いつの間にか50000UA、有難うございます。継続して読んで頂いてる方々には感謝と謝罪の念しかありません。ごめんなさい、これから先もこんな感じです。SUN値に気をつけながら見て下さいね。
~前回の3つの出来事~
・夏菜「オッスオッス」小町「ポーゥ。強敵登場だな?」
・樹・夏菜「「せーの(ーせ!)」」「「あれ(?)」」八幡「うーんこの」
・葉山グループ「俺達も仲間に入れてくれよ~」奉仕部「えぇ……」樹「ええんやで」平塚先生「呼んだのワイやで」
はい。はいじゃないが。
それでは、どうぞ。
『ゴルゴムめ!!!ゆ”る”さ”ん”!!!!』
「つよい」
「絶対つよい」
「悪役が可哀想になるレベルっすね」
「知名度高くないのだけが勿体無いねー」
「あと、OPの中毒性。あの歌い方、凄いと思う」
「誰にも真似出来ないぞあんなの」
※ほんへにはまるっとするっと関係ありません。昭和にも平成にもハブられてる感あって可哀想だとおもいました。
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最近めっきり減ったアブラゼミに代わり、クマゼミ達が意気揚々と鳴き出し、それは合唱となり俺たちにBGMとして提供される。木々が音を反射して響かせて、まるでコンサートホールでの演奏会のような重厚な音を奏でる。遠回しに語ったが、結局何が言いたいのかというと、だ。
「うるさい」
「子供達にも負けてないね」
隣で立っている天海がそう言う。前を見れば、そこには元気な子供達がキャッキャと騒いでいる。山道をこうして元気に歩けるエネルギーが羨ましいものだ。欲しいとは思わないが、このキャンプの間だけでも分けてもらえないだろうか。そんなことを考えていると、まだ少し息を切らせ気味の雪ノ下が平塚先生に問いを投げかけた。
「そう言えば先生、何故葉山君達がここにいるのでしょうか?」
「なんでちょっとバテてんだよ」
「煩いわね、後でちゃんと、話すわ」
既に子供、特に男子に振り回されている現状、このままでは難しいのではないだろうか。荷物の量の都合上、荷物置き場までは由比ヶ浜や雪ノ下も荷物を運んでいたのだが、地味に遠いその置き場に着いた時には既にふぅ、と息を吐いていたような気がする。そんなバテノ下、間違えた雪ノ下に向かって
「簡単さ。奉仕部だけでは間違いなく人出が足りないからだな。また、奉仕部だけでボランティアに参加すると先輩教師様から有り難いお説教を受け取るハメになるんでな、体裁上、というのもある」
と先生は返す。
「……教師も世知辛いっすね」
「比企谷、社会なんてそんなものだよ」
達観したように空を見上げてそう言われた。割と上下関係がうるさいと噂の教職だが、先生はなんで教師になろうと思ったんだろうか。向いてるか向いてないかで言えば、あんまり向いてなさそうではあるんだが。
「と、言うのが普通の理由だ」
「?まだなんか理由があるんすか?」
正直これ以上思い浮かばない。もしあるとすれば、俺への嫌がらせなのだが、この人は自分で直接俺に嫌がらせを仕掛けるタイプであり、簡単に人を使いはしないだろう、と、思う。それじゃその理由は何だ?
「由比ヶ浜、雪ノ下、比企谷兄妹、天海。さて、エネルギー溢れる子供と元気に遊べる人間はこの中に何人いるだろうか」
「「「あっ」」」
主にカウントされない面々、まあ正直に言うと俺と雪ノ下、天海が察する。というかもの凄く納得がいってしまった。自分でも何だが、俺はとことん子供と遊ぶのには向いていない性格をしていると思う。純粋な少年少女が俺の目を見たらどう思うだろう。恐らく十中八九、引くだろう。ゾンビとか言われたしな!!!次、雪ノ下。こいつも多分向いてないのではないだろうか。というかああやって振り回されてバテてる時点で子供たちについていけるはずがないのである。思えば俺が小学生の時もあいつらは何故息を切らさないのか、何故膝に手をつかないのかというレベルで走り回っていた。俺?俺は教室で寝てたよ。一人で。ほら、俺インドア派だったからな。決して混ぜてもらえなかったなんて理由ではないぞ。うん。天海は普段から走っているだけあって体力はあるのだが、彼の性格的に難しいだろう。「ん」が解読出来るまではあいつらは天海の考えていることを理解するのは無理だな。俺もソーナノ。ソーーーナンス!あんたは出てこなくていいのよ!
「ま、そういう訳だ。彼らはこういう時頼りになるだろうし、今声を出した君達にはコミュニケーションの訓練にもなるだろう?精々頑張りたまえよ」
そう言って歩いて行く先生。理由については納得が言ったが、最後の一文二文が気に入らない。そもそも相性の良くない人間と無理にコミュニケーションを取る必要性があるだろうか?三輪などいい例だろう。あちらからも殆ど話しかけてはこないし俺なんか全く話しかけないね。睨まれるの怖いし。このように、ボーダー内でさえ相性の良い悪いで接触が無かったりするのだから、それよりも広い高校の中で相性の悪い人間がいてもおかしくはなく、また葉山達トップカーストの連中とは例外はありつつも基本相性が悪い。そんな奴らとやり取りなんてしたくはないのだ。だが俺達に子供とやりあう体力なんてありはしないから必然的にあいつらの力を利用、もとい借りざるをえないワケで。
「はぁ……憂鬱だ」
そんな呟きをつい漏らしてしまいながらも森の中を突き進む子供達を見る。自分にあんな純粋だった頃はあっただろうか?
「おーい、コクワガタ見つけたぜ!」
「おりえんてーしょん関係ないだろ!」
「ヒラタクワガタの方が強そうじゃん!」
「馬鹿だなお前ら、コクワガタはスーパーローリングスマッシュが使えるんだぜ?」
「マジか!?」
……………………待って?
「……とっても懐かしい単語を聞いた気がする」
「奇遇だな、天海。俺もだ」
「どうしたの?そのすーぱー…………、が何か、貴方達には、分かるのかしら」
もしかして雪ノ下は横文字が苦手なのだろうか。そういえばスマートフォンの事も頑なに「携帯電話」と呼んでいて、一度たりとも「スマホ」と言ったことはなかった気がする。流暢に話している横文字は大体紅茶の品種だしな。また一つ、弱点をゲットだぜ!いや、まあそれ以上に俺の黒歴史をゲットされてるんですけどね。
「まあ、俺らが小さい頃に流行ってたアーケードゲームだよ」
甲虫王者ムシ○ング。確かあれは俺が小学校の低学年くらいに大流行したんだったか。100円を投入するとカブトムシかクワガタムシのカード、もしくはそいつらに使わせるわざカードのどちらかが手に入り、集めたカードを組み合わせてストーリーを進めたり、ガチ勢や友達が多いやつは対戦をしたり、そんなゲームだ。何を隠そう、俺もガキの頃はやったことがある。この時からもう既に俺の人格は出来上がりつつあったのか、セアカフタマタクワガタにまもりアップ、スーパーランニングカッター、かいふくとかいうウザめのデッキを組んでいた記憶がある。超必殺技を警戒していたのか、グーばかり出してくるもんだから俺のセアカのHPはいつも満タンだった。最近またムシキング始まったっていうけど、流石にもうやらないわ。あ、アニメは面白かったと思う。
「私達が、小さかった頃?ごめん、なさい、聞いた、ことがないわ」
「やってるのは大体男子ばっかりだったからな」
クワガタとかカブトムシとか好きなのはやっぱ男子が多いだろうしな。しゃーない。
「つかお前大丈夫なのか?別に無理して俺らについてこなくても良いんだぞ?」
「勘違い、しないで、貰えるかしら?天海君はともかく、貴方に、ついていく理由なんて、ある訳がないじゃない」
「それもそうだ」
「認めるのね……」
当たり前だろ。そもそも俺と一緒に行動したがる奴は相場が決まってて、自分を格好良く見せたいがために比較として用意するか、俺を馬鹿にして遊びたい人間か、余程の物好きかのどれかである。一番多いのは2番めで、一番少ないのは勿論一番最後の選択肢だ。
さて、ここで周りを見渡すと、由比ヶ浜含む上位カーストの連中は笑顔で子供の相手をしている。爽やかイケメンの葉山、人当たりがよく胸部装甲も盤石の由比ヶ浜や元々お調子者の気があり気さくな、えーっと、とべ?そう、戸部だ。そいつらは問題ない。意外なのは、あの三浦(教えてもらった)が子供の相手をしている事である。高飛車で気が強い性格な彼女はこういうことは苦手かと思っていたため、葉山に対して
「あーし子供とか結構好きなんだよね-」
と言っていた時は「何いってだこいつ」等とボヤいたものであるが、これが中々事実なようで
「帽子くらいちゃんと被りな!暑くて倒れても知らないからね!」と帽子をウルトラセブンよろしく鍔を真ん中にして被り遊んでいる奴に注意をしたり、
「アンタ、こんな傷くらいで泣くんじゃないわよ!ったく」と膝を擦りむいて泣いている子供に傷の手当をしたり、
「馬鹿じゃないの!?そんな深いところまで行って迷子になったらアンタたちどうすんのよ」と、調子に乗ってはしゃぐアホ共を叱ったり。
完全にオカンですありがとうございました。これを意外に思ったのは俺だけではないようで、
「驚いた、わね……、まさか、三浦、さんが、ここまで、出来るなんて」
バテノ下さんも渋々認めているくらいである。普段の三浦を知っている人間からすれば
「何だお前!?(驚愕)」
くらいのインパクトがあってもおかしくはない。これはただ単に葉山へのアピールというだけでなく、実際にこういうことには向いているのかもしれないな。ギャルっぽい外見や女王様な教室での振る舞いとはまるで大違いだ。言動こそ変わっていないものの、言っている内容はまさに多くの子を持つオカン。絆創膏を持ち合わせている女子力の意外な高さもそれを更に助長させている。
さて、これで葉山達のグループは……と、ここで一人足りないことに気づく。メガネを掛けた、ちょっと宇佐美に似ているかもしれない女子。確か海老名さんだっただろうか。彼女の姿が見当たらない。葉山達と一緒にいないと言うことは迷子になったのか、と辺りを見回し、
「ふふふふ……ヒキタニ君は誰かお探しかな?」
「んなぁっ!!!?!?」「!?!!?」「…………」
俺の真後ろにいた本人により情けない声を上げる羽目になってしまった。
「ごめんねー、驚かせるつもりはなかったんだけど」
「嘘だろ……」
「それにしても」
「聞けよ」
揃いも揃って俺の話を聞くのがそんなに嫌なのだろうか?八幡傷ついちゃうよ?何回も何回も無視されるの……そういや慣れてたわ。
「時代はハヤハチだと思ってたけど、アマハチやトツハチもアリだね!いや、ここはトツアマ、トツハヤ…………?アマハチも需要が……、グフフフフフ……………………」
悪寒が走るような事を喋りまくる海老名さん。これには雪ノ下もドン引きである。その体力が無い為顔を青くしながら歩いているだけだが。そしてついに
「ぐはっっっっっ」
と、大量の鼻血を噴出しながらその場に崩れ落ちた。
「お、おい」
と慌てて起こそうとするが、いつの間にか三浦がこちらに来ており
「大丈夫よ。こいついつもこんなんだし。全く、少しくらいは擬態しろし」
とティッシュを海老名さんの鼻にあて、手慣れた動作で肩を持って歩いて行った。残っているのは限界が近い雪ノ下とステルスでもかけていたのかと思うくらい空気だった天海、そして
「……いや、これどうすんだよ」
噴出した鼻血の被害をモロに被った俺だけだった。天海も雪ノ下も服に汚れ一つないのに俺だけまるで殺害されたかのような量である。世の中って理不尽ですのね。
鼻血のついた服をどうしようかと考えていると、葉山にある女子グループが近づいているのが見えた。彼女達は全員既に思春期を迎えているのか、葉山を見た瞬間、直ぐに自分の服装をチェックして手櫛で髪を整え、一呼吸してから葉山に話しかける。そんな彼女たちに対して葉山は少ししゃがみ、彼女たちと同じ目線で話を聞き始めた。
小学生に限らず、奴はモテる。そんな葉山にとってこんなことはいつもの出来事なので俺は全く気にも留めていなかったが、ふと俺は女子グループとは二歩程度後ろで黒い髪の女子を目に入れた。俺達のように傍から見ていれば同じ一つの班にも見えるものの、葉山に絡んでいる女子達と彼女とは、壁が存在するように感じた。
「じゃあ、ここだけ手伝うね」
葉山の言葉に女子達が一斉に歓声を上げる中で、その少女だけが一人、暗い表情で俯いていた。雪ノ下もそれに気づいたのか小さくため息をついた。いや、そもそもさっきから疲れすぎて息吐きすぎなんだけどな。インドア派は将来こうなってしまう可能性があるのか。……俺、レイジさんと関わってて良かった。
……それにしても、あの少女。そこはかとなく昔の俺に似ているように感じる。何処かに行くにも何かをするのにも、集団行動の時でさえ一人ぼっちで、周りの人間は空気を読んで見ているだけ、テストで最高点を取った時も、他の人間にはする拍手はなし、逆に俺が何かやらかしたらたちまち嘲笑の的となる。折本が関わる前の俺はいつもあんな生活をしていた。期間にして約5年程度か。……案外長かったんだな。
「……ふぅ」
雪ノ下がちゃんと俺達に分かるようにため息っぽくため息を吐いてくれる。ため息っぽくないため息って何だよ。
「変わらねえな。小学生も、高校生も」
「そうね……同じ、人間、だもの」
「変わらないよ。この先も」
俺達は三人とも、その光景を見つめていた。
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ウィトゲンシュタインの言葉に、「語り得ないものについては沈黙しなければならない」 というものがある。確か本来の意味は、従来考えられてきた哲学の問題の多くは言葉の乱用から生じた無意味な問題であり、検証が出来て有意味な命題と検証が不可能であり無意味な命題とを区別することが大事だと言うもので、その真偽を検証できる自然科学の言語だけが意味のある言語だと彼は述べたのだったか。
これは使い方は違うものの現実でも同じことが言えて、自分が分からないことについて深く首を突っ込むものではないし、また語れないことについてはそれを素直に認め、静かに存在するほうが何かと面倒にならない。逆に、語ることが出来る内容ならきちんと自分の意見を言うことは必要。語られた内容についてまた議論を深めていくことで、所謂「皆の意見を取り入れる」という綺麗な言葉の実現にも近づけるんじゃないだろうか。
ただ、どんな時もやはり、「語り得ない」ものは沢山あって、僕たちは常にそれに悩みながら生きているのかもしれない。答えのない、検証不可能な問題なんて数えきれないくらいだ。その中の、わずかな「語り得る」ものを頼りに僕たちは生きているのであって、時にはどうしようもない、何も言えない時だってある。きっと、今この時でも同じことが言えるんだと思う。まず、彼らの言葉を聞いてから僕の質問に答えてほしい。
「ねーねー、あのねーちゃんのオッパイどんくらいでかいのー?」
「先生のもデカかったよなー!」
「オッパイがちっちゃい人も美人だったよね」
「なー、一緒にプールとか入るんだろー?教えろよー!」
「……えっと、その」
一体僕に何を話させようとしているのだろうか、このませている少年達は。そういう話は……うん、とにかくダメなんだ。
*
オリエンテーリングとか、色々やった後は夕食。キャンプの定番はカレーらしい。量が作れて栄養も野菜を入れれば十分とれる、福神漬でアレンジも出来る、とても手軽でおいしい食べ物だと思う。子供達にも大人気だ。余談だけど、僕は辛いものが苦手だから、いつも「○ーモンドカレー」の中辛。因みに料理が下手な人は、カレーに合わなさそうなものをガンガン入れていくらしい。お刺身とか。想像しただけで
「あれ、上手く切れないや」
小走りで調理場に向かうと、案の定彼女は苦戦していた。由比ヶ浜さんはカレーの具材に使うジャガイモを切ろうとしていたけれど、彼女にはまだ少し早いと思う。意外と難しいのだ。
「手伝う」
「あっ、いっちゃん!エヘヘ、ありがとね!」
「ん。いきなり切るんじゃなくて、まずは皮を剥いて芽を取るよ」
僕は料理が出来る方なので調理担当。食材を持ってきてもらっている間に色々と準備中。ふと火の方を見ると、ちょうど先生が豪快に火をつけたのが見えた。一気に燃えるのを見た子供たちがワァッっと悲鳴に近い声を上げる。比企谷くんが感心したかのような顔で先生に話しかけると、自慢気な顔は初めだけ、どんどんと眉間にしわを寄せて、最後には小石を蹴って靴まで飛んで、慌てて片足で靴を取りに行った。ここは果たして葛飾区だっただろうか。中川に浮かぶ夕日なんてここにはない。
……と、由比ヶ浜さんの手つきでこのままいくと指を切ってしまう。
「……危ない。芋はこう持って、包丁の――――」
*
「よう。災難だったな」
「疲れた……」
どうして切り方を教えるだけでこんなにも苦労しなければならないのか。料理の下手な人は決まってアレンジをしようと、しかも良かれと思ってするのだから始末が悪い。きっと彼女もその類いなのだろう。それより、
「比企谷くんはここにいていいの?」
「ま、火もつけ終わったし団扇もなんか子供連中が張り切ってるからな。それより、食材の方は大丈夫か?」
「問題ない」
由比ヶ浜さんが心配だったけど、人参はキチンと切れていたのでこれだけでも成長を実感した。彼女の努力の成果が見られて良かった、もし駄目だったら僕や雪ノ下さんは料理を諦めさせる事も考えていたから。
並んだのは豚肉に人参、ジャガイモ、玉ねぎといったもの。男子がちょっと多いからお肉も多め。
「オーソドックスね」
いつの間にか近くに来ていた雪ノ下さんが言った。というか、他の人達もこっちに来てる。
「ま、変なアレンジ加える必要もないだろ。家でのカレーならもっと色んなもの入ってるけどな。カツとかハンバーグとか唐揚げとか厚揚げとか」
「あー、ちくわとかも入ってるべ」
「お、おう」
模擬刀の先制攻撃、ではないけれど、戸部くんが話題に突然参加。人によっては話題を作ってくれるいい人なのかもしれないけれど、僕達には相性が悪そう。
「家でのカレーって確かにそういうのあるよねー。こないだもなんか葉っぱ入っててさー。いやーうちのママ結構ぼんやりしてるからなー」
……由比ヶ浜さんのそれは、ブーメランだと思う。けど、口には出さない。それにその葉っぱは多分、
「その葉っぱ、ローリエだったんじゃないかしら」
うん、僕もそう思ったと言おうとしたところで、比企谷くんが急にビクッと震えるものだから思わずそっちに反応してしまい言うことは出来なかった。一体彼はローリエから何を想像したんだろう。そしてこれに雪ノ下さんが気づいたか気づいてないかは知らないけれど。
「……念の為に言っておくと、ローリエというのは月桂樹のことよ」
この言葉にさらに比企谷くんが目を泳がせていたから、多分別の何かだと思っていたんだろう。気になる。
「えー!?ローリエってティッシュの事じゃなかったんだ!」
「それはロリエよ」
因みに、ローリエは僕のバイト先でも使うから軽く説明を入れようと思う。ローリエは健康だけでなく美容にも効果があるとされていて、それを知っている若い女性が来るとよくローリエが入っている料理を注文する。シネオール、リナロール、オイゲノール、主にこの3つの成分が香りを出しているけれど、この中でも最も比率が高いのはシネオール。死ねオール。夜更かしは、駄目。
このシネオールは香りだけでなく、消化を促進する効果もある。また、弱った胃腸や肝臓、腎臓の働きを活発にする効果もあるから、結果として体にたまったストレスも弱めてくれる。血行をよくする働きもあるから、冷え性や肌トラブルにも効果大。あと、リナロールは風邪やウイルス性の感染症、口腔内の潰瘍にも効果があるらしい。オイゲノールは美容に良くて、いわゆるアンチエイジング効果、つまりは抗酸化作用を起こすことが出来ると言われてる。ローリエは香り自体にリラックス効果もあるからイライラした時にゆっくりと香りを楽しめば落ち着くのも早い。
あとこれは初めて聞いた時僕も驚いたのだけど、この葉には防虫の効果もあるらしくて、米びつなどに入れておくと虫よけになるらしい。すごい。
注意点としては長く煮込み過ぎないこと。体験するのが一番早いけれど、ローリエを長く煮込み過ぎると苦味が強くなるからカレーに入れてもなかなかその苦味が強く、小学生には嫌な感じがするかもしれない。以上、ローリエの説明終わり。皆も興味が出たら入れてみると良い。乾燥させると苦味が弱まるからそっちのほうがいいと思う。
野菜などの具材も煮えてきてカレールーを投入、あとはこのまま待つだけとなってしまった。小学生の方を見ると、慣れていないのか苦戦しているところもあったりする。比企谷くんと一緒に煮えるのをじっと待っていると、平塚先生がやってきた。
「暇なら、見回りをして子供たちの手伝いでもするかね?」
この言葉に反応した葉山くんは、
「まあ、小学生と話す機会なんて中々ないし……行こうか!」
と戸部くんや三浦さん、海老名さんなどを連れて行ってしまった。蛇足だけど、名前はオリエンテーリング中に教えてもらった。
「俺、鍋見てるから」
「僕も、こっち見ときます」
僕に子供の相手は出来ない。さっき変なことを聞かれたし抵抗が。どうでもいい疑問だが、葉山くんや戸部くんには女の子ばかり集まるのに、戸塚くんや僕には何故男の子ばかり集まるのだろうか。ともかく僕には向いてない。
そう考えているのは分かってるぞとばかりに先生は比企谷くんに詰め寄る。
「気にするなよ比企谷ァ。私が見ててやろう」
「ぐっ……」
凄くいい悪役面、ニタァと笑う。性格が悪いからいつまでたっても結婚が出来ないんじゃないかと勘ぐってしまう。それよりも僕は呼ばれなかったしこのまま雰囲気を消しつつ鍋の方に
「天海ィ。君も比企谷と一緒に見回ってきたまえ」
ですよね。分かってた。
三浦さんや戸部くん、小町ちゃんに戸塚くん、果てには雪ノ下さんまでが子供を手伝ったり見守ったりしている中、僕と比企谷くんは調理場の近くにある坂の上に腰掛けて彼らを見ていた。見回ってはいないけれど見守っているから許されると思う。と、女の子のグループの四人がお喋りに勤しんでいる中、一人で野菜を洗う少女に葉山くんが近づくのが見えた。それと同時に雪ノ下さんがこちらに近づいているのも。
「カレー、好き?」
葉山くんは少女に笑顔で聞いた。一人で頑張っている子を手伝ってあげようというつもりかもしれないけれど。
「……ハァ」
雪ノ下さんがそれを見て心底呆れたという風にため息を吐いた。恐らく考えていることは同じだと思うからここは珍しく僕から話題を切り出してみようと思う。
「……あれは、悪手」
これに一番先に反応したのは比企谷くん。
「同感だな。ぼっちに声をかける時は密かにするべきだ。ああいう時は声をかけられた奴が晒し者にならないように出来るだけ配慮をしなければダメだからな」
案の定 周りの少女たちは葉山に見えない角度からその少女を見てクスクスと嘲笑の笑みを浮かべている。水に濡れた痕跡は、無かった。野菜を洗っている少女は嘲笑の視線に気づいたのかちらっと見た後直ぐに目をそらし
「別に。カレーに興味ないし」
そう言って調理場を抜けだしてしまった。隣で比企谷くんが「良い答えだ」と呟いていたけれど、カレーの好き嫌いに「興味ない」で答える辺り、やはり彼女も僕達と、いや……僕と同類と言ったほうが近いかもしれない。そしてあの場面、確かに彼女の答えは正解だった。好きと答えれば話は発展し他の子には
「媚をうっていてキモい。調子にのるな」
と思われる。だけど、もしあそこで嫌い、もしくはそっけない言い方をすれば
「折角話しかけて貰っているのに何様のつもり、調子にのるな」
と思われるだろうから。僕が同じ場面でも恐らく答えは彼女と同じ。要は『逃げ』の一手。僕の、得意分野。
葉山くんは少女が歩いて行くのをしばらく見ていたけれど、その内にそのグループの少女達に向き直り、「折角だし、隠し味でも入れようか。何か入れたいものがある人ー!」と質問し、ソレに対して少女達は背伸びしながら大きい声での挙手で答え、
「はーい!あたし、フルーツとか良いと思うよ!モモとか!」
……大きな少女が割って入った。由比ヶ浜さん、フルーツを入れるならバナナやパイナップルがいいと思うんだけど、何故そこでモモが出てきたのだろう。カレーに変な甘みが加わりカレーの風味が変な方向に行ってしまうのではないだろうか。そんな彼女に比企谷くんも
「アイツ馬鹿か?」
の声。うん、そうだよ比企谷くん。彼女はあと二年くらい修行してからシャボンティ諸島で待ち合わせる必要があると思う。
「……本当、馬鹿ばっか」
ルリルリよろしく、いつの間にか近くに来ていた例の少女の言葉。何故か気を良くした比企谷くんはそれに
「まあ世の中なんて大概そんなもんだ。早く気がつけて良かったな」
とドヤ顔。
「貴方もその大概の一人でしょ」
雪ノ下さんの冷淡なツッコミもなんのその、
「余り俺を舐めてもらっちゃ困る。大概、その他大勢……そんな中ですら一人になれる逸材だぞ、俺は」
胸を張って言うことでもないんだけれど。それに、
「比企谷くん、僕を忘れてるよ」
「何だと?」
「君には友達が僕を含めて二人いるらしいけど。僕には君一人しかいない」
「ぐぅ……!?嬉しいような、負けたような……」
「そんな事をそこまで誇らしげに言えるのは貴方達くらいだと思うのだけど。呆れるのを通り越して軽蔑の念すら感じるわ」
何を言っているのだろうか彼女は。
「雪ノ下さんも仲間」
「お前も俺らと同類だ。良かったな」
「なんですって……!?」
高校生二人(僕を除く)の漫才を見ていた少女はここまで静かに聞いていたのだが、ふと「名前」と言ってきた。
「?」
「名前を聞いてるのよ。普通、さっきので分かるでしょ?」
小説なら分かるんだけど、生憎僕はそういうことには疎い。人と関わることすら今まで逃げてきたから。そしてこの言葉に雪ノ下さんが反応する。
「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものよ」
アニメでよく聞いたことがある台詞だ。「誰だ貴様!」などと言ってしまえば最後、「貴様らに名乗る名前はない!」と返されあっという間にボコボコにされてしまうから、皆はちゃんと自分から名乗ろう。
「……鶴見、留美」
彼女もゴッドハンドスマッシュを受けるのは怖かったのか、素直に名乗り出る。雪ノ下さんも「私は、雪ノ下 雪乃よ」と返す。どこと無く雰囲気が似ていると思うのは僕だけだろうか。そのまま僕達の紹介を続けてくれるようで、
「そして、銀色の髪をした人が天海 樹」
「で、もう一人がひき、ひきが…………ごめんなさい、忘れてしまったわ」
「おい、もう後一文字くらいだっただろ」
続けてくれなかった。二人で漫才をまた始めてしまったので僕が代わる。
「彼は比企谷 八幡。僕はさっき紹介があった通り天海 樹。そして」
コソコソと動いている茂みをチラリ。服が見えてる。
「あそこでメタルギアごっこしてるのが由比ヶ浜 結衣さん」
「えっなんでバレたの!?」
頭すら隠せていなかった。バレたらしょうがないと、草を払い落としてエヘヘと笑いながら此方に来て「鶴見留美ちゃん、だったよね?よろしくね!」と元気に挨拶。よく出来ました。……僕は別に由比ヶ浜さんの母でも父でもないんだけど、どこか娘を見ている気分になってしまう。
留美ちゃんはしばらく下を向いた後、
「そこの三人はと違う気がする。あっちの人達と」
と言う。由比ヶ浜さんは疑問符を浮かべ、雪ノ下さんは「なんで私が比企谷君なんかと……」と呟いているのが見える。比企谷くんはざまあみろといった顔。普段はボケが強い由比ヶ浜さんがいざこういう話題になると途端にツッコミ役に回ったりするのは、この二人のやり取りがあるからなのかもしれない。雪ノ下さんが比企谷くんを睨んでいるのを一瞥したあと
「私も違うの。あのへんと」
顔を下に向けてそう言った。由比ヶ浜さんの疑問符が一つ増えたのか、
「違うって、何が?」
と聞き返す。だけど、この返し方は非常に良い。この状況、僕達四人と留美ちゃんは調理場から離れていて、比企谷くんの言う『密かに、最大限の配慮をしながら』という条件をクリア出来ている。比企谷くんや雪ノ下さんと付き合っていく中で由比ヶ浜さんもこういう子との接し方が身についたのだろうか。……え、僕が入ってない?なんのことやら。
「皆ガキなんだもん。だから、別に私は一人でもいいかなって」
「で、でも、小学生の頃の友達とか思い出って大事だと思うな」
小さい雪ノ下さんと由比ヶ浜さんを見ている気分になるような会話。由比ヶ浜さんの言葉に対して留美ちゃんは首を横に振り、
「思い出とか、要らない。中学になれば、他所から来た人と友達になればいいし」
この言葉に、思わず反応してしまった。
「残念だ「それは違うよ」……」
その反応は見事雪ノ下さんの言葉に被ってしまい、お蔭で少し顔を赤らめた彼女に睨まれるハメになってしまった。だけど、これだけは伝えないといけない。
「女の子だけじゃないけれど、あの時期の子供はとにかく『仲間はずれ』を嫌う。その他所から来た子と友達になっても、小学校からいじめられている事を知れば離れてしまうかもしれない。寧ろ、その他所からのコミュニティを巻き込んで酷くなる可能性の方が高い」
ソースは僕、と付け加えておく。最近雪ノ下さんや比企谷くんが「ソースは俺」やら「ソースは私」と言っていたので便乗。
「人は皆、巻き込まれるのを恐れるわ。被害者になりたい子なんていないでしょうしね。ならどうするか。傍観に徹するか、自分がターゲットにならないようにいじめグループに加わるかの二択ね」
「集団心理ってのは恐ろしいもんだ。そのグループの中でターゲットに危害を与えるようなちょっとした理由でもあれば罪悪感は消え失せる。皆一緒なら大丈夫ってな。人が多くなれば多くなるほどその罪悪感は薄れていく。悪事へのハードルも下がるわけだ」
「ソースは私」「ソースは俺」
「……貴方、私の真似ばかりして楽しいのかしら?」
「何言ってんだお前は。俺から始まったに決まってるだろ」
あそこは放っておいて。
「留美ちゃんが抱いているのは、儚い幻想でしかない。理想というのは、叶わないもの」
最後の一撃を僕が加えた。だけど、こうしなきゃいけない。まずはその幻想をぶち壊さなければ、彼女はいつか壊れてしまうだろうから。ソースは僕。
「……やっぱり、そうなんだ。ホント、馬鹿みたいなことしてた」
小さな手を握りしめ、顔を俯かせながら。震えた声で小さな少女は言う。
「何があったの?」
心配げな声で由比ヶ浜さんが問うのに彼女は応える。
「誰かをハブるのは何回かあって。けど、その内終わるし、終わったらまた話したりする。いつも誰かが言い出して、皆何となくそういう雰囲気になるの」
留美ちゃんの言葉は続く。自分がやったことに対して懺悔するように。
「そんな事してたら、……いつの間にか今度は私がターゲットになってた。別に、何かしたわけじゃないのに。しかも私の時だけ、靴を隠されたり、机に落書きされたりするの。仲が良かった子がターゲットになった時、嫌になって距離を置いたのが気に入らなかったのかな。……やっぱり、中学でも、こんな風になっちゃうのかな」
小さな嗚咽が聞こえ始め、由比ヶ浜さんはそれが聞こえないように彼女を抱きしめる。雪ノ下さんは目を閉じて、僕と比企谷くんは夕日が落ちかけて、暗くなっていく空を見上げた。
人は皆、体験して初めて弱者の気持ちを知る。そのまま弱者に身を落とすか、立ち上がる事が出来るのか。それは、その人次第。彼女は、どっちを選ぶのだろうか。
初めは解決まで行こうと思ってたんですが30000字超えそうな雰囲気だったので中断。非常に珍しいシリアス()回でしたね。え、違う?
今回の元ネタ
・導入部分のアレ
仮面ライダーBLACKより。私は彼が歴代最強じゃないかなと思うのですが、皆さんが一番強いと思う仮面ライダーは誰でしょうか。
・ソーーーナンス!
ポケットモンスターより、ムサシのソーナンス。勝手に出てきて全重を増やし、気球の操作を難しくするファインプレーを見せたりと、見所さんは中々多め。
・スーパーローリングスマッシュ云々
甲虫王者ムシキングより。私も幼少期はラブ&ベリーにハマりました(大嘘)
ローリングクラッチホールドが好きだったので中型のムシをよく使っていた記憶があります。
・甲虫王者ムシキング~森の民の伝説~
上のアニメ版。鬱アニメもいいところでしたね。朝から子供向けに放送していい内容じゃないと思いました。kiroroの「生きてこそ」は名曲。
・何いってだこいつ
誤字ではありません。
・ウィトゲンシュタイン云々
こっちよりほんへのが説明になってます。
・○ーモンドカレー
いや分かるでしょって方は多いですが一応。バーモンドカレーだょ。
・小石を蹴ったら靴まで飛んで
アニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の初期OPの歌詞より引用。連載、終わっちゃいますね。40年も続くなんて凄いと思います。
・模擬刀の先生攻撃
ダンガンロンパより某モジャモジャの学級裁判での名台詞。
「模擬刀の先制攻撃だべ!」
・二年くらい修行してからシャボンティ諸島
ワンピースのアレ。フランキー変わりすぎじゃないですかね。
・ルリルリ
「……馬鹿ばっか」で多くの純粋な男子を落とした少女、ホシノ・ルリ。劇場版では滅茶苦茶可愛くなってて私も感動。あ、元ネタは「機動戦艦ナデシコ」です。
・誰だ貴様!貴様らに名乗る名前はない!→ゴットハァンド、スマァァッシュ!!
「マシンロボ クロノスの大逆襲」より。スパロボIMPACTやMXでは大活躍でした。サンライズ・ボンバー!
・メタルギアごっこ
!?
パロディが多いシリアス回はシリアス回と言えるのでしょうか。今回はここまで。