赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第3話

「あら桐生くん、いらっしゃい。イッセーは出かけているわよ?」

 

「こんにちわ、おばさん。いえ、部長に話がありまして」

 

「ああ、リアスさんね。ちょっと待って」

 

 リアスを呼びに、イッセーの母親が二階へと消えていった。少しすると、イッセーの母親だけが戻ってくる。

 

「桐生くん、上がって。リアスさんは部屋にいるから通して欲しいって。後で飲み物でも持っていくわね」

 

「いや、お構いなく。すぐに帰りますんで」

 

 ザンはそのまま二階へ上がると、ある部屋の前に止まる。リアスがホームステイしている、その部屋の扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

 リアスの声を聞き、ザンが扉を開け部屋に入ると、リアスはベッドに腰掛けていた。

 

「あの日以来ね、ザン。それで、今日は何の用かしら?」

 

 リアスの言葉には険があった。どうやら部室でのザンの態度について、リアスは腹に据えかねるようだ。

 

「キミには話しておこうと思ってね。…だが、迷惑だったようだ。帰るよ」

 

「何よ! 用があるって電話してきたのは、あなたの方じゃないの! 言葉にトゲがあるわよ!」

 

「それはキミだって…!」

 

「はいはい、そこまで」

 

 飲み物をお盆に載せたイッセーの母親がノックをせずに入ってきた。

 

「お互いに思うところがあるかもしれないけれど、話しをしたくて会っているんでしょう。桐生くんは違うの?」

 

「い、いえ、違いません」

 

「リアスさんは?」

 

「いえ、お母さまの言う通りです」

 

 二人の答えに、イッセーの母親は満足そうな笑みを浮かべた。ザンは右手で頭をかき、リアスは恥ずかしそうに俯いている。

 

「若いっていいわねぇ。いい? あなたたちは、貴重な時間を共有しているの。今はそう思えないかもしれないけれどもね。すれ違いばかりしていると、心も離れていってしまうわ。お互い、もう少し素直になりなさい。じゃあ、私は下にいるから。何かあったら呼んでね」

 

 微笑みながら扉を閉めるイッセーの母親を、ザンとリアスは頭を下げて見送った。頭をあげ、顔を見合すと互いにぎこちない笑みを浮かべていた。

 

「敵わないなぁ、おばさんには。…すまなかった」

 

「いいえ、私のほうこそごめんなさい。…よしましょう。お母さまも仰っていたけど、時間は貴重よ。お互い謝りあっていてもしかたないわ」

 

 肩をすくめるリアスに、ザンも苦笑していた。

 

「そうだな。話しておきたかったのは、魔王たちと戦った後に、魔王から言われた事についてだ」

 

 自分の兄でもある魔王がザンに何を話したのか興味を持ったリアスは、姿勢を正した。

 

『キミのその力は、世界に大きな影響を与えるだろう。だから、なるべくキミは全力で戦わないほうがいい。キミを知った天使や堕天使が、または私たち魔王の命令に背くものたちが、キミの力を手に入れようと押し寄せてくる可能性がある。短絡的な考え方をする者がいれば、キミを亡き者にしようとする輩も出かねない。最悪な場合、キミを発端として、戦争が再燃しかねないのだ。思うところもあるだろうが、なるべく力を見せないで欲しい』

 

「お兄さまが、そんな事を…?」

 

 信じられない表情のリアスに、ザンは無言で頷いた。

 

「そう。確かに、お兄さまたちと戦う事になっても無事だったのだものね。でも、それなら何故あの時に話さなかったの? 皆がいるときに話せばよかったじゃないの」

 

「そうかもしれないが…、俺は怖かったんだろうな」

 

「怖かった?」

 

 首を傾げるリアスに、ザンは頷いた。

 

「ああ。皆から拒絶されるのが怖かったんだろう。今思うとな、俺が仲間だと思っていた人たちから、バケモノ扱いされるのは怖かったんだよ」

 

「ザン…」

 

 リアスはザンの頬へ手を伸ばそうとしたが、思いとどまった。その姿を見て、ザンは苦笑していた。

 

「女性恐怖症も治したいんだが、なんともなぁ。…さて、そういう話だから、できるだけ俺は力を出さないようにしようと思っている」

 

「わかったわ。この駒王町の事は、私に任せて」

 

 胸を張り笑みを浮かべるリアス。ザンもつられて微笑んでいた。

 

「ああ、頼むよ。…さて、話したい事はもう一つあるんだ。イッセーたちの事だ」

 

「あの子たち、何かやっているでしょう?」

 

 眉を八の字にし、困った保護者のような表情をするリアスだった。その様子にザンは笑みがこぼれる。

 

「ははは。…あいつらは今、聖剣エクスカリバーの破壊をしようとしている。もちろん、木場を救う為だ。この間来た、あの教会の二人組みと共に、だ」

 

「まったく! あの子たちは!」

 

 柳眉を逆立てて怒り立ち上がろうとするリアスを、ザンは手で制した。

 

「怒るのはわかるが、少し待ってくれ。悪魔の社会への影響を恐れるのはわかる。でも、あいつらも大事な時期なんだ。イッセーも小猫も、そして木場も。少しだけでいいから、見守ってやってくれ」

 

「でも、相手は聖書にも記されている堕天使なのよ!? 無事では済まないわよ!?」

 

 声を荒げるリアスに、ザンはトーンを下げるようにジェスチャーする。

 

「わかっている。俺が影からあいつらを見張るようにする。もし、あいつらの手に負えないようであれば、俺が出て行く。例えコカビエルが現れてもな」

 

「でも、お兄さまから言われているのでしょう?」

 

「なに、イッセーたちを逃がすだけなら、大丈夫だろう」

 

 リアスは首を横に振っていたが、ため息をついた後渋々了承した。

 

「わかったわよ。ただし、イッセーたちが戦闘を行うのは一回だけよ? それが聖剣の破壊にたどり着かなくても、私は出て行くからね」

 

「ああ、それでいい。…じゃあ、俺はイッセーたちの監視に行く。イッセーたちには気付かれるなよ? このことは口にも出すなよ?」

 

「はいはい、わかってるわよ。もう、私をアホな子かなにかと思っているのかしら?」

 

 リアスの愚痴に、ザンは苦笑しながら部屋を後にした。ザンは決してリアスを過小評価していない。ただ、多少抜けている所がある事を知っているだけだった。

 

 

-○●○-

 

 

 あれから数日間、イッセーたちは神父の格好をして町を探索していたが、成果はゼロであった。

 

「神父の服を着て、悪魔はダメージを受けないのかね?」

 

『清められた聖衣では無いようですから、大丈夫なのでしょう。胸に十字架をかけておりますが、特に問題あるようにも見えません。法儀礼されていないイミテーションなのでしょう』

 

「だが、悪魔の気配は薄まっているようだ」

 

『それは、あの神父の服にあるようですね。なるほど、その為の格好ですか』

 

「それに、神父が殺された事件があった。恐らく、敵の仕業なのだろう。イッセーたちは、自分たちをエサにしているようだな」

 

 駒王町で最も高い建物の屋上にザンは立っていた。イッセーたちと直線距離で二百メートルほど離れている。

 今日も収穫無しかと思われた矢先、白髪の男が白刃を煌かせ頭上から襲いかかろうとしていた。

 

『ザンさま』

 

「ああ、イッセーたちの涙ぐましい努力が実ったようだ。これから気配を消して接近する。頼むぞ」

 

『はい』

 

 ザンは屋上から飛び降りると、建物の半分ほど落ちたところから壁を蹴り、隣の建物の屋上に降り立った。それらの動作には、音一つ発生しない。そのままザンは走り出し、隣の屋根へ飛び移ると屋根伝いにイッセーたちが交戦している現場へと急いだ。

 

 ギィィン!

 

 木場が作り出した魔剣でその一撃を防ぎ、その白髪神父―フリード・セルゼンとイッセーや木場、小猫に匙の戦いが始まった。

 

 ―へぇ、匙の『神器』もドラゴン・タイプというものらしいな。攻撃がすり抜けるのか、面白い。しかし、ただ絡まるだけなのかな?―

 

 気配を消したザンが見守る中、戦いは続く。イッセーが倍加した力を木場に譲渡し、『魔剣創造(ソード・バース)』によりありとあらゆるところから魔刃がフリードを襲うが、フリードはそれらの攻撃を横薙ぎに破壊していった。

 

 ―ふむ。あの白髪頭、あれほどの動きはできなかったはずだが。聖剣の力か?ー

 

 フリードは回りに迫る魔剣を全て破壊すると、木場へ切りかかった。木場の持っていた二本の魔剣を砕くき、その凶刃が木場に襲い掛からんとしたその時、匙の『神器』から伸びた舌を引っ張り、フリードの体勢を崩した。しかし、遠目に見えた初老の男がフリードの傍に立ち『因子』の使い方を伝えると、フリードは匙の『神器』から伸びた舌、『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』を切り離した。

 

 ―やはり、聖剣が本領発揮すると、あの舌は切られてしまうんだな。おっと、教会二人組みも登場か―

 

 形勢が不利と判断したのか、フリードは球体の物を地面に投げつけた。激しい閃光と共に、フリードと初老の男、バルパー・ガリレイは消えていた。ゼノヴィアとイリナ、そして木場がその後を追う。

 

「力の流れが不規則になっていると思ったら…」

 

「これは困ったものね」

 

 残されたイッセーや小猫、匙が戦闘態勢を解き、息を整えていたところを後ろから声がかけられた。イッセーや匙が、今絶対に会いたくない人物、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーだ。その証拠に、イッセーと匙の顔色は真っ青だ。

 

「イッセー、どういうこと? 説明してもらうわよ。それにザン、いるのでしょう? 出てきなさい」

 

「仰せのままに」

 

 周りを見渡すリアスの言葉に呼応して、手を胸に当て頭を下げた格好でザンがスゥっと姿を現した。リアスはその芝居がかった態度に嘆息した。 

 

 

-○●○-

 

 

 リアスとソーナは、イッセーたちを連れて近くの公園に来ていた。当然、リアスとソーナは不機嫌であり、イッセーたちは正座をし反省させられていた。

 

「祐斗はそのバルパーを追っていったのね?」

 

 教会二人組みと共に木場が追っているであろう事を、イッセーは正直にリアスに伝えた。リアスの視線が小猫に移り理由を問うと、小猫は木場がリアス・グレモリー眷属からいなくなることが嫌だと心の内を明かした。

 

「…過ぎた事をあれこれ言うのもね。あなたたちがやった事は、大きく見れば悪魔の世界に影響を与えるかも知れなかったのよ? それはわかっているわね?」

 

 リアスは頷き謝罪するイッセーと小猫に、木場の探索を使い魔にさせているから、発見しだい全員で向かいに行こうと諭した。そして、リアスはイッセーと小猫を引き寄せ、抱きしめた。

 

「…バカな子たちね。本当に心配ばかりかけて…」

 

 抱きしめられたイッセーと小猫は、鳴きながら謝罪の言葉を繰り返していた。その感動的な光景に乾いた打撃音が響き渡る。ザンが視線を向けると、匙がソーナに尻を叩かれていた。

 

「うわぁぁん! 会長ぉぉ! あっちはいい感じで終わってますけどぉぉ!」

 

「よそはよそ、うちはうちです。それに、リアスにはザンさんから事前に伝えられていて、ある程度の承認も受けていたのです。何も報告していないあなたとは違います」

 

「おぉぉい、 ザーン! 俺のことは、会長に伝えてくれなかったのかー!?」

 

 涙目の匙がザンに希望を込めた声を上げたが、報われる事は無かった。

 

「すまん、忘れてた」

 

「ノー!!」

 

 絶望の声を上げた匙に、先ほどの活躍を見ていたザンは申し訳ないと考えたのだろうか。匙の尻を魔力を込めた掌で叩いていたソーナの前に立ったザンは、その場で土下座した。

 

「な!?」

 

 ザンの想定外の行動に、ソーナは目を見開き固まっていた。

 

「匙の事をあなたに伝えていなかったのは申し訳なかった。匙は、先ほどの戦いでイッセーや木場たちを幾度と無く救ってくれた恩人だ。会長の怒りもわかるが、どうか許してやって欲しい」

 

「…わかりました。ですから、その頭をあげてください」

 

 匙の尻を叩き続けていたその手は、二百三回目で何とか止まった。

 

「確かに、そのような状況でリアスの眷属の方々を見捨てる方が、私には許せません。サジ、このような事は、もう無いようにお願いします」

 

「はい、会長ぉぉぉ!」

 

 ソーナはため息をついた後、匙を許したのだった。

 

 

-○●○-

 

 

 その日の夜、リアスたちはボロボロとなったイリナを受け取ると同時にコカビエルより宣戦布告を受けていた。コカビエルは駒王学園で暴れる事により、古の戦をぶり返そうとしているのだ。

 

「…ザンは来なくても良かったのよ?」

 

「そうも行かないだろう? 木場はまだいないようだしな」

 

 学園近くの公園で、木場を除くオカルト研究部のメンバーと生徒会のメンバーが集まっていた。ザンの言葉に苦笑したリアスは、今は匙より、ソーナたち生徒会メンバーで張った結界について報告を受けている。結界は被害を最小限に抑える事を目的としたものであり、コカビエルが本気を出せば、この地方都市が崩壊しかねない為、張っているのだ。

 イッセーは規模の大きさに絶句していたが、ザンはさもありなんと頷いていた。ソーナはリアスに、兄である魔王を呼ぶように伝えたが、リアスは首を横に振った。しかし、背後に控えていた朱乃から思いもよらない言葉が発せられた。

 

「既にサーゼクスさまに打診しましたわ」

 

「朱乃!」

 

 リアスは非難の声を上げていたが、朱乃は珍しく柳眉を逆立てていた。魔王に迷惑をかけたくは無く、そしてお家騒動があったすぐ後であることも含めて、個人レベルを超えている事を朱乃はリアスに諭していた。リアスはさらに何か言いたげではあったが、大きく息を吐くと頷いていた。

 朱乃はサーゼクスの到着が一時間後であることを、リアスやソーナに報告をしていた。

 

「一時間…。わかりました。その間私たち生徒会は、シトリー眷属の名にかけて、結界を張り続けてみせます」

 

「…一時間ね。さて、私の下僕悪魔たち。結界内の学園に飛び込んで、コカビエルの注意を引くわ。でも、死ぬ事は許さない! 生きて帰って、あの学園に通うわよ!」

 

「「はい!」」

 

 リアスたちは気合を入れて、学園の正門へ歩を進めて行った。ザンも歩き始めたときに、その背中にソーナが声をかける。

 

「ザンさん、あなたも行くのですか?」

 

「ああ。あまり手を出さないようにするつもりだが、無理かもしれないなぁ」

 

 振り返ることなく、ザンはそう答えていた。ザンがサーゼクスより言われていた内容は、リアスを通じてソーナも聞いていた。

 

「本来であれば、あなたにはリアスたちを見殺しにしてでもこの場を立ち去るように言わなければいけないのでしょうね…。でも、私の本心は…。リアスたちをお願いします」

 

「ああ、任せろ」

 

 そのままザンは学園へ消えて行った。ソーナの憂いを含んだ表情に、匙は危機感を覚えていた。

 

「やっぱり、イケメンは手が早い!」

 

「何を言っているのですか! 私たちは、私たちのやるべきことをやりますよ!」

 

 ペシリと頭をはたかれた匙であったが、少し嬉しそうだった。

 

 

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