幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
午前中授業のひだまり Winter_Clothes.
九月三十日。
九月末日であるこの日は、学園都市の全学校が午前中授業となる。理由は単純で、明日から衣替えだからだ。
東京西部を再開発し、都の三分の一もの面積を誇るようになった学園都市は、百八十万人前後の学生を抱える。となれば衣替え一つを取り上げても服飾業界は大忙しだ。
実質的な採寸や注文は大覇星祭前後に済ませているので、今日行うのは新調した冬服の受け渡しだけとなる。しかし、そうであっても大混雑が起こる辺りにスケールの特殊性が見出せるだろう。また、新しい服を『慣らす』意味も含めて、この日から冬服を身にまとうのも風習の一つとなっている。
だが、それも衣替えに縁のない学生にとってはただの午前中授業である。
例えば上条当麻や榎本貴音は、今年高校に入学したため、入学時に購入した冬服をそのまま着てもサイズ的に全く問題がない。よって、今日の混雑に身を投じる必要はないという訳だ。
それは彼らだけでなく、学年単位でそういった傾向があるらしい。バタバタと慌てているのは主に二年生と三年生で、一年生は全体的にのんびりしたものだった。
さて、今は三時間目と四時間目の間にある、十分程度の休み時間である。
「・・・カン」
「ウエ?!」
「ツモ、四暗刻」
「なぁぁ!?」
「役満三万二千点・・・ッ!?」
「さぁ、キリキリ払え」
上条、貴音、土御門、青髪ピアスの四人は教室で雀卓を囲んでいた。
「もう、つまらんわー」
「カミやん強すぎだぜい」
「まるで麻雀の鬼ですよ・・・」
「あっはっはっ。雀鬼ってか? 鬼なのは間違いないけどなー」
今のところ上条の一人勝ちである。土御門や青髪ピアスも弱いわけではないのだ。だが上条には勝てない。
貴音に至っては上条に執行に狙い撃ちされて、シオシオに干からびていた。
「麻雀の打ち過ぎで肩がこってるわ」
「そんなに打ってないだろ?」
「ここんトコ右肩の辺りが妙に痛いし、自分で自分の肩をグニグニしとると今度は左の肩が痛くなってくるんや」
「あー。あるあるだな。最近ないけど」
「でしたら通販で肩もみマシンでも買ってみたらどうです?」
「そういうのは多分ブラフだぜい。特に『気持ち良かったか良くなかったか』なんてのは明確な数字で表せるものじゃないし、『テストメンバーは全員気持ち良いと答えました。あなたは知りませんけど』ってオチじゃねーのかにゃー?」
「けっ! 義妹に毎日揉んでもらっとるお前には分からんわい!!」
「毎日じゃねーぜい三日に一回ぐらいだにゃーっ!!」
「え。結構少ないんだな」
上条は雀卓を影の中にしまいながら、貴音に肩を揉まれていた。『お疲れ様ですご主人』という言葉と共に。
それを見た土御門と青髪ピアスは何かが切れたのだろう。上条に襲いかかってきた。
「うぉおおおお!? 何だ何だ!?」
「にゃーっ! カミやんは今から私刑ですたい!」
「重たいから覚悟せよ!」
「待て待て待て!!」
停止の声をかけながら上条は教室を走り回る。そして気付く。
「青ピ! お前彼女いたよな! 揉んでもらわねぇのか?」
「・・・・・・あ、そやね。つい前のノリでカミやんにイライラしてもうたわ。ボクにはもう肩を揉んでくれる彼女がおったんやったで~」
くるくる回り出す青髪ピアスに矛先を向けるべく上条は嘘を吐く。
「そうだよな。ついこの間から毎日寮に連れ込んで・・・、どうせイチャイチャチュッチュしてんだろ?」
その言葉だけでクラスの男子八割が青髪ピアスの方へ向いた。上条は心の中では、否定してくれて、そのまま少しの制裁ですむはずと思っていたのだが。
「なっ・・・。カミやん何で知っとるん!? 見てたんか!」
「あ!? マジだったのかよ・・・」
「あー! カマかけよったな!」
「もう遅い・・・。頑張れ、青ピ」
「「「「アオガミ・・・コロス」」」」
「ギャァァァアアアアアアアアアアアア!!!」
(悪い青ピ。骨も拾ってやれそうにない)
上条は心の中で青髪ピアスに全力で土下座した。
だが、次の瞬間。
教室内で暴れていた男子達が全員地にひれ伏した。
「ふ、吹寄・・・!」
「やっぱりこの騒ぎの原因はお前か上条当麻!!」
「俺であって俺じゃねぇ!」
「やっぱりあなたじゃないの! いい加減にしなさい!」
「俺だって迷惑してんだよ! 何だクラスの三バカって! 人権侵害以外の何物でもねぇよ!」
「・・・・・・ご主人は吸血鬼でしょうに・・・・・・」
上条がデカい声で叫んだ後、貴音がポツリと何かを言ったが、クラスメイトには聞こえていない。
「一緒になってバカ騒ぎしてるからでしょうが!」
「良いぜ! だったら教育してやるよ。本当の上条当麻の実力というものを!!」
上条が能力を解放しようとしたところで、小萌先生が入ってきた。
「さーて皆さん。本日最後の授業は先生のバケガクなのですよー・・・・・・って。ぎゃああ!? ほのぼのクラスが一転してルール無用な不良バトル空間っぽくなってますーッ!?」
「平和のためです」
「はっ。元から平和だろ」
その場でのこれはお流れとなった。
*
そして放課後、今度は貴音と上条がにらみ合っていた。
「・・・ご主人。ここは公平に鬼ごっこで決めましょうよ」
「それ、公平か? まぁいいじゃん。やろうぜ」
発端はいかにも簡単な事。吹寄が『何だ、肩こりが原因だったのね。私もそういえば凝るわね』と言ったのに対し、貴音がグヌヌと震えていたのを見た上条が、『諦めろ』と言った事。
「ルールは簡単です。範囲は学園都市、時間は一時間。一時間後に鬼の方が負けです」
「良いぜ?」
「交代の方法は『右手首から先が胴体へ触れた事』。腕や足、頭は交代ではありません」
「ほうほう」
「足止めは何でもござれです。ただし周りの人に危害を加えない程度で」
「了解。それじゃあ最初の鬼は?」
「ジャンケンで決めましょう」
貴音がそう提案する。クラスの皆も何故か帰れずにいる。
「「最初はグーッ!」」
右拳と右拳が突き合わされ、衝撃波が教室を揺らす。
「「ジャンケンホイッ!!」」
貴音が上条の拳を開いた手で受け止めた。ドゴンという衝撃が学校の校舎を襲う。
「ご主人が鬼ですからねー。ではっ!」
貴音はエネになると、光速の速さで窓から飛んでいった。
「だ、大丈夫なのかにゃー? カミやん」
「あぁ、大丈夫だ」
上条は待つ十秒の間に、貴音と自分のカバンを影にしまう。
「ほんじゃまあ、行きますか」
上条は窓枠を蹴り飛ばし、街へと飛んでいった。
「・・・ば、化け物だぜい」
*
人は皆上を見上げていた。ビルの上で交互に何かがぶつかっている。そんな大きな音がするからだ。
音の原因は上条当麻。彼は大覇星祭の時美琴を抱えて走ったときよりも速く、目にも止まらないスピードで走っていた。
(どこだ?)
上条はビルの角を蹴ると交差点を斜めに渡る。上を見上げ、原因を知りたがる人が増えるが、上条は気にしない。
(純粋な身体能力+吸血鬼の身体能力+体強化魔法+推進力。つまり最速! お前まで繋げたレールを、辿っていってやるぜ! エネ!!)
*
「へっへーん。ここまでおいでです」
二十二学区の上、大量に生えた風力発電機の上に座っていたエネの肩を何かが高速で押し込み、そして前方に消えていった。
「・・・・・・え、ご主人!? ちょっ。待てやコラァァァァァァ!!!!!」
ようやく接戦が始まった。
*
御坂美琴は街を歩いていた。上条当麻からの連絡や接触はない。
先日彼女は上条当麻に勝負で負けている。『何でも言うことを聞く』という罰ゲーム付きのものに。
なのに彼はその罰ゲームを実行に移す様子はない。自分には言うことを聞かせる魅力がないと言われているようで美琴はどこか悔しかった。
「・・・・・・はぁ~。やっぱ私には魅力はないのかな・・・・・・」
その時。
爆音が響いた、頭上のビルからだ。周りの人が上を見上げる。美琴も同様に上を見上げるが何もなっていない。そして悪魔が二人、降ってきた。
悪魔の片方はその両手をもう片方に触れようとして、それを片方が手首を掴んで止めていた。お互いもの凄い力なんだろう。ギリギリという音が聞こえてきそうだった。
美琴は思わずしりもちをついてその二人を見ていた。周りもその様子に驚いている。
やがて、片方が口を開いた。
「確か手で体に触れないとダメだったんだよな?」
「ええ、ですからご主人の判断は正しいですよ。この距離で手首を捕まれては、体に触れることは出来ませんからね」
「当たり前だ。触れられたらゲームオーバー。なんて修行よりは楽すぎる」
「それにしては、“神々の義眼”まで開眼して、少々本気になりすぎでは?」
「知ってるだろ? 一度でもあそこに住んだ連中は、本気で遊ぶんだ」
少女はええ。知ってます。と言うとそのまま蹴りを放つ。それを跳んでかわした少年は、少女の両手首を持ったまま少女の背後に立ち、そのまま手首を持って地面にたたきつけた。
「グハッ!!」
「アデュー!」
「・・・っ、こ・・・んの・・・・・・待たんかこのバカトーマァァァァァァ!!!」
「鬼ごっこで相手に待てというバカがどこにいる! あ、そこにいたわwww」
「殺す! 霊符「夢想封印」!!」
「フフーフ バカメー。魔砲「ファイナルマスタースパーク」!!」
巨大な弾幕がぶつかり合うのを、野次馬はただ見ていた。その規格外の大きさに、超能力の類いで無いことに気付く者もいれば、レベルの差に愕然とする者もいた。
「カウンターバーナー無しっ。行くぞ」
「は!? え、ちょまっ!」
「XX BURNER!!」
「げっ。夢符「二重結界」!!」
貴音が慌てて結界を張るが、そこまでの威力は無い。『あれ?』と思って貴音が目を凝らすと、上条の体はXX BURNERの威力で後方へ飛んでいった。
「あ、あぁ~~~~!!」
貴音は悲しそうな声を上げると同時、ユラリと立ち上がると結界を張ったまま、空気を切り裂き飛び出した。
「な、何してんのよ。あいつら・・・・・・」
美琴の疑問に答える人物はいなかった。
*
上条は両手の平から炎を撃ち出しながら、ビルとビルの間を飛んでいた。
周りの音は聞こえない。風を切る音のみが上条の耳には届く。
(・・・貴音、来てんのか?)
“神々の義眼”多数の者から『芸術品』と称されるその眼球の王様を上条は開いて後方を見る。
(来てるな)
貴音はエネの姿となり、上条とほぼ同じスピードで追いかけてくる。
(・・・なるほど。コーナーワークで勝つつもりか?)
上条は
(・・・ご主人っ!!)
(コイツ直接脳内に・・・!)
(・・・絶対追いつきます!)
上条と貴音が同時に加速する。通りの上の空中での高速レースが始まった。
(イニシャルって言うより)
(ミッドナイトですね!)
上条と貴音はほとんど同じスピードで飛んでいた。が、上条は何かを見つけ、一気に急降下する。
「・・・・・・ご主人、どこへ・・・。って用水路!?」
そこは人が二人ほど横になれるスペースの用水路だった。そこを上条は水しぶきを上げながら飛ぶ。
「・・・・・・良いですよ。ご主人。こうなった以上私も本気を出します! いっきますよ! エネちゃん。ブーストッ!!」
貴音が急加速するが、上条も同様に速度を上げる。
(ご主人・・・どうしてあんなに早いんでしょう・・・? まさか、晴れ属性の活性と雲属性の増殖で、大空の炎の推進力を格段に上げているのでは!?)
貴音のあながち間違っていない推理に上条は笑う。そして、そのまま用水路に沿って飛び続ける。
(・・・さて、仕掛けるとしたら)
(純粋なスピード勝負ですからねっ!!)
用水路の側を歩いていた人達が悲鳴を上げる。それもそのはず、いきなり水しぶきが上がったのだ。原因はすぐさま別の方向へと消えていくのだが。
(はっはっはっ! 水路の水しぶきをまともに食らって! 貴様は無事なのかなぁ~?)
(嫌みかこのバカトーマ!!)
(フフーフ バカメー。貴様は俺には追いつけん!)
(ハッその内追いつ・・・へ?)
次の瞬間貴音が見たのは空中で天地逆転した上条が、貴音に向かって左手を向けているところだった。
「ちょっ。まさか!」
「XBURNERエアー!!」
「バリアッ!!」
貴音がそう叫ぶと、彼女の前に簡易結界が現われる。だが、それを貫いて貴音にXBURNERは直撃した。
「わ、忘れてました・・・・・・。大空の炎の属性は・・・“調和”・・・」
「バリアが効かねぇって・・・。なんか、いじめに遭って『○○菌』って言われるみたいなものだな」
「・・・実体験じゃないですよね、それ」
「はっはっはっ」