「さて、お前がいるならば俺は先に進むさ。こいつらの相手を頼む」
聖闘士2人の相手をレイに任せたジラードはそのまま突撃の態勢を取る。再びメテオインパクトかそれに似た技が来るとシヴァとアステリオンがアゴラを守ろうとしたとき、レイの技が放たれる。
「ピクシーダンス」
突如体の周囲に輪になった妖精たちが踊りながら回る。
「何だこれは」
「ふふふ、ピクシーの舞と共に魂を冥府に送るがいいわ」
シヴァがピクシーを払いのけようとするが、幻覚なのか実体なのか妖精たちは掴もうとする手を避けながら回り続ける。
「おい、レイ、俺にまでかけてどうするさ」
「こっちもだ。範囲広げすぎだろう」
「ちょっと待て、どうした、レイ!」
見れば聖闘士冥闘士構わずにピクシーに囲まれている。
「これは」
「パエトンの技が効いたんだ」
シヴァの疑問にアステリオンが答えた。
「あいつの技が?」
技を放ったようには見えないパエトンの方を見てシヴァが首を傾げる。
「ああ、吹き飛ばされるとき俺の心に話しかけてきた。サトリの法とはいえ、強くあちらから話しかければ聞こえることがある。あいつの技、コマンドワードは相手の行動を操る技だ」
「なんだと」
驚きの声を上げるシヴァにアステリオンが説明を続ける。
「本人が嫌がっていることを強制はできないが、この女にかけたのは『広範囲攻撃型の技を使うこと』と『技をかける相手はこの場にいるすべての人間』と、ごまかしやすい設定だ。あの女は俺達を攻撃しているつもりだが、冥闘士も含まれているのに気付いていない」
「幻朧魔皇拳並に凄いな」
聞き耳を立てていたジャミアンが感心する。
「おのれ、レイ、目を覚ませ!」
ストライクが声をかけるがレイは聞こえる様子もなく小宇宙を高め続ける。
「おい、俺達も危なくないか」
スパルタンがアステリオンに声をかける。
「仕方ないだろう。冥闘士まで攻撃範囲に含まれるようにするにはこうするしかなかったようだ。何とか自力で防げ」
「役に立つのか立たんのかわからん技だ」
妖精の輪舞に連れて行かれないように小宇宙を高めてながら相手の冥闘士を警戒する。
「面倒さ」
ザシュッ
「!」
天空星ロックのジラードは妖精が消えないことを確認すると地慧星ピクシーのレイの首を刎ねた。
「味方の首を刎ねるとは」
レイの技は消えたが、どっと冷や汗が吹き出してくる。汗をぬぐいながらスパルタンは目の前の地異星スネイルの宴を見た。宴も顔面を青くしてレイの遺体を見ている。
「ハーデス様に報告すればいくらでも生き返らせてもらえるさ。面倒なことにならないうちに処分するのが早い」
何でもない様子で続けるジラードは他の冥闘士の顔を見まわす。冥闘士達は慌てて目の前の聖闘士達に向かって攻撃を仕掛ける。
「死ねっ」
「ぐっ」
振り下ろされた拳を受け止めてジャミアンは地捷星ヴァルチャーのストライクの攻撃を防いだ。しかしその拳圧は聖衣を切り裂く。
「烏ごときが、俺に勝てるか」
「その台詞、聞いたことがあるんで腹が立つな」
かつての戦いを思い出しながらジャミアンは間合いを開けた。
「お前など一撃で倒してやる」
ばさりと音を立ててハゲワシの羽が広がる。
「ヴァルチャークロウ!」
空から急降下するストライクがジャミアンを捕らえて急上昇する。
そしてそのままジャミアンを落とすように蹴りを放ちそのまま地面に叩き付けるように急降下する。
「ぎゃああぁぁ」
ジャミアンは悲鳴を上げながら自分を押してくるハゲワシを見る。大地と空からで挟み撃ちで攻撃するのだろう。
「そう簡単に、やられるかぁ!」
上空の黒羽を一部自分の背後に持って行ってクッションにし、前の攻撃だけに防御を集中する。
ドンっ
「ぐううう」
派手な音がして地面に叩きつけられたジャミアンは羽根のクッションもあってか持ちこたえる。
「不死鳥にやられるならともかく禿鷲にやられてたまるか」
悪態をつきながら立ち上がったが、さらに上から追撃降下してきたストライクの蹴りを受ける。
「がばぁっ」
さらに連続して振るわれる拳に守る暇も為す術もなく殴られ続けるジャミアン。
それを横目で見ていたスパルタンの前にスネイルの宴は不気味な笑い声を立てながら念を飛ばしてきた。
「ほれ、ほれ、こいつでどうだ」
「ちっ」
舌打ちしてスパルタンは攻撃を避ける。
眼には見えない念動力の攻撃はスペルタンの全身を打ってくる。
「サイコキネシスが貴様の得意技のようだな」
スパルタンは致命傷になりそうな攻撃を自分の念で弾きながら宴へと突っ込んだ。
「エイト・ナックル!」
スパルタンが打った念動力の拳は同時に急所八か所を攻撃する。
「へっお前のサイコキネシスもなかなかのようだな」
黄金聖闘士が光速の動きでほぼ同時に着弾する攻撃を放つとしても、肉体を使う以上わずかな誤差が出る。意志の力で放つ技は一瞬の狂いもなく同時に相手の体に当たる。制御力、それがスパルタンの考える自分でも黄金聖闘士に勝てる唯一の長所だった。
「多少遊んでやりたいがさっさと方をつけなければこちらの命が危ないからな、お前はこれを見られたことを光栄に思うがいい」
宴の言葉にスパルタンは怪訝な顔をするが次の瞬間異常な気配を感じて飛びのいた。
「何だ一体?」
地異星スネイルの宴から放たれる気配はますます濃くなっていく。
「同じ地の星に地妖星パピヨンのミューという奴がいる」
「こいつは進化する魔物と呼ばれちょうちょうさながらに姿を変えていくのだ」
「しかし俺はそいつよりも強い」
「俺は進化などという面倒なことをせずに最強になれる」
「進化などしなくても俺は魔物なのだ」
違う場所から、同時に声が聞こえるような奇妙な空間がそこに作られていく。
「パピヨンは蝶、スネイルは蝸牛、貴様は蝸牛の魔物とでもいうのか」
「そうとも言えるな」
真後ろから声が聞こえてスパルタンは前に転がって移動した。
「貴様は…」
思わず絶句したスペルタンの見た者は、サリープスと同じ輝きを保ったまま移動してくる巨大な蝸牛だった。
「おや、この姿に驚くか」
「余程弱い相手しかしてこなかったのだと思われる」
眼の前の化け物が何なのかわからないままにスパルタンは攻撃を仕掛ける。
「ハンマークラッシュ!」
上から下へと振り下ろす念動力の攻撃は殻に阻まれてしまう。
「カッターブレード!」
柔らかく見える腹を狙ってナイフのような鋭い一撃が放たれる。しかし効いた様子はない。
「お前の攻撃は念動力に形と名前を与えただけのものだ。そんなんでは百年たっても俺は殺せねぇ」
「これで終わりだ。メルティモンスター」
巨大な蝸牛は重さを感じさせないように飛び上った。そのままスパルタンに向かって落ちてくる。はるかに広い範囲を移動では間に合わないと思ったスパルタンは瞬間転移でかわす。
「何だ、避けたのか。苦しむ時間が長引いただけだというのに」
押しつぶされただろう場所は強烈な酸を振りまいたように溶けていた。
「化け物め」
戦い方を思いつかないスパルタンは防戦一方に追いこまれていった。
ジラードは手についた血を丁寧に拭き取るとシヴァとアステリオンに向き直った。
「さて、相手をしてやろうさ。どちらから死にたい?」
「そう簡単にはやられん。千手観音拳!」
シヴァが先手必勝と技を放つ。高速の拳がジラードを襲うが、巨大な翼が一振りされるだけで弾かれた。
「こんな物」
「ミリオン・ゴーストアタック!」
背後に回ったアステリオンがジラードが気を取られた隙に技を放つ。しかしそれを気にした様子もなくまた一つ羽ばたいただけですべての攻撃が弾かれた。
「こんなもんで俺を殺そうなんて笑わせるさ」
他の善戦しているように見える聖闘士達と違って、2対1でも天の星であるロックとの力の差は絶大だと思える。シヴァは常にアゴラを背にかばうように、アステリオンはシヴァに攻撃されたらそれを横から防ぐように立ち位置を付けている。
ジラードは真面目とは言えない態度で、弄ぶように2人を見ていた。
「それじゃあ終わらせてやるさ。メテオインパクト!」
一瞬で天空に飛び上がったロックのジラードはそのまま2人に向けて急降下する。
しゅっ
横からの攻撃にジラードは体勢を崩して技を解いた。その攻撃とは聖衣の一部らしい円盤だ。
「御者座アウリガのカペラ、参上」
声高く名乗りをあげて七人目の白銀聖闘士が現れる。
「カペラ、お前」
アステリオンが驚きと困惑の声を上げる。
「聖戦に戦える聖闘士を寝かせておくなんて、野暮の極みだぞまったく」
カペラは笑って2人をかばうような位置につく。
「何人来ようと同じ事さ」
再び攻撃の構えを取ったジラードにカペラは円盤を投げた。
「アステリオン、シヴァ。俺がスパルタンとトレミーと一緒に使ってた技だ。出来るか」
カペラの声に即座にアステリオンが反応した。
「時間稼ぎでもやらないだけましだ。シヴァ、分かるか?」
「アステリオン、お前、私に何を」
「説明は後だ。行くぞ!」
円盤が突然無数に増えた。さらにすべてがジラードの攻撃行動を妨害するように様々な軌道を描いて動き回る。
「何だ、これは」
流石にジラードも驚いたのか円盤を避ける。しかし避けたはずの円盤が何故かジラードの背中に命中した。
「ぐっ」
声を立てず姿勢も崩さないが、ジラードは動けなくなっている。
それを見た地捷星ヴァルチャーのストライクは援護に駆け付けようとジャミアンにとどめの一撃を放つ。
「これで最後だ!」
最初よりも遙かに高く飛んだストライクはそのままジャミアンを追撃する。
「まだだ、俺は烏。烏ならば飛べるはず」
聖衣の能力を引き出そうと小宇宙を高めるものの急に目覚める訳はない。
「駄目か、駄目なのか」
落ちながら向かってくる禿鷲を見たジャミアンは自分を倒すために烏の群れを突きぬけて飛び上がったストライクを見る。しかし同時にある事に気づいたジャミアンは何とか相手の技をくらうまいと動く。その時かつて一輝にやられた時を思い出した。
「フェニックスほどでないにしろ白銀聖闘士何だ、出来るはず」
掌を前に叩きつけるように技を放つ。放たれた力は威力の弱い鳳翼天翔のようなものだった。墜落を防ぐ訳ではなく前に放たれた技はストライクの技の軌跡に入っていたジャミアンの体を少しだがずらす。
「ちっ」
「ぐぱっ」
ストライクは敵が直撃コースに入らないのを見ると手をのばしてジャミアンを掴みそのまま地面に叩きつけるように着地した。
「まだ小技を持っていたか」
「残念ながら見よう見まねの技だ。それでも多少の威力を持たせないと白銀聖闘士としては負けていられないがな」
直撃よりはダメージが薄かったので何とか立ち上がりながらジャミアンはストライクを見据える。
「小技がそうそう通じると思うな」
「思わないさ。だがこちらもこれで最後だ、くらえ、これが俺の技だ!」
ジャミアンの気合いと共に烏の群れを突き抜けたストライクの体についていた烏の羽がその動きを奪う。
「ブラックウィングシャフト!」
常よりも強く小宇宙をこめて展開していた烏の羽はさっき守りに回した羽よりも強く相手の体を包みこむ。
「くそっ烏ごときに」
「勝つのは俺だ!」
全身を覆われた地捷星ヴァルチャーのストライクの声を遮るようにジャミアンの一撃が決まる。
「ぐはっ」
本来なら一撃の蹴りを連打して完全に止めを刺す。黒い羽の塊は動きを止めた。
「やったぞ。待ってろ3人とも」
ジャミアンの声を聞いてスパルタンも覚悟を決めた。
「スネイルの宴だったか。他の地の星は倒された様だぞ」
「ふん。元々あいつらはあてにしていない」
「本来ならば俺一人で十分なのだ」
「ディーン様が手柄を立てさせるのに連れて来たにすぎん」
「それでも、聖闘士にはかなわなかったようだな」
スパルタンが響き渡る宴の声に反論するとぞわりと巨大蝸牛が震えた。こちらを睨んでいるような雰囲気を感じる。
「貴様を倒して他の奴らを倒せばそれですむ」
「くらえ、メルティレイン」
さっきとは違い吹きあげた粘液がすべてを溶かす雨となって降り注ぐ。
「ぎゃっ」
「何だ、これは」
ジャミアンやシヴァの声が聞こえた。広範囲に雨は降っているようだ。
「急がないと他の奴にも迷惑がかかる」
スパルタンは体に雨が降るのにも構わずに神経を集中した。そして一気に念動を解き放つ。
「サイコスパイラル!」
空間そのものを曲げるような強烈な念動力はスパルタンを包んで溶解液の雨を防ぎ、傘のように展開する。同時に尖った先端が蝸牛をえぐり始めた。
「何!」
「貴様、この身体は溶解液で出来ている」
「それでも平気なのか?」
宴の言葉にサイコキネシスのドリルを作り上げたスパルタンは無言で突き進んでいく。削られた肉が聖衣を溶かしていくがそれに構わずにただ前に進む。
「うおぉぉぉぉぉ!」
「さっさと死ねぇい!」
力任せに押し付けて行く巨大蝸牛にスパルタンはとにかく高速回転させることを考えてその位置から動かない。
周囲に溶解液をまき散らせているので他の闘士達は危なくて戦闘が中断されている。
「これならばどうだ!」
スパルタンは気合いを放つとそれまで平たかったサイコスパイラルの形を高く鋭い物へと変えた。開いた傘を閉じたようなイメージだ。
「守りを捨てたか」
「だがその程度では俺は倒せん」
乗り上げてくる地異星のスネイルに降り注ぐ溶解液を浴びながらスパルタンは吼える。
「その前に貴様を倒せばいい事!」
その咆哮に押されたように魔の蝸牛は一瞬動きを緩めたがそのままのしかかる。
周囲が見る中、突然蝸牛の進行が止まった。
「ひぇっひぇっひぇっ」
不気味な笑い声をあげて地異星スネイルの宴は人間の姿へと戻った。
「おっ死んだか」
スパルタンはぴくりとも動かない。
「スパルタン!」
ジャミアンが駆け付けようとしたその時、ぐらりと宴が倒れて仰向けになる。その胸には大きな穴があいていた。
「相打ちか」
天暗星カトバプレトスのディーンが呟いて立ち上がる。地の星が全滅し、天の星であるロックが動きが封じられているので動けるのはディーンしかいなかった。