「イッセーんところは両親来るのか?」
授業参観当日、松田は登校したイッセーを見つけると声をかけた。
「ああ。っていうか、アーシアを観にくるんだけどな」
「わかるわかる! 俺もアーシアちゃんみたいな娘なら、会社サボっても観にくるぜ!」
「学業も真面目にやらんお前に、入れる会社はあるのか?」
「朝から厳しい突っ込みどうも!」
ザンの言葉の一撃に、松田は轟沈していた。ザンは席に座り振り返ると、楽しそうにしているアーシアと話すイッセーにゼノヴィアが声をかけていた。変な方向に突き抜けているゼノヴィアだが、教室ではそんな事はしないだろうとザンは高をくくっていた。そして、その考えはゼノヴィアがポケットから取り出したモノで大きな間違いだと気付かされた。
「バカかぁぁ! 何てものを出しているんだ!」
イッセーは頭を抱え、クラスの注目はゼノヴィアの手に集中する。イッセーとゼノヴィアの関係がそこまで進んでいたのかと、話題が飛び火していく。ザンは流石に開いた口が塞がらなかった。
「私のいた世界では、これの使用にひと悶着があってね。でも日本のお国柄を考えると…」
「そんな事はどうでもいい! 早くしまってくれ!」
イッセーの咆哮に首を傾げるゼノヴィアであったが、隣にいるアーシアはゼノヴィアが持っているモノ自身が何か分からないようだ。アーシアの頭の上には疑問符が浮かんでいる。
「アーシアも持っておくといい。無計画な性交はお互いを傷つけるそうだ。男女の仲というのは、難しい」
一つ手渡されたものを繁々と見ていたアーシアに、眼鏡娘藍華が耳元でささやいた。その瞬間、アーシアの可愛い顔が真っ赤にし「きゅう」と口から音が漏れた。
「でも、いいのかなー? 兵藤がゼノヴィアっちを抱いたら、アーシアが…」
「藍華さあん、やめてくださいぃぃ!」
復活したアーシアが、慌てて藍華の口をふさいだ。
「だから言ったじゃない。兵藤の周りは強敵がいっぱいなのよ? そろそろモーションをかけ…。ザンくん?」
「「「あっ!」」」
アーシアと藍華がドタバタしていた時に触れたのだろう、ザンは白目をむいて気絶していた。松田と元浜が慌てて保健室までザンを担ぎ込んだ。
-○●○-
「ひでぇ目にあった…」
何とか復帰し教室に戻ってきたザン。藍華が両手を合わせて頭を下げる中、手を横に振り気にするなと声をかけた。さて、授業参観が始まる頃、クラスメートの親御さんたちが教室に入ってくる。開け放たれた扉から、イッセーの両親もビデオカメラ片手に入ってきた。
「お父さん、アーシアちゃんはあそこよ!」
「アーシアちゃん、がんばれ!」
イッセーそっちのけでアーシアを応援する両親を見たイッセーは微妙な顔をしていた。ただ、その顔もザンには嬉しそうにしている様に見えた。
「いいですか~? 今渡した紙粘土で好きなものを作ってください。動物でもいい、人でもいい、車や飛行機だっていい。あなた方が思い描いたありのままを表現するんです。そういう英会話もある」
ザンはバタッと机に崩れ落ちた。
―紙粘土で作り出す英会話なんてあるか!?―
余りにも突拍子も無い事を言う英語教師に、ザンは心の中で突っ込みをいれていた。そして、ザンは思い出していた。英語といえば、一番上の姉が得意であったなと。いつもニコニコしていたが、二番目の姉と喧嘩していると自分と姉の両方に拳骨を落とす、怖い面を持った姉だった。世界の人たちと話す事ができる素晴らしさを伝える職業に就きたいと言っていた。当時は若干ウェーブのかかった栗毛の長髪であったが、今はどうなのだろうか? 会うことの無いであろう姉の事を、ザンはその笑顔と共に思い出していた。
「五千!」
「いや、六千!」
「私は七千を出すわ! お姉さまの身体を、他の人たちにさらさせるものですか! け、決して、お姉さまの身体を堪能しようとか、思っていないんだからね!?」
―最後のヤツは、何言っているんだ!?―
オークション会場と化している教室を見て、ザンは嘆息した。どうやら、イッセーが作り上げたリアス像を巡り白熱しているらしい。イッセーのスケベ根性と予想外な器用さに、ザンは脱帽していた。ふと自分の手元を見て、ザンはギョッとする。
「ま、舞姉…」
ウエーブのかかった長髪がまるで揺れているような女性像がそこにあった。女性像の顔には、先ほど思い浮かべた笑み浮かんでいる。ザンは一瞬、この像を潰そうと思った。しかし、手が潰す事を拒否する。
「はぁ、なんだかなぁ」
結局、ザンはこの像を潰すことなく、皆に見えないように隠すのだった。
-○●○-
意図せず作成した像をロッカーに隠しザンが廊下を歩いていると、人だかりに出くわした。シャッター音も聞こえ、まるで撮影会か何かだ。
「昼休みに、何やっているんだ?」
「やあ、ザンくん」
振り返ると、木場にイッセーにアーシア、そしてリアスや朱乃までいた。ザンにとっては退路が絶たれた形だ。
「う…」
「う、じゃないでしょう? まったく、少しは慣れないのかしら。魔女っ子の撮影会って、ここ?」
「ま、魔女っ子? 何か、スッゲー嫌な予感がするんだけど…」
イッセーと木場が先導し人垣をかき分けて進む。後ろにリアスと朱乃にアーシアがいては戻ることもできず、ザンもため息をつきながら前に進んだ。
「何だありゃ?」
「あれは『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』ってアニメのミルキーだ」
「え…? お前、アニメの魔法少女のタイトルにその主人公の名前を熟知しているって…」
「違う! お得意さまの『ミルたん』といっしょに見たんだよ! もう何回も見ているから、覚えちまったよ」
アニメオタクの称号を授与されかかったイッセーが、両手を振って否定した。それはそれは真剣に。
「別にいいって、イッセー。趣味はそれぞれだぞ。俺には理解できんけど」
「違え!」
「ほらほら、解散解散! 今日は公開授業の日なんだ、騒ぎは起こさないでくれよ!」
人垣の後ろから生徒会の匙の声が聞こえてきた。生徒会が出張ってきたとあって、人だかりが蜘蛛の子を散らすように去っていく。そうして人が少なくなったとき、魔法少女とザンは目が合った。
「あっ!」
「あー!! ザンちゃん☆ お久しぶりーー!」
魔法少女が目にも留まらぬ速さでザンへ飛び掛り、ザンは既の所で何とか躱した。
「もー、何で避けるのよ!?」
「そりゃ、避けるでしょ! 俺のこと、話したよね!? セラフォルー・レヴィアタン!」
「あ、…あ~。そ、そうだったね、忘れてた☆」
語尾にまるで星印が付くような軽いセラフォルーの返答に、ザンはガックリ肩を落とした。その肩をイッセーが揺さぶる。
「え、…え? ま、まさか、この人が…?」
「…ああ、四大魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタンだ。ほれ、そこに固まっている生徒会長のお姉さんだ」
顎で指す先には、紅髪の男性二人を連れた生徒会長、ソーナ・シトリーの姿があった。
「ソーナちゃん、見つけた☆」
ザンには空振りで終わったが、ソーナにはしっかり抱きついたセラフォルーであった。その二人にリアスが近づく。
「セラフォルーさま、お久しぶりです」
「リアスちゃん、おひさ~☆ソーナちゃんたら、酷いのよ? 今日のこと、黙っていたんだから! お姉ちゃん、ショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」
「あんたが言うと、冗談なのかどうか判断しづらいな、相変わらず」
「ぶ~☆」
可愛らしく頬を膨らますこの少女が、魔界を統括する四大魔王の一人と誰が考えるだろうか。ザンはため息をつくしかなかった。
「はー、ほんっと、四大魔王はプライベートが軽いというか何と言うか」
「ソレは私も入っているのかい、 ザンくん?」
「あんたも変わんだろうが! 前、部長のことを『リーアたん』って呼んでたの知っているぞ!」
「な…、そ、それは本当なの、ザン? お、お兄さま。私の愛称を『たん』付けで呼ばないでください!」
ザンの言葉に、サーゼクスではなくリアスが反応していた。リアスの言葉にサーゼクスがよろめく。
「ああ、これが反抗期なんだろうか!? 昔は『お兄さまお兄さま』といつも私の後ろをついてきたのに!」
「もう! 幼少期の話まで持ち出して!」
柳眉を逆立てるリアスの耳にもシャッター音が届いた。リアスが首をギギィと曲げると、その先にはカメラ片手の紅髪の紳士がいる。
「今日は来れなかった妻の分まで、私はがんばるぞ!」
「お父さままで!?」
グレモリー親子(+兄)の仲睦まじさを見せつけていると、少し離れたところではシトリー姉妹も同様に仲睦まじい様子が見える。
「いやぁぁん! お姉ちゃんを置いてどこに行くのー! ソーたぁぁん!」
「『たん』付けはあれほどお止めになってくださいとあれほど!」
「あー、何か、何処も似たようなものなんだなー」
「そうだろ、匙。魔王がコレって、平和じゃね?」
匙の肩に手を置き頷いているザンであったが、匙が何かを思い出したかのように首を横に振るとザンの手を払った。
「…って、お前に言われたく無いわ! 会長には手を出していないだろうな!?」
「お前って、最近そればっかりだな。毎日飽きないのかよ。俺のことを知っていれば、手を出さないことぐらいわかりそうなもんだけどなぁ」
「いや、油断するとお前は何をするかわからないからな! コカビエル襲来の時の校舎崩壊の半分はお前のせいだったじゃないか! 会長相手だけ女性恐怖症を克服するかもしれん!」
取り付く島も無い状況に、ザンは苦笑しながら踵を返した。人だかりが無くなり自分への注目が分散した事を察知したザンはその場を離れると意外な人物に出くわした。
「やあ、桐生くん。ウチのイッセーを知らないかい?」
イッセーの親御さんたちだ。父親はまだビデオカメラを構えている。校舎もビデオに収めているのだろうか。
「こんにちわ。イッセーならこの先にいますよ。そうだ、リアス部長のお父さんがお兄さんと共にいましたよ。まだいると思いますので、声をかけてみてはいかがですか?」
「おお、そうなのかい? ありがとう。リアスさんにはイッセーがお世話になっているからね、ご挨拶をしてくるよ」
「はい。では、俺は失礼します」
おじぎをして背を向けるザンには、悪い笑みが浮かんでいた。
-○●○-
「昨日は散々な目にあったわ。イッセーのお父さまたちが合流してから、そのまま一緒に帰って…。あんなにタイミング良く合流されるなんて、思ってもいなかったわ。そのおかげで対策らしいものが何もできなかった…」
リアスはオカルト研究部の全員を引き連れて旧校舎へ向かっていた。旧校舎の一階にある、通称『開かずの教室』。そこにはリアス眷属のもう一人の『僧侶』がいるという。最後尾の朱乃から距離を取りつつ、ザンは先頭を進むリアスに声をかけた。
「…それで、いままでなんでソイツは出てこなかったんだ? フェニックスの時とかコカビエルの時とか。戦力は少しでもあった方が良かっただろう?」
「あの子の能力はとても危険で、そして私では制御できないと判断した上から封印するように言われていたのよ。でも、昨夜お兄さまから許可が下りたのよ。コカビエルとの一戦が評価されたらしいわ」
「…それって、俺を含んでのってことか?」
「そうなるでしょうね。だから、あなたも同席してもらっているのよ。…ここよ」
リアスの目の前には『KEEP OUT!!』のテープが張られている。
「何か、刑事ドラマでよく出てくる事件現場みたいだな」
ザンの言葉にリアスは苦笑した。テープだけを見ればそうであろう。呪術的な刻印がされていなければ、尚更だ。
「このテープだけでは封印は無理よ。さて、一日中ここに住んでいるのだけれど、一応深夜には術が解けて旧校舎だけなら自由に動けるわ。でも、中にいる子がそれを拒否しているのよ」
「引きこもりってやつか」
ザンは肩を竦め、リアスは頷きながらため息をついた。苦笑いを浮かべた木場がテープを取り払い、朱乃がリアスの傍らに立つとリアスと共に刻印の解除をする。
呪術的な刻印が消えた扉をリアスが開けると、甲高い悲鳴が響き渡る。
「イヤァァァアアッ!」
ため息をついたリアスは、朱乃と共に入っていく。朱乃が封印が解かれたことを説明するが、もう一人の『僧侶』は嫌がっているようだった。
「ほれ、イッセー。中に入ろうぜ。どんなヤツか見てみないとわからないだろう?」
「ああ、そうだな」
木場が苦笑し、小猫がため息をつく前を通り過ぎ、イッセーやザンは中に入っていった。まるで少女の部屋の様な装丁であるが、異質なものが一つある。部屋の一角にある棺桶だ。
「か、棺桶?」
「らしいな」
一瞬たじろいだイッセーの背中をザンが押す。リアスたちの話し声は奥から聞こえてくるのだ。
「おお、女の子! それも外国の!」
「違うんじゃないか?」
リアスと朱乃の前に座るのは、短めのサラサラ金髪に赤い瞳が特徴的な、美少女と言ってよい風貌であった。
「違うって、何が?」
「見た目は女性だが、ありゃ男だぞ」
「は?」
イッセーは、それは誰から見ても「何言っているんだコイツ」と言わんばかりの顔をしていた。ザンは顎でリアスを指すと、イッセーは一縷の望みをかけた視線をリアスに送る。
「見た目は女の子だけれど、正真正銘の男の子よ」
「女装趣味があるんですの」
リアスと朱乃の言葉に、イッセーは膝から崩れ落ちる。悔し涙を流し、地面を殴りつけていた。
「こんな残酷な話があっていいものか!? 見た目、完璧な美少女じゃないか!! それに、女装趣味ってなんだよ!? 似合っているけど! 大体、引きこもっている癖に、誰に見せるための女装なんだよ!?」
「だ、だ、だって、女の子の服の方がかわいいもん」
美少女と呼ばれ喜んだのか、女装少年は頬を軽く染める。そのまま手をイッセーたちに向けるとリアスに尋ねた。
「と、ところで、こちらの方々は誰ですか?」
「あなたがここにいる間に増えた眷属よ。『兵士』の兵藤一誠、『騎士』のゼノヴィア、あなたと同じ『僧侶』のアーシアよ」
リアスに紹介されたメンバーは笑みを浮かべて挨拶をしたが、女装少年は悲鳴を上げていた。どうやら眷属が三人も増えていることに驚いているようだ。
「あ、あの。そうしたら、そちらの方は?」
「うん? 俺は桐生斬だ、ザンでいい。グレモリー眷属じゃ無いが、駒王学園二年生で、オカルト研究部の一員だ」
「ひぃぃ! 人間がいるぅぅぅ!」
女装少年が慌てて部屋の隅に走り逃げ、ガタガタと体を震わせ小さくなっていた。その行為を見ていたザンは違和感を覚えた。その間、オカルト研究部のメンバーが全員動かなかったことだ。
「おいおい、そんなに逃げることは無いじゃないか?」
「ひぃぃ! 何故動けるんですかぁ!?」
ザンはその言葉で得心が行った。オカルト研究部のメンバーは動かなかったのではなかったのだ。
「ひょっとして、相手の動きを止める力か? いや、それなら俺にも重圧がかかるはずだ。なるほど、時間を止めるのか」
「あわわわわ…、ば、ばけもの…、ぎゃんっ!!」
ザンの拳が女装少年の頭に容赦なく振り下ろされていた。痛みで頭を押さえている少年を、ザンは上から睨みつけていた。
「人を化け物扱いするな! 全く、悪魔に何で化け物扱いされなきゃいけないんだよ! ったく、こんな処に引きこもっているから、発想が負の方向に流れるんだよ。放り出して、お天道様の下で十字架に磔にしてやろうか!?」
「ひぃぃぃ! た、助けてぇぇ!」
「待って、ザン。この子が何を言ったのかわからないけど、許してあげて。それに十字架に磔なんて、洒落にならないわ」
話の途中から動けるようになったリアスが、女装少年とザンの間に立った。朱乃も困った顔をしている。
「この子は興奮すると、視界に映した全ての物体の時間を一定の間止める『神器』を持っているんです。けれど、その『神器』を制御できないため、大公や魔王さまに命じられて封じられていたんです」
「ふん。いつだって権力者は同じことをするのだな。何の解決にもなってはいないじゃないか。それは、部長が成長し制御ができることを期待してのことだろう? 『力』は持つ者が努力しないで、制御なぞできる訳がないだろうが!
「う…」
何か思うことがあったのだろう。泣き叫んでいた女装少年は、静かに俯いてしまった。その小さな身体を、リアスは後ろから優しく抱きしめた。
「ザン、わかったわ。この子も自覚しているから、許してあげて。この子はギャスパー・ヴラディ。私のもう一人の『僧侶』であり、この駒王学園の一年生。転生前は人間と吸血鬼のハーフよ」
一瞬目を見開いたザンは、ギャスパーの前に立つと片膝をつく。そして、右手をギャスパーへと差し出した。
「済まなかったな、ギャスパー。俺ばかり感情にまかせて怒鳴ってしまって。まして『十字架』に磔だなんてな。俺は眷属じゃ無いが、何か問題があったら相談に来い。解決できないかもしれないが、一緒に悩んではやれるさ」
ニカッと笑うザンの手を、ギャスパーも握り返した。
「と、とんでもないですぅ。こ、こちらこそよろしくお願いします、ザン先輩」