幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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学園都市 伍 Science_Worship. Ⅴ

上条はバイクから降りて、薄明座跡地の敷地へと足を踏み入れる。

建物は遠目に見ても巨大な事が分かるのに、正面にある駐車場は職員専用かと思うほど極端に小さかった。駅の近くだし、すぐ隣に立体駐車場があるからだろう。一応、二メートル程度の高さの金属板と鉄パイプで敷地は完全に囲まれているのだが、作業員が行き来するための出入り口が強引に広げられていた。

 

(さってと、連中は中かな。外は暑いし)

 

上条は薄明座の入場口へと目を向ける。両開きのガラスのドアが五つも並んだ大きな出入り口だ。板や何か塞いである様子もない。廃墟というより休業中みたいな感じだ。

と、そんな事を考えている上条の前で、五つ並んだドアの一つが手前に開いた。

 

「おろ?」

 

上条は思わず声を出した。

中から出てきた三人の男女の内、二人は見覚えがある。インデックスとステイルだ。

最後の一人―――インデックスより幼そうな外国人の少女だけ、上条は見覚えがない。着ている服は、バス停で出会ったシスターさんと同じ黒い修道服だ。ただし、この少女はファスナーを外してスカート部分のオプションを切り取っているのか、極端なミニスカート状態になっている。足元へ視線を移すと、なんと靴底が三〇センチもある木のサンダルを履いていた。

と、インデックスは上条の顔を見るなり、

 

「とうま、そこのシスターさんとはどこで会ったの?」

「・・・・・・、バス停だよ。で? ステイル。俺がここに呼ばれた訳は? わざわざ手の込んだ誘拐ごっこまでかましてな!」

 

叫ぶ上条に、ステイルは面倒臭そうな顔で、

 

「ああなんだ。狂言だっていうのはバレていたんだね。君をここへ呼んだのは人捜しを手伝って欲しかったからだよ。インデックスはそのための囮に使っただけだ。ちなみに現場責任者はこちら。ローマ正教のシスター―――」

 

ステイルが適当に煙草の端で指すと、厚底サンダルのシスター少女が『ど、どーもです』と頭を下げた。日本人はしょっちゅう頭を下げる、という事前情報は知っていたのだろうか、動きが大袈裟すぎてホテルマンみたいに見える。ステイルのセリフが途中で切れたのは上条が手刀を叩きこんだからである。

と、自己責任とはいえ、少女の名前も知らない結末に至るのはしゃくなので、上条は自己紹介をする事にした。

 

「Ciao, carino incontrarLa. È Kamijo Toma. Lei?(こんにちは、初めまして。上条当麻です。貴女は?)」

「え、あ。アニェーゼ=サンクティスです・・・」

「・・・・・・あれ? もしかして日本語できる系? ま、いいか」

 

自己完結しかけた上条に詰め寄るようにインデックスが声をかける。

 

「とうま、イタリア語できたの?」

「まあ、一応世界各国の言語をナマリなしには喋れるかな・・・・・・。で? 人捜しって誰だよ。あいにく一人なもんでスキルは大幅にかけますぜ」

「ああ、大丈夫大丈夫。君の隣にいるシスターをこっちに引き渡してくれれば良いだけだから」

 

はい? と上条は目を点にする。

 

「だから、君の隣にいるシスターが行方不明の捜し人だよ。名前はオルソラ=アクィナス。はいお疲れ様。いやぁ良く頑張ってくれたね。上条当麻、君はもう帰って良いよ」

「・・・・・・、悪い。そりゃ無理だ。オルソラ・・・だっけ? アイツは今学園都市の保護下にある。例え同郷の仲間だったとしても完全な安全が確認できるまで引き渡しはできねーよ」

 

『え!? とうま!?』と叫ぶ少女を無視して上条は真っ黒シスターお姉さん改めオルソラ=アクィナスの方へ振り返って、

 

「・・・・・・そういや、お前誰かに追われてるって言ってたけど、この『人捜し』と関係してたのか? 安心しろ。俺は一度口にした事は貫き通すから」

 

上条が声をかけると、オルソラは何故かビクンと体を震わせた。それは抑えようとして失敗したような、小さな震えだった。

上条は誰にも見えない角度で唇の端を吊り上げると、息を吐くように一つ笑った。

 

 

 

『いやいや。そうそう簡単に引き渡されては困るよなぁ?』

 

不意に、野太い男の大声が聞こえた。

声は不自然にも、上条の真上から飛んできた。上条達が夕空を見上げると、七メートルほどの高さで、ソフトボールぐらいの大きさの紙風船がふわふわと浮いていた。

紙風船の薄い紙がひとりでにピリピリと振動し、先程の男が声を作り出す。

 

『オルソラ=アクィナス。それはお前が一番良く分かってるはずよな。お前はローマ正教に戻るよりも、我らと共にあった方が有意義な暮らしを送る事ができるとよ』

 

瞬間。

鋭い音と共に、上条とオルソラを遮るように地面から一本の剣の刀身が飛び出た。頭上に意識を誘導させられていた彼等にとってはまさに死角からの不意打ちに近かったが、上条は違う。

 

「何かいるなとは思ったが、敵さんでしたかー」

 

と、軽い口調で刀身を根元から折り曲げた。

さらに二本、オルソラを囲むように、地面から剣が飛び出す。

飛び出した剣は、サメの背びれが海面を引き裂くように、地面を一直線に滑った。三本の剣がそれぞれ突っ切ると、地面はオルソラを中心とした、一辺二メートルの正三角形に切り抜かれる。

 

「あ――――――――ッ?」

 

重力の消える感覚にオルソラが恐怖というよりは戸惑いに近い声をあげる。だが、それが明確な悲鳴になるより早く、正三角形に切り抜かれたアスファルトごと、オルソラの体が暗い地下へと落下していく。

 

「天草式!!」

 

アニェーゼが叫んで手を伸ばそうとしたが、もう遅い。オルソラの体は暗い闇の底へと飲み込まれてしまっている。上条は慌てて穴の縁へ走り、忌々しそうに舌打ちする。

 

「下水道かよ・・・・・・ッ!」

 

頭上の紙風船は熱を帯びた、しかし要点を忘れない声で、

 

『ローマ正教の指揮官さえ追っていれば、オルソラ=アクィナスがどこへ逃げようが誰に捕まろうが、いずれはここまで連れて来られると踏んでいたのよ。まったく地下を辿って待ち構えていた甲斐があったというものよなぁ!!』

 

上条は状況が全く掴めない。

下水道に潜んでいたのは誰なのか。いきなりオルソラをさらった理由は何なのか。

しかし、これだけは分かる。

連中は、いきなり問答無用で刃物を使って人間を奪った。それも話を聞く限り、突発的なものではなく、事前に計画を立てて、ずっとずっとひたすらにチャンスを待ち続けて。

 

「おいこらぁ!」

 

上条は正三角形に切り抜かれた穴の中を覗く。暗いので遠近感が掴みづらいが、それほど高くはないと感じられた。彼は飛び降りようと穴へ向かって、

 

「待って! 駄目だよ、とうま!!」

 

インデックスが思わず叫んだ瞬間。

闇の中から、何十もの刃の光が閃いた。

夕日のわずかな光を照り返すのか、オレンジ色の光がギラギラヌラヌラと下水道の中で蠢いた。刀身の光を浴びて、地下に潜む者達の輪郭だけがうっすらと浮かび上がる。

 

 

その時、夕日よりも強い光源が穴の大きさに下水道を照らした。

 

 

とてつもない吸引音と共に、周囲の酸素が減っていく。原因は、穴の真上でまるでハンドボールでも投げるかのような状態で浮いた上条の右手に生まれた巨大な球炎だった。

ドッパア!! と、下水道の中に炎の津波が生まれる。その莫大な光量の中に降り立った上条は、周りを見渡して。

 

「チッ。逃げられたか」

 

当たり前といえば当たり前だ。体育会などで使う大玉サイズの炎球を持った少年が突っ込んできたら誰でも逃げるだろう。

上条は、下水道から計算して十メートルほど跳躍すると、紙風船を右手で潰す。

 

「オイ。テメェ一から十まで説明する気あんだろうな?」

「説明は、僕の方が求めたいぐらいだね」

 

ステイル=マグヌスは踏みにじるように答えた。

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