赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第4話

 アーシア・アルジェントは、結果的に助かった。神器『聖母の微笑』を抜き取られたアーシアだったが、リアスは、悪魔の駒の一つ『僧侶』を使い、悪魔へと転生させたのだ。

 

 「あら、ちゃんと来たわね」

 

 「…今日は集まりがあるから朝から来るよう言ったのは、部長だろう?」

 

 イッセーとザンが部室に入ると、ソファーに座り優雅に紅茶を飲むリアスから声をかけられたのだ。

 

 「おはようございます、部長」

 

 「ええ、おはよう。朝はもう大丈夫みたいね。堕天使から受けた傷は?」

 

 「はい、例の治療パワーで完治です」

 

 笑顔で答えるイッセー。光の槍で受けた傷はかなり深手であったはずだ。アーシアの『聖母の微笑』の力がそれだけ凄まじいという事である。

 リアスの対面の席にイッセーは腰を下ろすと、『兵士』の駒について確認をしていた。リアスは駒の消費について語り、イッセー以外の『兵士』は無いことを告げた。

 

 「へぇ、イッセーを悪魔にする時に、『兵士』が八つ必要だったのか」

 

 「ええ、そうよ。…なんでそんなに遠くにいるの?」

 

 「…気にするな」

 

 リアスから見て、最も対角線上に遠い位置にザンは立っていた。リアスは苦笑したが、そのままイッセーに視線を移し見つめると、顔を近づけイッセーの額にキスをした。

 

 「これはお(まじな)い。強くおなりなさい、イッセー。…っと、あなたを可愛がるのはここまでにしないとね。新人の子に嫉妬されるかも知れないわ」」

 

 「イッセーさん…」

 

 イッセーの後ろには、アーシアがたたずんでいた。心なしか涙目で、笑顔か引きつっている。遠くでザンが肩を竦めていた。

 アーシアは駒王学園の女子生徒の制服を着ていた。イッセーがリアスに確認すると、アーシアは転校生ということで、駒王学園に通う事となったとのことだった。

 

 「…同じ、クラス、だと…?」

 

 「ええ、あなたたちと同い年というから、クラスも同じにしておいたわ。彼女のフォローをお願いね」

 

 「…また、女子数が増える…。天は我を見放したもうたか!」

 

 「…ご迷惑でしたか…?」

 

 オーバーリアクションを取るザンに、アーシアは涙目で見つめていた。

 

 「そんな事無いって! ザンも喜んでいるんだよ、な?」

 

 「…ああ、そのとおりさ。気にしないでくれ…」

 

 言葉とは裏腹に、部屋の隅っこでザンは床にのの字を書き始めていた。そんな些細な事があった後、木場、小猫、朱乃が部室に入ってきた。

 

 「さて、全員が揃ったところで、体育館に行きましょうか」

 

 「体育館ですか?」

 

 リアスの言葉にイッセーは疑問を持った。アーシアとザンを除いたメンバーは頷いていた。

 

 

-○●○-

 

 

 「模擬戦?」

 

 「ええ、そうよ。人払いと防御の結界は張ってあるの。堕天使を倒したあなたの力、見せてちょうだい」

 

 体育館に来たオカルト研究部メンバーの内、ザンと木場が体育館中央にて対峙していた。他のメンバーは壁際にて観戦モードだ。

 

 「見せろって言われてもねぇ…」

 

 「僕じゃ、力不足かい?」

 

 木場は苦笑していたが、相手はザンである。リアス、朱乃、小猫、アーシアでは女性恐怖症のせいで勝負にならず、悪魔なりたてのイッセーでは、ザンの力を見るのは難しいだろう。

 

 「力不足って言うか、手を抜くな。俺を殺すつもりで来い」

 

 「そんなつもりは無いんだけれど?」

 

 「木刀(そんなもの)使っている間は、全力じゃ無いんだろう? はぐれ悪魔で見せた、あの力を使えよ。魔法か、お前の神器って所なんだろう?」

 

 木場がリアスに視線を移すと、リアスは頷いていた。

 

 「じゃあ、行くよ」

 

 木場はそう言うと、ザンの目の前から消えた。少なくともイッセーにはそのように見えた。次の瞬間には、木場がザンの右斜め上に現れていた。木場の必殺とも言える一撃を放つが、ザンはその振り下ろされた剣を素手で掴んでいた。

 

 「くっ」

 

 木場はザンから飛びのき、それを見送ったザンは掴んだ剣を握り砕いていた。

 

 「やはり剣を作り出す能力といったところか。だが、造りが甘い」

 

 「ならば、これならどうかな?」

 

 右手には炎を纏った剣、左手には氷の剣を木場は作り出す。そして、木場の姿がまた消えた。しかし、ザンは目で追っているようだった。

 

 「右、右、フェイント、左、での…」

 

 右の甲で木場の氷の剣の一撃をいなすと、左のフックが木場の右わき腹を襲う。

 

 「おっと」

 

 木場が遠のき、また間合いが広がる形となった。

 

 「まさか、このスピードについてこれるとはね」

 

 「『騎士』の速度の限界が、これってことは無いだろう? 俺もそろそろ動くぞ?」

 

 ザンの身体を金色の湯気のようなものが覆い始める。

 

 「オーラ…」

 

 「ええ、彼はオーラの使い手なのかしら?」

 

 小猫の呟きを、リアスは聞き逃さなかった。しかし、リアスはザンがまったく力を使わず木場の相手をしている事に驚き、隠すことに精一杯だった。

 

 「!?」

 

 構えすらしないザンは、一気に間合いを詰めると、木場の両剣を掴んでいた。

 

 「くっ」

 

 剣を離し、間合いをあけようとする木場だが、ザンが更に間合いを詰める。左手に作った闇の剣をいなされ、右手に作った光の剣をつかまれ、そのまま引っ張られると木場は頭に頭突きを食らっていた。

 

 「ぐあっ!」

 

 そのまま木場は壁際まで吹き飛ばされていた。

 

 「…僕の攻撃がまったく通じないなんて…」

 

 悔しさのにじむ木場の言葉に、ザンは首を横に振った。

 

 「それは違うだろうな。お前は俺に全力で攻撃できていない。確かに、お前は本気だったのかもしれない。でも、『オカルト研究部』の一員である俺に対し、全力での攻撃が出来なかったのだろう。仲間と思ってくれることは嬉しいが、お前の剣にはあのはぐれ悪魔の時の様な殺気は無かったよ」

 

 「…そうなのかな…」

 

 「あくまで憶測だ。そこで、スピード勝負といかないか? お前は俺の背後を取り、俺はお前の背後を取る。どうだ?」

 

 ザンの提案に木場は頷いた。リアスもため息交じりだったが了承した。

 

 「うおっ! すげえ!」

 

 イッセーの感想に、リアスや朱乃、小猫も心の中で同意していた。アーシアは「はうぅ」と目を回している。

 ザンと木場が同時に消えたかと思うと、木場の背後にピタリとザンが追随する。まるで二人はシンクロをしているようだった。木場がフィギュアの回転の様に回るが、ザンはその背後からすら離れない。 フェイントを織り交ぜて木場が逃げ、ザンは逃がさず張り付く攻防が続いた。

 

 「はぁ、はぁ…」

 

 「こんなもんでどうだい? リアスお嬢さま?」

 

 木場の体力が尽きてへたり込んだところで、ザンはリアスに水を向けた。

 

 「ええ、十分よ。一緒に部室に来てちょうだい」

 

 リアスは背を向けて体育館から出て行った。ザンも向かうが、足取りが重い。

 

 「まさか、二人っきりにさせられるってことは無いよな?」

 

 

-○●○-

 

 

 「そこに座って」

 

 「いや、俺はここで…」

 

 「…後で朱乃をけしかけるわよ?」

 

 ザンは諦めてリアスの対面の席に座った。他のオカルト研究部メンバーはまだ帰ってこない。

 

 「それで、何の御用ですか、リアスお嬢さま?」

 

 「学校では『部長』と呼びなさい。…まったく、煙に巻こうとして。大体、察しがついているのでしょ? ザン、あなた私の眷属になりなさい」

 

 「いいぞ」

 

 「あなたは人間であることに誇りを持っているかもしれない。悪魔を嫌っているかもしれない、でもね…。今、何て?」

 

 ザンは大きくため息を吐いた。リアスの眉はピクリと動いたが、ザンの言葉を待つ。

 

 「だから、良いって言ったんだ。誇りだけで生き残れるわけでも無いしな。主が女ってことがひっじょーうに困ったところなんだが、イッセーの行く末を見てみたいと言うのが本音のところだ」

 

 イッセーが悪魔となった際に、寿命が人間にとっては永遠に近いものだと聞いていた。揉め事はご免だが、友人イッセーの悪魔家業は現時点ではお世辞に言っても順調ではない。この世界の初めての友人の手助けが出来ればとすらザンは考えていた。

 

 「そう? どう説得しようかと色々考えていたんだけれど…。まあ、いいわ。さっきの祐斗との模擬戦も含めて、あなたは『騎士』に相性が良いと思うの」

 

 リアスは懐から『騎士』の駒を取り出し、ザンの目の前のテーブルに置いた。紅色の駒がキラリと光る。リアスは右手をザンにかざす。ピクリと肩を震わすと、リアスは首を横に振った。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「あなたは、この『騎士』の駒で悪魔に転生が出来ないわ」

 

 「はあ?」

 

 ザンとすれば、一大決心をしたところに冷や水をかけられた様なものだ。

 

 「イッセーの時もそうだったんだけれど、相手によっては駒が一つでは足りない事もあるの。私の実力では、あなたを『騎士』の駒一つでは転生できないの」

 

 「他に駒があったんじゃないか?」

 

 「ええ、『戦車』があるわ。実は『戦車』も試したのよ」

 

 リアスは握りこんでいた左手を開くと、そこには『戦車』の駒があった。

 

 「…ということは、俺は人間のままってことか?」

 

 「ええ、そういうことね。でも、オカルト研究部には所属したままでいてもらうわよ」

 

 「はああ。何て言うか、気が抜けた。…ということだ、いい加減入ってきたらどうだ?」

 

 扉の向こうで逡巡している気配がするが、諦めたのか扉が開いた。

 

 「イッセーにアーシア、小猫に祐斗、…それに朱乃まで!」

 

 「申し訳ありません、部長。どうしても気になりまして…」

 

 ぞろぞろと入ってきたのは、オカルト研究部の面々だった。

 

 「ザン! 俺の為に、悪魔になろうとしてくれたんだな! 俺は、お前に恥ずかしくない立派な悪魔になる! そして、ハーレム王に俺はなる!」

 

 目を潤ませイッセーは堂々と宣言していたのだが、隣の小猫は小さくため息をついていた。

 

 「…サイテーです、イッセー先輩」

 

 パンとリアスは手を叩くと立ち上がる。

 

 「ザンを眷属に出来なかったのは残念だけれど、新しい部員が増えた事でもあるし、ささやかなパーティを始めましょうか」

 

 そう言ってリアスが指を鳴らすと、テーブルの上に大きなケーキが出現した。

 

 「悪魔って言うより、手品師だな」

 

 ギロリとリアスはザンを睨むが、ザンは既に遠くに逃げていた。

 

 「ん、んんっ! た、たまには皆で集まってこういうのも良いでしょう? あ、新しい部員もできたことだし、ケーキを作ってみたから、皆で食べましょう」

 

 リアスは照れくさそうにそう言った。イッセーは感激して涙を流している。アーシアも一緒に感激しているようだ。

 

 『悪魔と言うから、魔族のようなものかと思っていましたが、どうやら違うようですね』

 

 「ああ、そうだな。どちらかというと、あのはぐれ悪魔と言うヤツのほうが、まだ近い」

 

 『…あの、ザンさま。悪魔になるのは、本気だったのですか?』

 

 「そうだな、あの時は少なくとも本気だったさ。今は、正直何とも言えん。…俺の友人は、この世界では数人しかいないからな…」

 

 そう言うザンは、窓の外に視線を向けた。雲ひとつ無い空がザンの瞳に映る。今日の天気は良さそうだ。

 

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