前のお話を見てくださった方々、ありがとうございます。上の文章は日曜の朝を楽しみに生きてる人なら分かる人もいるのではないでしょうか。原作を進める気のない私ですがこれからもよろしくお願いします。
俺は今、猛烈に考えていた。
木崎さんは拳にレイガストを纏って、スラスターと共に人間離れした打撃を繰り広げてるよな。あれ見て思った。
「某少年誌の超死ぬ気な人の真似出来るんじゃね?」
俺が中学生、いや、小学生の時に読んでいた週刊少年ジャンピングに連載されていた漫画があって、当時の俺はそれを見て「カッコいい」と何度思ったことか。その中でも、主人公が自分の事を駄目だ駄目だと言っている癖に未練はタラタラ というのが人間くさくて気に入った。だが、俺と決定的に違う点は、その主人公は親友が出来て仲間がいて、その仲間のために戦う というものだった。当時から少し捻くれていた俺は、どうにもその友情を疑ってかかったりしていた。傍目から見れば、『友情・努力・勝利』のジャンピングでそんな展開は中々ないだろうと呆れられていたかもしれないが、本気で昔は疑っていたのだ。
そして今も、ぶっちゃけ疑っている。
話が脱線してしまった。これ以上詳しいことが知りたければ是非ググってくれ。
そんなわけで訓練室へ。早速レイガストを両手に纏う。あ、トリガーは急遽玉狛で弄くってもらいました。すまんな。
初めの形から手のひらにレイガストの光を集めて少し開き、後ろに手を構えて
「スラスター、ON」
……結果。壁に頭が刺さった。痛覚をOFFにしてたから良かったものの、ONにしてたら頭がフラフラになっていたことだろう。制御が難しすぎて空は飛べませんでした。でもちょっとだけ沢田味吉の気分が味わえて満足した。玉狛のスタッフさんありがとう。でもやっぱ開発室の人は変人が多いな。
*
時は変わって数日後。防衛任務が今日は休みなのでフラフラと歩きながら奉仕部ヘ。廊下を歩いていると、中の様子を伺っている変質者二名に遭遇した。声を掛けてみる。
「よう」
「っ!!!」
「ひっ!!!!」
めっちゃ驚かれた。何? 何ですか?
「なんだ、ヒッキーか……」
「いきなり話しかけないでもらえるかしら」
それは貴方達の行動に問題があるのではないでしょうか? 等とは言わない。言う度胸があれば俺は雪ノ下にもっと言い返している。
「何覗きみたいなことしてるんだよ。てかなんで由比ヶ浜が此処にいるんだ?」
「部屋に不審者がいるのよ。あと由比ヶ浜さんは新しい部員よ」
「よろしくね!」
「お、おう」
事態がイマイチ理解できないのだが、
「早く捕まえてよヒッキー!」
「えぇ……」
困惑するばかりの俺に早く早くとせがむ由比ヶ浜と雪ノ下。しょうがないので扉を開けると、部室には紙が舞っていた。………………原稿用紙かこれ?
それを適当にあしらいつつ前を向くと、何やら大きい人影が。
「ククククッ……、こんなところで会うとは驚いたな……。だが、待ちわびたぞ、比企谷八幡っ!」
「すみません、間違えました」
扉を閉めた。
「部屋間違えたわ」
「いや、ここは確かに奉仕部の部室なのだけれど」
奉仕部にあんな奴――気温も少しずつ上がろうとしている時に厚手のコートを羽織り、指ぬきグローブをはめている変態はいない。いたら入ってない。
「比企谷君、どうやらあちらは貴方のことを知っていたようだけど、どういうことなのかしら?」
雪ノ下が怪訝な表情で俺を見てくる。いや、俺のせいじゃねえよ。
「いや、俺コイツのこと知らないんだけど」
と返すと、じゃあ何故という目でこちらを見てくるので肩を竦めておいた。
そんなこんなと三人で顔を見合わせていると扉が開かれる。
「まさかこの相棒の顔を忘れてしまうとはな……見下げ果てたぞ、八幡よ!」
「だからお前は誰……ってなんか見たことあるような…」
「そうだ相棒よ。あの共に駆け抜けた地獄の日々を、忘れたとは言わせぬぞ」
そう、どっかでコイツと会ったことがあるような気がする。えーーーっと、確か…
「あっ、お前もしかして体育の時たまにペア組んだ…」
「ようやく思い出したか八幡よ!そう、我こそが!後の世に名を馳せる、剣豪将軍!材木座義輝である!!!!」
「そ、そう……」
雪ノ下も由比ヶ浜もドン引きだった。
誰だってそうなる。
俺だってそうなる。
クラスが違うのに一度ペア組んだからって俺に付きまとってくる中々にウザイヤツだ。声は凄いカッコいいんだけどな。
そして後ろからまたも人影。
「比企谷くん、味の感想を」
カルピスとメモを抱えて天海がやってきた。つかお前どんだけカルピス好きなんだよ。
*
「ところで八幡、ここは奉仕部でよいのだな」
「ええ、そうよ」
答えたのは雪ノ下。俺が女口調みたいになるからやめてくんない?そしてその彼女にちらっとだけ視線を向けた後、すぐにこちらに戻して彼は続ける。
「そ、そうであったか。平塚教諭の助言によれば八幡よ、貴様は我の願いを聞く義務があるようだな」
「いいえ、それは違うわ。願いが叶うかは貴方次第。私たちはそのお手伝いをするだけよ」
さっきから俺への質問にドンドン答えてくれる雪ノ下。マジリスペクトっす。
「…………ふ、ふひ。では八幡、我にチカラを貸すが良い!ふふふふ、かつてのような関係のようにまた再び戦おうではないか」
「嫌だ」
「ギャッ!……ふっ、まだそんな戯れ言を――そもそも――」
「ねえヒッキー、あれ何なの?」
「何って何がだ」
「あの変なキモイしゃべり方だよ!」
材木座が長ったらしい戯言を述べている間に奉仕部面子で会議開始。天海は興味が無いようで、落ちている紙を拾っていた。やっぱあいつイイ奴だよな。うん。見た目は本当に天使みたいなんだ。
「あれは、所謂『中二病』って奴だ」
「ちゅうにびょう……?どんな病気なのかしら?精神的なもの?」
「いや、いわゆるスラングなんだが―――」
と、それから中二病及び厨二病のことについて話した。雪ノ下はこめかみに手を当てて呆れており、由比ヶ浜はゴミを見るような目で材木座を見ていた。
ちなみに天海は椅子を自分で出して本を読んでいた。一人だけマイペースすぎる。
「分かったわ。つまり私たちは、貴方のそのちゅうにびょう? とやらを治せばいいわけね」
「……。八幡よ、余は汝との契約の下に朕の願いを叶えんがため「今話している人を無視するなんて礼儀がなっていないわね」あ、ハイ」
あ、素が出た。
「それで、貴方の依頼は結局何なのかしら?」
雪ノ下の口撃が材木座を襲う。これには材木座もボロボロである。そんな彼に、一筋の光が流れた。
「多分、これ」
と、空気だった天海が口を開く。手に持っていたのは…さっき舞っていた原稿用紙?
「い、いかにも!」
と、少し復活した材木座が紙に指をさした。天海はそれに軽く目を通しているようで、軽くパラパラっと紙をめくっている。
「恐らく原稿。一字空けや鉤括弧がついているところをみると……小説?」
はい、と材木座にそれを手渡すと再び天海はさっきとは別の本を開いて自分の世界へと入っていった。お前凄い奴だな。
「そうだ!それはライトノベルの原稿だ!新人賞に登録したいのだが、意見を言ってくれる人間がいなくてな。いや、マジで一人。……ふひっ」
「途中から悲しいことを言われた気がするのだけど」
とまたも眉間を抑える雪ノ下。というか、そもそもだ。
「ネットにでも投稿すればいいじゃねえか。なんでウチなんだ?」
「投稿サイトの奴らは怖いからな。酷評されたら我多分死ねる」
「……あ、そ。でもな、お前の選択肢は多分間違いだ」
何しろ相手は雪ノ下だからな。投稿サイトの奴らより酷えぞ。
*
翌日。
アレを読むのに徹夜した俺は、授業もそこそこに居眠りをしていた。平塚先生の授業がなかったのが幸いだな。昼休憩も睡眠に費やし、あっというまに放課後。
奉仕部へ向かうと、そこにはこっくりこっくりと船をこぐ雪ノ下の姿があった。
「よう」
「…………あら、貴方だったのね。こんな美少女が眠っているのを見て邪な思いを抱かなかったなんて少しは紳士のようね」
「当たり前だ。それよりお前がそんな隙を晒すなんて中々ないが……まさかじゃなくても」
「……ええ、例の小説よ」
ウンザリしたような顔で紙の束を取り出した雪ノ下。そこには、付箋があちこちに貼られていた。もしかしてそれは全部修正する所なのだろうか。だとしたら実は優しいのかもしれない。本当に優しくない奴は修正なんかしないだろうからな。少しでもあんなやべえ内容のものを良くしてやろうというその努力は、彼女の信念が見え隠れしているような気さえしていた。
でも、それとこれとはまた別の話。やっぱり疲れるものは疲れるのだ。
「やっはろー!」
二人してブルーになっていると、そんなことが屁でもないような元気な声が奉仕部部室にこだまする。
「お前……あれ読んでなんでそんな元気なんだ?」
「へ!?」
「あっ……いや成程。すまん」
読んでないのね。まあああいうのあんま好きそうじゃないしなお前。こちらが察したのがバレたのか、
「う、うるさい!今から読むし!」
と意気込んでしまった。
「頑張ってくれ」
「由比ヶ浜さん、それは強敵よ……」
グッタリしている二人を差し置いて、原稿に目を通す由比ヶ浜。数分後、またもドアの音が鳴った。材木座かとも思ったが、ノックの音からしてあり得ない。
どうぞという声の後に扉を開いて現れたのは雪ノ下や由比ヶ浜よりも小さな生徒、つまり。
「眠い」
目の下に隈を作った天海がいた。なんでだ。
「えっお前アレ読んだのか?お前奉仕部の部員でもないのに……」
「押し付けられた。後悔している」
「せやろな」
グッタリしている人数が3人に増えた。なにこれ?
そのまた数分後、ドアを派手に開けて現れた材木座に対しては、
「頭に響くんだよ黙れ」
「その笑い方いい加減にやめてくれるかしら」
「ざい……財前くんだっけ?と、とにかくキモイ!」
「……五月蝿い」
罵詈雑言と脅迫の嵐で出迎えた事は言うまでもないだろう。
*
「ご、ゴホン!では諸君、感想を聞かせてもらおうではないか!」
一度ボロボロになりながらも立ち直った材木座。俺達のトップバッターは雪ノ下だ。というか大体コイツが言ってくれる気がする。
「では私から。私、あまりこういうものは詳しくないのだけれど……」
珍しく控えめな物言い。その時点で俺と由比ヶ浜はなんとなく察した。天海は寝ている。いや聞いてやれよ。
「構わん。凡俗の意見も聞かねばならないからな」
中の人が違うのにどっかの英雄王のような事をほざく彼に、雪ノ下は。
「そう。では遠慮無く。…………正直、つまらなかったわ。読むのが苦痛なレベル。想像を絶するつまらなさね」
……のっけからぶっ飛ばしてきました。材木座も、ぐほぉ!とかいいながら胸を抑えてるし、相当効いたなこれ。
「さ、参考までにどこがつまらなかったか教えてもらえるかな……?」
そこからは雪ノ下の独壇場だった。というか、材木座の公開処刑だった。
「エターナルフォースブリザード……?何故相手はここで説明もなく死んでいるのかしら?」
「あまりにも回想が多すぎるわ」
「"てにをは"をもっとちゃんと使いなさい」
「何故ここまで字体が一致しないのかしら」
と、その他にも指摘の連続で、その度に材木座が「ウグゥ!」とか「ウボァー!」とか「エ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」などと叫んでいたのはキモかった。由比ヶ浜なんて途中からもう涙目になってたしな。だが何故か途中から起き出した天海は、興味深そうに材木座を見ていた。まあ確かにちょっとおもしろいかもしれない。
「さて、私からはこんなところかしらね……由比ヶ浜さんは?」
「へ?あたし?」
さて、ついさっきまで全く手を付けていなかったこれへの感想は。
「え~っと、あたしもこういうのよく分かんないんだけど、なんか難しい言葉とか沢山入ってるね!」
「ぷげらっ!」
待ってガハマさん、それはオーバーキルよ!材木座のライフも一瞬で削りきった。案の定アイツは悶絶してるしな。
「は、八幡!!お前は、お前こそは!」
「大丈夫だ、俺はお前を見捨てたりなんてしない」
俺だってお前のような時期がなかったとは言わない。当たり前だろう?
「で、あれって結局何のオマージュ?」
「うわああああああああああああ(椅子から転げ落ちる音)」
「貴方が一番酷いことを言っているような気がするのだけど……」
「ま、気にすんな。天海はなんか言いたいことあるか?」
「…………じゃあ一言だけ」
「ああ」
つってももう死に体だけどな。次に歯に衣を着せない罵倒が来たらこいつは耐えられないのではないだろうか。ボロボロな状態(に見える)の材木座。慈悲はない。
そんな奴に、天海は。
「諦めたら、そこで試合終了」
「は?」
その一言だけ。
「じゃ」
そのままさっさと部室を出て行ってしまった。無表情なのに凄くドヤ顔に見えた。きっとあいつにとっては精一杯のフォローだったのだろう。
でもそれ、安西先生のパクリだよな?
*
後日。
「八幡よ、また、読んでくれるか………………?」
「駄目です」
「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
もうキャラクターの統一めんどくさいからやめていいですか