※この作品を読むときは以下の事柄にご注意を
・物語の時代背景が原作と違います
・作者が原作をキチンと把握していない節があります。突っ込むべきところには「それはちがうよ!」と勇気あるツッコミを
・オリ主です。卑屈な高2病の仏的ネーミングとは別人です
・俺TUEEEE!成分は控え目です
とあるイギリスの、人が賑わう駅のプラットホーム。
からからと小柄な鞄をキャリーケースで引き摺って、ちょいと三白眼が鋭い子供がちらちらとそこらを見上げます。
平坦な顔に黒い髪、片手にはメモ用紙を持っていますが、明らかに東洋人の少年が異国で保護者もつけずにひとり彷徨うというのは悪目立ちが過ぎます。
その内言葉も通じない駅員様などに連れてゆかれるかもしれません。
しかし、そんな周囲の心配感漂う雰囲気などモノともせず、少年は何処か目印を見つけたのか心なしか足早に前へと進みます。
気づけば、少年の姿は駅構内の何処にも見当たりませんでした。
軽いホラーを覚えた幾人かは若干の困惑がその心に刻み込まれましたが、そんなこたぁ少年自身にはどうでもいいことでした。
そんな少年の名は
慶弔というのは『お産などの喜びと葬式などの悲しみ』という両極端な言葉を指す言葉で、薄荷とはペパーミントの事を指します。
因みに彼自身チョコミントは食べられますが、決して好きでも何でもないので己の名をやや嫌っている節がありました。
そんな薄荷くん、駅の中に在る9と4分の3番線という常人にはちょっと良く分かり兼ねられないプラットホームへと身を隠したばかりです。
それもそのはず。
彼はこれから【ホグワーツ魔法魔術学園】という、全寮制の超常的な学園へと入学することとなるのですから。
……日本人なのに、おかしな話ですね?
ともあれ、前時代的な蒸気鉄道染みた煙をもうもうと吐き出す煙突付きの列車へ乗り込んだ薄荷くん。
やや人見知りという問題では無くちょっと言語に自身が無い彼は、空いているコンパートメントをようやく見つけて潜り込みます。
そうしてひと息ついたところで、手にしていた小さな荷物の中身を確認することにしました。
やることが無いことに、気づいてしまった所為でもあります。
鞄の中身は、ホグワーツで使うと云われた何冊かの教科書。
如何にも『魔法使い』と云わんばかりの紺色のローブ。
学舎の制服に、パンツが数枚。ボクサー派です。
歯ブラシ、ハンカチ、ポケットティッシュ、方位磁石に小振りのペーパーナイフ、父親が寄越した渋めのジッポライター。父親は何を思ったのでしょう。
半分サバイバルに赴くような準備が出揃ったことは改めるとして、母親がくれたのは懐中時計。そんなことよりスマホを強請った薄荷くんでしたが、ホグワーツでは電子機器の類は動かなくなると事前に教えられたので泣く泣く諦めたそうです。
そして妹がくれた【安産祈願】の手製のお守り。恐らく【安全祈願】の間違いだと思われます。そうだと言ってよマイシスター。夜なべして出来上がったらしいのですが、内容次第ではお焚き上げの準備も視野に入れざるを得ません。
最後に、教科書と制服なんかを購入した時に、一緒に買った魔法使いの【杖】。
そしてそんなパチモノ臭い逸品が合うとは自分の国籍すらも疑いたくなるレベル、と薄荷くんはその時抱いた微妙な感情が頭痛を伴ってフィードバックします。
荷物確認だけで最早泣きそうな薄荷くんでした。
それからほんの少しの暇が空いてそろそろ発車かな、と薄荷くんが顔を上げれば、コンパートメントの外に女の子の姿がありました。
少しだけそばかすが見受けられますが、将来は美人になるのでは、と期待が持てそうな栗毛の娘です。
彼女は9と4分の3番線でよく見かけた如何にも『魔法使い』といったローブ姿では無く、残暑の気配が薄い清涼なイギリスの街中で見かけても可笑しくないような、トレーナーにチェックのスカートを穿いた『普通の恰好』をしていました。
そんな彼女が暫く薄荷くんと顔を合わせていた後、何故か安心した様な顔になって声をかけてきます。三白眼が意外と忌避感を与えるのか、初見の相手には尻込みされる薄荷くんにとっては珍しい反応です。泣いてないですよ?
「こんにちは、ここ、空いてるかしら?」
「あ、うん、どうぞ。ぼ俺の部屋ってわけじゃないし」
一瞬『僕』と云いかけた薄荷くんでしたが、寸での処で一人称を直します。
日本では色々と濃い目の周囲に取り囲まれていた所為で控え目且つ人見知りの気があった彼でしたが、妹の直手による修正パッチを充てられて性格矯正をインストールされたスマホ体質の薄荷くんです。やや口調に乱れがみられるのは自意識との反り合わせが追い付いていなかった所為かもしれませんが、そんなことよりも同じく妹の修正パッチで会話が成立したという事実に内心安堵の薄荷くんでもありました。
そんなことは露も知らず、女の子は許可が下りたのを幸いと荷物を置いて彼の正面に座り、引き続き安心した顔で口を開きます。
「良かった、わたし以外にも普通の服の子がいて。9と4分の3番線ではみんながみんな『魔法使いです』って自己主張している姿だったから、すごくびっくりしたわ。あのひとたち、あのホームに集まる前からあんな格好だったのかしら。ものすごく目立つと思ってわたし普段の服装で来ちゃったのだけど、逆に目立っちゃったかもしれなくてちょっと不安だったの。わたしハーマイオニー、ハーマイオニー・グレンジャーよ。わたしのうちはお父さんもお母さんも魔法を使えないのに、わたしは入学できるって通知が来てびっくりしちゃった! でもこういうこともあるのだそうね、お祖父さんのそのまたお祖父さんとかずっと昔のご先祖様が魔法使いだった人とかにあることだそうよ。わたしに入学許可証を持ってきてくれた猫の先生にそう教わったの。もうすっごく楽しみで、教科書だって何度も読み返して、もう中身を全部覚えちゃった! どんな授業があるのかしら! 今からすっごく楽しみだわ!」
「せ、せやな」
マシンガンでした。
なんとか引き攣った顔で応える薄荷くんでしたが、ハーマイオニーさんはそんな控え目な相槌で止まってくれる子ではありません。にっこりと満面の笑みを見せ、引き続き繰り出されるトークの嵐に自分の名前も伝えられない薄荷くんは、今度こそ泣いても良いんじゃないかな、と自分を諦めかけていました。
そんな会話(?)が数往復程交わされた頃、既に出発していた車内の戸を、控え目に叩く音が聴こえます。
女の子とふたりっきりの空間に居たというのに、何故かときめきが微塵も無かった薄荷くんは、ハーマイオニーさんが如何にホグワーツでの授業を楽しみにしているかということを魂にまで刻み付けられていた洗脳みたいな会話の幕間に一筋の光明を見出せました。
「ごめん、ぼくのヒキガエル見なかった……? トレバーが逃げちゃったんだ……」
やや言葉が足りない、ちょっとおどおどとした弱気そうな男の子でした。
既にホグワーツの制服に魔法使いの証を身に纏っている彼を見て、薄荷くんは天啓に討たれます。
「いや見てないけど、良ければ一緒に探すよ。使い魔か何かか?」
「あっ、う、うん、ありがとう、えーと……」
「薄荷だ。英国風なら薄荷慶弔。宜しく」
「う、うんっ、ぼくはネビル。ネビル・ロングボトム」
そうして男の子の友達第一号を確保した薄荷くんは、コンパートメントから抜け出す間際に彼女へと言葉を掛けます。
「ハーマイオニー、今のうちに着替えておいたらどう? 俺たちは先に車内を探してくるから」
決してハブにしているわけでは無い、一緒に探そう、と誘っていることが前提の科白です。
「っ、う、うん、そうね。それじゃあ先に探しておいて、着替えたらわたしもすぐに行くわ!」
ふたりきりで独壇場であったトークショー時とは打って変わって、ネビルくんの登場で一応の落ち着きを見せていた彼女は、水を向けられたことでちょっと機嫌が上向きに上がりました。自分の事を無視した様なふたりの遣り取りに沈んだ顔をしていたハーマイオニーさんが、ぱあっと明るい顔で声を張る様なんかはまるでチョロインです。ぐうかわ。
「うん、じゃああっちに行ってみるからさ」
と、行き先を告げて戸を閉めます。
女の子の着替えを覗いてはいけない、という配慮に、車内を歩く際の居場所を明かす方針付きです。道中、車内が枝分かれするような道筋でもない限り、これで行き違いになる事態だけは避けられるでしょう。
……いくら魔法使いの列車とはいえ、そこまで幅を取っているわけでは無い、と信じます(希望的観測)。
「さて。先に手がかりでも引いておくか。茉莉」
「え?」
少し歩いて、立ち止まってそんなことを口にする薄荷くんに訝しげな顔を向けるネビルくん。
そんな彼には構わず、薄荷くんは虚空へと呼びかけます。
数秒もしないうちに彼の影から、鳥にしては大柄な、人を乗せて飛べそうな【梟】が這い出てきました。
というか大き過ぎます。薄荷くんと頭ひとつしか違いが無い大きさの梟は、車中では普通に幅を取り過ぎでした。
「うわひゃぁ!?」
「――あれ?」
当然、普段『ふくろう便』で手紙や小包を送り合う魔法使いでさえも、観たことの無い化け梟の登場に腰を抜かしました。
しかし薄荷くんはと云えば、そう驚いたことが心外だ、と云わんばかりの顔つきです。
「梟くらい見慣れてるんじゃないのか?」
「こ、こんな大きさのふくろうなんて見たことないよ! ロック鳥の雛か何か!?」
「いや、ふくろうだよ? 名前は
「ぼくのトレバーは普通の大きさのヒキガエルだよぉ!!」
最初のおどおどとした様子とは打って変わって、凄い声量のネビルくんです。
もう仲良くなれたようです。男の子は打ち解けるのが早いですね(違)。
「じゃあ普通の大きさのヒキガエルね、宜しくー」
「っていうか、『魔法使いは』って、ひょっとしてハッカってマグル生まれなの?」
大梟の茉莉ちゃん(♀)を送り出し、車中にあの大きさの鳥を放つとか軽いテロなのはさて置いて、薄荷くんの発言に疑問符を浮かべるネビルくん。
【マグル】とは所謂『魔法を使えない人たち』を指す魔法使い内での言葉ですが、其れにしては
「うん、生まれも育ちも生粋のジャパニーズだよ、だぜ」
「それにしてはぼくもそんな特殊な魔法見たことないんだけど……」
「んん? そんなに特殊か?」
「そうだね。しゃべりかたもね」
やや矯正パッチの働きが弱いようです。
それはさておき、取り寄せたわけでもない、呪文を使ったわけでも無い薄荷くんの梟召喚は、普通の魔法使いと比べると完全に色物です。
その点を指摘すると、薄荷くんは少々考えた末に、自分の事を明かすことに決めました。
「だとするとアレだな。俺の周囲が色物に溢れていた所為だな」
「ひとのせいにするの良くないよ」
「いやいや、仕方ないと思うけどなぁ、なにせ、」
一呼吸置き、
「クラスメイトは吸血鬼に雪女、雪女のその姉は巨乳の座敷童で後輩はサキュバス、妹とその幼馴染が魔法少女でみんなして俺の事を狙ってるんだもん。何故か」
「……おおっとぉ」
乾いた笑みで虚空を見る薄荷くんに、思わず一歩引いたネビルくん。
人外に悉く狙われている少年を乗せて、列車はごとごとと進みます。果たしてこのままホグワーツに向かって大丈夫なのでしょうか。
少年たちの明日はどっちだ。
某まちがってる系ラノベの主人公を参考にさせていただきました
薄荷くんてば天然ジゴロぉ!(白目)