二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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愛を知らない哀しき暴魔 正義のパワーで 遥かな眠りの旅を捧げよう DA・DA・DASH! 初投稿です

前回のお話を見ていただき、有難うございます。最近になってどんどんと創作意欲が出てくる始末。一応大事な時期なのですが、書きたいものはしょうがないですよね。
 今回から少しの間、サブタイトルの書き方が変わると思われます。これはまあちょっと色々ありまして、俺ガイル風だと伝わりにくいと判断したためであり、他にとくに意味はありません。


前回のあらすじ

・お説教は続くよどこまでも

・葉山隼人、空気化

・悪魔(比企谷)と天使(天海・戸塚)、グループを組む


おっ、あってるんじゃない?


そんなわけで第十七話、どうぞ。


弟の悩み、姉の目的。川崎大志は迷わない。

 俺は、見てしまった。

 

 

 別に家政婦でもないがミテしまった。

 

 

 

 そう、それは先ほどのこと。職場体験の班決めで大勝利した俺は、意気揚々とサイゼリヤに入った。それはもう気分がいい。最高にハイってやつだな。まあテンションはものすごい高かった。顔に出したらドン引きされる(雪ノ下曰く「ドン引き谷君」)から無表情だったけどな!

 

 

 そうだよそんときだよ!つか今だけど!

 

 

 

 

 

 

 

 …………小町、その男はダレダ?

 

 

「お兄ちゃん、何してるの?ストーカーみたいで気持ち悪いよ」

 

 

「すみません静かにしてくれませんかね、今妹の小町を狙ってる不審者をどのようにして始末してるか考えて…………うごっ!?小町っ!?」

 

 バレテーラ。思いっきり。

 

 やめて! そんな目で兄を見ないで! 傷つくから、心は硝子だから!

 

 

「うわぁ………流石にそれはキモイと思うよ、小町的にもポイント低~い……」

 

 

「うおおおおすまん、マジすまん! ……で、その男は誰だ?」

 

 兎に角謝る。だが、それとコレとは話が別だ。

 

 

「全く……あっ、この子は同じクラスで塾友達の川崎 大志君だよ。なんかすっごい悩みがあるみたいで顔が暗かったからさ、相談に乗ってたの」

 

 

 悩みだと?

 

 

「比企谷さんのお兄さんっすよね、俺は川崎 大志 って言います。比企谷さんには、同じ年上の兄弟がいるということで相談してたっす」

 

 

「…………言ってみろ」

 

 

「えっ?」

 

 

「聞いてやる。悲しいことに俺は奉仕部とかいう、他人の悩みの解決を手伝う部活に入っちまってるからな。話くらいは聞いてやるよ」

 

 

「…………実は俺、姉ちゃんがいるんっすけど。その、最近、とにかく帰ってくるのが遅くって酷い時には朝になってから帰ってくることもあるんっす。何してんだって両親に問い詰められても関係ないって言って喧嘩して…… そんな事が続いてるせいか、俺の下の妹も最近元気がなくなってきて………」

 

 

 …………どこの家もそうなのかねえ。思い出すのは俺がボーダーのB級隊員になった後の事。防衛任務を山程入れて、とにかく働いていた。たった一人の家族を放ってな。

 

 ……はぁ。俺はこういうのには弱いんだ。思い出しちまう。

 

 

「……続けろ」

 

 

「で、それを比企谷さんに相談したんすけど……俺の姉ちゃん、お兄さんと同じ高校なんすよ!だから、調べてもらえないかって思って……」

 

 

「残念ながら俺は見た通り暗い人間でな。他人と話す機会なんぞ滅多にないからお前の姉が誰かなんてそう簡単には分からん。あとお兄さんって呼ぶな」

 

 

「それは比企谷さんから聞きました。お兄さんはその、えーっと……「大志くん、コミュ障ぼっちだよ」 そう!コミュ障ぼっちだって! ……あっ、すいません」

 

 

 

 ……小町、お前あとで覚えとけよ? そんな目線を向けると、勢い良くあさっての方向に目を逸らされた。誤魔化すのが下手すぎる。もうちょっと演技してくれませんかね?

 

 

「……まあいい、別にそんなことは言われ慣れてるからお前に言われたところで今更だ。で、他には?特徴とか。あと、お兄さんって呼ぶな」

 

 

「えっとですね、髪は俺と同じ色で、赤いシュシュのポニーテールっす。あっ、そのシュシュって姉ちゃんの手作りで」

 

 

「後半の情報はいらんわ」

 

 

「あっ、すみません……。帰りが遅くなったのは2年に入ってからで、それまではものすごい真面目だったっす!うちは両親が仕事してたんで、いっつも姉ちゃんがご飯を作ってくれてて。因みに得意料理は」

 

 

「おい」

 

 

「あああ、ごめんなさい! んん、えっと、背は高い方……だと思います。弟の身でいうのもなんですが、姉ちゃんは正直、めっちゃ美人で、世話も焼いてくれ――」

 

 

「あのさあ……」

 

 

 もうあれじゃん、こいつ俺に負けず劣らずのシスコンじゃん。事あるごとに自慢してくるのやめてくれる?俺、小町には大体罵られてる気がするから。負けた気になるから! でも千葉の弟としては正しい。それは褒めてやる。

 

 

「ほんとすいません!姉ちゃんが心配で、つい…… あ、あと時々、エンジェル何とかって言う店の店長とか言うやつが夕方に電話をかけてくるんっすよ!しかもあいつ、なんか俺の事子供扱いしてくるし……ああ、腹立つ!」

 

 

「お、おう…大志、で良かったか、取り敢えず落ち着け」

 

 

 そう諭すと、すいません、と謝って顔を俯かせた。その顔は、どこか昔の、あの時の小町みたいで。

 

 

 ……少し、自分に腹が立った。

 

 

「俺、俺は……姉ちゃんとちゃんと話がしたいんです」

 

 

 そう言う大志。俯いて見えないようにはしていたが、ここは明るい店内。ポロっと落ちた涙は、光って見えた。自分の無力さを呪うようなそんな態度を、人の兄の前で見せちゃダメだろ。こちとらそういうのはもう見たくないんだよ。

 

 

 ……はぁ、しゃあねえか。

 

「おい」

 

 

「…………はい」

 

 

「お前の姉貴の名前、教えろ」

 

 

「! お兄ちゃん、それじゃあ!」

 

 

「大志。奉仕部の比企谷八幡、としてでなく、比企谷小町の兄、比企谷八幡としてその依頼、受けてやる」

 

 

 さて、ここで見ている皆に昔話をしようか。皆って誰だ。

 

 

 むかーしむかし。妹想いだが少し捻くれている少年と、その妹が暮らしていました。その二人は兄弟でしたが、親は二人共、どこからかやってきた、謎の生命体に殺されてしまったのです。

 

 

 二人は、両親が遺したお金で毎日生活をしていましたが、このままではいつかお金がなくなってしまう、と少年は思っておりました。しかし少年はまだ子供、働くことは出来ません。

 

 

 なんとかして働こうと思っていた少年の耳に、ある噂が入りました。

 

 

「ボーダーでは子供が働いていて、給料も貰える」

 

 

 これを聞いた少年は大喜び。急いでボーダーの試験を申し込み、なんとトップの成績で合格したのです。

 

 

 それからというもの、その少年は来る日も来る日も戦い続けました。お金は、B級隊員といって、今所持している訓練用のトリガーのポイントが4000を超えるとなれる人たちではないと手に入れることは出来なかったからです。あっという間に少年のポイントは4000を超え、無事にB級隊員になることが出来ました。その後はもう、お金を稼いで家庭を楽にするために、と毎日毎日遅くまで仕事や訓練を続けていたのです。他の人と関わらなくてはいけないという苦痛にも耐えながら、ストレスを溜めながら、それでも家族のために働いていたのです。

 

 

――――――しかし、少年はあることを忘れていました。それは、妹のことです。来る日も来る日も少年の帰りを待ち続けていましたが、帰ってくるのは夜遅く。小さい妹は疲れ眠ってしまうことが殆どで、二人の会話も朝しかなくなっていました。父も母も死に、兄は帰ってこない。一人ぼっちでいるのに耐えられなくなってしまった妹は、ついに家出をしてしまったのです。ただでさえ親が殺されたことでボロボロだった少女の心は、兄への心配や寂しさ、そして一人の悲しさのせいでもはやいつ壊れてもおかしくない状態にまでなってしまっていたのです。

 

 

 帰ってきて、妹がいないと気付いた少年は大慌て。色んな所を走り回りましたが見つかりません。とうとう疲れてしまい、誰かにさらわれたのかと顔を青くしていました。その時、少年は、小さい頃妹と遊んだ公園の事を思い出します。

 

 

「あそこにいるかもしれない」

 

 

 少年は走りました。それはもう、全力で。息を切らしながら、目に涙を溜めながら、歪む視界の中走り続けました。そしてとうとう、公園へと到着。すると、ベンチに泣いている小町の姿があるではありませんか。俺は小町を抱きしめ、涙を流しながら謝りました。ごめんな、ごめんな。お前のことを考えてやれなかったな。それからは俺は心を入れ替え、早く帰るように心がけ、先輩に妹を紹介し、少しでも妹が寂しくないように過ごしました、とさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はあの日、死ぬほど後悔した。自分が家族のためだ、妹のためだと思いながらやっていた事が、逆に妹を追い詰めて心を壊してしまいそうになるなんて思っていなくて。瞳の光が消えて、絶望している小町の顔はもう二度と見たくない。そう思ってたのに。家族が死んだ時と家出の時。俺は二度、見てしまった。自分勝手な考えがどれだけ愚かなことか、嫌というほど理解した。もうあんな顔はさせない。小町が今のように明るく過ごせるためなら、嫌われ役だってなんだってする。ボーダーの人間のほとんどは俺に興味を持っていないだろう。持っている一部は、理由は謎だが俺のことを気に入っている人間、そして俺のことをとことん嫌う人間。そんなところだ。学校でさえ、俺の扱いはほぼ空気と言っていい。それでいい。小町は出来る奴だ。兄の俺はあいつの器量の良さを知っている。友達といると思えば一人でも過ごせて、尚且つそれを苦としていない。成績こそ微妙なものの、それ以外においては完全に俺の上位互換と言えるだろう。

 

 

 川崎大志。こいつの姉を思う気持ちはきっと、本物だ。俺の事を何遍もお兄さんと呼ぶのは非常に、ひっじょ~~~~~うに、気に食わないが、兄弟姉妹の事を思うその心だけは理解することが出来る。大切な人の為にここまで頑張れる、できる弟なのだろう。

 

 

 そうでなければ。

 

 

「……っ!ありが、とうっ……ござ、い、まず……………!」

 

 

 こんな公共の場で、いい年した男子が涙を流す事なんて出来るはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………大志くん、いい子だったでしょ?」

 

 

「……ああ」

 

 

 あの後、大志の電話番号とメールアドレス(話すのがダルい為基本メールだと言っておいた)を伝えてから店を後にした。何か進展があったら連絡する。そう言った。

 

 

 が。

 

 

「ぶっちゃけ、大体何やってるか分かってるんだよな」

 

 

「え!?」

 

 

 いやだって、殆ど俺と同じ境遇ですやん。なんか兄弟いっぱいいそうだったし、お金的な何かが原因。つまりは、

 

 

「バイトしてんだよ、川崎姉は」

 

 

「はえ~…………お兄ちゃん」

 

 

「ん、何だ?」

 

 

「ふふ。いつもありがと」

 

 

「気にすんな。俺はお前の兄だからな」

 

 

「うん!」

 

 

 太陽もほぼ落ちた空の中、我が家へと二人で帰る。そういえばこうやって夕方に小町と帰るのは久々だったな、と思う。手を繋いでやると、少し驚いた顔をした後に笑顔で握り返してきてくれた。

 

 

 さあ、帰ろう。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 今日も今日とてバイト。やんごとなく終わるはずだったそれは。

 

 

「あ、天海………なんで、ここに」

 

 

「あれ、比企谷君?こんばんは」

 

 

 どうやら今回は面倒な事態になりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前にマスターが入れた、川崎沙希 という女性。僕は厨房だったので直接的に関係があるわけではなかったのだけど、どうやら同じ学年だそう。前、一度話しかけられた時は確か……

 

 

「ねえ」

 

 

「?」

 

 

「なんでアンタは働いてるの?」

 

 

 と、いきなり聞いてきた。別に隠すわけでもないので目的を伝えたのだが、何故か納得した顔で去っていった。ちなみに、話を振ってきた彼女の目的は教えてくれなかった。特に思うことはないから気にするわけでもなかったし、それからは事務的な会話しかすることがなかった。人と会話する気がない僕にとっては結構ありがたかったけど。

 

 

 とにかく僕は料理を作らなければいけないのでそれを伝えて、厨房に行く。と言っても僕がお酒を入れるわけではない。一応、出来るには出来るけど一流とは程遠い。ここでそんな微妙な物を飲ませちゃいけないことくらいは分かる。

 

 

 その代わり、料理は自分で言うのも何だが、結構自信があった。マスターにも評価されたが、お酒と一緒に食べる料理の中で一番美味い、と言ってくれるお客もいた。ここに来る人たちは味が薄い料理を好む。お酒がメインだから、その風味を邪魔しにくい優しい味が喜ばれるらしい。僕は今までずっとその味付けを続けてきたから、比企谷君たちに

 

 

「味が薄い」

 

 

と言われた時まで、「自分の料理は味が薄い」事を自覚することが出来なかった。

 

 

 ちなみに接客に関しては、恐らくマスターも察したのか、フロアに僕が出ることはなかった。ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も料理を作り終える。と、後ろにはマスターが立っていた。彼が僕に見せる顔は、いつもどこか申し訳無さそうだ。マスターのお陰で僕は生活が出来ているのだから、何も悪いことはないのに。

 

 

「天海君、行って来なさい」

 

 

「?」

 

 

 どこに?

 

 

「彼は、大切な友人なのだろう?」

 

 

 

 彼?比企谷君のこと?多分そうだ、今話をするということは、きっと僕と彼が会ったのを見たのだろう。

 

 

「…はい」

 

 

「私は君達が本当によく働いてくれる事が嬉しい。だが、こうも思っているんだ。訳があるとしても、こんなところで働かせてよかったのか、と」

 

 

「………」

 

 

「私自ら、彼に話を聞いてきたよ。川崎くんの弟の為にこんな所まで、態々慣れない格好で来たらしい」

 

 

「……………」

 

 

「天海君。……………もし、君が辛い時は――――」

 

 

「マスター」

 

 

「…何だい?」

 

 

「僕は、辞めません」

 

 

「………」

 

 

「ここはこれからも、大切な、僕の、居場所の、1つです」

 

 

 

 覚悟は出来た。川崎さんもきっと比企谷君に事情を話す。そんな中、僕だけがまた逃げるなんてことは、彼にはしたくない。………大切な、大切な友達だから。

 

 

 だから。

 

 

「………少し、行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やれやれ、天海君に喋らせすぎてしまった。私はダメな大人だ、あの子はあんなに人と話すのが苦手だというのに」

 

 

 ふと、自嘲する。自分があの子たちにしてあげられることは一体なんだろうか。話を聞いて、雇って。後は給料を与える。それだけでいいはずがない。それではきっと、彼らを助けたことにはならないのだろう。

 

 

「居場所…………、か」

 

 

 口下手な天海が、静かに、それでも一生懸命に言った言葉。マスターはその言葉を心のなかで唱え続ける。情けない大人の営む店を、居場所と言ってくれる。中々天海君も変わっているな、と呟いた。

 

 

「……この歳になって、悩む時が来るとはね。私も、まだまだ若い、ということか」

 

 

 この後誰にも聞こえないように自分に言った言葉は、決心の言葉。少しでもあの子が救われるように、と彼は願う。ならば、その一部でいい。この店をよりよい居場所にしてみせよう。

 

 

 ホテル・ロイヤルオークラの最上階にあるバーのマスター。彼の顔には、いつも申し訳無さそうな笑みが浮かぶ。それは何を意味しているのか、それは恐らく彼にしか分かることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「なあ、川崎」

 

 

「……何」

 

 

「お前、言ったろ。学費の為にバイトやってるって」

 

 

「それがどうしたのさ」

 

 

「……俺も、そんな時期があったんだよ」

 

 

「え?」

 

 

 目を見開いて驚く川崎。え、何その信じられないみたいな目。普段の態度って大切なのね。

 

 

「…………俺の両親は、あの侵攻の時に死んだ」

 

 

「!?」

 

 

「で、生活をするためにってボーダーに入ったんだよ。あ、この話知ってるのクラスではお前だけな」

 

 

 その話をすると更に驚かれる。秘密だぞ、と言うと、

 

 

「………なんでそんなこと、あたしに話すわけ?」

 

「まあ聞け。俺には世界一可愛い妹がいるんだがな?俺はその妹の為にって思って毎日毎日夜遅くまで働いてたんだよ。そんな日が続いて、もう話す時間も一気に減って。そうこうしてる内に、妹に、家出されちまったんだよ」

 

 

「い、家出って、あんた!」

 

 

「そりゃ後悔したぜ。ああ、なんでもっとこいつの話を聞いてあげられなかったんだろうなって」

 

 

 今思い返しても自責の念ばかりが溢れてくる。マジで馬鹿だったぜ、と俺は自嘲した。川崎は、黙っている。顔も、さっきとは比べ物にならない程覇気がない。自分がそんなことになったら、などと考えているのかもしれない。分かるぜ川崎、誰だってそんな思いはしたくないしな。しかもその下の弟妹の為にと思ってたことが裏目に出るなんて、今まで考えていなかったのだろう。少し身体が震えていた。

 

 

「で、だ」

 

 

 俺はそれを強引に打ち消し、

 

 

「スカラシップって奴、知ってるか?」

 

 

 そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日の放課後、その話をする と言うと、今日は帰ると言う。店長がそれを見届けるのを確認した後、俺は再び前を向く。

 

 

 そこには、学生としてではなく、店員としてでもなく。

 

 俺の友人としての、天海が立っていた。

 

 

「比企谷君」

 

 

「よう」

 

 

「……話は、聞いた」

 

 

「…おう」

 

 

「僕も、比企谷君に話す」

 

 

「…………いいのか?」

 

 

 無言で、天海は首を縦に振った。少し、長くなる。話すのが下手でごめん。そう前置きして、話し始めた。

 

 

「……比企谷君の話。多分それは、僕もそうなっていたかもしれない話」

 

 

「…………」

 

 

「僕の両親も、あの時に死んだ。妹は後遺症が残って、ダメージが殆ど無いのは僕だけだった。妹は後遺症で傷つき続けるから、せめて一人でも生きていけるだけのお金を残そうと思って僕はここで働き始めた」

 

 

「勿論、親のお金はあった。結構裕福な方ではあったから、どちらかというと多い方なんだったと思う。だけどそれは妹の為に置いておいた。僕なんかより生きるのが大変だから」

 

 

 淡々と、天海は語り続けた。

 

 

「それに、両親は妹が何より大切だったから。あの人達はきっとそうするだろうとは思ってた。案の定、ナツの口座には沢山お金があった。でもそれはあの子のものだ。僕が使っていいものじゃない」

 

 

「働き始めてからほとんど経ってないのに、妹にはバレた。家にいないのに、だよ?なんで分かったのか聞いたら、妹だからって答えられた」

 

 

 ああ、なんだか天海の妹と小町は似ているような気がしてきた。もし俺が天海の立場だったとしても小町は

 

 

『あったりまえでしょー?だって小町は、お兄ちゃんの妹なんだから!あっ、今の小町的にポイント高ーい!』

 

 

こんな事を言うに違いない。いや、むしろ言ってほしいまである。小町、小町、聞こえますか…………?言うのです、今すぐに兄に、今の言葉を…………

 

 

『え、何言ってるのお兄ちゃん。そうやって催促するの、ポイント低いよ』

 

 

 ごめん。 ………あれ?なんで通じたんだ?

 

 

 

 

 って駄目だ駄目だ。天海の話を聞かないと。

 

 

「ナツにはこう言われた。『絶対に無茶しないで』って。私のせいでごめんねって。僕は一回もそんなこと思ったことがないのに。………いい、妹でしょ?」

 

 

「……認めてやる。小町の次によく出来た妹だろうな」

 

 

「? 何言ってるの比企谷君。ナツが世界一だよ」

 

 

「は?」

 

「ん?」

 

 

 シリアスな話のはずなのにいつの間にかシスコン決定戦になっていたでござる。雰囲気が台無しになってしまったが、俺は悪くない。天海も悪くない。妹が可愛いのが悪い(確信)

 

 

「ここのマスターは、そういった訳ありの人間を雇ってくれた。僕が働いている理由はお金稼ぎと、マスターへの恩返し。きっと大人になるまでは返しきれないと思うけど」

 

 

「……そうか。ま、似たようなことを俺がやってんだ、お前の妹に頼まれたのならともかく、そうでないのなら俺は止めねえよ」

 

 

 これは紛れも無い本心だ。天海も川崎も、他の誰かのためにここで働いている。同じことをしてきた俺が、こいつらを止める理由はない。

 

 

 そんなことを考えていた俺は、その後の攻撃から実を守ることが出来なかった。

 

 

「…………比企谷君」

 

 

「あ?」

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 ふわっと。初めて見た天海の笑み。笑っていることを表現するときに口の両端を持ち上げていたものとは違う、自然な笑顔。天海との出会い。男にしては高い声。戸塚との出会い。これまた声変わりをしていないような高い声。戸塚の笑顔。何度見惚れたことか。この二人にどうにも弱い俺が、今まで見たことのない天海の笑顔を見て。

 

 

 見惚れない筈が、無かった。

 

 

 

 

 

 男でッ……………!本当に天海が男で良かった…………!もしこれが女なら、瞬間で惚れて告白して振られるのは確実っ………!振られちゃうのかよ。あれ、でも前天海、結婚したいって口滑らせた時に「する?」とかなんとか言ってたよな。これもしかしていけるんじゃね?

 

 

「………あ…、……」

 

 

「じゃ、また。……貴方が友達で、良かった」

 

 

「あ……………………おう」

 

 

 その笑みを浮かべたまま、天海はフロアを出て行った。しかし、俺がこの後立ち直って悶絶するのには数分を要し。

 

 

 

 

 

 ………天海を見た客が解凍されるのには、より長い時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝。

 

 

『俺じゃ、きっと今の姉ちゃんに言葉は届かないと思うんです。だけど、少しでも話を聞いてくれるなら、俺は俺の思っていることを全部、姉ちゃんに話そうと思ってるっす。お兄さん、どうかその場を作ってもらえませんか?』

 

 

 

 大志から受けた依頼はこのようなものだった。だから当然、

 

 

「………姉ちゃん」

 

 

「……大志」

 

 

 ここには大志がいる。

 

 

 

 

 

 

 お互い押し黙る。そんな中、先に口を開いたのは大志の方だった。

 

 

「姉ちゃん」

 

 

「……何、あたしは別に、アンタに話すような事は何も――――」

 

 

「ごめん」

 

 

「え?」

 

 

 突然の謝罪に、川崎は少し面食らったような顔をしている。また問いつめられるとでも思っていたかは知らないが、突き放そうとしている言葉はその謝罪で中断された。恐らく、昨日の俺の話が頭の中に残っているのだろう、その後は一旦、話を聞くそぶりを見せた。それを見た大志は、言葉を紡ぐ。

 

 

「俺……、姉ちゃんの事何も分からなくて、どんどん姉ちゃんが変わっていくのが、怖くて。………俺の、ためだったんだな」

 

 

「!? 比企谷、アンタ!」

 

 

「お兄さんは関係ない!」

 

 

 おい、だからお兄さんって呼ぶな。という言葉が口からでかけたが、そんなことを言うほど俺は空気を読めないわけではない。むしろ俺自身が空気になってるまである。場の雰囲気に適応しつつ何を言わずに過ごす俺のぼっちスキルに死角はない。心の汗が出そうになる。というか出しそうになった。俺って実はセルフMだったりするの?

 

 

「お兄さんには、俺が頼んだんだ。俺が姉ちゃんと話すチャンスを作ってくれって。姉ちゃんが働かなくても済むような方法も、お兄さんが考えてくれた」

 

 

「…………」

 

 

「俺が、塾に行くなんて言ったせいで、姉ちゃんばっかりが辛い思いをして………本当に、ごめん!俺の、俺のせいで!」

 

 

「違う!アンタが塾に行きたいのは知ってた!あたしは、アンタが頑張ってるのも知ってる!だから!」

 

 

 互いの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。お互い伝えたい事があって、だけどそれを伝えられなくて。色々な感情があるのだろう、少しずつ、目の端に浮かぶ涙の粒は大きくなっていった。

 

 

「だけど、もういいんだ姉ちゃん。俺の為に、そんなことをしてくれなくても…。俺、一人でも頑張れるよ。姉ちゃんも、自分の目指したい、本当にやりたいことをやってくれよ」

 

 

「大………志?あんた、何言って………………」

 

 

「お兄さんが、スカラシップ制度っていうのを教えてくれたんだ。姉ちゃんの成績が良ければ、予備校の分のお金を学校側から出してくれるんだって」

 

 

「え?じゃあ…」

 

 

 でも、と大志は首を横に振る。

 

 

「一学期の成績が確定するまでは、その制度は使えないんだってさ。だから……………これ」

 

 

 そう言って川崎に出したのは封筒。恐る恐る川崎が中を確認すると、そこには、予備校に通うには十分な金が入っていた。俺もこのような事は予想しておらず、思わず大志の顔を見る。その顔には覚悟が現れていた。

 

 

 余談だが、天海といるようになってから、俺の表情の読心スキルは大幅にレベルアップした。天海以外の殆どの人間が相手なら、見ただけで感情が鮮明に確認できる。あっ、例外に奈良坂も追加で。あいつも大概能面面だった。

 

 

「姉ちゃん、裏切るようなことをしてごめん。だけど、俺と違って姉ちゃんのほうが大変なんだ」

 

 

「なっ…これ……!?裏切るって……………?」

 

 

「俺さ、塾…やめたんだ」

 

 

「なっ!?」

 

 

「何だと?」

 

 

 思わず声に出してしまったが、驚かずにはいられない。こいつ、俺がスカラシップ制度の紙を渡した時にもの凄く真剣に目を通していたが、それはスカラシップの適用日を探していたのかもしれない。それなら納得がいく。いくのだが、それじゃあ大志は…………?

 

 

「姉ちゃん、そんな顔すんなよ!」

 

 

「だって、だってあんた、何考えてるのさ!塾に行きたいんじゃなかったの!?目指してるものがあったんじゃないの!?」

 

 

「別に塾に行かなくても受験勉強は出来るし、それに俺、」

 

 

 一応学年トップだし、と大志が………え?

 

 

「大志、お前それマジ?」

 

 

「マジっすよ。比企谷さんには国語を教えたりとかしてました」

 

 

 そう言えば、最近目に見えてあいつの国語の成績が上がっていた気がする。相変わらず偏差値が低そうな雑誌や言動をしているものの、試験の点数は上がり続けていた。

 つーことはまじかよ。こいつ勉強もできるとか、優秀じゃねえか。とっとと解決して、大志と小町を引き離すという第二の計画がパアに………って大志は塾やめたのか。結果オーライなのだが、なんだか負けた気分になった。これが若さか………

 

 

「大志………」

 

 

「もうさ、無理することないんだよ。今までありがとう。もう、姉ちゃんが重荷を背負う必要はないんだ。だからさ、一緒に帰ろう?」

 

 

「……バカ、バカだよあんた………。こんな、こんな姉の為にここまでしてさ………」

 

 

 川崎は、もう堪え切れなくなったのか、涙を流し始めた。対する大志の方は、涙こそまた浮かべているものの、どこかスッキリとした顔だった。

 

 

「お兄さん、本当にありがとうございました。きっと、お兄さんに頼まなかったら俺は勇気が出なかったと思うっす。お礼は、いつかきっとします!」

 

 

「別に構わねえよ。俺がやりたくてやったことだ、お前に頼まれたとしてもやったのは俺の意思だしな。さて、俺はもう帰るぞ」

 

 

「はい。……比企谷さんにも、お礼を言っておいて下さい」

 

 

 バカだなお前。

 

 

「そういうのは直接伝えるもんだ。今回だけはお前のそのアホみたいな勇気に免じて許してやる」

 

 

「あ、あはははは………ありがとうございます」

 

 

「だが!!いいか大志、よく聞いておけよ?俺は、そこらへんの馬の骨に小町をやるつもりはひとっつもない!もし、もしだ、お前が小町を狙っているのなら諦めろ!!!!」

 

 

「…………馬の骨じゃなけりゃいいんすね」

 

 

「あ?」

 

 

「いえ、何でも。お金、払っとくっす。せめてものお礼ってことで!」

 

 

「……それくらいなら、いいだろう」

 

 

 なんか俺、今回どうしてしまったんだろうね。慣れないことガンガンやったせいか、超疲れた。あー、でも今日防衛任務じゃねえか。しゃーない、本部でちょっと仮眠でもするか。

 

 

「………比企谷」

 

 

「なんだよ」

 

 

 今度は姉の方に呼び止められた。早く俺寝たいんだけど。

 

 

「その、さ。…………………ありがと」

 

 

「弟に言ってやれ」

 

 

「あ……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、とっとと退散しよう。サラダバー!じゃなかった、サラバダー! ああ疲れた、もうらしくないことをするのは御免だ。じゃあ俺、ギャラ(コーヒー代)貰って帰るから………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「………姉ちゃん、俺、強くなるよ」

 

 

 今まで俺は、姉ちゃんに守られてばかりだった。だから今度は、俺が守れるようになろう。強くなるんだ。お兄さんが比企谷さんを守っているように、俺だってこれくらいやらなきゃな。

 

 

 今しがた書いた用紙を、封筒に入れる。そして宛先を書いて封を閉じた。

 

 

『ボーダー入隊試験 受付 様

 

 

 

 

 

                     川崎 大志』




ぬわ疲 こんなシリアス書くと思ってませんでした。というか自分で書いててなんですが、ちょっと大志君イケメン過ぎませんかね?あとマスターの心境書くとも思ってなかった。勢いとノリだけで書いておりますがこれからもよろしくお願いします。


 ちなみに私は大志推しなので、この作品の大志は主人公やれるくらいのスーパー大志にする予定です。お楽しみに………する人は居るのだろうか。
 あっ、次のお話はまた前みたいなコメディ強めになると思いたいです。シリアス辛い、シリアル食べたい。


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元ネタ

・家政婦でもないがミテしまった
私はドラマ未視聴です。



今回はネタ少なめ。ではでは。
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