赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第3話

 山篭り修行合宿は無事終了した。合宿を行っていた別荘のある山のとなり山は、イッセーによって吹き飛ばされるという些細な事もあった。

 

「地主は腰を抜かすんだろうなぁ」

 

「何の話だよ?」

 

 決戦当日の深夜十一時四十五分。リアス・グレモリー眷属とザンは旧校舎の部室に集まっていた。それぞれ、一番リラックスできる方法で待機している。

 

「あなたは来なくても良かったのよ?」

 

「リアス・グレモリー眷属としてはそうだろう。でも、俺はオカルト研究部の一部員として見送りたかったんだ」

 

 ザンの言葉に、リアスは笑みを浮かべていた。朱乃はそのどこかすっきりしたリアスの笑みを見て、首を傾げていた。

 開始十分前。部室の魔方陣が光り、グレイフィアが姿を現した。部室内を見回すとザンの姿を見つけたグレイフィアは、眉をピクリと動かした。

 

「グレイフィア、いいのよ。ザンは見送りに来ただけだから」

 

「…そうですか。皆さん、準備はお済になられましたか? 開始時間になりましたら、ここの魔方陣から戦闘フィールドに転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。使い捨ての空間ですので、思う存分にどうぞ」

 

 今回のレーティングゲームはグレモリー家及びフェニックス家が他の場所から中継で見ているとグレイフィアは説明した。そして、この一戦には魔王ルシファーも見ているとのことだった。

 

「お兄さまが…? そう、お兄さまが直接見られるのね」

 

 リアスが驚きの声を上げていた。イッセーはリアスの言葉に驚いていた。リアスの兄は、魔王だったのだ。魔王は先の大戦で亡くなっており、最上級悪魔であるリアスの兄が初代の名を受け継ぎ『サーゼクス・ルシファー』と名乗っているのだ。サーゼクス・ルシファーが魔王であるため、リアスがグレモリー家を継ぐ事になったのである。

 

「そろそろお時間です。皆さま、魔方陣の方へ」

 

 リアス率いるグレモリー眷属は魔方陣へ移動する。紋様がグレモリー家から他のものに変わり、光りだした。

 

「勝ってこい、皆」

 

 ザンの言葉に、リアス・グレモリー眷属は笑みを浮かべて頷いていた。一層光り輝くと、リアス・グレモリー眷属は消えていた。

 

 

 

-○●○-

 

 

 どれほど待ったのであろうか。祈りにも近い願いをザンは持っていた。リアス・グレモリー眷属が笑みを浮かべ、無事な姿を見せる事を。魔方陣が再び光るその時まで、願っていた。

 

「グレイフィア…さん…」

 

 魔方陣から姿を現したのは銀髪のメイド、魔王サーゼクス・ルシファーの『女王』、グレイフィアであった。

 

「お嬢さまの言われていた通り、桐生さまはこちらに残っていらっしゃったのですね。お嬢さまと、眷属の方々はこちらにお戻りにはなりません。その事をお伝えに来ました」

 

 グレイフィアの言葉に、ザンは膝が落ちそうだった。懸命に堪えて声をひねり出す。

 

「それは、どういう意味ですか? 部長たちは…」

 

「勝負はライザーさまの勝利です。リアスお嬢さまは投了(リザイン)いたしました」

 

「…何故、投了することになったんですか?」

 

 ザンは両拳をきつく握り締めていた。メキッと音が聞こえてくるようである。

 

「『兵士』兵藤さまが力尽き、ライザーさまに命を奪われる前に投了されたのです」

 

「…そうでしたか…」

 

「眷属の方々は治療をした後、お送りする予定となっております。本日はお引取りを」

 

 そう言ってグレイフィアは頭を下げた。下げながら、グレイフィアは冷や汗をかいている。理由は分かっている。目の前の男の怒りを感じているからだ。幾多の戦場を駆け巡った自分が人間の怒りで気圧されるなど、グレイフィアは信じられなかった。

 

「…わざわざ結果を教えていただくために来ていただいて、ありがとうございました。それでは、失礼いたします」

 

 幽鬼の様にゆらゆらと部室を出て行くザンを、言葉を発する事ができないグレイフィアは見送る事しか出来なかった。

 

 

-○●○-

 

 

 敗戦から二日後、イッセーは目を覚ました。レーティングゲームの終盤の記憶がイッセーには残っていなかった為、傍らにいたグレイフィアに負けた事を告げられた。現在はリアスとライザーの婚約パーティが開かれており、朱乃や木場、小猫は会場にいるという。そして、アーシアはイッセーの看病の為に兵藤宅に残っている事も伝えられた。

 グレイフィアからパーティ会場へ転移できる魔方陣と共に、魔王サーゼクスからの言葉もイッセーに伝えられた。『妹を助けたいなら、会場に殴りこんできなさい』と。

 立ち去るグレイフィアと入れ替わりでアーシアが涙を流しながら部屋に入ってくる。泣きじゃくるアーシアを抱きしめ、頭を撫でて宥めながら、イッセーはアーシアにあるものを取りに行かせた。

 

「おい、聞こえているのなら、出て来い。いるんだろう? 赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグ! いるなら話がある。出て来い!」

 

 イッセーは目をつぶり、心の中で呼びかけると、不気味な笑い声が響き渡る。

 

『ああ、何だ小僧。俺に何の話がある?』

 

「俺と取引してくれ」

 

『面白い、覚悟はあるのか、小僧』

 

「うるせぇ! やるのかやらないのか!」

 

『言ったはずだ。犠牲を払うだけの価値を与えてやる、とな。ただし、十秒だ。それ以上はお前の身体がもたない』

 

 イッセーは頷くと、目の前の炎を纏う赤い龍を睨みつける。

 

「それで、何を差し出せば良い?」

 

『…半身を貰おうか。多少足りないが、おまけだ』

 

「そいつは勘弁だな。もう少しまけてくれないか?」

 

 ドライグは視線を声の方に向ける。そこにはザンが立っていた。

 

『貴様、どうやってここにいる?』

 

「ちょっとした裏技みたいなもんだ。…それより、俺が力を貸してやる。せめて腕一本ぐらいにはならないか?」

 

 ザンは『龍の氣』を展開しドライグへ流し込む。

 

『…いいだろう。これだけあれば、展開も可能だ』

 

「おい、ザン! 俺は…」

 

 イッセーはザンの胸倉を掴むが、イッセーの瞳は涙で覆われ、体は震えていた。

 

「イッセー。お前はリアス部長を助け出したいのだろう? ならいいじゃないか。 俺も一緒に行くしな。ほれ、現実世界に戻るぞ。お前に渡したいものもある」

 

「お前も行くのかよ!? ん? 渡したいもの?」

 

「ああ。アーシアに取りに行かせた物は、切り札になるものだ。だが、当たらなくては意味が無い。その隙を作るための物と思ってくれれば良い。先に帰っているぞ」

 

 そう言うと、ザンの姿は消えた。

 

『ザンと言ったか。アイツは、お前が考えている以上の力の持ち主のようだ。あれほどの濃厚なオーラは、今まで感じた事が無い』

 

 ドライグの驚愕した声を聞いて、イッセーは思わず笑みを浮かべた。

 

「当たり前だ、あのザンだぜ?」

 

 

-○●○-

 

 

 魔方陣が光ると、二人の人影が姿を現す。イッセーとザンだ。どこかの屋敷の中のようだ。広い廊下が続いている。

 

「向こうだな」

 

「分かるのかよ?」

 

 イッセーの言葉に、ザンはため息をついた。

 

「気配ぐらい探れるようになれ、イッセー。こういう時、仲間が何処にいるか探れなくてどうする。そんなことより…」

 

「何者だ!」

 

 衛兵らしきものが二人走ってくる。イッセーとザンは顔を見合わせ頷くと、ザンが笑みを浮かべて宣言する。

 

「奪還者だよ!」

 

 ザンは弓矢の様に駆け出すと、一気に間合いを詰める。

 

「な!?」

 

 一人の鳩尾に拳を打ち込むと、右足を軸に回転し左足でもう一人の首を蹴り抜いた。

 

「「ぐはっ」」

 

 崩れ落ちる二人を、イッセーは口を開けながら見ていた。ザンは巨大な扉を指さして叫ぶ。

 

「呆けるな、イッセー。この先だ! ぶちかませ!」

 

「お、おう! うおぉりゃああ!」

 

 轟音を響かせ、イッセーが巨大な扉を殴り開けた。何事かと室内中の視線がイッセーに集まる。イッセーはその大勢から、紅髪の少女を見つけた。

 

「部長ォォォッ!!」

 

 リアスはイッセーたちの姿を視界に捉えると、少し肩を震わせその瞳から一筋の涙をこぼした。

 

「ここにいる上級悪魔の皆さん! それに部長のお兄さんの魔王さま! 俺は駒王学園オカルト研究部の兵藤一誠です! 部長のリアス・グレモリーさまを取り戻しに来ました!」

 

「同じく桐生斬、推して参った!」

 

 さらに衛兵が出てきて侵入者を確保すべく動き出したが、木場や小猫、朱乃がそれらの行く手を阻む。

 

「イッセーくん、ザンくん。ここは任せて!」

 

「…遅いです」

 

「あらあら、ザンくんも来ちゃったんですね」

 

 イッセーは木場たちに小さく礼を言うと、ズンズンと前に進み、ライザーの下へ向かう。ザンもイッセーの後に続いた。イッセーはライザーを正面から見据えると、イッセーは叫んだ。

 

「部長…リアス・グレモリーさまの処女は俺のもんだ!!」

 

「選りに選って、言う事はそれかよ!?」

 

 形容しがたい表情で目元を引きつらせるライザー。ザンは額に手を当てて嘆いていた。

 グレモリーやフェニックスの身内、関係者の上級悪魔達は困惑した表情をしてざわめいていた。その時、一番奥にいた紅髪の男がイッセーの方に歩み寄ってくる。

 

「私が用意した余興ですよ。ドラゴンの力が見たくて、ついグレイフィアに頼んでしまいましてね」

 

「お兄さま…」

 

 リアスの言葉に、イッセーは目の前の男が魔王であるサーゼクス・ルシファーであることに気が付き、腰が引けていた。ザンがそのイッセーの背中を支える。

 

「サ、サーゼクスさま、そ、そのような勝手は…!」

 

 慌てふためく男性悪魔であったが、サーゼクスは意に介さなかった。

 

「いいではないですか。この間の『レーティングゲーム』、実に楽しかった。しかしながら、ゲーム経験の無い妹が、フェニックス家の才児であるライザーくんと戦うのは、些か分が悪かったと」

 

 フェニックス家の悪魔は、この間のレーティングゲームについて問題があるのかと問うが、サーゼクスは自らの立場を述べるに過ぎなかった。しかし、妹の婚約パーティは派手にやりたいと言い出した。ドラゴン対フェニックスを見たいと。ライザーは魔王の依頼を受諾した。イッセーにもサーゼクスは確認を取る。

 

「ドラゴン使いくん、キミが勝った場合の代価は何がいい?」

 

 サーゼクスの申し出に悪魔たちは非難の声を上げるが、イッセーは悪魔であり、代価は必要と言い切った。サーゼクスが再度イッセーに問うと、イッセーはサーゼクスの目を見つめて答えた。

 

「リアス・グレモリーさまを返して下さい!」

 

 イッセーの迷いの無い言葉に満足したサーゼクスは笑みを浮かべた。

 

「わかった。キミが勝ったら、リアスを連れて行けばいい」

 

 イッセーとライザーは、魔王の言う婚約パーティの演出のため、決闘の空間へと移動していった。

 

「さて、桐生斬くん。キミも先ほどのドラゴン使いくんと同じ望みだと思うが、代価は何を支払うのかな?」

 

 人間であるザンについては、代価が必要とサーゼクスは言ったのだ。周りの悪魔たちもざわめきだす。

 

「リアス部長やグレイフィアさんからある程度俺のことを聞いているのでしょう? そうですね、魔王であるあなたに『俺の力を見せる』というのはどうでしょう?」

 

「ほう…」

 

 サーゼクスの目が鋭さを増す。周りの悪魔は「何様のつもりだ!」と、更に騒ぎ出していた。

 

「ただし、イッセーとライザー殿との一戦の後である事。そして、今、この場では『俺の力』を他の悪魔には見せない事」

 

「…私が後から冥界中に情報を公開すれば、同じ事では無いかな?」

 

「確かにその通りです。だからこそ、情報をどう取り扱うかは、魔王さまにお任せいたします。ただ、今この場では、公開しないでいただきたい」

 

 少しの間、サーゼクスは思考の中にいた。一人頷くと、ザンを見つめる。

 

「私のほかに三人魔王がいるが、彼らを同席しても構わないかな?」

 

「はい。魔王の立場にいる方々なら」

 

「いいだろう。これで話は決まりだ。桐生くん、後の事があるから、キミは私と共にこの対決を見ることとしようか」

 

 悪魔たちの声を聞き流しながら、サーゼクスは会場の奥へと消えていった。ザンもまた、それについていったのだった。

 

 

-○●○-

 

 

 会場の中央に急遽作られた空間。会場を悪魔たちが見守る。オカルト研究部のメンバーはリアスと共に関係者席に座り、リアスの隣には魔王サーゼクス。さらにその隣にはザンが座っていた。

 この対決を取り仕切る男性悪魔が戦いの開始を告げる。イッセーは十秒で決着をつけると宣言し、リアスはイッセーにプロモーションの許可を与える。イッセーは『女王』にプロモーションするとリアスに向け心の内を叫んだ。

 

「あなたの為なら、神さまだってぶっとばしてみせます! このブーステッド・ギアで! 俺の唯一の武器でっ! 俺はあなたを守ってみせます! 輝きやがれ! オーバーブーストォォ!!」

 

『Welsh Dragon over booster!!!』

 

 イッセーの籠手の宝玉が赤い光を放つと、イッセーを赤いオーラが包み込む。ドラゴンの姿を模した鋭角的なフォルムの全身鎧を、イッセーは纏っていた。

 

「これが龍帝の力! 禁手(バランスブレイカー)、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』だ!」

 

 左腕の宝玉からはカウントダウンの音声が流れる。イッセーは両手を突き出すと、掌の間に魔力の塊を作り出し、ライザーへ放つ。

 

「デカい!」

 

 ライザーはその魔力から回避すべく動いたが、それをイッセーが追撃すべく動く。鎧の背部からオーラが噴き出し、爆発的な速度を生み突進するが、ライザーにはかすりもしなかった。

 

「あっちゃー。力の制御がまったく出来ていないな」

 

 会場ではザンが額に手を当てていた。

 

 ―イッセー、決めきれるか?―

 

 ライザーは先ほどのイッセーの動きから警戒を強めている。背中に炎の翼を生やし、イッセーを睨みつける。

 

「火の鳥と鳳凰、そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! 受けて燃え尽きろ!」

 

 互いに高速でぶつかり合い、殴りあう。若干イッセーが押されているようだったが、クロスカウンターで入った左拳を受けたライザーは、突如口から血を吐き出した。イッセーを睨みつけたライザーは、イッセーが握りこんでいたものに気が付いた。

 

「十字架だと!? 馬鹿な! 十字架は悪魔の身を激しく痛みつける! いかにドラゴンの鎧に身を包んだとしても…。ま、まさか、籠手に宿るドラゴンに、腕を支払ったのか…?」

 

「ああ、そうだ。俺はこの力を一時的にでも手に入れるために左腕を、ザンはオーラを支払った。俺の左手は本物のドラゴンの腕だ。だから十字架は効かない」

 

 イッセーはアーシアに用意させた十字架を握り締め、ライザーは更に業火を身に纏いぶつかり合う。ライザーの姿勢が崩れた事を見たイッセーは、最後の一撃を打つべく飛び出した。その時、イッセーの『赤龍帝の鎧』は解除されてしまった。

 力を失ったイッセーはその場に倒れこんだ。ライザーはゆっくりとイッセーの下へ歩き、イッセーの首を掴み持ち上げた。

 

「が、ぐあっ」

 

 イッセーの姿に、ザンは膝の上に置いていた拳を強く握り締めた。

 

「助けに行きたいかい?」

 

 隣のサーゼクスの言葉に、視線を動かさずザンは否定した。

 

「いえ、行きません。これはイッセーの戦いだ。それに行く必要はありませんよ。見ていてください、イッセーは勝ちます」

 

 虚勢ではないと感じられるザンの言動に、サーゼクスは視線を決闘の場へ戻した。その時、イッセーの声が響き渡る。

 

「光よ!」

 

 イッセーの右手には光の剣が握られていた。その剣の刃は、イッセーの首を掴んでいたライザーの腕を切り落とす。

 

「ぐああああっ! ひ、光の剣だとっ!?」

 

 右手の光は、ヴゥンという音と共に円筒状のものの中に消えてしまった。

 

「本当に一瞬だけだったな…」

 

 イッセーはザンの言葉を思い出していた。

 

 ―これは神器『光の聖櫃(ライト・アーク)』。『龍の氣』を光の刃にするものだ。悪魔にとっては天敵のような武器さ。俺の『龍の氣』を込めてあるが、通常は『龍の氣』を流しっぱなしにして使うものだ。恐らく一瞬しか使えないだろう。使うタイミングはお前に任す―

 

 イッセーはザンに感謝しながら、懐からビンを取り出す。その中には液体が入っていた。アーシアに用意させたもう一つのもの、『聖水』だ。

 

「炎を消すなら、水だよな!」

 

 イッセーはビンを開けライザーに聖水をふりかけると、左腕の宝玉が光る。

 

『Transfer!!』

 

「うがあああっ!!」

 

 聖水の効果でのた打ち回るライザー。その隙を逃さず、イッセーは左腕にも聖水をかける。

 

『Transfer!!』

 

「アーシアが言っていた。悪魔は聖水と十字架が苦手だと。木場が言っていた。視野を広げて、相手と周囲も見ろと。朱乃さんが言っていた。意識を集中させて、魔力の流れを見ればいいと。小猫ちゃんが言っていた。打撃は体の中心線を狙って、的確且つ抉りこむように打つんだと!」

 

 イッセーが最後の一撃のために構えを取ったとき、ライザーはさすがに慌てふためいていた。

 

「分かっているのか!? この婚約は悪魔の未来のために必要なものなんだぞ!? お前のような…」

 

「難しい事は分からねぇよ。でもな、お前に負けて気絶したとき、うっすらと覚えている事がある。…部長が泣いていたんだ。泣いていたんだ! そして、さっきも泣いていた。俺がてめぇを殴る理由は、それだけあれば十分だぁ!!」

 

 聖水と十字架の効果が増幅されたイッセーの一撃は、ライザーの腹部を深く打ちこんでいた。

 

「がはぁっ! …こんな事で、俺が…」

 

 ライザーは膝をつき前のめりに突っ伏すと、起き上がる事は無かった。ライザーとイッセーの間に人影が舞い降りる。ライザーの妹、レイヴェル・フェニックスだ。降り立ったライザーの妹にイッセーが何か話しかけている時には、魔王サーゼクスとザンは観客席の奥へ消えていった。

 

 

 -○●○-

 

 

「あ~、酷い目にあった」

 

 心身共にぐったりしながら、ザンは自宅を出た。しかし、災難はまだ終わらない。ザンはデジャヴを感じていたのだ。兵藤の表札がある家から出てきたのは、うかれるイッセーと若干不機嫌なアーシア、そしてリアス・グレモリー。

 

「イ~ッセエェ~ッ!!」

 

 地鳴りのような声に、イッセーはビクリと震えた。

 

「いやザン、違うんだ。その、なんだ。突然部長が『下僕との交流を深める』って言って、部長までホームステイする事になったんだ!?」

 

「…何で疑問系なんだよ。ったく、アーシアがご機嫌斜めそうだぞ。本当はお前が無理を通したんじゃないのか?」

 

「いえ、私が機嫌が悪いなんて、そんな…。私はなんて邪な事を考えてしまうのでしょう! ああ主よ、お許しを! あうっ!」

 

 頭痛を堪えるために頭を抱えるアーシアを見て、リアスはため息をついた。

 

「何をやっているの…。そう言うことだから、ザン。これからはご近所さんね」

 

 満面の笑みを浮かべウィンクするリアスを目の当たりにして、ザンは天を仰いだ。

 

 

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