事情を具体的に説明されること数分。端的に言うとクッキーを渡したいが料理の腕に自信が無い為手伝って欲しい。とのこと。
「……なんというか、昨日と大体同じ依頼な気がするんだが」
「えっ、昨日もこんな依頼があったの?」
由比ヶ浜が聞いてきた。似たような依頼とあって、気になったのだろう。
「まあな。依頼主はこいつ」
視線を天海に向けると、いつの間にか奴は本を読み始めていた。まあ自分の依頼とは関係ないし当然と言えば当然だろうが。
「え、天海君も?」
「ああ。天海はお弁当だったけどな。なんでも、妹の為に上手くなりたいらしい。妹を想う兄に悪いやつはいないからな、天海はいい兄だ。俺だって妹の為ならなんだってするまである」
「うわ、シスコンとかヒッキーキモい……」
「千葉の兄妹なら当然だ!」
ドン引きされた。ほーん、さてはお前一人っ子だな?
「二人共黙ってちょうだい。兎に角、料理できる場所を探さないといけないのだけど……」
「家庭科室はダメなのか?」
「料理部の活動によるわね。天海君」
「今日は休み」
なんで天海に聞くんですかね。秘書か何か?
「俺の家は無理だぞ」
「貴方の家になんか行きたくないわ。いつ襲われるか分からないのにわざわざ危険を犯す必要はないのだから」
「おおおお襲う!?ヒッキーの変態!」
「おい待て、襲うわけねーだろ。妹も家にいるのに、大体お前らなんかに興味はない」
「どうかしらね。そう言っておいて妹さんを遠ざけた後……」
と無駄話に無駄話を重ねている時、一回も口を開かなかった天海が静かに俺たちに向かって告げた。
「……僕の家が空いてるからそこでよければ。ここから遠くもないしスーパーも近くにある。材料はそこで買えばいい」
「天海、別にお前は奉仕部じゃないから手伝う必要は……」
「彼の言うとおりよ天海君。これは奉仕部の問題であって貴方には関係ないわ」
否定されても表情一つ変えずに俺たちに返答する。
「……ここで無駄話してる時間があるなら、早く依頼を終わらせてこっちの依頼を手伝ってもらいたいから。たかが作る場所一つで争ってたらその後も揉めるに決まってる」
無駄話と言われたことにすこし眉をピクつかせた雪ノ下だったが、天海の言葉はハッキリ言って正しい。彼女もそれが分かっていたのだろう。
「……分かったわ。では案内してもらえるかしら?」
「ん」
返答の後天海が立ち上がって出て行った後、慌てて由比ヶ浜が雪ノ下を連れて彼の後を追う。腕を自然に組みながら行く辺り、うーむ、百合百合しい。いいねボタン100回押すまである。それ、押せてませんよね?
考え過ぎると置いて行かれるので(帰ってもいいのだが次の日が怖い)、俺も三人の後をついていくことにした。
歩くこと10分ほどで、いつも天海が使っているというスーパーに到着した。ここでクッキーの材料を買う…ハズだったのだが、由比ヶ浜は早速ここでやらかす。
「由比ヶ浜さん、何故インスタントコーヒーの粉を入れているのかしら」
「えっ、だって男の人って苦いほうが好きなんじゃないの?」
「いえ、料理に慣れていないうちは下手に応用をするものではないわ。だから……」
「大丈夫だよ雪ノ下さん!あたしいっつもママが作ってるの見てるし!」
「あの、そういうわけではなくて……」
「桃缶もいるかなー」
「ち、ちょっと!?」
などと、あの雪ノ下が由比ヶ浜とのタイマンで混乱している。ざまあみろ、という気持ちと同情が同時に浮かぶ。
「……今日は鮭が安い」
その一方で天海はどこまでもマイペースだ。雪ノ下達を止めに入りもせず、今日の夕飯にでも使うのか、鮭や野菜を買っていた。つかあいつただの主夫じゃん。やだ、私の主婦力、低すぎ……? いやでも天海の見た目的には実質主婦力だからセーフ、などと言い訳をしてみる。それに比べて……。
「ちょっと、由比ヶ浜さん!? それは不味いわよ!」
「だーいじょうぶ! まーかせて!」
頭が痛くなってきた。
……ふとトントンと肩を叩かれている感覚に陥る。振り向くと…あれ?誰もいない。わけもなく、少し下に天海の顔が見えた。……なんというか、少し化粧すれば女子と言われても通用する気がする。むしろ化粧しなくても男の娘として生きていけるまである! あれ、俺危ない道に進みかけてない?
「どうした」
「カルピスが一人2本までだから。4本買いたいからレジまでついてきて欲しい」
どうやら安い内に買い溜めをしておきたいようだ。俺もよくマッ缶の買い溜めをするから気持ちは分かるが、どうにもやる気が起こらない。
「お前どんだけカルピス飲むんだよ……めんどくさいからパスで」
「MAXコーヒー2本」
「契約成立だ、荷物持ちしてやるよ」
我ながらちょろかった。くっ、弱みをついてくるとはコイツ……卑怯な奴め。
レジに行くと、もさもさした頭のイケメンな人がてきぱきとレジ打ちをしていた。ふと周りを見ると、お姉さま方やおばちゃんたちが彼を見ている。ああ、だから今客がおおいのね。ッチ。内心悪態をつきながらレジにカゴを置く。すると、イケメンが天海に一言。
「今日は早いですね」
と話しかけていた。こいつマジで常連なのかよ。
「今日は少し色々と」
「成程」
以上、会話終了。田舎のおばちゃん同士ならものすごくおしゃべりするところを、二言三言で終わってしまった。イケメンは黙って素早くバーコードを読み取り、天海は料金の画面を見ずに代金を準備し始める。その息の合った連携に俺はただ黙っているほかなかった。いや呆れてただけなんですけどね。たかが買い物にそのチームワークはいらないだろ。しかもイケメンよく見たら烏丸じゃねえか、こっちみんな。そう、そのままだ。暫く黙ってろ、よし。
買い物が終わる頃には、雪ノ下は既に疲労困憊だった。なんとか桃缶とコーヒーの購入は阻止したらしい。
「……お疲れ」
ものすごく申し訳なくなったのでスーパーの近くの自販機で買った「野菜生活100いちごヨーグルトミックス」を渡す。よく見たら期間限定っぽい。
「……ありがとう」
普段流れるような罵倒を出すその口も、今はおとなしいようで、素直に受け取ってくれた。いつもそんな風なら可愛げがあるのだが。
スーパーを歩いてまた数分。あっという間に天海家。どこにでもありそうな家…ではなく、少し変わっている部分があった。
「ほえー、3階建てなんだね!」
「ここらへんでは珍しいな」
周りの家よりも屋根が高く、3階には小さいがベランダもついていた。家の前まで来て、急に天海が動きを止めた。それを見ていなかったのか、後ろから着いていってた由比ヶ浜がその背中に見事に激突し、よろめく。
「ちょ、急に止まんないでよ!」
「前方不注意。言い忘れてた事があった。三人とも動物のアレルギー、ある?」
と聞いてきた。何か飼っているのだろうか?前の二人と顔を見合わせると、二人共首を横に振った。
「俺達はないぞ」
代表して俺がそう返す。こういうのは雪ノ下の仕事なんじゃないかと思ったが、そういえば由比ヶ浜の攻撃の後でしたねすいません。
「ん。じゃあ入って」
鍵を差し込み、天海がドアを開けると、トテトテトテっと向こうから足音が聞こえてきた。
それを視界に捉えた瞬間、雪ノ下が固まった。
「ただいま、ミィ、クルト」
「にゃー」
「にぃー」
そこにいたのは二匹の三毛の仔猫。生後3ヶ月くらいだろうか?だが、二匹ともかなりやせ細っていた。一体どうしたのだろうか。
「……上がっていいけど。どうしたの」
「いや、なんでもない。お邪魔します」
「あはは、ちょっとビックリしちゃった。この子達、凄く可愛いね! お邪魔しまーす」
俺達が玄関で立ち止まっていたので不思議に思ったのだろう。俺も由比ヶ浜も一瞬固まった後直ぐに中に入る。だが、一向に雪ノ下の反応がない。
「どうした、雪ノ下。猫苦手なのか?」
「……かわいい」
あっふーん。
*
「ではまず、貴方の今の実力を見るために一人で作ってもらうわ。材料はここに用意してあるからやってみて」
「うん!」
と威勢よく返事をしたものの、エプロンが盛大にズレている。変なずれ方をしたせいで、2つの双丘が強調された形になり、思わず目を逸らしてしまった。成る程、そういうパイスラもあるのか。
「……エプロンが曲がっているわよ。貴方、エプロンもまともに着られないのかしら?」
「あ、ありがと……。って!エプロンくらい私だって着られるし!」
「なら早く直しなさい。そこの男の目みたいに、取り返しのつかないことになるわよ」
「エプロンの問題でそこまで!?」
着られるといいつつも、随分苦戦している様子。というか俺の目はもう取り返しがつかないのかよ。なんとかなるかもしれないだろ。そんな事はお構いなしに雪ノ下が溜息をつく。
「まだ着ていないの? ……はぁ、結んであげるからこちらに来なさい」
と手招きをした。由比ヶ浜も少しビクビクしながらそれに従う。雪ノ下が由比ヶ浜のエプロンを結び直し、由比ヶ浜が少し嬉しそうにしているのは非常にゆりゆりしい。いいぞもっとやれ、ごちそう様でした。
「よーし、やるぞー!」
気合を入れた由比ヶ浜。完成するまで天海の話を聞いておこう。
「なあ、天海」
「ん」
「お前んちの猫、なんかめちゃくちゃ痩せてないか?それに茶色の三毛、多分メスなんだろうけど…尻尾短くね?」
「ああ、それは―――」
*
出来あがったものは、もはやクッキーとは呼べない代物だった。
「な、なんで……?」
目を潤ませる由比ヶ浜。雪ノ下は愕然とした表情。
「どうやったらあんなにミスを重ねられるのかしら……」
と目の前の
「た、食べてみたら意外といけるかもしれないし!」
「いや、ねえだろ。これもはや毒じゃねえか」
「ヒッキー酷い!毒じゃないし!!……毒じゃないと思うし」
「僕奉仕部じゃないし食べないから」
そう言って天海はキッチンへと逃げた。この野郎醤油瓶……!
「彼は台所も貸してくれた事だし、逃がしてあげましょう」
「雪ノ下さんも酷いよ!」
3人でゴクリと唾を飲み込み、クッキーに手を出す。
同時に口の中に入れる直前、天海の声が聞こえた。
「……? インスタントコーヒーの粉が消えた」
その声が聞こえた瞬間にはもう時既に遅し。コーヒーの粉がたっぷりと入ったクッキーに、俺たちは悶絶していた。
「!!??!?!??!??」
「!!!!!?!?!???!!?」
「......!!??!?」
苦えよ。どんだけコーヒー入れればこんなに苦くなるんだ。しかもこれ粉多すぎだろ、粉っぽすぎてクッキーですらない。俺でももっといいものを作ることが出来るだろう。ちなみに、俺達の中で一人頑張ったのは雪ノ下。だが苦味は容赦なく三人に襲いかかり、流石の雪ノ下もこれには耐えられなかった。そういえば加古さんの所には納豆いちごジャムチャーハンを食べさせられてからは行ってない。あれ以来の感覚だった。
結局、クッキーは頑張って三人で食べました。
*
「……カルピスってすげえな」
「……私、今度ママに買ってきてもらおうかな」
「タイミングの問題とはいえ…見事ね」
「もっと買うべきそうすべき」
あの後、天海が濃いめのカルピスを作ってきてくれた。いつもの濃さよりも甘く、コーヒーの尋常じゃない苦味がドンドンと薄れてきつつあった。皆感謝してグラスに口をつけている中、布教活動に成功した本人は猫を膝に乗せながら小さくガッツポーズをしていた。手の中には当然カルピス。普通に可愛いと思った。
「さて、どうすればよくなるか考えましょうか」
「二度と料理をしない、もしくは市販のクッキーを渡す」
「なんでっ!!」
「比企谷君、気持ちはわかるけどそれは最後の手段よ」
「分かっちゃうんだ!それに酷い!」
こんな状況でも元気に突っ込むが、表情は目に見えて暗い。
「やっぱりあたし、料理とか向いてないのかな……才能もないし……」
落ち込む由比ヶ浜をよそ目に、キッチンに消えた天海の方を向いてみると、いつの間にかこちらに近づいていた。
「解決方法はただひとつ、努力あるのみ、よ」
「…それは解決方法と言えるのか?」
「由比ヶ浜さん、貴方さっき言ったわよね。才能がない、と。まずその認識が間違っているわ。最低限の努力をしない人間に才能のある人間を羨む資格なんてないし、成功できない人間は成功者を正しく見ないからこそ成功しないのよ」
その時、天海の眉が少し動いた。昼のメモを取り出し、何か書いていく。ただ、何が書いてあるかはよく見えなかった。
「でも、みんな最近こういうのはやらないって言うし…私、きっとこういうのは似合ってないんだよ」
そう言って作り笑いを浮かべる由比ヶ浜。しかし雪ノ下の表情は依然として変わらない。むしろ少し不機嫌になっている節も見える。
「貴方のその無理に周囲に合わせようとする癖、やめてくれる?酷く不愉快だわ。自分の愚かしさや無様さを他人のせいにするなんて、愚者のすることよ」
雪の女王、雪ノ下雪乃は由比ヶ浜の言い訳を一刀両断した。言い過ぎな気もするが、言っていることが間違っているわけでもないので黙っておく。天海はただ、ノートに何か書いているだけであった。
「か……」
さすがに帰るか。それもそうだ、あそこまで罵倒されて、心が折れないほうがどうかしてる。俺だってあんなに言われたらいじけるレベルだ。子供っぽすぎない?
「かっこいい……!」
「「は?」」
思わず声が漏れる。雪ノ下も例外ではないようで、目を見開いていた。ただ一人、天海だけは、少し感心したような瞳をしていた。同じ透明な瞳だが、感情がなんとなく掴み取れる。
「建前とかそういうの全然言わないんだね……そういうの、なんか凄くカッコイイ……」
「ゆ、由比ヶ浜さん?私、結構キツイことを言ったつもりなのだけど…」
その通りだ。常人ならきっと沈み込むか、逆ギレしている。
「言葉は酷いし、顔は怖かったし、結構引いちゃったけど……」
そりゃそうだわな。引かない奴はどうかしてる。天海は全然顔変わんなかったけど。しかもその言葉でまた雪ノ下の顔が引きつりかけてるぞ。
「でもね、本音を言ってくれたって思えるの。ヒッキーと雪ノ下さんの会話でも、よく酷いこと言ってるけどお互い素で話せてる。あたしね、今までずっと人に合わせてばっかで、そんな自分が嫌で、でも嫌われるのが怖くて…でも雪ノ下さんはあたしにちゃんと言ってくれた」
そう言って、由比ヶ浜はパチンと自分の顔を叩いた。
「次はちゃんとやるよ」
その目は、怒りを隠した目でも無理に悲しみを抑えている目でも、俺のように腐った目でもなく、ただ強い意思を宿した目だった。
強いな、と。そう思った。天海を見ると、由比ヶ浜を少し羨むような、そんな目をしていた。コイツにも分かるのだろう、由比ヶ浜の強さが。
雪ノ下は彼女の強い視線を受けて、ただオロオロとしている。目は泳ぎ、俺たちに(一体どうしたらいいの)とばかりの助けを求める視線を送ってきた。そんな彼女が少し可哀想だったので助け舟を送ってやることにした。
「まずは雪ノ下がお手本を見せてみたらどうだ?お前料理できるって言ってたし、それ見た後だったら少しはマシになるだろ」
「私、貴方達に料理ができるなんて言ったかしら?」
「天海の依頼の時『料理には少し煩い』とかなんとか言ってたろ」
「……そう言えばそうね。じゃあまずは私がお手本を見せてあげるから、よく見てて」
そう言って雪ノ下は手早く準備を始める。
その手際は由比ヶ浜とはまるで比べ物にならず、ミスをすることもなく綺麗なクッキーが焼きあがった。
「どうぞ」
「う、美味え……」
「ホントに美味しいよ!雪ノ下さん凄いね!」
「……」
マジで美味かった。言葉には出さないものの、天海の手を伸ばす速度は速い。カルピス片手にどんどんと小さな口にいれていく。
「あたしにもできるかな……」
「ええ、レシピ通りにやればできるわ」
由比ヶ浜の再挑戦が始まる。
しかし、そう都合よく急成長することもなく。
「由比ヶ浜さん、そうじゃなくて、粉を振るうときは円を描くように振るうの。円よ、円。小学校で習わなかった?」
「かき混ぜる時はボウルを押さえるの。ボウルごと回転してるから。混ぜる時は回すんじゃなくて、切るように動かすの」
「違うの、違うのよ。隠し味は今度にしましょう。ね? 桃缶はしまってきなさい。というか貴方それ買っていたの?そんな水分の多いものを入れたら生地が死ぬわ。死地になるわ」
少し審議をする必要のあるダジャレを言うくらい雪ノ下は追い詰められていた。助けに行きたいほどである。
なんとか焼き上がりオーブンをオープン(審議拒否)してみると、先程と同じ、クッキーの食欲をそそられるような香りがするのだが…残念ながら、雪ノ下の見事な物とは程遠かった。
「なんか違う……」
「いや、でも普通にいけるぞ」
そう、先程の木炭と比べれば、遥かに進歩していた。ちゃんとした、普通のクッキー。だが当人達は満足できないようで、雪ノ下は
「どうすればいいのかしら…」
と頭を悩ませ、由比ヶ浜も唸っていた。これは潮時か、と口を開こうとした時である。
「……多分、もうこれでいい」
天海が先に口を開いていた。そして、その言葉は今まさに俺が言おうとしていたことである。二人が天海の方を見て、というかほぼ睨んでいた。そんな視線をものともせずに、彼は続ける。
「元々の目的は『手作りのクッキーを渡すこと』。味自体は大分良くなったから別に無理に拘る必要もない」
そう、由比ヶ浜の依頼は『最高のクッキー』ではなく、あくまで『手作りのクッキー」だ。この味なら、貰う人間の性格がよほど悪くないかぎり、貶められることはないだろう。
しかし、納得行かないのか雪ノ下はなおも食いつく。
「妥協するということかしら?だとしたら納得出来ないわ。そんなことをしても由比ヶ浜さんの為にはならない」
「……雪ノ下さんらしい答えだけど。この場合、渡す人間の事をまず第一に考えるべき。美味しい料理やお菓子を渡して喜んでもらいたい気持ちは分かる。僕だって妹の為に弁当の味見を頼んだから。だけど、本当に大事なのは渡す時の心。誠意を込めた贈り物を、相手が嫌がるわけがない。……と聞く」
「……ハッキリしないのは気に食わないけれど、一理あるわ」
この場合、雪ノ下が悪いわけでも、由比ヶ浜が悪いわけでもなく、勿論天海が悪いわけでもない。ただ、前者二人は『渡す側』の気持ちを、最後の一人は『受け取る側』の気持ちを優先させただけだ。ただ、認識の違い。雪ノ下もそれが分かったのか、大人しくしている。少し悔しそうではあったが。おいおい……
そして、由比ヶ浜は。
「な、なるほど……ヒッキー!」
「お、おう…?」
「例えばさ!例えばだよ?ヒッキーが女の子からこういうプレゼント貰ったりとかしたら、嬉しいものなの?」
俺に無茶振りをしていた。
「小町以外……ああ、俺の妹のことな。アイツ以外から貰ったことが殆どないから分からん」
正直に答えてやると、少し引かれていた。解せぬ。
「うわぁ……ってそういうことじゃなくて、例えばの話!」
「まあ……嬉しいんじゃないか?女の子が精一杯頑張って作ってくれたものを貰えるのは男子なら誰でも喜ぶだろうし。お前自体も容姿は……、その……、まあ、いい方だからな」
やべ、恥ずかしくなってきた。聞いてきた本人も顔を赤くしている。これは黒歴史ですわぁ…
「そか……そっか!雪ノ下さん、天海君ありがと!私、少し自分で頑張ってみるね!」
俺は? ねえ俺は?
*
そんなこんなであっという間に夕方だ。由比ヶ浜はあの後
「自分の家で作るね!天海君の家にいつまでもいると悪いし!」
と言って先に出て行ってしまった。防衛任務もあるし、そろそろ帰るか。
「俺、そろそろ帰るわ。邪魔したな」
「ん。比企谷君の猫も今度は連れてくるといい」
「あんがとよ天海。雪ノ下、そろそろ帰るぞー……って、……雪ノ下?」
「……分かっているわ」
「雪ノ下さん、あの子達は」
と天海がフォローを入れるが、その目はまるで俺みたいなどんよりとした目をしていた。
「分かっているのよ……それでも、逃げられるのは辛いわね」
「まだ二匹とも人間に慣れてないから。クルトは頑張らなきゃって言ってたけど。あの子はミィより弱いから」
「仕方ないことよ。貴方のその体質は正直信じられないけど」
「それでいい。それが普通」
「雪ノ下、そろそろ」
「ええ。それじゃ天海君、また明日」
「ん。比企谷君も、また」
「おう」
こうして、俺達も天海家を後にした。
*
「由比ヶ浜さんの件、あれで良かったのかしら」
学校までの帰り道、そう雪ノ下が切り出した。だが、俺の答えは決まっている。
「あいつ次第だろ。あいつが満足したのなら、それで依頼は解決だ。これ以上首を突っ込むのは良くないしな」
「それもそうね……。比企谷君、その、今日は有難う」
何だ?今日はコイツ、やけに素直だな。由比ヶ浜オーラが少し入ったのか?
「一応部員だしな、気にすんな。そんじゃ俺行くから」
「ええ。部室の鍵は閉めておくわ」
「任せた」
そう言って雪ノ下と別れて自転車を走らせ、ボーダー本部へ。途中、今日の合同任務の相手への差し入れも忘れない。
「さて、稼ぐか」
気合を入れて、更にスピードを上げるのだった。
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