幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
オルソラの捜索を再開する上条と貴音。
と、上条達が観覧コースの曲がり角を曲がった所で真横から何者かに体当たりされた。
「!?」
店の陰からの完全な不意打ちだった。上条のバランスが崩れる。彼はとっさに足を引き、転ぶのを阻止する。
「おろ?」
体当たりしてきたのは、オルソラ=アクィナスだった。
何故か両腕を真っ白なガムテープで拘束され、口にも同じテープを張り付けた状態で、
「むぐー。むがむぐむむぐむーむーむぐぐむむぐむまむむむぐーむーむーむー」
「あー? むぐむぐ言って分かるか! しっかり喋りやがれっ!」
「口塞がってる相手に容赦無いですねー」
「大丈夫かー?」
上条は彼女の口を塞いでいるお札らしきものを右手の人差指でなぞった。関節とはいえ唇を触られたオルソラはびっくりした顔になったが、直後にお札らしきものが自然に剥がれたのを見てその一〇倍ぐらい驚いていた。
「あ、あの。あなた様はバス停でお会いした方でございますよね。でも、何で」
「言ったろ? お前は今学園都市の保護下にあるって。とりあえず危険な場所から出ねーと」
「えーと、つまり?」
「助けに来たって言ってるんですよ。あ、そう言えばご主人」
「んだよ」
「ケルト十字、下さい」
「は? いや別にいいけど・・・・・・」
上条はポケットから取り出した十字架を右手で貴音に放る。
「おとと。さて、こんなものご主人に渡すとどうなるか教えてあげます」
「は? おい貴音、何する気だよ」
「はいはーい。オルソラさーん。動かないでくださいねー」
「勝手に着けたら怒るだろ・・・。それイギリス清教の物だぜ・・・って嬉しいの?」
「・・・はい」
上条はモコモコした己の両手を見つめて。
「これ、本当に意味あるの?」
「ありますあります。その手袋は大事です」
「あ、そう」
そして、上条が外を覗こうとした時、
ゴン!! という鈍い音を聞いた。
店の向かい―――円形の観覧コースの方からだ、と上条は思った。が、慌てて飛び上がる前に、視界に何か映った。ヒュン、と夜空に何かが舞ったのだ。
それは人間に見えた。
赤い髪の、黒い服を着た神父に見えた。
「す、て・・・・・・いる!?」
上条が言い終わる前に、ステイル=マグヌスは勢い良く地面へ落下した。今まで彼らの姿を隠していた背の低い植え込みの木を押しつぶすように、背中から地面へ激突する。彼の衣服は所々が鋭い刃物で切り裂かれ、その肌から血がにじんでいた。
「おいおい。ブザマだなステイル」
「く、そ。上条、当麻か。何をやっている、早く逃げろ!!」
「お?」
上条が声を上げた時、彼が背中を預けている店の、二つ横の壁が生き物のように大きく盛り上がった。
「おぉう!」
上条が驚きと喜びの混じった声を上げる。まるでシャチが海面を突き破ってジャンプするように、店の壁を木っ端微塵に砕いて何者かが飛び出してきた。人影の背後で支えを失った建物が崩れていく。ガラガラと、人の腕ほどもある太さの建築木材がすぐ近くに降り注ごうが、その人物は少しも動じない。あまつさえ笑みすら浮かべていた。
体は細く長身なのに、相撲取りが来ていそうなほどサイズの合わない大きなTシャツとジーンズを履いた二〇代中盤の男だった。Tシャツの柄は白地の上に、右胸辺りを中心に赤いクロスが走っている。ジェルか何かを使って意図的に毛先を尖らせた髪型をしていて、何より特徴的なのはその髪の色か。圧倒的に黒い。わざわざ黒の髪染めで染め直したであろう髪は、クワガタみたいに妙な光沢すら放っている。
どう考えても現代社会にマッチしない大剣を、その男は片手で軽々と握っていた。
「くっく。なあにをやっとんのよイギリス清教の神父様。おら、英国紳士の誇りはどこ行った? この建宮斎字に見せてみろ。いかんよなぁ、そんなんじゃあ女の一人も守れんぞ」
チッ、とステイルは忌々しそうに舌打ちしてルーンのカードを取り出す。
彼は目の前の危機である大剣の男、建宮斎字など見ていない。その先―――壊れた店舗の向こうの観覧コースで身構えている、一人の白いシスターの行く末を最重要視している。
「やっぱ、大切なんだな」
「余計な事は、考えるな」ステイルは血でも吐きそうな声で「・・・・・・よし、オルソラ=アクィナスは確保、できているね。相変わらず、その悪運は幸か不幸か判別しにくいものだ。・・・・・・とにかく、後は隙を作って逃げるぞ。無理にあれを倒さずとも、逃げ切れば僕達の勝ちだ」
「それでなぁ、何だってこんな所でお前と鉢合わせにゃならんのよ? 何度も説明したはずなんだがなぁ。オルソラ=アクィナス。我々は貴女に危害を加えるつもりはない」
説明している本人が、対して説得力を求めていないような薄っぺらな声だった。
言外に、オルソラを逃がしてしまった自分の部下に失望するような色すらある。
オルソラは、壊れた店を、傷ついたステイルを、そして建宮のフランベルジェを見て、
「確かに、あなた様のお言葉は希望に満ちていたと存じ上げてございますが。私は武器を振り回しながら訴える平和など信じられないのでございますよ」
「残念だなぁ。ローマ正教などに戻っても仕方がないだろうによ」
建宮はまるで肩の調子を確かめるように大剣を握った右手を軽く振りまわした。
「・・・・・・、」
上条はオルソラを庇うように、無言で彼女の前に立つ。
今ここで使用できる武器は二つ。先程の日本刀といつもの二丁拳銃のみ。そしていつでも使える物として、己の肉体を上げておこう。
建宮は最初に上条の顔を、次に彼の足元に転がっているドレスソードを見て、
「武術の構えもなければ零装もなし、衣服に隠された魔術的記号などもなし。本当の意味で丸腰、と。ふん
「は? んだこの剣。邪魔だな」
建宮の視線を追った上条は自分の足元に転がるドレスソードを見つけ遠くに蹴り飛ばす。
「後、テメェの部下ならあっちで寝てんぞ。一撃で仕留めたから死んじゃいねーだろうけどよ」
「・・・・・・、死ななきゃ良いって訳じゃねえのよ。ナメてんのかテメェは」
建宮の口調から、ふざけたような色が消える。
上条はその様子に、建宮の人間性を見た気がした。相手はただの化け物ではなく、自分の仲間の身を思って怒れる人間なのだ。
「ナメちゃいねーよ。それと、テメェがまだそこで誰かのために戦えるような人間なら、剣を引いてくんねえか。俺はできるだけアンタみたいな奴とは戦いたくない」
「そうしたいのは山々何だがなぁ、こっちにも事情があるのよ。確かに我らの主敵はローマ正教だが、そこに繋がりを持ってるならイギリス清教とて見逃せんよなぁ。ついでに、そんな連中にオルソラを渡す訳にもいかんのよ。という訳で、すでにお前さんも攻撃対象という訳よ。もっとも今すぐこの場で膝をついて降参するというなら余計な血を見る必要もねえんだけどよ」
建宮は笑いながら、しかし残念そうに言った。
対して上条は少し闘志を失った目で、
「そうしても良いんだが、お前等にもローマ正教にもオルソラを渡す訳にはいかねーんだ。こいつは今、学園都市の保護下にいるんだからな」
「交渉決裂という事で良いんだな?」
「はっ。ふざけてんじゃねーぞテメェは、上条当麻なめんなコラ!」
「何て目ぇしやがるんだ。そんな目で睨まれちまったら哀しくなっちまうじゃねえの。いやいや本当に哀しいねぇ。やるべき事は分かっちゃいるんだが、こういう真っ直ぐな反応されるとそれだけでお前さんを殺したくないって気持ちが芽生えちまうのよ」
建宮は波状の大剣・フランベルジェを軽く揺らして、
「けどまぁ、やるってんなら仕方がねえ。今日がお前さんの命日だ」
言葉と同時。
爆音を上条は聞いた。ただ建宮の靴底が地面を蹴る音が、すでに爆発のエネルギーすら帯びている。上条が(見た目)身構える前に、相手はもう最初の一歩を踏みこんでいる。刃が届くまであと一歩。
ズガン!! そこに爆発音が響く。
小さな火薬の破裂音だ。音の発信源は建宮の後ろ。オルソラの側にいたはずの貴音が、オートマティックの装飾銃の引き金を引いていた。
しかし、撃ち出された銃弾は建宮には当たらず、上条当麻の額に真っ直ぐ吸い込まれていった。オルソラもステイルも、遠くで見ていたインデックスも、その光景に驚きを隠せない。
そして、上条は意識落ちする直前。貴音のある一言をキッチリと聞きとった。
「―――ご主人。死ぬ気でやれ」
「・・・・・・クッ。ハハハハハッ! いやまさか、外すとは驚いたのな。撃たれたかと思ったが、下手くそなのか?」
我慢できないといった様子で笑う建宮。ステイルももう半ば上条の事は諦めた様子で、力を振り絞ろうとしている。それは、今こちらに駆け寄ってきているインデックスの為だ。
「ヘタクソ? 誰がですか。私はちゃんと
「は? じゃあ最初から殺す気で?」
「ふふっ。イッツ死ぬ気タイム!」
貴音がそう言って笑うと。上条の体がガバッと起き上がる。
「
「な!?」
「死ぬ気でお前を倒す!」
上条の瞳は金色に、銃弾を受けた頭部からは大きな炎が上がっていた(パンツ一丁ではない)。
「
上条は小さく構えを取った。
―――上条は倒れた後。意識の中を彷徨っていた。
「おい。起きろよ俺。早く起きろ。このままじゃ、ステイルは、インデックスは、オルソラがどうなると思ってんだよ!!」
『お前はどうしたいんだ?』
「は?」
『最愛の貴音に撃たれたんだぞ? どうすんだ? もう立っても意味無いと思うが?』
「うっせー! お前も俺なら分かってんだろ! 俺がどうしたいかなんて!」
『んじゃあ言ってみろよ』
「貴音が言ってた。死ぬ気でやれ・・・・・・って。だから死ぬ気でアイツを倒す!」
『よしっ。行ってこい』
「私が撃ち込んだのは特殊弾。ご主人の枷を強制的に外す物です。枷が外れたご主人は強いですよ~」
「だがよ、お前さん。見てくれが変わっただけじゃ俺は倒せんよ」
建宮がフランベルジェを横一線に振るう。上条は左手を首まで持ってきて防御する。
無駄だ。と建宮は思う。剣をただの洋服で防御できるわけがない。防御できそうな物と言えば手袋だが、どう見ても毛糸だった。
が、
ガキン、と音がして刃が止まる。建宮が驚いて、剣先を見てみると上条の左手にはめられた黒い何かが攻撃を防いでいた。
その黒い何かはグローブだった。全体的には黒と白で統一されており、黒い指抜きグローブの下に白い手袋をはめているようにも見える。
指の関節部分が膝や肘を守るプロテクターのように、少し太くなっていて、本来ゴムなどで留められる手首は、大きな金属で固められている。
そして一番の特徴はなんといっても甲に付けられた大きなクリスタルだろう。四つの鉤爪で固定されているように見えるソレは、中に上条が貴音から受け取った指輪と同じ紋章が描かれていた。それに加え、クリスタルを囲む金属板には、何か(おそらくイタリア語)が書かれている。
「! いつの間に!」
「最初からしていたぞ」
上条の平坦な声がその場に響く。感情の起伏が乏しい、そんな雰囲気だ。彼は拳を握り、建宮の懐深くへと勢い良く踏み込む。
その時。フッ、と建宮斎字の姿が消えた。
目の前にいたはずの建宮が、ほんの一メートルほど後方へ下がっている。上条が止めた横薙ぎの剣も、何故かすでに真上に構えられている。
上条はそれに対処するため冷静に白羽取りをする。
剣を両手で受け止めた上条は、すきだらけの腹部を蹴り飛ばされ、そのまま店に突っ込む。
インデックスもようやく到着し、上条に駆け寄ろうとする。
が、上条の頭部にあった炎が大きく燃え上がったため、二、三歩後退りする事となる。
「闘気が・・・・・・弾けた!?」
「Xグローブの使い方。思い出したようですね」
「死ぬ気の炎は闘気じゃない」
「じゃあ何だというのな? まさか本物の炎な訳あるまい」
ボウッ! と、建宮の眼前に炎を纏った上条の右拳が突き出される。これを何とかかわす建宮だったが、頬に尋常じゃない熱を感じた。
「熱い!! 闘気が熱を帯びている!?」
「死ぬ気の炎と闘気ではエネルギーの密度が違いますからね。限られた人間の目に見えるだけの闘気と違って、死ぬ気の炎はそれ自体が破壊力をもった超圧縮エネルギーです」
「それに・・・・・・魔力を感じるんだよ」
「あー。確か魔力ってエネルギーでしたもんね。確かにご主人は右手が邪魔をして魔術は使えません・・・ですが、ああして誰もが持つ死ぬ気なら操れます!」
「そのグローブ・・・・・・焼きゴテか!」
「それだけじゃない」
フッ。と上条の姿が消える。その場の全員驚いたような顔をするが、一番驚いたのは建宮だろう。目の前の少年が突然消えたのだから。
「ここだ」
「ッ! 後ろ?!」
振り向きざまに振るわれる大剣。それを上条は右手のグローブで受け止める。そして、炎を纏った左手を建宮の腹部に叩き込む。
バオォン!!
という空間を無理矢理引き裂いたような音が辺りに響く。建宮は耐衝撃用の術式を張っていたため、そこまで深刻なダメージという訳でもないが、肺の中の空気を全て吐き出し、血も吐いて地面に倒れ込む。
もっと恐ろしいのは、それを
「俺の死ぬ気は絶望からじゃない。希望から生まれる」
実は貴音のセリフかなり悩みました。
「いっぺん死んでこい」と。