「遅い!!判断に二秒もかけるな!全ての攻撃を予測しろ!」
『ぐっ……!』
的確に一撃必殺を狙ってくるレーザー砲台に、休むことなく発射されるミサイルの嵐をかいくぐりながら、俺は限界まで神経を張り詰めていた。
「どうした、スペックが落ちてきているぞ!」
その言葉を合図代わりに、ミサイルが射出された。縦軸からミサイル、横軸からはレーザーとまさに地獄絵図だ。
今のアトの出力は50%、エネルギー効率の良いこいつでも長時間ブースターを吹かしていれば当然ガス欠になる。
瞬時にホーミングミサイルと判別し迎撃する判断力、上下左右からくる攻撃の最適な回避場所への移動、効率良く且つ最低限の動きで避けなくてはいけない技術。
いい加減頭が割れそうだ。
『つッ…!?くっ、そ……!』
レーザーが頬を掠め、シールドエネルギーがレッドゾーンに突入する音が脳内に響く。
千冬さんとの訓練では、パニッシュメントは使用禁止で行う為、俺はなんの機能も持たない二本の剣とライフル一丁で凌がなければならない。
なにせ、攻撃の数が多すぎて砲台にすら近付けないのだからどうしようもない。
『う、らぁ!!』
俺は剣でミサイルをなぎ払い、一気に地面へ急降下する。滑るような低空飛行で眼前に群がるミサイルを切り捨てていくが。
『がっ…!?』
ズドンッと左右のレーザー砲台が体を引き裂くように俺の胴体を貫いていき、推進翼が三翼両断される。
―絶対防御発動、シールドエネルギー大幅に減少します―
アトの機械音声が脳内で鳴り響き、俺はノックバックに呻きながら体勢を整えようと着地した、が。
『チッ…!』
四方八方、360度を埋め尽くすミサイルの嵐に、とうとう捕まった。
「……今日の訓練はここまで。お前はもう少し、常に周りの状況を見て戦え」
数分にも及んだ爆風の中、俺はガラクタのように地面に転がっている。あのミサイルが俺のIS反応を検知して飛んでくる感知型の物でなければ今頃木っ端微塵だったろうな…
『りょー…かい…』
千冬さんが怪訝な顔でピットに戻っていくのを、俺は苦い表情で眺める。
言いたいことはわかる、俺のスペックが”下降し始めている”事だろう。しかしどうしようもない事だ。
『(この体、どうにかしないとな…タイムリミットになる)』
だからこうして、体に動きを染み込ませないといけないんだが…いやはや、上手くいかないもんだ。
俺は軋む体に鞭を打って更衣室まで戻り気を抜いた瞬間、ベンチに崩れ落ちた。
『(頼むから、もう少し持ってくれよ…)』
まるで全身が鉛のように感じ、倦怠感と眠気が押し寄せてくる。ベンチに仰向けに寝転がり、少しでも回復しようと目を閉じる。
『(アトの整備もしなきゃなんねぇし、そろそろパーツのコンバートも視野に入れて、一度デュノア社に連絡入れておくか…)』
コトッと軽い音が耳の傍で聞こえた。伏せていた目を開けてそちらを見ればペットボトルが置かれており、キャップ部分を摘む様に細い指があった。
「お疲れ様、彰」
上を見れば、優しく微笑む鈴の姿が見える。そういえば「また後で」と言われていたっけ…
「飲み物はスポーツドリンクで良かった?」
倦怠感に包まれる体を無理矢理起こすと、鈴が新品であろうタオルを手渡してくる。相変わらず、気が利く良い奴だな。
『もしかしてずっと待ってたのか?』
「ふふ~ん!まあね~」
悪いな、と一言言うとにっこりと笑って返してくれる鈴。汗まみれの顔をタオルで拭いてると、どこか恥ずかしそうに俯き、手を弄りだす。
『どうした?』
「あ、その………やっと、二人っきりだね…」
『ん?…そうだな』
久し振りの再会を実感するには、朝の一件と昼休みだけでは短すぎた。本来なら手放しで嬉しさを分かち合っている筈ではある。
「あの、さ…やっぱり私がいないと寂しかった?」
『あぁ、寂しかったぞ。遊び相手が減るのは』
「そうじゃなくてさぁ~!ほら、久しぶりに会った幼馴染なんだから色々言う事があるでしょ?」
久し振りに会った幼馴染、か……それなら。
『大事な事忘れてた』
「えっ……?」
俺は思い付いた事を言おうと鈴と向き合った、が。
「きゃ…!?」
途端に体から力が抜け落ちてしまい、鈴に覆い被さる様な形になってしまう。クソッ、このポンコツ体め…
「ちょ、ちょっと…彰…?」
『……わりぃ、我慢できねぇんだ』
体に力が入らないこの状態はマズイ。支えている腕はなんとか力が入るが、首から下がまるで石を抱え込んでいるようだ。
「その…彰が、いいなら…アタシは…」
上気した頬、日本人には無い艶やかさ、どこか恥じらうように両手を胸の前で握り、鈴は潤んだ瞳でこちらをジッと見てくる。
……何だ?風邪でも引いたのか?いきなり慣れない環境に来ると体に堪えるから仕方ないか。
『…いや、疲れ過ぎて動けないんだ。殴ってもいいから起こしてくれ』
「……へ?あ、あー!そそそうよね!疲れてるんだもんね!?」
真っ赤になって吃りながら鈴は俺の体を下から押し上げてくれて、二人してキチンと座り直す事ができた。あぁ、それと。
『お帰り、鈴。今度五反田や一夏と遊びに行こうぜ』
がっくり、正にそう言えるであろう態度で一気に落ち込んだ鈴がいた。
「そうじゃなくて!例えばさぁ~!」
なんだ?やはり女性はよくわからんな…こんな時こそ、クラリッサ直伝【男が女にかけるべき言葉100選】を実用する時だな!
俺の記憶が正しければ、女性が本心を隠して何かを求めている時や何かを期待するような事を言った時は……
『なんだ、もっとして欲しかったのか?』
顎を指で軽く持ち上げ、顔をゆっくり近付けながら…だったよな?
「なっ、なななっ……ふにゃあ~…」
おぉ、鈴の頭から蒸気が…人体から蒸気が上がるのは初めて見たな。というかまるで茹で上がったタコのようになってるが大丈夫なのかコレ。
ベンチに崩れ落ちた鈴を尻目に、俺は動くようになってきた体でゆっくりと立ち上がった。
『わりぃ、セシリアに夕飯誘われてんだ。早く行かないと怒られる』
その言葉を聞いた瞬間、勢いよく体を起こしては立ち上がり、
「セシリア…?アンタ、あの子とどういう関係なの!?」
捲し立てるように問い詰められた。何をそんなに怒っているんだこいつは…
『ただのクラスメイトだ。落ち着け』
昔からそうだったが、俺の交友関係を漁ってもなにも出ないぞ。一部の関係は重要機密事項で千冬さんレベルしか知らないしな。
「あ、アタシも夕飯、一緒に食べる!」
『そうか。じゃあ着替えるからちょっと待っててくれ』
鈴が更衣室から出ていき、俺は着替え始めた。
セシリア、怒るかもしれないな。