二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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花は枯れ 鳥は空を捨て 人は 微笑みなくし 初投稿です



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前回のあらすじ

・シスコンの仁義無き戦い

・天使の浄化

・カルピス is JUSTICE

大体あってる。




一番大事なことは

「―――お前、ボーダー入んない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の勧誘だった。大昔の僕なら、きっと二つ返事で引き受けていたのかもしれない。みんなの平和のために戦うヒーローのような存在、僕だって憧れなかったワケじゃない。仮面ライダーだって平和の為に戦った。

 

 だけど、近界民に妹が傷つけられた日。あの時に、僕はふと悟ってしまった。

 

『僕はヒーローになんかなれない』と。

 

 当たり前だった。自分の身内さえロクに守れなかった人間が、皆の平和を守る事ができるわけがない。力を得て、それで守る。そんなのは絵空事だ。一人の人間に背負えるものではない。だから檻を自分で作って、自分でそこに引きこもっている。だから僕が今ここに居るのだ。

 

 ボーダーが出来て、それがどんどんと大きくなっても僕のその考えは変わらなかった。

 

 だから、せめて。せめて、僕の周りにいる人だけでも。僕が抱えられるくらいの人しかいなくても、その人の平和を守ろうと思った。

 

 妹の為に、イジメにも耐えた。耐えたと言っても、放置していただけなのだが。あの時一度壊れた心も、もう気にすることはない。心の中で考えることが出来るなら、それだけで十分だ。

 楽しいこと。嬉しいこと。悲しいこと。いくら感じても顔には出ない。いくら笑顔でお礼を言いたくても言えないし、悔しくて泣きたい時も泣くことは出来ない。それでも僕はこうして今生きている。優しい大人達に生かせてもらっている。

 

 

 それは、きっと僕にとっては幸運だと思う。

 

 

 

 この話を受ければ、大切な人を守ることが出来る。今までは妹を人の悪意から守るために棍を、双棍を振るってきた。使う機会なんて殆ど無かったけれど、これのお陰で大抵の人は妹を傷つけなくなった。代わりに僕に悪意が集まった。僕は悪意が嫌いだ。逃げてきた。これからも逃げ続ける。だけど妹には悪意は集まらせない。それくらいなら僕に悪意を集めたほうがずっとマシだ。

 近界民だって妹には寄せ付けさせない。もう、ナツを傷つけることなんてさせない。だから。

 

 

 

「分かった。ボーダーまで連れていって欲しい」

 

 

 

    *

 

 

 

「ここがボーダーだな。つか、職場体験の時とか来たことあるんじゃねーの?」

 

「覚えてない。今まで興味がなかったから」

 

「お前、マジで変わった奴だな……」

 

「?」

 

そんなこんなでボーダー本部。ここで詳しく検査を行うらしい。買ったものはスタッフさんが預かってくれた。ありがとう。

 

「そういえば、俺以外の三輪隊の自己紹介をしてなかったな」

 

「?」

 

 中に入ると、目つきの悪い人と無表情な人、あとはメガネを掛けた人が立っていた。この人達が三輪隊か。

 

「天海 樹。宜しくお願い致します」

 

頭をしっかり45度まで下げる。これは僕が武道の師匠から習った礼儀の1つだ。出来ないと半殺しにされるので角度はピッタリだ。感情を顔で表せなくなった僕は、こうして態度や動き、言葉で気持ちを伝えることにしている。

 

「三輪 秀次だ」

 

 目つきの悪い人が三輪君。だけど、別に悪い人ではなさそうだ。だけどあの目は……いつか感情が爆発しそうな目だ。

 

「奈良坂 透。よろしく」

 

 無表情な人が奈良坂君。ポーカーが強そうだと思った。

 

「古寺 章平です、よろしくお願いします!」

 

 メガネの人が古寺君。真面目タイプ。でも少し、苦労人?

 

「さっきも言ったな。米屋 陽介だ。よろしくな!」

 

 気さくなお兄さんタイプ。

 

「じゃ、早速みんなにも見てもらおうぜ」

 

 米屋君が機械を取り出してこちらに向ける。さっきも僕に使ってたものだ。これで一体なにが分かるんだろうか。

 

「ほら」

 

と、米屋君がその機械を三輪隊の人たちが覗き見る。

 

「これは――成る程。確かに多いな」

 

「出水と同じくらいじゃないか?」

 

「流石に二宮先輩ほどではないですね」

 

「バカ、あの人レベルなんてほとんどいねえよ」

 

 僕の話で来たはずなのに僕を除いて話がトントン進んでいく。まあいい、聞くことさえ聞けるなら無問題だ。

 

「あの」

 

「あ、悪い悪い。どうした?」

 

 米屋君はこのメンバーの中でも一番気さくだから、コミュニケーションを取るなら恐らくこの人達の中では彼が最適だ。これからは彼を頼ることにしよう。

 

「ボーダーの給料が知りたい」

 

「ああ、それな。詳しいことは書類に書いてあると思うけど、まあB級に上がるまではタダ働きだ。まあ、働かねえしな」

 

「ん」

 

「で、B級になったら防衛任務が受けられてだな、それで倒した近界民の数によって金が入るってワケ。A級に入ったら固定給まで貰えるぜ!」

 

「………………」

 

少し考える。

 

 

 恐らく、僕がここで入ったとしたら、それはB級より下なのだろう。なにか条件があって、その条件をクリアするとB級に上がることが出来る仕組みか。なら、とっとと上がってしまえばいい。そのための方法だってきっとある。あとはほぼ毎日防衛任務に出て敵を倒せばいい。完璧。

 

「ありがと」

 

「おう」

 

「…………天海、1つ聞いていいか?」

 

三輪君?少し僕への目が鋭くなってませんか?ああ、お金の話とか嫌いなのか。まあ僕には僕の人生があるから他人にどう思われようが関係はないけれど。

 

「どうぞ」

 

「お前は、何のためにボーダーに入る?」

 

 

 

 何のために?……彼も決まりきったことを聞く。だけどそれは仕方ない。僕が彼の事を知らないように、彼は僕のことを知らない。他人が他の他人の事を全て知ることなんて不可能に近いのだ。だから、彼はきっと僕のことを知ることなんてほとんど出来ないだろう。他の人がそうであるように。

 

(彼は少し、違うのかもしれないけれど)

 

 あの目の濁った人を思い出す。あの目はきっと、僕と同じように、現実や人間に一度絶望したことがある人のする目だ。だから僕は彼の事が他人よりも少しだけ理解できて、彼も僕のことを少しだけ理解……してくれているのかな?わからない。まあ、それも今は気にしないでおこう。

 

「簡単」

 

 先に三輪君の質問に答えないといけない。この質問に答えるのは簡単だ。何故なら、僕は妹と二人きりになった時からの僕の人生の一部なのだから。

 

「妹を守るため、妹が生きていけるようにするため」

 

 

 

 

    *

 

 

「これが書類だ。各項に記入したらまた持って来るといい」

 

「ありがとう、三輪君」

 

 あの後、少しトリガーの説明を受けたり入隊について聞いた。どうやら僕が正式に入るのはもう暫く後になるらしい。大体6月と聞いたけれど、もしかすると前後する可能性もあるということなのであまり信用はしないでおく。

 

 出入り口まで米屋君が送ってくれることになった。本当に彼はいい人だ。学校でも人気者なのかもしれない。荷物も返してもらったし、何故かお餅がもらえた。いや本当に何故?

 

「そういえば天海はウチの高校じゃねえよな」

 

「うん。総武高校」

 

「あ~、あの比企谷とかのいる高校か。じゃあお前勉強出来るのか!?」

 

「一応」

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

「……一つ、聞きたいことがある」

 

「おう、いいぜ」

 

「今米屋くんが言ってた比企谷くんって……比企谷八幡くん?」

 

「あ」

 

 あからさまにヤバイという顔をする米屋君。もしかして彼に口止めされている、とかだろうか。ありえる。とてもありえる。というか、絶対そうだと思う。

 

「あ~……これ比企谷には言うなよ?バレたら絶対あいつキレるだろうし」

 

 うん、やっぱり。彼のことだから納得がいく。比企谷君は絶対こういうことを他人には言わないだろう。僕も一応ボーダーが関係している番組やCMを見たことはあるけれど、おそらくボーダー隊員ということがバレてしまった場合の対応が面倒だ、とかそういう線だろう。僕だってそうだ。今まで高校で目立たないようにして生きてきたのに、簡単にボーダーの隊員になったとバラシでもしてしまったら質問攻めに合うのは自明の理だ。めんどくさ。

 

 

 ちなみに、僕は感情が消えたとか自分で言っているけれど、実際にそんなことはない。面倒だとか嫌だとか辛いとか、そういう感情はちゃんとある。ただ、その感情が極端に薄く、かつ表情に出ないだけで。ややこしい人間だと我ながら思う。

 

 

「適当に言い訳しておくから」

 

「おい、言うのかよ!」

 

「いや、彼が隊員だということを知ったこと自体は言うけど、経緯は明かさない」

 

 というか、明かす必要が無い。必要なのは"彼がボーダー隊員であった"という事実だけで、何故そうなったのか や、何故それを秘めているのか(これについては僕は多分分かるかもしれないけれど)、などは一切僕には関係がないだろう。つまりは、

 

「聞かれたら『名簿見た』とでも答えとく」

 

差し障りの無い回答が一番だってこと。僕の周りでいざこざがあったら面倒だし。

 

「天海…………お前、すげえイイ奴じゃねえか!恩に着るぜ!」

 

「ん。道案内ありがとう」

 

「おう!じゃあな!」

 

 ……ふむ。ここまで親切にしてもらったし、なにかお礼をしたほうがいいかもしれない。

 

「ごめん米屋君、少し待ってて」

 

「?おう」

 

 外に出て、近くの自動販売機へと軽く走る。どうでもいいが、何故千葉の自動販売機にはこうもMAXコーヒーが売っているのだろうか。飲んだことはないが、周りの評判を聞くととても美味しいらしい。今度飲んでみようかとも思ったが、今はお礼をするほうが先だ。お金を入れて、購入。再びボーダー本部まで行き、米屋君にそれを渡した。

 

「お礼。じゃ、また」

 

「お、ありがとな……って貰っていいのかよ!俺お前に何もしてないだろ?」

 

「道案内。あと」

 

 

「僕なんかをスカウトしてくれたお礼」

 

 さて、帰ろう。妹が夕方には帰っている筈だ。早く夕飯を作らないといけない。

 

 

 

 

 

「よく分かんねえけど、なんでカルピス?」

 

 

 

 

 

   *

 

 

 

「ただいま」

 

 これまでは一人だったから(あと二匹)、この言葉に反応してくれる人はいなかったけれど。でもこれからは

 

「樹兄、おかえり」

 

 胴の中心、上腹部辺りまで伸ばした、僕と同じ、珍しい銀色の髪の毛。そのせいであまり目立たない白のカチューシャ。何故かよく似合う、ごすろり? みたいな服装。後で着替えさせよう。いたずらっぽい笑みを浮かべた顔、綺麗な蒼い瞳。中1ながら、そこそこ自己主張しつつある二つのもの。

 

 天海 夏菜が。――――最愛の妹が出迎えてくれる。ならば、僕も出迎えよう。帰ってきた、ようやく帰ってきたこの、妹のことを、無理にでも笑顔を作って。必死に口端を指で持ち上げて、笑う。

 

「ん。あと…………おかえり、ナツ」

 

「…………うん!ただいま!!」

 

 そう言って、最高の笑顔を見せるナツ。

 

 

 幸せだ。

 

 

 かわいい。やっぱりナツはかわいい。比企谷君には悪いけど、この笑顔に勝てる人間なんか絶対にいない、間違いない。たまに笑ってもドヤ顔スマイル(大体僕が論破された時に浮かべる)なコイツが見せる素直な笑顔は破壊力バツグンだ。病院でも何故か女性の看護師さんを虜にしていたし。しかし看護師さん、分かる。その気持ちはとっても分かる。

 そもそもだ。ナツは顔からしてまず美少女。無表情な時でもまるで人形みたいな肌をしていて、ある種のコレクターには大人気…………って違う。無表情でも余裕で可愛い。

 さらに。そんな顔つきが浮かべる悪戯っぽい笑い。まさに小悪魔系というやつだ。まあ、実はナツの場合は結構無意識だったりするらしいんだけど。それをもってしてもあざとくない、こんな子が他にいるだろうか、いやいない。それに加えてにぱっと笑う素直スマイルである。割と普段の顔つきがお嬢様っぽい自分に自信があるような顔つきに加えその笑顔。天は二物を与えていった。ありがとう神様。

 僕より勉強も出来るし、掃除だって僕よりも上手い。そんなナツは、実は雷に弱かったりする。普段強気なコイツが弱々しくなって、雷が近くに落ちたらビクッとするような怖がり。たまらない。

 しかも。こんなドヤ顔を普段から浮かべている癖に、性格は別に小悪魔じゃないのである。落ち着いた、周りのことをよく見て、いろんなことをまるで自分の立場のように思える、そんな子。さっき小悪魔系といったが、あれは見た目だけだ。残念、Mの皆さん。別にナツと話しても罵倒されることもイタズラされることもない。ただ最近読んだ本の事とか人間の思考だとかについてのんびりと喋るだけだ。

 

 僕がナツにカウンセリングっぽいものをしていた頃、僕は兎に角本を読ませた。調子が悪そうなときは僕が音読した。レインツリーの国だとか、ゴルフ場殺人事件。そして誰もいなくなった も読ませたし、最後には京極夏彦先生の作品まで読ませた。

 小説ばかり読ませていたせいか、ナツはどんどん感受性が豊かになっていった。曰く、「自分がこのキャラクターだったらどう動くか」という事を考えながら読んでいたら、少しずつ他人の思いが分かるようになってきた、とのこと。

 

 最強じゃないだろうか。僕がもし家族じゃなかったら最良物件だと思うハズだ。まあ誰にも渡す予定は今はないけど。多分大人になるまではない。僕が許さない。

 

「さて、少し遅くなった。今から作るから、待ってて」

 

「うん」

 

『ご主人、お帰り』『メシはよ、はよ』

 

「ただいま、ミィ、クルト。クルトは少しせっかち過ぎる。慌ててはいけない」

 

『ウッス』

 

「よろしい」

 

今日は色々あったけれど、ナツが帰ってきたことが一番大きい。今日の食事は豪華にしよう。子供二人と、猫二匹のかすかなパーティーだ。明日からはもっと楽しい生活になるに違いない。

 

 

 

 

「あ、樹兄。ヤクルト買ってきてある?」

 

「カルピスある」

 

「私はヤクルト派なの」

 

「ハイ」

 

「あと、笑う時に指で口角持ち上げるのは誤解されちゃうよ?」

 

「ハイ」

 

 うん、違いない。




私はボクっ娘が好きです。ローゼンメイデンでは蒼星石がすき。

カルピス布教の旅はまだまだ続く。

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補足欄(というか元ネタというか)

・天海「MAXコーヒが美味しいらしい」
周り(比企谷八幡)だからね、情報が偏るのもしゃーない

・ある種のコレクター
リカちゃんとか集めてる人。決して貶めてるわけではありません。

・レインツリーの国
図書館戦争の人が書きました。有名ドコロながらそこそこ面白かったので一回読んでみると面白いかもしれません。

・ゴルフ場殺人事件
ミステリー界の異端児と呼ばれていたかもしれない、アガサ・クリスティー先生の作品。「エルキュール・ポアロ」は結構有名だと思う。

・そして誰もいなくなった
別にギュッとしてドカーンとかではない。兵隊のうたすき。今読み返したらわりと登場人物が頭おかしい人ばっかだった。

・京極夏彦先生
『姑獲鳥の夏』には驚愕しました。その後の『魍魎の匣』や『狂骨の夢』を見つける度に「また君かあ、(睡眠時間が)壊れるなあ…」と思いながら一晩中読んだ記憶が有ります。中々グロい描写もあって、辛い時には一日三食しか食べられませんでした。

・ナツ「私はヤクルト派」
水銀燈「乳酸菌足りてるぅ?」

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