二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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燃えろぼくらの初投稿 時を飛び越え いつも助けてくれるよ 風にその名を呼んだなら

 前のお話を見てくださった方々、有難うございます。どんどんと原作からかけ離れていっていますが仕様です。前回、由比ヶ浜の下りをしっかりと入れ忘れていました。そのため、今回はそこから始めることができたら、と。

 ちなみに、この話を書くときの作業用BGMは「F91ガンダム出撃」です。


前回のあらすじ。

・逃れられないボーダー見学。なおバレなかった模様

・カミーユ・ハチマン

・神!天使!天海!


あってる。でもカミーユ・ハチマンって語呂良くないなあ。


それでは第十九話、どうぞ。




終わる関係、始まる関係。比企谷八幡は未だ変わらない。

 ――突然の出来事だった。「放課後、少し校舎裏に来て」と由比ヶ浜に言われた時、「あっ、これあれだわ。罰ゲーム告白だわ。しょうがねえな、傷つかない振り方でもってそんな技術無かった。どうすっかなー俺もなー」とか考えながら授業を受けていた。

 そして放課後。頭を悩ませながら向かった先に彼女から言われた一言は、

 

 

「ごめんね」

 

 

 というものだった。以上、回想終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 

 

「俺お前に何もされてないんだけど」

 

 

「あのね、実は――――」

 

 

 

 

「ヒッキーが去年、助けた犬の飼い主……あたしなんだ」

 

 

「あたしがもっとしっかりしてたら、ヒッキーはきっとこんなんじゃなかった!きっと、クラスにだってもう少しは……」

 

 

「阿呆」

 

 

「ほえ?」

 

 

「別に誰の犬だとかは関係ない。俺がやりたくてやったんだから責任は全て俺にある。大体、あの事故がなくたって俺はぼっちだったよ。だからお前が気に病む必要なんざ全く無い。……今まで俺に話しかけてたのは、その罪滅ぼしってやつか?悪いな、気を遣わせてたみたいで。でも、もう気にしなくていい。おれが気にしてないからな。もし、気を遣っているのなら今すぐやめろ――」

 

 

 拒絶の言葉は、途中で消えた。だがその言葉は確かに由比ヶ浜に届いたらしい。

 

 

「……違う、違うよ!あたしはずっとヒッキーに謝りたかった。だけど、それよりもずっと仲良くなりたかった!!いつも一人で過ごしてて、昼休憩にはフラッと消えちゃって……そん、なんじゃ、ない……あたしはっ、ただ……っ!」

 

 

 

 

 

 優しさは嘘だ。いつだって期待させて、いつも勘違いして、結局失敗して。いつからか希望を持つのはやめた。俺のように訓練されたぼっちは二度も同じ手に引っかかったりすることはない。百戦錬磨の強者であり敗者、負けることに関しては俺が最強。だから、いつまでも優しい女の子は嫌い………になるはずだった。

 

 

 だが。

 

 

『あはは、比企谷何言ってるの!?超ウケる!」

 

 

『八幡…………八幡? 八幡!』

 

 

『比企谷君、…………ありがとう』

 

 

 いつの間にか、身の回りに優しい女の子が増えすぎてしまった。折本。戸塚。天海。多分、今でも優しい女の子は俺は嫌いなのだろう。あいつらは無条件で優しさを振りまいてこちらを混乱させる悪魔だ。きっと俺よりもずっと悪どいだろう。だがしかし、駄菓子か……これ前やったからキャンセル。正直、由比ヶ浜は別に優しい訳じゃないと思う。

 

 

 

 無条件に優しさを振りまく人間は、恐らく誰よりも疑り深いのだろう。だからこそ人に優しくし、自分が一人にならないように、敵を作られることがないようにする。それは確かに友人関係を作る上で大事なことではあるのかもしれない。が、俺からすればその方法は残酷以外の何物でもない。薄い関係を他人に望み、そこから近寄らせないし近寄らない。上辺だけの関係。

 

 

 そんなやり方じゃ、本物なんて…………絶対に出来ることはない。なら、そんな偽物はいらない。

 

 

 だから俺は由比ヶ浜を拒絶する。

 

 

 

 

 

 ……ハズなんだが、どうにもやる気が起きない。もし仮にそれをしたとして、前述した三人に伝わったとしよう。

 

 

 

『比企谷、それはウケない。ウケないよ』

 

 

『八幡、あの子は八幡と居る時はいつも楽しそうに――」

 

 

『比企谷君、それはない』

 

 

 女の子たち、うん、全員女子だな!あいつらににどやされる未来しか見えなかった。性格は結構捏造。だが一度言葉は口に出してしまった。出した言葉は決して戻ることはない。由比ヶ浜が泣きながら去っていくのを見届けた後、1つ溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボーダー本部へと自転車を走らせる。もうランク戦なんてしたくない。適当に負けて微妙にポイント残したまんまひっそりと任務をしたい。だって俺、体育会系じゃないし。今持ってるポイントだって加古さんとかにほぼ命令されたような形で戦ってなんとか勝っただけだしだ。決闘?アホじゃねえの、戦いは数だよ兄貴。近界民、まあモールモッドやバムスターってなんだかんだで賢くはないだろ?で、俺も戦いたくない。だけど儲けたい。お金は大事だからな。だから、ああいう奴らはいいんだよ。もう防衛任務専として過ごすことにする。

 

 

「比企谷先輩、昨日言った戦術の件なんですけど……」

 

 

 だがしかし現実は情け無用。J9J9…… アウトローも震えだしそう。昨日に分かった、と返した手前、断るのは申し訳ないのだが。

 

 

「つか俺、お前より弱いじゃん」

 

 

 対双葉との成績。28戦中6勝22敗。だってA級だよこの子?勝ち越せるわけないんだよなあ。能力的にとかそんな問題じゃなくて、対人戦やった経験の差が大きすぎるしな。たまーに模擬戦やら何やらで技術を見てもらうことはあるものの、もうランク戦には殆ど顔を出していない。する必要性がないことを態々するのは無駄だ。俺は効率主義だ、スムーズに、楽に、稼ぐために如何に早く近界民を倒すかを考える。弱点やそこに攻撃を当てる角度、そこまでは考えないが、兎に角最速を目指している。弾幕はパワーだブレインだとか意見が割れているが俺はもう半々で良くね?としか思わない。変な派閥争いに関わる暇などない。きのこの山とたけのこの里で勝負させるようなものだ。せっかくだから俺はこの小枝を選ぶぜ!

 

 

「比企谷先輩、いっつも面倒な動きしてくるので」

 

 

「俺は正々堂々が一番キライなんだよ」

 

 

「だからお願いしてるんです」

 

 

「友達減るぞ」

 

 

「えっ、じゃあどうしようかな」

 

 

「悩むのか……」

 

 

 別にボーダーに友達と呼べる人間はいないから今更嫌われたところで影響はない。仕事の同僚、先輩、後輩。そんなもんだろ。

 

 

「ボヤボヤしてる奴に後ろからバッサリしたいと」

 

 

「はい」

 

 

 まるで荒れ放題の世の中だ。たまらないなハニハニ。ハニハニって何だよ。

 

 

「気配を消すことについてだけは教えられる。技術は俺のほうが知りたいくらいだ」

 

 

「気配を消せるって凄いと思うんですけど」

 

 

「ぼっちの基本スキルなんだが」

 

 

「基本…!?」

 

 

 えっ、違うの天海?当たり前?だよなぁ。

 

 

 

「まず自分は空気だと暗示をかける」

 

 

「そんなこといつもしてるんですね……」

 

 

「……うるさい」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 今日も勿論ボーダー本部へ。スコーピオンのポイントも溜まってきた。というか訓練と対戦で4000を超えた。今は戦闘体の時の服をデザインしてもらってる最中。B級に上がれば解禁されるトリガーの量が一気に増える。任務でお金ももらえる。一石二鳥。派閥がどう、という話も聞くが、どうでもいい。近界民は皆殺しだとか言ってる人は大変だろうし、友達になろうと言ってる人は(さっきの派閥の人の)説得が大変だろうし。町の安全が第一と言ってる人も対応とか大変だろうし。ろくなもんじゃない。

 

 

 だけど、どうしよう。なったところで比企谷君みたいに最低限のコミュニケーションすら取れるような気がしない。

 

 

 と、デザインが終わった。僕の服は黒いアンダーシャツに白地のTシャツ、灰色のパーカーに青いジーンズ。なんとなくで決めてしまったけれど、あんまり後悔はしていない。私服、分からないし適当でいい。

 

 

 そう言えば、あの比企谷君にも師匠が居るらしい。あの、彼でさえ。きっとそうしないとお金は稼ぎにくいのだろう。技術を高めればそれだけ倒す量は増える、単純な事だ。

 

 

 ――――ふと、ある戦いが目についた。……これ、やっぱり欲しい。終わった後、彼に近づく。

 

 

「こんにちは」

 

 

「あれ、天海先輩。どうしました?」

 

 

「緑川君、僕を弟子にしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………へ?」

 

 

 きょとんとした顔をされた。?

 

 

 緑川君は、僕がC級隊員でランク戦をしている時に偶然出会った子。色々あって戦って、負けた……んだけど。何故かそこから敬語を使われるようになった。初めての時は偉そうだったのに。変なの。

 

 

「ダメ?」

 

 

「いやいやいや、そうじゃなくて!いきなりそんなことを言われても反応しきれませんよ!取り敢えず頭、頭上げて下さい!」

 

 

「ん」

 

 

 オホン、と緑川君が場を整えて、改めて話題に戻る。

 

 

「えっと、まず理由をですね、聞きたいなって」

 

 

「ん。……まず、僕はB級隊員になった」

 

 

「あ、ホントだ」

 

 

「僕の使ってるトリガーは、スコーピオン」

 

 

「そうですね」

 

 

「緑川くんが使ってるのも、スコーピオン」

 

 

「まあ、そうですね」

 

 

「お願いします」

 

 

「……どうしてこうなった」

 

 

「? ……だって、緑川くんは僕より強い」

 

 

「……結果的には」

 

 

「だから、師匠」

 

 

「……ああ、もう!俺が聞きたかったのは!風間先輩とか菊地原先輩でも良かったじゃんって話ですよ!」

 

 

 ああ、成程。本題を先に言うのは不味かったのか。

 

 

「緑川君のグラスホッパーの技術を教えてほしい」

 

 

「!」

 

 

「……具体的に言うと、あの高速移動。あれ」

 

 

「……成程、そういうことですか」

 

 

 うーん、と顎に手を当てて考え始める。あれはもしかしたら、機密事項だったのだろうか。

 

 

「いいですよ」

 

 

「! ……ありがとう」

 

 

「しかぁし!」

 

 

「?」

 

 

「条件があります……。これから、俺のことは駿君、もしくは師匠と呼ぶように!!」

 

 

 会心のドヤ顔。比企谷君なら心のなかできっと腹をたてる程度のドヤ顔。……いや、

 

 

「いいよ」

 

 

「えっ」

 

 

「?」

 

 

「そんなに簡単に決めちゃっていいんですか?」

 

 

「ん」

 

 

「あっはい……」

 

 

 

 

 疲れるなあ、と溜息をつく緑川くん、もとい師匠。今度からは敬語、かな?

 

 

 取り敢えず、師匠がつきました。あれ、

 

 

『なあ、天海。気配を消すって、ぼっちの基本スキルだよな』

 

 

 なんかきた。比企谷君の声。…………取り敢えず、

 

 

『当たり前』

 

 

 と返しておいた。ぼっちスキルとかはよくわからないけど、他人と関わらないようにするためには気配を消すのは必要な技術。

 でも今の、なんだったんだろう。幻聴?

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 一週間後。昇降口で見事に由比ヶ浜と出くわした。

 

 

「うす」

 

 

 と挨拶してみる。

 

 

「うん…」

 

 

 と視線を合わせずに言った後、小走りで階段を登り始めていった。ふむ。

 

 

 

 よし、俺は今日も俺だ。昨日はちょっとアレだったが完全にリセット。アレってのはアレだよアレ。

 

 

 お互いの関係性をリセットする事で俺は心の平穏を取り戻すことができるだけでなく、由比ヶ浜は負い目から解放され元のリア充ライフへと戻れる。

何も選択肢として間違っちゃいないはずだ。いや、むしろ正しい。だから、この件はこれで終わりだ。

 お互いにリセットしてまたお互いの日常を過ごせばいい。人生はリセットできないが、人間関係はリセットできる。社会はそういうふうに出来ている。

ちなみにソースは俺。中学の同級生とか一人も連絡とってな…いことなかった。折本とかいう奴がいたわ、もうデリートしてもいいかな?

 つっても一人だけだ。リセットやデリートどころかそもそも他の人間とそこまで関わってない。つまり俺のぼっち歴は小学校から続いていたのであり、総武高校の中でもトップクラスのぼっちだと言えるだろう。

 

 

 放課後。今日も由比ヶ浜は最後まで来ることは無かった。

 

 

「……今日も、来なかったわね」

 

 

「……ああ」

 

 

「比企谷君、貴方由比ヶ浜さんを脅したでしょう」

 

 

「その発想が初めに出てくるのが凄いと思うぞ、俺は」

 

 

 脅した?いや、あれは脅しではない。俺がボーダー本部で築いている関係のように、俺も由比ヶ浜もただ同じ部活の人間という関係に戻しただけだ。たとえ過去に何かがあったとしてもそれはもう過ぎた事。その事を引きずってズルズルと関係を続けるのは、ただの同情だ。

 

 

「もう、来ないつもりなのかしら」

 

 

「さあな。聞いてみたらいいじゃねえか。アイツの行動はアイツにしか制御できんだろ」

 

 

「確かにその通りよ。でも、もし私が聞いたら彼女は必ず来るわ。原因が貴方だった、としても」

 

 

「…………」

 

 

 あんまり否定出来なかったりするのが少し腹立つ。というかなんでそこまで分かるんですかね。

 

 

「エスパーですから」

 

 

「あ、そうなのか」

 

 

「嘘よ」

 

 

「知ってる」

 

 

 

 

 

 

 あれ?なんか今二宮さんの時と同じ感覚あったんだけど。

 

 

「……何かあったのね」

 

 

「……」

 

 

「何もねえよ。そもそもアイツと俺は喧嘩するほど仲良くなかっただろ」

 

 

「喧嘩でない。……なら、軋轢?」

 

 

「……まぁ、間違っちゃいないな。多分」

 

 

「なら、すれ違い、かしら」

 

 

 すれ違い、ねえ。俺と由比ヶ浜の中で認識の相違があった。と。

 

 

 

 

 

 ……割とあり得ると思ってしまった。だって由比ヶ浜と俺だし。てなわけで

 

 

「そんなとこじゃねえの」

 

 

 と返しておいた。

 

 

「……由比ヶ浜さんは」

 

 

「あ?」

 

 

「遠慮知らずで、すぐ人に抱きついてきて、(2つの意味で)慎みもなくて」

 

 

「お、おう」

 

 

 懐かしむ顔をしたかと思えば唐突な由比ヶ浜dis。慎みがない、あっ……その点雪ノ下は2つの意味で慎ましごめんなさい、そんな睨まないで。今なら蛇に睨まれたカエルの気持ちがわかる。 \ピコーン!/ サイドワインダー! カエルは死ぬ。フルーレでサイドワインダーが使えるの凄いよな。

 

 

「……でも、私は嫌いじゃなかったわ」

 

 

「…そうか」

 

 

 どうやら雪ノ下にも、ようやく友人に近い奴ができていたようだ。なら、俺は?天海は?戸塚は?由比ヶ浜の一体何なのだろうか。同級生、友達、知り合い…………今のところ、答えは全く出てこない。

 

 

「「………………………」」

 

 

 お互いに無言が続く。その為、少しだけ聞こえてくる忍び足にも、お互い気がついてしまった。静かに椅子から立ち上がり、持っていた文庫を構える。

 

 

 

 

 ガラガラガラッ

 

 

「ふふふふ、どうやら気落ちをしているようだn」

 

 

「呪文、デーモンハンド!」

 

 

 そう言いながら文庫の角を侵入者へと振り下ろす。だが、その攻撃は呆気無く止められた。

 

 

「甘いな比企谷……私は、『アクア・ソルジャー』なのだよ」

 

 

「……ちっ」

 

 

 3マナのアレな。

 

 

「由比ヶ浜が来なくなって一週間。私は今日来なければ、彼女を退部させる予定だった」

 

 

 先生は続ける。しかし、なんだかんだ三人で回っていたのも事実であり、これに関してはなるべく早くに人員を補充する必要がある とのこと。俺も雪ノ下も、とりあえず了承すると、平塚先生は白衣を翻して去っていった。はじめの忍び足いる?帰る時カッコ良かったけど入る時で台無しだった。

 

 

 ……今まで、小さな依頼などもあったが、聞き役はだいたい、というか殆ど全て由比ヶ浜が担当していた。カースト上位にいるためか顔が広く、ぼっち二人よりもずうっと事情を聞くのにも適している。受付役としてはこれ以上はなかなかないだろう、とも言える人間だ。それの代わり。

 

 

「人員補充ねぇ……」

 

 

「私に一人、心当たりがあるわ」

 

 

「それは本当か!?いやまて、お前の言いたいことはよく分かる。相談役になれて顔もそこそこ広く、尚且つある程度看板もこなせる……つまりは戸塚だ!そうだろ?」

 

 

「貴方は暴走しないで頂戴。それに戸塚君はテニス部、わざわざこちらに来るとは思えないわ」

 

 

「くっ……なら、天海は」

 

 

「ないわね」

 

 

「ないな」

 

 

 自分で言っておいてあれだが、受付役に天海はない。顔だけならいいが、アイツの話し方はかなり変わっている。あいつが相談役をこなせるか、想像してみる。

 

 

 

 

 

 ……無理だった。

 

 

「じゃあ一体」

 

 

「由比ヶ浜さんよ」

 

 

「……あいつはもう退部だろ」

 

 

「別に再入部させてはいけないとは一言も言われていないわ」

 

 

「……あ、そ」

 

 

 負けた気分になる。口喧嘩で負けると、暴力や試合で負けるより悔しい気がするのは気のせいだろうか。暴力の喧嘩なんかしたことはないが。

 

 

「……話は変わるのだけれど。貴方、6月18日が何の日かは知っているかしら?」

 

 

「調べたことないから知らん」

 

 

MU嫌、つまりダウンフォール作戦の日だろうか。絶対違う。

 

 

「この日は由比ヶ浜さんの誕生日なの」

 

 

「ふーん」

 

 

 ……さっきから由比ヶ浜由比ヶ浜と、雪ノ下はそればかり言っている。……もしかして、もしかしたらアレか、雪ノ下が由比ヶ浜の事を…………やめておこう、何故か俺の左側から殺気が飛んできた。

 

 

「それ、でね」

 

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しの間。いつまでたっても何もしゃべらないので雪ノ下の方を向くと、少し頬を赤らめながら。

 

 

「……その、付き合って、もらえないかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 

     *

 

 

 

「……まあ、そんなこったろうとは思ったよ」

 

 

週末。俺たちは今、一番大きなショッピングモールモッド、じゃなくてショッピングモールに来ている。金に目がくらみすぎているのかもしれない、自重。

 

 

「いやー、はっじめまして雪ノ下さん!いつも兄がご迷惑をお掛けしております!」

 

 

「いえ、彼の性格を踏まえると仕方のないことよ」

 

 

(お前らなんでそうやってすぐ俺のことdisるわけ?聞こえてるからな?いいぞ、泣くぞ? あと雪ノ下、お前普段話したことのない人間相手の時は敬語じゃねえか。なんで小町の時は違うんだよ)

 

 

 色々と言われているが、今はそんな場合ではない。俺はこんな衆人環境で長居などしたくないのだ、とっとと一人で回って……

 

 

「何一人で行こうとしてるの!?」

 

 

 ちっ、バレたか。我が妹め、流石にやるな。だが、俺の返答は既に完璧、他社の入る余地などありはしない!

 

 

「各自で回ったほうが早いだろ。連絡だって取り合えるんだから」

 

 

 ヌルフフフ。笑い方間違えた。クッフッフ、これも違う。クックック……これだよこれ。

この後の予定まで視野に入れた兄の作戦は完璧なのだ。

 

 

「甘いよお兄ちゃん」

 

 

「何だと?」

 

 

「フッフッフ。お兄ちゃんがそんな返し方をするのは小町は分かっていました。あっ今の小町的にポイント高い! そこで!不肖ながら私小町、誕生日プレゼントにピッタリのフロアを既にチェックしているのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 そう、今俺たちは由比ヶ浜の誕生日プレゼントを(雪ノ下の依頼で)買いに来ている。決して俺が買いたいわけではない。仕方ないから買ってやるだけだ。ツンデレでは決してない。

 

 

 そして、その問いについては

 

 

「いや、他のとこにもいいものあるかもしれないからな」

 

 

 これで終了する。これで正式に俺がぼっちで活動する名目が出来た。じゃあ俺は行くわ、と後ろ手に手を振り、振り向きもせずに歩いて行く。やだ、今の俺超クール。比企谷八幡はクールに去る…………ん、足音?

 

 

「お兄ちゃん!!!」

 

 

「あ?どうした小町。一人は不安か?仕方ない、お前なら一緒に行っても……」

 

 

「何キモイこと言ってるのお兄ちゃん!ここは普通雪乃さんをさり気なくエスコートする所でしょうが!!そんなんだからいつまでたっても彼女いない歴=年齢なんだよ!!」

 

 

「なんでお前にそんな事言われなくちゃならないんだよ……」

 

 

「雪乃さんいいじゃん、超美人じゃん!是非、是非お義姉ちゃん候補に!」

 

 

「お前は何を言っている」

 

 

「と、に、か、く! お兄ちゃんはしっかり雪乃さんと一緒に行動すること!さもないと――――」

 

 

「……なんだよ」

 

 

「プリキュアの録画を消」

 

 

「悪い、行こうぜ雪ノ下!」

 

 

「うわぁ、お兄ちゃんやっぱりそういうとこキモいよ……」

 

 

 

 

 そんなわけで。三人で回ることになりました。そう、回る予定だった。

 

 

『ごっめーん、小町途中で友達と遭遇しちゃって!きっと二人なら大丈夫だよね、小町はお友達とプレゼントを探すことにするのでお兄ちゃん達はゆっっっっっくりと二人で回っておいてください☆』

 

 

 ふざけたメールが来るまでは。

 

 

 

「……仕方ないわね、ほら」

 

 

「ほら、って言われても」

 

 

 

 ……ここ、女性服売り場なんだが。

 

 

「俺外で待ってていいか?」

 

 

「ダメよ。私は……こういうものの選び方が分からないの。妹がいる貴方なら多少はなんとかなるでしょう?」

 

 

「あいつの服を買ってるわけじゃねえからな?」

 

 

 買っていいなら買うけど。大抵はお願いされて渡してってパターン。一緒には連れて行ってくれない。別に興味もないし気にしたことはないが。

 

 

「まあ、でも店の中入れないしなあ…」

 

 

「……この際仕方がないわ。あまり距離をあけないようにしてちょうだい」

 

 

「は?距離?」

 

 

 雪ノ下、お前は一体何を言っているんだ。

 

 

「言わなければわからないの?貴方ね、ただ空気を吸って吐くだけしか

   できないなら、エアコンのほうがよほど優秀よ。最近のものはセンサーまでついているらしいもの」

 

確かに…空気読む機能とかもあれば超便利だな。雰囲気に合わせて設定温度を変えてくれるエアコン。なにそれ欲しい。使わないけど。

で、結局雪ノ下の目的はこのようなものだった。

 

 

「つまり、今日一日に限り、恋人のように振る舞うことを許可する…ということよ」

 

 

 それならさっき店員に怪しまれた俺が少しは救われるのだろうか。ない。

 

 

「すげぇ上から目線だな」

 

 

「何か不満でも?」

 

 

「不満はねぇよ」

 

 

「そ、そう…。」

 

 

 だってお前基本的に嘘つかないし。この前部室でエスパーとかいう冗談は言ってたけど、こんな場で嘘をつくような人間ではない。だから驚くこともないし、勘違いすることもない。

 

 

「つか、別にお前がこれ と思ったものでいいじゃねえか」

 

 

「……私、材質とか丈夫さとかのほうを見てしまうのよ。長く着られそうか、とかで選んでしまうの」

 

 

「……難儀だな」

 

 

「……これについては悪いと思っているわ。それに……」

 

 

 と、更に雪ノ下の表情は曇る。

 

 

「私、由比ヶ浜さんの事を何も知らなかったのね。彼女の好きなものだとか、好きなことだとか……いえ、知ろうとしなかったのかもしれないわ」

 

 

 ……それが悪いかどうかは俺には判断できないが、自分で悪いと思っているなら自覚があるだけマシだな。それに、

 

 

「別に知っている必要なんてないだろ」

 

 

「…どういうことかしら?」

 

 

「変に知ったかぶりして酷いもん渡すよりは、素直に渡したいもの選んだほうがマシだってことだよ」

 

 

 これ好きなんだよね?とか言ってジョー○アの微糖を渡してきた奴、あいつだけは絶対に許すことがないだろう。

 

 

「……まあ、確かにそうね」

 

 

 と、一応納得してくれたようだ。気を取り直してフロアを回る。

 

 

「比企谷君、これはどうかしら?」

 

 

「ん?…………」

 

 

 雪ノ下が俺に見せたのは黒いエプロン。確かに似合っている、似合ってはいるが……。

 

 

「アイツならもっと偏差値の低そうなエプロンの方がいいだろ。こういうフリルがついたやつとか」

 

 

 我ながら中々酷いことを言う。だが、それ以外に瞬間で思い浮かぶ比喩が無かった。

 

 

「貴方が由比ヶ浜さんを馬鹿にしているのは分かったわ。……否定はできないけれど」

 

 

 それに、雪ノ下も大概だしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で誕生日プレゼント選び終了。いつの間にか自分用のエプロンまで購入していた雪ノ下だが、柄は教えてくれなかった。その上ものすごく罵倒された。いや、柄聞いただけだろ……。

 

 

 はぁ、疲れた。コイツと話すと変に言葉を選ばなきゃすぐ馬鹿にされるからな、別にMでもないので自分から馬鹿にされに行くヘマはしない。……あれ、雪ノ下がいない。

 

 

 

 

 

……と思ったら、クレーンゲームに張り付いていた。珍しい光景。まるで玩具を羨ましげに見る子供だ。いや、一応俺ら未成年だけど、もう子供って歳でもないし?誰に言い訳してんだよ。

 

 

「……お前、それ好きなの?」

 

 

「…………ええ。このキャラクターだけは、私にとって特別なの」

 

 

 目の前にあるのはパンダのパンさん。目つきの悪い、何故こんなものが人気なのかと疑いたくなるような柄の悪い顔。そんなパンさんは、どうやらこいつにとっては特別らしい。

 

 

「……はぁ」

 

 

「どうしたのかしら?」

 

 

 こんな所で無駄に使いたくはないんだが。

 

 

 目を閉じて、脳を働かせる。いつもより早く、念じながら集中。すると、UFOキャッチャーのアームの力の強さ、それによる最短試行回数など、様々な情報が頭の中に広がっていく。

 

 

 昔から、何かに集中すると周りの音が聞こえなくなった。お陰で本を読んでいたら全く親の声が聞こえず怒られたことは数えきれないくらいある。そんな中、ある推理小説における推理シーンがあった。ふと気まぐれに俺も、と考え始めると、ぽんぽんと犯人の確率や存在しそうな動機、使った可能性のあるトリックなど、滝のように情報が流れてきて、頭痛が止まらなくなった事があった。

 

 

 これが俺の、後にサイドエフェクトと呼ばれる能力。つっても、分割思考の幅がアホみたいに広がるってだけで、迅さんみたいなチートではない。あんなんチーターや、いや、ビーターや!ビーターか……いいな、それ。迅さんも笑いながら「いいな」とか言いそう。

 

 

 とまあ、そんな能力なわけだが、これには欠点が存在する。本来の俺の限界を超えて思考を分けるため、脳に負担がかかり、使用後は必ず頭痛が発生する。後遺症やそれが元でなにか病気になるということはないらしいので一安心だ。

 

 

「取ってやる」

 

 

「え?」

 

 

「大体500円くらいか。それくらいなら、まあおごってやるよ」

 

 

 1回目の試行。位置的にはほぼ完璧。アームの力具合により位置関係を調整していく。

 

 

 

 

 

 つもりだった。

 

 

 

 ガコン!

 

 

「思ったより弱いってのは想定してたけど、強いのは想定外だったわ……」

 

 

 大体500円くらいか。

 

 

 

 

 

 

 だってよ!何ちょっとかっこつけちゃってんの!?完全にこれ俺のお陰じゃなくてアームのお陰じゃん!俺の見せ場返せよ店員!ちょっと頑張ってせめてコイツからの暴言を減らそうとだな…………あ、頭痛い。マジで無駄な所で使った。

 

 

「……ほら」

 

 

「っ…いえ、受け取れないわ。それは貴方が取ったものなのだから」

 

 

「俺、パンさん興味ないからな」

 

 

「私のお金で取ったものならともかく、それは貴方のお金で――」

 

 

 面倒くせえこいつ。変な所で律儀になるのはやめてほしい、まるで俺が押し付けているかのようだ。

 

 

「あー……じゃあ今度コーヒー奢れ、どうせ同じ100円だ」

 

 

 そう言って下を見ると、いつの間にかパンさんは無くなっていた。再び雪ノ下を見るとさも当たり前かのように手に持っている。すっごい嬉しそうな笑顔だなオイ。もし俺が戸塚と天海を知らなかったらその笑みで惚れかけて引かれてたわ。惹かれるじゃなくて、引かれる、な。ドン引かれ谷君にはなりたくないものだ。

 

 

 

 

 

有りもしないことを危惧していると、近くで声が聞こえた。

 

 

「あっれー?もしかして雪乃ちゃん?……あっ、やっぱり雪乃ちゃんだ!」

 

 

「……姉さん」

 

 

「……は?」

 

 

近づいてきた女性はなんと雪ノ下の姉だという。色々と、うん。似てない。どこが、とは言わないが。そんな姉に対しての雪ノ下の態度は非常に冷たい。姉はあんなにニコニコして()()、優しそうには見えるのだが。

 

 

「ねえねえ雪乃ちゃん、こっちの男の子は彼氏?」

 

 

「違います」

「違うわよ」

 

 

見事に否定の言葉が重なった、雪ノ下姉は更に笑みを深めて

 

 

「まったまたー。こんなに息もピッタリなのに、雪乃ちゃんも彼氏君も素直じゃないなー」

 

 

 散々笑った後、再びこちらを向いて

 

 

「あっ、どうも。雪乃ちゃんのお姉ちゃんの、雪ノ下陽乃でーす」

 

 

「あっ、ひ、比企谷です」

 

 

「……へえ、比企谷君って言うんだ…………」

 

 

 まるで値踏みをするような目でこちらを見つめてくる。下手に目を合わせると良いことがないことくらいは分かるため、関係ないところをひたすら見つめて耐えていた。すると、雪ノ下姉がこちらに近づいてきてっ…!

 

 

 あの、ちょっ、この、コイツ!む、いや何でもない。落ち着け、クールになれ比企谷八幡。決して首を掻き毟るんじゃない。精神を集中させてだな……

 

 

 グニッ

 

 

無理デース。こんな状況で集中なんか出来るわけがない。ええい離せこの。当ててるのよとかいうベタな台詞はいらないから。

 

 

「あの、雪ノ下さん。その、そろそろ、ですね。離して貰えたらなー、だ、なんて――――」

 

 

 と制止の言葉をかけてみるのだが、全く離す気配がない。と、寒気がするので前を向く。

 

 

 

 

 

 

…………やけにオーラが黒い雪ノ下がいました。

 

 

「姉さん、いい加減にして頂戴」

 

 

 その声は侮蔑、怒り、負の感情が盛り盛りと含まれており、雪ノ下姉の行動を止めるのには十分ダメージがあったようだ。

 

 

「あっ…ごめんね、雪乃、ちゃん」

 

 

 あ、目に見えて落ち込んでる。漫画だったら絶対ズーンっていうのが入るくらい落ち込んでる。なんだこの人、ただのシスコンじゃねえか。

 

 

「行くわよ、比企谷君」

 

 

「ん?お、おう」

 

 

 未だ立ち直ることのない姉のことを見向きもせず雪ノ下は歩き出した。取り敢えず俺も着いて行く。

 

 

 しばらく歩いた後、休憩することとなった。微妙に息を切らしているのが分かる。そうだった、こいつ体力がないんだった。

 

 

 同じベンチに座って、一息。そして俺の思ったことを言う。

 

 

「……お前の姉ちゃん、すげえな」

 

 

「……姉に会った人は皆そう言うのよ。確かに、あれほど完璧な存在も中々いないでしょうね。出会った人の誰もがあの人を褒めちぎって…」

 

 

「いや、ちげえよ」

 

 

「え……?」

 

 

「俺が凄ぇっつってんのはあの、何だ?まるで強化外骨格みたいな外面のことだよ。確かに外から見れば人当たりが良くて、ずっとニコニコしてて、優しく話しかけてくれる。人の話もキチンと聞いてくれそう。まさに男の理想なんだろうな。 だが、理想は所詮理想であって、決して現実じゃないし現実にはなれない。だからどこか嘘臭い」

 

 

 ああいう人間はたまにいる。俺も会ったことは数えるほどしかないが、鉄面皮のような……それただの城戸さんだわ。城戸さんじゃないが、ああいう『自分を完璧に作ることが出来る人間』というのは極稀に存在する。そして、雪ノ下姉は間違いなくそんな人間、その中でもトップクラスの「外面」もキープすることが出来るのだろう。正直、もう二度と会いたくない。人懐こい話し方とは裏腹に、あの目はどこまでも、冷たく冷酷だった。

 

 

「……成程。腐った目だからこそ、見抜けることもある、ということね」

 

 

「褒めるのか貶すのかはっきりしてくれ」

 

 

「あら、これでも最大限に褒めているのよ?あの人の仮面が初見で分かる人はそうそういないのだから」

 

 

 まじかよ。もうちょっと優しい褒め方してくれませんかねぇ……。

 

 

 一息をつき終わったので、俺が考えていた店に行こうと立ち上がった時、犬がすごい勢いでこちらに走って近づいてきた。

 

 

 

「うおっ……!」

 

 

 で、俺の身体に捕まってペロペロと顔を舐められる。えっ何この犬。急に俺んとこ来たけど……って、

 

 

「こいつ、どっかで見たこと…………」

 

 

「あーーー!サブレ、こんなところにいた!スミマセン、ウチのサブレが……」

 

 

 はた、と目が合う。

 

 

「由比ヶ浜……」

 

 

「ヒ、ヒッキー…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか由比ヶ浜に誤解されたっぽい。俺と雪ノ下が付き合ってる?馬鹿め、それは演技以外の何でもない。演技した気は全くしないけどな。アイツもほぼ演技なんぞしてなかったし。フリだとかなんだとか言っておいて何だが、これでは仲の良い恋人同士には決して見えないはずなのだが。

 

 

 その後、なんとか雪ノ下が月曜日に約束を取り付け、この場は凌いだ。……なんか、凄く濃密な1日を過ごした気がする。もの凄くしんどい。頭も痛い。限界だった俺は、その後適当に雪ノ下に別れを告げ、誕生日プレゼントを購入し、家に帰って寝た。動きたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 さて、時は跳んで月曜日。キングクリッ……言わない。そんな元気は存在しない。月曜日といえば学生の皆も社畜の皆も、絶望に打ちひしがれる日である。そんな日に俺が叫べる元気があるだろうか、いやない。

 

 

 

 

 

 放課後。部室に向かおうとすると、またも由比ヶ浜と遭遇してしまった。

 

 

「……よう」

 

 

「…………今回の話って、あのことだよね?」

 

 

「ん。ああ、まあそうだな」

 

 

「やっぱりそうだったんだね、あはは、あたしが勝てないのも仕方ないのかもしれないなー……」

 

 

「は?勝つ?」

 

 

 何の話をしてるんだお前。

 

 

「お前、ちょっと誤解してないか?」

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜視点「あのこと(ヒッキーとゆきのんが付き合ってること)」

 

 

 

俺視点「あのこと(誕生日プレゼントを買いに行った時の事)」

 

 

 

 

 何この微妙なすれ違い。百歩譲っても俺と雪ノ下はねえよ。あん時のはただ目的があっただけだ、と伝える。顔を真っ赤にして怒られた。俺悪くないよな?

 

 

 その後もやんややんや言いながら部室前。前の俺の拒絶の影を残しつつも、なんだかんだで付き合ってくれる由比ヶ浜は本当にいい子なのだろう。アホだが。

 

 ドアを開けると、そこには雪ノ下。と。

 

 

「由比ヶ浜さん……お誕生日おめでとう」

 

 

 

 やったらでかいケーキが置いてあった。張り切りすぎだろ、これどうやって持ってきたんだよ。つか食いきれねえ。

 あと、誕生日はこの次の日だ。雪ノ下、お前って案外せっかちだったんだな。

 

 

 

 プレゼント。俺は犬用のチョーカーを渡した。前みたいに逃げ出さないよう、丈夫な素材で出来ている。……いざ言うとなると、どうにも重圧がかかるな。はぁ……だが、言うしかない。

 

 

「ん。まぁ、気を遣ってもらってたぶんは返しておきたかったからな。これで差し引きゼロでチャラ。もうお前は俺を気にかけなくていいんだ。だからこれで終わりだ」

 

 

 最後まで言い切って、息を吐く。何故俺はたかが他人を拒絶するのにこんなに疲労に襲われるのだろう。由比ヶ浜は俺の他人、それは間違いない。誰だってそうだ。天海だって戸塚だって、所詮は他人。ならば俺とコイツの関係は?そうなると途端に分からなくなる。

 

 

「あ、あははは……だからね、別にあたしはそんなんじゃなくて。同情とかさ、気を遣った事なんて、ないんだよ? ……もう、分かんなくなってきちゃった。あたしは――」

 

 

 同情じゃない。気を遣っていない。なら何故お前は俺に話しかけた?疑問は募る。しかし、雪ノ下の

 

 

「……貴方達も馬鹿ね」

 

 

 という言葉に思考を一旦中断させて、文句を言う準備をした。のだが……

 

 

「比企谷君は別に由比ヶ浜さんの事を助けたワケじゃないし、由比ヶ浜さんは比企谷君に気を遣ったわけではない……。貴方達、初めからもう間違えていたのよ。だから、その間違いの関係ならもう終わったほうがいいわ」

 

 

 その言葉に、由比ヶ浜の瞳から涙が落ち始める。

 

 

「でも…これで終わりだなんて…なんかやだよ」

 

 

 それは俺に言っているのか、雪ノ下に言っているのか。形だけ見れば、それは雪ノ下への言葉だ。だが、ついさっきまで終わりにしようとしていた俺にも、その言葉は刺さったような気がした。

 

 

 そんな由比ヶ浜に、雪ノ下は微笑んだ。

 

 

「バカね、由比ヶ浜さん…終わったのなら、また始めればいいじゃない。……あなたたちは悪くないのだし」

 

 

 それは、美しく、だがとても悲しみを背負っているような微笑みで。貴方達は、また、始められるわ、と。

 

 

 

 

 

 

 この後、由比ヶ浜が犬用のチョーカーを自分の首に付けた、などという珍事が発生したのにも関わらず。

 

 

 

 ―――最後まで、その顔が俺の頭を離れることはなかった。




 なんでこんなに長くなったんだろう。


 この作品の序盤は主に奉仕部の物語が中心となって進んでいきます。序盤(20話超え)

 茶番を入れすぎた思いが強いです。


 元ネタを書く元気がないので、調べてみてください(他力本願)



 ではでは。

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