幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
「いやー。完璧に氷だな。こりゃ」
上条は隠れた部屋(おそらく砲台を扱う場所)の中で気楽そうに言った。
「・・・これ魔術なんでしょうね。ご主人、うかつに触れないでくださいよ? ふ、船だけ消し飛んで海にボチャンとかごめんですからね?」
「へいへい」
上条は軽く返事をする。
(どうやら、不死身になってもプールの授業をまともに受けていなかったってのはイタいみたいだな。泳げないって怖いことだよなー・・・。かくいう俺も川に架かる橋の上だけは嫌いだけど)
「・・・ご主人。凄いですよ」
あ? と上条が貴音とオルソラが覗く照準窓をのぞき込むと、暗い海面だけが見えていた。
「暗いな」
「こちらが明るいんですけどね」
と。
ドパァ!! と先ほどと同様海面が爆発した。水を割る轟音とともにシャチのごとく上条達が乗っているのと同じ規模の氷の帆船が飛び出した。そうしている間にも次々と海面を砕いて半透明の軍艦が現れる。ここからでは一方向しか見えないが、おそらく四方で同じ事が起きているだろう。
水平線まで何もなかったアドリア海が、無数の船で埋まっていく。
「・・・まるでこの海の王国だな」
「さしずめ旗艦は女王って所ですか?」
上条の言葉に貴音が乗ったところで、突然船室のドアノブが回った。
「・・・あ-。まぁ、魔術で作られた船だから、その辺は自由か」
ノブの音は一つではない。
がちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!! と数十もの音が一気に重なった。どうやら船のドア全てを開け放ったようだった。
「探すの面倒くさがりですか」
「んだそれ」
そしてドアの外―――通路には、早足で部屋を見て回ろうとしていた人物が、ちょうど上条の前で動きを止めていた。
「アニェーゼ・・・」
「サンクティス・・・」
上条はラッキーと口に出すと同時、瞬時にアニェーゼを拘束した。
「むぐ!? むぐぐぐ!?」
「ちょーと大声出さないでねー。はいはい。大丈夫だからねー?」
「よいしょっと。さて、説明してもらいますよアニェーゼさん。この艦隊が、一体何をするためにある物なのか」
そう言って貴音はアニェーゼの口の部分のみ拘束を解く。
「ちょっと、なんで私は捕まってんですか。普通は逆でしょう!」
「知るか。こっちは見つかったら殺る気でいたんだ。死ななかっただけでマシと思えよ」
「あ、相変わらず、ぶっ飛んだ考えをお持ちなんですね」
「悪いですか? こっちはそういう世界に生きてきたんです」
「で? この艦隊はなんなんだよ」
「・・・・・・いいでしょう。説明してあげますよ」
おう、話せ。と言う上条を一瞬にらむアニェーゼだったが、手も足も出ない状態なのに気付き黙り込んだ。
「まずこの船は『女王艦隊』です」
「ふーん」
「アドリア海の監視のために作られた艦隊なんですけどね」
「で? 結局、この艦隊を使って親玉は何をしようとしているんだ?」
「その前にもう一度確認しますけど、貴方達は『アドリア海の女王』とは無関係なんですよね」
「アドリア海の女王・・・。ローマ正教の対ヴェネツィア攻撃用の切り札か!」
「あなた物知りですね」
「一応な」
「そんな物が今更ヴェネツィアを狙っているって言うんですか?」
「そんなわけないだろ。多分コイツが狙ってるのは・・・、学園都市だ」
「・・・・・・ッ!?」
貴音が驚いたように目を見開くが、アニェーゼも同様に驚いていた。
「で、でも。対ヴェネツィアなら、ヴェネツィアにしか砲頭は向かないのでは?」
「バーカ。それは
「・・・・・・?」
「簡単だろ? 人一人の精神を壊してしまえば、それだけで照準は狂う。それを上手く調節させれば、任意に標準は変えられるんじゃないか?」
「・・・なるほど。つまるところ、アニェーゼさんは人柱って所ですか」
「・・・・・・ぐっ」
「アニェーゼ。お前ボスに会ってアイツをひとまず安心させてこい。こっちはこっちで、暴れる準備をするからよ」
「な、なら。あのときのアンタみたいなのを期待してるんですけど」
「なんだ?」
「シスター・ルチア、アンジェレネの両名を助けてはくれませんかね」
「ん、いいぜ。暴れるついでだ」
「久しぶりに
「オルソラ、お前も来いよ」
「は、はい!」
アニェーゼと分かれて上条達はシスター二人を探して歩き出した。
▽
しばらく歩いていると上条が立ち止まる。貴音が彼をのぞき込むと、彼は美術品の眼を細めて、
「・・・見ぃつけた」
そう言った。
(・・・わぉ。ご主人が義眼を開いているなんて珍しいですねぇ!)
(・・・別にいいだろ? こうやって探す方が楽なんだよ)
そして、二人の暗殺者は動き出した。
ドアの前にいた氷の鎧を音もなく撃破して、扉の前まで移動する。そして、扉を爆破で吹き飛ばすと同時、煙幕に紛れて五人の男達を絞め落とした。
「・・・・・・鈍ってはないな」
「ですねー。さて、そこのシスター! あんたらの隊長に頼まれて、助けに来ましたよ!」
「・・・・・・助けに来た。そんな言葉を私達が信じると思うのですか。そもそも貴女達に敗北したからこのような場所に放り込まれたというのに」
「ああ。そりゃ悪かったな」
上条は誠意というか言葉だけの謝罪を述べる。そして上条はしゃがみ込んで、ルチア達と目線を合わせると。
「そっちがこっちを信じるのは、全てが終わってからでもかまわねぇよ。アニェーゼが今陽動で動いてくれてる。こっちはその間に準備を進めなくちゃならない。その前に、あいつが言ったんだ。オルソラの時みたいに、お前達を助けてほしいってな」
「・・・・・・」
「し、シスター・アニェーゼに・・・・・・ですか?」
「別に信じなくてもいい。だが俺は勝手にお前らをこの艦隊から引き離す。アイツに頼まれたからな」
「ま、まさかシスター・アニェーゼは・・・・・・」
「今旗艦に向かってる。この女王艦隊の旗艦、アドリア海の女王の人柱なんだろ? 囮だ」
「お、囮って! あなたっ!」
「俺はお前達とは異教徒で、顔見知り程度でしかなく、信頼できる相手じゃねぇだろうな。だから信じろとは言わない。だが、これは俺のプライドの問題だ」
「・・・・・・プライ・・・ド?」
「俺は、俺と一度でも関わった人間を、老衰以外で死なせる気はねぇんだよ」
上条はそう言った。ルチアはその言葉を信じることにした。自分たちをまっすぐ見るその目に、偽りはないと感じたから。
貴音も、ルチアが縦に首を振った事に安堵したその時、
ゴガッ!! と。突然、氷の壁を打ち破る爆発音が炸裂した。
その爆発音と衝撃波だけで、上条達は床に投げ出されかけた。無論オルソラ達は投げ出されたが。
見ると、上条達がいた船室の壁が破壊されていた。
「なるほど・・・・・・」
「・・・ネズミは排除っですか?」
「「人をテーマパークのメインキャラクターにするんじゃねぇっ!!」」
次々に砲弾が上条達の乗る船に当たっていく。
「あっはっはっはっはっ!!」
「な、何を笑っているのです!」
「いやー。インデックスもたまには仕事をするんだなって思ってよ」
「な、なんの話ですか!?」
「貴音、俺の死ぬ気は絶望からじゃない。希望から生まれるんだぜ?」
上条はそう言うと傾く船の床で踏ん張り、拳ほどのサイズの箱を取り出す。そこに開いた穴に
指輪を抜くと、箱が開き、そこから一組の手袋とアメ玉サイズの何かが入ったケースが出てくる。
上条は手袋をはめ、そのアメ玉を丸呑みした。
貴音はその様子を見て笑うと、踏ん張るのをやめた。