際に能力が暴走、結果としてその封印と解くとこになってしまった。
榎本貴音
えのもとたかね
「私はまだ『術符の宣言』すらしてませんよ?」
「そのみじめな幻想・・・私がぶち殺して上げますよッッ!!」
プロフィール
年齢:16歳
身長:163cm
存在:人ではなく、神でもなく、悪魔でもない。一言で言うなら人外。(自称
人物
性格は明るく騒がしくとても悪戯好き。
誰に対しても賑やかな敬語で話すが、敵と判断したモノには容赦の無い毒舌を浴びせる。
上条を「ご主人」と呼んで慕い、忠誠を誓っている。が、まれに忠誠心はゼロになり、からかうことに全力を尽くすこともある。
ゲームが趣味で、ゾンビを撃ち殺すかなりグロテスクなオンラインゲームにハマっており、大会で全国2位になったほどの凄腕ゲーマー(上条曰く趣味がゲームなら特技もゲームという典型的なゲーマー)。ちなみにゲーム内ではかなりの中二病を患っており、ハンドルネームは「閃光の舞姫・エネ」
本人はテンションで付けてしまったハンドルネームや当て字サークルをかなり恥ずかしく思って、黒歴史として隠したがっていた。
ハッキングを得意とし、大抵の電子機器は全て侵入・支配可能。
容姿
黒髪をツインテールにしており、その毛先は切り揃えたようにぱっつんとしている。
時と状況を問わずして睡魔に駆られる病気(恐らくナルコレプシーだと思われる)を持っており、普通の高校の中にある養護学級に通っていた。
現在、というよりこの世界に来た時点でその病気は完治していた。
理由は後述するが、彼女にはもう一つの姿がある。
電脳版 癖毛のツインテールにヘッドフォンを付け、袖口の緩いジャージを着た青色の容姿をしており、両頬には金具のようなもの(本人いわく「鉄です」)が貼られている。 足の先はノイズのように欠けていて、胸はAAカップらしい。
その存在は電脳世界を自在に動けるAIに近く、電波回線を通じてどんな場所にも移動する事が出来る。
また他人とは画面越しに会話ができ、また携帯電話などの端末を接続すればそちらに移動することもできる。
能力
上条と同じく無能力者という扱いだが、それは中学二年生までの話であり、現在は世界を渡る前に持っていた、精神力に依存する 自分が自分を認識できる限り不老不死になれる「
応用法は、能力名から想像が付くとおり『どこにでもいてどこにもいない』の劣化版である。電脳世界と現実世界を行き来することを可能とするが、電脳世界にいる間は現実の肉体から意識がいなくなったり、容姿が変化してしまったり、死んでしまうと生き返ることは不可能だったりと、欠点はいくつかあげられるが、電脳世界に限定すると完全なる不老不死になれる。
また肉体が再起不能なまでに破壊された場合、電脳世界の姿のまま現実に飛びだしてくることも可能だが、相応の精神力を消費し、フルマラソンを全力疾走したぐらいの疲れが出るらしい。
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大分前に弓兵と対決させて欲しい的なコメントが来ていたのを思い出したので、聖杯戦争に人格破綻を起こした神上統魔を投入した話を書きます。
※独断と偏見と曖昧な原作知識で書きます。読みたくない人はブラウザバックボタンを押してください。ホント、文句は受け付けません。
―――それは、とある日の午後。始まりは上条が言った一言だった。
「・・・・・・何か、ある」
虚空を見上げてそう呟いた上条に、台所に立つ少女貴音はジトッとした視線を向ける。
「突然電波系になってどうしたんですか? 新しいキャラの開拓?」
「んなもん、俺には必要ねーよ。それより、何か面白そうな魔力のラインが・・・」
「面白・・・? へぇー。で? 行くの?」
興味なさそうに貴音は言うが、その理由は上条がその魔力に興味を持った時点で結論は出ていることを知っているからだ。
「ああ。遊んでこようかと思ってる」
「向こうの世界の人にも事情とか、命があるんだから。あんまり壊さないようにね」
「善処するさ」
「行ってらっしゃい」
「来ねーの?」
「ついてきて欲しいんですかぁ?」
「まぁ・・・な」
「・・・気が向いたら行ってあげます」
「そ・・・か。んじゃ、先いってる」
「ええ」
そう言って上条は目の前にある魔力の流れ、召喚の術式に干渉した。
「じゃ、少し準備してから、向かいましょうか」
―――上条達がいた世界とは別の世界線。
「よっと」
それなりに大きな爆発音と共に、上条当麻は床に着地した。体についた埃を払ってから周りを見ると、それはもう無残な部屋だったものしか残されていなかった。
(無理矢理割り込んだ弊害かなぁ・・・。ま、いっか)
ほどなくして、上条の居る部屋の前に三人の人間の気配がした。
(大人二人と子供一人・・・? 子供の方が俺のマスターか? んん? 普通じゃねーな、このマスター・・・!)
と、まるでC4でも爆発させたかのようにドアがけたたましい音とともに開かれた。
「ほら、開いた」
「リ、リズっ! 貴女っ、なんてことをっ!!」
「どうせあちこち壊れてる。これぐらい、今更」
「そういう問題じゃないっ! 御館様の居城を傷つけるなど───っ」
姿を現したのは二人の女性。シスターのような、メイドなのか良く分からないが、統一された恰好をしていて、姉妹なのかケンカもどこか仲が良さそうに見える。
「二人とも、どきなさい」
その場に凛とした声が響いた。二人の女性が左右に身を引き、その間からドレスに身を包んだ小柄な少女が姿を現す。
「―――初めまして
上条当麻は、今ここに
―――アインツベルン城。
「召喚に失敗するなど、アインツベルンの人間のすることか!」
「まったく、親が親なら子も子という訳か。我等の期待を悉く裏切りおって!」
自身に向けられた侮蔑、嫌悪、憎しみ。ありとあらゆる負の感情をぶつけられても、イリヤスフィールは無表情で聞いていた。しかし『親』という単語が出た瞬間、僅かに体が震えたのをバーサーカーは見逃すことはなかった。
(あーあーイヤだねホント。こういう人間のクズって始末して良いのかね?)
バーサーカーは霊体化と同じ効果を得ることが出来る能力を使って人間の意識から外れた状態で、彼等に近づいていく。
「聞いているのか!? 貴様は我等が悲願を達成する為に造り上げし人形なんガハッ?!」
「・・・人形? 貴様等は今私のマスターを人形と言ったのか? あれほどまでに立派に生きている少女を、自らの意思を持って立派に立っている人間を。意思を持たず生きてもいない。人形と、そう呼んだのか」
「も、文句があるのか! サーヴァント!」
「大アリだ。大アリだよ
そう言ってバーサーカーは一度イリヤスフィールを護るように立つと、その場の全員に脅しをかけイリヤスフィールの後ろで姿を消した。すると先程までの威勢は何処にいったのか、アインツベルンの人間は恐怖の表情でイリヤスフィールを……その後ろに居るバーサーカーを見ていた。
上条当麻が参戦したFate/stay night
(ほむん・・・異常なし。平和なものだねぇ)
バーサーカーはアインツベルンの城壁の上に立ち、そびえ立つ森を見下ろしていた。既に日は沈み、時刻は次の日へと変わろうとしていた。今日も昨日と変わらず、何も異常はない。
戦闘狂として上条が召喚されてから一月半の時間が流れた。上条とイリヤスフィール、そして付き人のメイド二人は既に聖杯戦争の開催地たる冬木市に来ており、イリヤスフィールの根城たるアインツベルン城でただ毎日を無駄に過ごしている。
バーサーカーには、イリヤスフィールが聖杯戦争を勝ち抜く気がないように思えた。召喚を失敗したからか、神上の統魔という正体不明なサーヴァントを召喚したためか。理由は定かではない。しかし、それで彼がイリヤスフィールに召喚されたという事実は変わるわけではない。
いずれこの城にもサーヴァントの襲撃があるだろう。それ故、バーサーカーは門番としてサーヴァントを迎撃するのみに重鎮を置いていていた。
つまるところ。ここに来て以来、昼夜問わずバーサーカーは見張りをしていた。
(サーヴァント。ってのが一般的にどれほどの強さなのかは分からないが・・・。まあ、負ける気はしねぇよな)
と、ここに来て一ヶ月半。変わらぬ景色の中に見慣れないものを発見した。青いスーツを纏い朱色の魔槍を持ったそれは、サーヴァントで言うランサーだろう。
(あー。ランサーって一番早いサーヴァントだっけ? どれぐらい早いんだ・・・? 実際にみてみりゃ分かるよな!)
バーサーカーは空中に身を躍り出させると、身に纏っていた赤い外套が風になびく。
重力を感じさせずに地面に着地した上条は、サングラス越しに値踏みするような眼で視線の遥か先に居るランサーのサーヴァントを眺めていた。
「・・・・・・」(どうでも良くなっちゃったなぁ・・・)
城の中にある自室の中、ベッドに横たわりながらイリヤスフィールは呆然と天上を見ていた。
聖杯の器として成功作でありながら、召喚に失敗したことにより失敗作の烙印を押され、聖杯戦争に赴いた。己の祖父からは二度とアインツベルンの地に足を踏み入れるな、と追放処分を言い渡されたのだ。
元より、イリヤスフィールは聖杯に興味はなかった。ただ一族の悲願だから手に入れる。それだけのことだ。しかし、それも『アインツベルン』の人間であればこその話。自らの存在価値すら失ったイリヤスフィールにとって聖杯戦争はもうどうでもいいこと。反感を抱いた自分のサーヴァントに殺されてもいい、そう考えていた。
(・・・?)
違和感を感じ、思わずイリヤスフィールは身を起こした。
イリヤスフィールが住むこの根城を中心として聳える森。その森に侵入者がやってきたのだ。気配や魔力を遮断していれば感知できないが、どういう訳かこの侵入者は己の存在を隠そうとしていない。さながら森林の中を吼えながら走り抜ける猛獣のよう。
それと同時に、自らのサーヴァントたる赤い外套の騎士が動く。城の門前に移動し、そこで動きを止めた。
まるで門番のように。
イリヤスフィールは眉を顰める。赤い外套のサーヴァントの行動に疑問を感じた。サーヴァントは聖杯を求めるために召喚に応じ、マスターとともに戦う存在。少なくとも、イリヤスフィールはそう思っていた。
自分のような戦う気がないマスターを護るために戦うなど、思ってもみなかった。今初めて、イリヤスフィールは己のサーヴァントに興味を覚える。生憎とこの部屋は豪華な造りなのだが、外敵の事を考えて外を見るための窓はない。真っ白な布地のパジャマを着たまま、イリヤスフィールは城門前を見渡せるところができる場所まで移動した。
「・・・・・・・・・よう」
まるで友に会うかのように、軽く挨拶をする青いサーヴァント。対する少年はサングラスと帽子で表情こそ読めないが、口角が釣り上がっているのだけは確認できた。
「まったく、なんでこんな所に住んでるんだ? 結界は張ってあるわ、ここまで距離はあるわ・・・・・・面倒極まりない」
「ならば来なければいいだけだろう。わざわざこんな所にまで文句を言いながらも出向いてくる。貴様の方が私には理解できないよランサー」
「いけ好かねぇマスターの命令でな。貴様は・・・・・・何のサーヴァントだ?」
「さて、ね。イレギュラークラスとでも言っておこう。私のクラスは『
「はっ。ならこれからやることに異論はねェよな!」
「闘争か? 良いだろう。全力でかかってこい」
ランサーは一瞬で間合いを詰め、槍を突きだした。が、バーサーカーの出した左手に触れた瞬間。空間に固定されたかのように槍が動かなくなった。
「なっ!?」
「残念だったなランサー。俺に得物を持って挑んだことがお前の敗因だ」
「くっ。・・・チィ!」
追撃をしなかったバーサーカーに向けて、ランサーは電光石火の如く槍を放った。が、そのどれもが素手で捌かれなおかつ威力まで削られてしまった。
「このまま勝てると踏んだが・・・・・・いや、中々どうして」
愉快そうにランサーは笑った。いや、実際に楽しいのだろう。
「いいぜ、訊いてやる。テメェ、何処の英雄だ?」
「聞いても分らんだろうから、教えるのは止めにしておくよ。しかし、貴様はわかりやすいな。槍兵には最速の英霊が選ばれると言うが、お前はその中でも選りすぐりだ。これほどの速さは三人といまい。加えて、獣の如き敏捷さと言えば恐らく一人だけだ」
「―――ほう。よく言った」
瞬間、殺気が膨れ上がった。バーサーカーの言葉は何かしらランサーの地雷を踏んだらしい。ランサーは槍を構え直した。地面へ切っ先を向け、無駄のない構えに。
「ならば喰らうか。我が必殺の一撃を」
「知ってるか? 必殺って、必ず殺すって書くんだぜ」
ランサーは更に後ろに跳躍した。恐らくバーサーカーのリーチを気にしての行動だが、その距離は槍を放つという位置ではない。
「手向けだ。受け取れ」
100m以上はあっただろう距離を、ランサーは一瞬にして半分まで詰める。そしてそのまま大きく上空へ跳躍、投擲体勢に入った。
「―――
ランサーは真名を開放する直前、目下に居るバーサーカーを見た。全身赤づくしの彼は得ランサーがいる方を見ようともせずに、ただ笑っていた。
何をするのか、どうやって戦うのかランサーにはわからない。しかし、だからといって己が持つ槍が破れるはずがない。
「
絶対なる自信を込め、真名を開放した。放たれた魔槍は標的目掛けて一直線に向かっていく。
「宝具・・・か。
口角を釣り上げたままバーサーカーはまるで身を守る盾にするかのように右手を槍に向け、言葉をつむいだ。瞬間。右手の甲に浮かんだ紋と同型の紋様をもつ盾が出現し、迫り来る死の槍を空中に停止させた。
「流石に
そう言って笑うバーサーカーの右手にはいつも通りの力が宿っていた。
瞬間。盾が消失し、再度バーサーカーに向かって迫り始めたはずの槍は、先程近接戦闘の時と同じように空中で動きを停止。真名解放以前の状態に強制的に戻されていた。
持ち主の手元に戻った槍をキャッチし、地に降り立ったランサーはバーサーカーを凝視していた。
「なるほどなるほどゲイボルク。私の予想は当たっていたようだ。そして私を殺せなかったその槍は、必殺の一撃ではなくなってしまったことを覚えておけ」
嫌みったらしく口角を釣り上げ、馬鹿にするような言葉遣いでバーサーカーは言う。
しかし、その言葉はランサーには届かない。
絶対なる自信を持って放った己の宝具を防がれたこと以上に、ランサーは全力で戦えないことを今更ながら忌々しく思った。頭の中でマスターを罵り、煮えたぎった精神を静める。
「なあなあ。今日はここらで終いにしねえか?」
「うん? そろそろ門限か? なら早く帰らねばならんだろう」
馬鹿にしたようなバーサーカーの言葉を無視してランサーは背を向ける。
「ああ、それと―――」
森に向かって走り去ろうとした瞬間、ランサーは何かを思い出したかのように顔だけをバーサーカーに向けた。
「貴様の心の臓。必ず貰い受ける」
その言葉を言い残し、ランサーは森の中へと消えていった。
「生憎、私の命は数百万あるんだがな・・・」
バーサーカーはサングラスをかけ直し、帽子の位置を確認すると、外套についた埃を払う。さて、一休みするかと気を抜いたところで、背後の門が開く音を聞いてそちらを見た。
出てきたのは真っ白な服一枚を着たイリヤスフィール。今までのような無表情ではなく、純粋に驚いた顔でバーサーカーの顔を見ていた。やがて、ゆっくりとバーサーカーに歩みより、戦いでボロボロ(どことなくカッコイイ)になった外套を掴んだ。
「―――バーサーカーは、強いね」
ぽつり、と呟かれた言葉。恐らく先程の戦闘を何処かで見ていたのだろうとバーサーカーは推測した。
そういえば、とバーサーカーは召喚された時の事を思い出す。ヘラクレスかと問われ、違う、と答えた。ただそれだけがバーサーカーとイリヤスフィールが交わした言葉。
「じゃなきゃ戦闘狂など名のれんさ。俺は強い奴と戦いたいだけの存在だからな。英霊ですらない」
「・・・・・・・・・うそ」
「マスターに嘘をついてどうする。現にこの身は英霊と呼ばれたことは一度も無い」
「・・・・・・信じられない」
それは何に対しての信じられないだろうか。英霊でもない存在が召喚の儀で呼び出されたことか、それとも英霊を圧倒する実力を持っていたことか。
恐らく両方だろうとバーサーカーは当たりをつける。
「今更だがイリヤスフィール。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。我がマスターよ。お前のことはなんと呼んだら良い」
それまで驚きの顔を浮かべていたイリヤスフィールだが、バーサーカーの言葉を聞いた瞬間、マスターとしての顔になった。
「好きに呼んで・・・と言いたいところだけど、気が変わったわ。イリヤと呼んでちょうだい」
「ふむ。イリヤ・・・か。良い名前じゃあないか。
「あなたは?」
「サーヴァント・
「なんかスゴそう」
「ああ。実際に俺はスゴいからな。何でも出来る。して欲しいことがあったら言ってくれ、令呪無くともご命令には従います
「じゃあ、お願いしようかしら」
「何なりと」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・」
イリヤスフィールは無言で夜空を見上げる。数多の星が瞬き、とても綺麗な夜。この日を境にして人外同士による戦争が始まるなど、誰が想像しえようか。
「こんな時間にお出かけか。危機感がないか、よほど自分のサーヴァントに自信があると見える。ん? 何故レインコートを着た少女が居るのだ?」
彼女の側に、楽しそうに笑いながら一人の男が現われる。
今更ながら見る人が見れば吸血鬼アーカードのコスプレだと言わんばかりの帽子とサングラスと赤い外套。
どのような事がおころうと彼女を護れる位置におり、その視線は遥か先の眼下に居る衛宮士郎と遠坂凛に。そして彼女の背後に佇む霊体となったサーヴァントと雨合羽を羽織った奇妙な格好の人物に向けられている。
「一ヶ月・・・・・・か。長かったね」
「ふむ。意外と早かった気もするぞ」
「そう・・・だね。トウマと過ごしてたらあっという間だった」
「さて、彼の家で帰宅を待つとしよう」
「ええ」
イリヤを優しく抱きかかえ、上条は空中に身を投げだした。
ふわり、と重力を感じさせずにトウマは着地する。私はゆっくりと地面に降ろされた。
彼の腕に抱かれるのは嫌いじゃない。優しさが、伝わってくるから。
なごり惜しいものの、早く準備をしなければならない。衛宮邸の門前まで歩く。塀に囲まれた大きな家。
エミヤキリツグの・・・・・・家。キリツグはここでどう過ごしたのだろうか。その息子であるシロウと、どう過ごしたのだろうか・・・・・・。
───いけない。感傷に浸るためにここに来たんじゃなかった。さっきまで考えていたことを思考の隅へ追いやる。気を取り直し、門前を基点に二種類の結界を張る。
「出来たわ」
「流石だな、マイマスター。後は帰還を待つだけか?」
「ええ。早く帰って来て欲しいわね」
そう言うと、トウマはどこから取り出したのか椅子に座り込んだ。
どこか堂々としすぎている、というか余裕の表情でいつも笑っている。戦闘狂、そう自己紹介してくれた通り、強敵と相まみえるのが楽しくて仕方ないのかもしれない。
彼の、トウマのことは正直あまりわからない。私に召喚される前過ごしていた世界のことを話してくれたし、この一ヶ月の間、私の為に色々動いてくれた。まるで執事のような。
何故ここまでしてくれのか・・・・・・私では考え付かない。確かなことは、トウマは私を護ってくれるということ。
私は、それだけで――――――
「・・・・・・ん」
思考が中断された。結界内に二人の存在を感知した。
・・・・・・間違いない、シロウとセイバーだ。
「来た」
短くそれだけを告げる。心臓が早くすごい勢いで動いているのがわかる。これほどの興奮を覚えたのは久しぶり。やがて視界に二人の人影が映った。
「こんばんは、シロウ」
親愛を込めて私はその名前を口にした。
「え、えっと・・・・・・何処かで会ったっけ?」
「いいえ。会うのは今日が初めてよ。もっとも、私は昔から貴方の事を知ってたけど」
「シロウ、アレはマスターとサーヴァントです。暢気に話している場合ではありません」
「それがシロウのサーヴァントなんだ? 外見に合わず血気盛んね」
セイバーは既に剣を抜いていた。
恐らく結界が張られていることには気づいていたのだろう。だが、抜かれた剣は刀身が見えず、緑の風が渦巻いているのみ。
それは彼女の本当の剣を隠すための鞘。聖剣を不可視の剣と化す宝具、
「お、おいセイバー!」
「もっと話していたいけど・・・・・・時間がない、か。やっちゃえバーサーカー」
「
その言葉を合図に、両手に拳銃を持って上条は飛びだした。
同様に飛びだしたセイバーと衝突。あらゆる角度から放たれるセイバーの剣を拳銃で受け流していく。
ランサーの槍と違い、刃の向きが視認できないため迂闊に手を出せないでいた。
周りの皆はそう思っていた。だがまぁ、彼が持っている得物を良く考えてみて欲しい。
金属音のすぐ後、銃声が響いた。上条の左手に握られたリボルバーが火を噴いていた。撃ち出された弾は何の変哲も無い鉛玉だが、この戦闘中に狙いを定めて打つなど、相当な動体視力と反射神経がないと無理だろう。
しかし。
セイバーは一瞬のうちに間合いから離れて右方に跳躍、銃弾は外れた。
先程までの激しい争いとは違い、静寂がこの場におとずれた。
「もう、要らねぇな」
上条はそう言って両手に持った銃を後方の地面に放り投げる。
「もう? とはどういう意味でしょうか」
「銃身から伝わる衝撃で、刃の向きは大体分かる。その時アンタの剣の握り方も覚えた。もう、素手でいける」
「そんな甘い考えで、私には勝てません」
剣を構え直し、再び迫り来るセイバー。だが、相対する上条は見えないはずの剣に向かって左手を伸ばす。
瞬間。ランサーの槍と同じ現象がセイバーの剣にも起きた。
剣が動かなくなったのに驚愕したその一瞬があれば攻撃に転じることは可能。上条の鋭い一撃が、セイバーの体を吹き飛ばす。
「セイバー!!」
「あぁ、先に言っとくぞ。今のは宝具でも何でも無い。言うなればアンタがセイバーとして使う“剣技”みたいなもんだ。っと!?」
側転とバク宙を組み合わせたような動きで、突然飛んできた光の矢を回避した。
(え、えぇ・・・何? 援軍? 同盟とか組んじゃったりしてるわけ? 面倒だなぁ・・・)
「さて、見たところ貴様もサーヴァントらしいが、クラスは?」
「バーサーカー。言っておくが狂戦士じゃないぞ。戦闘狂だ。理性もちゃんとある。所謂イレギュラーって奴だ。・・・外套の色が被ってんな・・・」
上条はそう言うと、自らが羽織る外套の色を何らかの方法で黒色に染め上げた。
「さぁ、来いよ援軍。戦いに狂った人外の、本領発揮はここからだ」
「ふっ。良いだろう。後悔するなよ」
赤い外套の男は両手に白と黒の剣を出現させると、上条に斬りかかる。上条はそれを触れただけで止めて見せた。
「くっ。なるほど、これは・・・・・・。まるで時間停止だな」
「アンタのクラスは? もちろんセイバーじゃあないだろうし、ランサーでもない。アンタはなんだ?」
「アーチャーだ」
「弓使えよ!? それとも何か? 俺と戦うのに弓は要らんと」
「そうは言っていない」
「ま、使わないなら使わないで良いけど、後悔すんなよ?」
上条はそう言うと、体を風のように散り散りにしてアーチャーに接近する。
(さっきのセリフから察するに、このサーヴァントのこの動きも戦うための技の一つという訳か)
上条はアーチャーの二刀をかわす・・・と言うより当たらない動きをしながら、攻撃。それも相手の力を利用した払いをかけていく。
一方のアーチャーは干将莫耶を投影し、同じく最大魔力を込め、地を這うようにして先程の夫婦剣を追わせる。投擲を終え、空いた両手に干将莫耶を投影。
残像を残し、弧を描きながら一組目の干将莫耶は上条の体を切り裂かんと飛来する。
だが、それはあっさりと両手の払いで弾かれ、干将莫耶は上空に舞い上がった。足を切断せんと飛来する二組目の干将莫耶は、元より捕えにくい歩法でかわされた。
「夫婦の絆は堅いぞ、バーサーカー」
そうしてアーチャーは最後の干将莫耶を投げた。上空にあった干将莫耶は、今しがた投げ放った干将莫耶と引き寄せあい、上条の前後から襲い掛かった。
干将と莫耶。二つで一つ。故に夫婦剣。互いは互いを引き寄せる。それは、離れていても必ず引き合う夫婦の絆の如く。
アーチャーは上条の姿を視界の端に捉えながら塀の上に跳んだ。
「残念。利用させてもらうぜ」
上条が両手を振るうと、全ての干将莫耶がその場で停止する。
何度か見た光景ではあるが、いざ空中で静止したのも目にすると驚きが勝るのか、イリヤ以外のその場の人間は驚きを顔に出していた。
「―――
だがアーチャーは冷静に塀の上に着地すると共に詠唱を唱え、無銘の弓と刀身が捻れ曲がった螺旋の剣を投影する。その矛先を上条に向けて。
いまだに空中停止したままの干将莫耶、それをやった上条は口角を釣り上げると。
「うりゃりゃららァ!!」
と、全部で四つの干将莫耶をアーチャーに向かって打ち出した。
「なにっ!? くっ。
回避と攻撃を同時に行うという離れ業をして見せたアーチャー。真名が唱えられ、螺旋の剣を放たれた。それは高速の速さで一直線に突き進む。例え障害物があろうと、一切を粉砕し目標を削る必殺の一矢。
だが、あろう事か上条は、その矢の運動エネルギーを衛宮士郎や遠坂凜がいる場所へ向けて転換して見せた。その技一つで。
だがまぁ、
「そろそろ夜も遅い」
上条はそう言うと一枚のカードを取り出した。
「スペルカード宣言。幻爆「イマジンブレイカー」」
瞬間。衛宮家の庭で爆発が起こった。
上条はイリヤを抱きかかえてこの場から全力で遠ざかる。
アインツベルン城に帰る道中、一度だけ眼を開き先程まで居た戦場を見た。そこには回復したセイバーと、赤い少女に怒鳴られている衛宮士郎の姿があった。
もう一度言います。文句は受け付けません。私はやりたいことはやりましたので。