1P目
4月下旬。
入学を祝ってくれた桜が散り、より暖かい日差しが差し込むこの頃。
太陽の恵みを身体中に浴びて、ジリジリと肌の焦げる感触を楽しむ俺は、アリーナにいた。
今日も鬼教官との授業が始まる。
バコンッと頭に一閃。
「クールなふりして失礼な事を考えるな。外見と中身が矛盾してるんだよお前は」
もうやだこの人怖い。さりげなく固い部分で殴るのやめてもらえませんかね?
「これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。セシリア、織斑、御剣、試しに飛んでみろ」
「はい!」
元気に返事をしたセシリアの左耳についた青いイヤリング――ブルー・ティアーズが青く光り輝き、鮮やかな青色のISを展開する。
ビットによる遠隔射撃に加え、大口径のスナイパーライフルも搭載した射撃特化のIS。弾幕の数は物足りないが、候補生になるには充分な実力を秘めているだろう。
『そのイヤリングが待機形態なのか。綺麗だな』
「き、ききき綺麗!?」
『あ、あぁ…どうした?』
「な、なんでもありませんわ!さぁっ、次は彰さんですわよ?」
何故か顔を真っ赤にして「どうぞ」と手で促してくるセシリアに首を傾げる。
あの代表決定戦以降から180度くらい態度が急変しているが……まぁいいか。
『起きろアト』
俺はチョーカーをコンコン、といつもの合図で二回つついた。それに反応するように、黒の混じった閃光が迸り、俺の体をアトが一瞬で包み込む。
展開時間は約0,4秒。
だがしかし、このバカ娘は寝ぼけているのか、俺の意志とは無関係にパニッシュメントも一緒に展開しやがりセシリアの顔を青ざめさせた。
トラウマとかになってたら申し訳ないな…
『ほら、次は一夏だ』
「おう!」
パニッシュメントを量子変換しながら言うと、一夏は右腕を突き出し、白式の待機形態のガントレットを掴んで集中し始める。
「早くしろ、熟練したIS操縦者なら1秒もかからんぞ」
「………来い、白式!」
一夏が叫ぶと、ようやく白式が一夏に装着された。
ついこの間一次移行を済ませた人間に言っても、まだ慣れてないのだから仕方無いだろうに。
「よし、では飛べ」
『了解』
フワリと浮いてから推進翼のエネルギーを一気に放出、上空へ加速して飛翔する。
後に続く形でセシリアが飛んできた…ってアトのスピードについてくるとかどういう機体してんだ、化物か?
思わず飛びながら出力やらなんやら調べてみたら、このバカ娘二割も出してねぇ……
「彰さんお上手ですわね」
目の前に薄緑色のモニターが現れ、映し出されたセシリアが話しかけてくる。
このモニターは専門用語で”チャンネル”と言い、目の前に展開されているハイパーセンサーによるモニターの隅などに通信先の人物の顔が映し出される。
代表決定戦の際に千冬さんから受けた連絡もチャンネルだったりする。いきなり表示されるから割と驚くが。
『そうでもない。感覚で飛んでるだけだからな』
空を飛ぶ感覚ってなんだよ!と色々なツッコミがくるだろうが、本当に感覚的に飛んでいるだけだ。
人間が移動する時に足を動かすのと同じ感覚で、飛べるのが当たり前と考えればいい。具体的には肩甲骨を動かすイメージだな。
『セシリアに褒めてもらうと嬉しくなるな』
「そ、そんな………彰さんたら」
ふと後ろを見れば、一夏がフラフラとおぼつかない様子で追ってきている。
―何をしている。スペックでは白式の方が上だぞ―
「そんな事言われても……確か、前方に角錐を展開するイメージだっけか?」
角錐を展開するって、普通は全くイメージしないだろ……と思った俺は一夏にチャンネルを開き、助け舟を出した。
『なにもそれだけってワケじゃないぞ』
「一夏さん、イメージは所詮イメージでしてよ。自分が一番やりやすいものを模索する方が建設的ですわ」
結局のところは「空を飛べる」という感覚に一番近いイメージを浮かべないと意味がない。俺のイメージは「背中に羽がある」というものだからな。
正直なところ、物心付いた頃にはIS関連の物ばかり見てたり聞いたりしていたから簡単に飛べたんだがな。
「もしよろしかったら、私が指導してあげましてよ?もちろん彰さんもご一緒に!」
俺も教官側か…?もう懲りたんだが…
しかし、イギリスの手法等が学べる良い機会だと思えば大丈夫か。
『あぁ、頼…っ!?』
「どうしましたの?」
『いや、なんでもない…』
いきなり右肘のスラスターを吹かしやがったこのバカ娘。どうやらアトは、俺がセシリアと話す事が気に食わないようだ。
そこで唐突に、千冬さんのチャンネルが開かれた。
「セシリア、御剣、織斑。急降下と完全停止をやってみろ」
……嫌な、予感しかしないんだが。
「ではお先に!」
バカ娘の挙動に不安を感じて頭を痛めていると、セシリアが急降下して地面に向かって行く。
地面に当たるギリギリで身を翻し、ボボボッと足からエネルギーを放出して急停止、ホバリングしながらゆっくりと舞い降りる。
急降下と完全停止という速度関係の技術ならアトの右に出る者はいない。そう言い切れる程に速度に特化した機体だが、この不機嫌さだと心配でしょうがないな…
例えるなら、完璧に物が仕上がった瞬間に他人に壊されるような。伝わりにくいか。
『……次は俺が行こう』
目測とハイパーセンサーにより位置付けは完璧。普段通りなら失敗する筈がない。
―バーカ―
『(あ、こりゃダメだな)』
急降下を始めた瞬間、脳内に響く文句に失敗を確信した。
目標まで残り数メートル地点で身を翻そうとした時、やはり俺の意思とは無関係に推進翼から膨大なエネルギーが出力され、ドンッ!と盛大に地面へとダイブしてしまう。
『………痛ぅ…』
顔面から勢いよく突っ込んだ俺は四つん這いになりながら顔をさする。
おいバカ娘、なんてことしてくれるんだよ…千冬さんが怪訝な目で見てるだろうが。
―フンッ―
脳内で活発そうな少女があっかんべーをしているビジョンが浮かんでくる、という事はアトが本当にやっているのだろう。
もうちょっと大人になってくれよ、頼むから。俺の命に関わるからマジで。
「…………ぁぁぁぁぁあああああああ!!」
『はぁ!?ちょっ、こっち来んな!!』
制御でも失敗したのか、手足をバタつかせながら俺に突っ込んでくる一夏。
避けようと咄嗟に関節部のスラスターを起動させた…筈だったが。そういえばこいつ機嫌悪いんだった。
そして予想通り。
ドガァン!と爆発音を響かせ、俺と一夏は激突した。