二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

5 / 47
 全部で5回目くらいの初投稿です。





どことない共通点

 一寸先は闇、という諺があるように、人間の未来は予想がつかない。物事なんてもんは得てして予想もつかない所から起きる。それが悲劇であろうと、喜劇であろうと。普通の人間は、突発的に起きる出来事を見ることは出来ないのだ。

 

「よっ、やってるな。ぼんち揚、食う?」

 

 ――ただし、一部を除いて。

 

「あざっす。それよりも、本部にいるのは珍しいですね……迅さん」

 

 ……俺に声をかけたこの人は迅 悠一さん。普段は玉狛支部にいる自称『実力派エリート』のS級隊員だ。いつも思うのだが、そのエリートが毎回セクハラをしているのはボーダー的に有りなんだろうか。沢村さんとかはそろそろ訴えても勝てるんじゃね?

 

「ちょっと用があってな。あとお前にも言いたいことがあったんだ。」

 

「俺ですか?……今度は何が視えたんです?」

 

「あの子のスカートの中」

 

「え、マジで?」

 

 この人は「未来視」というサイドエフェクトを持っている。少し先の未来が視える、とかいうチートみたいな性能だが、ついに透視能力も得たのか。それより他人から見れば俺のも十分おかしい、と言われるが、その持ち主が使いこなせていない現状、俺はそうは思ってはいない。

 

「冗談だよ」

 

 違ったようだ。

 

「安心しろ、別に悪い内容じゃない。むしろいいニュースだと思うぜ」

 

「はぁ…」

 

などと曖昧に相槌をうっていると、迅さんは衝撃の一言を俺に伝えるのだった。

 

「お前、将来チーム組むよ。」

 

「は?」

 

 ……は?

 

 

 俺が目を見開いて驚いているのを見て大笑いするエリート(笑)。悪戯が成功した時のワルガキの顔やめーや。

 

「ちょ、ちょっと待ってください迅さん。俺ですよ? もう一度言います。俺ですよ?」

 

「自分という存在を証拠にするの、悲しくないか……?」

 

 悲しいです。それよりも驚愕の感情が勝っていたため、ついそう言ってしまっていた。

 

「まだ誰かってのは分からないけど、取り敢えずチームを組むのは確定してるぞ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 『おれのサイドエフェクトがそう言ってる』。この人の決め台詞だ。この言葉の後、その未来が外れた例がないので、つまりはそういうことなのだろう。

 

「うへぇ……」

 

 と露骨に顔を顰める俺に対し、迅さんは少し呆れ顔だ。

 

「お前は本当に嫌そうな顔をする時は素直だな……。もしかしたら楽しくなるかもしれないぜ? それじゃ、おれは本部の方に行くから。じゃあな」

 

 そう言って歩いていってしまった。言いたいことだけ言いやがってあの変態……。

 

 さて、迅さんの未来視は外れたことがない。伊達にサイドエフェクトじゃないって事だな。と言う事は、やはり俺はチームを組むことになるようだ。しかも誰と組むかが確定していないというのは、つまりは俺の行動によりその未来は変わるってことだと思われる。

 どうしても組まなければならなくなった時には、出来れば話さなくても意思疎通のできる奴がほしい。あとうるさくない奴。リア充っぽいのは論外、チャラいのも除外だ。あと、一番大事なのは、やはり俺の好みだ。いくら上の条件を満たしてても、俺が気に喰わない、と思ってしまったらそこまでだ。リア充じゃなくてチャラくなくて余程俺と考えが合わない奴じゃなかったら大丈夫だろう。ふむ。少しハードルが低いか?まあ今すぐ結成するわけじゃないしな、今はあまり気にしなくてもいいだろう。

 

 そういえば学校、というか部活の方はどうしようか。あの様子だとまた明日も声をかけられそうな気がする。いや、来るね。俺のサイドエフェクトは別にそう言ってないけど、確信が持てる。

 

 何故か?

 

 ――平塚先生だからだ。

 

 

 

    *

 

 

 

 次の日。特に真新しいこともなく、無事に放課後になったのでさっさと帰ろうとするとドアの前には平塚先生がいた。なんというか、予想通りではあるんだけどやっぱりこうして目の前にいられると怖い。

 

「比企谷、奉仕部の部室はそっちじゃないぞ」

 

「俺入るって一言も言ってないんすけど」

 

「見学ってアレだろう。実質入部みたいなものだろう?」

 

「違うだろぉ?」

 

 実質の解釈が広すぎるだろ。それよりも言うことがあるのだ。話を終わらせる前に切り出さなければ。

 

「先生、応接室って空いてますかね」

 

 急な話題転換の上、いきなり質問をした俺に少し驚いた様子を見せながらも、落ち着いて答えてくれた。

 

「ああ、今は空いてるはずだ。どうしたんだ?なにか相談があるなら私で良ければ聞くが……」

 

 この人はいい先生なのだろう。俺への風当たりの強ささえ除外すれば、生徒と対等の目線で接してくれる人だ。

 

「いや、先生にそれについて少しお話があるので」

 

「お話……? まあ分かった。ついてくるといい」

 

 ともかく了承してくれた。よしよし。

 

 

 

     *

 

 

「それで比企谷、話とは一体なんだ?」

 

入って腰を落ち着けたあと、先生は早速本題について聞いてきた。こういう時はこっちもそれに合わせて話すべきだろう。

 

「奉仕部の件ですが、部活に参加できない理由があります」

 

そう言って平塚先生にトリガーを見せる。ここなら2人しかいないし大丈夫だ。

 

「俺、ボーダー隊員なんすよ」

 

「知ってる」

 

 知ってることを俺も知ってる。

 

「仕事があるじゃないですか」

 

「仕事の時は来なくていいと言っただろう」

 

「不定期なんすよ。だからもし活動があった時に俺がそこにいないと、こいつ活動してないなってなるじゃないですか。そしたら空気が悪くなるでしょう?」

 

 我ながら完璧な理論だ。そう思って思わず笑みが溢れた俺に対し、平塚先生は小さい溜息を吐きながらこう言った。

 

「……元々部員はあいつ一人だからな。君が来なくても気にすることはないだろう」

 

 俺の笑みは凍った。あの様子なら有り得そうだ、と納得してしまったからだ。

 

「だがまあ、君の言うことも勿論理解できる。実際に塾と部活の掛け持ちで少し揉め事があった事もあるからな」

 

「じゃあ……!」

 

 思わず立ち上がって先生を見る。

 

 これで部活を免除して貰えるんですね!

 

「が、それとこれとは話が別でな?」

 

 膝から崩れ落ちた。さっきまでの感動を返せ。

 

「うちは一応提携校の形を取っているし、仮にも進学校だから部活の入る入らないは勿論自由だ。だが――比企谷。君は数学の成績、かなりまずいだろう?」

 

「ぐっ……」

 

「奉仕部の活動はは形式上は所謂ボランティア活動だ。そしてそれは内申書で書けるんだよ。勿論課外活動という扱いで総合成績にも関係してくる。だから特待生制度を使おうと思うのならば是非入っておいて欲しいんだ」

 

 成る程、一理はあるだろう。その理由も――勿論強制的にというのは戴けないが、俺の将来に関係してくるものだ。

 

「あとはもう一つ。あの女子生徒――雪ノ下だが」

 

「はい」

 

「それに彼女はアイツに似ているようで全く似ていない。アイツは才能に咥えて、沢山の努力で檻をぶち壊して自分を強く作り上げたが、彼女は檻の中でしか強くあれないんだ。その原因はちゃんとあるんだが……今はまだ多分、言うべきじゃない。兎も角、あのままでは彼女はいずれ理想と現実の中で破綻してしまうだろう」

 

「はぁ」

 

「助けてやってくれないか」

 

「は?」

 

 ――何故俺に、という言葉は口から出せなかった。そういう雰囲気ではなかったし、そうすべきでないと思ったからだ。

 

「私達大人には出来ないんだよ。どうしても学校にいる以上は大人と子供、教師と生徒という関係は崩れることはないんだ」

 

「それは、まあ解ります」

 

「だからまだ子供の――尚且つ社会を、厳しい現実を知っているだろう君にしか頼めないんだ」

 

 これは、狡い。

 

 俺の事をある程度理解しつつ受け入れ、それからこんな真剣な頼み事。

 

 俺が貧乏くじを引いている事を判っているからこうして頭を下げてきた。

 

 ああ、そうだ。俺は面倒事が大嫌いだし、ましてや貧乏くじを自分から引くようなマネは絶対にしたくはない。だけど人並みの良心がある自覚はあるし、身近な困っている人間を無視するほど人でなくなった覚えはない。

 

 それでこんな格好の良いことをされてしまっては。

 

 とてもこの場で断ることなど出来ないではないか――。

 

 

 

     *

 

 

 あの後、よくわからないままに承諾してしまい、現在は奉仕部の教室の前である。

 

 いつまで気にしてても意味がないのでノックをする。

 

「どうぞ」

 

 と言われたので扉を開けて中へ。雪ノ下はチラリとこちらを見た後、一瞬、少しだけ驚いたような顔をしたがすぐにそれを戻した。

 

「貴方は……確か比企谷君、だったかしら? 昨日は入らないと言っていたけれど、どういう風の吹き回しなの?」

 

「色々あったんだよ……マジで……」

 

 いやもう本当に色々と。あんな格好いいまま頼み込んでくるのはずるいと思う。断れなかったではないか、俺の馬鹿。

 

「貴方の事情などどうでもいいのだけれど……食料がない人には魚の取り方を。冴えない目が腐った男には断罪を。モテない男子には女子との会話を。一応歓迎するわ。ようこそ、奉仕部へ」

 

「おい、二つ目俺だよな。こっち見ながら言ってたよな?なんでいきなり断罪されなきゃいけねえんだよ」

 

「あら、3つ目もよ」

 

「まるで俺が全く女子と話せないような口ぶりやめろ」

 

「何故そうじゃないと思ったのかしら。それとも間違ってる?」

 

「いや合ってないけど間違ってもいない」

 

「どっちなのよ……」

 

 そんな口論も一段落し、暇なので本でも読もうと鞄から本を取り出しながら、平塚先生の言葉を思い出す。

 

『私は雪ノ下を理想主義者だと言ったが、彼女は現実を知らないわけじゃないだろう。寧ろ、現実を知っているからこそ理想に走ろうとしているように見える。私の勘と観察眼がそう言っている』

 

 

 

 さあ最初のページを開こうとした時、3回扉を叩く音が聞こえた。因みに2回だとトイレの時らしい。その他にも国際標準マナーだと4回だとか、まあ色々あるのだそうだ。

 

「どうぞ」

 

雪ノ下が促し、ドアが開かれた。

 

「失礼します……あれ」

 

「あ、お前は何時ぞやの、確か名前は……」

 

「「比企谷くん?(天海か?)」」

 

小さい背。癖の強い髪。動かない表情。そして――透明な瞳。

 

そこには2年J組、数少ない国際教養科の男子である天海 樹の姿があった。

 

 

 

    *

 

 

「……つまり、弁当の試食を頼みたい、と?」

 

「うん、そしてそれの感想が欲しい」

 

 依頼内容を纏めるとこういうことだった。

 

「というか、何でそんなこと頼むんだ?自分の弁当くらい自分で食って考えりゃいいだろうが」

 

「僕の弁当じゃない…というか、僕一人の弁当じゃないから」

 

「天海君自身の他に、貴方のお弁当を食べる人がいるということかしら?」

 

 雪ノ下がそう聞くと、天海は静かに頷いた。ちっなんだコイツリア充かよ?前会った時の俺の感動を返せ、すぐに出てけよ。

 

「妹に作る。もうすぐリハビリが明けて学校に行けるようになるから。出来るだけ美味しいものを食べさせてあげたい」

 

「その依頼、受けよう」

 

「勝手に決めないでくれるかしら」

 

 前言撤回、コイツ超イイ奴だわ、感動した。妹を想う千葉の兄妹の魂、俺には分かるぞ。

 

「ここの事は平塚先生からある程度聞いている。2人に頼みたいのは、感想とアドバイス。それ以外は必要ない」

 

 淡々と天海は話す。前にも思ったが、こいつ奈良坂とか風間さんレベルで無表情だな。どこか突き放した言い方をしているが、そこに刺々しさは感じられない。

 

「雪ノ下」

 

「ええ、勿論分かっているわ。天海君、言っておくけれど私、料理に関しては少し煩いかもしれないわ。それでもいいわね?」

 

 いや、それは知らなかったけど。

 

 天海は再び頷く。

 

「分かりました、この依頼を受けましょう。私は教室で受け取ることが出来るからいいとして、貴方はどこで受け取るのかしら、ドン引き谷君」

 

「俺はお前のネーミングセンスにドン引きだよ……。天海、俺らが初めて出くわしたとこでいいか?」

 

 出くわしたという言い方は随分酷いが、当時の俺にとっては事実だったのだから仕方ない。天海もその事を覚えているのか、問題ないとばかりに首を縦に動かした。

 

「では天海君、明日の放課後にまた、ここに来てくれるかしら?その時に伝えるわ」

 

「分かった。じゃあ失礼します」

 

 頭を下げて天海は直ぐに出て行った。可愛い。早く帰りたそうにするあたり、やはりアイツと俺は少し似ているのかもな。千葉の兄妹だしな!

 

「丁度いい時間だし、私達もここまでにしましょう。鍵は私がかけておくわ」

 

「お、おう。じゃ」

 

 流れるままに始まった奉仕部としての仕事。『仕事』という言葉に憂鬱になりながら俺は最愛の妹が待つ我が家に帰るのだった。




話の流れが早過ぎる

総武をボーダー提携校にするかどうかで20秒くらい悩みました。恐らく死に設定なので無視しといて下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。