聖戦の隙間   作:伊鬼名

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 続きは改変中です。バットとかケット・シーとかかぶっているので


白銀編4

『聞こえるか、アステリオン。返事をしろ』

 どれだけ立ったのか、アステリオンは目が覚めた。まず確認したのは天暗星カトバブレトスの冥闘士の場所である。さっきの場所から離れていないことから気を失ったのは一瞬だと分かった。石と化す視線で貫かれた時、アステリオンは半分賭けで自分の五感を遮断した。カトバブレトスは視線が合った相手を石にすると言う伝承がある。視線を合わせなければ何とかなるかも知れないと自分に放った技が成功したようだ。石と化したと思っている相手に奇襲をかけることも出来るだろう。

『やはり無事だったか、アステリオン』

「シヴァか」

 声なき声の姿を探せば、体を引きずりながらスターヒルに近づこうとしている戦友の姿が見えた。

「大丈夫か」

『喉はつぶれ体は満足に動かないが、大丈夫だ。それよりも頼みがある。お前の技を俺にかけてくれ』

「ダークネス・シールをか」

 シヴァからその通りというテレパシーが聞こえてきてアステリオンは首を傾げた。

 蓮座のアゴラと孔雀座のシヴァは乙女座の黄金聖闘士シャカの高弟である。実際にシャカは弟子に優劣は付けなかったので自称でしかなかったが、それは間違いのない物だとかつて思っていた。しかしその考えは一人の青銅聖闘士によって簡単に崩される。不死鳥座の青銅聖闘士一輝との戦いで、シャカがずっと自分たちの様子を見ていた事、そして相手が自分達の威圧で動けなくなっていたと思っていたのはシャカが見ていた為に感じられたシャカの威圧感だったという事が分かったのだ。シャカに悪意はなく、心配も含めて弟子の様子を見ていただけだったが、黄金聖闘士の小宇宙はあまりにも凄まじく、神に最も近いとされたシャカの視線はそれだけで十分に相手を動けなくしていたのだ。一輝はシャカに迷いを覚えさせたと言うが、一輝との戦いでシヴァとアゴラの中にも迷いを産んだ。そしてそれは今までの自信を根こそぎ持っていくどころか、一からすべてをやり直させるに十分な迷いだった。

 シヴァはそれから今までの倍、基礎の修行からやり直した。同時に今まで使っていた技も考え直す。千手観音拳は今まで相手をなぶることもしてきたとして、ただ一撃、最速の一撃で相手を苦しませないようにと孔雀明王光拳を編み出した。それでも決して迷いは晴れる事はなくただいたずらに苦行を続けるだけの日々だったと今は思う。

 そして、同じような苦しみを味わっていた兄弟弟子をシヴァは必死で守る。なぜならばアゴラはすでに五感を失っていた為だ。同じ敵と戦い同じ迷いを抱いたとしても個人でその考えは違う。元々禅を組み自分の内側から悟りを開こうというアゴラは思いつめる部分があった様だ。それは自分の五感をつぶそうと拳を振るおうとしたことからも分かった。危うく気づいた兄弟弟子たちが止めなければ勢い余って絶命しただろう、そう思えるだけの小宇宙を放って自分に放たれた技は結果として修行所の床にクレーターを作るだけで済んだ。今まで悟ったと思い、罪悪感がなかったところに潰されそうな呵責が襲ってきたのだろうと思われたがシヴァにはどうしようもない。せめてもの慈悲と天舞宝輪で五感を封じてくれるようにと師に願うのが精々だった。もちろん、第六感に優れたアゴラが日常生活に困ることはない。そして封じられた五感の為にその小宇宙は高まり続けていた。

 最後に彼らが縋り自分の償いとしたのが聖闘士としての自分だった。かつて聖闘士を心から信じていたあの少女の心を二度と裏切りたくない。この聖戦は二人の白銀聖闘士にとって最後の贖罪のチャンスだった。

「ワン・ファントム・ストライク!」

 アステリオンの声が響き、先ほど砕けた冥衣の近くが砕かれる。

「まだ生きていたのか」

 天暗星カトバブレトスのディーンは意外そうな目でアステリオンを見た。自分の技を受けて立っているのが信じられないようだ。

「例え白銀聖闘士とはいえそうそうやられはせん」

 アステリオンの姿がぶれ、数十人のアステリオンが生まれる。

『さあ、相手してもらおうか』

 本来は技をかける時の分身を戦いに組み込んで相手を翻弄しながら最後の一撃をかける隙を待つ。

「この程度の技が効くと思ったか?ヘヴィインパルス」

 ディーンの地面に叩き付けられた拳から衝撃波が走る。それは全方向に広がり、地震となってアステリオンのすべての分身をつぶす。

「むっ」

 アステリオンの分身がすべて消えるとそこには誰もいない。

「どこへ行った」

「ここだっ」

 アステリオンは最後の瞬間空中に飛んで地震を避けそのままカトバブレトスの冥衣の真後ろ、死角になる位置に取り付いていた。

「この位置ならば何も出来ないだろう。はぁっ!」

 得意とする必殺の威力の蹴りを冥衣を砕けよと叩き込む。

「ちょこまかと煩いな」

 カトバブレトスのディーンは振り落とそうと体を揺するが、アステリオンの腕はしっかりとディーンの巨体を掴んでいた。

 

 蓮座ロータスのアゴラはただ瞑想して最初に作った黄金の壁でスターヒルを守ることに専念していた。五感を師に剥奪され、闇の中ただ自分の罪を見つめる日々を過ごす彼にとって、聖闘士として小宇宙が高まるのは喜ばしいが、小宇宙が高まることで逆にすべてが心眼で察知できるようになりただ瞑想に専念できるようになったと言う訳ではなくなかったが。

 白銀聖闘士、琴座のオルフェが白銀聖闘士でありながら黄金聖闘士に匹敵する実力を持っていたという事からも分かるように、その力の差はない場合も多い。五感を閉じたアゴラの小宇宙は、敗北を喫した一輝と同じやり方で黄金聖闘士に迫るまでになっていた。

『アゴラ、聞こえるか』

『シヴァか?どうした』

 兄弟弟子の声が聞こえてアゴラは少し驚いた声を上げた。こうなってから今まで必要最低限の事を除き、この兄弟弟子が声をかけてくる事はなかった。

『アステリオンが時間を稼いでくれている。一気に決めるぞ』

『どうする気だ』

 アゴラはこの兄弟弟子が自分を気遣っている事を知っていた。同じ敵に負け、同じような苦しみを味わってもやり方は異なり、シヴァは苦行として肉体を苛め抜くことで、アゴラは精神を集中し瞑想を続けることで自分を鍛えなおそうとした。そんな中、アゴラは思考がマイナスに落ち込んだ事もあった。今までが自信過剰と言うほどに揺るがなかった反動で脆くなっていたのだろう。五感を閉じてただ瞑想にふけろうと拳を固めた事もあった。結果は別の弟子に止められられたのだが、それ以後シヴァはアゴラをよく注意しているのは分かった。瞑想に集中できないような雑事を引き受けてくれたし、今回の戦いの役割も他の聖闘士達と代わって協議してくれた。それはアゴラにはとても有難かった。心眼ですべてを見抜く能力を持っても実際に花の色を、香りを理解できるかというとそれは違う。すべてを超越した小宇宙だとしても五感で感じなければ分からない事もある。頭で理解しても体で理解でしなければ分からない事はあるのだ。

 そんなシヴァの頼みをアゴラは断る気はない。承知と返事をするとただその時を待った。

 

 アステリオンがしつこくディーンにしがみついて攻撃を加えたのはシヴァがスターヒルにたどり着く時間を稼いでいた為だ。アステリオンは自分が他の聖闘士達との修行で実力が劣っていることに気付いた。これは同じ白銀聖闘士に負けたアステリオンと、青銅聖闘士に負けたのとの差が出たとも言える。その時は一二宮を突破するとは思えなかったのでそれぞれが二度と青銅に負けまいと修行した。しかし同じ白銀聖闘士に負けたために実力の差はそこまでないと思い、敗北の原因であり一番の得意である精神の修行はやったが他の技の修行は一つだけしかやっていなかった。だからこそ、時間稼ぎの手としてなりふり構わない戦い方をしている。編み出して威力が今までの何倍もなった必殺技でも他の面々の命を懸けた技には敵わない。ならばサポートに徹すると決めた行動だった。

「面倒だ。これで終わりだ」

 天暗星カトバブレトスのディーンは何を思ったか自分の体に両の拳を当てる。

「ヘヴィインパルス」

「ぐはぁっ」

 アステリオンは届かないはずの場所で衝撃波に貫かれた。

「馬鹿な」

「ふん。普通の人間ですら武術の達人は鎧を超えて肉体に打撃を与えるのだ。衝撃波を放てる俺が出来ない道理はない」

 落ちたアステリオンの傍に近づいたディーンはその体の上に足を乗せる。

「また出て来られると面倒だ。しっかりとどめを刺しておいてやる」

 最初に放った時と同様足から技を放とうとしたディーンの目に飛んでくる物があった。

「うむっ」

 危険を感じて掴んだそれは光を宿し続ける烏。

「烏とは。まさかジラードはやられたか」

 烏に宿る光は手を焼きディーンは慌てて烏を投げ捨てる。

『これでお前も終わりだ。孔雀万華鏡』

 突然背にしていたスターヒルが今までとは違う輝きを放つ。その根元にいるのはスターヒルの下で座禅を組む孔雀座の白銀聖闘士シヴァだ。黄金の壁に、白銀に縁どられた虹色の孔雀の尾羽が壁画として描かれたように輝く。

「ほう、美しいが、この男を助ける役には立たんな」

『否。既に助けた』

 踏みつぶそうとした猟犬座の聖闘士を見ればそこには小宇宙で作られた輝く尾羽があった。反対に壁に映っていた羽が一枚消えている。

『残り八枚が君の命のカウントだ。第二羽っ『バン』』

 孔雀明王の梵字が浮かび上がり、一枚の尾羽が抜けるように浮かび上がると一瞬で矢のようにディーンへ突き刺さる。

「うぐっ」

 光の矢と化した尾羽に貫かれて今までにない衝撃を受けるカトバブレトスの冥闘士にシヴァは二撃、三撃と加える。

「ふんっ」

 天暗星カトバブレトスのディーンは突き刺さるシヴァの攻撃に構わずに黄金に輝くアゴラが産んだ壁に拳を叩き付ける。しかし今度は揺らぐ気配もない。いつの間にかシヴァも壁の向こうに入っている。

「俺を倒すまでの間守りを高める気か。しかし直接攻撃が効かんなら別の技を使うまでよ」

 シヴァの前に立ったディーンはカトバブレトスの能力を開放する。

「ゴルゴンアイズ」

『笑止。我らはすでに五感を封じてこの場にいる。お前の命が絶えるまではどんな攻撃も効かん』

 シヴァの声なき声が響きディーンは思いついたように体を起こした。

「そうか、確か乙女座の黄金聖闘士がそんな方法で小宇宙を高めていたな。するとお前達はそいつの弟子か何かか」

 冥王軍は一番の敵となる黄金聖闘士か気になる聖闘士がいる以外には興味をもたないようだ。すべてを見下している冥闘士らしいと言えばそうだが、ディーンはさらに言葉を続ける。

「そっちの聖闘士は最初から凄まじい小宇宙を蓄えていたが、お前はさっきまでそうでもなかった。さてはさっきの猟犬座の聖闘士の技をかけられたか」

 天の星という地位は伊達ではないのかシヴァの技を素早く見抜く。

『お前も同じだろう。カトバブレトスとは頭が重く相手を睨むのに首を上げるという動作を行う。それと同じようにお前の技もまた小宇宙を貯めるのに一瞬の隙が出来る。そして、我が技が分かってもお前を倒すことは間違いない。第五羽!』

 シヴァから放たれた突き刺さる尾羽をものともせずディーンは言葉を続ける。

「これだけの威力、まさしく命を削っているのだろう。だが恐らくこの技は九枚の羽を使うことが相手を倒す条件のはず。死にぞこないを一人助けた分ダメージはない」

 ディーンはそうシヴァに告げるとかがみこんで顔を覗き込む。

「高々白銀聖闘士の技が俺に敗れないと思ったのか。黄金聖闘士を倒すには不足かもしれんが、白銀聖闘士ならば一瞬で十分だ。ゴルゴンアイズ」

 今までと違って小宇宙を素早く蓄えた視線を合わせるように天暗星カトバブレトスのディーンの技が放たれ、それは隠されたシヴァの視覚を打ち抜く。

『うわぁぁっ』

 シヴァは強大な小宇宙を注ぎ込まれ体が石へと変わっていくのを感じた。

『ならばせめてっ『バン』』

 完全に石に変貌する前にとシヴァの小宇宙が解き放たれる。一斉に残りの孔雀の尾が飛び出しカトバブレトスに向かって飛んでいく。

「ふんぬっ」

『くっこれまで…』

 守りに徹し体に力を込めるディーンの前に最後の一本が突き刺さることなく消えていく。

「さて、邪魔者は消えた。最後はお前だけだな」

 完全に石となった孔雀座の聖闘士を見ようともせずカトバブレトスのディーンは蓮座のアゴラを見る。

「む、これは」

 目の前にあった光の壁がディーンの左右にも展開している。

「守りを固めてやり過ごす気か。そんな消極的な事では勝てんぞ」

 ディーンは壁に手を当てるとアステリオンを倒した時のように技を放つ。

「ヘヴィインパルス」

『ぐはっ』

 壁を通り越して直接敵の体を攻撃するその技はアゴラの体を打ち抜く。

「これで終わりだ」

 天暗星カトバブレトスのディーンがスターヒルごと壊そうと小宇宙を高めた時、

『守りではない。攻撃だ』

 蓮座の白銀聖闘士アゴラの言葉が響く。

『アーク』

 大日如来の梵字が輝き、ディーンは光の壁が自分の周囲を覆っていることに気付いた。

「こんな物、一瞬で壊してやろう」

 ディーンは黄金聖闘士以上に膨れ上がった小宇宙をそのまま解き放つ。

「ヘヴィインパルス」

『アーク』

 技が放たれたその時を計ってアゴラの技が一層輝く。

「ぐばあっ」

 ディーンは柱状になった黄金の壁の中で跳ね返り、

 

グシャッ

 

 地面に落ちた。

「馬鹿な、あれしきの壁を壊せないとは」

『自身の力を過信したな。この技は壁ではない。鏡となってお前の技を跳ね返しただけだ。お前は自分の技によって滅ぶのだ』

「ふっ自分の技で死ぬか。お前にやられるよりはまし…だ」

 アゴラの声に自嘲して倒れる天暗星カトバブレトスのディーン。それを感じながら、アゴラは胸の奥から沸き上がってくる血を飲み込んだ。飲みきれない血が口端から流れる。

『さすがに天の星、凄まじい小宇宙だった』

 突然それまでスターヒルを覆っていた壁が消え去りアゴラもまた前倒しに倒れる。

「おおい、誰かいないのか、生きていないか」

 そんなのんきな声が響き杖にすがりながら王錫座の白銀聖闘士パエトンが歩いてくる。

「皆死んだのか?いや、我らアテナの聖闘士は簡単に死なん」

 パエトンはまた杖を突きながら仲間を手助けすべく探しに近づいて行った。

 


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