赤龍帝と龍騎士   作:ヌルゲーマー

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月光校庭のエクスカリバー
第1話


 少年が兵藤と表札にあるインターホンを押すと、インターホンから声が聞こえてくる。少年が名乗ると、内側から扉が開いた。

 

「いらっしゃい、桐生くん。みなさんは、もう集まっているわよ」

 

「ありがとう、おばさん。はい、これ。筑前煮とクッキーです。みなさんで召し上がってください」

 

 タッパーの入ったビニール袋をイッセーの母親に手渡すザン。イッセーの母親は笑みを浮かべた。

 

「あら、ありがとう。私はすっかり桐生くんの料理のファンなのよ。このクッキーは、すぐに持っていくわね」

 

「いえ、皆の分はこの通り別に持ってきていますので、それは後でおじさんと食べてください。厚かましいですが、飲み物をお願いできますか?」

 

「ええ、分かったわ。ささ、上がって上がって」

 

 イッセーの母親に通されたザンは、階段を上がっていくと視線を感じた。階段の上にはリアスが仁王立ちで睨みつけている。

 

「ザ~ン~? おすそ分けは持ってこないように言ったわよね?」

 

「何でだよ!? おばさんには、この世界に来た翌日に晩飯をご馳走になったり、いろいろ恩義があるんだ。返すのは当然だろう?」

 

「もう!」

 

 リアスは踵を返すと、肩を怒らせながら部屋に入っていった。ザンは肩を竦め後に続く。部屋に入ると、会議を行う雰囲気は何処にも無かった。

 

「イッセーくんのお母さんが、これらを持ってきてね」

 

 ザンが木場にこの状況を問うと、木場は苦笑しながらアルバムを指差した。アルバムにはイッセーが幼い頃からの写真が満載だ。

 

「女の子のお友達がいっぱい来たら、イッセーのアルバムを見せるのが夢だったのよ~」

 

 ジュースをお盆に載せ、満面の笑みのイッセーの母親が入ってきた。

 

「こっちがイッセーが小学生のときのものなのよ~」

 

「ちょっ、母さん! もぉいいから! 会議もあるから出てってくれよ!」

 

「イッセー、母親を邪険にするもんじゃないぞ。今、お前があるのは、お前の両親がいたからなんだぞ」

 

「ザンは教師か何かになったほうがいいぞ!?」

 

 頭をかきむしるイッセーに味方はいなかった。

 

「あらあら、全裸で海に」

 

「…イッセー先輩の赤裸々な過去」

 

「幼い頃のイッセー幼い頃のイッセー幼い頃からのイッセー…」

 

「私もなんとなく、部長さんの気持ちがわかります!」

 

「勘弁してくれ~!!」

 

 

-○●○-

 

 

「そういえば、ザンは何で女性恐怖症になったんだよ」

 

 未だにきゃいきゃい女性陣がアルバムに夢中となっており、イッセーは少し涙目だった。イッセーの母親が部屋から出た後、イッセーは思い出したようにザンに問いかけた。せめてザンの過去も詳らかにしたいという思いもあったのかもしれない。

 

「ん? 悪いが覚えていないな。はぐらかしているわけじゃないぞ? もちろん生まれたときからって訳じゃないんだろうけど…」

 

「そりゃそうだろ? そうなると、過去に何かあったのか? 女性にこっぴどく振られたとか?」

 

「お前じゃあるまいし、と言いたいところだが、どうだろう?」

 

 ザンは腕を組んで考え込んでしまった。そもそも、恐怖症となるまでの恐怖体験を思い出そうというのは間違っていたかもしれない。しかし、イッセーもザンもその事には考えが及ばなかった。

 

「小学生の頃はどうなんだよ? …ていうか、異世界に小学校はあるのかな?」

 

「俺が前にいた世界の、更に前の世界にはあったぞ」

 

「更に前の世界?」

 

 木場もイッセーとザンの会話に参加しだした。丁度、男性陣と女性陣が分かれた形だ。

 

「あれ? 言わなかったっけ? 俺は異世界へ渡ったのは、ここが二回目だよ。俺の本当の『前の世界』というと、二つ前の世界になるのかな」

 

「そうなのかい? 僕は聞いた覚えは無いけど、イッセーくんは?」

 

 木場が目を見開き、イッセーは首を横に振った。

 

「いや、俺も聞いていないな。 ザン、その二つ前の世界っていうのはどんなところなんだ?」

 

「ほとんどって変わらないと言っていいほど、ここの世界に近いな。ただ、俺はその世界で『悪魔』やら『堕天使』を見たことが無いけどね」

 

「俺も、つい最近までは無かったよ」

 

 イッセーはウンウンと頷いており、木場はその光景を苦笑して見ていた。

 

「それで、小学校の頃は、女性恐怖症はどうだったんだよ?」

 

「小学校の頃…」

 

 再度ザンは腕を組み考え込み始めたが、ザンの時がピタリと止まった。少なくとも、イッセーと木場にはそのように見えた。そう、まるで嵐の前の静けさの様だ。

 やがて、ザンの全身がブルブルと震え始めた。

 

「おい、ザン?」

 

「ザンくん、大丈夫かい?」

 

 イッセーや木場の声が聞こえないのか、ザンの震えは更に強くなっていった。ザンは震える最中、手で頭を抱え込んだ。

 

(まい)(ねぇ)、何でいつもお風呂に一緒に入ろうとするの!? 麻緒(まお)(ねぇ)、腕はそっちには曲がらないんだよ!? (みお)(ねぇ)、その皮はそんなに伸びないから引っ張らないで!? 皆、目が怖いよ!? だれか…」

 

「「ザン(くん)!!」」

 

 イッセーや木場が、ザンの肩を掴みガクガクと激しく揺らした事により、ザンの目の焦点が合った。ザンは顔色は真っ青で、滝のような大汗をかいていた。

 

「…あれ? イッセー? 木場? 何が…」

 

「まずは、その汗を拭いたほうがいいよ」

 

 木場は何処からともなく出したタオルをザンに手渡した。ザンは礼を言うとタオルで顔を拭いたが、その大きめのタオルの湿り具合が汗の量を物語っていた。

 

 

-○●○-

 

 

「お前、お姉さんがいるのか?」

 

 落ち着きを取り戻したところを見計らって、イッセーは気になっていた事を聞き始めた。ザンの顔色は、まだ若干青い。

 

「あれ? 俺、皆に話したっけ?」

 

「やっぱり覚えていないのか。今さっき、まいねぇとか叫んでいたんだよ」

 

 ザンの顔を、一筋の汗が流れる。イッセーはザンの肩を掴むと、顔を覗き込むような体勢となった。

 

「大丈夫か? 話したくない事なら、無理に話す必要は無いぞ?」

 

「そうだね。まだ顔色もあまり良くないみたいだよ」

 

 イッセーの言葉に木場も同意して頷いていた。ザンは若干引きつった笑みを浮かべながら手を振る。

 

「…大丈夫だ。そうか、俺は口にしていたのか。…俺には三人の姉が()()。長女の舞に次女の麻緒、三女の澪だ」

 

「『いた』ということは、お亡くなりになったのかい…?」

 

 ばつの悪そうな木場に、ザンは首を横に振った。

 

「いや、そうじゃない。過去形になったのは、俺が元の世界に戻ることは無いだろうということだからさ。言い方は悪いが、会えないのであればいないのも同然さ」

 

「そんな事は無い! きっと会える!」

 

 イッセーはザンの胸倉を掴むと、今まで見たことのないような真剣な眼差しでザンを睨んだ。

 

「だから、そんな悲しい事言うなよ! 今すぐは無理かもしれないけど、何か手があるかもしれないじゃないか! 簡単に諦めるなよ!」

 

「…そうだな、そうかもしれないな。すまないな、イッセー。いや、ありがとう」

 

 何かを吹っ切ったザンの笑みに、イッセーは安堵して姿勢を正す。

 

「おう!」

 

 イッセーは満面の笑みで頷いていた。その笑みが真剣な顔へと変わると、頬をカリコリと掻きながらイッセーは聞き辛そうにザンに切り出した。

 

「…それで、お姉さんたちは美人さんなのかな?」

 

「…感動した俺の気持ちを返せ!」

 

 ザンは顎に手を当て考え始めた。

 

「…う~ん、美人なのだろうか? アイツらは俺をおもちゃか何かと勘違いしていたからな、正直言ってろくな覚えが無い。そうだな、澪が俺と同い年だから、舞が二十四、麻緒が二十一、二ぐらいだったと思ったけど…。俺は中一で異世界に飛ばされたからなぁ。写真も無いし、記憶もあやふやだ。それに、どう成長しているか見当もつかないよ」

 

「…イダイ、イダダダダ…」

 

「誰が美人か期待しているのかしら~?」

 

 イッセーが突然痛み出したのは、頬をリアスが引っ張り上げていたからだった。美人が怒ると迫力がでるものである。

 

「まったく! 何か良い事を言っていると思ったら、すぐに鼻の下を伸ばして」

 

「…そんな、鼻の下を伸ばしてなんかいないですよ。ザンにお姉さんがいると聞いたから、どんな人たちなのかなと思って…」

 

 イッセーの頬を引っ張り続けながら、リアスは目を丸くした。ザンは、異世界の、更にその前のことから話を戻す必要を感じ、ため息をついた。 

 

 

-○●○-

 

 

 とある昼休み、イッセーとアーシア、そしてザンは旧校舎へ向かっていた。昼休みに部活のミーティングを行うと言われていたからだ。二人の後ろを歩くアーシアの顔が未だに赤い。教室から出る前に、藍華からイッセーと仲睦まじいためにカップル認定だの毎晩合体しているだのからかわれていたのだ。ただ、最後のほうでアーシアが藍華の言葉を遮る行動に出たのは、イッセーにとっても意外であった。

 

「木場の様子がおかしい?」

 

「ああ。あのアルバムを見ていた事を覚えているか?」

 

 ザンは、ここ最近木場の様子がおかしい事を気にしていた。アルバムの剣を見てから、部活にも身が入っていないようだった。

 

「『聖剣』か…」

 

「昨日の球技会の練習も凡ミスばっかりだったからな。…今日はお客さんがいるらしいな」

 

 部室の扉の前で呟くザンに、イッセーは首を傾げながら扉を開いた。ソファーに座る少女を見て、イッセーの目が丸くなる。

 

「せ、生徒会長…?」

 

 扉の前で固まるイッセーの背中を、ザンは押しながら中に入った。

 

「生徒会長の支取先輩と書記の匙くんか。このようなところにどのようなご用件で?」

 

「用が無ければ来ちゃいけないってのか?」

 

「サジ、失礼ですよ」

 

 匙はザンの言い方に激高するが、支取は手でそれを制した。

 

「いや、これは俺の方が悪かった。少しピリピリしていたものでね。ただ、他に悪魔がいるとなると、何事かと思いましてね」

 

「え!? この人たちも、悪魔なの!?」

 

 イッセーの目が更に見開かれた。ザンは肩を竦める。朱乃が一歩前に出ると、イッセーに微笑みかける。

 

「この学園の生徒会長、支取蒼那さまの真実のお名前はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主さまですわ」

 

 グレモリー家やフェニックス家、そしてシトリー家も大戦で生き残った七十二柱のひとつ。実質的な学園の支配権はグレモリー家が握っているが、『表』の生活は生徒会、シトリー家に支配を一任されている。つまり、駒王学園の生徒会メンバーはみな悪魔であり、ソーナ・シトリー眷属だ。

 

「俺の名前は匙元士郎。二年で会長の『兵士』だ。…俺としては、変態三人組の一人であるお前と同じ『兵士』であることが、酷くプライドが傷つくんだけどな…」

 

 匙は大げさにため息をつき、イッセーがその態度に拳を震わせていた。

 

「お、やるか? 俺はこれでも駒四つ消費の『兵士』だぜ? 最近悪魔になったばかりだが、兵藤に負けるかよ」

 

「サジ、お止めなさい」

 

 ソーナが眼光鋭く睨み匙を制する。

 

「今日ここに来たのは、最近下僕にした眷属を紹介し合うためです。それに、今のあなたでは兵藤くんには勝てません。フェニックス家の三男を倒したのは彼なのですから。『兵士』の駒を八つ消費したのは伊達ではありません」

 

 ライザーを倒したのがイッセーと分かり、匙は驚愕していた。その後ソーナに促され、匙はアーシアと握手を交わした。今は何故か力を込めてイッセーと握手を交わしている。両方から「ぐぎぎぎぎ」と声が漏れている。リアスとソーナは「大変ね」「そちらも」なんて会話を嘆息しながらしていた。

 

「部長、新人悪魔の交流会なら、俺は必要なかったんじゃないか?」

 

「いえ、私が無理を言ってお願いしたのです。あなたに会いたかったのですから」

 

「生徒会長が?」

 

 ソーナはソファーから立ち上がると、ザンの下へ赴き手を差し出す。

 

「改めて、ソーナ・シトリーです。よろしく」

 

 しかし、ザンは握手どころか手を出すそぶりも見せない。それどころか、ザンは顔を青くしている。

 

「おい! 生徒会長が握手を求めているのに、その態度は無いんじゃないのか!?」

 

「それはしょうがないのよ。ザンは女性恐怖症だから」

 

 リアスの苦笑しながらの言葉に、ソーナと匙は驚愕していた。ザンは頭を掻きながら侘びを入れる。

 

「礼を失する事になって申し訳ない。こればかりは体質なので、ご容赦願いたいな」

 

「そう言うことなら、仕方ありませんね。それにしても、そのような方がよく四大魔王さまを相手に戦えたものですね?」

 

「え!?」

 

 匙は顎が外れんばかりに口を開いていた。その様子にソーナが眉をひそめる。

 

「サジ、なんですか、その顔は! この方は人間でありながら四大魔王さまと戦い生き残ったんですよ。もっと敬意を払いなさい」

 

「ソーナ、やはり魔王さまから聞いたの?」

 

「ええ、そうよ。この話を聞いて、どうしても会いたくなってしまったの。リアスは、まだあなたを眷属にしていないようですね。もしよろしければ私の眷属になりませんか?」

 

 リアスの言葉にソーナは頷くと、視線をザンに戻し悪魔の誘いを切り出した。しかし、ザンは首を横に振る。

 

「上級悪魔であり、シトリー家の次期当主直々のお誘いは恐縮しきりだが、お断りします」

 

「…理由を伺ってもいいでしょうか?」

 

 真剣な眼差しのソーナに、ザンは襟を正した。

 

「はい。あなたでは俺を眷属にできないからです。部長もそうでしたが、俺を眷属とするには実力が不足しています。…これは、魔王さまより伺った話です。魔王さまでも、俺を眷属とするには力不足であると」

 

「…そう、ですか。致し方ありませんね。では、私たちはこれで失礼します。お昼休みに片付けたい書類がありますから」 

 

 扉の外に消えたソーナとサジを見送った後、リアスはザンをジト目で睨みつける。

 

「…私は魔王さまでも眷属にできなかったって、聞いていないんだけど。どういうことかしら?」

 

 ザンの頬を一筋の汗が流れ落ちる。

 

「失礼します!」

 

「あ、待ちなさい!」

 

 リアスの静止を、ザンは駆け出しながら背中で聞いていた。

 

 

-○●○-

 

 

 球技会の部活対抗はドッジボールで行われ、初戦ではイッセーがボールを股間で受けるというハプニングもあったが、オカルト研究部は一人を除いた皆の活躍により優勝を果たした。その一人は今、リアスに頬を叩かれていた。

 

「どう? 少しは目が覚めたかしら?」

 

 木場は頬を叩かれても無表情のままであった。球技会の試合中でもリアスはボーっとしている木場を怒っていたが、木場はどうでもよさそうな態度であった。

 

「木場、最近お前マジで変だぞ?」

 

「キミには関係ないよ」

 

 木場は笑みを浮かべていたが、作り笑顔であることは皆分かっていた。

 

「…イッセーくん、僕はね、ここのところ、基本的な事を思い出していたんだよ」

 

「基本的なこと? 俺たちが戦うのは部長の為じゃないのか?」

 

 イッセーの言葉を、木場は首を横に振った。

 

「違うよ。僕は復讐の為に生きている。聖剣エクスカリバー。それを破壊するのが僕の戦う意味だ」

 

 木場は強い意思を秘めた表情をしていた。その木場の前にザンが立つ。

 

「…それで、その為には仲間がどうなろうといいってのか?」

 

「…キミには関係ないことだろう? リアス・グレモリー眷属でも悪魔でも無いキミには」

 

「そうかよ!」

 

 ザンは言葉と同時に木場の顔を殴り飛ばしていた。壁に激突した木場が崩れ落ちる。

 

「…俺は、お前が俺を仲間に加えてくれていたと思っていた。だが、違ったようだな。部長、俺は当分部活を自粛する。()()()()()()()()()()()()()()()()()からな」

 

「ザン!」

 

 リアスの言葉に応じず、ザンは荒々しく扉を閉めて去っていった。

 

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