二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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 初登校です(ピカピカの一年生)





ほんへ
第一印象は大切に


『高校生活を振り返って』   2年F組 比企谷 八幡

 

 高校、特に当校のような進学校ともなるとやはり勉学に力を入れる人間が多数存在する。

 

 目先の試験に囚われず、大学の進学を目指して日々自主学習に取り組んだり、塾で勉強する者もいるだろう。私もその一人だ。少ない時間でもなんとか知識を入れようと学習し、最近では二次関数が分かるようになってきた。人はこれを「遅い」と言うが、数学の苦手な私からすればこれは大きな進歩なのである。

 

 一方で、その空いた時間をショッピングやゲームセンターへ行く等、友人とのコミュニケーションに使う人間もまた一定数存在する。誰か特定のリーダーを作り、その派閥の中で群れ合い、友情を深める。彼らにとって重要な事は「今」と「その少し後」であり、「未来」を重要視する者は少ない。

 

 一般的に「青春」という言葉を当てはめるのであればこれは後者が正しいのだろう。友人と時を過ごし、より深い友情関係の構築を目指す。

 

 しかし、それなら前者は認められないのであろうか。

 

 否である。

 

 元々、「青春」というものは"夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたもの"という意味らしい。

 

 つまり、今勉学に力を入れている孤独な人間も、大学での研究や生活に夢や希望を見出しているのであるから、これは青春として成立するのではないだろうか。

 

 『友達百人できるかな』というフレーズが入っている歌があるが、これは集団での行動を刷り込まれているのでは?と思うことがある。友達は「質より量」、多ければ多いほど良いのだという認識を無意識の内に植え込まれているからこそ、広く浅い友人付き合いをする人間が増えたのではないだろうか。考えすぎかもしれないが、少なくとも私はそう感じている。

 

 友人は「量より質」。深い関係を築いた人物が一人、二人いれば、それだけで人生は変わるのであるから、浅い関係など無駄以外の何物でもない。勿論役に立つ事はあるだろう、間違いない。ただ、その関係を維持する為に大切な時間を沢山使ってしまうのは如何なものか。

 

 その大切な時間、必死に勉強して良い大学を目指し、給料の良い職場を狙う。そしてそのお金で自分の趣味に打ち込む。もしくは良い出会いを見つけ、高給の妻を支えるために主夫として家事に取り組む。

 

 これもまた認められるべき一つの人生である。素晴らしいではないか。形はどうあれ、数年後の為に今我慢して努力している人間をもっと評価する事がこれから大切になるのではないだろうか。

 

 

 

 最後に結論を書いて終わろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 給料を上げろ。

 

 

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「……最後の主夫云々から完全にお前の欲望だろうが!」

 

 そう叫んで俺の目の前にいる現代国語の教師、平塚 静先生は職員室の端にある応接室で俺の渾身の作品を投げる。なんてことを……! しかし改めて読み返してみるとまだまだ修正点が多いことが分かる。文脈の繋ぎ方も甘いので、この反省を次回から活かしていきたい。

 

「最初の文章はいいだろう、考え方は自由だし君の気持ちも分からないでもない」

 

「有難うございます」

 

「だが『友達百人できるかな』は話が全然違うだろう」

 

「何を言ってるんですか、これは現代の教育の指摘です。上辺だけの関係に溺れないようにですね……」

 

「ハァー……」

 

 深々と溜息をつかれる。凄くわざとらしいのがイラっときた。

 

「というか、君には友達がそんなにいるのか? 少なくとも見た限りこの学校にはいなさそうだが……」

 

「えっ、俺の事を見てたんですか? いや、そういうのはちょっと」

 

「は?」

 

「すいません許してください!」

 

 フゥ、ともう一度小さな溜息。一人用の小さなソファを立つと、自分で投げたくせにさも面倒そうに作文用紙を拾い始めた。じゃあ投げるなよ。

 

「ま、短いとはいえ君とは色々と付き合いがあるからな。大変なのは分かるが……取り敢えず最後の一文だけ直してこい」

 

「知ってました」

 

「そもそも書くな」

 

「……先生、さては天才ですか?」

 

「阿呆」

 

「痛っ」

 

 こうして俺が目の前の暴k「ん?」……素晴らしい教師と話せているのにはちゃんとした理由がある。

 

 何を隠そう、この人はこの高校で俺がボーダーに入っている事を最初に話した人物なのだ。話は割愛するが、要は入院中の見舞いの時に色々と出くわした、と言う方が良いだろう。忙しいくせに時たま病院に顔を出してくれたこの人は間違いなく教師の鑑だと思っている。ただ――

 

「おい、良からぬ事を考えただろう」

 

 割と高い確率で拳が降ってくるのが玉に瑕だ。

 

「いってぇ……何も考えてないっすよ」

 

 ココらへんが結婚できない理由であり鑑になりきれない理由だとも分析しているのであるが。未婚の察知能力高すぎだろ。そんな能力鍛えてるヒマがあったら婚活しろよ。美人なんだから。

 

「因みに何処の学校だ?ああ、別に答えなくてもいいが」

 

「三門市立第一高等学校っす」

 

「三門市立? あっ、ふーん……」

 

「ボーダー関係じゃないですけどね」

 

「……」

 

「……」

 

「えっ、マジ? 本当にそうなのか?」

 

「おいどんだけ信用ねーんだ」

 

 そんなに普段拗らせてるのか俺。……拗らせてるな。 

 

 

 

 

「それはそうと比企谷」

 

 作文はこの場で訂正した。やることは早めにやったほうが後々楽だということを俺は幾度となく経験してきた。そしてその作文をファイルに綴じながら平塚先生は俺を呼んだ。

 

「何ですか」

 

 先生は一人用ソファに寝そべると上を向いて思い出すように話し出す。こういった仕草が似合うのは男の教師だけだと思っていたのだが、案外そうでもないようだ。具体的に言うと、滅茶苦茶似合っていた。

 

「昔な? 私の教え子にそれはもう勉強も出来て授業態度の良い奴がいたんだ」

 

 ……いきなり何の話だ?教え子自慢なら死ぬほど聞いたのでとっととお暇したいところなのだが。

 

「だがそいつは無愛想というか、クールというか……そんな奴でな、そこまで友人もいるわけではなかった」

 

「はぁ……」

 

「もう卒業して2年くらいになるんだったか、今は大学に行きながらボーダーとやらで……」

 

「ちょっとその話詳しく」

 

 俄然興味が出来てしまった。

 

 無愛想でクール。これあれだ、もしかするともしかするかもしれない。

 

「背が高くてな?」

 

「(あの人か……?)」

 

「つり目で」

 

「(あの人かも……)」

 

「プライドが高くて」

 

「(あの人だ……)」

 

「ストイック」

 

「(あの人だ!!)」

 

「ま、誰とは言わんが」

 

 ニヤリと笑う平塚先生。同じような笑いで返すと「悪役のソレだな」と言われた。あんたもだろ! ……とは返さない。拳が降ってくる事を俺は知っているのだ。我々は賢いので。あ、俺一人しかいなかった。

 

 それにしても急にどうしたのだろうこの人は。あの人の弱みを握れるチャンスをくれるのだろうか。偶に会えば逃げようとしてもストレス発散とやらでボコボコにされるので情報を得てなんとか逃げたいのだが。

 

「さて、ここからが本題だ。確か比企谷はまだ部活には入っていなかったんだったな」

 

「まぁ忙しいですしね」

 

 やっぱ急に嫌な予感がしてきた。

 

「そうだな。で、だ。ある文化部……私が顧問の部活なんだが、そこにある生徒がいるんだ」

 

「お断りしま「そいつは勉強が出来てスポーツも得意で高圧的、しかも完璧主義の理想論者」す?」

 

 ……なんか、さっき聞いた情報とニテルナー。

 更に悪い笑みを深くしながら先生は続ける。

 

「まぁ、会ってみれば分かるだろう。それよりここからが本題だ。君にはそいつの観察を頼みたいんだ。若いあいつだと思えば少しはストレスも減るだろう」

 

「えっ、なにそれは……」

 

「教委のシステムが古くてな。進学校の癖に部活に所属していないとそこの評定がプラスされなかったりで面倒なんだ。勿論君が仕事の日は来なくていい」

 

 ……俺にとって評定を上に保つ最大のメリットは給付型の奨学金が貰える事だ。返さなくていいお金、素晴らしいですね。また、成績が上位であれば塾の費用も割り引いて貰ったり出来る素敵仕様だ。だが、それとこれとは話が別。いきなりはい分かりました等とは言えないのだ。

 

「……取り敢えず見学を」

 

 正直、今は何を言われても嫌なものは嫌なのだが、あの平塚先生がここまで譲歩してくれているのだ。見学して、やっぱ無理そうならすいません無理です、でいいだろう。

 

 

   

 

   *

 

 

「それにしても、かなり強引ですね」

 

「すまんな。君の事情は分かっているんだが」

 

 廊下を歩きながら今から見学をする部活の部員……と言っても一人だけらしいのだが――の説明をされた。なんでも、去年出来たばかりなのだという。

 

「つか、なんで俺なんですかね」

 

「君は若くしてある程度社会を学んでいる。人の汚さも、だ。 その生徒は理想こそ美しいが、余りにも現実、実際の社会を知らなさ過ぎるんだ。だが、私がそれを直ぐに言ってしまっては成長にも繋がらない。だから君にしたんだ。部活に入れば友人も出来るかもしれんし君の評定も上がる。win-winだと思うが?」

 

「はぁ……」

 

 この場合の社会、と言うのはボーダーの事を指すのだろう。若いとはいえ他の隊員が多く働いており、また城戸司令、所謂社長のようなものだ――などもいる。と考えると、成程、強ち間違っているわけではない。

 

 確かに俺はあそこに入って学んだ事が多い。怖い顔の人の好きなもの(わいろ)や上手い勧誘の断り方、某女性隊員の炒飯とかだが……などなど、一人のリーマンとして生きていくのに大切なスキルは大体手に入れたのかもしれない。

 

 ただし、コミュニケーション力を除く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下、入るぞー」

 

 扉を無造作に空けつつ先生が入っていく

 

「ノック、はいやり直し」

 

「はい……」

 

 出てきた。漫才かな?

 今度はノックをしつつ入っていく。

 

「何回言えば分かるんですか?」

 

「それより、部活見学者だ。おーい、入ってこい」

 

 と、合図が出た。一応ノックをしつつ、失礼しまー――。

 

 

 

 

 

 ……艶やかで長い黒髪。

 

 涼しさを思い浮かばせる目。

 

 後ろの窓からは残り少ない桜の花びらが風に揺られている。その背景の中で立っていた彼女は美しく、また儚げで。

 

 

 

 

 

 断言しよう。一瞬見惚れた。これ数年前だったら多分落ちてたな。職場の女子がレベル高い奴多くて助かった。というか俺はこの女学生を知っている、2年J組の雪ノ下 雪乃だ。いや、それだけしか知らないが。

 

「この人が……?」

 

「ああ。2年F組の比企谷だ」

 

「……ども」

 

 軽く頭を下げてもう一度改めて彼女を見る。彼女はこちらを一瞥してから改めて先生へと目を向ける。

 

「彼は自分から見学を希望したのですか?」

 

「いいや、私が連れてきた」

 

「先生が?なるほど……」

 

 そう言うと顎に手を当ててこちらを観察し始めた。そんな姿も非常に絵になるのだろうが俺がその対象となると話は別だ。見ないで。こっちを見ないでくれ。

 

 目を見られた。

 

 ちょっと引かれた。慣れてるから大丈夫だとはいえ、やはり傷つかないわけではない。慣れてるから大丈夫だけどな。

 

 と、その前にだ。

 

「先生」

 

 教室の隅に先生を呼び寄せる。

 

「何だ?」

 

「カモン」

 

 

 

「オイ女子なんて聞いてねーぞどうしてくれんだ」

 

「言ってなかったか?いやー、それはすまなかった」

 

「軽すぎんだろ。とにかく、こんな所にいられるか!俺は帰らせてもらう」

 

「フラグかな?」

 

 隅っこにああだこうだと言い合っていると、

 

「あの」

 

「……! ああ、すまんな」

 

「いえ。それよりも、彼の件なのですが」

 

 前置きして

 

「彼は入部希望なのですか?」

 

「そうだ」

 

「えっ」

 

 まだ俺、入るとか言ってないんだけど。

 

 分かりました、そう言って彼女は頷いた。

 

「彼の邪悪な目はこのままでは社会に悪影響を及ぼすかもしれません。目は口程に物を言うと言うように、いくら口では無害を語っていても既に彼の目は有害です」

 

「はい?」

 

「……っ」

 

 そこ、笑いを堪えない。

 

「彼をこの部に入れることでそれを少しでも緩和しようと考えているのかは分かりませんが、出来る限りの事はしましょう」

 

「あの」

 

 人の話をだな。

 

「っ!……あ、ああ」

 

 平塚先生の顔が強張って凄いことになっていた。この人、ポーカーフェイスが下手くそだから何時までたっても彼氏が出来ないんじゃねえのか。そんな彼女は白衣を翻すとそそくさと退散の仕草を始めた。……っておい!勝手に決めるな!

 

「そ、それじゃあ私は仕事に戻るから、後は頼むぞ」

 

「おい、逃げるな。いや逃げないで下さいテメーこの野郎「ドリルプレッシャーパンチ!!」

 

 何時の時代の人間だよ、というツッコミは間に合わない。モロに拳が入ってきた。

 

「おぐぅ!?」

 

 余りの衝撃に思わず崩れ落ちてしまう。痛え……!

 

「野郎ではない私は立派な女性だ。あとついでに教師だ。言葉遣いには気をつけるように」

 

「あ、あい……」

 

「それじゃあ雪ノ下、任せた」

 

「はい」

 

 立派な女性の拳の威力じゃねえよ。お、覚えてろ……。

 

 

 

 

    *

 

 

 で。

 

 全くあの人は、だとか、いちいち急過ぎる、だとかの愚痴を少し零した後に。

 

 

 

 

「貴方、友達はいるのかしら?」

 

 2人になって早々、こんな事を聞いてきやがった。デリカシーの欠片もねえな。ボールが友達、などと言えばどんな反応をするのだろうか。

 

 なんとなく予想が出来るので止めた。

 

「別の高校に一人だけな」

 

 そう答えると、目を見開いて彼女はこちらをまじまじと見てくる。そのリアクション、さっき貴女が言ってた人と同じリアクションですよ、とは言わなかった。虎の尾を踏む趣味はないのである。

 

「……嘘はついているように見えないわね。随分物好きな人なのでしょうね」

 

「そうだよ」

 

 隠すことでもなんでもない。あいつは紛うことなき変人だ。

 

「認めるのね……」

 

「嘘をつく必要がないからな。アイツは変人だ」

 

「そう……ともかく」

 

 立ち上がって少し歩き、長髪を揺らしながら振り返る。控えめな胸を張り、高らかに彼女は言葉を放つ。

 

「ようこそ、奉仕部へ」

 

 

 比企谷八幡。

 

 こんな部活で大丈夫か?

 

 

 

 大丈夫じゃない、大問題だ。




 あ ほ く さ

(初っ端から色々おかしくて)恥ずかしくないのかよ? はーつっかえ!やめたら物書き? もうホンマ使えんわ。運営に電話させてもらうね?(自爆して死亡)


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