二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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 二度目の初投稿です。


(二次創作特有の重い事前設定)ありますあります!

 コン、コン、コン。

 

 ノックは3回。親しき仲にもなんとやら。

 

「はーい!」

 

「ナツ、入るよ。」

 

 同意が取れたのを確認してからドアを開ける。

 

「いらっしゃい、樹兄(みきにぃ)。お茶淹れてくるから待っててね」

 

「……その呼び方、いつになったら直るの」

 

「直らない!」

 

「…………」

 

 そんなやり取りをしながら妹――ナツがお茶を淹れてくれるのを待つ。前までは僕が淹れていたけれど、少しずつではあるけれど杖を使った移動ができるようになってからはナツが入れると言って聞かない為に任せている。

 

「今日は何かあった?」

 

 御見舞いに行くたびにナツはいつもそう聞いてくる。何時もは部活の話を極稀にするくらいだけど、今日は別の話題がある。

 

「目が濁ってる人に会った」

 

「えっ」

 

 

 

「猫背で」

 

「猫背」

 

「目つきが悪くて」

 

「目つきが悪い」

 

 後は……そう。

 

「MAXコーヒーを持ってた」

 

「その人大丈夫なの?」

 

 

 

「一緒にお昼を食べた」

 

「頭大丈夫?」

 

 時偶に辛辣になるナツ、僕は嫌いじゃない。ただその発言には大抵僕が原因であるとはいえ、余りにも直球過ぎないだろうか。しかも真顔で言われるのだから余計にダメージは大きい。……とまあ、今日の話は。

 

「それくらい」

 

「見た目については私達が十分変わり者だから何とも言えないけど……ホントに大丈夫?」

 

「見た目は怪しくても中身は普通、だと思う」

 

「海外のお菓子のパッケージかな?」

 

「……信用がない」

 

 ナツのその言葉は「普通と見せかけてやっぱり普通じゃないだろ」という意味に等しい。この前食べたアレは見た目も怪しいし中身はとても甘く、それこそMAXコーヒーと合わせれば糖尿病になるのではないかというレベルだった。勿論全てのお菓子がというわけではないけれど、少なくとも今まで偶に貰ったお菓子は全て甘い物ばかり。僕達の海外のお菓子のイメージが固まっても仕方がない。

 

 

 

「あ、そうだ!」

 

「?」

 

「もうすぐ退院出来るんだって!リハビリあと少し頑張ればって話!」

 

「……良かった」

 

「うん!あぁ、早く学校に行きたいなぁ……!」

 

「……お弁当、作るから」

 

「やった!」

 

 

 

 ……さて、そろそろバイトの時間。

 

「じゃ」

 

「うん。無茶しちゃ駄目だよ?」

 

「ん」

 

 また来るから、そう言ってから病室を出てドアを閉める。少し、急いだほうがいいかもしれない。

 

 

 

 

 

「…………やっぱり、違うのかな」

 

 

 

 

     *

 

 

 ホテル・ロイヤルオークラにある最上階のバー。そこで僕は働いている。勿論、労働法的には普通にアウト。だけど、何処かのニャルなんとかさんも言っていた。

 

『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』

 

 

 

 幸い、バーの他のスタッフにも受け入れて貰えた。それはひとえにそこのマスターの人望によるもの。あの侵攻から僕達のように両親がいなくなった子供は結構多く、スタッフの中には僕のようにその後マスターに助けてもらった、という人もいる。また、新人だった時から根気よく指導をして貰った人も多い。僕も皆と同じくあの人を尊敬しているし、あの人の役に立ちたいと思っている。だから働く。他の誰が何と言おうとも僕の居場所はここと妹のそばだけ。

 

 プライベート・ルームのドアを開けると、僕と交代の人が着替えていた。

 

「お疲れ様です」

 

「おう、後よろしくな」

 

「はい」

 

 この後の予約客やお客様の流れ具合を聞いてから交代を終える。現況の共有は大切。どこに行っても「報告・連絡・相談」は大事だし、これをしやすい職場で働けているのは幸運。

 

 動きやすいYシャツとスラックスの上にエプロンを着て調理帽を被り、向かう先はキッチン。

 

「お疲れ様です。今は?」

 

「おっす、早速サラダ頼む」

 

「了解です」

 

 僕の仕事は調理。具材を切ったり盛り付けたりが主な仕事。最近は味付けを任されるようにもなってきてきたけれど、当然ながらごく限られた料理。僕よりも上手なスタッフも多いから。

 

 サラダと簡単に言っても、入れる具材やドレッシングの有無、そのドレッシングと具材の相性など、考えなければならないことはいくらでもある。このお店のメインはお酒。だから食べ物がお酒の風味の邪魔をしてはいけない。胡麻ドレッシングや和風ドレッシングは味がとても強いので中々使えない、ということ。

 

 このバーのサラダを偶に担当することになったのは、僕が前に任された時に作ってみたものが好評だったから、らしい。お客様に認めてもらえたみたいで個人的には満足。

 

 僕がサラダを作る際に絶対に使うのはトマト。酸味も甘みもあるからドレッシングがなくても他の野菜と一緒に楽に食べられるしビタミン補給にも最適。

 何より僕が注目しているのはトマトとお酒との相性。

 こういう所で働いていると、自然とお酒に合うものと合わないものについての知識が増える。また、プライベート・ルームにはそういう本も置いてあり、その中の一冊にトマトとお酒の関連性について書かれた本があった。それによると、トマトに含まれる水溶性の成分――アミノ酸や糖類など――にアルコールの代謝をよくするものが入っているらしい。それがアルコール分解酵素の活性を高めたり、アルコールを吸収する過程で重要な役割を果たしているピルビン酸、という成分の血中濃度を高める働きをしている、とか。これを見た時からサラダにはトマトを入れると決めていた。

 

 あとは食物繊維が豊富なレタス等の葉物野菜を中心にして混ぜ合わせれば完成。簡単だけど奥が深い、それがサラダ。

 

 大きなボウルに作ったものを皿に分ける。上手く混ざっているか、皿からはみ出していないかを確認。……問題ない。

 

「お願いします」

 

 そう言うとウェイターが素早く持っていってくれる。年齢がバレるとマズいのでフロアには滅多に出ることはないのが有り難い。そもそも接客には向いていない。

 

 さて、サラダを持っていってくれたのはいい。……けれど、その持っていってくれた人に見覚えがない。背が高く少し吊り目な若い女性。会ったことがないだけなのか?いや、それはない。

 

「ああ、あの子な。お前がいなかった一昨日に入ったんだよ」

 

「成程」

 

 見た感じ僕とはジャンルが違うけれど愛想は良くなさそうなのも分かった。だけど、ああいうクールなタイプは此処では逆に好ましい。何故なら店には雰囲気というものが存在して、居酒屋や焼肉屋なら元気な人が、等と店によって接客の具合も違うから。此処のような静かな所では彼女のように少し冷たいくらいが丁度いいのかもしれない。

 

 

 ……さて、まだまだ注文はある。ここからが店の繁盛する時間。料理の続き。

 

「サラダ3人分な」

 

「了解です」

 

 ……働こう。




皆もトマト、食べよう!

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