聖戦の隙間   作:伊鬼名

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 白銀聖闘士の話です。アニメ聖闘士が入っています。


白銀編1

 スターヒル。聖域内で最も高い位置にある聖地である。教皇のみが入ることを許され、星を見て未来を占うといわれているが、実際は無傷で入ることができるのは黄金聖闘士並の力の持ち主であることからそう言われているだけで、かつて鷲座の白銀聖闘士魔鈴が教皇の事を調べるために傷を負いながらも登ったという事実がある。同時に歴代の教皇が様々な書籍、宝物を置いているため、むしろ宝物庫の一つとしての警備が主な場所になっていた。

 聖戦が始まると同時にこの場所も聖闘士が警備することとなり、重要な場所であることを示すように、白銀聖闘士が6人この場所に集まった。

 

「こいつはまた、何とも言えない顔ぶれだな、こりゃ」

 烏座の白銀聖闘士ジャミアンが集まった顔ぶれを見て手を挙げた。この場所に集まった白銀聖闘士とは、

 烏座のジャミアン

 猟犬座のアステリオン

 王笏座のパエトン

 梟座のスパルタン

 蓮座のアゴラ

 孔雀座のシヴァ

 かつて騙されていたとはいえ女神アテナに逆らった面々である。

「これはあれか、また裏切るからまとめて置いておこうってことか」

 ジャミアンが愚痴るとアステリオンが後ろから軽く叩く。

「冗談でも言わない方がいいぞ。あれを見ろ」

 指さされた方を見ればパエトンが青い顔で震えていた。

「なんだあれ」

「王笏座の聖闘士は代々政治的な面でアテナを補佐してきたという。戦いに出るのは初めてなのかもしれん」

「よく聖闘士になれたな」

 アステリオンはサトリの法を使うのでおそらく本当だろうと思いつつジャミアンはため息を吐いた。

ジャミアンが周りを見ればアラゴとシヴァは坐禅を組んで瞑想している。元々シャカの弟子は普通の聖闘士とは一線を画しているので何を考えているのかわからない。スパルタンはアステリオンと同門で超能力を使う訳だが、精神集中のためかこちらも黙ったまま目を閉じて崖にもたれかかっている。

 

 ジャミアンが助かったのは、兄弟とも言える烏のおかげだった。落ちて行く最中、別の場所に待機させていた烏達が危機を知って駆け付けてくれたのだ。元々日本から聖域まで烏だけで人間を運ぶのはきついので分けておいたのが幸運だったと言える。烏達は自分たちが下敷きになってもジャミアンを受け止めてくれ、ジャミアンは命を生き長らえさせた。

 気づいた時に烏達が自分の下で息絶えていたのを見た時、ジャミアンは人目憚らず泣いた。そして今度は烏達の仇を取るために必死の修行を重ねたのだ。まさか、教皇が別人にすり替わっていて、自分の攫おうとした相手が本物の女神アテナだとは知らずに。

「なんとも馬鹿馬鹿しい」

 ジャミアンは必死に修行した結果が空振りに終わると、どうでも良くなった。しばらく引退して烏達の菩提を弔うことも本気で考えていたが、そうこうするうちに聖戦が始まってしまった。

「なるようにしかならんさ」

 ジャミアンの言葉に反応したのか、シヴァが眼を開き道の向こうを見た。

「どうした、シヴァ」

 アステリオンが注意を向ける。

「来たぞ」

 坐禅を解くシヴァに反応して、思い思いにシヴァの示した方向を見つめる聖闘士達の前に黒い影が現れた。

「これはっ」

「どけっアステリオン!」

 影に反応したのはスパルタンだった。念力を放って影を吹きとばす。

「冥闘士か?」

「いや、その前の前兆みたいなものだ」

 空で烏達が騒ぎ立てる。ジャミアンが上を見上げると不気味な影が空を飛んでいた。

「空だ!」

 ジャミアンの声にスパルタンが空へと力を放つ。

「来たぞ」

 アステリオンの言葉に前を見れば、漆黒とも紫とも言えない不気味な色をした冥衣を纏った闘士が立っていた。そこへ空から別の冥闘士が舞い降りる。

「なんだ、ここは白銀聖闘士だけか、つまらん」

「良かったじゃないか。楽できそうで」

 スターヒルに登ることを考えてか翼の生えた冥闘士が3人、生えていない物が2人、ジャミアンには不気味な様子を醸し出しているように感じられた。

「冥途の土産に名乗ってやろうさ。我が名は天空星ロックのジラード」

「天暗星、カトバブレトス、ディーン」

 特に小宇宙が高い2人が名乗った。天の星が来るとは一同の想定外だった。

「ひひっ天の星の出陣にビビってやがるな。俺は地異星スネイルの宴」

「地捷星ヴァルチャーのストライク」

「地慧星ピクシーのレイ」

 残りの3人が名乗ったが、一人の冥闘士に視線が集まる。

「女か」

 シヴァが思わず声に出したとおり、体の線が浮き出る冥衣のために性別がはっきりと分かった。

「あら、女だからって馬鹿にしないで欲しいわ」

 ピクシーの冥闘士は何気ない風に指さした。

「うむっ」

 とっさに避けたシヴァの後ろの岩が鋭い針で射したように貫かれる。

「おいおい。遊んでないで行くぞ。さっさとこの山を崩さないといけないんだからさ」

 ロックの冥闘士が大きな翼を広げて飛び立とうとする。それに従うようにヴァルチャーとピクシーの冥闘士も続く。

「待て、行かせるか!」

 スパルタンの念が放たれる。それは再び空飛ぶ冥闘士を地上に引きずり下ろした。

「なかなか強力なサイコキネシスだな。黄金聖闘士を除けば現役最強って所か?」

 スパルタンはスネイルの冥闘士の言葉に嫌そうな顔をする。以前ならばともかくムウという存在を、また乙女座のシャカの存在を知った今ではかつて最強などと言われた言葉さえ大きな恥にしかならない。

「決めた。こいつの相手は俺がします。良いでしょう?」

 振り返って尋ねるスネイルの冥闘士に、カトバブレトスの冥闘士は黙って頷いた。

「面倒だな。よし、地の星でこいつらを足止めしろ。俺が上からこいつを砕く。下からはディーン、お前に頼もうさ」

 ロックの言葉に再び頷くカトバブレトス。再び大きな翼が広げられると、一瞬で見えなくなった。上を見れば黒い影がどんどん上昇していくのが見える。

「チッ。スパルタン、頼む」

 ジャミアンが口笛を吹くと上空にいた烏達が一斉に羽ばたいて羽をまき散らした。

「うまくいってくれよ。ブラックウィング!」

 本来ジャミアンが使う羽で相手を包む技が、スパルタンの協力を得てはるか上空で防壁として作用する。黒い羽は相手を包むのではなく、ゴムの布のように展開し相手を先に進ませない。

「む、ジラード様が来るぞ。みんな備えろ!」

 同じように上を確認したヴァルチャーの冥闘士が声を上げた。さっとその場を離れる冥闘士達に聖闘士達が何事かと思えば黒い流星が地上めがけて降ってくる。

「メテオインパクト!」

 

ズドーン

 

地響きすら起こして聖闘士達の真ん中に激突する流星。それは地上に降りてきたロックの冥闘士だった。

「まったく面倒なもんさ。烏を殺すのは可哀想だから、お前らを倒すとしよう」

 地上に激突したはずなのにそんなそぶりを見せないでたっているロックのジラード。地上に激突した衝撃と爆風で聖闘士達は吹き飛び、動いていないのは坐禅を組み続けているアゴラだけだった。

「ジラード様、それは少しおかしんじゃ」

「諦めろ、あの人は鳥の命は人より重いと考える人だから」

 思わず疑問を口にしたピクシーのレイに、ヴァルチャーのストライクが呆れたという風に応じる。

「このロックは鳥の王だからさ、部下は守らないと」

「そういう問題ですかねぇ」

 ジラードの言葉に首を傾げるスネイルの宴も何とも言えない表情になっている。カトバブレトスのディーンは何も言わずに座っている。

「待て、行かせは、しないぞ」

 とぎれとぎれに声を出しながらシヴァが立ち上がった。その小宇宙はさっきよりも遙かに高まっている。

「ほうほう、流石に質が高いのをそろえたみたいだな」

 宴の言葉通り他の聖闘士たちも立ち上がって構えを取ろうとしてした。

「そうでなくては面白くないさ。重要な場所が白銀聖闘士だけなのはつまらないけどさ」

「何だと、貴様、何を知っている」

 アステリオンが声を張り上げた。ここは教皇の星見の場所であり、過去の聖戦についての記述が残っているかもしれないが、天の星を2つも投入するような場所とは思えない。

「なんだ、アテナの聖闘士のくせに知らねえのか。ジラード様、教えてもいいですか」

 宴の言葉にジラードはディーンを見る。ディーンが頷いたので先を促した。

「へっへ。ありがとうごぜえます。この場所はな、天界と通じる道の一つよ。聖域では一つだけだな」

 初めて聞く事に聖闘士達は耳を澄ませる。

「冥王ハーデス様はアテナ何ぞ恐れていない。格が違うからな。冥王様と同等に戦えるのは兄弟であるゼウスかポセイドンよ。そしてアテナはゼウスの娘として有名な事実がある」

 神話伝説に詳しい聖闘士はその秘密にそれぞれが知る神話からの情報を当てはめる。

「はっきり言ってしまえば、ゼウスはアテナに対してとんでもない親バカだってことだ。アテナが授かった鎧はゼウスの乳母だった雌山羊の皮を加工したもの、勝利の女神ニケも本来なら天帝であるゼウスが連れ歩くのが普通なのに、その依代を与えて勝利の力が備わるようになっている。そこまでの親バカだ、アテナがスターヒルで助けを求めたら天界の軍勢を連れて降りてこないとも限らない。地上の守護を命じておいて親が出るなんて本末転倒だが、それをやられては困る。だから先に壊しておくのさ」

 宴の言葉は変に砕けていたが、納得できる答えだった。しかしその言葉を聞いた途端、パエトンが大笑いしだす。

「はあーはっは。ははっはっは」

「恐怖のあまり狂ったのか?」

ストライクが訝しげにパエトンを見てからジャミアンに聞いてくる。

「分かるか、そんな事」

 さっきまで岩陰に震えていたパエトンはロック鳥の攻撃で生まれた衝撃波にもあまり傷ついていない。さっき見た時は臆病者と思っていたが、どうも様子がおかしい。

「おい、どうしたんだ」

 ジャミアンも心配になって本人に尋ねてみる。

「どうしたもこうしたも、はっはっは。アテナは我等を信じてくれたのだ。処罰のために聖戦で重要とはいえ戦闘のない場所に配置されたのではなかったのだ」

 パエトンは笑いながら答える。

「地異星、スネイルの宴とやら、お前の言葉が俺の心を晴らしてくれた。礼を言うぞ」

「親バカへの尻拭いがそんなに楽しいのか」

 宴が不満そうにパエトンに言う。

「この王笏座のパエトン、伊達や酔狂で参謀となっていたのではないぞ。お前達の目的はゼウスの雷だろう」

 冥闘士達の雰囲気が変わる。

「おい、何だその雷というのは」

 分らなかったジャミアンがパエトンに聞くと、パエトンは満面の笑みのままジャミアンに説明しだした。

「あいつらの言葉を借りるならば、確かにゼウスは親バカだ。そしてその最たるものの一つに、天帝ゼウスのみが使うことができるゼウスの雷霆を女神アテナも使う事を許されている。これは他の子供たちである太陽神アポロンやもう一人の軍神アレスにすら許されていないアテナだけの特権なのだ」

 アステリオン、スパルタン、シヴァの表情が変わる。

「つまり、どういうことなんだ」

「分からないのか。つまり例え聖域が滅ぼされたとしても、スターヒルからアテナが祈りをささげれば雷がすべての冥闘士を滅ぼすという意味だ」

 ジャミアンにアステリオンが説明する。

「今までアテナが雷を使ったことは神話の時代から一度もない。それは我等聖闘士を信じてくださり、この場所に足を踏み入れることがなかったからだ。

 ああ、そうとも、今回の聖戦もまた、我等を信じてくださるからこそここの守りを我等に申しつけ下さったのだ」

 パエトンが手に持っていた聖衣の一部である杖を冥闘士達に突きつけて声高く宣言する。

「冥王は黄金聖闘士の減った今回の聖戦で決着をつける気だろう。だが、我等女神の聖闘士がいる限り、この場を壊させることはさせん!」

 見栄を切ったパエトンに今まで黙っていたディーンが口を開いた。

「失敗したな、宴」

「申し訳ありません」

 宴は慌てて謝る。その緊張感を張りつかせた顔のまま、他の仲間を振り返った。

「ジラード様、こいつらは俺だけですべて倒します。どうか空を飛べるものを連れて進んでください」

 やはり厳しい視線を聖闘士に向けていたジラードは宴を見て空を見た。

「いいだろうさ。だが、失敗するな」

 その言葉に小宇宙を高めて答える宴は聖闘士の方を振り返った。

「さあ貴様ら、祈りを唱えろ。ここで命はお終いだ」

「そうでもない。ようやく時間が来た。アゴラ!」

 シヴァが声を上げると同時に、今まで欠片もなかったアゴラの小宇宙が爆発する。

「これは!」

 一番近くにいたアステリオンが驚く。爆風の様に広がる小宇宙は仲間を吹き飛ばしながら、構わずにアゴラは技を発動する。

『天地大蓮華』

 声ならぬ声が響くと同時に、スターヒルの周囲が黄金の壁、光の小宇宙に囲まれていた。

「こけ威しを!ビーニードル・ランス!」

 レイが放った一撃が柱のように立ち上る防壁に突き刺さるように見えた、しかしそれはたやすく跳ね返る。

「きゃああ」

 衝撃に吹き飛ばされたレイを受け止めてストライクがアゴラを睨みつける。

「よくもやってくれたな」

「よくやってくれた、アゴラ」

 パエトンが進み出てまた冥闘士の正面に立つ。

「これで守りは完璧になった。後は一人ずつでも倒していくぞ」

「結構な自信だな」

 何故かアステリオンがパエトンに冷たい声で応じる。

「うむ、私はおそらく勝てないだろうから、女の冥闘士を受け持とう。後は頼むぞ」

「なんだそりゃ」

 思わず突っ込んだジャミアンに疲れたような顔のアステリオンが冥闘士の方を見て構えを取る。

 冥闘士の方は逆にさっきまでなかった闘志が渦巻いている。

「大口叩く前に、自分の命を心配するさ」

 ジラードの一撃がアゴラに向かう。天空星の拳はアラゴを貫くかに見えたが、体ごとぶつかっていったシヴァに弾かれる。

「仲間を守るか、するとそいつを殺せばこれは消えると見た」

 一撃を防いだシヴァの聖衣の半身に無数の罅が走っている。

「させるかぁ!」

 アステリオンがサポートに入る。

「おっと、お前の相手は俺だと言っただろう」

 同じようにサポートに回ろうとしたスパルタンにスネイルの宴が立ちふさがる。

「それではお前の相手は俺か」

 ジャミアンの前にヴァルチャーのストライクが立った。

ピクシーのレイの相手はパエトンが相手すると言った言葉からパエトンに対して攻撃態勢を取っている。アステリオンが同時に警戒しているが、最後のカトバブレトスのディーンは座ったまま動かない。

「さっさと終わらせるさ」

 ジラードの声を合図として、冥闘士が一斉に襲い掛かる。

「ビーニードル・ランス!」

「コマンドワードっぐわっ」

 いきなりパエトンがピクシーのレイに倒された。

「弱いわね。本当に聖闘士?」

「私がやることはお前を引きつけて他に向かわせない事だ。強い弱いは関係ない」

 呆れた口調のレイにパエトンは聖衣の一部である杖にすがってようやく立っている。

「まあ、手早く片付くから良いけどね。ビーニードル・ランス」

「コマンドワードおうわ!」

 再び吹き飛ばされるパエトンは遠くの岩場へと落ちて行った。今度は立ち上がってこない。

「ジラード様、手伝います」

「はあ、なんとも弱い聖闘士だったんだな」

 ジラードも興味深そうにレイとパエトンの戦いを眺めていた。というよりも全員が大した力もなさそうなのに偉そうなパエトンがどんな戦い方を示すのか興味を持っていたというのが正しい。

「あいつ、本当に何の為に出てきたんだ」

 ジャミアンが心底呆れた口調で呟いた。アゴラを除いた他の闘士も似たような表情だが、アステリオンは何故か顔を歪めて表情がよく分からない。

 

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