今回は前回デブが向かった先での出来事になります。
戦闘描写が辛かった。出来る限り逃げましたけども
それでは第7話始まります。
※7/15修正
前に
ただ前に、前へと進む
転ぶ時は前のめり、それでも直ぐに起き上がり進む、愚直なまでの前進
めげず、引かず、省みず、ただただ前へと進む。
前に、前に前に前に
もっと前に、全力で、限界まで、己の限り
これは愚者の行進、されど勝者の行進
深夜
ここは第65層の頭に当たる迷宮区とは反対方向にひっそりと建つ砦型ダンジョン『Femur forress』。直訳すると大腿骨の砦。この砦を煮たら実に良い出汁が出そうである。
この層も含め第65、66層はオバケ屋敷と称されるほどスカル系やアンデット系のモンスターが多発する階層で前回デブが作ったラーメンスープの出汁もこれらの階層に出現する豚型ゾンビの足骨から取ったものである。レシピを渡したがアスナ1人ではあのスープは作れないだろう。彼女は幽霊が苦手なのだ。
今夜は気象設定が当たりなのか空には綺麗な満月が浮かび出されており絶好の月見酒日和である。そんな天気で酒を飲まないはずもない。デブは空を見上げ赤エールを飲みながら砦の内庭を闊歩していた。
時折スカル系モンスターがデブを襲ったりするのだがそんなことは異にも解さず脇腹の肉に挟まれていたピーナッツをツマミにデブはただただ内庭を進む。
「いい天気だ」
そう言ってエールを煽るデブ。
「そうは思わねぇか」
デブは何もない正面に問いかけ新たにストレージから取り出したエール瓶を放る。
するとデブの20mほど先の景色が歪みフードを目深に被った男が現れた。カーソルはオレンジ、その下に見えるHPバーは青色に染まっておりケインと同じ様に相当に人を殺したであろうことが伺える。男はトムの放った瓶を掴むと片手で瓶の蓋を飛ばす。
「確かにそうだな」
男は包丁を持たない左手で掴んだ瓶を一口煽った。
「で、なんの用だPig」
「…鳥ガラって言ったら分かるか?KoBの三下野朗なんだが。野郎昼間に面白いこと囀っててなぁ。人の殺し方教わったって言ってたんだわ」
トムの質問に少し考えるフリをした男は演技がかった仕草で答えた。
「ああ、そりゃぁ俺だ。ありゃハズレだな。折角教えたってのに上手い事やらなくて萎えちまった」
彼はそれはそれは残念そうに頭を振り大げさな溜息を吐く。
「そっか、なら俺が何をやりに来たことは判ってるよな」
満月が雲に隠され辺りが暗くなる。同時に気象設定が切り替わったのか風が吹き始め二人の周囲を冷たい空気が覆った。デブは何時もの笑い顔はナリを潜め対照的に相手は笑っていた。
両者は酒を飲み干し2人は瓶を投げ捨てた。
「…覚悟はいいか?」
「Ha-haッ!Yes、デブをミンチにする覚悟なら」
「「……」」
男の笑いが収まり無言の時が場を支配する。
どのくらい立っただろうか、申し合わせたように上空の雲が流れ1人と1匹を月の光が照らし出し荒れた芝生の上に転がったエール瓶が煌く。
「行くぜ、蜂蜜ぶっ掛けて喰ってやるよPohッ!」
「来な、パーティの時間だFatmanッ!」
「「It’s show timeッ!!」」
此処に男達の晩餐が始まった。
動いたのはトムの方だ。鳥ガラとの決闘でも見せた無拍子(ノーモーション)でPohに迫る。対してPohはデブがそう来ると判っていたように首を狙い右手の包丁で横に凪いで迎撃した。
「死にな、デブ」
「馬鹿言うな、まだ食ってないご馳走がたんまり残ってんだ。そう簡単に死ねるか」
言いつつ左拳で包丁の峰を下から殴り飛ばす。が、得物はトムの頭を掠りHPを削る。それも構わずとむは包丁が上に弾かれ隙が出来た懐に突進の推進力をそのままに掌手を叩き込んだ。
Pohはそれも判っていたと言う様に体を右にズラして掌手を交わしトムから距離をとったがそれでもデブの突進の速度を完全に交わし切れなかったのか脇腹に掠りHPバーが1/5ほど削れていた。
「Suck、相変わらずの脳筋野朗だな。掠っただけでコレかよ」
「てめぇも相変わらず速すぎんだよ。それに頭に掠ったじゃねえか。ハゲ・デブは流石に洒落になんねぇだろうが」
両者が睨みあう。
トムにとって初撃で決め切れなかったのは痛い。トムのシステム外スキルである《無拍子》は通常キリトなどが走る際に足首までの関節を全体的に使い地面を『駆ける』のとは違い足首を固定し地面を『押し込む』ように進む。この走り方は地面を押し込み進むため敏捷値より筋力値に左右されるのでトムは自身の極大の筋力値によって直線での推進力を得るのであるが反面、激烈な速度を叩き出すミサイルがそうであるように急激な方向転換が出来ないという欠点がある。
これが今まで決闘で初撃決着を行ってきた理由だった。
それでも近接格闘主体のバトルスタイルで筋力値にのみステータスを割り振っていたトムにはコレしか戦う道がないのである。かといってPohとは過去に何度か殺りあった仲であり相手もこのことは知っている。相手が現在のトムが出せる無拍子の速度を測っていた初撃こそがトムの最大のチャンスと言っても良かった。この勝負の勝率が下がったと言ってもいい。
これでPohはこの無拍子の速度を基準としてカウンターを取れる。
「しかしここまでだ。これでお前の速度は分かった。後は楽しく嬲り殺してやるよ。」
言いつつポーション取り出し飲み込むフード野郎。それを聞きながらトムはゆっくりと構えた。
Pohはこれからヒットアンドアウェーで攻撃してくるのだろう。当然といえば当然だ。常に接近してマグレで拳が当たればデブの筋力値ではPohのHPが簡単に削り取られる。対して離れれば必ず突進してくるデブの一撃をかわしさえすれば攻撃を確実に与えられるのだ。
それに投擲系のスキルも使えない。格闘主体のデブが槍を常に背負うのは邪魔になり基本的に装備はしていない。尚且つストレージから出すにしても実力的にも攻略組と遜色のないPohがそんな隙を見逃すとはとても思えない。
しかしそんなことは関係ないと言うようにトムは言う。
「俺にはコレしかないんでね。それでも一撃当てれば俺の勝ちだろうよ」
「当たればな」
飲み終わるのを待ってからデブは再び肉を揺らして突進する。
今度はトムが初撃を繰り出す。体術単発ソードスキル《閃打》。基本技であるがゆえに威力は少なく攻撃軌道も直線的だが硬直時間がほぼ存在しないため発動後も直ちに動き出すことが出来る。それにデブの筋力値により打ち出される威力は通常よりも遥に向上しておりPohのHPを削り取るには十分である。
それをPohは横にかわし友切包丁でトムの突き出された腕を斬る。碌な装備をしていないトムの右腕は手首から先が切り取られ部位欠損状態に陥った。それを確認することもなくPohは再び距離を取った。
友切包丁(メイトチョッパー)。SAO史上最も多くのプレイヤーの怨嗟を招きこんだであろう魔剣である。モンスタードロップであるこの大型ダガーは現在の階層での最高級の素材を使いマスタークラスの鍛冶職人が作製した武器を凌ぐ性能を持ちタンクのプレートアーマーをも易々と切り裂く切れ味を持っている。
この友切包丁、実はトムの店に並んだことがある。
昔、まだ料理スキルをマスターしたてのトムは最高の調理器具を探しにダンジョンを渡り歩いていた。そんな時にたまたまNPCから凄い切れ味の包丁があることを聞きつけ手に入れに行ったのはよかったのだが大型ダガーだったため調理に使えなかったのだ。どんなに加減しても鉄のまな板さえも切り裂く包丁に使い道はなかったわけである。
後日、当時レベル上げの人気スポットであった蟻塚で友切包丁を店頭に並べていた際にフードを被ったオレンジに商品を売った訳だがまさかこんなことになっているとは周囲は思ってもみなかった。
といってもトム自身は友切包丁が殺人を犯す魔剣になったことについては何も思っていない。寧ろただの殺しに関しても何も感じてはいない。
【食】とは殺すこと、命を頂くことである。それにより生を繋ぎ、紡ぎ出すことが生命への供養であり命を持つものの責任だとトムは考えている。だからデブは食に対して礼儀を重んじるし、食事を蔑ろにする人間には食育を施す。
トムにとって殺しとは生きることと同義なのである。
そんなトムも今回の件に対しては奴に思うところがあった。
攻防が続く。
選択肢のないトムはそれを異にも介さず再び突進を敢行した。
ただ愚直に、真っ直ぐに。
そんな特攻野朗に対して冷静に友切包丁を用いてデブを解体していくPoh。
耳を削ぎ、振りかざされた左の太い指を切り落し、時間が経ち復活した右腕を更に刻んだ。
それは子供が玩具を壊して遊ぶように、それは生命を弄ぶように
仮面に笑みを貼り付けてPohは玩具で遊び続ける。
こんなことを何度この戦闘で行っただろうか。トムのHPはレッドゾーンにまで落ち込んでいた。
「Hu-nn、いい加減飽きたな。」
心底面白くなさそうに呟かれた。
両者の距離は再び離れ二人の間には中身が少し入った酒瓶が転がっている。
デブは肘から先が刻まれた右腕を相手に付きつけながら言葉を紡ぐ。
「そうかい。俺はまだまだイケルぞ。そんな体力じゃ力士と一緒に食事が出来ねぇなモヤシ野郎。」
「する気はないんだがな。―――――――――もういい、次で殺そう。」
Pohの空気が変わる。今までより濃密に殺意を孕んだ空気に心なしか砦がざわめいた。
「Last will?」(遺言は)
「Nothing」(ねぇよ)
言葉を交わし両者が接近する。
Pohはデブの突進速度を読みきり攻撃が来る前に袈裟切りにトムの身体を両断した。
トムのHPがレッドーゾーンへと突入し徐々にゼロへと向かっていく。
トムは前に倒れこむ。
「Good bye Tom,only sole a dog’s death」(さよならトム、せめて惨めな死を)
言葉を聞き届けトムの顔が変化する。
その顔はこの砦に着いてからの初めての微笑だった。
怪訝な顔をするPoh。
「ヒール」
デブが呟いた瞬間、デブのHPが最大値まで一瞬で回復しトムは1歩を踏み込む。
斬った相手は初めて表情を歪めた。
「Shitッ!」
Pohは慌てて逃げよう身を翻そうとするが間に合わないと判断し咄嗟に友切包丁を身体の前に突き出す。
そしてトムの拳が友切包丁諸共Pohの水月を貫き青色のエフェクトを撒き散らしながら背後の城壁まで吹っ飛んだ。
距離は30m程だろうか。デブはストレージからワインボトルを取り出しながらPohに歩いて近づく。
「ふ~、皮下脂肪のお陰で助かった。」
「何を言ってやがる。どういうことだ、何故回復した!?回復結晶を取り出す暇も無かった筈だっ!」
友切包丁のお陰でかろうじてHPの残っていたPohは立ち上がり叫んだ。
この世界の回復手段はポーションとクリスタルしかない。この両者の違いは回復量もそうだが回復にかかる所要時間も違う。ポーションが回復に十数秒かかるのに対してクリスタルは即時最大回復を行える。ただしクリスタルにはそれぞれ発動コードがあり今回の回復クリスタルにおいては身体に直接触れさせて「ヒール」と叫ばなければ鳴らない。Pohはいつトムがクリスタルを取り出したのかが分からなかった。
「だから皮下脂肪のお陰だって」
言いつつPohに切り裂かれた服の切れ目を指差す。そこには腹の贅肉に埋もれて赤、ピンク、青、緑と満月を反射し光る塊が見て取れた。
そう、トムは腹の肉にクリスタルを挟んでいたのである。名をシステム外スキル《プットストレージ》。贅肉にアイテムを挟み込んで持ち運ぶというデブにしかできないスキルである。
「デブがっ!!」
「褒め言葉として受け取っておく」
その悪態にいつもの微笑を顔に貼り付けてデブはゆらりと進み芝生に転がったエール瓶を拾い上げて中身を飲み干した。
「…さて、今回お前は俺の戒律を3つ犯した。1つ、食事に毒を混ぜ飯を台無しにしたこと。2つ、殺しを楽しみ自分の血肉に変えなかったこと。3つ、俺をPig(豚)と呼んだこと……」
此処に来て本日最大級の殺意が砦に溢れ出す。
「てめぇ、豚を何だと思ってやがる。豚はどんな劣悪な環境でも生き残れる生命力を秘めた生物にして環境改善の起爆剤であり、犬よりも高い嗅覚を持ち、イルカやゾウにも負けない学習能力を秘め、今後の異種間移植臓器提供動物として医学発展に貢献でき、更には赤い飛空挺で空を飛んだりも出来るそこら辺の人間よりも存在価値の高い優良動物と知ってんのか?あ゛あ゛」
デブが荒れる。そしてデブの背後には黄金に輝く豚の仏様が見える。(幻覚です)
「それに飯に毒だぁ!?お前は飯が相手に食われるという使命を完遂できずこの世界から消える悲しみを考えたことがあんのか?飯を作ったNPCの労力を知っていんのか?毒を飯に混ぜるのはいい。ただしそれを完食できねぇならするんじゃねぇよ。【毒を喰らわば皿まで】って言葉を知らねぇのかお前は」
「意味が違うだろうがクソデブ。…っち、付き合えるか。この殺し合いは預けておく。それまでその太い首を洗って待っていろ。」
そういうとPohは懐から青いクリスタルを取り出す。転移結晶だ。
まだ両者の距離は20mを残している。無拍子では届かない。トムは持っていた空瓶を投げつける。
「待てやコラ。てめぇにはまだ食育が済んでないだろうがっ!」
しかし相手の方が速く、Pohは虚空へと消える。
後にはデブの投げた瓶が城壁にぶつかり砕け散った音が残った。
勝者の行進とかいって結局引き分けだった戦闘。
まあこれもデブらしいってことでひとつ。
このオリジナルシーンを書いたのはPohさんが笑う棺桶壊滅からSAO終了まで大人しくしているタマかな?って疑問が始まりでした。
この辺の解釈、あまり書かれた方がいなかったのでエイヤっと勢いで書きました。
つってもPohさんのキャラを見極め切れていない感が否めませんが。
ひょっとしたらプログレッシブ偏で書かれるのかしら?
PS:Pohさんの英語は適当です。