赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第4話

 正門から堂々と入っていったオカルト研究部を待ち構えていたのは、校庭の中心に神々しい光を発しながら浮かぶ四本の聖剣とバルパー・ガリレイ。バルパーはその聖剣を一つにすると言う。

 空には月光を浴びながら浮かぶコカビエル。

 

「サーゼクスは来るのか? それともセラフォルー?」

 

「お兄さまとレヴィアタンさまの代わりに私たちが…」

 

 リアスが言い終わる前に体育館が吹き飛んだ。爆音と爆風が送れてイッセーたちを包み込む。体育館があった場所には、巨大な光の槍が刺さっていた。

 

「つまらん。それに、その人間は何だ? 教会の追っ手でもなさそうだ。まあいい、余興にはなるか」

 

 『龍の氣』を抑えているザンを、コカビエルは取るに足らない存在と認識したようだ。コカビエルが指をパチンと鳴らすと、ソレは闇夜から十メートルを超える巨体を揺らしながら現れた。三つ首にある双眸は赤くぎらつかせている

 

「ケルベロスか?」

 

 興味がなさそうなザンの言葉に、リアスは緊張した面持ちで頷いていた。

 

「地獄の番犬の異名を持つ有名な魔物よ」

 

「アイツの相手は俺がやっておくよ」

 

 ザンは走り出すと、そのまま大きく踏み込むとケルベロスの頭まで飛び上がった。頭の一つが炎を吐きザンを襲うが、その炎はザンの手に装着された『炎の聖櫃』に飲み込まれる。

 

「おらぁ!」

 

 ケルベロスの頭の一つをザンが殴り飛ばすと、怒り狂うケルベロスがザンに体当たりし、そのままザンに身体をぶつけたまま駆けていってしまった。

 

「おおおぉぉぉ?」

 

「ザン!?」

 

「イッセー、まだよ!」

 

 リアスの言葉に振り返ると、そこにはケルベロスの姿があった。

 

「もう一匹いたのかよ!?」

 

 そのケルベロスがイッセーやアーシアを襲わんと駆け出した瞬間、ケルベロスの首の一つが切り飛ばされた。宙に待った首は塵と消える。

 

「加勢に来たぞ」

 

 『破壊の聖剣(エクスカリバー・デスクラクション)』を振るう緑色メッシュの女性、ゼノヴィアだ。もう一つの影が現れるとそのまま駆け出して、絶叫を上げるケルベロスの胴体を切り裂く。魔剣を手にした木場だ。ゼノヴィアは倒れこんだケルベロスの胸元に聖剣を突き立てると、一瞬の内に塵と化し霧散した。

 イッセーは倍加していた力をリアスに譲渡すると、強化された滅びの魔力をコカビエルへ打ち放った。コカビエルは片手を突き出すとその手を上に上げ、滅びの魔力弾を反らしてしまった。

 

「なるほど。赤龍帝の力があれば、リアス・グレモリーの力はここまで引き上げられるのか。面白い、これは面白いぞ!」

 

 リアスたちを見下ろし大口を開けて笑うコカビエルの下で、バルパーにより聖剣が一つとなり青白い光を放つ。バルパーもおかしそうに笑みを浮かべていた。

 

「エクスカリバーが一本となった光で、術式も完成した。あと二十分もしないうちに、この町は崩壊するだろう。解除するには、コカビエルを倒すしかない」

 

「な!?」

 

 バルパーの宣言にイッセーは絶句していた。いや、オカルト研究部とゼノヴィアも同様であった。

 コカビエルに呼ばれたフリードが現れると、一本となった聖剣を握る。ゼノヴィアと木場は、まず一本となった聖剣を破壊する事を決めた。

 しかし、その事を笑うバルパーから聖剣計画の真相が語られる。聖剣を扱う『因子』を集め、結晶を作り出したのだ。そう、木場と同じ施設にいた者たちもまた、『因子』を抽出され殺されたのだ。怒りに震える木場に対し、バルパーは興味を失ったように因子の結晶を木場へ向け放り投げた。コロコロと木場の下に転がった結晶は淡い光を発する。

 

「この戦場に漂う様々な力が、結晶から魂を解き放ったのですね」

 

 朱乃の言葉に、イッセーは信じられないものを見ていた。その魂は、木場と同じ聖剣計画に身を投じ、処分された者たち。その人型は口をパクパクさせている。イッセーたちにも声は届いていないが、唇の動きを朱乃が読む。

 

「『自分たちのことはもういい。キミだけでも生き残ってくれ』彼らはそう言ったのです」

 

 彼らの言っている事が分かったのだろう。木場は涙が止まらなかった。少年たちの魂は口をパクパクさせ、リズミカルに同調させている。

 

「…聖歌」

 

 アーシアの呟きにイッセーも合点がいった。少年たちの魂も、そして木場も聖歌を口ずさんでいる。聖歌を歌う彼らは、少年のような無垢な笑みを浮かべていた。

 

『僕らは、一人ではダメだった―』

 

『私たちは、聖剣を扱える因子が足りなかった。けれど、皆が集まればきっと大丈夫―』

 

『聖剣を受け入れるんだ。怖くなんて無い―』

 

『例え、神がいなくても、見ていなくても―』

 

『僕たちの心は、いつだって―』

 

『一つだ』

 

 同志を想う暖かな心。本来、悪魔にとって聖歌は苦手なものであるはずであったが、イッセーは心が暖かくなっていた。イッセーもまた、涙が止まらない。

 少年たちの魂は青白い光が増し、木場を中心に光り輝いていた。その光は天へと昇り、そして一つの大きな光となって木場の下へと降りてきた。

 

『相棒。あの『騎士』は至ったぞ』

 

 ドライグがイッセーに話しかける。いかにもドライグは楽しそうであった。

 

『神器は所有者の想いを糧に変化と進化をしながら強くなっていく。だが、それとは別の領域がある。所有者の想いが、願いが、世界の流れに逆らうほどの劇的な転じ方をしたときに、神器は至る』

 

 ドライグの言いたいことは、イッセーにも分かった。

 

『そう、禁手(バランス・ブレイカー)だ』

 

 

-○●○-

 

 

 木場はゆらりと立ち上がる。あの聖剣計画の犠牲者であった少年たちの魂が、木場を救い、禁手へと至らせたのだ。

 

「木場ぁぁ! フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けぇぇ! お前は、リアス・グレモリーの眷属の『騎士』で、俺の仲間だ! ダチなんだよ! あいつらの想いと魂を無駄にするなぁぁ!」

 

「祐斗! 自分で決着を着けるの! エクスカリバーを超えなさい! あなたは、このリアス・グレモリーの眷属なのだから!」

 

「祐斗くん、信じてますわよ!」

 

「…祐斗先輩、ファイトです!」

 

「皆…。僕は剣になる。部長の、仲間の剣になる! 今こそ、僕の想いに応えてくれ! 魔剣創造!」

 

 神器は所有者の想いに応えるもの。誰かがそう言った事を、イッセーは思い出していた。木場の手元に一本の剣が出現する。その剣は神々しい輝きと禍々しいオーラを纏った剣だった。

 

「…禁手、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)。聖と魔を共有する剣の力、その身で受け止めるといい」

 

 木場は駆け出し、『騎士』の特性であるスピードでフリードの前から消え視界の外からの一撃を繰り出すが、フリードは受け止めていた。しかし、フリードの聖剣の力は、木場の聖魔剣に喰われていく。

 

「本家本元の聖剣を凌駕するのか!?」

 

 フリードの聖剣は無軌道に激しく動き出すと剣先が枝分かれし、木場を高速に襲い始めた。更には剣先が透明となるが、木場は全てを防ぎきる。その戦場にはゼノヴィアまで参戦した。右手をゆがんだ空間に入れると一本の剣を取り出す。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は開放する。デュランダル!」

 

 聖剣デュランダル。切れ味だけであれば、聖剣エクスカリバーを超えると言われている剣だ。流石のコカビエルも驚きの声を上げていた。

 透明の剣先はゼノヴィアを襲うが、一振りで全てを砕き、透明化していたエクスカリバーが姿を現す。

 その光景にフリードは一瞬の隙が生まれた。その隙を逃す木場ではない。一気に間合いを詰めると、聖魔剣で切りかかる。フリードは折れた聖剣で受け止めようとしたが、儚い金属音と共に聖剣は完全に砕かれ聖魔剣に切り裂かれたのだった。

 

 

-○●○-

 

 

「せ、聖魔剣だと…? 反発しあう二つの要素が交じり合うなんて…! そ、そうか! 聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているのだな! すなわち、魔王だけではなく、神も…」

 

 何かの真理に至ったバルパーの胸部を、光の槍が貫いていた。

 

「バルパー、お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優秀が所以だろう。だが、お前がいなくても俺は一人でやれる。カァーハハハハハ!」

 

 コカビエルは哄笑を上げ、地に足をつける。

 

「限界まで赤龍帝の力を上げ、誰かに譲渡しろ」

 

「私たちにチャンスを与えるとでも言うの!? ふざけないで!」

 

「ハハハ、ふざけているのはお前たちだ。俺を倒せるとでも思っているのか?」

 

 笑い飛ばすコカビエルに、リアスは歯軋りをした。その後ろから、地面を揺らす音が響いてくる。

 

「ゴー!」

 

 ケルベロスが飛び上がると、三つの頭から火炎を吐き出す。コカビエルはつまらなさそうに左腕を横になぎ払うと、炎が消し飛んだ。

 

「!?」

 

 そして光の槍が三つの頭に突き刺さると、ケルベロスは断末魔を上げる事もできず塵と化した。

 

「あちゃ~、せっかく調教したのに、即ロストとは」

 

「ザン!」

 

 コカビエルの重圧に額に汗をかき手足の震えるのを抑えていたゼノヴィアと異なり、オカルト研究部のメンバーはザンの姿を見て笑みを浮かべた。そう、彼らはこれ以上の重圧を経験している。

 

「イッセー、神器を」

 

『Boost!』

 

 リアスの指示に、イッセーの神器が倍加を始めた。

 

「ザン、ここは私たちに任せて。あなたは言われているのでしょう?」

 

「しかし…」

 

「お願い…」

 

 リアスの決意に満ちた目を見て、ザンは頷かざるをえなかった。

 

「ふん。今更人間が増えたところで、大して変わらんだろうに」

 

 コカビエルはザンに興味を示さず、イッセーが誰に力を譲渡するかに注目していた。イッセーの籠手が一層の輝きを放つと、リアスとイッセーは手をつなぐ。そのつながりを見て、ザンはリアスとイッセーが信頼と愛情を交わしているように見え、微笑んでいた。手を通して力がリアスに渡されると、リアスを莫大な魔力が包み込む。

 しかし、その光景をコカビエルはむしろ待っていたと言わんばかりに笑っていた。

 

「消し飛べぇぇぇ!」

 

 膨大な滅びの魔力がコカビエルに襲い掛かかる。

 

「おもしろいぞ! 魔王の妹! サーゼクスの妹!」

 

 両手に光力を集めると、リアスの滅びの魔力を正面から迎え撃つコカビエル。少しずつではあるが、リアスの魔力の塊が形を崩し始めていた。

 

「雷よ!」

 

 リアスの魔力の塊に夢中となっているコカビエルに対し、朱乃が雷を落とす。しかし、コカビエルの翼の羽ばたきで、その雷は霧散した。コカビエルはその手にあったリアスの魔力の塊も消滅させると哄笑を上げる。

 

「ハハハハハ! どうした、赤龍帝の飼い主! 紅髪の滅殺姫!」

 

 ゼノヴィアと木場が同時に切りかかるが、コカビエルは両手で光の剣を作り出すと、それらの攻撃を裁いていた。

 

「聖剣デュランダルか! 壊れた聖剣とは流石に違うな。しかし、使い手がお前では宝の持ち腐れだ。使いこなせていない聖剣など、恐れるに及ばんわ!」

 

「そこ!」

 

「甘いわ!」

 

 コカビエルの背後から、小猫は拳を打ち込もうとしたが、黒い羽が刃と化し小猫を切り刻んだ。

 小猫の下へイッセーとアーシアが駆け寄り、アーシアの神器で小猫を癒し始める。イッセーは小猫とアーシアを後ろに立ち上がる。

 

「しかし、仕えるべき主を無くして、お前たち神の信徒と悪魔たちは良く戦う」

 

「どういうこと?」

 

 怪訝な表情を浮かべるリアスに、コカビエルは心底おかしそうに笑い出した。

 

「フハハハハ! そうか、そうだったな。おまえたち下々まで伝えられていなかったのだったな。先の三つ巴の戦争において、四大魔王だけではなく、神も死んだのだよ!」

 

「やっぱりか」

 

「ほう、そこの人間は気付いていたようだな」

 

 皆の視線がザンに向く。ゼノヴィアやアーシアの視線には光が無い。

 

「ああ。俺はこの世界のような状態を良く知っているからな。アーシアは何故異端となった。相反する力の聖魔剣はどうして生まれる。それに、神がいるのであれば、何故『聖剣計画』などと言う残虐な計画が遂行されたのか? そもそも、神が存在するのであれば、何故世界は統一されていない! 四大魔王を失った悪魔や、幹部を多く失った堕天使に対し、神が存在するのであればより多くの天使が生み、戦力を増強して統一すれば良いだけだ」

 

「その通りだ。全勢力が著しく戦力が低下したため、故意にでも起こさない限り、もう大きな戦争は起きない。…ふざけるな! あのまま戦争を続けていれば、俺らが勝っていたかもしれないんだぞ!」

 

「そうかもしれないな。振り上げた拳を収めるなど、できないかもしれない。それでも、トップが『終わり』と判断したら、下は従うものだ」

 

 コカビエルがワナワナと振るえ、ザンを、そしてその場にいる全員を睨みつける。

 

「お前たちの首を土産に、俺は戦争を始める! 俺だけでもあの続きをしてやる!」

 

「俺の仲間に、友人に、そんなまねをさせるかぁぁ! 戦いがしたいのであれば勝手にやればいい! しかし、俺の仲間を傷つける事は許さん!」

 

 ザンが怒りの咆哮を上げると、左手をイッセーに向ける。

 

「イッセー、それ返してくれ」

 

 イッセーは何の事かと考えたが、思い至ったイッセーはベルトループに吊り下げていた『光の聖櫃』をはずすとザンに放り投げる。

 

「ダメよ、ザン!」

 

「すまないな、部長。こらえ性が無いのは、俺の欠点だ。それに、先ほどのを見ていて、皆ではコカビエルには届かない事はわかったよ。今回は、俺に任せておいてくれ。さぁ、コカビエル。魔王の妹とその眷属では物足りなかろう? 俺とやろうじゃないか?」

 

「ふん、いまさら人間に何ができる」

 

 鼻で笑うコカビエルに対し、ザンは特に気にせず『光の聖櫃』を起動する。その手には光の剣が生まれた。

 

「俺が『異世界』の戦士だったら? それにこういうのはどうかな? 戦争狂(ウォー・モンガー)

 

 ザンは一気に『龍の氣』を展開させる。濃密な金色のオーラがザンを包み、天へ届かんとしていた。

 

 

-○●○-

 

 

「さあ、闘争を始めよう。これより先は死地だ。俺を抜くことなく、あいつらに危害を加える事ができると思うなよ」

 

「これほどのオーラを感じたのは久しぶりだ。おもしろい、おもしろいぞ、人間!」

 

 喜びを前面に出すコカビエルであったが、次の瞬間には自分の懐に現れたザンが攻撃態勢に入っていた。

 

「おおおお!」

 

 コカビエルが光の剣を生み出し一撃を防ぐが、左手は切り飛ばされていた。

 

「なにぃ!?」

 

 翼を広げ宙へ飛び上がるコカビエル。ザンは平然と笑みを浮かべ、コカビエルを見上げていた。

 

「今のは二、いや三連撃なのか? あまりに速くて、剣先が見切れなかった…」

 

 イッセーの隣に立つ木場も、自分の目が信じられなかった。確かにあの時は自分より速かったが、これほどのものなのか。

 

「おのれぇ! 私の腕をぉぉ!」

 

 巨大な光の槍を生み出すと、コカビエルはその槍をザンへと投げつけた。閃光の如く襲い掛かる光の槍。

 

「はぁ!」

 

 ザンは剣の一振りでその光の槍を真っ二つに切り裂いた。

 

「バカな!?」

 

「どうした? そんなところに浮いていると、いい的だぞ?」

 

 ザンは『光の聖櫃』の切っ先をコカビエルに向ける。機関銃の様に『光の聖櫃』の先端から発生する無数の光の弾丸がコカビエルに襲い掛かる。

 

 バババババッ

 

「うぉぉ!」

 

 黒い羽を羽ばたかせ、フェイントを交えて回避行動を続けるコカビエル。そして隙を見て光の槍を放とうとしたが、その場にはザンはいなかった。そう、目の前にザンはいたのだ。

 

「ぎゃああぁぁ!」

 

 二人が交差する瞬間、五枚の左の翼を全てザンは切り飛ばしていた。グシャリと地面に叩きつけられるコカビエルから、呪詛の言葉がその口から紡ぎ出される。

 

「おのれおのれおのれぇ! よくも我が羽を! 殺す! 殺してやるぞ!」

 

「世界に戦争を吹っかけようとした輩が、翼を切り飛ばされたぐらいで喚くな」

 

 コカビエルは右腕を上げると、膨大な光力が集まりだす。先ほどまでと違い、桁外れの圧力だ。リアスたちもまた、顔を引きつらせている。

 

「これで終わりにしてやる!」

 

 ザンも『炎の聖櫃』をはめた右手を突き出すと、『龍の氣』を右手に集める。コカビエルが巨大な光の槍を投げつけた瞬間、ザンもまた力を解放した。

 

「龍の吐息を浴びた事はあるかな? ここに再現してやろう。炎龍をも燃やし尽くす剛炎、龍の吐息(ドラゴン・ブレス)

 

 ザンの右手より生まれた剛炎は迫り来る巨大な光の槍をも燃やしつくし、コカビエルをも包み込んだ。

 

「ぐああぁぁ!」

 

 剛炎はそのまま後ろの校舎などを燃やし尽くしていった。コカビエルといえば、真っ黒になりながらもピクピクしていた。

 

「お、まだ生きているようだな? さすが、歴戦の戦士と言ったところか」

 

 

-○●○-

 

 

 皆が終わったと思いザンへと駆け寄ろうとしたが、ザンは手で制し上を見上げていた。

 

「…ふふふ、おもしろいな」

 

 白い閃光が闇夜を切り裂き、地面へと舞い降りる。その姿は、白い全身鎧に包まれていた。

 ザンに向かい歩み寄るが、ザンはさっと間合いを広げた。その姿を見て、オカルト研究部のメンバーに緊張が走る。あのザンが警戒するほどの者なのだ。

 

「あら、逃げなくてもいいのに。ちょっと興味を持っただけで、()()戦う意思は無いのよ? まったく、ボクの出番を奪ったくせにつれないなぁ」

 

 空気が弛緩する。全身鎧の者から発せられる声の甲高さに、ザンが飛びのいた理由に合点がいったのだ。

 

『無視か、白いの』

 

 イッセーの左腕から、いや神器から声が発せられた。

 

『起きていたのか、赤いの』

 

白い龍(バニシング・ドラゴン)…」

 

 ゼノヴィアの思わず零れた呟きに、オカルト研究部のメンバーは再び緊張が走る。

 

『せっかく会ったのに、この状況ではな』

 

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

 

 赤い龍と白い龍がそれぞれ宝玉を光らせながら会話を続けていた。

 

「ボクとしては、キミに興味があるんだけどね~」

 

「俺には無い! それに、お前のライバルはアイツだろう!?」

 

 ザンは顔色を青くすると更に間合いを離し、イッセーを指差す。

 

「そ、そうだ! お前は一体何なんだ!?」

 

「今回は、このコカビエルを止める為にやってきたんだけど、出番が無くなっちゃった。ねぇキミ、全てを理解するには力が必要だよ。強くなってよね、いずれ戦うボクの宿敵くん」

 

 黒焦げとなったコカビエルと倒れ伏したフリードを抱え込むと、白き閃光となりて夜空へ飛び去ってしまった。

 木場を中心にオカルト研究部があつまった。イッセーが木場の頭を小突き、木場が苦笑いを浮かべる。皆の笑みが戻り、ザンもホッとした表情を浮かべていた。

 

「あーー!?」

 

 勝手な事をした罰ということで、木場がリアスに魔力の篭った手で尻を叩かれているのを笑いながら見ていたイッセーが、突如大声を出した。

 

「どうした、イッセー?」

 

 訝るザンに目をくれず、リアスの下にイッセーは駆け寄った。

 

「ぶ、部長。家で話していた、あの約束は…?」

 

「え、約束って?」

 

「そんな!? 部長のおっぱいを吸ってもいいって、言ったじゃないですか!?」

 

 その言葉を聞いたザンは、開いた口が文字通り塞がらなかった。

 

「でも、それはイッセーがコカビエルを倒したときの約束でしょう? 今回は、残念ながら無しね」

 

「ノーー!! おい、ザン! 何で倒しちゃうんだよ!? せめてトドメは俺に任せてくれても、いいだろ…、ぐはぁっ!」

 

 つかみ掛からんばかりのイッセーの頭頂部に、ザンは容赦ない手刀を落とす。

 

「何アホな事を言ってやがる! それに部長! 仮にも女子高校生が何てハシタナイことを約束しているんだ!?」

 

「でも、悪魔は欲望に忠実なものよ? それにイッセーに頼まれたら…」

 

 頬を染めながら首を傾げるリアスであったが、器用にも木場の尻は叩き続けている。

 

「うがぁぁ! もう頭にきた! おら、イッセー! その根性叩きなおしてやる! 赤龍帝の籠手を出せ! ドライグも含めて鍛えなおしてやる!」

 

『お、俺は関係ないだろう!?』

 

「どやかましい! お前の影響も考えられるからな! どうせ歴代の赤龍帝の中には、イッセーのようなやつもいたに違いない! まとめて鍛えてやるぞ!」

 

『あ、相棒、早く逃げろ! お前では歯が立たんぞ! 俺まで巻き添えをくらう!』

 

 無数の火炎弾を操りイッセーを追いかけるザンの姿を、皆苦笑しながら眺めていた。なお、このときの火炎弾の被害が学園全体に及び、修復を担う生徒会メンバーはけっして笑えなかった。

 

 

-○●○-

 

 

 ザンは額に手をやり、頭痛と戦っていた。ザンは常々思っていたが、オカルト研究部は女性比率が高い。そのバランスが更に女性側に傾く。

 

「神がいないと知ったんでね、破れかぶれで転生したんだ。リアス・グレモリーから『騎士』の駒をいただいた。で、この学園に編入させてもらった。今日から高校二年生の同級生でオカルト研究部の所属だ。よろしくね、イッセーくん、ザンくん」

 

 語尾には音符がつきそうな、普段と異なり可愛い声をだしていたゼノヴィアだったが、真顔であるため違和感は否めない。

 セノヴィアが言うには、イリナは帰ったそうだ。エクスカリバーの芯となる部分やゼノヴィアが持っていた『破壊の聖剣』、そしてバルパーの死体を持って。次に会ったときは敵同士かと、ゼノヴィアは寂しそうに呟いていた。

 

「近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、堕天使側の代表が会談を開くらしいわ。堕天使側の代表、アザゼルはこのときにコカビエルのことを謝罪するかもしれないと言われているけれど、本当にするのかしら」

 

 首を竦めるリアスに、部員達は苦笑した。

 

「それと、私たちもその場に招待されたわ。事件に関わってしまったから、そこで今回の報告をしなくてはいけないの」

 

「そりゃ大変だ」

 

 完全に他人事と考えているザンに、リアスは意外そうに目を向ける。

 

「何を言っているの? コカビエルを倒したのはあなたなのだから、当然あなたも出席するのよ?」

 

「はぁ? 天使、堕天使、悪魔の三会談なのだろう? 人間の俺には出番無いだろう?」

 

「あなたは特別ゲストよ。人間代表という訳ではないけれど、重要なポジションにいるのよ。あなたは、お兄さまが懸念していた通り、天使や堕天使にも目をつけられてしまったのよ」

 

 ザンは、この世に神がいないことを改めて実感していた。

 




ちょっとバタバタし始めましたので、次話 UPは少し遅れるかもしれません。
楽しみにされている方、申し訳ありません。
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