ザンはこの感覚を知っていた。つい最近知り合った、リアス・グレモリー眷属の『僧侶』の、あの力だ。周りを見渡すと、三勢力のトップたちが慌ただしくしている。この世界の魔法に疎いザンでも、防御系の魔法を展開したのが分かった。そして、中庭には黒いローブを纏った者たちが魔方陣から次々と姿を現した。そして、校舎などを魔力の弾丸で攻撃し始める。
「コイツらは一体どこの奴らだ? お前の手引きか、アザゼル?」
「ハッ! 笑えねぇな、龍騎士。俺が仕掛けるなら、部下を使うさ。それに、もしやるならお前を真っ先に潰す。お前以上の不確定要素は無いからな。…おっ、赤龍帝の復活だ」
固まっていたイッセーが我を取り戻す。自分を見ていたアザゼルに思わずイッセーは問いただしていた。
「な、何があったんスか!?」
「テロだよ」
驚くイッセーに対し、アザゼルは外に視線を向けさせた。
「何だ、ありゃ!?」
「魔術師。…所謂魔法使いって奴らだな。使っている魔術を見る限りじゃあ、中級悪魔クラスの魔力を持っていそうだ」
「サーザクスやミカエル、そしてそこのアザゼルが防御系統の魔法を展開しているから今のところは被害は無さそうだ。さて、あとは別口かぁ」
ザンが頭を掻きながら顎で指し示す先は、朱乃や小猫にアーシア。そしてシトリーもまた固まっていた。
「これって、まさかギャスパーの?」
「ハーフヴァンパイアの小僧の神器を、魔術か何かで強制的に禁手化させたんだろう」
「くそっ! アイツ利用されているってことじゃないか!」
アザゼルの言葉にイッセーは地団太を踏み、その隣ではリアスも紅いオーラを纏い怒りを露わにさせていた。アザゼルは肩を竦めていた。
「ちなみにこの校舎を取り囲んでいた三勢力の軍勢も全部止められているぜ。全く、リアス・グレモリー眷属は末恐ろしいぜ」
「利用されてちゃあ、意味が無い。強力な力でも味方に降り注ぐんじゃあな。おい、アザゼル。確かこの学校は結界に覆わられているんだよな? 何で、敵さんがわんさか出てきてるんだよ?」
堕天使の総督に敬意の欠片も無い問いに、サーゼクスは肩を震わせていた。どうやら笑いを堪えているようだ。
「お前なぁ…。まぁいい。敷地内に、外の魔方陣とゲートを繋いでいるのがいるんだろうさ。…しかし、タイミングといい、ハーフヴァンパイアといい、テロの方法といい、こちらの内情に詳しい奴がいるな。案外、此処に裏切者がいるかな?」
「そしたら、お前に確定だな」
「あっはっは。ザンくん、それは無いよ。彼とは長い付き合いだ、このような方法には出ないさ。さて、我々は籠城を続けて敵のトップをこの場に引きずり出したい。そのためにも、まずはテロリストの拠点となっている旧校舎のギャスパーくんを奪い返さないとね」
サーゼクスの言うギャスパー奪還作戦に、リアスが名乗りを上げる。やはり、自らの眷属が利用されているのが許せないようだ。しかし、外は敵の魔術師で覆いつくさんばかり。外に出て向かうのは困難が大きい。そこでリアスは、移動の方法として『キャスリング』を使うという。レーティングゲームの特殊技の一つで、『王』と『戦車』の位置を一瞬で入れ替えるものだ。その意見を取り入れたサーゼクスは、自身の魔法方式で、『キャスリング』時にもう一人入れ替えることができるようにグレイフィアに指示した。そして、そのもう一人にはイッセーが名乗りを上げる。その光景を頷いていたサーゼクスは、アザゼルに水を向ける。
「アザゼル。噂では神器の力を一定時間自由に扱える研究をしていたな? 赤龍帝の制御もできるだろうか?」
「…おい、赤龍帝兵藤一誠。コイツを持っていけ」
アザゼルは懐から何かを二つ取り出すと、イッセーへ放り投げた。慌ててイッセーが受け取ったのはリングが二つ。
「そいつは神器の力をある程度抑える力がある腕輪だ。一つはハーフヴァンパイア、もう一つはお前用だ。短時間なら、代価無しで禁手になれるだろう。ただし、最後の手段にしておけ。体力の調整まではできないから、すぐガス欠になるぞ」
イッセーは神妙な面持ちで頷いていた。リアスはというと、グレイフィアより術式を受け取ろうとしていた。キャスリング時にもう一人送り込む、あの術式だ。
一方、アザゼルはヴァーリに外の魔術師たちの迎撃を指示していた。ヴァーリは一つため息をつき、一瞬ザンを見つめた後に禁手となって外へ出撃していった。
「ふぅ。やっといなくなったか」
首をコキコキ鳴らしながら、ザンはため息をついた。アザゼルはその光景を不思議そうに見つめる。
「お前ほどの力がある者が、何故ヴァーリに苦手意識を持っているんだ?」
「この大騒ぎが落ち着いたら話すよ。一つ気になったんだが、アザゼル。お前、天使や悪魔と戦争をやろうと考えていなかっただろう? なら、何故それほど神器の研究をしている? サーゼクスやミカエルの話を聞く限り、一番研究を進めていたのは堕天使だ。コカビエルの様に『戦争に勝つ為』っていうんならシンプルなんだが、どうやら違うようだ。そこにいる二人も同じことを考えているんじゃないか?」
アザゼルが視線を向けると、サーゼクスとミカエルは頷いていた。アザゼルは肩を竦めた。
「確かに戦争を仕掛けるつもりは無いさ。ただ、自衛の手段は必要だろう? それも相手は天使や悪魔じゃ無い」
「それは、外の奴らと関係あるのか?」
「ああ、恐らくな。奴らは『
ザンには心当たりが無く、イッセーも同様のようであった。しかし、ミカエルやサーゼクスは眉を顰める。
「『
『そう、オーフィスが「禍の団」のトップです』
彼と呼ばれホッとしたザンであったが、声が鳴り響き魔方陣が展開されると肩を落としていた。声の主の心当たりがあるサーゼクスは、グレイフィアに指示を飛ばす。グレイフィアはリアスとイッセーを魔方陣を使用してキャスリングを行った。
「気張れよ、イッセー。こっちは何とかするからさ」
「おう! いっちょ、後輩を助けてくるぜ!」
魔方陣に消えていく二人を、ザンは笑みをもって送り出していた。
-○●○-
「ごきげんよう、現魔王サーゼクス・ルシファー殿」
リアスとイッセーを送り出したザンであったが、気分は落ち込んでいた。サーゼクスは魔方陣から現れる存在に驚愕しているようであったが、ザンとしてはそれどころではない。姿を現したのは二つの影。ひとつは胸元が開き、大きくスリットが入ったドレスをまとった女性。これほどザンが落ち込むことが他にあるだろうか。もう一人は省略。
「先代レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン。それに、バルハルト・アミー。これはどういうことだ?」
サーゼクスの問いに、カテレアは笑みを浮かべて答えた。
「旧魔王派のほとんどの者たちが、『禍の団』に協力することを決めました。今回のこの攻撃も、我々が受け持っています」
「くっだらねぇ」
「何?」
その時初めて、カテレアはザンを認識した。一人の人間が、何故此処にいるのか。それまで気にも留めていなかったのだ。
「その先は大体わかるさ。神がおらず、堕天使の総督は反戦派だ。自分たちが実験を握って改革でもしようってんだろう? その旗印が無限の龍神さまって訳だ。自分の力が足りなくて神頼みって、お前は本当に悪魔か? どうせ、現体制に対するコンプレックスかなにかだろう? 実力も無いくせにプライドだけがいっちょ前ってのが手に負えない。考えることがちっちゃければ、やることは幼稚でテロリズムと来たもんだ。救えねぇよ。テロリズムで古今東西良くなった試しは無い。混乱と混沌だけさ。他人を巻き込まずに自らの理想を貫けない奴らなんぞに、未来があるわけないだろう?」
「くっくっく。この場でその毒舌はすごいな、お前。だが、カテレアの顔を見ればよくわかる。当たらずとも遠からずって感じだろう。確かに『旧魔王派』の目的は陳腐すぎるな」
「アザゼル! あなたはどこまで私たちを愚弄する!」
激高したカテレアをにやりと見やるアザゼル。アザゼルは視線をサーゼクスに向けると、サーゼクスはうなずいていた。
「カテレア・レヴィアタン、俺といっちょハルマゲドンと洒落込もうか?」
「望むところよ! 落ちた天使の総督!」
窓際を吹き飛ばした二人が外に飛び出していった。校庭のはるか上空で激突を繰り返している。
「やれやれ、敵を持っていかれちまったなぁ」
「ザン、君は女性が苦手なのだろう?」
ゼノヴィアは発言した後、木場がゼノヴィアの口を慌てて覆った。ミカエルがその場にいるのだ。ザンはため息をついた。
「んーっ、んーっ!」
「ったく。そういうのは、会談が終わってから言えよな。…別に『敵』なら関係ないさ。触れずに倒す方法もある。ただ、殺しちまうがな」
「あまり、私としてもキミに動いてほしくない。木場祐斗くん、アザゼルやカテレアが暴れる以上、被害が大きくなるだろう。私とミカエルはこの学園を覆う結界を強化し続ける。グレイフィアが魔術師転送用の魔方陣の解析が済むまで、外の魔術師たちをしまつしてくれないか?」
「はっ! ゼノヴィアも来てくれ!」
そのまま引きずる様にゼノヴィアを連れて行った木場に、ザンは苦笑せざるを得なかった。
木場とゼノヴィアは、それぞれに魔術師たちを切り倒していった。ゼノヴィアのデュランダル全開攻撃は、サーゼクスたちがせっかく強化している結界を弱めていないんだろうかと、ザンは疑問に思っていた。そんな暢気なことを考えていた時、カテレアの魔力が爆発的に膨れ上がる。そして、それとは別に横合いからアザゼルは攻撃を受けたのだった。
「やっぱりこうなったか」
ため息をついたザンの視線は、アザゼルを攻撃した人影を捉えていた。その姿は白銀の鎧に身を包む少女である。
「出てきてくれるかな? 龍騎士、ザン」
呼ばれる前から、ザンは校舎から中庭に歩を進めていた。アザゼルが如何に強かろうが、旧魔王の血筋であり力を増しているカトレアと白龍皇であるヴァーリを同時に相手取るのは難しいだろう。そして、会談の成功には三勢力の現トップの存在が必要なのだ。
「そんで? 俺に何か用かな、お嬢ちゃん?」
「ふふふ。ボクを『お嬢ちゃん』呼ばわりをするのはキミぐらいなものさ。ボクはね、キミの事を聞いた時からずっとキミと闘いたかったんだ。そんなことを考えていたあるとき、オファーがあったのさ。『龍騎士と闘ってみたくはないか』ってね!」
兜の中で壮絶な笑みを浮かべているであろうヴァーリの様子に、ザンは首を横に振った。
「俺と闘いたければ、そこのアザゼルと共にいればよかったんだ。どうせ、いつかは許可しただろうさ。残念だよ」
「そんないつとも分からないのを待っていられるわけ無いだろう? さあ、始めようか?」
「…俺は『弱い者いじめ』をする趣味は無いぜ?」
「な…!?」
激高しかけるヴァーリであったが、ザンが左手を前に突き出して押しとどめる。ザンは右手の人差し指を上にかざすと、指先に光が生まれた。
「そうだな、この光の玉をこれからお前に向かって解き放つ。これを躱せたら、望み通り闘おうじゃないか」
「…へぇ、不意打ちじゃなくていいのかい?」
スピードに絶対の自信を持つヴァーリは、あえてザンの提案を受け入れた。
「躱せるのならな。それじゃ、行くぞ? 三、二、一、零」
カウントがゼロとなった瞬間、ヴァーリの頭が吹き飛んだ。正確には、ヴァーリの兜の一部が吹き飛ばされ、頭部より出血が見られる。ヴァーリは目を見開いていた。
「み、見えなかった。いや、光の玉は見えていた。でも、ボクが反応しきれないなんて…」
「さて、終わりだな」
「ま、まだだ! 確かにボクの鎧が壊される威力には驚いたが、それでボクを倒せると思っているのか!? ボクは…」
破壊された兜を直し戦闘態勢に戻ろうとしていたヴァーリであったが、自らの目を疑う光景に絶句した。光の玉がザンの頭上にあったのだ。それも一つや二つではない。
「そう、一つの威力は大したことは無い。なら、二個なら? 四個なら? 八、十六、三十二、六十四…」
先ほどの光の玉が倍々に増えていく。その光景はザンを覆いつくし、まるで光の壁が生まれていく様であった。
「言ったろう? 俺に弱い者いじめの趣味は無いって。このままやるというのであれば、あるのは単なる一方的な蹂躙さ。一つ一つの威力は大したこと無いかもしれないがな、これら全てがお前を襲ったら、どうなると思う?」
『ヴァーリ、ここは引くべきだ! これでは為す術無く滅ぼされるだけだ!』
鎧の宝玉が光り、アルビオンがヴァーリに忠告する。ヴァーリもその光景が容易に想像された。皮膚が、手足が、臓腑が、身体が少しずつあの光の玉に吹き飛ばされ、まるでゴミの様に消えていく姿。自分の未来に先は無い。しかし、ヴァーリは震える脚を両手で叩きながら顔を挙げた。
「それでも、ボクは…!」
「それなら、アイツが相手ってのはどうだい?」
笑みを浮かべてザンが指さす先にいたのは、ギャスパーを助け出したイッセーだった。
「お、俺?」
-○●○-
「何を考えているのよ!? あなたは!」
「ち、近い、顔が近いって、部長!」
柳眉を逆立てて詰め寄るリアスに後ずさるザン。肩をいからせ歩み寄る姿は、ザンにとって魔王そのものかもしれない。イッセーとヴァーリの戦闘は始まっているが、リアスにはそれよりも重要なことの様だ。
「あなたねぇ…。オカルト研究部の女子部員が、日替わりであなたの家にホームステイするわよ! ゼノヴィアなんて、毎日入り浸るかもしれないわよ!」
「それだけはご勘弁を!」
ザンは両手を挙げて降参の意を示した。リアスは鼻息を荒げたままだ。
「正座…」
「…はい?」
「正座しなさい!!」
「は、はいぃぃ!」
ザンは頭を垂れて正座していた。その光景を腰に手を当てて見下ろしている。
「説明しなさい! 何でイッセーと白龍皇を闘わせようとするの!?」
「…イッセーには必要なことだ。あいつは、強くならなくてはいけない。白龍皇の事もあるが、今回のテロの首謀者『混沌の団』などもある。今後もあいつの闘いは続くんだ。ライバルがいるのであれば、切磋琢磨して伸ばせていけるんだ。リアス。あいつは、お前の『兵士』なんだろう? なら、信じてやれよ、イッセーを。そして望んでやれよ、強くなることを!」
ぐっ、と言葉につまるリアス。思うところもあるのだろう。わなわな震えてはいたが、諦めた様にため息を吐いた。
「はぁ、もういいわ。イッセーを信じるしか無いもの。…あなたの相手は、そこにいるそうよ」
「ああ、そのようだ」
ザンが振り返ると、一人の男が近寄ってくるのが見えた。闇夜の様なスーツに身を包む、バルハルト・アミーと呼ばれていた男だ。
「貴方は危険な存在のようだ。まずは、貴方から消えていただこう」
バルハルトの前に炎柱が立ち上る。バルハルトがその炎柱へ手を差し込むと炎がはじけ飛ぶ。バルハルトの手には一振りの青い槍が握られていた。