二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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 空の彼方に踊る影 白い翼の 初投稿です

 遅れてしまいすみません。失踪しそう(激ウマギャグ)でしたが生き返りました。でもうん、手抜きです。ごめんなさい。あと申し訳程度のバトル描写。下手スギィ!

■TIPS ~もうこれいる? いらない~
・川崎 大志:主人公(笑)。現在一番影が薄いと思われる。でも作者は彼が大好きなので比企谷とか天海よりも強くなると思う。シスコン。
・雪ノ下 陽乃:強化外骨格のやべーやつ 雪ノ下がああなったのは大体彼女のせい。妹への試練が重すぎると思う。シスコン。
・三輪 秀次:顔が怖い。働く動機にめちゃくちゃ五月蝿い。絶対に人事には向いてないタイプ。本人も自覚してそう。シスコン。
・比企谷 八幡:脇役。別に作者はこのキャラクターを贔屓する予定は今はないので戦闘力は基本高くない。でも嫌がらせ技術はボーダー全一。シスコン。
・天海 樹:脇役その2。最近ようやく修行風景のフラッシュバックに耐性が出来てきたらしい。嘘やっぱ無理。なんだかんだで格闘技術はA級クラス。シスコン。

シスコンばっかりじゃないか(呆れ)


 ~前回のあらすじ~
・雪ノ下「諦めて、どうぞ」 比企谷「狂いそう……!(静かなる怒り)」

・料理部「「「「「ワイのお菓子が一番や!!!!!」」」」」
 あまみ(甘味ではない)「ちょっと(話題が)ズレてるかな……」 

・あたっかー「ああああああああああ!!!!!(発狂)」
 しゅーたー「AMMくん! 隊室へ戻ろう!」
 すないぱー「なにやってだこいつ」
 おぺれーたー「うーんこの」

 あってるあってる。


文化祭で一番楽しいのは準備してる時って言うヤツは大体生徒会の大変さを知らない

 

 

 そこは、とある病院の診察室。

 

「……あと4ヶ月くらい、ですか」

 

「……うん。喜べばいいのか悲しめばいいのか複雑な気分だけどね。兎も角君の病は順調に――それも、今年に入ってから急激に回復している。だけど」

 

「はい」

 

「君も分かってるとは思うけれど……その4ヶ月が経てば」

 

「分かってます」

 

 その言葉に、複雑そうな顔でその医師は頷いた。

 

「勿論、実際にどうなるかは分からない。君の上司とも色々と話をしているけど、そもそもこんな症例が無かったから判断のしようがないんだ」

 

 静かな診察室に小さなため息の声。

 

「……勿論残る可能性だってあるけれど。だけど一応、覚悟はしていて欲しい」

 

「はい。……4ヶ月が経ったとき」

 

「ああ。君は――――――」

 

 一旦言葉を切って。目の前の患者にとって、残酷な、ただし医師として言わなければならない現実を告げた。

 

「――――君ではなくなる」

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 さて、文化祭の実行委員が決定してから2週間近くが経過した。……が、お世辞にも生徒会室の空気は和気藹々、とは言えないものだった。時には意見の相違により激しい議論が起こり、厳しい指示が続いたり、視察にやってきた先生がドン引きしたりする中全員が()()()()()()()()()()()()()()()()からである。

 

 この説明には、少し時を遡る必要がある。

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

 実行委員が決まって三日目の昼休み。樹と昼食を食べ終えた後、昼に備えて寝るために八幡は教室へと戻っていた。昨年までであればいつもの場所でも寝ていたのだが、人の前であからさまに寝顔を晒すのはいくら友人と言えども恥ずかしいものがあったのである。

 

『ママ、私が生まれた日の空は――――』

 

 万が一誰かに聞かれても(イヤホンを奪われても)、特に問題がないような曲がイヤホンを通して再生されているのを確認する。アニソンなどを聞いていた時、イヤホンを急に奪われてそれをネタにさらにいじめが悪化、陰湿になった経験があるためである。

 流石に高校生、それも偏差値の高いこの進学校であればそこまでレベルが低い人間もいないと思われるかもしれないが、そこはそれ。彼は何時でも警戒を怠らないのである。

 問題なし、いざ寝よう、とソレを耳に挿そうとした時。

 

「ヒッキー」

 

 という、結衣のとても心配げな声が聞こえた。安眠が妨げられたことに少し不機嫌になりつつ頭を上げてみれば、何処か思い詰めたような顔。それは今までにも何回か見てきた顔だったが、そのどれもが割と深刻な内容だった為、八幡は今度もまた何か面倒事が起こったのではないかと考えた。

 

「……今度は何だ」

 

 

 

 

 

「……つまり、アレか?俺が抜け殻になってる間に、その相模とか言う奴の依頼で俺と雪ノ下であいつの補佐をすることになった、と」

 

 説明を受けた後に確認、そしてため息。案の定今度も面倒そうな案件だった、グッバイ俺の休息などと内心愚痴りながらも取り敢えずキチンと現状の理解に努めた。

 

「そうなの。しかもなんかその時のゆきのん、すっごく変な感じがしたんだ」

 

「変な感じ?」

 

 うん、と彼女は頷く。心配そうな顔を崩さないその顔はしかし、雪乃に向けて、というわけではないようであるのが気になった彼は結衣に話を促す。

 

「うーん、あっ、これはヒッキーの事を悪く言ってるわけじゃないんだけどね!?」

 

「いいから早く言え」

 

「……うん。なんというか」

 

「なんというか」

 

「ヒッキーの名前をわざと変えてみたり、ばーって毒吐く時の顔と同じだったんだよね」

 

「…………」

 

 八幡は静かに目を閉じた。

 

 

 

 結衣の長所はその機敏の敏さにある。特に誰かの雰囲気が変わったとき――特にその人間と親交があった場合――その変化にいち早く気づくのは、何時だって彼女だった。それ故になんとか場を宥めようとして暴走したりしてしまうこともあったが、彼女にとってはただ仲良くして欲しい、という善意からくる行動が殆どであった。

 そして八幡は経験上、その彼女の時には短所にもなる、そんな長所を理解していた。

 

 だからこそ、悪態をいくらついていても彼自身、彼女のその観察力にある程度の信用を置いている。置いていたからこそ、その雪乃の雰囲気、そして結衣の証言から一種の結論に至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、次の犠牲者は彼女なのだ』 ……と。

 

 

 それを悟った瞬間、八幡は遠い目になるのを抑えられなかった。不思議そうにこちらを見る結衣を無視し、ただただ静かに遠くを見据える。

 

 

「由比ヶ浜」

 

「どしたの?」

 

「相模の席、何処だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ええっ!? っちょ、うわっあいたぁっ!」

 

 一拍の間を置く程の驚きに包まれ、思わず後ずさり。その勢いを殺すこと無く近くの机にぶつかった彼女は盛大に足を滑らせ頭をぶつけた。

 

 こいつ、ドジっ子選手権千葉大会があったら上位入賞するんじゃねえか、などとどうでもいいことを考えつつも声を掛ける。

 

「お、おい。大丈夫か」

 

「どしたのヒッキー!? 頭打ったの!?」

 

「頭を打ったのはお前だろ。こっちはいつでも異常なしだよ」

 

「異常がない人は二学期になったんだからクラスメイトの席くらい分かると思うな! あとクラスメイトの名前も覚えてると思うんだけど!」

 

「俺が悪うございました」

 

 許してくれた。

 

 

 

 

 

「それにしても、ヒッキーがそんなこと言うなんて珍しいね。何か声を掛けるの?」

 

「いや」

 

 ゆっくりを首を横に振る八幡。じゃあなんで? と結衣の頭に疑問符が浮かぶ。首を傾げる仕草の一々に微妙なあざとさを感じつつ、息を吐きながら彼はその目的を答えた。

 

「……合掌だ」

 

 敏い結衣はこの一言だけで全てを察した。なんだかんだ4ヶ月近くあの部長と行動を共にしていない、ということだろうか。余談ではあるがその4ヶ月のお陰で最近ゆるゆり具合が激しくなってきている中、唯一の男である八幡としては『な○りさんありがとう』と声を大にして(心の中で)叫んでいる模様。

 

 それは兎も角として。

 

「…………うん、そうだね」

 

 

 

 

 その日の昼休憩の終わり頃、男子二人と女子一人がある一つの方向に手を合わせている場面が目撃された。

 面子は『ああ、いたんだ』レベルの影の薄さで有名な比企谷八幡にカースト最上位の面々の中にあり、尚且つ特定の部分においても最上位の位置に立つ由比ヶ浜結衣、途中でそれを見つけ事情を把握した後、あのテニスの練習風景を思い返し同じく遠い目になった戸塚彩加。

 

 目撃者は以下の通り。

 

 トツハチ……うーん、いややっぱりハヤハチのほうが……、と興奮しつつも微妙に首を捻る腐女子一名。

 

 あの三人、っべーくらい仲良いよなー、と軽い口調のチャラ男一名。

 

 まーたヒキオが変な知識を結衣に植え付けたんじゃないでしょうね、と微妙に怒りマークのクラスのクイーン一名。

 

 いや、大丈夫だと思うけど……やけに三人共真剣だな、とハテナマークのイケメン一名。

 

 そしてもう一名。

 

「えっ、あっちうちの席……えっ」

 

 なんであの三人はよりにもよってあの方向に向けて拝んでいるのだと不気味に思う――――何も知らない、哀れな実行委員長。

 

 奇妙な光景を生み出しつつ、昼の時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 生徒会室に八幡が入った時には、もう『処刑』は始まっていた。

 

 委員長の席と副委員長の席。そこには黒髪の少女が数枚の紙を片手に赤みがかった髪色をした少女を淡々と言葉で追い詰めているような光景があった。

 

 因みに、会議開始10分前である。

 

 そこそこの人数が集まる中で長々と続く説教。

 

 割と皆ドン引きだった。

 

 

 

「いいかしら?委員長として行動する上で重要になってくるのは主に決断力よ。優柔不断なままでは駒が余程優秀でない限り勝手に動いてはくれないわ。よく聞くでしょう?『なんでも指示されなきゃ何も行動が出来ない若者』という言葉とか。勿論、それはケースによるものだから決してどれでも必ず当てはまるというものではないけれど……少なくともこういった行事を進めていく場合だとどうしても勝手に動けない、動きたくないものなの。その独断でもしも取り返しの付かないことになったら……そういったプレッシャーが常に一定以上存在するからよ」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「そう。貴方は決断、判断をすると同時にその責任やプレッシャーも数多く背負う必要が出てくるの」

 

「う、うぅぅ…………やっぱり、あたしじゃ」

 

「今の貴女じゃ間違いなく無理ね」

 

「んんんっ……(傷心)」

 

 ただひたすらに言葉を連ねる雪乃の雰囲気に圧されて涙目になる南。

 

 まさに鬼、そんな奉仕部の部長、だが簡単に彼女を壊すような事はしない。教育というのは基本的には飴と鞭なのである。攻めた後は受け入れる。その為に、まずは簡単なフォローを入れようと彼女は軽く笑みを向けた。

 

「それを少しでも和らげる為、私や比企谷君がいるわ。特にこの目と性格の消費期限が4年以上前に切れていそうな男は雑用として役に立つ筈よ、散々こき使いなさい」

 

「は、はぁ」

 

 ……だが、この曖昧な返答が帰ってきたことからすると、どうやらフォローは失敗に終わったようである。というのも、彼女自体こういったフォローをするという経験は多い方ではなかったためだ。

 

「そろそろ俺の蔑称を即席で考えるのも苦しくなってきたんじゃねえか?今のはイマイチだったぞ」

 

「黙りなさいゴミ谷君」

 

「ストレート過ぎるとキツイから勘弁してください」

 

「ゴミ」

 

「おいコラ調子のんな」

 

「……といったように、彼のメンタルの強さは正直貴女を遥かに超えているわ。流石言われ慣れていることだけはあるわね」

 

(最近大人しかったからおかしいと思ってたんだよ。夏休み明けにはめちゃくちゃ変わってたしな。 全然変わってねえじゃねえか畜生!)

 

「な、なるほど」

 

(おい、納得するな)

 

 彼の声に出さない突っ込みは勿論聞こえることはない。更に付け加えれば、その突っ込みを心のなかで入れている時の彼は苦々しい顔をしていたのであるが、南をいたぶ……もとい教育している雪乃にそれが見えているわけもなかった。

 

「進行具合の判断やそこからの指示等、やらなければいけないことは多いでしょう。だからこそ、分からないことがあれば素直に聞いて下さい。そして覚えるのよ。いい?」

 

「わ、分かりました!(あれ、なんでウチ敬語? 同い年だよね?)」

 

 

 

 それからというもの。

 

「相模さん、まだ宣伝広報への明確な指示は終わってないのかしら?」

 

「は、はい!」

 

「スケジュール表をもっとよく見て。貴女が思っている以上に時間は短いのだから、効率的に動かしなさい」

 

 またある時は。

 

「相模さん、何故委員長である貴女がこの目腐れよりも仕事量が少ないのかしら?トップたるもの、押し付けるだけではいつか人は離れていくものよ」

 

「は、はぃぃ!」

 

 お前が言うな。お前が言うな。八幡は大事なことなので二回呟いた。

 

 聞こえていたために仕事量は増えた。

 

 彼は涙した、そして激怒した。必ずこの邪智暴虐の王(毒舌副委員長)を除かなければならぬと決意した。

 

「おい、涙目になってんじゃ……」

 

「な に か ?」

 

「なんでもないぞ? ほな、また……」

 

 彼は逃げた。誰だって自分が大事なのである。

 

 そして微妙に目が濁りつつある――嘗ては蔑みの目でこちらを見ていた、そんな彼女を密かに応援した。

 

 また、彼女はこの二人のみならず他の者達にも同じように厳しく接した。勿論それは南と仲の良い二人も例外ではなく……

 

 

 

 そして、その結果。

 

「会計委員、全クラスの予算表はもう全て受け取っていますね?」

 

「え、あの……2年C組の予算表が未だ未提出でして」

 

「今すぐ催促に行って下さい」

 

「し、しかし」

 

Hurry up!(急いで!)

 

Yes,ma'am!(了解しました!)

 

「よろしい」

 

Here we go!(さあ皆行くぞ!)

 

 

 

((((((軍隊かな?))))))

 

 

 

 文化祭実行委員会会長である2年E組――相模 南は、順調に、順調過ぎるほどに成長を遂げていた(教育を終えていた)。なお、後に実行犯である副委員長のY.Y氏は「姉という重力の井戸から抜け出す為にやった」等と意味不明な証言をしており――――

 

 

 

 

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「っておい」

 

「何かしら」

 

 生徒会室の中央部にある実行委員長が座っている机、そこから少し離れた場所に座っている雪ノ下に思わず声を掛ける。

 

「何かしら、じゃねえよ。あれ見ろ」

 

 指を差した先には、南が会計委員を送り出した後も鋭い声で実行委員に指示を出している姿があった。

 

 瞳のハイライトは完全に消えている。

 

「……正直、やりすぎじゃね?」

 

「…………」

 

「おい、目を逸らすな」

 

「比企谷君」

 

 先ほどとは打って変わって真面目な表情に戻る。何かちゃんとした目的があったのかもしれないので、仕方ないが真面目に聞いてやろう。

 

「んだよ」

 

「これは所謂必要最低限の犠牲、つまりコラテラルダメージなのよ。由比ヶ浜さんから聞いた彼女を印象から判断する限り、恐らく失敗する可能性は高かった。その可能性を出来るだけ高くするためなのだから、多少の犠牲は仕方ないとは思えないかしら?」

 

「こっちを見て言わねえと説得力の欠片もねえよ」

 

 真面目に聞いたこっちがバカだった。

 

「だって貴方を見てしまったら私が犠牲になってしまうじゃない」

 

「俺はメデューサか何かなんですかね」

 

「少なくとも目は怪物なんじゃない」

 

 やっぱり目か? 目のせいで人生を損してるのか? カラコンとか眼鏡で誤魔化したらイケメンかもしれないって言われたこともあr……や、なかったわ。折本が面白そうに予想してたくらいか。

 

「そこの二人!働いて下さい!」

 

 すっかり相模は雪ノ下に染まってしまったようだ。ダメみたいですね。

 

「了解」

 

「へいへい」

 

 

 周りを見れば皆真面目に各部署で話し合っている風景が見える。

 

「ちょっとすいません(予算申請は)これでいいですか?」

 

「はいお願いします……!」

 

「材料ちゃんと入ってる?」

 

「入っちょる!」

 

「そんなもん入れていいんか……?」

 

 他クラスとの連絡もある程度順調だ。

 

 

 中には「キモッ……」という辛辣な暴言に対し、「ハゲろ……!」と悪態をつくレベルの低い争いもあったが大体相模と雪ノ下がなんとかしてくれた。ちょっと口撃スキル上がってんよー。

 

 ちょっと前まで面倒くさがってたり葉山達のグループ……つーよりかは三浦か。あいつを目の敵にしていた奴とは思えないくらいの変わりようだ。つか変わりすぎだろ。あと二回変身を残してたりはしないだろうな。

 

 ……だが、まあ。

 

「有志企画についてはもう少し猶予があります。ですがその分交渉はしっかりお願いします」

 

「はい!」

 

「文化祭を盛り上げるためには外部の方々の協力も必要不可欠です、よろしくお願いします」

 

 こうして何かに熱中している相模は――――どこか、楽しそうに見えた。最近はあの一緒にいた、えーっと……ユッケと春巻き? まあ、彼女達とは険悪ムードになっているとも聞く。ま、彼女たちにとっては所詮その程度の関係ってこった。もしも相模があいつらとの時間を余り取れなくなったからと喧嘩をしたのなら、結局その程度で壊れる関係なんてのは「偽物」だったってことだ。

 

 思えば昔からそうだった。彼ら、彼女らの人間関係なんて「偽物」ばかり、「本物」と呼べるものなんてめったに存在することはない。他人に合わせ、他人と群れるだけ。自分の意見を殺し、喧嘩をしたくないからと他人の意見にばかり流される。

 

 だから俺は本物が欲しかった。偽物じゃないものが。嘘や欺瞞に塗れた、上辺だけのとりつくろった関係ではないもの。

 

 昔は分からなかった。だけど、今なら少しだけ、それが何かが分かったような気がしている。

 

 一つ……いや、一人は見つけられた。というより、本物を『握らされた』というべきだろうか。強引にこちらのパーソナルスペースギリギリまで踏み込んできたかと思うと、いつの間にかこちらの警戒を緩めさせ、いつの間にか悪友のようなポジションに収まってきた彼女。

 

 

 今の相模にそれは見つけられるのだろうか。勿論、それに俺が関わる事はないだろう。アイツは俺のこと嫌っているだろうしな。つか俺のことを嫌いじゃない奴のほうが珍しいんじゃね? 自分で言ってちょっと傷ついた。

 

 彼女にとっての懸念はただ一つ。取り巻き二人と疎遠になった彼女の現在の拠り所はこの文化祭の空気であり、実行委員長という地位だ。だが終わった後、彼女には何が残るのだろうか。クラスでの扱いはどうなるのだろうか。

 

 グループという存在は学生が生活を送る上で大切なステイタスの一つである。いつの時代も数とは力だからな。前の相模はゆっけ達を含めて3人でよくつるんでいたようだが、今はもうそのグループは事実上解散したと言ってもおかしくない。

 

 クラス内カーストを登る上で重要なファクターを失った彼女は果たして大丈夫なのだろうか。

 

 キーボードを叩きながら横目で相模の方を見てみた。

 

「委員長! ポスター作成、及び地域への配布、完了しました!」

 

「ありがとうございます、お疲れ様です!」

 

「ふぉぉぉぉぉぉぉ…………!! この言葉でまた頑張れるぞォォォ!」

 

 

 

 

 

 案外大丈夫なのかもしれない。

 

 ハイライト消えてるけど。

 

 

 

 

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『個人ランク戦 風間 蒼也  対  天海 樹  10本勝負』

 

 

(……何回僕はこの人と戦っただろう。少なくとも100回は下らない筈だけど。少なくとも、今まで1回も勝てていない、ということだけは覚えてる。――取れる本数が中々増えないことも、勿論覚えている)

 

 目の前の男を見ながら、天海は改めて自身の分析、相手の分析を行う。もう何百回――もしくは千回を超えているであろうそれを繰り返し、イメージをどんどんと明確なものへとしていく。

 

(僕には才能がないというのは分かっている。だから努力を積み重ねるしかすることはないのだけど、それにしても風間先輩は強い。攻撃、防御、回避と、全てにおいて高レベルで纏まっている。射程は……基本的には関係ないか。どうせ大体僕のほうが短いのだから)

 

 天海と風間は戦う時、お互いにある制約を作っていた。それは『スコーピオン以外のトリガーを使用した時点で負け』というルール。

 そもそもこの制約を最初に唱えだしたのは風間であった。

 

(それに単純に考えて、少しでも実力を上げたい僕にとって格上と対戦出来るのは大きなメリット。だからルールに従うことにした。それだけ。それだけの、筈)

 

 結果は間違いなく成功と言えるだろう。風間からして、天海には着実に実力はついている。ただ、天海にとってはそれよりなにより戦闘経験を得られる事の方が大きな収穫であった。

 

(経験があれば対応出来る。経験がなければ一瞬迷う。迷ったら死ぬ。だからもっと経験を積む)

 

 そういった点ではこのランク戦は天海にとって最高のシミュレーション戦なのだろう。No.2アタッカーとの経験は、課題点をドンドンと洗い出してくれる有り難いものでもあった。

 

 

 

 

 一方、風間は風間で目の前を見据えながら近頃の戦いについて分析を重ねていた。

 

(最近、天海の回避精度が少しずつではあるが上がってきている。まだまだ足りない部分はあるが、)

 

 以前太刀川と風間が天海に言ったように、また天海自身が認めたように――天海 樹には飛び抜けた才能などはなかった。だが、他のアタッカーとの才能の差を並々ならぬ――一部からは『狂気じみた』とまで言われる努力で埋めているのを風間は知っている。

 

(俺との対戦も十分に経験値に出来ているようだな)

 

 表情にこそ出ないものの、天海のあずかり知らぬ所で更に風間の好感度は上がっていた。

 

 

 

 

 

「っ!」

 

「……」

 

  開始の合図と共に互いに飛び出しながら初めの攻防に入った。

 

(……左から来る?)

 

(利き腕から潰す)

 

 風間の動きと天海の読みは一致し、ガキィッ という鈍い金属音がステージに響いた。

 

「ん」

 

「ちっ……」

 

 そして均衡。生身では筋力に置いて多少差はあるとはいえこの場では意味をなさない。どちらかが刃を逸らすまで、あるいは鍔迫り合いに耐えられずスコーピオンが壊れるまでそれは続く。

 

(前へは突っ込めない。なら一度引く)

 

 動かない状況をリセットするため後退した後、突撃してくる風間に対し、今度は鍔迫り合いではなく回避を選択した。

 

「当たらない」

 

「ならば当たるまで仕掛けるだけだ」

 

「大人げない」

 

 戦いを重ねるにつれて言動に遠慮がなくなってきている天海の口先に全く取り合うことなく連撃を重ねる。だが、対する天海はそれを流し、時にいなし、そして大凡の攻撃をヒラリヒラリと回避し続ける。

 

(やはり崩れないか)

 

 予測はしていたものの段々と上がっていくしぶとさに心の中で軽く舌打ちしながら、風間はこれからの展開を考える。

 

 

 

 

 スコーピオンの常時逆手持ちという、今までに類を見ないスタイルを使いこなす天海の強みの一つ。それはそのスタイルに加えて小さな体躯、高い機動力による生存力の高さにある。

 

 順手持ちが攻撃の型ならば、逆手持ちは防御の型である。まず、突きの威力が上がるという利点が存在する。実際、天海の勝因の殆どはスコーピオンの突きによるトリオン供給機関破損によるものだ。対弧月における左の払い、右の突きは最早黄金パターンと化している。

 また、取り回しが容易である点もメリットである。手首を動かしながら戦う順手持ちとは異なり、常に手首が固定されていることで素直に力を加えることが可能であり、それが防御力の高さにもつながっている。特にその持ち方の都合上、側面からの攻撃に非常に対応し易い。その分正面に来る攻撃を防ぐには少し工夫を加える必要があるのだが、その正面からの攻撃に対しては身体の小ささと機動力が活きる。受けにくい攻撃なら躱してしまえばいいだけなのだという。

 

 ボーダーの逆手持ちエキスパート、アマミ イツキ隊員は後に語る。

 

「当たらなければどうという事はない。いくらリーチが長くてもいくら一撃が大きくても、外れたらそれはただの隙」

 

 オッサン世代にオールバック金髪マザコンロリコングラサン仮面のやべー奴を思い浮かばせる言葉であった。

 

 

 

 

(ならばいつも通り持久戦に持ち込む)

 

 通常のランク戦に比べ、天海が相手の戦いでは対戦時間が長くなるのが常である。特に捌き合いの技術で言えばボーダー随一である風間。そして随一とはいかないまでもトップクラスである天海との対戦では一つの試合で1時間を超えることが最近は多くなっていた。余りの長さに制限時間を設ける事もあった程だった。だが、その捌き合いに持ち込んでからの天海の勝率は非常に低い。単純な実力の差がそこには表れるからだ。

 

 風間の選択は持久戦に持ち込み甘くなった所を突く、いつもの戦法。勝率の高い方を選ぶのは当然のことだった。そして、天海は。

 

(持久戦になったら負ける。短期決戦の繰り返しでいく。だけど)

 

 その短期決戦に果たして相手が持ち込ませてくれるか。合わせてくれるのか。答えは当然否だろう。天海が言動に遠慮しなくなったように、風間は戦闘に遠慮しなくなった。元より油断などは無かったのだが、戦闘を重ねるにつれて更に一つ一つの刺撃にキレが増したと言うべきか。お陰でポイントはゴリゴリと減らされ、現在は7291まで落ち込んでいた。因みに最高値は7993であり、ポイントをマスターランク直前に持ち込む度に風間とのランク戦、ポイントが減るというパターンを繰り返していた。天海曰く、

 

「絶対あの人はマスターランク直前の僕を倒して悦んでる。あれは嫌がらせ以外の何物でもない」

 

 それを聞いた緑川。これは面白そうなネタだと彼が風間にそれをリークした時の答えは、

 

「負ける奴が悪い。それだけだ。タイミング? 偶然だろう。俺がいない時にでも上げておくんだな」

 

 そう言っておけ。

 

 とても愉しそうな声だったという。どちらも表情が全く変化しない為、声の質やニュアンスで判断するしかないのだが、この時に限ってはハッキリと感情が読み取れたと緑川は言う。

 

 

 

(毎回こんな状況。最近腹が立ってきたし、何か見返してやりたいものだけど)

 

 状況はほぼ変わらず、どちらかと言えば天海が不利に傾いているか。このままぐだぐだとしていれば確実に隙を突かれるのを幾多の経験で悟っていた天海は、

 

(なら……ぶっつけ本番? 試す価値は……あるか)

 

 とある先輩からほぼ強引に教えてもらったとある技を試そうとしていた。

 

「行くぞ」

 

(来る)

 

 宣言と同時に突撃してくる風間の攻撃を後ろにステップして回避、そしてただの拳で殴る。

 

 スコーピオンよりも短いリーチのそれは、勿論当たるはずもなく空振り。

 

 そして()()()()()

 

(!! 表情が、変わった……!?)

 

(見えた)

 

 その瞬間。

 

 空振った腕とは逆、左手から伸びた光の刃が、風間の胸を貫いた。

 

 

 

 

(マンティス…………!)

 

『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』

 

 電子的な声を最後に風間がベイルアウト。それと同時に天海も個室に戻された。

 そして開口一番、

 

「スコーピオン以外のトリガーは使っていません」

 

 煽った。ルール違反はしてないから僕は悪くない、ちゃんとルールを明確に決めていない風間が悪いのだ、という口調である。

 

「……あれは影浦からか」

 

 当然、風間はこれを無視。必要のない話題には反応せず、本来の目的に話を戻す。

 

「頼み込みました」

 

 マンティス。影浦が得意とする、スコーピオン同士を強引に合成させることにより瞬間的に射程を伸ばす技術である。これも合成弾と同じく元々想定されていたとは言い難い技術であるため、かなりのトリオンコントロールが必要とされる。

 

 

 

 天海は夏休みの自由時間を、ほぼこのマンティスの習得に費やしていた。人並みの才能しかない者が人並み以上になる為には人並みを遥かに超える努力が必要なのである。影浦もその事を理解していたのか、『鈍臭えな』『そんなのも出来ねーのか』などと暴言こそ吐いていたものの途中で育成を放棄はしなかった。最も、彼にとってはどちらかと言えば出来の悪い弟を見ているような気分だったようだが。

 

 だが、いくらマンティスを覚えたからとはいえ相手はNO.2アタッカー。そう簡単に当たってくれるはずがない。ならどうすればよいか?

 その問いの中で見出した一つの答えが「ブラフ」だった。

 

 何も展開せずに空振り、ワザと『目を見開かせる』。一部から「人形」と蔑まれているように、自他共に表情筋が動かない事に定評のある自分がもし目を見開かせたら? 相手からすればあの天海が目を見開かせたのだから、「奴でも顔が動くくらいの凡ミスをしたか」と思うか、「普段の戦いではあのような表情の動き方はしない。罠か?」と思うか。どちらにせよ、相手の思惑を読むのに思考のソースを喰うだろう。

 狙い目はまさにそこ。少しでも警戒の方向が逸れてくれれば、それは決定的なチャンスに変わる。

 

 比企谷直伝、自分の顔を使った、効果的だがちょっと卑怯な技だった。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 

「何だ」

 

「解説の時にはオフレコで」

 

 風間は無言のまま少し考える。確かにこれは実際にチームランク戦で見たほうがギャラリーもある程度湧くだろう、と。また、影浦というマンティス使いのお手本がいる以上、対策を練られていると新技として相手の虚を突く事も難しい。成る程、確かにその要望は理にかなってはいた。

 

「最初の言葉が悪かったな、諦めろ」

 

 だが、それとこれとは別である。あの――顔は変わらないもののドヤ顔が微かに浮かぶであろう挑発。確かに、風間は反応を返さなかった。しかし、だからと言って風間が苛立たなかったかと言われれば彼は首を横に振る。

 

「横暴」

 

「知るか。お喋りな口を恨め」

 

「貴方と対して口数は変わらない」

 

「黙れ」

 

 一方的に通信を切った。どんどんと奴の口先が太刀川や迅に似てきていないだろうか、という微かな疑問を胸に一旦しまい、

 

(潰す)

 

 ただそれだけを考えることにした。

 

 

 

 

『個人ランク戦 風間 蒼也  対  天海 樹  10本勝負 9-1 勝者 風間 蒼也』

 

 

 

 

 

 ランク戦後の反省会。

 

「無駄口は慎むんだな」

 

(……実は挑発、結構、効果あり?)

 

 天海はこの日、彼がこういうことに関しては割と根に持つタイプだと知った。

 

「前向きに検討します」

 

「あと100本くらい行くか」

 

「すみませんでした」

 

「ああ。……まあ待て」

 

 表情に変化がないまま仕草だけ申し訳なさそうに頭を下げ、そのまま逃げようとする天海の頭を風間はガッチリと掴んだ。

 

「……終わり、閉廷。以上、解散」

 

 フルフルと頭を振る天海。

 

「今のは提案じゃない。命令だ」

 

 風間、ニッコリ(表情は変わらない)。

 

 天海をそれを見てニッコリ(表情は変わらない)。

 

 

 

 

 

「お慈悲、お慈悲」

 

「ないぞ」

 

「ファッキューカッザ」

 

「もう100本追加されたいようだな?」

 

「ヒェ」

 

 

 

 

 後日、「1001……1001……」と呟きながら血鬼迫る勢いでランク戦に臨む天海の姿があったとか。




 ホントはセリフの中に()使いたくないんですけどしょうがないんですお兄さんゆるして
 あと、いんゆめ要素はありません

 マンティスに関しては天海は習得に1ヶ月以上余裕で要しています つまりやっぱり天海 樹にはそこまで才能はないってコト。地獄の特訓と努力があるからなんとか風間と張り合えているわけです。

 文化祭であんまりシリアスぶっ込める気がしないですしどうせ真面目な作品なんて他のレベル高い作品で見飽きてると思うのでネタに走ります。これもう青春ラブコメじゃなくて青春ギャグコメなんだよなぁ……。

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