「何で俺なわけ? あの場なら、普通サーゼクスを討ちそうなものなのに」
「ええ、その通りです。しかし、貴方の存在が分からない。貴方は人間でありながらここにいるイレギュラーであり、天界も認める存在だ。貴方はサーゼクスの『
「…そこまで目をかけてくれなくても良いのに。光栄と思えば良いのか…」
首を横に振り、ため息を突くザンであったが、バルハルトは気にも留めていなかった。
「良いのですか? サーゼクスの妹に助力を願わなくて」
「いらねぇよ。あいつは、もっと大切なものを見ていればいいんだ」
「そうですか。では、始めましょうか」
バルハルトは青槍を構え、小さく息を吐く。ザンは特に構えを取らず、自然体で立っている。
「はっ!」
槍の切っ先がザンの胸中心をめがけ繰り出される。ザンは紙一重で身体を捻り躱す。
ドォォオオン!
ザンが躱した瞬間、槍先が爆発した。バルハルトは突いた槍先を戻したが、注意深く視線をとどめていた。
「…この程度ではダメですか」
爆発の煙がきえるころには、ザンは姿を現していた。身体どころか、制服にも焦げ一つ見当たらない。
「フム、魔法の槍というか、槍が魔法そのものと言う事か。如何にもただの武器と見える物が、ね」
「やはり、貴方は危険な様ですね」
バルハルトが左手を上にかざすと、四本の槍が生まれる。バルハルトが手を振りかざすと同時に、ザンも後ろへ飛び退く。ザンがいた場所には三本の槍が突き刺さっていた。
「三本?」
その疑問の言葉を発したザン目がけ、バルハルトは両手に二本の槍を構えて突撃する。
ギギギン!!
バルハルトが突き立てようとしていた槍と、ザンの背後から迫ってきた槍共々を、ザンは回転するように光の剣で切り上げていた。
「ほう…。背後の魔槍に気づきましたか」
「ああ。あんたの左手に持っているのは、後から作り出したものだ。そうすると、一本勘定が合わないからな」
バルハルトが後ろに飛び退くと同時に槍を四本作り出して射出する。ザンはその全てを事も無げに切り落した。その光景をバルハルトが笑みを浮かべて眺めている。
「…何が可笑しいんだい? バルハルトの旦那」
「貴方は私が一度に四本の魔槍しか作り出せないと考えているのではと思ってね。私には、オーフィスから得た力がある! そう、この力で魔界を変えるのだ! お前の様な者に邪魔されるはずがない! ハーッハッハッハ!!」
雄たけびとも取れる哄笑と共に、無数の槍が現れる。ザンの周りだけではなく、イッセーやリアス、ギャスパーなどの他にサーゼクスやミカエル、そしてアザゼルにも槍が向けられていた」
「我が一族でも、これほど同時に魔槍を生み出した者はいないでしょう。もう、終わらせましょう。全ての者に向けた各百本の魔槍が、全てをね」
「コラー、バルハルトー! ボクの邪魔をするなー!」
白龍皇の怒り心頭であったが、バルハルトはどこ吹く風だ。
「知りませんね。早々に決着を付けないから、そうなるのですよ」
「よう」
「…?」
低い声にバルハルトが振り返ると、そこには自分を睨みつける男。
「貴方が何をしようと、もう終わりなんですよ。あきら…」
ドドドドドドッ!!
轟音と共に槍が砕け落ちる。イッセーに、リアスに、それに木場やゼノヴィア、その他オカルト研究部のメンバーに、そしてサーゼクスたちに向けられた槍が、光の玉に打ち砕かれていった。
「な、なっ…何が!?」
「ふざけてるんじゃねぇぞ! てめぇ、俺だけじゃなく、イッセーを、リアスを、ギャスパーを。俺の仲間たちに何をするつもりだ!」
慌ててバルハルトが残りの槍の射出を試みたが、全ては光の玉に打ち砕かれてしまった。
「自分の力でも無いものをペラペラと。…さて、あっちもかたがつきそうだし、こっちも終わらせますかね」
視線の先には、鎧を纏ったアザゼルとカトレアが激突を繰り返していたが、アザゼルが押している様にザンに見えた。ザンの周りには一つの光が浮かび上がる。
「先ほどの光の玉…。そんな、作る暇など与えたつもりは無いぞ!」
「そんな事を言っているから、ダメなんだよ。あんたらはズレている。問おう。何故、俺の周りにしか光の玉が生まれないと思っているんだ?」
「な…!?」
そう、光の玉は、ザンの周りに一つしかない。しかし、他にも光の玉は存在していたのだ。校舎を、学園を覆う様に光を放つ玉。
「ヴァーリの時に作った玉は、消えたと思ったのか? 残念、正解は滅びの後で」
「き、貴様ーー!!」
ザンが指を弾くと、一つ、また一つと光の玉はバルハルトを吹き飛ばしていく。光速で接近する光の玉を、バルハルトは避ける事ができなかった。指が、腕が、足が、臓腑が吹き飛ばされていく。十秒とかからず、ザンの周りには静寂が訪れる。
「さようなら、バルハルト・アミー。無謀なテロリスト。分不相応な力を誇示していたキミの意思を聞くつもりは最初から無かったよ。テロリズムに走った時点で、全てが無駄さ。さて、…ありゃ? 何やってんだ?」
見上げると、カテレアの腕が触手の様にアザゼルの左腕に絡みついている。アザゼルのもう片方の腕が振り上げられていた。どうやら、腕を切り落とそうとしているようだ。
「やれやれ」
ため息を吐いたザンの姿がかき消えた。
-○●○-
「――ただではやられません!」
「ザンがあそこまで気張ってくれたんだ。俺が簡単に共倒れになっては、示しがつかん」
アザゼルが自らの左腕を切り離そうとしたその時、真下から思いがけない声が聞こえた。
「そう思うなら、短絡志向は止めて欲しいものだな」
バシュッ!
ザンの光の剣が事も無げにカテレアの腕を切り飛ばしていた。アザゼルの腕に絡みついていた部分も、光の力で消滅する。
「き、貴様はっ!」
「さようなら、カテレア。バルハルトと共に消えな。来世があるのなら、今度は自分の力で何かを成せ」
重力に逆らわず自由落下するザンに向け、カテレアは魔力弾と残った腕を触手化して襲い掛かるが、ザンは全てを無数の剣撃で切り裂く。光の剣筋は、まるで光の盾の様にカテレアに襲い掛かる。
「おおおおおっ! こ、こんな事がっ! オーフィスの力を得た、この私がっ!」
光の盾に押しつぶされるように、カテレアは消えていった。
-○●○-
ふわりと降り立ったアザゼルはヴァーリと向き合う。ヴァーリの足元には、息も絶え絶えなイッセーの姿。イッセーの『赤龍帝の鎧』は、あちこちが砕けており、辛うじて原型をとどめている状態だ。
「さて、どうする? 俺はまだ…」
言葉を続けていたアザゼルであったが、光と共に鎧が解除される。
「鎧が解除された、か。まだまだ、人工神器は研究途中ってことだね。さてと」
ヴァーリは視線をアザゼルからイッセーへと向ける。
「運命って残酷って思わない? 僕はね、宿命のライバルがどんなヤツだろうって、気になっていたんだよ? キミの両親はただの人間。ボクの様に魔王の血が流れているわけでもなければ、特別な力があるって事も無い」
そして、ヴァーリはザンを一瞬視界に入れるが、再びイッセーを睨んだ。
「そしたらさ、その赤龍帝の友人がすごいヤツって聞いたんだよ! おお、これはボクのライバルも強くなるんじゃないかなって、ワクワクしたんだ! なのに! キミはいつまでも弱いまま! こんなんじゃ…」
「そうでもないさ」
首を横に振るザンを、ヴァーリは不思議なものを見る目をしていた。
「何を言っているんだ、さっきも話にならなかった。まだ…」
「ああ、イッセーはまだお前には劣るかもしれない。でも『弱くは無い』んだよ。イッセーは負けない。そうだな。もし、負けるようなら、俺の首をやろう」
「おいっ! ザンッ! な、何を言って…! ぐはっ!?」
慌ててザンの胸倉をつかむイッセーに、ザンは容赦なくその額に頭突きを喰らわせた。
「お前の夢はなんだ! 魔王と天使長、それに堕天使の総督に欲望を垂れ流していたのはどこの誰だ! お前の道は修羅の道だ。お前が越えなきゃいけないんだよ! お前が逃げたら、残されたものはどうなる。お前が死んだら、残されたものはどうなる! お前は、リアスが傷ついた姿を見たいのか? 朱乃が傷ついた姿を見たいのか!! お前の目の前にいるのは、そう言う事が容易にできるヤツなんだよ! お前が守らなくてどうする! お前は、リアス・グレモリーの『兵士』だろうが!!」
ドン!とザンがイッセーの胸に拳を打ち付ける。龍騎士とうたわれた男の意思が拳を通してイッセーに流れ込んだ。
「寝ぼけてるんじゃねぇぞ、親友! お前の覚悟を見せてみろ!」
「うぉぉぉぉおおお!」
『Welsh Dragon Over Booster!!』
真っ赤で巨大なオーラに包まれたイッセーは、『赤龍帝の鎧』を再生して雄たけびを上げていた。
「あっはっは。やればできるじゃないか! いいよ、すごくいい! さぁ、やろうか!」
ヴァーリは笑い声を残して上空へと飛び去った。
-○●○-
「うーん、決め手に欠けるな」
「しょうがねぇだろうなぁ。お前と違ってオーラの使い方が下手すぎる」
何処から出したのか、ザンとアザゼルはバリバリと音を立てながらせんべいを頬張る。まるで縁側で茶をすすりながら花火を見ているかのようだ。
「アイツ、剣の扱い方がなって無いな。振り回しても当たってくれないだろうに。できもしないこと、本番でやるなよな。まったく、何のための『赤龍帝の小手』だって話だよ。お、気が付いたか?」
『Transfar!!』
イッセーの左拳が防御魔法を破ってヴァーリの顔面へと炸裂した。兜が欠け、ヴァーリの顔が少し見える。
「へぇ、女の顔を殴れるんだな、アイツ」
「龍騎士さまはお気に召さないかな?」
「うんにゃ。アイツ女好きだから、フェミニストなのかと思ってた。ちゃんと戦闘の時は大丈夫みたいだな」
「いつまで緊張感無いやり取りをやっているの!?」
アザゼルからせんべいの一斗缶を奪い取ったリアスは眉を逆立てていた。
「んー、なに? イッセーが負けるとか、思っているわけ?」
「相手は『白龍皇』なのよ!」
「アイツは『赤龍帝』なんだよ。リアス・グレモリーの『兵士』だ。信じてやれよ、お前の眷属を。お前の好きな男を」
ボッ! と顔を赤くするリアス。
「な、ななな何を言っているの!?」
「お前、誰にも悟られていないとか思っていたの? 気づいていないのはイッセーぐらいなもんだ。…そんなことより、何か面白い事やっているぞ?」
顎で上を指すザンにつられ、リアスも視線を移した。そこには何かを小手に押し付けているようだ。白銀のオーラが小手に集約されたかと思うと、イッセーは雄たけびを上げた。
「ぐあぁぁぁあああ!」
「イッセーは何をしているの!?」
「赤龍帝は白龍皇の力を取り込もうとしているんだろう。無茶をしやがる」
『Vanising Dragon Power is Taken!!』
そして、イッセーは賭けに勝ったようだ。イッセーの右手は白い光で覆われている。そして、それを肯定的に受け止めている者がイッセーの目の前にいた。
「あはははは! いい! すごくいいよ! ボクも少し本気をだそうかな。ボクが勝ったら、キミのすべてとキミの周りのすべても半分にしてあげる!」
イッセーの頭上にはクエスチョンマークが輪を作って踊っているのが見えるかのようだ。それを見て取ったヴァーリは、光輝くと手を近くにあった木々へと向ける。
『Half Dimention!』
轟音と共に木々が半分となっていた。その光景を目にしたザンは頭を掻く。
「やれやれ、とんでもない能力だな」
「おーい、赤龍帝! あれはもののすべてを半分にしていくもんだ。つまり、白龍皇が本気をだせば、リアス・グレモリーの胸も半分になる。どうだ、分かりやすいだろう?」
「ふ、ふざけんなああぁぁあ! 貴様ぁぁ! 俺の部長のおっぱいを半分の大きさにするつもりかぁぁ!? 許さない! 絶対に許さない!! ぶっ倒してやるぞ、ヴァーーリィーー!!!」
本日最大級のオーラを発し怒り心頭のイッセーの姿を、ザンは涙を流しながら見上げていた。
「マジで? 俺の言葉より、そっちなん? 俺の、俺の親友は、いったいなんなんだよぉ…」
爆笑するアザゼルの隣で両手を地面につきうなだれるザンに、誰も声をかけられなかった。
そんなこんなで、イッセーはヴァーリに勝った、とザンはのちに語る。どうやら、あまりに愕然としていて、よく覚えていないらしい。あの時のイッセーさんには感謝しているんですと涙ながらに語るアーシアを見て、あの後何があったのだろうかと首をひねるザンであった。
-○●○-
「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問となった。アザゼル先生と呼べ」
「どやかましい、セクハラおやじ。イッセーの成長の過程が、あーんな情けない言葉で彩られるとか、泣けるわ」
「まぁまぁ、ザン。神器に詳しいんだし、俺たちの成長に協力してくれるって言うんだからさ」
未だに肩を落としているザンに、イッセーがフォローをしているつもりらしい。イッセーがアザゼルの肩を持てば持つほど、その溝は深まるばかりだ。
「ふーん、イッセーはソイツの味方なんだな。そうですかそうですか」
とうとうザンは部室の隅っこで床にのの字を書き始めてしまった。仕方なくアザゼルは話を続ける。オカルト研究部のメンバーの現状から今後の課題などいろいろだ。そんな中、リアスの怒声が部室に鳴り響いた。
「イッセーの貞操は私が管理します! アザゼル! イッセーに余計なことを吹き込まないで頂戴! イッセーも私の貞操を守っておいて、どういうつもりなの!?」
「何の話をしているんだ!?」
あまりにも突拍子もなく、学校であるはずも無い会話に、ついにザンも折れた。
「ああ、コイツはハーレムが目標だっていうから、女を教えてやろうと思ってな」
「あほか。そんなのは後からついてくるもんだ。それよりやるべきことがあるだろう?」
「そ、そうね! 私たちは強くならなくてはいけないわ。テロしかり、レーティングゲームしかり」
なんのフォローか、リアスが慌てて相槌を打っていた。どうやら先ほどの話は流したいらしい。
「夏休みに合宿をして、お前らみんなパワーアップすればいい。俺が直接指導してやるよ。それに合宿中に試合をセッティングするようにサーゼクスにも打診している」
「まぁ、強くなることはいいことだ。がんばれよ、イッセー」
「あれ? お前は俺たちを鍛えてくれないのか?」
当然合宿に来ると思っていたのであろうイッセーであったが、ザンは首を横に振った。
「いや、俺は他人にものを教えるのは苦手だし、神器について見つめ直すのも重要だろうさ。こんな怪しさ大爆発なヤツだが、一応堕天使の総督さまだ。お前たちを良い方向に導いてくれるだろう」
「おお、やっと俺を信頼したのか…」
「もし、変な方向に言っていたら、ブチのめすけどな」
「Oh…」
何故か英語をつぶやき天を仰ぐアザゼルであった。
-○●○-
駒王学園 一学期 終業
駒王学園高等部 オカルト研究部
顧問教諭/アザゼル(堕天使総督)
部長/リアス・グレモリー(王) 三年生 残る駒『戦車』一個
副部長/姫島朱乃(女王) 三年生
部員/搭城小猫(戦車) 一年生
木場祐斗(騎士) 二年生
ゼノヴィア(騎士) 二年生
アーシア・アルジェント(僧侶) 二年生
ギャスパー・ヴラディ(僧侶) 一年生
兵藤一誠(兵士) 二年生
桐生斬 二年生 龍騎士