赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第3話

 イッセーが下僕悪魔として仕事を始め幾日が経った。イッセーが魔力不足により魔方陣から客先まで一人で飛ぶ事ができず、ザンが笑い転げていた事も記憶に新しい。ある日、イッセーがシスターを教会に送ったことについてリアスから説教を受けていた夜、大公からはぐれ悪魔の討伐依頼があった。

 はぐれ悪魔。そういう存在がいる。爵位持ちの悪魔に下僕としてもらった者が、主を裏切り、または主を殺して主無しとなる事件が、極稀におこるのだ。そのはぐれ悪魔を討伐する事も、悪魔の仕事の一つだ。

 

 「オカルト研究部に所属するだけで、悪魔の仕事は手伝わなくて良いって言ったよな? 何で俺まで一緒に行かなくてはいけないんだよ?」

 

 「いい機会だから、悪魔の戦いを見ておきなさい。あなたは、どうも悪魔と言うものを分かっていないように見えるのよ」

 

 「へいへい」

 

 肩を落として歩くザン。遠巻きながらリアスや朱乃、小猫が周りにいるため逃げる事をザンは諦めていた。

 道すがら、イッセーは下僕の特性の説明を受けていた。『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』。主となる悪魔を『(キング)』とし、『女王(クイーン)』『騎士(ナイト)』『戦車(ルーク)』『僧侶(ビショップ)』『兵士(ポーン)』と五つの特性を与えられる。

 

 「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

 「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しにきたわ」

 

 ケタケタと異様な笑いをあたりに響かせ暗がりから姿を現したのは、上半身が裸の女性で下半身が巨大な獣の姿だった。両手には槍を一本ずつ持っている。

 

 「また女かよ。いい加減にしろよ…」

 

 どうやら、ザンにとってはバイサーも一応女性として扱うようだ。イッセーはバケモノを見る目でバイサーを見つめている。

 

 「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

 バイサーとの戦闘中、今度は悪魔の駒の特性についてイッセーは説明を受けていた。

 木場祐斗は『騎士』。『騎士』の特性はスピード。

 搭城小猫は『戦車』。『戦車』の特性は力と防御。

 姫島朱乃は『女王』。『女王』は『兵士』『騎士』『僧侶』『戦車』全ての特性を持つ。

 

 『僧侶』の話が出てこなかったなとザンが考えていた頃、局面は終わりに迎えようとしていた。はぐれ悪魔バイサーとオカルト研究部の面々では役者が違うようだ。

 

 「最後に言い残す事はあるかしら?」

 

 「殺せ」

 

 「そう、なら消し飛びなさい」

 

 地面に突っ伏し動けないバイサーに向かって、リアスは巨大で黒い魔力の塊を打ち出す。それと同時にバイサーの身体がはじけ、何かがリアスを襲う。

 

 「!?」

 

 リアスの目の前で、ザンは左手で槍を掴んでいた。右手でリアスを押し守る形で。バイサーはリアスの魔力の塊により消滅していた。

 

 「戦場において、油断大敵だ…」

 

 そう言うと、ザンはそのまま倒れてしまった。リアスは我に返り、ザンを揺さぶる。

 

 「目を開けなさい! 毒が塗られていたの!?」

 

 気が動転し、リアスはザンを揺さぶり続ける。しかし、隣にいるイッセーには状況が分かっているようだ。

 

 「…部長、ザンは気絶しているだけだと思います」

 

 「え?」

 

 「女性恐怖症なのに、部長を庇うために触れてしまったから…」

 

  リアスは気が抜けてへたり込んでしまった。しかし、ひとつ気になることがリアスにはあった。いくら油断していたとはいえ、リアスにはバイサーの命を賭けた一撃を見破れなかった。戦闘に参加していなかったとはいえ、ザンは唯一見破りリアスを助けた。ザンは一体何者なのだろうか。

 

 

-○●○-

 

 

 数日が経ち、イッセーが契約取りに向かった先でイカレた悪魔祓い(エクソシスト)と遭遇した事もあった。

 そんなある日。パン! と乾いた音が部室にこだました。

 

 「何度言ったら分かるの? ダメなものはダメよ。あのシスターの救出は認められないわ」

 

 イッセーは、アーシアというシスターと知り合い、そして悪魔祓いや堕天使から救われたらしい。しかし、アーシアの境遇は褒められたものではなかった。アーシアと友人となったイッセーは、アーシアを救いに行くという。そこで、悪魔と堕天使の関係を諭すようにリアスがイッセーに説明しているが、イッセーの気は変わらないようだ。その中、朱乃がリアスに何かを耳打ちし、リアスの表情が険しくなった。

 

 「大事な用事が出来たわ。私と朱乃はこれから少し出るわね」

 

 イッセーは、まだ話は終わっていないと詰め寄ろうとしたが、リアスは腕でそれを制し、そして諭した。『兵士』は『(リアス)』が『敵の陣地』と認めた場所の一番重要な場所に踏み入れたとき、『(キング)』以外の駒に変ずることが出来る。そして神器とは、想いの力で動くものであり、想う力が強ければ強いほど神器は応えるものだと。

 

 リアスと朱乃が魔方陣から消えると、他のメンバーが残された。イッセーが意を決し立ち上がると、隣にいたザンがイッセーに声をかける。

 

 「ほんじゃ、行くとしますかね」

 

 「ザン!?」

 

 「俺としては、女が増える事は好ましい事じゃ無いんだけどな。でも、行くんだろう?」

 

 「…ああ。アーシアは友達だからな」

 

 イッセーの意志の固い瞳を見て、ザンは肩を竦めた。

 

 「だから、俺も行くのさ。イッセーは俺の親友だからな」

 

 「二人じゃ無謀だよ。僕も行く。君らは僕の仲間だ。部長はああおっしゃったけど、僕としては君の意思を尊重したいと思う部分もある」

 

 木場は、堕天使や神父を憎んでいるとも語った。そして小猫も立ち上がる。

 

 「私も行きます。…三人だけでは不安です」

 

 「うへぇ…」

 

 「…殴って良いですか?」

 

 小猫の宣言にザンが不平の言葉を発すると、小猫はザンににじり寄った。ザンは本気逃げに徹していた。

 

 「…話が進まないんだけど。まあ、いいか! 四人でいっちょ救出作戦といきますか! まってろ、アーシア!」

 

 

-○●○-

 

 

 聖堂の入り口に、四人は声を潜めて佇んでいた。

 

 「ちょっと待ってな」

 

 ザンは金色の湯気のようなもので身体を覆う。

 

 「…オーラ」

 

 小猫の声を無視し、ザンは目を金色に輝かせる。

 

 「搭城。あの扉を、この角度から打ち抜いて飛ばせるか?」

 

 自分の言葉が無視された小猫は、不満顔だったが頷いた。

 

 「えい」

 

 抑揚の無い声の割りに、扉が中に吹き飛ばされる。四人が中に踏み込むと、二十人を超える神父がいた。

 

 「悪魔祓いか。イッセー、木場と搭城を連れて先に行け。こいつ等は俺が相手をしておく」

 

 「馬鹿言うな! こんな人数、一人で相手できるわけ無いじゃないか!」

 

 「大丈夫。面倒なヤツは、搭城がのしてくれたからさ」

 

 ザンが指差す先には、扉に吹き飛ばされたフリードの姿があった。

 

 「一番強そうな奴を巻き込んでもらったからな。ほれ、行った行った」

 

 「…でも…」

 

 なお逡巡するイッセーの胸を、ザンの拳が叩く。

 

 「重要な事を間違えるなよ、イッセー。アーシアを救い出すのが、最重要項目だ。ほれ行け、グレモリー眷属!」

 

 「分かった! 死ぬなよ、ザン!」

 

 「俺のセリフだ、イッセー。木場、搭城。イッセーを頼む」

 

 視線すら向けないザンに、木場と小猫は頷き走り出したイッセーを追いかけて地下に降りて行った。

 

 

-○●○-

 

 

 「また貴様か、人間」

 

 「またお前かよ、堕天使」

 

 聖堂にいた神父が全て倒されて数分が経った後、堕天使が一人入ってきた。

 

 「貴様は一体何者だ? これだけの悪魔祓いを一人で倒せる人間などいるはずが無い」

 

 「そっちこそ、リアス・グレモリーと姫島朱乃から逃げてきたんだろう? 大した事無いな、ドーナシーク」

 

 その言葉に怒ったのか、ドーナシークは両手に光の槍を生み出した。

 

 「人間如きが! 我ら堕天使に逆らった不明を知れ!」

 

 光の槍がザンを襲う。しかし、その光の槍はザンを通り抜けてしまった。

 

 「何!?」

 

 ザンの姿が揺らいだかと思うと、ドーナシークは腹に痛みを覚えていた。視線を下に向けると、ザンがドーナシークの腹を手で貫いていた。

 

 「ざ、残像…」

 

 「遅いんだよ。まったく、一匹逃がすって、どうよ?」

 

 「ごめんなさい。あの状況で逃げ切れるとは思っていなかったのよ。それでも二匹の堕天使は始末したわよ?」

 

 入り口には、リアス・グレモリーと姫島朱乃の姿があった。ドーナシークは、自らの運命が変わっていなかった事を知り事切れた。

 

 「それにしても、あなたは何者なのかしら? ただの人間が、堕天使を素手で倒すことができると言うの?」

 

 「そりゃあ、事実こうして出来るわけだしね。人間を馬鹿にしすぎじゃないかな」

 

 「…それで、イッセーたちは?」

 

 「そろそろ、決着がつくんじゃないか?」

 

 ザンの暢気な声と時を同じくして、大きな破砕音が響いた。何かが飛んでいく姿もザンたちには見えた。

 

 「な?」

 

 ドーナシークを振り落とし、ザンは満面の笑みでサムズアップをした。

 

 

-○●○-

 

 

 「よう、生きているかイッセー?」

 

 木場の肩を借り、どうにか動いているイッセーがそこにいた。

 

 「神父たちは?」

 

 「ご覧の通り、倒しておいたよ。一匹おまけもあったけどね」

 

 木場が見渡すと、文字通り神父たちは皆倒れていた。ドーナシークもそこにいる。

 

 「堕天使を倒すとか、君は何者なんだい?」

 

 「イッセーだって、アイツを倒したんだろう? 親友の俺も同じことをしただけさ」

 

 「もういろいろ無茶な人間だってことは理解したわ」

 

 ザンから少しはなれたところにリアスは立っていた。

 

 「どうやら勝てたようね」

 

 「ははは、…なんとか勝てました」

 

 イッセーの下に歩み寄ると、鼻をつんと小突く。

 

 「さすが、私の下僕くん」

 

 「部長、持ってきました」

 

 小猫がどこかに歩いていっていたが、どうやらイッセーが吹き飛ばしたアレを持ってきたようだ。ずるずると引きずって、リアスの前に放り出す。

 朱乃が魔法で空中に水の塊を作ると、倒れていたそれがむせ込みながら意識を取り戻した。

 

 「ごきげんよう、堕天使レイナーレ。初めまして。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけど、以後お見知りおきを」

 

 「グレモリー一族の娘が…。してやったりと思っているんでしょうけれども、残念。私には…」

 

 「彼らは助けに来ないわ」

 

 リアスをあざ笑うかのように語りだしたレイナーレだったが、リアスの言葉がそれを遮った。

 

 「堕天使カラワーナ、堕天使ミッテルト。私が消し飛ばしたから」

 

 「う、嘘よ!」

 

 リアスは二枚の黒い羽を懐から取り出した。

 

 「同族のあなたなら、見ただけでわかるわね?」

 

 上半身を起こしたレイナーレは、まだ希望を捨てていなかった。

 

 「私には、もう一人の協力者が…」

 

 「それって、コイツ?」

 

 遠めにいるザンは、ドーナシークの頭を掴んで見せつける様に持ち上げた。

 

 「ドーナシーク! でも、リアス・グレモリーは…」

 

 「あ、コイツは俺が倒しちゃったから。仲間はもう少し強い奴選んだほうが良いよ。こんな事になるから」

 

 「人間に堕天使が敗れるなんて…」

 

 レイナーレが声を失っている時、リアスはイッセーの左腕に視線を向けていた。

 

 「赤い龍…。この間までこんな紋章は無かったはず。そう、そういうことだったのね。堕天使レイナーレ。この子、兵藤一誠の神器はただの神器じゃないわ。それがあなたの敗因よ」

 

 リアスの言葉に、レイナーレは怪訝そうに片方の眉を吊り上げる。

 

 「『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、神器の中でもレア中のレア。籠手に浮かんでいる赤い龍の紋章がその証拠。あなたでも名前ぐらいは知っているでしょう?」

 

 「ブ、ブーステッド・ギア。『神滅具(ロンギヌス)』の一つ…。一時的とはいえ、魔王や神すらも超える力を得られるという。…あの忌まわしき神器が、こんな子供に!?」

 

 レイナーレは神滅具がイッセーの手に宿っている事に驚愕しているようだった。イッセー自身も、想定外な神器の能力に驚いているようだった。

 リアスは微笑み、イッセーの頭を撫でていた。イッセーが押さえ込んでいた感情があふれ出す。

 

 「ぶ、部長。お、俺、アーシアを…守ってやれませんでした…」

 

 「泣く事は無いわ。今のあなたの姿を見て、誰が咎められるというの? あなたはまだ悪魔として勉強が足りなかっただけ。ただ、それだけよ。強くなりなさい、わたしの兵士、イッセー」

 

 「はい」

 

 イッセーは涙を腕で拭きながら、何度も頷いていた。

 

 「じゃあ、最後のお勤めをしようかしらね。消えてもらうわ、堕天使さん。もちろん、その神器は回収させてもらうわ」

 

 リアスの目には冷酷な光が灯る。おびえる堕天使は神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を奪わせまいとするが、リアスはそれを許さなかった。

 

 「俺、参上」

 

 ザンが視線を向けると、空いた壁から神父が現れる。戦いの最初の方で扉に吹き飛ばされた、あの男だ。

 

 「わーお! 俺の上司がチョーピンチくせぇ!どうしたものか!」

 

 ふざけた口調の男、フリード・セルゼン。レイナーレはそのフリードに助けを請うが、フリードはあっさりと断った。興味が無くなったのか、フリードは視線をレイナーレからイッセーへと移した。

 

 「イッセーくん、イッセーくん。キミ、素敵な能力を持ってたのね。さらに興味津々なり。殺し甲斐あるよねっ! 次にあったら、ロマンチックな殺し合いをしようぜ!」

 

 そう言って、フリードは姿を消した。上司であるレイナーレを残したままで。

 下僕にすら見捨てられたレイナーレは、視線をイッセーに向けた。

 

 「イッセーくん、私を助けて! この悪魔が私を殺そうとしているの! 私、あなたのことが好きよ! 愛している! だから、一緒にこの悪魔を倒しま…」

 

 イッセーに天野夕麻の声色で助けを請うレイナーレの目の前にに、何かがドサッと堕ちてきた。ドーナシークの死体だ。

 

 「ヒッ!」

 

 「…てめぇ、黙っていればベラベラと。その舌、引き抜いてやろうか!」

 

 金色の湯気の様なものを全身に纏い、ザンが怒りの声を上げていた。

 

 「…ありがとう、ザン。グッバイ、俺の恋。部長…、お願いします」

 

 「私の可愛い下僕に言い寄るな! 消し飛べ!」

 

 リアスの放った魔力の一撃は、レイナーレを跡形無く消し飛ばしていた。

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