いつも見ていただき有難うございます。2週間に1回か1週間に1回くらい更新できればいいなとか。一日30~45分のペースで書いてるので、大体字数は一日に1000字かそれをちょっと超えるくらいです。
前回のあらすじ
・天海、バレる【定期】
・太刀川と戦うことに
・小町「テヘッ」比企谷「ウソダドンドコドーン!」
ほんへに入る前にちょっとした設定があったりなかったり。
『飛影!』
『…………』
『合体だ!』
「「「「………………………………」」」」
「ドーモ、シャーマン=サン。トビカゲデス。…………あれー?」
「経験値返せ」
「経験値かえして」
「資金返して下さい」
「大志君まで被害にあってるのー!?」
「UX、ランカ、敗北条件…………うっ、頭が」
「やめろォ!」
※ほんへには全く関係がありません。
+どうでもいいお話
「そう言えば天海、前からずっと思ってたんだが、お前どっか言葉のイントネーションおかしくないか?」
「……僕は千葉生まれじゃないから」
「えっそうなんですか!?」
「ん。和歌山生まれ。小さいころに引っ越してきたから千葉育ちだけど、その小さい頃のが残ってる」
「成程」
※追記 和歌山生まれはともかく、【引っ越した】ということがモロにメインに絡んできていたことが判明、無事重要項目になりました。
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時偶に揺れる車内。窓の外から流れる景色はビルが立ち並ぶ光景から少しづつ離れていく。流れれば流れる程に緑が多くなり、山々が生い茂る緑に覆われる姿がハッキリと見えてくる。
天海の妹が登場した後も、少しいろいろとあって皆無駄に疲れたのか、女性陣は雪ノ下以外眠りについている。その雪ノ下でさえも少しうつらうつらとしているほどだ。後ろを振り返れば戸塚と天海が肩を寄せあって眠っている姿がある。天使かな?
同じ天使の二人だが、それぞれタイプが全く異なっている。戸塚はスポーツをやっているからかもしれないが、顔に反して筋肉の付き方や肩の形がキチンと男子っぽく、『女装男子』タイプである。一方天海の身体つき、と言っても身体全体を見たわけではないのだが―――肩の形状や手の柔らかさ、匂いは完全に女子のソレだ。趣味が趣味なので男子っぽく思えるのが救いか。こちらは完全に『男の娘』タイプだ。
何言ってんだろな俺。疲れてるんじゃね?まあ騙されて無理やりボランティア参加だもんな、疲れるのも仕方ない。全部平塚先生が悪いってことだな!
キャンプという言葉から嫌な予感はしていたものの、まさか本当に妹に騙されているとは思わなかった。先生からは怒られた上に暑い思いもしなくてはいけない。子供の面倒も見なければいけない可能性も高い。拷問の間違いじゃないだろうか。
さて、着くまですることも特にないし、朝のアレでも思い返す事としよう。そう、天海の妹が来てからだ――――――
*
天海妹(夏菜と言うらしい)が登場してからしばらく、彼女は由比ヶ浜と小町に質問攻めに遭っていた。かわいそう。しかも小町、普通に天海妹とは面識があるらしかった。つか、中学校が同じらしい。尚且つ俺と天海の話を聞いてからはお昼まで一緒に食べることもあるようだ。
俺と天海とやってること一緒じゃね?それぞれ兄妹のDNAは変わらないということだろうか。だが、それでは何故あいつが慌てていたのかの理由が分からない。なので聞いてみた。
「なんでお前、そんな焦ってんの?」
返答は以下の通り。
「…………お兄ちゃんから見て、ナッちゃんってどう見える?」
「ん?んー……なんか不運そうだわ、色々と」
「でしょ?薄幸の美少女じゃん?」
「それがどうしたんだよ」
「どうしたもこうしたもないよ!そういうのってキャラ人気高いんだから!」
「おい」
「妹としては一番多く出てる小町だけど、ナッちゃんが入ってきたら妹部門での栄光が……!」
ごめん最後何言ってるのかちょっと分からなかった。ま、取り敢えず。
「車乗っとけ?」
「お兄ちゃん、もうちょっとかわいい妹を気遣う気持ちとかないわけ?」
「俺の優しさの8割くらいはお前に向けてるつもりなんだが」
「残りの2割は?」
「バッカお前、戸塚と天海に決まってるだろ?お前は小悪魔、あの二人は天使だ」
「ゴミ」
「申し訳ありませんです」
謝った所で、いつの間にかこちらに来ていた天海妹から話しかけられた。あまり近くに来ないで。緊張するから。
「初めまして、いつも樹がお世話になってます!小町先輩にも色々と親切にして頂いて、有難うございます」
「お、おう。小町のはあいつに言ってやれ」
どもりながらもなんとか返答を返す。あーくそ、多少は慣れたかと思ったけどこういうタイプは苦手だ。丁寧に接された事って数少ないんだよな。はぁ。
「天海 夏菜と言います。私の知人の頼みがあって樹兄に参加してもらうことになったんですけど、結構ズレてるので手綱を引いてあげてくださいね」
成程。天海が自分から進んでこんなキャンプのボランティアに来る筈がない。俺が行きたくないんだから基本同じ性質のアイツが喜んでこういう行事に参加したいとは思わないだろうから、なんで来たのか俺としては疑問だったのだが妹の頼みか。仕方ない。断れないのだ、兄というものは。
「ん」
「よろしくお願いします」
と頭をまたもや下げられる。本当に礼儀が正しい子である。一体どう育て方を変えたら天海の妹がああなるのだろうか。いや、天海がああなったから妹もしっかりするようになったと考えるべきか。などと色々と考えていた時である。その天海妹の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「あ、そう言えば小町先輩。あの告白、どうなったんですか?」
は?
は?
一方、当事者である小町は全く動揺せずに天海妹に返す。
「ナッちゃんこそ、また告白されたらしいじゃん」
「!?」
今度は天海がバッと此方を向いた。その目は見開いていて、何時ものような眠たげな目、「面倒くさい」「帰りたい」とまるで「だるい」連呼な人のような雰囲気は消散していた。しかし天海妹は涼しい顔。お前ら何してるわけ?
あと、奇遇でもないが天海、お前の気持ちはよく分かる。じゃあ皆、
「「ちょっと殺ってくる」」
二人で足を向ける。誰が告白したかなど、適当に脅せば出てくるだろう。中学生と高校生との間ではれっきとしたカーストや差が存在する。高校生というだけで、発言力が(一部を除いて)一気に高まるのである。ちなみにその一部は俺だ。だが今回はシスコンモードの天海がいるし無事にヤツラをさt
「待てい!!!」
……考えは、拳により阻まれた。
ガッ
「ぬるぽっ!」
ゴッ
「~~~~~!!!」
ほとばしる痛みに俺達は思わず頭を抱える。見上げるとそこには、少し腫れた拳をさすっている平塚先生の姿があった。
「教師として生徒を殺人事件の容疑者にするつもりはないからな」
と、呆れる先生。生身では少なくとも未だ勝てる気配が見当たらないので渋々諦める事にした。いつもどうやって修行をしているのだろうか。
「女は秘密を着飾って美しくなっていくのさ」
なるほどそうなんですね。うん、平塚先生って美人なんだよな。スタイルもいいんだよな。うん。残念美人を地でいくタイプだと思う。で、
「「全くお兄ちゃん(樹兄)はシスコン(過保護)だなあ(だねえ)」」
苦笑しながら放つセリフが被る妹コンビ。その後お互い睨み合って、
「「……………っ!!!!!!!!」」
無言のにらみ合い。その後、
「……ナっちゃん?小町、ナっちゃんの為にも負けないよ」
「……小町さんこそいつも大変じゃないですか?私、頑張れますよ」
と双方共に宣言した後、
「「~~~~~~~!!!!!!」」
またなんか始まった。戸塚も由比ヶ浜も雪ノ下も(こいつも妹のはずなんだがな)、平塚先生でさえも置き去りにした無言の中のバトル。俺と天海はただ痛む頭をさするばかりで、二人に構っている余裕がないのである。これだけで、どれくらい平塚先生の拳が痛いか分かっていただけると思う。春よりもパワーアップしているように思えるが、修行でもしたのだろうか。というか、あの二人は一体何と戦っているのだろうか?
*
争いも引き分けで終了し、出発時間も迫ってきた時のこと。
「というか、ナツ。来たのはいいとしても、ちゃんと帰ること、出来る?」
と問いかけた。ここまでは隊内で最も生身の戦闘力が高い天海が付き添ってきたから安心だったが、帰りも車椅子となると厳しい物がある。それを理解しているのかはさておきとしても、天海妹が少し目を逸らした時点で何も考えていなかったのは明白だろう。
「…………大丈夫だよ?」
「待って」
「多分皆いい人だろうし」
「だから待って」
「うん、きっと大丈夫!」
「……先生」
と、天海が平塚先生に懇願するように助けを求めた。声音が弱々しかったので流石に平塚先生でも理解をしたものの、顔が変わらないというのはやはり不気味と思われるのではないか、と他人事ながら不安にならないこともない。因みに天海が平塚先生を頼った理由は、この時点で一番安全に天海妹を送ることが出来るだからだ。先生は苦笑しながら「分かったよ」と快諾。やっぱええ人やでぇ……ホント、なんで彼氏は出来ても結婚まで行かないんだ?プライベートか?男を見る目が無いのか?恐らく後者であろう。男を見る目が良ければ多少プライベートが独特でもなんとかなる気がするし。誰かいないかなマジで。
「さて、全員乗りたまえ。席は君達の好きにするといい」
先生はそう言うと運転席に乗り、エンジンを掛ける。席順は当然女性陣と男性陣で分けるとしても、問題は天海妹である。天海、俺、戸塚、由比ヶ浜、雪ノ下、小町。これに加えて車椅子である天海妹を乗せるスペースなんぞ……
「あ、当たり前ですけどこれ折りたためますよ」
あった。荷物を足元に置いて車椅子を折りたたみ荷物スペースへ。天海妹は女性陣or天海に付き添ってもらえば問題無いだろう。チラリと天海の方を向くと、コクリと頷いた後に、
「じゃあナツ、せーので行くよ」
と妹を支える体勢へ入る。これがまた慣れているので絵になっているのである。傍から見ると美少女姉妹間違いなし!
「うん、ありがとう」
「ん。じゃ」
「せーのっ!」「せーのーっせ!」
ズレて上手く体が浮き上がっていない。
「……ワンクッション置くよ。じゃ」
「せーの、っ!」「せーのっせ、んっ!」
「あるあるだよね~」
「人によって『せーの』のタイミングが違っているのは何故なのかしらね」
「分からん」
四苦八苦あって『1,2の3』で落ち着いた。
最後部に女性3人、真ん中に戸塚+天海兄妹が乗る。ということは。
「ようこそ」
「どうも……」
ボッチ席に座るのは勿論、俺ということになる。いつもの。
「天海。家まで案内を頼む」
「はい」
次の交差点を左折、このまま道なりの後初めの信号がある交差点で右折 と、機会的な案内で順調に天海宅へ。声が良いので将来はカーナビのナビゲーターで出られるのではないだろうか。後ろは良く見えないが、真ん中の三人をチラリと見ようと顔を真ん中へと向ける。そこには
「っと!」
「!」
案内をするために少し身を乗り出していた天海。どこと無く不気味ではある透明な瞳に髪の色と同じ銀色の眉、人形と呼ばれるように、真っ白な肌。そんな天海の顔が、あった。
「しゅまん」
「問題ない」
問題あるのは俺なんだが。目覚めてしまいそうになった。いや違う、天海は男じゃないし女じゃないんだ。天海だからセーフ。戸塚も同じ理由だからセーフの筈だ。そう、決して見惚れそうになったわけではないことをここに記しておく。どこにだ。
一人で悶絶してる内に天海宅に到着。お礼を言った天海兄妹が出ていき、車椅子を出して座らせれば後は一人でも中に入ることが出来るらしい。
「ご飯は冷蔵庫に入れてあるから」
「分かってるよ~!」
「洗い物は出来ればでいい」
「汚くなっちゃうのはやだし、それくらいなら私にも出来るよ?」
「寝る直前は携帯を見ちゃダメ」
「日記を書いてから寝るから大丈夫だよ~」
「包丁は猫の手で」
「あーもう!心配しすぎだよ樹兄は!大丈夫だから、いってらっしゃい!」
それには同意だ。包丁の話題なんぞ初心者でも分かるレベルなのにどうして妹の事になるとこうもアホになるのだろうか?これは本当に俺と張り合うことが出来るくらいのシスコンであるだろう、と結論づけた。
天海が乗り、動き出す車の中でそんなことを考えていると由比ヶ浜がふとこんな事を言い出した。
「いいな~!あたしの周りの妹の人ってみ~んなカワイイんだから!ゆきのんでしょ?小町ちゃんでしょ?夏菜ちゃんでしょ?あと……ミィも!」
猫も含まれるのかよ。まぁ確かに美形ではあったが、あれは妹なのか?小町がカワイイのは当然だ。天海妹が可愛いのも認めよう。雪ノ下もまあ、可愛いというより美人?そんな感じだな。そう言えばあの二匹の猫、どっちが上なのだろうか。
「天海、由比ヶ浜が言ってたアレ、どうなんだ?」
「……ケンカの種」
「猫がどんな原因でケンカですって!?」
凄い勢いで雪ノ下参戦。お前そんな奴だったっけ。いつものクールビューティーは何処へ。
「あの二人、双子なんだけど。ケンカする時はエサの配分じゃなければまずどちらが上かの話題になってる」
「成程、猫にも階級の制度があるのね?」
「多分」
「考えてみれば当然かしら。ネコ科、例えばライオンなんかでも頭がいて行動しているのを見るわ。なら猫にも人間でいうカーストみたいなものがあるのも納得がいく。ということは―――――――――――」
自分の世界へと飛んで行く雪ノ下。ふふん、この俺が次のお前の行動を予測してやろう。こういう時は周りの視線が気にならないから集中できるが、それが終わった時、お前は咳払いをするだろう!
「―――っ、あら?」
運転中の先生、興味がなさそうな天海以外の面子から一斉に視線を浴びていることに気づく雪ノ下。少し顔を赤く染めると、
「んんっ」
「んんっ」
咳払い下手くそかよ。もっとヴヴン!くらいやれよ。いやまあ俺の予想は当たったわけだが、初めなんだか分からなかったからな?「んっ」ってなんだ。
「天海君、話を続けてくれるかしら?」
さっきよりももっと顔を赤くした雪ノ下が誤魔化すように話を急き立てる。そのうち逆ギレするんじゃないだろうか。
「……ミィ曰く『ご飯の事しか考えてないクルトに私が負けてる筈がないんだ』。クルトは『身体の大きさはこっちの方が上だしミィよりオレは動けるからオレが上だ』。どっちも自分が上だと信じてる」
「どっちもアホみたいな理由だな」
「猫だし」
そりゃそうだ。知性が高いと言っても人間やイルカなどの哺乳類より脳が小さい以上、必然的に俺達よりは下になるのではないだろうか。ふと後ろを向くと、座席の間でハッキリとは見えないものの雪ノ下が今度は小声で何か呟いているのが見えた。元々理論派でリアリストの気がある彼女。ただ、猫と人間関係の事になると一気に視野が狭くなるのがハチマン的には非常に不安要素であり、とくに将来ぼっちになる可能性が高いと思われるから今のうちに直しておけよ、と伝えたい。聞こえるわけないけどな。
雪ノ下雪乃は強い。俺が周りの環境に抵抗するのを諦めて影になっていく中で、彼女はただひたすらに立ち向かい今を得ている。学年の成績はほぼトップ、容姿も良く態度も良い。性格は俺に対しては最悪だが。着飾ることもないため勿論教師からの評判も良いだろう。それは全て彼女の才能に加え、今までの努力が生み出したものであろう。それを疎む人間もいるようだが(雪乃談)、所謂『世界が違う』というものだろう。完璧な人間と底辺な人間では住む世界が違うのだ。
*
自分で思い返しても長い回想を終える。それまで前にぼうっと向けていた目をふと後ろへと向けた。まず女性陣。小町と由比ヶ浜は眠っていた。雪ノ下も起きてはいるもののコクリ、コクリと今にも落ちるだろう。
真ん中二人。
戸塚は眠っている。かわいい。体つきはともかくとしても寝顔はまさに女の子。幸せそうに眠るその姿は思わず俺もニヤけてしまいそうになる。いつもジャージ姿な彼だが、今日は勿論私服である。少年っぽさがにじみ出る服に顔とのギャップ。それは思わずボーイッシュな女子を連想させてしまう。本当にボーイッシュな女の子にならないかな。なってくれたら俺神に五体投地して喜びを伝えるんだけど。
対して天海。こちらは寝ているわけではないものの、ただ流れる景色をいつもの目で見ているだけだ。服装は戸塚ほど男の娘、もとい男の子っぽくはないものの、白のTシャツに、限りなく黒に近い紺のデニムとオーソドックスに……ってなんかあれ?おかしくない?ファッションに興味ないとかはまあ天海だから仕方ないけど、一応今夏なんだが。黒系の色は熱吸ってめっちゃ暑いと思うのだが大丈夫なのだろうか。因みに俺はオレンジ色の半袖ポロな。天海も女の子にならないかな。もしなったら俺責任とって告白して振られるまであるんだけど。振られちゃうのかよ。
目を閉じて今までを振り返る。思えば去年に天海と出会った時から奴とは今まで一緒にいるが、これは俺にとっての本物だと言えるのだろうか?見せかけだけの関係、今まで何度も見てきた下らない友情ごっこ。薄っぺらい、そんな友情。俺にとって全てが偽物で、また全てが煩わしい。
俺と天海は?俺と戸塚は?俺と雪ノ下は?俺と由比ヶ浜は?俺と折本は?俺と綾辻は?俺と黒江は?俺と木崎さんは?俺と加古さんは?そんな自問自答が延々と、ただひたすら脳内を支配する。相手がどう思っているのかなど当の本人が知ることが出来るのは相手のポーカーフェイスが下手な時だけだ。俺は何をしたい?俺の求めるものは?どうすれば自分が納得できるような関係を築ける?
分からない。俺には分からない。『本物』の関係が何か。人によって様々で、きっと答えなどないもの。自分なりの答えさえも俺は今、見失っている。
思い出せ。俺は元々一人ぼっちだった筈だ。雪ノ下も由比ヶ浜も、平塚先生も戸塚も天海もいない時、俺はどう思っていた?『本物』とは何と思っていた?『偽物』を定義づける事は出来ても、『本物』は見つけられない。今まで俺が見てきた表だけの関係も彼ら、彼女らにとっては『本物』なのか?あれが『本物』で満足するのか?分からない。俺にはまだ、『本物』が何かを考えられない。
変わることが出来ない。否。変わる必要がない。俺はこれからも変わらず『俺』であり、『俺以外の何か』になることなどないのだ。人間が変わるのには多大な労力と覚悟、努力が必要。俺はその全てを持っていない。持とうともしていない。きっと一生雪ノ下のような人間にはなれないだろう。
……まぁ、そんな雪ノ下もきっとどれだけ頑張っても由比ヶ浜や比賀みたいにはなれないだろうけど。残念だが、アレばかりはどうしようもない。才能だ才能。胸囲、もとい脅威の格差社会である。
さて、そろそろ『千葉』村も見えてきた。何が千葉だ小町め。今更ながら腹が立ってきたので帰ってきてからどうしてやろうか考えながら、窓の外から見える腹立たしいくらいの青空を見上げる。俺の心は曇天だ。
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空を眺めてたらいつの間にか着いてた。青空の中、色々な形の雲が流れていくのをずうっと見ていたけれど、かなり楽しかった。V字型やアニメのような形の雲。色んな雲が流れてきては、ちぎれたりくっついたり。ただの雲なのに、そこには風情があった。今日は風も少し強いから、余計に流れていくのが速いな、と思った。細長い雲が、どんどん下がちぎれながらも流れていく姿。ロケットみたい。コの字型の雲に長くて太い雲がひっつく。柄杓みたい。5つのバラバラの雲が集まってVのようになった姿。コ○・バトラーVみたい。流れてきてはくっついて、くっついた後また離れて。本当に生きているかのように動き続ける雲を見るのは飽きなかった。
案外、詩でも書けるかもしれない。
「着いたぞ」
平塚先生の声。車の中で固まった身体を伸ばす。外はきっと暑いから、中日ドラゴンズの帽子を被ってから戸塚くんを起こすことにした。
「戸塚くん、着いたよ」
「…ん~?ふわ……ぁ。起こしてくれてありがとね、いっちゃん!」
「構わない」
「…………俺は今日、これを見るために来たのだろう。男の娘×女装男子万歳」
「ほえ?八幡、どうしたの?」
「うへへ、何でもない」
戸塚くんは比企谷くんと話を始めたので、その内に雪ノ下さん達も起こしておこう。
「小町ちゃん。雪ノ下さん。由比ヶ浜さん。着いたよ」
三人の中で一番速く目を開けたのは雪ノ下さん。意識もハッキリしているようだ。多分、仮眠を取っているような感じだったんだろう。一方、小町ちゃんや由比ヶ浜さんは目を開けるのに時間がかかっているようだった。熟睡してたのかな。
「………んん~っ、ふぅ。あっという間に着きましたね!」
「ね~!ちょっと寝てて、気づいたらもう到着だよ!」
「……ちょっとどころではないと思うのだけれど。天海君、ありがとう」
僕もちょっと雲を見てたら着いたから、ここは心のなかで二人に同意しておく。
「ん。座席倒すから、少し待ってて」
ドアを開けて外に出てから座席を倒す。出た瞬間に一気に押し寄せる熱気が、涼しい車内へと押し寄せる。
「うぅ、出たくないなぁ……」
「由比ヶ浜さん。エアコンは切れてるからどのみち出なければいけないのよ」
「うぅ……、あっつ~い!」
「……確かにそうね。風があるのが救いかしら」
「自然がいっぱいですね~!」
小町ちゃんの言葉を聞いて後ろを振り返ると、普段見ることのない大自然が広がっていた。森をこうして間近で見られるなんて何年ぶりだろうか。もうあまり覚えていないおぼろげな記憶の中の風景を思い出す。
と、いけない。荷物を運ばなきゃ。比企谷くんと平塚先生の荷降ろし作業を手伝うために後ろへと向かう。
「お、天海か。君にはこれを持ってもらおう」
「はい」
先生から大きな袋を受け取る。大きさに反して余り重くはなかった。視界を確保するために背負うように持ち上げた。同じく荷物を持っていた比企谷くんに、
「お前ドラゴンズファンだったのかよ、裏切ったな」
彼はロッテファンらしい。リーグが違うからとは言ったものの、ロッテは偶に大番狂わせを起こすから怖い。2005年の日本シリーズみたいに中日がならなければいいな。
「ん」
キャンプ場入り口と書かれている方へ歩こうとすると、もう一台の車が止まってから何人かが出てくるのが見える。あれは…………あっ。
「いやー、久しぶりだな!」
「隼人はこういう所、好き?」
「ああ、いいよな。なんかこう、緑の豊かさを感じて!」
「っべーよ!超久しぶりなんだけど!なっつかし~!」
えっと。テニスの時の人達だっただろうか。あ、気付かれた。
「って、何であのちっちゃいのがここにいるわけ!?」
「ははは……。天海君だったよね」
荷物を持ちながらこちらへと歩いてくる。確か、金髪の彼は。
「こんにちは。えっと……葉山隼人くん?顔を覚えるのは得意じゃないから。ごめん」
「1、2回しか会ってないし仕方ないさ。天海君もボランティアに?」
……やっぱり強者だなあ。コミュニケーションの取り方がリーダーのそれだ。相手の謝罪を受けた後、その雰囲気を持ち越さないように他の話題に転換させている。出来るだけ相手に負を負わせないようにしてる?このまま行けばきっと出世するんだろうと思う。ただ、比企谷くんが彼を好いていないのもなんとなく分かるかもしれない。
「ん」
ということは彼らもボランティアに来ているのだろうか?奉仕部と僕と小町ちゃんが来ることしか聞いてはいないけれど。伝言ミス?などと考えながら再びキャンプ場へ行こうとすると
「あんった、マジで顔動かないわよね」
突然女の人に話しかけられた。んー…。思い出せない。なんていう名前だっただろうか?
「?」
「男の癖に弱々しい見た目してるしちっちゃいし」
「おい、優美子!……すまない、天海君」
「ん。言われ慣れてるから」
「だーかーらー!言われてるならもっと頑張りなさいよ!!」
「?」
馬鹿にされたり励まされたり良く分からない。良く分からないけどこれ以上足を止める訳にもいかないだろうとまた足を動かし始める。
「げっ」
「やあ、ヒキタニ君」
「あ、優美子と姫菜!」
「……先生?」
「よし!!!全員揃ったようだな」
そういえば森の空気は美味しいというけれど、何故だっただろう。昔聞いた気がするけれど忘れてしまった。酸素濃度?なんかそんな言葉を聞いたけど、気のせいだったか。それよりまずは荷物を運ぶことを考え
「天海。待て」
「え?はい」
られなかった。
*
どうやら葉山くん達は掲示板に書かれていたボランティア募集の紙をみて来たのだとか。タダでキャンプが出来るとか合宿だとかとべはち?がどうのこうのだとか、一部理由が違う人もいたけれど。小町ちゃんもキャンプって言ってたし。あのグループの中で一番頼りになるのはやはり葉山くんだろうか。海老名さん(教えてもらった)も真面目そうだし。
「では改めて今回の君達の役割を説明するぞ。君達には2泊3日で小学生の林間学校のサポートスタッフをしてもらう。児童や千葉村職員のサポートが主な活動内容となるだろう。まあ端的に言えば雑用、悪く言えば奴隷だ。さっき葉山が言っていたが、活動内容によっては内申点が加算されることもあるから真面目に取り組みたまえよ」
内申点。大学、どうしようか。推薦は落ちる気しかしない。面接は……僕には厳しい。妹の頼みごとだから真面目にはするけれど、モチベーションは上がらない。
「それでは荷物を館に置いた後からそれぞれ活動を開始するぞ。各々荷物を持ってついてこい」
移動開始。自分の荷物と先生が持ってきたグッズを持って前についていく。山に登るのは久しぶり。林間学校なんて行く気がなかったから休んだ。だから僕はここに来るのは初めてだけど、景色を見るためなら来ても良かったのかもしれない。
僕達が荷物をおいた後、また先生の後をついていくとそこには多くの小学生がいた。少子化、ゲームをする子が増える中でこんなに子供がいるのは珍しいのではないか。辺り一面の小学生達がそれぞれ会話に興じていて、とても騒がしい。
ふと空を見る。小さい雲が太陽を必死に隠してくれていた。朝よりも雲は少なくなって、快晴に近づきつつある。夜はきっと、星が綺麗。
先生や高校生が前にいるのにも関わらず全く何も喋らないのを見て、どんどんと沈静化していく会話の波。少しかかって完全に静かになるのを確認すると、平塚先生が前に立ち、
「はい、皆さんが静かになるまで3分もかかりました。周りに注意して、キチンと行動するようにしましょう」
……校長先生?
その後、今日と明日の朝の予定を配布されたしおりを見ながら話していく。中々面白い子が多いようで、先生の「次に進んでも、いいかな?」に続いて、
「「「「「「「「いいともーー!!!!!!」」」」」」」」
と叫んでいたのが印象的。今の子もいいともなんて見るんだ。意外。
「それでは最後に、今回、先生達や皆さんのお手伝いをしてくれる高校生の方々を紹介します。挨拶をしっかりとしましょう」
「「「「「「「「よろしくお願いしまーす!!!!!!」」」」」」」」」
と言葉を受けた高校生代表(全員一致で決定)の葉山くんがメガホンを持って前に立つ。子どもたちを見ると、主に女の子からピンクのオーラが見え隠れ。モテるとは思っていたけど、まさかここまでとは思っていなかった。イケメンって、凄い。
「これから三日間、みんなのお手伝いをさせてもらいます。何か困ったこととかがあったらいつでも僕達に言ってください。皆がこの林間学校で素敵な思い出をたくさん作ってくれることを楽しみにしてます!よろしくお願いします!」
この言葉で、恐らく女の子からの好感度は右肩のぼり。男の子からも「かっけー……」という声がボソボソと聞こえているから大成功と言える。女の子なんて両手で顔隠してる子なんかもチラホラと見受けられるし。
イケメンって、凄い。言うこと成すこと全てが強者。彼に任せて、正解。
「それでは、オリエンテーリング、始め!」
再び空を見る。蒼い。
天海とかいう詩人 空のお話は適当に入れたわけじゃないので。決して字数稼ぎとかではありません。これだけは真実を伝えたかった。
元ネタ
・初めのやつ
『忍者戦士飛影』より。UXでは敗北条件を見事にやってのけるランカスレイヤーとして活躍。経験値かえして かえして
・和歌山生まれ
元ネタというか。ストーリーには影響しませんが、近畿生まれ、出来れば田舎という設定を作りたい中で最も最初に思いついたのが和歌山だったので。奈良とどっちが栄えているのでしょうか。
追記(9/5)嘘ですごめんなさいガチで影響してきます。メインの軸にも繋がるガチ重要設定でした
・せーの、の下り
あるあるだと個人的には思います。場所や人によってタイミングが違うので大変でした。
・コ○・バトラーV
知ってる人は知ってる、昔のアニメ「コンバトラーV」。言ってしまった。主人公の声は某グレーゾーンな人です。
・2005年の日本シリーズ
ロッテVS阪神でした。結果は調べたほうが良いと思います。それくらい印象に残っていました。
・良いかな?いいともー!
お約束ネタ。今回は版権物少なめでいつ怒られるか分からない私の作品の中では一番消されにくいと思います。
今回はこんな感じで。ではでは。