赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第2話

 天変地異が起きた。駒王学園の特定の生徒たちの言である。曰く、あの兵藤一誠に彼女ができた。

 

 ―あの、エロに対するものすごいパワーを除けばイイヤツだからな。そういう子もいるのだろう―

 

 ザンは暢気に構えていた。写メをクラス中に見せて回っていたのは覚えている。ザンはその写真を見なかった事を思い出していた朝、家から出てくるイッセーを見て違和感を覚えた。

 

 ―あれは、イッセーか? 雰囲気はそのままだが、()()()()()()()に見える。どういうことだ?―

 

 ザンは、この感覚を覚えていた。良く似た、この感覚。しかし、ザンはそれを信じる事ができなかった。

 イッセーを遠巻きに見ながらザンも登校した。クラスに入ると、松田と元浜がイッセーに声をかけていた。

 

 「よう、イッセー。どうしたんだ? 何だか調子悪そうだぞ?」

 

 「あれか?自家発電に励んで、朝になってたってやつか?」

 

 「うるさいな! 何だか朝日が辛いんだよ」

 

 「何だよ、図星かよ」

 

 「違うって!」

 

 何とも下劣な会話で、近くの女生徒が軽く引いていた。

 

 「…お前らさ、夕麻ちゃんの事なんだけど…」

 

 「夕麻ちゃんて、誰だ?」

 

 「え?」

 

 松田や元浜は夕麻を覚えていないと言う。イッセーは他のクラスメイトを捕まえるが、皆答えは同じだ。天野夕麻という少女は知らない。そう、イッセーとザン以外は皆、天野夕麻を忘れていた。

 

 「あ、ザン! お前は夕麻ちゃんを覚えているよな!?」

 

 「すまない、イッセー。俺にも…」

 

 ザンは、このことがイッセーの身に起きた事と関連しているのではと訝んでいた。

 

 

-○●○-

 

 

 とある夜。ザンは町内を見回っていた。それは言い知れない不安を抱いていたからだ。そう、その感覚はクラスメイトが天野夕麻を忘れる前日に、ザンが感じたものだ。自らに降りかかるものでなければ捨て置こうとザンは考えていた。しかし、イッセーの変わり様がこの不安の原因と同じなら、放置できない。

 公園にたどり着いたとき、その不安は的中していた事を知る。イッセーは光の槍に腹を貫かれ、苦しそうにもがいていた。イッセーの上には、黒い翼を背中に生やした男が浮いていた。

 

 「イッセー!!」

 

 ザンはイッセーの下に駆け寄り、イッセーを揺さぶる。

 

 「が、がはっ。ザ…ザン、は…やく、にげ…」

 

 「まだ意識はあるんだな! だが、これでは…」

 

 「人間が、何の用だ?」

 

 上からの声にザンが目を向けると、つまらなそうな舌打ちをする男がいた。

 

 「貴様がイッセーを…!」

 

 「イッセーとはコイツのことか? それならば、その通りだ。お前も不運なものだ。この場にいなければ、死なずに済んだものを」

 

 そう告げる男の手には、イッセーを貫いたものと同じ光の槍が生まれる。

 

 「だ…駄目だ。ザン…は、やら…せ…」

 

 イッセーの言葉を鼻で笑うと、光の槍をザン目掛けて放つ。

 

 「!?」

 

 しかし、ザンは事も無げに光の槍を掴んでいた。そして、その光の槍を握りつぶす。男が更に光の槍を生み出そうとしたとき、その手は爆発に包まれた。

 

 「その子に触れないでちょうだい」

 

 颯爽と現れ男の前にたたずむ女性は、紅い髪をしていた。

 

 ―そういえば、以前イッセーに聞いたことがあったな。確か二大お姉さまとか何とか。名前は…―

 

 「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。この子にちょっかい出すなら、容赦しないわ」

 

 「…これはこれは。その者はそちらの眷属か。この町もそちらの縄張りと言うわけだな。今日の事は詫びよう。だが、下僕を放し飼いにしない事だ」

 

 「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をしたら、容赦なくやらせてもらうわ」

 

 「そのセリフ、そっくりそちらに返そう、グレモリー家の次期当主よ。我が名はドーナシーク。再び相見えたくないものだ」

 

 黒い翼を羽ばたかせ、空高く飛翔する。空に浮かんだ男は、リアスを睨み、そしてザンを睨んだ後夜の空へ消えていった。

 

 「あら、気絶してしまったの? 確かにこれは少しばかり危険な傷ね。…それで、あなたは一体何者なのかしら?」

 

 視線をイッセーからザンに移したリアスが、警戒の色を見せる。しかし、ザンにはそれほど余裕は無かった。

 

 「イッセーが、大変なんだ! 俺じゃあ、コイツを助けられない…。救急車を呼んでも、助からないかもしれない…! アンタなら、何とかできるのか? イッセーを、助けられるのか!?」

 

 自らの言葉をまるで聞いていないザンに、ため息をつくリアスだった。

 

 「…いいわ。確かにこの子の事もあるし、貴方の事は後にしてあげる。明日使いを出すから、そのときにね」

 

 リアスの言葉に頷くと、ザンはその場で土下座した。

 

 「わかった。イッセーを、よろしく頼む」

 

 ザンの行動に目を丸くしたリアスだったが、笑みを浮かべるとイッセーと共にザンの前から消えていた。

 

 

-○●○-

 

 

 眠れぬ夜を過ごしたザンは、目を擦りながら家を出た。昨日会った、リアス・グレモリーはイッセーを助ける事は出来たのだろうか。そもそも、リアス・グレモリーとは一体何者なのか。寝不足で頭が回らない状態ながら考えがまとまらない中、重い足を引きずるように動かしていると、丁度イッセーが家から出てきた。

 

 「お、イッセー。おは…」

 

 ザンは挨拶が続けられなかった。イッセーの後に出てきたのは、あのリアス・グレモリーではないか。

 

 「お、おはよう、ザン。あは、あははは…」

 

 「お、おう。おはよう、イッセー。ははは…」

 

 「何なの? 二年生では挨拶がてらに乾いた笑いが流行っているの?」

 

 「そんなわけ、無いだろ!? アンタ、何でイッセーの家から…」

 

 「昨夜の事、もう忘れたの? この子の傷を癒したからじゃないの。さあ、遅刻してしまうわ。行きましょう」

 

 アホな子を見るような目でザンを見ると、リアスはスタスタと学校へ歩き始めてしまった。リアスに付き従って行くイッセーは、まるで従者の様だ。

 

 「イッセーが助かったのは良かったが、こりゃ、まだ終わりそうも無いなぁ」

 

 なお、登校時に学園のアイドルであるリアスと共に歩くエロの権化イッセーの姿を見かけた生徒の中には、ショックで気絶する者もいたそうな。

 

 

-○●○-

 

 

 「や、どうも」

 

 放課後にイッセーの下を訪れたのは、木場祐斗という同学年の男子生徒だった。なにやら木場がイッセーに話しかけていると、周りの女子生徒がざわついていた。

 

 「そ、そんな、木場くんと兵藤が一緒だなんて。木場くんが穢れてしまうわ!」

 

 「木場くん×兵藤なんてカップリング、許せない!」

 

 「木場くんは、ザンくんのものなのに!」

 

 「ひょっとして、ザンくんを巡って木場くんと兵藤が争っているとか?」

 

 ―なんだか良く分からないものに、俺を巻き込まないでくれー!!―

 

 女子生徒の反撃が怖く、声に出せないザンであった。

 

 「君が桐生くんだね。君も一緒に来てもらえるかな?」

 

 「「「キャー!!!」」」

 

 木場がザンに声を掛けただけで大騒ぎである。ザンはジト目で木場を睨んだ。

 

 「何故、俺にまで声を掛けた!?」

 

 「リアス・グレモリー先輩の使いで来たといえば、分かるかい?」

 

 ザンは諦めたように天を仰いだ。

 

 木場に連れられて向かった先は、校舎裏手にある旧校舎だった。ザンは旧校舎に来た事は無かったが、それは旧校舎に対する違和感も影響していた。

 

 「オカルト研究部?」

 

 イッセーの怪訝な声に、ザンも同意していた。どう考えても怪しい場所である。木場が二人を連れてきたことを扉越しに報告すると中に入っていった。二人も中に入ると、それはそれは怪しさ大爆発だった。室内のいたるところに面妖な文字が書き込まれており、部屋の中央には円陣があった。

 

 「搭城小猫ちゃんだ!」

 

 ソファーに座る彼女は二人に向けて頭を下げると、黙々と羊羹を頬張っていた。

 

 「…また、女子かよ…」

 

 ザンの小さな叫びはイッセーの耳には届いていた。だが、それ以上に気になる音がイッセーにはあった。

 

 「これって、シャワーの音?」

 

 「ゴメンなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊りして、シャワーを浴びていなかったから、今汗を流していたの」

 

 カーテンを開き出てきたのは、濡れたままの紅髪が艶やかなリアス・グレモリーだ。イッセーの鼻息が、ザンにまで聞こえている。リアスの後ろには黒髪ポニーテールの女性もいた。

 

 「あらあら。初めまして、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後お見知りおきを」

 

 丁寧な挨拶に、イッセーとザンも共に頭を下げ挨拶を返す。

 

 「コレで全員揃ったわね。兵藤一誠くん、桐生斬くん。いえ、イッセーとザン。私たちオカルト研究部は、あなたたちを歓迎するわ」

 

 リアスは満面の笑みで歓迎の意を示した。

 

 「悪魔としてね」

 

 イッセーの頭上にはクエスチョンマークが乱舞し、ザンは肩を竦めていた。

 

 

-○●○-

 

 

 自分たちは悪魔だと、リアスは語りだした。昨夜、イッセーを襲ってきた男、ドーナシークは堕天使と言い、悪魔と堕天使、そして天使を含めて三すくみが太古より続いていると言う。

 そして、話はあの天野夕麻に及んだ。天野夕麻はドーナシークと同じ堕天使だと言うのだ。その天野夕麻は、ある目的の為にイッセーを殺したと言う。

 

 「神器(セイクリッド・ギア)?」

 

 「神器とは、特定の人間の身に宿る規格外の力。例えば、歴史上に残る人物の多くが、その神器の所有者と言われているんだ」

 

 「現在でも体に神器を宿す人々はいるのよ。世界的に活躍する方々がいらっしゃるでしょう? あの方々の多くもそうですの」

 

 木場と朱乃の言葉に、リアスも続く。

 

 「大半は人間社会規模でしか機能しない程度のものばかり。でも、中には私たち悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を持った神器があるの。イッセー、手を上にかざしてちょうだい。目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じるものを思い浮かべてしてちょうだい」

 

 「…ドラグ・ソボールの空孫悟かな…」

 

 「ゆっくりと腕を下げて。そして、その人物の一番強く見える姿を真似るの。強くよ?」

 

 イッセーは何か逡巡しているようだったが、リアスが強く急かすために諦めたようだ。

 

 「ドラゴン波!」

 

 イッセーは、開いた両手を上下にあわせ、前に突き出す。ザンは、友人のその行動に腹を抱えて笑い転げていた。

 

 「何だ、コレ!?」

 

 イッセーの左腕が光ったかと思うと、左手の甲には大きな宝玉がはめ込まれ、装飾が施された籠手が装着されていた。

 

 「あなたは、その神器を危険視され、あの堕天使―天野夕麻に殺されたの。そこで私があなたを救った。この私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったの。私の下僕悪魔として」

 

 その瞬間、ザンを除く全員の背中からコウモリのような翼が生まれた。もちろん、イッセーの背中からも生えている。

 

 「改めて紹介するわね。祐斗」

 

 「僕は木場祐斗。兵藤一誠くんや桐生斬くんと同じ二年生ってことは分かっているよね。えーと、僕も悪魔です。よろしく」

 

 「…一年生。…搭城小猫です。よろしくお願いします。…悪魔です」

 

 「三年生、姫島朱乃ですわ。いちおう、研究部の副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」

 

 「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」

 

 各自の挨拶も終わり、解散かとイッセーは思っていたが、イッセー以外の視線が一点に集中する。そう、その視線はザンに向けられていたのだ。ザンは少し震えているようだ。

 

 ―あ、これは悪魔云々より、女性に見つめられているのが辛いようだな―

 

 少々顔が青くなっているのが、イッセーが良く見てきた兆候であった。イッセーが声を掛けようとするが、その前にリアスが口火を切った。

 

 「…それで、昨夜の事に戻るんだけれども、あなたは一体何者なのかしら? ザン?」

 

 「…俺は、ただの人間…」

 

 「ただの人間に、堕天使の光の槍は受け止められないし、砕けもしないわ」

 

 「あの、リアス先輩?」

 

 横から割り込んできたイッセーに、リアスは視線を移す。

 

 「部長と呼びなさい」

 

 「あ、はい。リアス部長、ザンは女性恐怖症だから、そんなに近づくと喋れないと思います」

 

 「「「女性恐怖症!?」」」

 

 ザンがイッセーを睨んでいる事に、今更ながらイッセーは気が付いた。ザンはどうやらオカルト研究部の面子に知られたくなかったようだ。リアスは、文字通り悪魔の笑みを浮かべる。

 

 「…さて、聞かせてもらおうかしら。あなたが何者なのか。…そうね、喋らないようだったら、この朱乃をけしかけるわよ」

 

 「あらあら、うふふ」

 

 まったく困っていない笑みを浮かべる朱乃。対照的にザンは顔色が一層青くなってきていた。ザンが何とか口を開こうとした時、まったく別の声が響いた。

 

 『いい加減にしないか! この無礼者め! この方を、何と心得ているか!』

 

 ザンの左手首から光が放たれ、部室全体が光に包まれた。光がおさまると、ザンの頭上には三十センチほどの東洋の龍が浮かんでいた。

 

 「この方こそ救世の英雄、桐生斬さまなるぞ!!」

 

 「「「(ドラゴン)!?」」」

 

 ザンは頭を抱え、ザン以外はコウの出現に驚きの声をハモらせていた。

 

 

-○●○-

 

 

 一定の距離を置き、ザンは語りだした。右手にはコウの口を握りこんだ状態で。コウはどうにか脱出しようともがいているようだ。

 

 「コイツは今でこそこんな形だが、本来は五メートルクラスの巨体だ。今は魔法で小さくなっているがね」

 

 ザンが右手を開くと、コウは慌ててザンの頭上に浮かんだ。

 

 「酷いじゃないですか、ザンさま。あいたたた」

 

 「阿呆。お前が余計な事を言うからだ」

 

 「…本題に戻ってもらえるかしら?その龍の事も気になるけれど、まずはあなたの事よ」

 

 少し苛立ち始めているリアスに、ザンは両手を挙げて降参の意を示した。

 

 「…さて、どこから話せば良いかな。信じられないかも知れないが、これだけは言っておこう。俺は『異世界人』だ」

 

 「異世界人?」

 

 「ああ。俺は、この世界とは別の、そう別の世界からここにやってきた」

 

 「どういうことだよ!?」

 

 ザンの視線の先には、イッセーが泣きそうな顔をしていた。ザンはイッセーに笑みで応える。

 

 「…イッセー、覚えているか? 初めて会った日の事を。俺はその前日にこの世界に降り立ったのさ」

 

 「そ、そんな…」

 

 「ただ、俺はお前たちと変わらない人間だ。あ、今は違うのか。でも、そんな偏見に囚われて欲しくなかったんだ。だから、俺はお前にも言えなかったんだ」

 

 イッセーはドサッとソファーに崩れ落ちた。しかし、すぐに顔を上げる。

 

 「…でも、俺は、お前の事を友達と思っている!」

 

 「ああ、俺もさ、イッセー。ありがとう」

 

 ザンのイッセーが握手を交わしている中、リアスが疑問をぶつけてくる。

 

 「さっき、そこの龍が救世の英雄といったわよね?」

 

 「ああ、だがもちろんこの世界ではなく前の世界の事だ。そんな事はどうでも良いだろう?」

 

 「良くないわよ!?」

 

 立ち上がるリアスに、ザンは右手人差し指を立てて横に振る。

 

 「いや、どうでも良いことさ。重要なのは、君、リアス・グレモリーは俺の話を聞いて、俺をどうしたいのかってことさ」

 

 「どういうことだよ!?」

 

 「そのセリフは二回目だぞ、イッセー。そうだな、俺はお前を含めてこのオカルト研究部が悪魔の巣窟である事を知ってしまった。これはどう考えてもそこのリアス・グレモリーにとっては喜ばしい事ではない。そして、俺は『異世界人』とのたまう人間だ。ましてや龍まで連れているときている。俺に対して、何らかしらの対策を講じておきたいのだろう?」

 

 ザンの言葉に、リアスは苦笑いを浮かべていた。

 

 「そうね。そして、あなたはあの堕天使の光の槍を握りつぶす事ができる能力も持っている。この町は私の管轄であるし、イレギュラーを放ってはおけないの。あなたも、このオカルト研究部に入部してもらうわ」

 

 「…俺は、悪魔じゃないぞ」

 

 「ええ、それでもよ。拒否をしたら、どうなるかわかるわよね?」

 

 リアスの笑みに、ザンが怒気をもって応える。

 

 「…俺を、殺すということか?」

 

 「朱乃や子猫、もしくは私があなたに触れるわ」

 

 リアスが言い終わる前に、ザンは綺麗な土下座をしていた。歴史に残る素早さであったと言う。

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