赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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旧校舎のディアボロス
第1話


 まだ雪もちらつく寒い夜。夜空に闇が生まれる。

 

 「よっと」

 

 闇から降りてきた少年は黒い短髪にややつりあがった黒目をしていた。

 少年が周りを見回し、電柱にある文字に目を止める。

 

 「駒王町二の一ね。くおうちょうって読むのかな」

 

 「そのようですね。ザンさま」

 

 「うおっ!?」

 

 ザンと呼ばれた少年があわてて声がした方に目を向けると、三十センチほどの東洋の龍が浮いていた。

 

 「コウ!? お前、ついてきちゃったのか」

 

 「はい。あの状態で見送るような薄情なことはできませんよ。なんと言ったって、あなたは…」

 

 コウが言い終わる前に口をつかんでしゃべらなくするザン。頭をガシガシ掻いていたが、諦めたようだ。

 

 「わーかったよ、もう。本当にお前どうするんだよ、帰れないだろう?」

 

 「いいえ、特別な許可を得て来ているので、私は帰れますよ? 帰るつもりはありませんが」

 

 「特別な許可って? まさか…」

 

 「はい、マザードラゴンさまから正式に許可をいただいております。この世界であなたが不自由しないように、三つの願いを叶えるまではお側におります」

 

 「三つの願いねぇ…。そうだ、この世界に来たばかりなんだ。衣・食・住を確保してくれ」

 

 「はーい、承知しました」

 

 コウの目が光ると、ザンの前に一枚の紙と通帳、印鑑、キャッシュカードのセットが現れる。

 それらを拾い、紙を見ると記されていたのは簡略した地図と住所だった。

 

 「ありがとうな、コウ。これで何とかなりそうだ。じゃあな、元気でな!」

 

 そう言って歩き始めるザンを、慌ててコウが追いかける。

 

 「ちょっと待ってくださいよ、ザンさま! 置いて行かないでください!」

 

 「え? 三つ願い叶えただろう? もう帰るんだろ?」

 

 「衣食住でワンセットですよ! それとも、私がお供するのはお嫌なんですか…」

 

 泣きながらついて来るコウに嘆息し、止まってザンはコウの頭を撫でた。

 

 「いや、そうじゃないんだけどさ、えーっと…。ほら、この世界のことはわからないだろう? すぐに帰ることができるならいいじゃないか。そうだな。元の世界に帰るゲートを開いてくれ」

 

 「無理ですよう。世界に干渉する力は、私にはありません」

 

 「でも、さっき衣食住確保したろ? あれだって、立派な世界に干渉しているだろう」

 

 「あれは元より用意する予定だったものです。なので大規模な干渉をするまでには至たりませんでした」

 

 ふん! と言わんばかりにドヤ顔しているコウをみて、ザンは若干イラっとしているようだ。

 

 「…まぁ、いいか。ただ、この世界では龍がいないかもしれないから、気をつけてくれよ?」

 

 「はーい。大丈夫ですよ。こうしますから」

 

 コウが一瞬光ると、姿が消えていた。代わりにザンの左手首に純白の腕輪が輝いていた。

 

 『これで大丈夫ですよね。じゃあ、いきましょう!』

 

 ポリポリと頬を掻き、諦めた顔をするザンではあったが、顔を上げ、歩き出した。新居を目指して。

 

 「さーって、こっちかな」

 

 

-○●○-

 

 

 ザンがこの世界に来た翌日、引越しの挨拶の為に外に出た。

 角地のおかげで左は無し。ザンが右隣の家のインターホンを押したが、返事が無い。山田邸は留守のようだ。

 他に予定には無かったのだろう。ため息をついたザンは、もうひとつ先に行く事にした。

 ザンは、表札に「兵藤」とある家のインターホンを押した。

 

 『はーい』

 

 「おはようございます。昨日越してきました桐生と申します。ご挨拶に伺いました」

 

 『少々お待ちください。今出ますので』

 

 少し待つと、ザ主婦といった感じの女性が出てきた。

 

 「お待たせしました。兵藤です」

 

 「昨日越してきました桐生 斬と申します。よろしくお願いします。お気に召すと嬉しいのですが、どうぞ」

 

 言いながらザンは持ってきた袋を差し出した。

 

 ―あれ?言い終わってから出したほうがいいんだっけ?―

 

 「わざわざどうも。お若いのにしっかりしているのね。ウチのとは大違い。桐生さんはおいくつになるのかしら?」

 

 「十六です。四月に駒王学園に編入する予定です」

 

 「あら、ウチのイッセーと同い年ね。二年生から編入するのは大変でしょう。もしイッセーと同じクラスになったらよろしくね」

 

 「はい。こちらこそお願いしたいです」

 

 ―やれやれ、同い年か。同じクラスになったら面倒だな―

 

 「では、失礼します」

 

 ザンは一抹の不安を感じながら自宅に帰ることにした。

 

 ―さて、ここは平穏無事な生活は送れるかな? 変な気配もあるし―

 

 

-○●○-

 

 

 ピンポーン。

 昼食後に惰眠を貪っていたらインターホンがなった。ザンは宅急便が来る予定は無いと訝しんでいた。

 

 「はい」

 

 『兵藤 一誠なんだけど、桐生 斬さんはいますか?』

 

 「斬は私です、少々お待ちください」

 

 ―さて、何の用かなぁ。ま、聞くしかないか―

 

 「お待たせしました」

 

 「俺は兵藤 一誠だ、よろしくな」

 

 人懐っこい笑顔を浮かべ、右手を差し出す少年。ザンも笑みを浮かべて握手する。

 

 「桐生 斬だ。ザンでいいぜ。よろしく」

 

 「俺もイッセーでいいよ。みんなにそう呼ばれているし。今度駒王学園に編入するって聞いたからさ、学園まで案内しようかなって」

 

 ―へぇ。前にいた世界にはこんな世話焼きいなかったけどな。イイヤツなんだな―

 

 「助かるよ。これからかい?」

 

 「ああ。予定があるなら別の日にでもいいけど」

 

 「いや、特に予定も無いし、お願いするよ」

 

 イッセーを先頭に、ザンは学園を目指すことにした。

 

 

-○●○-

 

 

 四月まで一ヶ月ちょい、イッセーはザンをいろんなところに案内した。

 ザンは最初こそ警戒もしたが、いろいろ話しているうちにそんなものも吹き飛んだ様だ。

 

 「来週から駒王学園行くけど、向こうでもよろしくな、イッセー」

 

 「おう。同じクラスならいいな。絶好のスポットも教えてやるよ」

 

 ―絶対ロクなスポットじゃないのはわかった。1ヶ月ほどあると、ある程度わかるもんだ―

 

 「…覗きはいかないぞ、イッセー」

 

 「覗きじゃねーって。見えちゃうだけだから」

 

 たいして変わらないと、ザンは肩を竦めた。どうやらイッセーはそっち方面に特化しているらしい。またイッセーから聞いた話じゃ他にも二人もいるらしい。

 出来るだけ目立ちたくないと考えていたザンは、編入初日の挨拶を考えておくことにした。

 

 

-○●○-

 

 

 『今日からクラスのお友達が増えます~。喜べ、ガールズ。残念でした、ボーイズ。さてさて、どんなイケメンがくるかな~? どうぞ、入って~』

 

 教師のあおり方に、この世界の教育現場が荒れている事をザンは実感していた。正直、足は重い様だ。

 ザンは若干緊張しながら扉を開け、教壇の先生の隣に立つ。

 

 「本日編入しました、桐生 斬です。よろしくお願いします」

 

 そういい終わって頭を下げる。

 

 ―あれ?なんか静かなんですけど?何か間違った?―

 

 ザンがそーっと顔を上げると、甲高い声が上がった。

 

 「「きゃー、イケメーン!」」

 

 「「野性味のある、その目! いい! こっち向いてー!」」

 

 「「今年初めていいことが起こった!」」

 

 「「あの三バカと同じクラスであることを神に呪ったけど、今は感謝します! 神さま!」」

 

 「「木場きゅんのいい相手ができたわ! 創作意欲がマックスよ!」」

 

 ―…最後のはよくわからんけど、概ね受け入れられたらしい。所々、イケメン死すべしって聞こえるのんだけど…―

 

 「これから桐生くんへの質問ターイム。何か聴きたいこと無いかな~?」

 

 ―勘弁してください、先生。普通、編入生に席を教えて、授業に移行するタイミングじゃない?―

 

 やたらとノリの良い教師のおかげで、教室は未だにホットな状態だ。眼鏡をかけた一人の女子が手を挙げた。

 

 「私は桐生 藍華っていうの。同じ苗字で紛らわしいから、藍華でいいわ」

 

 「ありがとう、藍華さん。俺のことも、ザンでいいよ」

 

 ザンがにっこり微笑みながら答えたら、何人かの女子がポッと顔を赤らめていた。

 藍華のを皮切りに、女子が全員手を挙げる暴挙に出た。ザンは引きつりながらも、それぞれの質問に答えていた。それとは別に、ザンは疑問を持っていた。

 

 ―それにしてもこのクラス、女子率高くないか? カンベンシテヨ―

 

 

-○●○-

 

 

 ホームルームも終わり、授業が始まる前にイッセーがザンに話しかけてきた。

 

 「よう、ザン。同じクラスでよかったな」

 

 「おう、ありがとう。知り合いがいることは助かるよ」

 

 「「何だ、知り合いか? イッセー」」

 

 そう言って、さわやかスポーツ少年と眼鏡の二人組みが来た。

 

 「ああ、2月過ぎに一軒はさんだ隣に引っ越してきたんだよ。ザン、丸刈りが松田、眼鏡が元浜だ」

 

 「「ザックリした説明だな!」」

 

 ―…すまん元浜くん、俺の君に対する第一印象も、眼鏡だったよ―

 

 「よろしく、松田くん、元浜くん」

 

 「だめよ、ザンくん。この三人と話しちゃ。この三人は…」

 

 そう言って隣の女生徒が肩に触れた時だ。

 

 「はうっ!」

 

 ザンが一際大きな声で叫ぶと、全身に鳥肌が立ち、白目をむいて硬直していた。

 すわ一大事だと、イッセーと松田、元浜がザンを担ぎ、保健室まで連れて行った。その後この事を聞いたザンは、この3人に感謝したらしい。

 

 

-○●○-

 

 

 休み時間だろうか、教室が若干ざわついている。ザンは朝一の挨拶の時より緊張した面持ちで扉を開けた。

 

 「ザン、大丈夫か?」

 

 イッセーが心配そうな顔をして、ザンに声をかけた。

 

 「ああ、大丈夫だ」

 

 そう言ってザンは教壇に立つと、頭を下げた。頭を上げると、ザンは神妙な面持ちで口を開いた。

 

 「さっきは驚かしてすまなかった。知られずに済んだらそれで良いと思っていたんだけど、そうもいかないようだ。実は…」 

 

 ザンは、口に溜まった唾を一旦飲み込むと続ける。

 

 「実は俺、女性恐怖症なんだ。女性が怖くてしょうがないんだ。さっきの子には悪いんだけど、女性に触られると、最悪気を失ってしまうんだ」

 

 ―学園生活は初日で終わりかな。避けられるか、奇異の目で見られるかどっちかだろう―

 

 ザンは自分でも分かるぐらい落胆していた。しかし、その予想は外れた様だ。

 

 「何だ、そうだったのか。もっと早く言えよ。何か深刻な病気かと思ったぞ」

 

 ―病気とは違うかもしれないが、深刻なんですけど…―

 

 「もう、私がザンくんに何かしたって、皆に攻められてたんだから」

 

 そう言っている女生徒は、怒っていないようだ。満面の笑みで、そのまま続ける。

 

 「でも大丈夫よ。私たちでゆっくり女子は良いものだって教えてあげるから」

 

 気のせいか、ザンにとってその笑みは、悪魔の笑みに見えていた。目は輝き、口は上弦の月の様だ。何故だろうか。ザンには他の女生徒も皆同じ表情をしている様に見える。

 

 「そこはお前ら女子ではなく俺らの出番だろう。女体の神秘を大量の資料で教えてやるぜ」

 

 「「三バカは黙ってて!」」

 

 ザンは、涙を堪えるので精一杯だった。自らの考えすぎなのか、それともこのクラスがすごいのか。

 

 「ということは、ザン君はBLで決まりね」

 

 恐ろしい一言があり、ザンは全力で首を横に振っていた。

 

 ―いきなり最大のピンチを迎えたけど、クラスの皆に救われたな―

 

 ザンは、その時は本当にそう思っていた様だ。次の言葉が出るまでは。

 

 「じゃあ、まずは指で触れてみようかな?」

 

 藍華が悪魔の笑みを浮かべながら、チョンと人差し指で俺の頬を触れる。

 

 「はうっ!」

 

 …また、ザンは保健室へ直行だった。

 

 

-○●○-

 

 

 駒王学園。現在でこそ共学だが、数年前までは女子校であった。そのせいもあり、男女比は女性側に傾いている。おおよそ男女比は二年生で三対七、三年生で二対八となる。どう考えても、ザンには厳しい環境である。

 

 「まったく、何で駒王学園だったんだよ…。どう考えても、嫌がらせだろう」

 

 『そんな事はありません。マザードラゴンさまも、きっとザンさまに克服して欲しいとお望みなのでしょう』

 

 「あのなぁ…。劇薬って、悪影響出ると酷いんだぞ。…ん?」

 

 帰り道に、端から見ると独り言を言い続ける少年の周りが霧で覆われる。公園に入ったすぐの事だ。

 

 「くっくっく。うまそうな人間がかかりおったわい」

 

 顔は全身の半分もあり、四角く真っ赤であった。昆虫のような三対の足がうごめいている。何より、ザンの三倍はある巨体の持ち主だった。

 

 「コレは、昆虫なのか?」

 

 「最近のエサは、礼儀がなっておらんのう。いきなり昆虫呼ばわりか」

 

 手で顎をしごきながら、ザンに近づいていく。手は鋭角ながら、人間の手のようでもあった。

 

 「まぁよい。エサに腹を立てても仕方が無いものなぁ。人間よ、我が名は…」

 

 「間に合ってます。では、俺はこれで…」

 

 名乗りを聞かず、何事も無かった様に立ち去ろうとしたザンを思わず見送るところであったが、我に返り怒りを露にさせた。

 

 「エサの分際で、生意気な! よかろう、一思いに喰ってやろうぞ!」

 

 しかし、この言葉が最後であった。自らこそが強者であると疑う事もせず、名を名乗る事も出来なかったモノは、ザンの身体がブレたのと同時に手足を切られ、頭が真っ二つの状態となっていた。ザンは返り血すら浴びていない。

 

 「やれやれ、物騒だねぇ、この世界も」

 

 『そうですねぇ。魔戦騎クラスじゃなくて良かったじゃないですか』

 

 「当たり前だ! そんなのが出てきたら、この一帯は火の海じゃないか」

 

 『確かに、この近くの住民は全滅してしまいますものね』

 

 「あ! 今日は肉の特売日だったじゃないか!売れきれる前に…」

 

 ザンはスーパーのチラシを思い浮かべ、公園を走り抜けて行った。

 

 …三十分後。

 

 「B級とはいえ、あのはぐれ悪魔は魔法の霧を使い、追っ手からの追跡をことごとく振り切っているのよ! この私の管轄でのさばらせる訳にはいかないわ。私の使い魔が、この公園で見つけたのよ」

 

 「あらあら、どうしましょう?」

 

 焦っている声と暢気な声が公園に近づいてくる。中心部に到着した紅髪の少女と黒髪の少女は声を失った。

 

 「…ど、どうなっているのよ!?」

 

 「どうやら、先に手を下した者がいるようですわね」

 

 無残な肉塊となったモノを目の当たりにして、紅髪の少女は苛立ちを隠さなかった。

 

 「誰よ!? 私の獲物を! 私の管轄で好き勝手して!」

 

 「あらあら、まあまあ」

 

 …結局、このはぐれ悪魔は最後まで名前が語られる事は無かった。

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