二人のぼっちと主人公(笑)と。   作:あなからー

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思ったより番外編のペースが速いので初投稿です



前回を見てくださった方々、ありがとうございます。ネタをその場その場で出している私の作品の行く先は未定です。気分によって変わる作風、それでも変わらない茶番の多さ。
こんな作品を見てくれる方々には感謝以外の何物の感情もありません。矛盾した設定が出てきたら都合よくなんとかしますのでまた教えて下さいね。



〈ネタバレ〉天海の猫と会話できるのはサイドエフェクトではありません。色々あって発現した奇跡っぽい何かです。


番外編その2 天海は、その猫を放っておけない。

 クッキー作りに気合を入れた由比ヶ浜。完成するまで天海の話を聞いておくことにする。

 

「なあ、天海」

 

「ん」

 

「お前んちの猫、なんかめちゃくちゃ痩せてないか?それに茶色の三毛、多分メスなんだろうけど……尻尾短くね?」

 

「ああ、それは車に轢かれたとかじゃないかな。僕は彼女たちを拾っただけだから」

 

「ん、拾った……ってことは」

 

「うん。ミィもクルトも捨て猫」

 

「成程な、道理で俺たちをここまで警戒してたわけだ」

 

 チラリ、と猫の方を見れば、二匹は俺たちを恐れているかのように距離を開けている。いつでも逃げられる準備はできているのだろう。襲うとしたら…さっきから様子がおかしい雪ノ下くらいだろう。

 うちにもカマクラという猫がいるが、あれは別に捨て猫とかじゃないからな。というかアイツは猫の皮を被ったおっさんだと最近思えてきた。小町にだけめちゃくちゃ懐くとかアイツ実はロリコンなんじゃね?

おっと、思考が脱線した。俺が気になってたのはあの猫たちの天海への視線だ。まるで信頼しきっているかのような……。

 俺は犬も猫も好きだが、やはり飼っているというアドバンテージが有る分猫のほうが好きだ。犬派か猫派か、という質問なら両方だと答えるが、どちらが好きかと聞かれたら速攻で猫と答えるだろう。そんな猫好きだから疑問がある。

 

 何故その捨て猫があそこまでコイツに懐いている?

 

 捨て猫や野良猫にとって、人間というのは味方でもあり敵でもある。一部の物好きに甘えて見せればエサくらいはくれるだろうが、残虐な人間に捕まってしまえば、怪我は免れないだろう。特に捨て猫は、前の持ち主、つまり人間に捨てられたという過去を持っている。この家にいる二匹はともに仔猫だが、そんな仔猫でも捨てられた記憶を忘れられるわけがないと俺は思っている。それは、俺達人間と同じレベルの脳があるというわけじゃなく、動物というものに感情がないわけがないという理由からだ。猫がトイレの場所を教えれば覚えられるように、衝撃を受けた過去を脳から消せるわけがない。それなのに、何故。

 普段は会話を滅多にしないと自負している俺だが、この時ばかりは気になってしょうがなかった。

 

「天海。教えたくなければ教えなくていい。何故あの二匹はあそこまでお前に懐いてる?」

 

「……その質問の本当に聞きたいことは何となく分かる。だけど、これは信じてもらえないと思うから」

 

「これだけで俺の聞きたいことが分かるお前に俺は心底驚いてるんだがな。信じるかどうかは俺次第だ」

 

「じゃあ、君は僕が猫と会話できる……正確には"出来るようになった"と言って信じる?」

 

「……なんだって?」

 

 こいつ、まさかサイドエフェクト持ちか?これが事実なら、おそらくAランクの"超技能”と言われるものだ。一番身近な例は陽太郎だな。こいつも陽太郎みたく、動物と会話できるのか…

 

「……幾つか質問があるんだが、いいか?因みに俺は、この会話の内容を誰にも言うつもりはない。雪ノ下や由比ヶ浜にもだ」

 

 これは『奉仕部』の俺としてじゃない。『ボーダー』の俺としての言葉だ。天海の能力は、一種のサイドエフェクトの可能性があるからだ。こういうのを報告しないと怒られるんだもん。出来るだけ保護したいとか言ってたし、周りにそういう奴らが多いだけで、やっぱり貴重なのだと思い知る。

 

「構わない。会話についてはそうして欲しい。僕が今頼もうとしてたから」

 

「これは奉仕部とかじゃない、猫好きとしての俺個人からの会話だからな。他人に脅されても話す気なんかねえよ」

 

「分かった、けど」

 

 ゾクッとした。背筋にムカデが這うようなこんなドロドロした殺気を感じる。

 

「もしもそれが嘘なら、容赦はしない」

 

 こんな無表情でどうやったらコイツにそんな殺気が出せるんだよ……! だけど、退くわけにはいかない。もしサイドエフェクトなら、ボーダーに連れて行かなければいけないかもしれないからな。能力を持つ人間なんてごく少数だから、ボーダーのことについても話して、入隊してもらう可能性だってある。それを決めるのは天海次第だけどな。出来れば知り合いがこれ以上増えられると俺のこれからの生活が面倒になってやはりヤバイ。

 

 こういうことがあると、俺は人の人生を縛ろうとしているんじゃないか と自己嫌悪に陥ることがある。だけど、割りきらなくてはいけない。これは仕事なんだ、と。全部大人のせいなんだ、と。『僕は悪くない』んだ、と。最後ちょっと違うぞ。

 

「ああ、絶対に言わない。まず、ひとつ目の質問だ。お前のそれは、他の動物とも会話が出来るのか?」

 

「……それ答えはNo。猫としか話せない。それも意識を集中しないと。僕の話し相手は、昔から妹か猫しかいなかったから。そもそもミィやクルト以外の猫とも話せない」

 

 無駄に発音の良い否定の言葉。……ということは、陽太郎と同じサイドエフェクトって線は完全に消えたな。そもそもサイドエフェクトなのかという疑問も出てきたが、質問を続ける。

 

「二つ目だ。その能力はいつ発現した?」

 

「彼女たちを拾った時としか言いようが無い」

 

「ああ、まあそうなるか。その時の話とかって出来るか?」

 

「……ごめん、それは無理」

 

 ……やっちまった。人のスペースに気安く入ろうとするなんて浅はかだった。拒絶されても仕方ないな。恐らく何か嫌な事でもあったか、それが黒歴史だった場合か。ちなみに俺の人生は大体後者で形成されている。

 

「悪かった。深くまで聞きすぎたな」

 

「構わない。だけど僕にも秘密にしなきゃいけないことはあるから」

 

 そもそも女が秘密を着飾って美しくなっていく、と言われているが、これは「男の娘」にも当てはまるのではないか。そしてその推論が正しければ、目の前にいるこの男の娘はきっと秘密があって、だからこそこんなにも可愛いのではないだろうか。

 

「……難しい顔をしているけど。僕からすれば、君の目を見れば分かる。僕もそうだから」

 

 いや、ただ貴方の容姿を褒め称えていただけなんですけど、なんかスマンカッタ。ここで「ナズェミテルンディス!」と返ってきたら俺は一生お前と一緒にいるかもしれないぞ。

 

 そうじゃなくて。

 

「目?……まさか、お前……」

 

 俺と同じ魔眼の持ち主……!?瞳透明だし有り得る!アリエールでしょ。それは洗剤。ここまでを合わせると魔剤。魔剤ンゴ!?ありえん良さみが深い……頭がおかしくなりそうなのでキャンセルだ。

 

「ごめん、これもソレ以上は、言えない」

 

 そう言って目を閉じて首を振る天海。おそらくコイツも俺とは違う、辛い過去があるのだろう。俺がそうであるように、それに触れるのは禁忌だ。例えそれが厨二病であっても、……俺と同じような仕打ちを受けたとしても。

 

「分かったよ。悪かったな、少し聞きすぎた」

 

「問題ない。とりあえず、あの二匹と喋ることが出来ることだけ信じてくれればいい」

 

「おう」

 

二人だけの小さな会話。隣り合ってお互い下を向いて話していたため、正面にいた女王に俺たちは気付くことが出来なかった。

 

「天海君」

 

天海がばっと正面を向く。そこには、

 

「その話、私にも教えなさい」

 

いつもよりも真剣な、雪ノ下の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「嫌」

 

 だが、ここで天海から出たのは否定の、拒絶の言葉。静かな、小さな声だったが、ここにいる由比ヶ浜以外の俺たちにはハッキリと聞こえた。だが、ここにいるのは負けず嫌いで自分を正義だと信じて疑わないヤツだ。

 

「比企谷君には教えたのに、私に教えないというのはおかしいでしょう。彼は奉仕部の備品なのよ?」

 

「なら彼に聞けばいい」

 

「駄目よ。比企谷君の事だから、どうせ変に誤魔化すに決まっているわ」

 

「備品は道具。同じことしか話さない」

 

「不良品なのよ」

 

「返品すればいい」

 

こうして二人の口論を聞いて思った。

 

 

 や、別に俺備品じゃねえから。というか天海くん、いや天海さんなのか……?うーむ。どっちでもいいか。俺が備品って所に突っ込まずに返品云々って酷くないですかね?雪ノ下とバトルが出来る人間はどうしてこう俺を貶めるのだろうか。

 

 だがまあここで口を挟んでも面倒なことになるのが目に見えているので放置する。

 

「そもそも」

 

 天海が相変わらず無表情で雪ノ下を見つめる。

 

「僕は少ししか彼に話してない。僕はあの二匹とだけ喋ることができる。僕が言ってたのはこれだけ」

 

「そう。それが聞ければ十分ね」

 

 上を向きながらフゥと息を吐く雪ノ下。髪が微妙になびくのが非常にセクシーなのだが肝心の胸部装甲がね……。

 

「?」

 

 首をかしげる天海。文脈が見えないんだ、そうなるのも当然だな。俺も雪ノ下の言いたいことが分からん。

 

「じゃ、じゃあ少しお願いがあるのだけれど…………な、撫でていいか聞いていいかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

    *

 

 

「……そう落ち込まないで欲しい。元々捨て猫なんだから簡単に撫でさせてくれるほうがおかしい」

 

「……そうね」

 

「もう少し慣れてから。人間に慣れない限りは無理」

 

「……そうね」

 

 結局あの後、バッチリ断られました。雪ノ下の悲しそうな顔は忘れられない。現在進行形で目が腐っていってらっしゃる。おい。

 

「雪ノ下、目が」

 

「目?何を言っているの比企谷君。私の目は変わらないわ」

 

 いや変わってるんだよ!主に悪い方向で!

 どうやって戻そうか。……やはり正気を取り戻させるにはこの手しかないか、俺へのダメージ凄いけど。

 

「ふ、ふははははははははは、雪ノ下よ。まるで俺みたいな腐ったどうしようもない目をしてるぞ?これでお前も俺の仲間だ。お前がいつもボロクソに言ってる俺のな。まったく、笑っちまうよ。だが俺は歓迎しよう。ようこそ、腐りの下」

 

 とりあえず俺と同じって言っとけばなんとかなるだろ。コイツ俺のことおもいっきり格下だと思ってるし。多分これで立ち直る。

 

「………………誰が貴方と同類ですって?冗談じゃないわ、少しだけ落ち込んでいただけなのだけれど、そんなふうに捉えられるなんて心外ね。誤解をしないでくれるかしら、貴方みたいな腐り目男と同じようなところに成り下がるなんてありえないわ身の程を知りなさい雑魚谷君。そもそも」

 

 ほらな。治っただろ。全く無茶しやがって、涙が出てくるぜ。何もそこまで酷く言う必要ないだろ。ねえ、戻してあげたんだから早く終われよ説教。ちょっとプライド高すぎだろ。年取った時に苦労するぞ。

 

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 三人が帰った後。ミィとクルトを撫でながら、出会った時を思い出す。あの人達には申し訳ないけど、この話だけは誰にも言うつもりはない。僕の弱みだから。人が信頼できなくなった僕は、簡単に弱みを握られちゃいけない。生きていくために学んだことだ。

 

「ご主人、大丈夫かい?」

 

ミィが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。猫にすら僕の感情がバレるのか。無表情もあまり役には立たないな。

 

「大丈夫。君たちがいるから、僕は今一人じゃない」

 

ミィはその返事に満足して、餌の入った皿に視線を戻した。この子達が人間のような脳を持ってたら、僕は依存していたかもしれないな。何故って?かわいいからに決まってる。窓の外を見ると、既に陽は沈みかけていた。だけど夜の暗さに抗うその太陽の明るさが、僕にはとても眩しかった。

 

「……この子たちを拾った時とはまるで違うね」

 

そうして、少し前の出来事を思い出した。

 

 

       *

 

 

 

バイトからの帰り道。もうすぐ春、というかもう季節的には春だったけど、夜は寒かった。お給料は最近もらったから余裕がある。コンビニで温かいお茶でも買おうとしていた時、ふとその端っこに目がいった。

 

 そこには、二匹の小さな小さな子猫が震えて座っていて、それは昔の、家族を失った僕と妹みたいで。近づかずにはいられなかった。

 

「大丈夫?」

 

「………ひっ」

 

「大丈夫。僕は危害を加えない」

 

 さっき声が聞こえたような気がしたが、気の所為だろうか。

 

「に、人間が僕達に今更なんの用?僕はどうなってもいいけど、弟は!」

 

 気のせいじゃなかった。どうしてか知らないけど、僕はこの子の声が分かる。何を言っているかがなんとなく、分かる。不思議な事もあるものだ。人から逃げて、逃げ続けて。人の悪意に耐え切れなかった僕達が、猫と話せるなんて。

 

「大丈夫だから。君たちの親はどこ?」

 

 もしいるなら、探して………

 

「………………分からないよ。生まれてから、僕達だけ人間に捨てられたんだから」

 

「……そうか、君たちも二人ぼっちなのか」

 

 同類だった。僕たちは捨てられたわけじゃないけど、それでもやはり僕のような存在は不気味だったようで、最後には夏菜にだけ愛情が注がれていた。僕もある意味、捨てられていたのかもしれない。

 

 放っておけなかった。震えている痩せこけてボロボロの二匹を。

 

「良かったら、家に来る?」

 

「いや、なんで普通に会話してるんだい?」

 

「あっ」

 

「えぇ……」

 

 

 

「……どういうつもり?」

 

二匹を自転車に乗せ、ゆっくり揺らさないように走りながら家に帰った後、茶色の三毛の方が聞いてきた。

 

「ただ君たちが気になったから。水、飲む?」

 

小皿をふたつ用意して、二匹の前にそっと置く。

 

「飲む」

 

 ああ、ちょろい。話せるとはいえ猫は本能を優先するのだろう。

 

「餌とか……この時期はミルク?また、明日買ってくるから」

 

「……ねえ、人間さん。どうして僕達にここまで?」

 

 警戒は少しだけ緩めてくれたけど、まだ心を開いてくれない。仕方ない。僕も似たようなものだから。

 

「僕と似ていたから。それだけ。良かったら君の性別だけ教えてくれる?」

 

「……僕はメスだよ。こっちは」

 

「弟、だよね。聞いた」

 

「あのさ。さっきも聞いたけどなんで僕達の言葉が分かるんだい?」

 

「……全く分からない。だけど僕は君の言葉が分かるから、僕は君たちを助ける」

 

 そうだ。僕はこの子たちを守ろう。この子を捨てた人間の代わりに、同じ捨てられた僕が愛情を与えよう。彼女たちに居場所を与えてあげよう。一人が一人の二匹になるくらいなら、僕の小さな掌でもきっと守れる。

 

「急で悪いけど。名前、決めなきゃ面倒。飼うなら名前がいる。君は……」

 

 

 

    *

 

 

 

 今から思い返すと、我ながら阿呆なことをやっていた。餌用の皿やトイレなど、揃えるのにもそうだし、何より動物病院に通院していたことでかなり出費が増えた。生活自体は大丈夫だけど、少し切り詰めなきゃいけなくなった。しかも動物病院のお医者さんが言うには、この二匹は普通じゃないらしい。

 

 だけど。

 

「はー食った食った。やっぱ飯は美味いな!よし、寝るか!」

 

「僕も眠くなってきたな。ご主人、お休み」

 

 

 

 この不思議な子猫達は、僕の大切な家族の一員だから。

 これからもこの子たちの居場所でいよう、僕が居場所でいられるように。

 

 改めて、心に決めた。

 

 

 ……エサは、ちょっとだけ安いのにしよう。




これ番外編なんですかね(困惑)

あまり本編には影響しないので触れておくと、設定上はこの二匹、トリオンで出来ている近界の動物です。って設定です。なんやかんやあって喋ることが出来ます。
イメージ的には天海専用ネコ型レプリカ。なにそれかわいい。


設定の無茶な点は目を瞑ってこれからもよろしくおねがいします。それでは。

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