二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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ズバッと参上 ズバッと解決 ズバッと参上 ズバッと解決 初投稿です

 前回を見てくださった方々、ありがとうございます。自分のやりたいことをやりたいようにやっているこの作品ですが、よろしくお願いします。

前回のあらすじ。

・比企谷、空気だった

・これじゃ俺、スパロボKをやりたくなくなっちまうよ…………

・天海、壊れる


あ っ て る 。


修行の大切さ

 模擬戦ルーム。そこに1つ、人影があった。ボサボサの髪の毛。目を閉じていればそこそこイケメンと言われる顔立ち。結構高い背。そしてその見た目を最大限にマイナス方向に持って行っている死んだ目。そう、俺だよ。俺だよ(二回目)。

 

 迅さんの言葉があった日から、久しぶりに自らの技術を伸ばす試みをしている。木崎さんや加古さんと共にやるならともかく、一人でするというのは相当久しぶりである。そんな面倒なこといつもの俺だったらするわけないしな。そんな暇があったら勉強するか本を読むか寝てる。日曜日はプリキュアを見ている。俺はそういう人間だ。

 では、そんな俺が何故クソ真面目に鍛錬に励んでいるかと言うと、さっきも言ったように迅さんの言葉の影響だ。あの人の口ぶりから見るに、恐らく何か悪いことが起こるのだろう。もし最悪の場合、また大規模侵攻が起こるようなこともあるかもしれない。そうなれば小町を助けられるのは誰か?

 俺だ。俺しかいない。娘馬鹿の親二人はいないのだから。他の人間がどうなろうと知ったことではない。彼らの人生は彼らのものであり、そこに関わるのなど御免だ。だが、小町は家族だ。たとえ小町の人生は小町のものであっても、その人生をあっけなく閉じるなど間違っている。あいつが自衛の手段を持っていない以上、あいつを守れるのは俺だけなのだから。

 

 

 さて、その俺であるが、訓練室で何の特訓をしているのか。これには、最近トリガーを入れ替えたのが関係している。メインのスパイダーとサブのハウンドを入れ替えて、メイントリガーに三種の攻撃チップが入るようにした。

 

 トリオンキューブ、これを分割して射手は弾を作る訳なのだが、基本的にアステロイドもハウンドも、バイパーも発射するまでの構造は同じだ。それぞれの威力や弾速などは異なるものの、調整は出来る。アステロイドの速度を抑えればバイパーやハウンドの速度と同じくらいにはなる。そこで考えた1つの技。

 

 

「……アステロイド」

 

 立方体のキューブが出てくる。分割され、おおよそ3*3*3の小さい立方体が出来上がった。

 

「バイパー」

 

 ここで弾を変える。だが、その形は一切変わることがない。

 

「ハウンド」

 

 またも弾種を変更。それでも形は変わらないしカブも抜けない。うんとこしょ。どっこいしょ。

 

 

「……シャッフル!」

 

 この瞬間、サイドエフェクトを最大で活用する。自分でさえ分からないくらいの速度で弾のスイッチを切り替え、最後までどの弾かを分からなくさせる。実戦ではシールドを張りながらの作業になるが、トリオンの量は多い方らしいので簡単に破られることはないだろう。

 

 この技の名前は「おねがい射手トリガー ~くるくるシャッフル!~」だ。

 

 モロパクリである。

 

 この技のメリットは勿論、ギリギリまで弾の種類が判断出来ないことにある。威力の高いアステロイド、追尾性の高いハウンド、トリッキーな動きを作ることのできるバイパー……避けるか、シールドを貼るか。この二択を直前まで押し付けられるだけでも大きいのだ。一瞬でも思考に頭を回せば身体は一瞬止まる。そこを突く。シールドはバイパーやハウンドで貫くことは出来ないが、アステロイドは威力を高めに設定している為。トリオン能力のあまり高くない奴ならば破ることは出来るだろう。また、シールドを張るということは動きが鈍くなりやすいということでもある。そこに天海がいれば?相手が囮、もしくは太刀川さんや風間さん並の戦闘能力でない限り、近接戦においての天海の能力はずば抜けて高い。一度踏み込んでしまえば勝ちはほぼ確定だ。

 

 デメリットはその準備時間の長さ、そしてサイドエフェクト後の頭痛、つまりは副作用(サイドエフェクト)副作用(サイドエフェクト) だ。使うとすれば絶対にチームランク戦になる。

 最悪の事態、つまりは二回目の侵攻。対応は恐らくチーム単位になるだろう。組織とはそういうものだからだ。その時大切なのは協調性、つまり、どれだけ味方と連携して敵を倒すことが出来るかであり、そして俺に最も必要ないと考えていたものであった。ただ、ここで大事なのは「パートナーが天海」と言う点だ。

 春からずうっと同じ場所で飯を食ったり話をしていたりすると、いくらなんでも少しは相手のことが分かってくるもんだ。それは俺と天海も例外じゃない。天海がこの次何をしようとするかということくらいは分かる。まあ、殆どは寝転がって空を見るくらいしかしていないからなんだけどな。深呼吸をして寝転がって空を見たら青空になれる気がするだろ?見てて下さい……俺の、変身!!

 

 ちゃう。まあとにかく、他のボーダーの奴らよりずっと息を合わせやすいのはデカイ。天海にも話はしているが、曰く「突っ込めると思ったら突っ込む」とのことだ。ポジティブに考えると「タイミングは任せる」悪い言い方をすると「指示を聞くつもりはない」となるか?だがまあ、指示とか面倒だしオペレーターに任せればいいだろ。なんか有能らしいし、俺達の代わりに存分に働いてもらうことにする。

 

 それにしてもそのオペレーターはどんな奴なのだろうか。結局一度も会えてないまま夏休みに突入してしまったわけだが……まあ、その内会うだろう。真面目な奴だったらグッドだ。

 

 楽な未来のためにもまずは、勝つための戦い方を作るとするか。楽な方向で。あー、頭いてえ…………

 

 

 

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 空いている模擬戦用のブースを借りて、今は一人で素振り中。相手のイメージを形作って、とにかく腕を振る。トンファーで重要なのはその腕の速度もそうだけど、手首の返し方もとても大切。下から上、右から左……振り方も多種多様だから、状況に応じてホントは使い分けなきゃいけない。ホントは。

 

 スコーピオンの特徴はその展開の自由度。手首からも出せるし身体からも出せる。勿論剣のようにすることも出来る。ちなみに僕はそれぞれの手首の外側からトンファー状に展開させてる。超クロスレンジで戦わないといけないけど、それはスコーピオンを回せば補えるレベルではあるし。それに、慣れてるほうがやりやすい。慣れというのもとっても大事。反復練習は反射を呼ぶこともあるから。とっさの対応をする時にはその反射が役に立ったりする。一度も使ったことはないけど。

 

 米屋君との戦いは常に僕がどれだけ彼に接近できるかがポイントになる。上手く距離を取られれば僕に取れるすべはほとんどないけど、一度近づければ僕の勝ち。たまに騙されるけど。

 

 彼や駿君を仮想相手にしながら素振りを行っていると、不意に声がかけられた。

 

「天海樹」

 

「…………?」

 

 誰だろうか、と振り向くと、正面に顔が見えた。優希ちゃんの後に見ると余計に身長差があると思ってしまったけれど、それでも彼女よりもまるで首の痛さが違う。勿論失礼だから口には出さない。

 

「風間先輩、こんにちは」

 

「……ああ」

 

 少し僕を見る目がおかしい。値踏みしている目?比企谷くんは、

 

『ある程度のレベルを超えてきたらアイツらは心読んでくるぞ』

 

 って言ってたから、もしかして心が読まれているのかもしれない。だけど、彼に怒った様子は見られない。と、言うことはやはり読むことはできないんだろう。比企谷くんも中々物騒な嘘をつく。

 

「今は時間があるか?」

 

「ご覧のとおり」

 

 時間があるから鍛えているのである。

 

「ならば」

 

とそこで彼は少し間をおき、

 

「俺と戦え」

 

「……」

 

 どうしよう。この人もバトルジャンキー?

 

 拒む理由は、一応ある。万が一彼らとの部隊とあたってしまった時、技術を先見せして困るのは僕達だ。

 ……だけど、B級に上がってからあまり個人ランク戦はしていないから僕のログは少ないこの前忍田本部長に

 

「もう少しデータをくれないか」

 

 と頼まれたのである。それなら、と思い直す。A級3位。それも隊長。今の僕がどれだけやれるのか。僕の今の力はどれくらいなのか。確かめる機会が欲しかった。

 

「ルールを」

 

「……俺が見たいのはお前のスコーピオンの扱いだ。わざわざ個人ランク戦ブースにまで行く必要はない。模擬戦で5本先取。スコーピオン以外の攻撃トリガーの使用禁止。これでいいな?」

 

 首を縦に振り肯定の意を示す。少し待っていろ、と風間先輩が模擬戦の設定をするためにルームから一旦退出していった。その間に呼吸を整える。相手のトリガーは分かっている。チームランク戦のリプレイを見せてもらったから。あの人が強いのも当然分かっている。チームランク戦の以下略。だけど、駿君と練習してからどんどんと身体が軽くなっていく感触がしている僕の実力はどれくらいなのかが分からない。個人ランク戦、普段しないから。面倒。

 

 スコーピオンの扱いという意味であれば間違いなく風間先輩はトップクラス、それも1位か2位を争うレベルだと思う。そしてそのスコーピオンはなんとあの迅先輩より開発されたものらしい。びっくり。でも、とてもいいトリガーだと思う。これなら人気があるのも納得。弧月は確かに強いと思うけど、僕は剣技については素人だから使う気にならなかった。

 

「用意はいいな?」

 

「いつでも」

 

「ならいい。では――――」

 

 

『模擬戦 5本先取 風間蒼也 対 天海樹』

 

 

「天海。お前の実力を見せてもらう」

 

「貴方には、僕の実験台になってもらいます」

 

 

『開始』

 

 

 

 

 

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 想像以上だ、と風間蒼也は静かな空間の中で思う。静か、と思っているのは風間だけで、実際はお互いの武器を幾度と無くぶつけ合っているのだが。

 

 この目の前でトリオンを漏らしながらも素早くスコーピオンを振ってくる天海という者。なるほど、異例の速さでB級に昇格したのも頷ける話だ。今までにないスコーピオンの展開だが、その使い方には熟練した技術が見え隠れしている。見る限りはいわゆるトンファー、つまりは棒術。それの使い手だろうと彼は分析を続ける。剣技においては完全にこちらが上だが、棒術やその他体術を含めれば分からなくなってくる。超近距離の戦闘においてはエキスパートだろう。

 自分が負けるのか、と言われればそれは今回はない。2本取られたものの、こちらは4本取っている。純粋な近接戦なら恐らく互角に近いかもしれないが、天海の弱点である押し込みの弱さ、つまりは鍔迫り合いの弱さ。これがある限り自分が簡単に負けることはないだろう。

 天海はこちらの攻撃を殆ど受け止めず、ひたすら回避に専念している。これは天海自身が弱点を理解しているからだろう。そしてこの近距離でそれを行える動体視力の良さは感嘆に値する。だが、それだけだ。

 

 いくら回避能力が高くとも、どうしても限度は出てくる。今の天海の技術で自分が遅れを取ることはない。躱すというのは攻撃を受け止める以上に神経を使うもので、それをずっと続けるのだ。疲れが見えない筈がない。

 

 体力は認める。自分と同じくらいの体躯ながらその質は全く違う。その中でこれだけ動き回れるのは、トリオン体であるだけではなく、天海が元々持っている体力の賜だろう。

 

 速度については大したものだ。腕を振る速度だけなら互角レベル。あの細い腕にどこまでの力があるのだろうかと気になってはいたが、よく見ると無駄なく筋肉はついている。棒術の鍛錬により出来たものだろう、生半可な努力ではどうしても無駄が出来てしまうため、それだけで天海がどれだけ鍛えてきたかが分かる。単なる動きの速さも自分には及ばないものの、十分攻撃手で上位を狙えるくらいはある。

 

 だが、その小ささが邪魔をしている。腕に筋肉はあっても足の筋肉や腹筋がそこまであるわけでもない上、軽い。脆いスコーピオンが更に拍車をかけて防御を貧弱にしている。それを計算した上での回避。これなら小ささを活かすことも出来る。それでも今の速度だけでは厳しいだろう、と風間は冷静に分析を続ける。

 

 自分の実力は分かっているつもりだ。だから相手を分析し、どのような戦術を取るかを考えている。それは個人においてもチームにおいても変わることはない。相手の特徴を理解した上で歌川や菊地原、三上と作戦を構築し、敵の掃討を行う。

 

 風間はいつものように天海を分析した。最早癖と言ってもいい。対峙する人間には必ず毎回行っている。油断はしない。こちらが鍛錬を続けるように、相手にも成長というものが存在する。その中で自分が最も勝率の高い戦い方を選ぶのがいつものやり方だ。

 

「……!」

 

「…ちっ」

 

 攻撃手の上位にもなってくると、一瞬の油断がすぐに敗北に繋がってくる。どれだけ集中を切らさずにいられるか。少しでも思考に気を回し過ぎると、今のようにこちらに切り込んでこられ、傷を負う。浅い傷だが、このような傷をこれまで何回も負っているためトリオンが少しずつ漏れだしていく。天海のトリオン漏れの方が多いとはいえこれ以上攻撃を受けるわけにはいかない。ならば、と風間は思い切り右手の剣を中段横薙ぎに振る。天海は一旦距離を置くことでそれを回避。お互いが射程外の間合い。

 

 それが続くのは短い間だけだ。天海も、このままでは自分が敗北することは分かっている。この場面は攻めるしかないのである。駆ける中でステップを使い、出来るだけタイミングをずらして切り込む。

左腕をしならせて左フックの要領で風間を攻撃する。が、それは受け止められた。同じスコーピオンでも展開方法が違う以上、細かいリーチ差は存在する。そして、リーチで負けているのは勿論天海だ。多分これが一番短いと思います。だが天海はそれを気にせずに猛攻に出る。剣型よりも空気の抵抗が少ないため、風間の展開したスコーピオンよりも素早く腕を振り切ることが出来るのがメリットだ、と言ってもささやかな差だが。対する風間は防御を固める。お互いにスコーピオン、つまりは脆いトリガーの為、攻撃を受け止め続けていると両方が壊れることもある。その時はお互いに瞬間で再展開、試合を続けている。風間の守りは固く、先ほどとは違って皮膚に触れることさえ叶わない。

 

 攻守が入れ替わった。時に順手、時に逆手でスコーピオンを持つトリッキーな風間の攻撃を掠りさえせずに天海は避け続ける。

 

 防御と言っても色々存在する。

 

 風間の巧みな剣捌き。勢いを殺し受け流し、負担を最小限に抑えるやり方だ。

 

 天海のずば抜けた動体視力。見切り、躱す。その避ける方法も方向も回避に慣れた者の動作だ。

 

 お互いがお互いの実力を知っているからこその激しい攻防。最後に競り勝ったのは――――――

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

「お前のその非力が無くならない限り、俺には勝てない。……だが、お前は強い」

 

 

 

「……これから、戦いたければ俺の部隊の部屋に来い。いつでも相手になってやる」

 

「……はい」

 

(僕の実力は大体分かった。あとは、どれだけ味方と連携がとれるか、か。難しい――)

 

 

 

 

『天海樹、強制脱出。 よって勝者―――』

 

 

 競り勝ったのは、No.2攻撃手、風間蒼也だった。 

 

 

 

 

 

 

お ま け 

 

 ダンッッ!!!  ダンッッ!!!

 

 

 静かな空間に、2発連続で射撃音がこだまする。

 

「……ふう。いい感じだぜ」

 

 A級第5位、嵐山隊のスナイパーを務める佐鳥は、今日も今日とて練習場で射撃練習をしていた。と言っても、ただの射撃ではない。彼の最大の特徴はメイン・サブの両方に入っているイーグレットのトリガーで、その両方を使って狙撃を行う 通称『ツイン狙撃』の練習である。

 さて、この技術のメリットは、火力の高さにある。1丁だけで倒しきれなかった敵を仕留めきるスピードが上がるために、初めの狙撃が多少当たりどころが悪くてもなんとかなるのである。また、相手が見知った相手であれば一発目を外しても勿論二発目を警戒するだろう。その時点で既に、ある程度の足止めを果たしていることにもなる。チームランク戦において、敵の合流を阻止する手段としても有効なのである。

 

 だが、火力やチームランク戦での貢献よりももっと遥かに大きなメリットがあるのだと佐鳥は言う。そう、

 

『超かっこいいっしょ!!?』

 

 格好の良さである。

 

 

 

 そもそも、基本狙撃手は2丁を同時に扱うことはまずない。一撃で仕留めきるという自信やプライドも勿論であるが、何よりも安定性が違うのである。

 ツイン狙撃はその特徴上、どうしても精密に狙うのは厳しくなってくる。スコープを覗き、息を整え、距離と弾道の計算などと、狙撃時にすることは多いのである。そもそもライフル自体が安定しないのだ。現実の通常の狙撃手が狙撃を行う際はまず、ストックの下部を安定させ、スコープを右目が一直線の位置になるように覗く。その次は、風を読む。方角、風の強さ、場所による気流の違い。その計算を行うには卓抜した能力が必要だ。また、温度や湿度も関係してくる。弾丸の空気抵抗、装薬の燃焼速度、銃、銃口の膨張の度合い――トリオンで構成された狙撃銃に燃焼速度が関係あるかは不明であるが―――とにかく、それだけ弾道に影響を与える要素があるのだ。弾頭の横転や前転はどの程度であるのか?この現象を”タンブリング”と呼ぶのだが、これは距離の二乗に比例してドンドンと大きくなっていく。どれだけ小さい横転であっても、遠距離になってくると大きな影響が出てくるであろう。

 

 更に大きな要素は”コリオリ力”と呼ばれる力だ。コリオリ力は地球の自転により発生する力であり、高緯度になればなるほど影響は非常に大きくなってゆく。北緯38度くらいのこの日本でも、中々の影響が見られるだろう。少なくとも東に5cm以上のズレが生じると思われる。日常生活ではそこまでの影響はないが、狙撃において5cmというのは死活レベルである。

 

 大体その他にも多数の(その多くは微細ではあるが)影響をおよぼす問題があり、それら全てを計算して照準を行う技術など、人間以外には不可能なのである。それだけ、狙撃には計算技術が必要なのだ。事実、狙撃手の人間は大抵数学の成績が良いと言われている。素早く瞬間的にイメージを構築し計算し照準を……とするためには、ある程度の計算能力はあってしかるべきだろう。

 

 

 だが、その計算能力を補う力もまた存在する。至極簡単なこの能力は、個人差こそあれ誰にでも備わっている。

 

 

 「直感力」

 

 である。

 

 

 複雑な計算をいくらした所で、実際に命中するかどうかは運も左右してくる。風の流れはその時々により異なるためだ。だが、それら全てを無視するこの力は、時に絶大な力を発揮する。狙撃は水ものとはよく言ったものだ。

 

 

 

 ここまで、狙撃の難しさにおいて触れてきた。次に、トリガー使用上のデメリットについて、一つだけ紹介をしようと思う。

 

 

 バッグワームが使えません。

 

 そんだけ?と思う方。甘い。甘すぎである。MAXコーヒーよりも甘いと言っても過言ではないくらい甘い。

 狙撃手は一種の暗殺者の役割を持つ。瞬間的に誰にも見つかること無く敵を始末する。相手のトリオンエネルギーが暴走してしめやかに爆発四散!ワザマエ! アイエエエエ!!??ニンジャ!?ニンジャスレイヤーナンデ!?

 

 というわけで狙撃手に取って自分の位置を知られないというのは前提なのだ。バッグワームがないと、レーダーに表示されてしまう為に、あっという間にこちらが爆発四散してしまう。サヨナラ!

 

 そのデメリットを乗り越えてきたのは、佐鳥の人間離れしたセンスと血が滲んだかもしれない努力の賜物であるだろう。スコープを覗かずに同時に狙撃など最早人間技ではない。タツジンである。

 

 そんな佐鳥の扱いがどうにも不遇なのは、そのお調子者の性格や間の悪さが大きいだろう。しかし、それさえなければ佐鳥もA級の一流スナイパーであるといえよう。

 

 さて、彼が練習を終え、戻ろうとしている時に、背の低い影が見えた。止まって見ていると、

 

(あれは……最近入った)

 

 銀色の髪をしているまるで女子のような外見。男とは聞いているが佐鳥はどうにも信じられなかった。彼自身の勘がそう告げているのだから。そんな天海がこちらに近づいてくる。どうやら天海も練習場に行くようだ。

 あまり喋らないというのは聞いていた為に、挨拶だけしておこうと佐鳥は自分から声をかける。

 

「天海先輩、こんにちはっす」

 

「ん、佐鳥君。こんにちは」

 

「あれ、俺の名前知ってたんすか?」

 

 意外だ。この人は他人と関わろうとはしないとも聞いていただけに、接点の殆ど無い自分の名前が知られていると思ってはいなかったのである。が、

 

「うん。だって――――」

 

 その後の言葉は、彼が最も欲しかった言葉。そのために彼はこの技術を鍛えた。その言葉が欲しくて努力を重ねた。今や「まーた佐鳥が調子乗ってるのか」としか思われない技術を、認めてくれる言葉。

 

「ツイン狙撃、カッコよかったから」

 

「せんぱぁい!!!!」

 

 思わず佐鳥は天海の手を握った。そして目を見る。無機質な、透明な目。どんな感情をも生み出さないと言われていたその目は、佐鳥から見て……少し、輝いていた。つまり、自分への憧れだろう。

 

やったぜ。

 

「ツイン狙撃……ロマン。だけど、すごく難しい技」

 

「そうなんすよ!!!皆、コレ見てもだっれもそんな事言ってくれなくて……」

 

「大丈夫。僕が憧れてるから」

 

「マジっすか!??」

 

 何が大丈夫なのかはイマイチよくわからなかったが、それでも自分の技術を認めてくれる人間がまた少し増えた。隊長や時枝先輩、あとは数少ない人間しか認めてくれず、出水に至ってはしょっちゅう馬鹿にされていた。それを、まだ入りたてのこの少女が憧れていると言う。

 

 

 

 

 俄然やる気が出てきた。これからもこの技術を極めようと気合を入れる。人気者の嵐山隊長が選んでくれたのだから、その彼に泥を塗るわけにはいかないのだ。何かあれば毒を吐く木虎にも、その実力はキチンと認めてもらえている。努力、鍛錬を惜しまない彼女にも認められているのだ、と自身を奮起させる。その他の、技術を教えてくれた東先輩やフォローをしてくれる時枝先輩や綾辻先輩。そして目の前の、「カッコいいね」と瞳で語っている(ように佐鳥には見える)天海先輩。そんな人達にもっと褒めてもらえるようになるのだ。そしていつかは出水先輩のことをギャフンと言わせる! 佐鳥は固く心に誓う。

 

 ただ、その前に。

 

「いやー、分かっちゃいますか?俺のこのテク!」

 

「うん」

 

「でしょー!?やっぱ見る人が見れば分かるんですよー!!」

 

 まずは、もうちょっと天海に褒めてもらっておこう。自慢するのだ。俺は、

 

「あの天海先輩が目を輝かせた男」だと。

 

 




 この作品においての狙撃手は、基本的に数学の成績は高くしております。また、戦闘においても、弾道の概念は少し取り入れていく予定です。その為皆すっげーテクニシャンになっていますがご容赦を。佐鳥一人のためにここまでするとは私も思っていませんでした。 死すべし佐鳥。

追記

風が影響しない原作設定を見落としていたため修正。教えてくれた方、ありがとうございます。

 風間のキャラについては『冷静に相手を分析する。そして殺す』みたいなキャラクターで書きました。グリリバの声っていいですね、でも『そして殺す』と書くと『お前を殺す(殺すとは言っていない)』という某ガンダムの主人公を思い浮かべてしまって、風間がポンコツキャラに思えてしまいました。ごめんなさい風間さん。



もとねた。今回はすくなめ。

・おねがい射手トリガー ~くるくるシャッフル!~
『おねがいマイメロディ ~くるくるシャッフル!~』 より。ウサミミ仮面だいすき。ヒツジ仮面もよろしく。

・深呼吸をして寝転がって………変身!!
『仮面ライダークウガ』のED「青空になる」の歌詞を一部+主人公、五代雄介のセリフ。 クウガ大好きです。平成ではブラックと共にライダーは一人しか登場していませんでしたが、それでも頑張っていました。一番好きなのはドラゴンフォームですかねえ。

・多分これが一番短いと思います
TAS動画とかでよくある「多分これが一番速いと思います」何回も更新されたマリオTASの作成者の名前を出すのはヤメロォ!

・トリオンエネルギーが暴走して以下略
『ニンジャスレイヤー』より。そろそろ一回は入れておきたかったこのネタ。折角なので佐鳥の時に使ってみました。使い方あってるかな…………

・ツインバスターライフル
『新機動戦記ガンダムW』より。僕もゼロシステムがほしいなあ→頭おかしくなったカトル わたし「ヒエッ……」

修行回と見せかけた佐鳥回でした。今回はここまで。ではでは。

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