二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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大きな声で ピリリカピララ 跳んで 走って 初投稿です

見てくれている皆様、ありがとうございます。これからもどんどんペースは不安定になっていきますが、銀河失踪する予定は今のところありません。

追記

前回のあらすじ

・クマゼミの鳴き声って人によって違うよね

・川崎TAISHI参戦

・大志くん弟にならないかな

あってるよね?


もようがえ

『おいィィィィィィィィ!!!!!! うんたらこうたら……』

 

「「「「……」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このウッソ君、ツッコミが長い。36点」

 

「ウッソ君言うな」

 

「つか赤点ギリギリじゃないすか」

 

「こっちの彼は別にスペシャルじゃないからねー」

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 ボーダーの部隊には、それぞれ部隊別の部屋がある。与えられた部屋のカスタムはある程度自由で、冷蔵庫やキッチンなどはエンジニアの皆様方が工面してくれたりする。本当にありがたい。いつもお疲れ様です。俺は絶対エンジニアにはなりません。そもそも俺文系だしな。

 

 そして例外なく、何故か隊長になってしまった俺の名前がつく、『比企谷隊』の部屋も支給されたのであるが、殆どと言っていいほどイジれていないのである。これには、結成から日がとても浅いという理由が大きい。出来て1週間くらいしかたってないからね、しょうがないね。 

 他にもタイミングの問題やアレコレがあったので本当に何も手についていない状態である。

 

 そして現在、この部屋には隊員全員が……はぁ。俺本当に隊長なんだな。マジで川崎弟辺りに押し付けたいんだけど。なんで面倒くさい会議とか出なきゃなんねーんだ。これも全部迅 悠一って奴の仕業なんだそうなんだ。なんだって!それは本当かい!?そうだよ。

 

 この部屋には、俺。

 

 天海。

 

 比賀。

  

 川崎弟。

 

 全員が揃っているのである。

 

『タイミング良く全員いますし、いっそもう部屋の模様替えしちゃいませんかー?』という比賀の一声により、満場一致(4人)で模様替えを行う事に決めた。

 

 さて、その模様替えなのだが。一人用の部屋なら簡単である。自分の欲しいものをある程度詰め込めばいいだけなのだから。玉狛支部にも、俺が木崎さんに師事していると言うだけで部屋が作られたが、既に書庫と化している。俺が稼いだ金は生活費、小町の貯金や小遣いなどを除いて大体は俺の収入(当たり前だが)になっている。自分用の金の中で、恐らく一番出費が激しいのは書籍代だろう。文系だから、という訳ではないのだが、俺は小さい頃から本が好きだった。それはいわゆる一種の好みというだけであって、別に他の人間と上手く付き合えなかったから本に逃げたわけではない。

 

 

 決してない。

 

 話が逸れた。そんなわけで、俺の部屋には大抵本棚が置かれている。天海は冷蔵庫だろう間違いなく。厨房で働いている上にカルピス大好きマン…… マン………?

 

 カルピスが大好きな奴だからな。

 

 こういうふうに、共用部屋ともなってくるとそれぞれのこうした願望があるわけで、全部を叶えようとしても無理だしエンジニアが死ぬ。そこで、

 

「川崎弟」

 

「名前で呼んで欲しいっす……」

 

「川崎弟」

 

「無視っすか!?」

 

「かわさきおとうと」

 

「ハイ」

 

「プリンターの近くにコピー用紙があるはずだから5枚くらい持って来い。良かったな、部隊初仕事だぞ」

 

 よく考えると、俺はこの小町を誑かす(可能性のある)野郎をある程度こき使えるとも言えるのだった。隊長特権をこんな下らない事に活かして良いのか?と言う奴もいるだろうが、俺の妹関係の事は下らなくないので却下だ。やり過ぎるとまたゴミいちゃん認定されちゃうからな、嫌がらせ程度にしておこう。

 

 因みにもう一つ理由があるのだが、これは単純で、ただ動くのが面倒というだけである。どれ位動くのが面倒かというと、六神合体するアレくらい動きたくない。アレは動かなくても倒せるってだけなんだけどね。

 

 今はいくら言っても無駄だと悟ったのであろう川崎弟、一応これからは心の中では大志と呼んでやろう―――がため息ひとつ、

 

「分かったっす…………」

 

と立ち上がった。その折、寝転がって『パタリロ!』を読んでいる比賀が

 

「大志くーん。場所は分かるー?」

 

 と聞いていたのだが、

 

「大丈夫っす!俺、この中のマップは全部覚えてるんで!!」

 

 元気に返していた。本当に無駄な所でハイスペックな奴である。

 

「つか比賀。お前それどっから持ってきたんだよ」

 

「諏訪先輩から借りてきました」

 

「あの人こんなの読むのかよ!?」

 

 

 

 

 

 

    *

 

 それぞれに配られた紙とペンを確認した後、取り敢えず提案を。

 

「取り敢えずこん中に欲しいもん全部書いてけ。後で4人全員で削ったりすりゃ、ある程度マシになるだろ」

 

「おー、比企谷先輩のそーいう個人主義的な所いいですねー」

 

「個人主義って程形式張ってねえけどな。単にまともな議論が面倒なだけだ。あと、座布団とかマットとかは好みがデカイから、個人の持ち込みとする」

 

「ん」

 

「分かったっす」

 

「全員が書き終わったらそれぞれ見せ合ってくぞ。んじゃ始め」

 

と、非常にリーダーシップが取れているようにも見えて、実は隊員がダウナー3人と後輩1人の為に手間が全くかからないだけというなんとも微妙なまとめ方をしつつ、全員がペンを紙に走らせるのを確認してから俺も書くことにした。

 

 

 

 

 さて、改めて考えることにする。

 

 まずは本棚だ。別にここで本格的に読み耽る事もないだろうからあまり大きなサイズのものは必要ないのだが、それでもいくつか本の種類は用意しておきたい。日本の、特に大正や明治末期辺りの作品もそうだし、ヨーロッパの作品もそうなのだが、あの辺りの時代の小説は、どこか人間の愚かさや愛憎を描いた作品が多いように思える。ドロドロした人間関係や騙し騙されの世界をよくもまあこれだけ描けるものである。俺ならしょっちゅうトラウマスイッチか何かをONにしてやる気なくすと思う。酷いよケロロ君。書いた人たちはなにか嫌なことでもあったのだろうか。これ以上考えると深みにハマるのでやめることにしよう。

 

 次。冷蔵庫。今みたいな夏だと、冷たいマッカンが美味しい季節である。勿論自販機でも買えるっちゃ買えるんだが、スーパーなどで売っている常温の安いやつを冷やしたほうがコスト的にもお得ではないだろうか。どうせここの電気代を払う必要はないんだから、利用したもん勝ちだ。

 

 また、ソファも必需品だろうと思う。人をダメにするソファは皆がグダる、特に大志以外の三人がダメになりそうなので却下とするが、普通の大きめのソファがあると非常に安らぐ。ソファに座り冷たいマッカンを飲みながら小説を読む夏。

 

 

 

 

 すげえカッコよく思えてきた。これは是非採用させたいところだな。

 

 一旦の欲しいものは書いたのでここで少し筆を止めて思考を始める。

 

 

 

 …………こいつら、ちゃんと真面目に書いてるよな……?

 

 大志の奴はなんだかんだいって真面目な奴だから大丈夫だろう。トレーニング機器とか書いてそうだよな。2つまでなら多分許すかもしれない。俺もちょっと欲しいし。あとはまあ知らん。興味もない。が、精々個性があっても他の二人には勝てないだろう。

 

 問題なのは天海と比賀だ。比賀はもうひと目で分かるボケ担当な話し方をしてるし、恐らく実際その通りだろう。天海もすました顔してボケまくる変な奴だしな。あれは天然なのか?だとしたらやっぱりすげえよミカは。ミカって誰だ。しかも多分使うシチュエーションが違う。

 途中までは天海は大丈夫だ。つか絶対冷蔵庫って書いてるだろうし。後もまあ、当り障りのないものがいくつかあってから爆弾が投下される感じだろう。

 

 本当にやばいのは比賀。コイツが中々に面倒でそもそも俺はコイツと出会って日が浅いのもあるんだが、あんまりお互いの事を知らないのだ。この知らない、というのは、予測が不可能であるという点で非常にキツイデメリットとなる。どんな爆弾が投下されるか分からないという考えただけでやる気がなくなっていくパワーがコイツにはあると思う。

 

 いいや、諦めよう。俺も俺の欲しいやつドンドン書いていこう……。

 

 

 

 とは言ったものの。他に欲しいものが特に見当たらない。冬になればコタツなど、欲しいものも出てくるのであろうが……。

 

 エアコンはなんか凄い技術で付けてくれたので冷暖房についての文句もないし、そもそも別にここにもの凄くいると言うわけでもない。少なくとも小町がいる間は家を出ようとも思わないしな。

 

 まあ後は掃除道具くらいか?掃除機とワイパーを紙に書いて、終了。案外出ないもんだな。まあ、コイツらが大体出してくれるだろうというのもあるが、俺自身余り余分なものを買わないから、そのせいかもしれないな。

 

 

 

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 いきなりパシらされて、一体何がと思ったけど、こういうことだったのかと納得する。前に会った時と変わらない、濁った目こそしているものの、やっぱり総武の人たちは皆凄いんだなあと実感した。ということは、自動的に姉ちゃんも凄いということで……自慢の姉だ。オレも頑張らないと!ボーダーに入って勉強は大変になると思うけど、オレだって絶対に総武高校に受かってやるんだ!

 

 ……その姉ちゃんにボーダー隊員になることになったって言ったら殴られたけど。身長はオレの方がそりゃ高い。だけど姉ちゃんの拳はボディにモロに入ってきて超痛いんだよな。怒ったら母さんよりもずっと怖いし。ま、そんな姉ちゃんを怒らせたオレも悪いんだけどな。

 後悔はしてない。姉ちゃんが今までどれだけ俺達の為に苦労してきたかはきっと分からないけど、だけど姉ちゃんには大事な将来が迫ってる。オレだって高校受験だけど、大学受験に比べたらずっとずっと楽だろう。競争人数はそりゃ多いけど、大学受験程じゃない。このまま学校で勉強を頑張っていけば入ることも出来ると先生にも言ってもらえた。だから、後悔してない、ハズなんだけど…………

 

 お兄さんがボーダーに入ってるって聞いた時はビックリしたし、入ったら偶に会うかもな、とも思ってたけど、まさかそのお兄さんの部隊に入れられると思ってはなかった。しかもスカウトみたいな形で!やる気が上がっていったんだけど、お兄さんはオレを敵視しすぎだと思うんだ。

 

 

 俺は比企谷さんが好きだ。時には暗い時もあったけど、いつでも元気に笑っていて、男女問わずに仲良く接してくれる。あと、その。……可愛いし。顔だけじゃないってのは当たり前だけど、その顔も凄く抜群だと思う。声だってハツラツとした明るい声で、聞くだけで元気になる程だし。

 

 ……でもまあ、そんな比企谷さんは全く自身の恋愛事に興味を示さない。お兄さんの懸念も分かってるつもりだ。オレだって姉ちゃんが得体も知れない相手と付き合うなんて聞いたら絶対に特定してやると思うし。だけど。比企谷さんについては安心していいと思う。自分で言うのもなんだけど、振り向いてもらえる気配は微塵もないからなあ……。『気の合うお友達』くらいにでも思ってもらえていたらラッキーなくらいかもしれない。

 

 比企谷さんはとにかくモテる。何人もの男子に告白されているハズなんだけど、ただの一人さえOKしてもらった奴はいない。個人的にはホッとしたいんだけど、オレ相手でも恐らくそうなるのが目に見えている以上少し複雑な気分だな、と思う。はぁ……遠いなあ。

 

 と、いけないいけない。何書くか、まず考えなくちゃな。

 

 まず、欲しいのは……やっぱり座るものかなあ?今だって地面に座って書いてるし、机は一応背の低いものがあるけど、やっぱり椅子的な何かが欲しい。椅子、と書いておこう。

 

 えーっと、あとは……やっぱりトレーニングって大切だよな!トリガーを起動すれば、脚力とかは上がるけど、でも柔軟とかはやっぱり必要だと思う。いざって時に色んな動きを出来れば、勝てない敵から逃げる時だって使えるだろうし。マット……と。

 

 あとはまあ、冷蔵庫とオレ達も使える机があればいいなあ。ここで勉強できる時間があればしておきたいし、比賀先輩のデスクに座るのも、ちょっと、まあ、アレだし。

 

 うーん……。作戦室って聞いてたから、あんまりゴチャゴチャしてたら悪いだろうし、これくらいかなあ。

 …………あ、ベッド。疲れた時に寝られるように、仮眠用のベッドなんかがあればいいんじゃないか。お兄さんとかめっちゃ使いそうな気がするけど。

 

 

 あと、こういうのも欲しいかな?

 

 

 ……よし!これで完成だ!

 

 

 

 

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「……全員書き終わったか?」

 

「はい!」

 

「黙れ」

 

「えええ!?」

 

「ん」

 

「はーい」

 

「じゃ、恐らく一番地味な川崎弟から発表していけ」

 

「地味って…………まあ分かったっす」

 

と、ため息を吐きながらも発表してくれるようだ。男の、特にお前のツンデレはいらねえんだよ。

 

「えーっと、まず、冷蔵庫っすね」

 

「俺も書いた」

 

「僕も」

 

「私も書きましたー」

 

「あ、やっぱりっすか?」

 

「これは全員一致だから確定な。次」

 

「分かったっす。次は、椅子とか机?ですかね」

 

「あー、そういえば比企谷先輩達にはなかったんですっけ」

 

と比賀。オペレーターには専用の机や椅子がはじめから支給される仕組みになっているのだ。まあ、仕事もあるだろうしこれはしゃーない。……椅子か。

 

「川崎弟」

 

「名前で……いえ、なんすか?」

 

「ソファでいいかそれ」

 

「ああ、成程。勿論っすよ!あ、でも机で作業するようの椅子はちゃんとした椅子のほうがいいっすかね」

 

「異論は?」

 

「ソファ……」

 

「ソファ……いいですねー」

 

「うーんこのぐうたら部隊」

 

 

「あと、仮眠用のベッドか何かあれば嬉しいっす!」

 

「「わかる」」

 

「分からな……くもない」

 

 これも満場一致で決定。女性用と男性用として二段ベッドを注文することにした。あと、周りのカーテン。比賀は女子だし、寝顔を見られるのに抵抗もあるだろうとのことだ。本当はベッドを個人で分けたくもあったがスペースの問題も有りそれは却下とした。ちなみに比賀曰く、「天海先輩はどっちでもいいですよー」らしい。天海が普段らしくなく、何故か困惑していたのが気になったが、今は特にいいだろう。

 緊急脱出用のマットはあるが、比賀はオペレーターなので使う機会は殆ど無いし、第一マットというだけあって寝心地はベッドに比べるとイマイチなのである。

 

 

「他には?」

 

「これはオレの一番個人的な要望なんですけど……マットです」

 

「マット?」

 

「えっと、トリガーを起動したら力も強くなるし足も早くなるじゃないですか」

 

「ああ。それがどうした」

 

「それはいずれ慣れることができると思うんですけど、身体の柔らかさとかってどうなるんだろうって思いまして。体育とかで使われてるマットを柔軟とかに使えれば、健康にもなりますし違和感もなくなるんじゃないかなー ……とか」

 

「……ふむ」

 

 まあ案の定トレーニング用具の要望が来たわけだが、案外理にかなっているかもしれない。俺のように、普段運動していないような奴(登下校を除く)は身体が柔らかい方ではない。因みに戸塚は柔らかい。柔らかい。やわらかそう。やわらか戦車ではない。だが、戸塚を愛でたいという心は1つだ。

 

と、ここで天海が手を挙げる。

 

「……はい」

 

「天海」

 

「家にある」

 

「え?本当っすか?」

 

「うん。大人の先輩に車動かしてもらって取りに行けばいいだけ」

 

「天海、いいのか?」

 

「やる気があるのはいいこと」

 

「先輩……!!」

 

 と、大志は感動しているが、俺は勿論、比賀も恐らく知っているだろう。この天海の、

 

『やる気があるのはいいこと』

 

 の裏に『やる気があるのは(僕の仕事も減るし)いいこと』という本音が隠されている事を。とことん楽をしたいという願望が漏れているのは確定的に明らかである。勿論言う訳がないけどな。がんばれ大志。

 

「で、あと…………」

 

「まだあるのかよ。あと1個だけだぞ」

 

「お菓子ねだってる子供みたいに言わないで下さい!これで最後ですから!……えっと、スケジュール表みたいなのが欲しいですね」

 

「スケジュール表って学校の職員室とかにあるホワイトボードみたいなやつか?何でだよ」

 

「えっと、この部屋の掃除のローテーションとか書けたらいいなーって思いまして」

 

「掃除か。別に気付いた奴がやりゃいいと思うけどな」

 

というと、大志は苦笑しながら「まあそうなんですけどね」と言った。

 

「ベッドのシーツの洗濯とか、結構一人だと大変な事も多いんじゃないかなと思ったんすよ。で、ある程度誰がいつどこをやるかって決めとけば負担が偏る事もないんじゃないすかね」

 

「はーい」

 

ここで比賀の手が上がる。

 

「大志くん、正直それってLINEで良くない?」

 

LINEで人と話すことなんて連絡事項以外にない、それこそ殆どない俺はこれについてはノーコメントを貫く。大志は気に食わないが、LINEを使うというのもどうにも、合わない気がするのだ。

 

「えっと、オレ、まだ中学生なんで携帯持ってないんすよ」

 

「あー、なるほどー」

 

 あははと大志は笑う。俺は小町には連絡用に持たせているが、以前話を聞いた時や今コイツがボーダーで働こうとしているという事が、川崎家の経済事情を思い出させる。子供が多いと辛いこともあるものだ。4人だっけ?そりゃ懐も厳しくなるだろう。こちとらガキ二人で生活してるが、ボーダー隊員でなくアルバイトならきちんとした生活を送るのは厳しかっただろう。なのに親2人で合計6人を養うというのは、中々恵まれている会社でないと難しい。子育てには金がかかるのだ。川崎姉も弟も、それを分かっていたからこそバイトをしていたり今こうしているのだろう。

 

 そうした事情を知らない比賀だが、

 

「まあ私もスマホは高校生からだったしなー」

 

と納得したので余りスペースを取らない壁にかけるものを頼むことにした。

 

 

 

 

 

「次は俺な」

 

「えー、隊長は最後って相場が決まってるじゃないですかー」

 

「どこの相場だ」

 

「アニメです」

 

「却下」

 

「(´・ω・`)そんなー」

 

「出荷はしないからな?」

 

 

「冷蔵庫とソファは出たから除外するぞ。まず、本棚」

 

「あー」

 

「おに、比企谷先輩らしいっすね」

 

「……僕も欲しかった」

 

まあ、本棚で特に拒否反応が出るやつもいないだろう。俺や天海はバリバリの文系だし、比賀や大志だって本が嫌いという訳ではなさそうだしな。

 

「んじゃ、採用していいか。ちなみに共用にしようと思うから、本持って来たいって奴は持ってこい」

 

「はーい」「はい!」「……」

 

「次。掃除機とワイパー。ク○ックルワイパーみたいな奴な」

 

「構わない。どうせ掃除するなら必須」

 

「オレも賛成っす」

 

「……ちょっと気になったんですけどー」

 

ん?

 

「どうした、比賀」

 

「エンジニアさんの作った掃除機とダイソンの掃除機、どっちのがよさそうですかねー」

 

 

 あー……。あの人達、大抵なんでも作れるから掃除機も自作できそうだわな。人出が足りてなさそうなのに、喜々として色んな物を開発したがるその姿は変態と言ってもいいくらいだ。

 

「…………」

 

「うーん……」

 

「……トンデモ機能付いてきそうだよな」

 

「負担もかかるでしょうし、掃除機は市販のを選びに行きますかー」

 

 

 

 

「……俺の分は終わりだ」

 

「男揃って堅実ですねー」

 

「悪いかよ」

 

「なんかー、地味です」

 

「うるせえ」

 

 丁寧語こそ使っているものの、この比賀という女、中々にスパっと言うタイプだ。ダウナー系雪ノ下、みたいな。いやでも雪ノ下ほどじゃないな、こっちは感想を述べてるだけだがアイツはそれに加えてよくわからん薀蓄まで加えて俺を罵倒するからな。雪ノ下に勝っている点といえば、背の高さと頭の柔軟さ、あとは何よりその、由比ヶ浜クラスの胸部装甲だろう。でけえ。

 

 

 

 

「……じゃ、次は僕?」

 

「おう」

 

正直不安しかない。もしこれが初めの頃ならもう少し信用出来ていたのかもしれないが、天海の世俗とのズレ方が分かってきた今、こいつがどんなことを言うのかが怖いくらいだ。恐らく本人に悪気がないから余計にたちが悪い。

 

 俺は知っている。『あたし、ちょっと天然でさー』などという女は大抵天然でもなんでもなく、狙ってやっている事を。中学の頃にもそういう奴は沢山いて、ちやほやと男子に持て囃されていたが人間観察力を育てていった当時の俺にも分かっていた。紛れも無く演技である、と。実際、周りの男子がグラウンドに遊びに行っている中、俺が机に突っ伏しているとそいつらの本当の素顔の声が遠慮なく聞こえてきた。つまりこの時既に俺は、ステルスを習得していたんだよ!!な、なんだってーー!?

 ちなみにどれくらいの技術かというと、修学旅行の集合の時の点呼を一人だけ忘れられていたレベルである。天才じゃね?

 

「じゃ、まず」

 

「…………」

 

「キッチン」

 

 ……あー、そういやこいつ料理好きだったわ。同じ『趣味が料理』でも、こいつと由比ヶ浜では年季が違うというものである。例のバーの件の時、天海の作った料理を食べてみたのだが、初めの弁当くらいの薄味だったので理由を聞くと、ワインやカクテルの風味を損ない過ぎないように、初めから薄味にしておいて、客の好みで塩や胡椒などを足し、味を加えるためらしい。その作り方に慣れていた為にあの薄味弁当だったのだという。これであの弁当の全てに合点がいった。

 

 今では俺に弁当を作る時はちょうどいい味付けになっていて、旨い。昔からあるようなオーソドックスな弁当ではありつつも、決してワンパターンではなく新しい料理も入れてみたりと、様々な試行錯誤をしてくれている。もう愛妻弁当である。女子力が高すぎるんだよなこいつ。見た目的にも家事スキル的にも。

 

 と、この時比賀がこちらに耳打ちをしてきた。

 

「(先輩、先輩)」

 

「(なんだよ)」

 

「(天海先輩って、その、料理作れるんですかー?えーっと、ですねー、あのー、加古先輩みたいな……)」

 

「(安心しろ。天海の料理は10割アタリだ)」

 

「(おおお、それはそれは!!良かった!あの地獄はないんですね!!)」

 

 

 

「(……もしかして、1回死んだか?)」

 

「(はい…………)」

 

「(あっ……)」

 

 

ご愁傷様(建前)。ざまあみろ(本音)。

 

「私は賛成ですよー」

 

「俺もだ」

 

「オッケーっす!」

 

「ありがと。優希ちゃんと大志くんには、今度フレンチトーストを作ってくる」

 

「「やったー(!)」」

 

「……俺は?」

 

「シナモンとリンゴのケーキ」

 

「本格的だった」

 

 やったぜ。

 

 

 

「テレビ」

 

「プリキュ」

 

「違う」

 

 速攻で否定された。天海も、三ヶ月近く俺といたからか(俺にとっては奇跡レベルの話でもあるんだが)、俺の事をよく分かっておられるようで……。

 

「ゲーム用。優希ちゃんと対戦する」

 

「携帯機だとどうしても操作がしにくいですし、やっぱり据え置き型のぷよぷよに限りますねー」

 

「そんなもんなのか」

 

 俺はあんまりゲームとかはしないから分からんが、こういう世界もあるということだろう。ガチ勢はどこでも怖いということだな。こちらとしては遺憾なんだが、恐らくこの点については大志も同じ意見なのだろうと思う。すげえ複雑な表情してるし。せめて感情を隠せよ。

 

「オレはゲーム殆どしないんで分かんないスけど、テレビ自体が見られるなら全然いいっすよ」

 

「ニチアサ見せろ」

 

「ニチアサは録画してるんじゃ?」

 

 

「甘い。マッカンより甘いぞ天海。ああいうものはな、リアルタイムで一回見てから来週の放送直前に復習として見るもんなんだよ!」

 

「……なるほど。僕もガンダムはそうしてるような」

 

「いやチョロすぎるっすよ!!」

 

 

「あ、そうだ。川崎弟。いい機会だから言ってやる」

 

「はい?」

 

「これまで俺がやってきた、あいつらのボケへの対応、お前にも回ってくるから」

 

「えぇ…………」

 

「? なんか言いましたー?」

 

「いや、何も」

 

 

 

「以上」

 

「……あ?あ、ああ」

 

 

 あれ?なんか普通だった。ぶっ飛んだアイデアが出てくるかと思っていたのだが。

 

「比企谷くん、どうしたの?」

 

「……お前はちょっとズレたアイデアが出ると思ってたからな」

 

「僕をどんな奴だと思ってるの」

 

「やべー奴」

 

「……それは違う」

 

 変な空気になった。ごめんなさい。

 

 

「じゃー最後は私ですねー?」

 

「おう」

 

 天海が真面目だったために、どうしても比賀が怖くなってくる。会ったばかりだから殆ど話したことなんかないんだが、会話の片鱗から変人っぽさが既に漏れてきていて、ヤバイ。

 比賀はスマホを操作して、何かにタップした後にオペレーターデスクの上に置く。そして、

 

「ワガナハヒガユウキ。イクゾー!」

 

『デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

 デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!』

 

 

 何この音楽。雰囲気作りのつもりか、帝国のテーマ感溢れるBGMが流れ始めた。ただ、1つ言わせてもらうなら、今は決してそんな音楽が流れる雰囲気じゃねえよってことだ。

 

 

 

「えーっとまずはー」

 

 あ、BGMそのままなのな。

 

 

「扇風機ですねー」

 

『ぺーぺぺぺーぺーぺーぺーペペペペッペー

 ペッペッペペペーペペペッペッペーペペー

 (デッデッデデデデ!〈カーン〉デデデデ!)』

 

「エアコンあるだろ」

 

「扇風機があると、風が動くのでエアコンの効きがもっと良くなって便利なんですよー」

 

『ぺーぺぺぺーぺーぺーぺーペペペペッペー

 ペッペッペペペッペーペッペーペーペペー

 (デッデッデデデデ!〈カーン〉)』

 

「あー、姉ちゃんも言ってました。手っ取り早く部屋を冷やせるからって」

 

「そうでしょー?」

 

「んじゃ採用でいいか」

 

『テレレーレーレレーテレレレーレーレテレレッテー(カーン)』

 

 

「でー、ロッカーも欲しいですー」

 

「あー、成程な」

 

「思いつかなかった」

 

「へへー」

 

『テレレーレーレレーテレレレーレーレテレレッテー(カーン)』

 

「んじゃ採用でいいか。次」

 

「えーっと……出来れば軽くお化粧が出来るスペースが欲しいかなー」

 

「女の人ってやっぱ大変っすね……」

 

『テレレーレーレテレレーテレレレレーテレレレレー(ドドドド!)』

 

「いい加減BGM止めろよ!」

 

 

 

「怒られたー……。酷いですー」

 

「無駄に勇猛な雰囲気作ろうとするな。他には?」

 

 というか、化粧室やらロッカーやら、俺達三人が思い浮かばなかった事をドンドン出してくるなコイツ。女子特有の目線、特に化粧室はそうだが、無駄なく必要な物を提案してくる。邪推した俺が馬鹿みたいだ。

 

 人は見た目によらない。人から持て囃される女子の裏の顔が酷いなんて話は多く聞くし、可愛いけどワガママすぎてついていけないなんて女子だっている。らしい。綾辻だって顔は可愛いし性格だって真面目だが、はいだしょうこ画伯みたいな絵描くって聞いたし、木虎は散々俺を馬鹿にしてくるし、雪ノ下も散々俺を馬鹿にしてくるし、由比ヶ浜もなんだかんだで俺を馬鹿にしたりしなかったり…………

 

 

 あれ、俺やっぱり女子に嫌われてるんじゃね?

 

「まあ後はポットとか洗剤とか、キッチン用具と、あと掃除道具はやっぱり欲しいですねー。ま、これくらいです」

 

「おう」

 

 各々が言った事を俺の用紙に書き出して、残り1枚大志に用意させた紙に清書して終わりだ。

 

「綺麗にまとまりましたね!」

 

「さえずるな」

 

「俺は雀ですか!?」

 

「じゃあ俺はコレを提出してくる」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 前にも言ったが天海や戸塚の声は高い。変声期が無かったのか、あるいは変声期でも声があまり変わらなかったのかは知らないが、まるで女子みたいな声だ。

 天海は少し幼い薄幸の無表情ガール、って何言ってんだ俺。声に抑揚は殆ど無く、また女子の声で分類分けするなら少し低い。一方戸塚も女子の声ジャンルの分類では恐らく低いだろう。自分で言っておいてなんだが、女子の声など殆ど聞こうと思わないので分け方は適当だ。小町や由比ヶ浜の声は高い方に属するだろう。そう、戸塚の声のイメージは……男勝りな少女みたいな?具体的に言えば妖怪とそれを退治する槍が出てくるアニメのヒロインみたいな感じだろうか。

 

ともかく、この二人の声で「いってらっしゃい」と言われるのは、中々にグッと来るものがある。幼妻感が出てこないだろうか。

 

『八幡、いってらっしゃい!』

『八幡君、いってらっしゃい』

 

 

 

 

 アリだ。 \アリだー!!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、鬼怒太さんにこの紙を見せたら、

 

『お前らの部隊だからどうなるかと思ってたぞ!』

 

と喜ばれた。どうやらこっちでも変な想像をされていたようだ。また、どこか俺みたいな卑屈さを備えた根付さんにも

 

『大丈夫なんですか?』

 

と心配されるほどである。

 

 

 

…………大丈夫かな、俺。

 

 

 

 

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「そういえば、樹兄も野球よく見るよね。私は勿論ヤクルトだけど、樹兄はどこを応援してるの?」

 

「僕は、中日」

 

「へぇ、私の学校は大体巨人ファンだよ」

 

「それは珍しくない、と思う」

 

「関西から来た子はね、いっつも『Vやねん!』って言って阪神を応援してるの!」

 

「それもイメージ的には珍しくないね」

 

「あ、パ・リーグならどこが好き?」

 

「ダイエー」

 

「もうないよ……」

 

「(比企谷くんは絶対マリーンズファンだろうな)」




 冒頭のは簡潔なツッコミを理不尽に(天海談)受け続けたために長いツッコミにソリが合わない天海の考え方であって、私自体は別に某作品は嫌いでもないですし好きでもありません(保身)

 ツッコミの長さが苦手なのは事実ですが、キャラクターの個性やBGM、またこの作品にも言えることかもしれませんが、版権作品を遠慮無くパロっていくのは結構好きだったりします。『ケロロ軍曹』もガンダムネタが多くて私は好きですが、冬樹君がね……非常に残念です。


もとねたたたたた

・これも全部迅 悠一って奴の仕業なんだ
ファイズでは実際に言われてないけどガンバライドで使われてたので公式です、きっと。


・酷いよケロロ君
『ケロロ軍曹』に登場するドロロ兵長の持つ特技(?)、トラウマスイッチが発動した時の台詞。

・ダイソンの掃除機
補足いる?

・○○だったんだよ!!な、なんだってー!?
補足いる?(2回目)
週間少年マガジンにて不定期に掲載されていた『MMR(マガジンミステリー調査班)』が元ネタ。こいつらいつも驚いてんな

・据え置き型ぷよ
ぷよ通と初代ぷよは至高。SUNの漫才すきだけど太陽ぷよはきらいだよ フィーバーは嫌いじゃないけど好きでもないよ

・ワガナハヒガユウキ。イクゾー!
ワガナハカール・アウグスト・ナイトハルト。イクゾー!
ロマンシング・サ・ガのリメイクで一気に輝いた人。熱い棒読みが光る!

・デッデッデデデデッ!(カーン)以下略
↑の人のテーマ。すき。

・妖怪とそれを退治する槍が以下略
アニメ版『うしおととら』に出てくる中村麻子ちゃんの声優がみかこしと聞いて、思わず。単行本は全巻持ってます。他の藤田和日郎先生の作品だと、『からくりサーカス』と『黒博物館ゴースト・アンド・レディ』は見ました。

・\アリだー!!/
これ前にも使ったような。ロマサガ2を知ってる人は皆知ってるネタ。気になった人は某ニコっとした動画で検索すれば出てきます。

・Vやねん!
まずいですよ!
正式名称は『Vやねん!タイガース』。2008年に発売された雑誌のタイトルです。当時阪神は巨人に13ゲームの差を開けていたのですが、これを発売した時には大分巨人に詰め寄られており、あの『メークレジェンド』の立役者となってしまいました。戦犯ニッカンスポーツ。


ではでは。

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