IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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3P目

 

「御剣、消灯時間だ。部屋に戻れ」

 

『はい』

 

あの変なパーティーが終わり、適当にぶらぶら歩いていたら千冬さんに見つかった。

 

千冬さんは丁度見回りが終わったらしく、俺と一緒に職員寮に向かっている。

 

今日千冬さんとの訓練が休みになったのは、見回り当番だからだろうか?それとも、アトの機嫌が悪い事を察してくれたのだろうか。

 

無意識に首のチョーカーを撫でると、千冬さんが一呼吸置いてから切り出した。

 

「単刀直入に聞くが、連絡は取れているのか?」

 

単刀直入、と言っておきながら人物名を避けるあたり、流石だなって思う。

 

『ダメですね。あっちからは無理矢理回線を繋げてくるのに、こっちからは全く繋がらない。逆探知も無意味でした』

 

そうか、と千冬さんは残念そうな表情を浮かべる。

 

もちろん、話しているのはISを発明した稀代の天才、束さんの事だ。俺が束さんと行動を共にしていたのは中学に上がる直前まで、あの人は今も絶賛逃亡中だ。

 

確かに俺も会いたいけど、今すぐ探しに行って会いたいけど我慢している。

 

『俺が約束を守っていれば、すぐに会えますよ』

 

子供の頃、別れ際にした約束。

 

それさえ守っていれば、

 

「会いに行くね」と。

 

微笑みながら俺の頭を撫でる、俺が世界で唯一憧れた人。

 

俺はあの頃から、その言葉を信じて待ち始めた。

 

『くぁ……織斑先生、先にシャワー使って下さい』

 

部屋に入り、欠伸を噛み殺しつつベッドに座る。

 

最近欠伸が止まらないな…何をしていても眠いのは一体何故だろうか。

 

「あぁ、使わせてもらう」

 

シャワールームに入っていった千冬さんを尻目に、俺は携帯を開く。

 

束さんとの唯一の連絡手段だが、先程言ったように向こうから一方的に、しかも時間問わずかけてくるので片時も手放せない。

 

何の変哲もないこれが、俺に残された確かな”繋がり”でもある。

 

携帯に無理矢理送られてくる写真を眺めていると、ふとシャンプーが無くなっていた事に気付く。

 

面倒だが、ちゃんと渡してこないと「物の管理も出来ないのか」と説教が始まってしまうからな。

 

『織斑先生、シャンプーここに…』

 

一応ノックしたがシャワー音が聞こえるという事は既に入っているのだろう。なので普通に開けたらそこには。

 

引き締まった肉体に、女性らしさの残る腰の美しい曲線と豊満な胸部。スラリと伸びた日本刀のような長い足。

 

つまり、全裸だった。

 

「なっ……」

 

『……………てっきり入ってると思ってましたが、これは失礼』

 

シャンプーをその場に置いて、俺はシャワールームから出る。

 

ヤバい、シャワー終わったら俺ボコボコにされるだろうな。ドイツ時代は男女別れていたから俺自体はなかったが、覗きに行った男性一等兵が病院送りにされたらしいからな…

 

そんな事を考えていると、シャワールームから音もなく千冬さんが出てきた。特に怒ったような表情ではない。

 

『千冬さん、さっきは…』

 

ドゴッと俺の腹に拳が叩きつけられる。やっぱりそうなるか…

 

「…これで許してやる」

 

細心の注意を払ってからにします、はい。

 

――――――――――

 

「おはよう、彰」

 

『あぁ、おはよう一夏』

 

俺は机に突っ伏していた顔を上げて、挨拶を返す。

 

何故顔を突っ伏していたか、というのはそれは、千冬さんが起きる時間に俺も起きるからだ。

 

早朝の五時前に起床し、食事等を三十分で済ませ、二時間の早朝訓練。一度部屋に戻り、支度をして教室へと向かうのだ。

 

つまり、俺は八時にはもう教室で寝ているというワケだ。

 

「おはよう御剣君、織斑君」

 

「二人共おはよー!」

 

次々にクラスメイトから話しかけられ、落ちてくる瞼を懸命に起こしながら返事をする。

 

中学の時は軍でもっと厳しい生活を送っていたのに、高校生になってからやたら眠い。

 

平和ボケしたか、それとも年老いたってことなのだろうか。

 

『(高校生が何言ってるんだか…)』

 

「ねぇねぇ、ニ組の代表が変わったって話し、聞いた?」

 

「聞いた聞いた!確か、なんとかって転校生に変わったって!」

 

そう騒ぎつつ、俺と一夏の周りに人が寄ってきては広がっていく。

 

そんな簡単に代わる程クラス代表は軽くなかった筈だ。それこそ代表候補生のような例外でも転入して来ない限りは。

 

「転校生、ってどっから?」

 

「確か中国…だったかなぁ?」

 

一夏がそう聞くと首を傾げながら答えるクラスメイトの言葉に、ピクッと思わず体が反応した。

 

中国からの転校生、という事は恐らく代表候補生レベルの人間だろう。此処IS学園はある意味で法外な所であり、且つIS関連のレベル上昇を計っている。

 

その点で言えば、俺やセシリアも自国の為にこの学園へ送り出されているようなものだ。俺の言う自国とは日本でもありドイツでもあるのだが…そこは割愛しよう。

 

簡潔に言ってしまえば、今確認出来ているだけでもドイツとイギリスと日本の三国が既にこの学園に居り、日々鍛錬を積んでいるのだ。

 

「ふふん、私の存在を危ぶんでの転入かしら?」

 

胸に手を当て自慢気に言うセシリアの言葉通り、先んじているのはセシリアの故郷であるイギリスと、俺の所属であるドイツと日本だ。

 

だが、一つ言わせて欲しい。

 

『お前、俺に負けたよな?』

 

うっ、とセシリアが息を呑み、思わず苦笑いをしてしまう。

 

俺が代表候補生を下してしまったのはセシリアにとって痛手だろう。世間一般で”ISが使える男”と有名とは言え、実績等の観点から見れば今の俺は無名だからだ。

 

無名の選手が代表候補生という壁を破る、そんなジャイアントキリングを受けた側はたまったもんじゃない筈だが。

 

「中国かぁ…強いのかな?」

 

呑気に呟く一夏に、俺はどうだろうな?と曖昧に返した。

 

そこでクラスメイトの一人が軽快に続ける。

 

「今のところ、専用機を持っているのは1組と4組だけだし、余裕でしょ」

 

 

 

「その情報、古いよ!」

 

 

 

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