「それで、あの後結局どうなったの?」
旧校舎の部室にはオカルト研究部のメンバーが揃い、朱乃の紅茶を飲みながらザンのお手製パウンドケーキをみんなで食べていると、リアスがザンに水を向けた。イッセーとアーシアは頭の上に疑問符を浮かべていたが、それ以外のメンバーは頷いている。
「…あの後って?」
「当然、イッセーがライザーに勝った後の事よ。お兄さまと一緒に消えたじゃないの」
惚けるザンに、リアスはジト目で睨みつけた。ザンは両手を組んで天井を見上げる。
「…そうは言ってもなぁ。魔王さまの言いつけもあるしな…」
「惚けられては困ります、桐生さま」
リアスは立ち上がりかけたが、魔方陣が光を発しそこから人影が現れた為その場で固まった。現れたのは銀髪メイドのグレイフィアだ。
「サーゼクスさまより、リアスお嬢さまと眷属の方々にはお伝えするよう言われているはずです」
「出た…」
ザンは額に手を当てて天を仰いだ。グレイフィアはカツカツと音を立てザンの下へ歩き、スッと傍らに立つ。
「それとも、私から皆さまにお伝えいたしましょうか?」
「わかった。俺から話すよ」
ザンは両手を挙げて降参した。リアスも上げかけていた腰をソファーに下ろした。
「さて、俺が魔王サーゼクス・ルシファーに何を代価に支払うと言ったか覚えているか?」
「確か、『ザンくんの力を見せる』ということだったよね」
木場の答えにザンは頷いた。イッセーはそんな事を魔王と約束していたのかと驚いているようだ。どうやらリアスは話していなかったらしい。
「そうだ。後で聞いた話だけど、俺に興味津々だったようなんだ。俺は力を見せる方法として、魔王に模擬戦を申し込んだんだ」
「ブフーッ!」
少し落ち着こうとしたイッセーは紅茶を飲もうとしたのだろう。盛大に噴き出してしまった。
「キャッ! …もう、汚いわねぇ。少しは落ち着きなさい、イッセー」
「ぶ、部長、すみません」
テーブルを拭きながら平謝りのイッセー。しかし、カップを持つリアスの手も小刻みに震えていた。
「あまり俺の力を公表したくは無かったから、一つ条件を出した。魔王以外には、その時点では公開しないというものだ」
「そう、だからあの時お兄さまと共に消えていたのね…」
カップを置き、ザンを見つめるリアス。ザンは傍らに立つグレイフィアを睨みつけていた。
「…それにも関わらず、あの場にはこのグレイフィアさんもいたんだよ」
「当然です。『王』の傍らに控え『王』を守るのは『女王』としての責務ですから」
朱乃もウンウンと頷いている。
「サーゼクスさんにもこの事は抗議したんだが、魔王に頭を下げられちゃあなぁ」
頭をかきながら、ため息をつくザンであった。魔王が頭を下げたと聞き、オカルト研究部のメンバーは皆驚愕していた。
「ま、魔王さまが…?」
「それはどうでもいいんだけど、そんなこんなでサーゼクスさんと戦ったんだけど、さっき言った通り観客は他の三人の魔王たちとグレイフィアさん。ただ、終いにはこれらが全員襲い掛かってきたんだ」
「「え…!?」」
皆開いた口が塞がらない状態だ。ザンの声は聞こえているが、処理が追いついていない。
「それはまぁ、みんな少年の様に目をキラキラ輝かせながら襲い掛かってきてさぁ。全く、酷くない? 一対五だぜ?」
「あのような場はなかなか無いでしょうから、魔王さま方がお喜びになるのも致し方ないのではないでしょうか」
ザンの隣の銀髪メイドが頷きながらそう言う姿を、ザンはジト目で睨みつけていた。
「…一番嬉々として襲い掛かってきたの、アンタだったんだけど? 俺、アンタに何か恨まれるようなことしたっけ?」
「…あら、私とした事が他の用事を忘れておりました。リアスお嬢さま、眷属の皆さま、桐生さま、失礼いたします」
口に手をあて、さも思い出したかのように魔方陣へ移動するグレイフィアの背中に、ザンは声をかけた。
「…ったく。グレイフィアさん、『ザン』と呼んでくれ。『さま』もいらない」
「承知いたしました、ザンさん。失礼いたします」
魔方陣の光に、笑みを浮かべながらグレイフィアは消えていった。呆気に取られていたみんなの中から、朱乃がいち早く復帰する。
「ザンくん、先ほど魔王さまたちやグレイフィアさまと戦ったと聞いたのですが、本当なのですか? よく無事でしたね。それに結果はどうなったのですか?」
「うん? ああ、引き分けというかノーゲームだな。用意した空間が魔王たちの力の重圧のせいで壊れかけたのさ。それで終了」
リアスは引っかかりを覚えていた。仮にもその場を魔王たちが用意したにもかかわらず、自分たちの力で崩壊するようなものを作り出すだろうか。
「…まぁ、先輩が色々と非常識な存在ということは分かりました」
「あー! 最後の一切れ!」
「…早い者勝ちです」
話の最中でも黙々と食べ続けていた小猫が、パウンドケーキの最後の一切れを頬張ったところで、イッセーの悲痛の声があがったのだった。
「話を聞く気があるのかねぇ。…イッセー、今度作って家まで持って行くから、今日は諦めろ」
「…うん」
しょぼんとしたイッセーだったが、何故かアーシアとリアスが慌てていた。
「ね、ねぇザン。ケーキを持ってくるのは、少し先でもいいんじゃないかしら?」
「そ、そうです。まだ修行中の身なのに、こんなにおいしいの持って来られても困ります」
「何で困るんだ?」
涙目で懇願するアーシアに、ザンは首を捻っていた。
-○●○-
「使い魔…ですか?」
訝しげなイッセーの言葉にリアスが頷いた。
「そう、使い魔。あなたとアーシアはまだ持っていなかったわよね」
リアスの言葉にイッセーが何やら思い出していると、リアスの手元からポンという音と共に赤いコウモリが現れる。朱乃は手乗りサイズの鬼を呼び出し、小猫は白い子猫。イッセーが興味深く見ているが、木場が呼び出した小鳥には興味なさそうだった。木場は苦笑しながら肩を竦めていた。
「使い魔は悪魔にとって基本的なものよ。主の手伝いから、情報伝達、追跡など臨機応変に扱えるから、イッセーやアーシアは手に入れないとね」
部室の床の魔方陣が光りだす。朱乃が準備が完了した事をリアスに告げる。リアスは小さいため息をついた。
「その為にあなたたちの使い魔をゲットしに行こうと思っていたんだけど、ザンの話が思いのほか重くて、中々切り出せなかったのよ」
「悪かったな。…これから行くところって、俺もついて行っていいか?」
「ザンも? ええ、構わないわ。あなたも使い魔が欲しいのかしら」
頬に人差し指を沿え首を傾げるリアスに、ザンは首を横に振った。
「いや、単にどんなところか興味があったんだよ」
「女の子系のいないかなぁ。色っぽいのがいいなぁ…。こう、バインバインのなんか…」
イッセーの妄想全開の声が口から漏れ出てるのが聞こえて、皆肩を落とした。
-○●○-
魔方陣の光が止むと、そこは森の中だった。このうっそうとした森は巨木が立ち並び、木々の多さから地面までの日差しをほとんど遮るぐらいだ。
「ここが、使い魔がいる森なのか?」
「ええ、そうよ。この森の案内人兼使い魔について教えてくれる人と待ち合わせなんだけれど、まだ来ていない様ね」
リアスが辺りを見渡すが、目当ての人物は見当たらないようである。
「部長、おれはちょっと、そこらへんを散歩してきます。 イッセーやアーシアの使い魔についてはお願いします。少ししたら、ここに帰ってきます」
「ちょ、ちょっと」
リアスは困惑の声をザンの背中に向け発したが、ザンは森の中に消えていった。
「もう。まぁ、いいわ。ザンは使い魔に興味は無さそうだったし」
「ゲットだぜ!」
ザンが森の奥へ行きリアスがため息をついたそのときに大声が響き渡った。帽子を被りラフな格好をした男が木の上から飛び降りてきた。
「俺の名前はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスターを目指して修行中の悪魔さ!」
「ザトゥージさん、例の子たちを連れてきたわ」
リアスがイッセーとアーシアをザトゥージに紹介する。そして、ザトゥージは使い魔のプロフェッショナルであり、教わりながら使い魔を入手することをイッセーたちに伝えた。
「さて、どんな使い魔をご所望かな? オススメはこれだね! 龍王の一角、『
「これ使い魔ってレベルじゃないじゃん! ラスボスだよ!」
「いいわね。伝説のドラゴン同士なら意気投合できそうだわ」
リアスまでノリノリのため、イッセーは天に向かって吼えた。
「無理っすよ、部長! 意気投合できそうも無いの、この図鑑からでもめいいっぱい伝わってきますよ! そんなことできるヤツ、ザンくらいですよ!?」
イッセーの叫び声にグレモリー眷属はピクリと震えた。
「「ま、まさか…」」
ザトゥージ以外の全員が、ザンが消えていった方向を見つめていた。
-○●○-
「よかったんですか?」
「ん? 別にこの森なら危険は無いだろうよ。案内人もいるようだしな」
木々の中をザンは気持ちよさそうに通り抜けていた。木漏れ日が少ししかないが心地よい。ザンの周りをコウがくるくる回っている。
「そうではありません、この間の事です。残り二回しか無い願いの一つを、あのような事に使ってしまって…」
「いいんだって。イッセーの精神空間と俺をコウに繋いでもらったからこそ、イッセーの犠牲は片手で済んだんだ。結果には満足しているぞ、俺は」
「はぁ、あなたという人は…」
ドラゴンがため息をつくという珍しい光景をザンは眺めながら奥に歩いていくと、そこには一際大きい湖があった。水面は湖底まで透き通るかのようである。
「綺麗なところだなぁ。コウ、少し休んでいくか」
ザンが湖のほとりに腰を下ろすと、コウもザンの頭の上に降りてくる。時折風がそよぐと、湖面に波紋が見て取れた。
「いいところですねぇ」
「そうだな。争いも無ければ、こういったところでゆっくりできるんだろうなぁ」
『この森に何用か? 人間よ!』
突然響き渡る声に、ザンの眉がピクリと動いた。ため息を吐くと、ザンはゆっくりと立ち上がる。
「特に用は無いさ。この場にいるのは、湖が綺麗であったため見とれていただけだ。迷惑であるなら、立ち去ろう」
『強欲な人間の割には潔いな。だが、私は騙されん。またこの森の者たちを連れ去ろうと来たのであろう。報いを受けるがいい』
湖面から姿を現したのは、蒼穹の鱗を持つドラゴンであった。ザンの言葉を信じてはいないようである。
「…人の話を聞かないやっちゃな。
「子供のドラゴンも我が物としているのか。救い難いな」
「誰が子供のドラゴンですか!?」
ザンの頭の上のコウが吼えた。
「私はマザー・ドラゴン様直属の魔龍です! 野良のあなたと一緒にしないでいただきたい!」
「ふん、マザー・ドラゴンなんぞ知らんわ! 人間に毒されたようだな。その人間と共に塵となるがいい」
蒼い龍は口を大きく開くと火炎を噴き出した。強大な炎がザンたちを包み込まんと襲い掛かる。
「あの時のイッセーの魔力弾より巨大とはな。でも、炎なら」
「何!?」
蒼い龍は驚愕の声を上げる。炎の紋章が光るグローブをつけた右腕に、巨大な炎が吸い込まれてしまったからだ。
「あんたは勘違いをしている。それに俺はどちらかというと
ザンは『龍の氣』を展開し一気に放出した。ザンの姿を金色の氣が覆い、その氣は天へと上っていくが如くだ。
「そ、それはドラゴンのオーラ! お前は一体何者なのだ!?」
「俺の名前は桐生斬。『龍の氣』を持つ、ただの人間だ」
蒼い龍は開いた口が塞がらない状態で固まっていた。
-○●○-
「ほう、異世界から来たのか。ドラゴンのオーラを纏う人間なんぞいるわけが無いと思っていたが、そう言うことなのか。いや、済まなかった」
落ち着いた蒼い龍はザンの話を聞き入っていた。ザンの頭の上にいるコウは、腹の虫が治まらないようだ。
「まったく、龍族ともあろうものが、話も聞かず襲い掛かるなど以ての外だ。この世界の龍族には統括者はいないのか!?」
「いないぞ、そんなモノは。最強といわれる存在はいるが、我々の上に君臨するものはいない」
コウの疑問をばっさり切って捨てた蒼い龍はザンを見つめる。
「向こうの方で騒いでいるのは、あなたのお仲間か?」
「ああ、使い魔を探しに来た悪魔たちさ。アンタの言うような、この森の者たちを捕まえて、売り払うようなヤツラじゃない」
ザンの言葉に、蒼い龍はフムと頷いた。
「…そうか、あなたの言葉を信じよう。先ほどは本当に済まなかった。何か侘びをさせて欲しいのだが」
「十分詫びてもらったさ。そうだな…。俺と友人になってくれないか?」
ザンの提案に、青い龍は目を丸くする。
「…友人? 使い魔にしたいとは思わないのか?」
「別に使い魔を欲しいとは思っていないよ。この世界の龍と知り合い、そして友人となれれば嬉しいさ」
「…そうか」
蒼い龍は顎を歪めると光りだした。徐々に小さくなり人型を作り出す。
「私は『
人型となったティアマットが手を出すが、ザンは硬直していた。固まったままのザンを見て、ティアマットは首を傾げる。ザンの頭の上のコウはため息をついた。人型となったティアマットは、長く蒼い髪をなびかせる美女となっていたからだ。
「お願いだから、龍に戻ってくれ~!!」
ザンの叫びは湖中に轟いた。
-○●○-
龍に戻ったティアマットと友誼を交わし別れたザンは、魔方陣で部室から来たあの場所にたどり着いた。そこには既にリアスとその眷属たちが集まっており、イッセーが何故か泣いていた。
「ううぅ、スラ太郎ぉぉぉ…、触手丸ぅぅぅ…」
「おまたせ。…どうしたんだ、イッセー?」
イッセーを指差すザンに、木場は肩を竦めた。
「イッセーくんが使い魔にしたいものがいたんだけど、討伐されちゃって」
「討伐とは穏やかじゃないな。どんなやつらだったんだ?」
ザンの疑問は、リアスがため息をつきながら答えた。
「もう、この子ったら。服を溶かすスライムと、女性の分泌物をねらう触手よ。『こいつらと一緒に上を目指すんだ!』とか言って、言う事を聞かなかったのよ?」
ザンは手を額に置き天を仰いだ。アーシアに抱きしめられ、ラッセーと名づけられた
「そういえば、ザンくんは何処に行っていましたの? 私たちも時間をとりましたけれど、ザンくんも帰りが遅かったですわね」
「ああ、あっちの奥に湖があるんだけど、そこで龍に会ったんだ。せっかくだったんで、友人になった」
泣き続けるイッセーを除くみんなが顔を見合わせる。皆、思い浮かべるのは同じ光景のようだ。アーシアがおずおずと手を挙げる。
「あのー、ザンさん。その友人になったドラゴンというのは?」
「確か名前は『天魔の業龍』ティアマットって言っていたな。綺麗な蒼い鱗を持つ、凄い龍だったぞ。ちょっと炎で攻撃されたけど、全然本気じゃなかったなぁ、アイツ」
「「やっぱり」」
リアス・グレモリー眷属全員がハモり、ザンは何の事やらと頭の上に疑問符を浮かべていた。
「何を納得しているんだ?」
苦笑しながら、リアスはティアマットについてザンに続きを促した。
「ん? ああ、ティアマットは人型になれるんだけど、人型となったときは腰まで伸びた蒼い髪が特徴的て、そしてあの切れ長の目。まるで宝石のようなあの瞳に見つめられると恋をしてしまいそうだったよ。いやぁ、この世にあれほどの美人がいるのかと思ったね。…ど、どうした?」
「あ~ら、女性恐怖症な桐生斬さんが恋をしてしまいそうだなんて、言うじゃないの。私とどっちが綺麗なのかしら?」
「あらあら、私も聞きたいですわね」
「…先輩、女たらし」
やたら迫力のある笑みを浮かべるリアスや朱乃、無表情の小猫がザンににじり寄ってくる。
「な、なんだ!? 言えと言われたから言っただけだぞ!? 大体、龍とはいえ人型の女性に近づけるわけ無いだろう! おい、イッセー! お前も何とか言ってくれ!」
「ううぅ、スラ太郎ぉぉぉ…、触手丸ぅぅぅ…」
「それは、もういい!」
木場は触らぬ神にたたり無しと考えたのだろう、手で謝罪の意思をザンに示していた。ザンは孤立無援の状態で気絶させられたそうな。