幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
「おー。とうま、これがウワサの地下世界なんだね」
「地下街な、地下街。まあ確かに地上から土を掘り返して造られてるから『地下世界』でも間違いじゃねェけど・・・、これだけ明るいとどっかのビルの中の気もするな」
はしゃぐインデックスに上条は自分の意見も織り交ぜながらツッコミを入れる。
学園都市には地下街が多い。駅を中心として、各デパートの地下を繋げ、迷路のように展開されている。
「とりあえずメシでも食いますか。インデックス、なんか希望とかあるか? あー、高いトコと行列ができるトコは禁止な」
「そんな所行かなくてもいいよ。安くて美味しくて量が多くてあまり人に知られていないお店がいい」
「・・・・・・、それはそれで探すのが難しそうだけどな」
「あるんでしょうかね・・・。この街にそんな店・・・・・・」
貴音がポツリとつぶやくが、上条がふと思い付く。
「ほぼ食い放題の店なら知ってる」
「ほんと!?」
と、いう事で移動する事になった。
「―――普通のお店だよ?」
「ところがどっこい。二分で巨大料理三杯食えたらそのお客と連れの客の料理がタダ。というお店です」
「インデックス。遠慮せずに高速で食ってやってくださいね!」
「任せてほしいかも!」
上条達は店に入るとまずインデックス以外の三人の料理を頼む。
「えーと。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「・・・大食いチャレンジ。やらせて下さい」
「やるんだよ!」
インデックスがそう言って箸を握る。奥の調理人達も燃え始めたようだ。それもそのはずこのシスターさんがもし完食できたら、料理がタダなのだ。
「それでは」
上条達は別テーブルでその様子を食べながら見ていた。インデックスのテーブルに置かれた大きなどんぶり。あれはまさかインデックス用に作られたのではないだろうかといったような大きさだ。
「始めっ!」
いただきます。とも言わなかった。インデックスはおあずけされた犬のように全力で消費していく。三〇秒も立たないうちに一杯食べ終わった。
「うわー。アレ本当にシスターかよ・・・」
「グリモアの管理を任されているだけありますね。ただの腹ペコキャラじゃないって訳ですね・・・」
「すごいね・・・、インデックスちゃん」
「結局、インデックスにあれだけの料理を食べさせたかったって訳でしょ? ご主人」
「ああ。あれだけ食えばインデックスも満足するだろ」
「ごちそうさまなんだよ!」
一分四十五秒。一五秒もの余裕を残してインデックスは食べ終わった。食べるのに三〇秒だから、おそらく一五秒は食器交換の時間だろう。
「・・・・・・うわー。暴食って確か七つの大罪じゃなかったでしたっけ」
「どうみてもアイツには適用されてないだろ」
上条は呆れながらそう言う、しかもインデック社お代わりを要求している始末だ。時間制限が無かったら彼女はどこまで食べられるのだろうか。
「・・・よし、せめて俺達の分は払って帰ろう」
「・・・・・・ですね」
「あ、あのお客様。決まりですので」
「「いいぜ、そんな事が決まってるっていうんなら・・・その幻想をプライドごとぶち殺す!!」」
上条と貴音は口をそろえてレジカウンターにお金を置いてインデックスを連れて店を出る。
「ふぅ。食った食った」
「結構食べましたねー。ご主人一応ですけど」
そう言って貴音が指し出すのは赤黒い液体が入ったペットボトル。
上条は渋々受け取って舌打ちを一回して口に含む。
「とうま。何飲んでるの?」
「人道的に飲んじゃいけないもの」
「そんなものとうまに飲ませてるの!? たかね」
「そうしないとご主人が死ぬと言ったらどうします?」
「・・・・・・許すかも」
「よろしい」
完全に風斬を置いてきぼりなのだが上条達はそれでも風斬がいる事は忘れていない。それなりに気にしているし、話しかけてもいる。
「ご主人。遊ぶと言っても限られますけど、何をするんです?」
「そうだな・・・地下街だからゲームセンターとかが主流なんじゃないか? カラオケとかボーリングとか、アウトドアはあまりないだろ」
「
貴音の言葉に上条は苦笑する。そして、インデックスと風斬が止まっているのを発見した。
「おい。どうしたインデックス」
「ご主人。テレパスです」
「・・・・・・なるほどね」
上条は貴音からテレパスの内容を聞かせてもらった。要約すると危険なテロリストがいるから逃げろ。らしい。まあ気付かれないように、がネックらしいが。
「・・・・・・遊びは終わりみたいだな。インデックス」
「・・・て、テロリスト? なんか怖いんだよ」
「・・・・・・大丈夫。だと思いたいんですか・・・。!」
「貴音。感じたか?」
「ええ。西洋の術式ですね」
「相手はどうやら魔術師のようだな・・・」
上条がポツリと呟いた瞬間。
『―――見ぃつっけた』
それは女の声だった。
ただし、何もないはずの壁から聞こえた。
上条と貴音は最初からそこを見ていた。壁に張り付いた掌サイズの泥の塊、その中心に埋め込まれたようにある玩具のような人の目。
泥の表面がさざ波のように揺れ、その振動が音を作り出す。
『うふ。うふふ。うふうふうふふ。禁書目録に、幻想殺しに、虚数学区の鍵。どれがいいかしら。どれでもいいのかしら。くふふ、迷っちゃう。よりどりみどりで困っちゃうわぁ』
「・・・・・・狙いは俺たちかよ・・・」
上条のその声が届いていたのかは分からない、だがその声は
『―――
場末の酒場でも聞かれないような粗暴な声色へと切り替わる。
上条はその泥に包まれた眼球を、射抜くように睨みつける。それと並行してインデックスは切り捨てる。
「土より出でる人の虚像―――そのカバラの術式、アレンジの仕方がウチとよく似てるね。ユダヤの守護神たるゴーレムを無理矢理に英国の守護天使に置き換えている辺りなんか、特に」
「俺も全く同意見だよインデックス。という事は、コイツがテロリストって訳だ」
『うふ』と、泥は笑う。『テロリスト? テロリスト! うふふ。テロリストっていうのはこういう真似をする人達を指すのかしら?』
水風船を割った時のように、音を立てて泥と眼球は弾け、壁の中に溶けて消えた。
瞬間。
地下街全体が大きく揺れた。
「おぉっ」
まるで嵐に放り出された小船のような振動だが、上条は楽しそうに声を漏らす。視界の端では、転びそうになったインデックスが風斬の腕の中にすっぽりと収まっている。
さらにもう一度、砲弾が直撃したような揺れが地下街を襲う。爆心地は遠いが、その余波が一瞬で地下全体に広がっている感じだ。
そのせいで亀裂が入ったのか、天井から粉塵のようなものが落ちてくる。
蛍光灯が二、三度ちらつき、全ての証明が同時に消えた。数秒遅れて、非常灯の赤い光が薄暗く周囲を照らし始める。
これだけ大きな攻撃をしたからだろう。警備員達が隔壁を下ろし始めた。そう、俺達は閉じ込められたのだ。まあ他にも逃げ遅れた人はいるが、
『さあ、パーティを始めましょう――――――』
ぐちゃりと潰れた泥から、女の声が聞こえた。すでに壊れた『眼球』の最後の断末魔、ひび割れたスピーカーを動かすように。
『―――土の被った泥臭え墓穴の中で、存分に鳴きやがれ』
さらに一度、一際大きな振動が地下街を揺らした。
そんな事があった後、暫く上条はじっとしていた。何をするわけでもない。ただ壁に寄りかかりボーっとしていただけだった。おもむろに見せかけタバコを取り出し、火をつける。
「・・・・・・、向こうはこっちの顔を確かめてから襲ってきたみたいだし、迎え撃つしかなさそうだな。インデックス、風斬とどこかに隠れてろ」
「とうまこそ、ひょうかと一緒に隠れてて。敵が魔術師なら、これは私の仕事なんだから」
「あ、そう? んじゃ任せるわ」
「・・・・・・え? と、とうま? こうそこは、危ないぞ。てきな感じで止めるんじゃ・・・」
「だってお前一度言い出したら聞かないじゃん。自分の都合を通すことに必死でさ、守られてる事に気付けてない子供だし? 一度痛い目に遭っといた方がいいかなって。ほら、親の加護がなくなった子供がどうなってるかっての俺、見てみたいし」
インデックスは何故か泣きそうな顔になった後、
「とうまも手伝ってー! 私一人じゃむーりー!」
駄々をこね始めた。
「おい。隠れてろって言ったのはどこの誰だよ」
「言ってないもん」
「言ったし、やっぱりお前一人じゃダメじゃん。ほら、経験豊富なお兄さんに任せなさい」
「・・・・・・・・・・・・ご主人」
「あ?」
貴音に呼ばれ、上条が振り返った時、手近な曲がり角から足音が聞こえた。
「・・・・・・二人?」
「ですね」
「・・・とうま? たかね?」
「・・・・・・あ、あの・・・・・・何だかよく分からないんだけど・・・・・・私が、手伝うっていう方向は・・・・・・ない、の?」
「ないね」
「ないです」
上条は『眼』を開こうかと一瞬迷ったが、あまり人に見られていいものでもないので、止める事にした。一番知られたら厄介な奴が来そうだからだ。
インデックスに抱えられている三毛猫が、鳴きながら何かから逃げようとしていた。
そして曲がり角の向こうから、女の声が飛んできた。
「あら? 猫の鳴き声が聞こえますわね」
「黒子。アンタ動物に興味無いんじゃなかったけ?」
「かくいうお姉様は興味がおありでしたよね」
「べ、別に私は・・・・・・」
「あらぁ。わたくし、知っていますのよ。お姉様には寮の裏手にたむろってる猫達にご飯をあげる日課がある事を。しかし体から発せられる微弱な電磁波のせいでいつもいつも一匹残らず逃げられて、猫缶片手に一人ポツンと佇む羽目になっている事も!」
「何故それを・・・・・・!? ってか黒子! アンタまたスト―キングして・・・・・・っ!」
曲がり角から現れた二人の少女は、上条達四人の姿を発見して足を止めた。言うまでもなく、彼女達―――御坂美琴と白井黒子は敵ではない。
「ちょっとそこの人! 見た所高校生に見えますけど、喫煙はいけませんわよ!」
「・・・・・・黒子。何もこんな時にまで・・・」
美琴が呆れ呆れそう言うが、黒子の指さす先の人間を見て驚愕する。
「アンタ・・・何して・・・・・・!」
「ん? ああ御坂か。ちょっとな」
「ちょっとじゃありませんの。身体を壊しますからやめて下さいまし!」
「初めて会った時も同じような事言ってたよな。
「・・・・・・?」
知り合いのような口調で話しかけられた黒子は少し暗い中で必死に顔を見定めようとして―――、顔を歓喜に染めた。
「当麻お兄様ですの!? こんな所で何をしていらっしゃったのですの?」
「は? ちょ、黒子?」
「ほら、始業式だけだったろ? だからちょっと外食してから遊ぼうかと」
「大きくなりましたねー。黒子ちゃん」
「貴音お姉様まで! ああ、お二人に逢えて黒子感激ですのっ!」
キャー、とかそんな効果音がつきそうな勢いで黒子は話す。と、美琴が耐えきれなくなったように黒子の肩を掴んで、
「ちょっと、どういう事か説明してよね?」
「あ、すみませんのお姉様。・・・・・・では、改めて紹介させていただきますの。高校生の上条当麻さんと榎本貴音さん。私にとって当麻お兄様と貴音お姉様は、私が風紀委員に入るきっかけをくれた人ですの」
「ジャッジメントに?」
「ええ。あの頃から当麻お兄様は面倒事に巻き込まれやすい体質だったらしく、幾度となくそりゃあもう幾度となくですの。この黒子を助けて下さいましたの」
「・・・・・・あの頃は面倒を避けるために風紀委員やってたからな・・・・・・」
「それですの! 私がやっとの思いで風紀委員に入ったというのに、当麻お兄様も貴音お姉様も居ませんでしたの! 三人で「ジャッジメントだ!」が私の夢でしたのに・・・」
「まあ今も腕章と免許は持ってるけど・・・。結局はなんだ、遊園地と水族館に一緒に行ったぐらいか?」
「花火大会も誘って一緒に行きましたよ?」
「ああん。覚えててくださって黒子感激ですの!」
「何? あんた等、そんなに前から知り合いなわけ・・・?」
「おい。ここでビリビリはやめろよ御坂。洒落にならねェから」
「・・・、ひょっとしてですけどお姉様? お姉様が言う“あの馬鹿”とは、当麻お兄様の事でしたの!?」
「え、ええそうよ! コイツが私の事ガキとか言うから・・・!」
「当たり前だろーが。お前は子供だ。頭がどれだけ良くたって人生の経験値はそこにあるからな」
「・・・・・・あ、それと。もうビリビリできませんよ? あなたのAIM拡散力場は掌握したので!」
「・・・・・・あー! あん時のメイド少女!」
「誰がメイド少女ですか! 良いですか? これは罰ゲームでしかたなく呼んでただけでしてね! 今ではそっちの呼び方の方が妙にしっくりきてしまってると、そう言う訳なんですよ! ねェ? ご主人!」
なにおう! やりますか? と二人が睨みあう。が、上条達は知った事ではない。
「さて、どうする? 俺達は閉じ込められたんだろ?」
「その前に質問なんだよとうま。たかねと言い合ってるあの品の無い人は誰? クールビューティーに似てるけど、別人だよね?」
「んーまあな。何だろう姉?」
「双子の・・・ですかね」
「また厄介事ですの?」
「ん、まあな」
黒子はため息を一つつくと上条の前に立ち、顔を指さして言った。
「いいですの当麻お兄様。もしまた首を突っ込むのであれば、絶対に腕章をつけて下さいまし!」
「あーはいはい。一般人は巻き込まれるな。って事ですねー」
「とうま? まさか本当にやるつもり?」
「当たり前だっつの」
上条はそう言いながら『影』から取り出した腕章を右腕に付け、もう一つを貴音に投げる。
「貴音。それ着けとけ」
「・・・・・・分かりました!」
「ちょっ、まだ話は終わってないわよ!」
「黒子。御坂とインデックスと風斬を頼む」
「ええ。終わり次第向こうの方のみんなも救出しますの」
黒子が御坂・インデックス・風斬の肩に触れ、消える。どうやら三人同時テレポートができるらしい。
「成長してんだな。アイツも」
「目指す背中がここですからねェ・・・」
上条の背中をバシバシ叩く貴音。その時上条が口を開く。
「貴音、お前もう気付いてんだろ。自分の体の変化に」
「ええ、もちろんです。幸か不幸か分かりませんが、もう学園都市は私の手中です!」
「あ、そう」
「あ、でも安心してください! ご主人の為にしか使いませんので」
「お前ホント下僕属性強いよな。猫っぽいのに」
「悪いんですか? 従順な下僕で。猫もデレればこんなものですよ」
「・・・・・・デレ期が長すぎんだろ」
上条は呆れながらそう言うと、貴音を引き連れて走り出した。